説明

被覆無機顔料の製造方法

【課題】500〜700℃での酸化又は還元プロセスに対しレドックス感受性〔redox−sensitive〕無機顔料を保護する被覆を有する被覆無機顔料の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、層厚が少なくとも0.8μmである完全な被覆を有する無機顔料を含有する被覆無機顔料を調製するためのプロセスである。該プロセスは、以下の特徴を有する:
a)ゾルゲル法によって一又は二以上のガラス形成成分を反応させてゾルを形成させ、
b)得られるゾル中に無機顔料又は顔料前駆体を分散させ、
c)ゾル−顔料分散体を噴霧乾燥によってキセロゲル被覆を有する被覆無機顔料に転化させ、
d)必要に応じて、キセロゲル被覆を加熱処理により濃縮して粘性層を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆無機顔料、それらのゾルゲル法による製造並びにエナメル及び成形体を製造するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ゾルゲル法によって平面基材に単一成分(例えば、SiO)又は複数成分のガラス被覆を形成させることは公知である。例えば、DE3719339(特許文献1)、DE4117041(特許文献2)及びDE4217432(特許文献3)参照。ゾルゲル法によってセラミック被覆を有する無機粒子を製造することも公知である。例えば、SiO粒子はZrO層で、また、銅クロムスピネル粒子はムライト層で被覆することができる。これらの場合、被覆の層厚は約100nm以下のnmの範囲である。
【特許文献1】ドイツ国特許第3719339号
【特許文献2】ドイツ国特許第4117041号
【特許文献3】ドイツ国特許第4217432号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この種の薄層は、ガス状物質の拡散を効果的に抑制することができないので、エナメルの製造に採用される温度500〜700℃での酸化又は還元プロセスに対しレドックス感受性〔redox−sensitive〕無機顔料を保護するためには適当でない。しかも、非常に薄い被覆は、侵食性のガラス溶融物、例えば、ガラス製品へのエナメル装飾に使用されるガラス溶融物の存在により短時間で破壊されてしまい、結果として、顔料は分解して変色するか或いはガラスマトリックス中に溶解する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
ここで、意外にも、ゾルゲル法によれば、従来の製品よりも層厚がワンオーダー以上大きい完全なガラス形成層を無機顔料上に製造できることが判明した。
【0005】
従って、本発明は、ゾルゲル法によってガラス形成成分から製造され、濃縮されてキセロゲル又はガラスを形成してなる層厚0.8μm以上、好ましくは1〜5μmの被覆を有する無機顔料からなる被覆無機顔料を提供する。
【0006】
本発明は、また、以下の特徴を有するこれらの被覆無機顔料の製造方法を提供する。
【0007】
a)ゾルゲル法によって、一又は二以上のガラス形成成分を反応させてゾルを形成させ、
b)得られるゾル中に無機顔料又は顔料前駆体を分散させ、
c)ゾル−顔料分散体を噴霧乾燥によってキセロゲル被覆を有する被覆無機顔料に転化させ、
d)必要に応じて、キセロゲル被覆を加熱処理によって濃縮してガラス質層を形成させる。
【0008】
さらに、本発明は、エナメル及び成形体を製造するための被覆無機顔料の使用も提供する。エナメル装飾を製造するために、例えば、本発明によって被覆した無機顔料を従来のエナメルペースト中の通常の顔料に代えて又は併用して使用することができる。
【0009】
1つの実施形態において、本発明は以下の項を提供する:
項1. ガラス形成成分からゾルゲル法によって製造され、濃縮されてキセロゲル又はガラスを形成している層厚が少なくとも0.8μmである被覆を有する無機顔料を含有する被覆無機顔料;
項2. 顔料が、Ag、Au、Cu、Fe、Pb、Pd及びPtの様な金属顔料から選ばれることを特徴とする項1に記載の被覆無機顔料;
項3. 顔料が、Al、Fe、Fe、Cr、CuO、CuO、In、Mn、PbO、PdO、SnO、TiO、ZnO及びZrOの様な金属酸化物顔料から選ばれることを特徴とする項1に記載の被覆無機顔料;
項4. 顔料が、金属ハロゲン化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ヒ化物、金属リン化物及び金属カルコゲナイド(硫化物、セレン化物、テルル化物)の様な金属化合物顔料から選ばれることを特徴とする項1に記載の被覆無機顔料;
項5. 顔料が、炭素の様な非金属顔料から選ばれることを特徴とする項1に記載の被覆無機顔料;
項6. 顔料が、SiOの様な非金属酸化物顔料又はマイカ、スピネル、重晶石若しくはホタル石の様な鉱物から選ばれることを特徴とする項1に記載の被覆無機顔料;
項7. 被覆前の顔料が0.5nm〜100μmの粒子サイズを有することを特徴とする項1〜6のいずれかに記載の被覆無機顔料;
項8. 被覆組成物が公知の一成分又は多成分のガラス組成物に相当することを特徴とする項1〜7のいずれかに記載の被覆無機顔料;
項9. 層厚が1〜5μmの被覆を有することを特徴とする項1〜8のいずれかに記載の被覆無機顔料;
項10. 2〜100μmの粒子サイズを有することを特徴とする項1〜9のいずれかに記載の被覆無機顔料;
項11. 以下の特徴を有する項1に記載の被覆無機顔料の製造方法:
a)ゾルゲル法によって一又は二以上のガラス形成成分を反応させてゾルを形成させ、
b)得られるゾル中に無機顔料又は顔料前駆体を分散させ、
c)ゾル−顔料分散体を噴霧乾燥によってキセロゲル被覆を有する被覆無機顔料に転化させ、
d)必要に応じて、キセロゲル被覆を加熱処理により濃縮して粘性層を形成させる;
項12. エナメル又は成形体の製造のための項1に記載の被覆無機顔料の使用。
【0010】
無機顔料の新規な被覆に由来して、以下の効果を奏することができる。
【0011】
a)無機顔料を温度500〜1200℃における化学的(酸化、還元、分解)又は物理的(溶融、昇華、蒸発、オストワルド熟成)変化に対して、更に加工するために十分な期間にわたって保護することができ、光学的特性の変化(例えば、変色)を発生させない。
【0012】
b)60重量%までの高い顔料含有量で接着性エナメル装飾を十分に製造することができる。
【0013】
c)エナメル複合体を製造するためには、被覆のガラスは、初期に溶融することだけが必要であり、ガラスフリットを基とする従来のエナメルの場合よりも顕著に高い粘性を有することができるので、エナメル装飾の重金属含有量を低減させること及び/又はエナメルの焼成温度を低下させることができる。
【0014】
d)ナノスケールの顔料(例えば、貴金属コロイドを基とするもの)によるエナメル装飾の焼成温度を、ナノスケールの顔料を高融点マトリックス被覆中に包含させることによって≦1200℃に低下させることできる。
【0015】
e)自由流動性球状粒子のみからなるエナメルを製造することができ、そのことにより、取扱性が実質的に向上する。
【0016】
本発明の目的のために好適な無機顔料の例は、金属顔料、例えば、Ag、Au、Cu、Fe、Pb、Pd及びPt;金属酸化物顔料、例えば、Al、Fe、Fe、Cr、CuO、CuO、In、Mn、PbO、PdO、SnO、TiO、ZnO及びZrOである。金属ハロゲン化物、例えば、AgCl、AgBr、AgClBr1−x及びCuCl;金属炭化物、例えば、TiC及びBC;金属窒化物、例えば、BN及びTiN;金属ヒ化物、例えば、CdAs;金属リン化物、例えば、Cd;金属カルコゲナイド(硫化物、セレン化物、テルル化物)、例えば、AgS、CdS、HgS、PbS、FeS、MoS及びZnS、CdSe、ZnSe及びCdTe並びに混合相、例えばZnSe/PbS及びCdS/PbSも好適である。
【0017】
他の好適な顔料としては、非金属顔料、例えば、黒鉛又はカーボンブラックの形態の単体炭素〔primarily carbon〕;非金属酸化物顔料、例えば、SiO;及び鉱物、例えば、マイカ、スピネル、例えば、マグネタイト又は銅クロムスピネル;重晶石(BaSO)又はホタル石(CaF)がある。
【0018】
無機顔料の粒子サイズは、0.5〜500nm、好ましくは1〜100nm、特に好ましくは1〜25nmのナノメーターの範囲、或いはさらに0.5〜100μm、好ましくは1〜50μm、特に好ましくは1〜5μmのマイクロメーターの範囲とすることができる。
【0019】
ナノスケールの顔料の場合、複数の顔料粒子をキセロゲル又はガラス被覆により包含させることができる。一方、顕微鏡的な〔microscopic〕顔料粒子は、多数の顔料粒子を共通のキセロゲル又はガラス層によって被覆することもできるが、好ましくは個別に被覆する。顔料粒子の幾何学的な形態は任意であるが、好ましくは球状である。球状粒子に加えて板状又は棒状の形態の顔料粒子を使用することもできる。
【0020】
新規な顔料の被覆組成物は、慣用の一成分又は多成分のガラス組成物に相当する。好適な一成分系の例は、SiO、TiO及びZrOである。使用することができる多成分系は、例えば、二成分系、例えば、70〜90重量%SiO/10〜30重量%B;三成分系、例えば、PbO/B/SiO及びP/B/SiO;及び四成分系、例えば、65〜92重量%PbO/5〜20重量%B/2〜10重量%SiO/1〜5重量%ZnOである。
【0021】
好適なガラス組成物の他の例は、C.J.Brinker,G.W.Scherer:”Sol−Gel Science−The Physics and Chemistry of Sol−Gel Processing”,Academic Press,Boston,San Diego,New York,Sydney(1990)、DE1941191、DE3719339、DE4117041及びDE4217432に記載されている。
【0022】
被覆無機顔料の製造のためには、最初に一又は二以上のガラス形成成分をゾルゲル法により反応させてゾルを形成させる。これは、例えば、上記の文献に記載されている方法により、例えば、液体状の又は溶媒に溶解したSi、Al、Pb、Bi、P、Ti、Zn及びZrからなる群から選ばれる一又は二以上の元素の化合物或いは対応する予備縮合物の加水分解及び縮合により行う。この手法は、必要ならば、反応媒体に溶解し且つアルカリ金属(例えば、Na、K、Li)、アルカリ土類金属(例えば、Ca、Mg、Ba)及びホウ素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物と組合せて、酸性又は塩基性縮合触媒の存在下又は不存在下において、実施することもできる。ゾルの製造について、更に詳細には、C.J.Brinker et al.の上記刊行物及び上記特許明細書を参照されたい。
【0023】
その後、得られるゾル中に無機顔料又は顔料前駆体を分散させ、この分散体を次の噴霧乾燥及び加熱処理の条件下において、所望の顔料に転化させる。この目的のためには、例えば、酸化性又は還元性条件下において加熱処理することができる。
【0024】
分散は、好ましくは超音波分解によって実施される。ナノスケールの顔料を使用する場合には、必要に応じて、適当な錯化剤を添加することによって分散体を安定化させることができる。
【0025】
その後、得られるゾル−顔料分散体を噴霧乾燥する。水系の場合には、好ましくは100〜150℃において噴霧乾燥する。これにより、キセロゲルによって被覆され且つ2〜100μm、好ましくは2〜10μmの粒子サイズを有する顔料粒子が製造される。
【0026】
次に、必要に応じて、焼結工程において、使用するガラス組成物の転移範囲の温度で、キセロゲル被覆を濃縮し、ガラス層を形成させることができる。濃縮は、空気中において又は例えば不活性ガス雰囲気中において実施することができる。
【0027】
加熱速度は、合成から生成する残基(例えば、有機基又は無機基、例えば硝酸基)が被覆から飛散する温度までは、好ましくは毎分数Kのオーダーとする。この温度を超えたら、最終温度までの更なる濃縮は、100K/minまでの極めて高い加熱速度で実施することができる。濃縮温度での保持時間は、濃縮温度に依存し、数分から約1時間までの範囲内にある。ガラス層の濃縮のためにガラス組成物の転移温度よりも極めて高い温度を採用する場合には、適当な方法(例えば、流動層、落下炉〔fall−through oven〕)によって粒子の凝集を防止しなければならない。
【0028】
エナメルを製造するために、公知の添加剤、例えば、ガラスフリット及び有機バインダーを用いて被覆無機顔料を加工し、公知方法によってエナメル装飾に加工することができるエナメルペーストを形成させる。
【0029】
個々の装飾技術(例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェットプロセス)のために要求されるレオロジーを達成するための適当な添加剤及び/又は次の工程のために要求される接着を達成するための添加剤とともに、ガラスフリット及び有機バインダーに代えて、適当な組成物のゾル又はゲルを使用することもできる。
【0030】
同様に、ニュートン又は疑似塑性、チクソトロピック、レオペクシー性又はダイラタント流動特性を有する乾燥粉末、懸濁液及びペーストが加工されている公知の方法によって、成形体を製造することができる。
【0031】
これに関連して、新規な被覆無機顔料のガラス被覆は、顔料の保護機能を奏するだけでなく、バインダー機能をも達成する。
【0032】
以下の実施例により本発明を説明する。以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0033】
実施例1
組成83.0 PbO−13.0 B−2.4 SiO−1.6 ZnOのガラス及び顔料(CuCr又はFeのいずれか)を基本材料とする複合エナメルの調製
出発材料:
Pb(NO 120.0g
酢酸亜鉛二水和物 4.2g
水 600ml
0.1M硝酸 12.0ml
テトラエトキシシラン(TEOS) 7.98g
エタノール24ml中のホウ酸トリメチル 37.81g
顔料(CuCr又はFe) 97.4g
還流凝縮器及び滴下漏斗を備えた1000mlの二口丸底フラスコ中において、水600mlに硝酸鉛(II)120.0g及び酢酸亜鉛二水和物4.2gを溶解させる。0.1M硝酸12.0mlを添加した後、TEOS 7.98mlを添加する。60℃まで加熱した後、エタノール24ml中のホウ酸トリメチル37.81gを滴下し、混合物を同じ温度で3時間攪拌する。無色透明のゾルが得られる。
【0034】
このゾル中に、対応する顔料97.4gを超音波分散によって分散させる。顔料−ゾル懸濁液を130℃のノズル温度で噴霧乾燥する。合成の結果として形成される残基を含む黒色粉末が得られる。
【0035】
475℃で2時間熱処理することによって残基を除去する。
【0036】
得られる複合材料に公知のスクリーン印刷添加剤を添加した後、公知の方法によってスクリーン印刷する。500〜700℃で焼成した後に得られる装飾は、ガラス50%及び顔料50%からなる。
【0037】
実施例2
組成89.6 PbO−5.2 B−5.2 SiOのガラスフリット及び黒鉛を基本材料とする複合エナメルの調製
出発材料:
Pb(NO 26.59g
水 100ml
0.1M硝酸 2.6ml
テトラエトキシシラン(TEOS) 3.61g
エタノール3.0ml中のホウ酸トリメチル 3.101g
黒鉛 8.6g
ゾル及び顔料−ゾル分散体の調製並びにその噴霧乾燥を実施例1と同様に実施する。この系を使用して製造される材料は、外面を500〜700℃に焼成しながら、加工することができる。
【0038】
実施例3
ボロシリケート(15mol%B、85mol%SiO)を基本材料とする複合材料の調製
出発材料:
エタノール 7ml
0.15M HCl 30ml
テトラエトキシシラン(TEOS) 86.8ml
ホウ酸トリメチル(TMB) 35.21g
マグネタイト 20g
エタノール、TEOS及び所望のHClの半分を混合する。TEOSが加水分解した後、TMBを滴下し、その後、混合物を50℃で2時間攪拌する。その後、残りのHCl及びマグネタイト顔料を添加し、分散体を超音波浴中に5分間置く。実施例1と同様に噴霧乾燥する。その後、被覆顔料をN雰囲気中において700℃に加熱速度1K/min、保持時間1時間及び冷却速度約5K/minで加熱処理する。
【0039】
実施例4
ボロシリケート(14mol%B、86mol%SiO)を基本材料とする複合エナメルの調製
出発材料:
エタノール 7ml
0.15M HCl 34.8ml
テトラエトキシシラン(TEOS) 100.5ml
ホウ酸トリメチル(TMB) 23.8ml
マグネタイト 20g
ゾル及び顔料−ゾル分散体の調製並びにその噴霧乾燥を実施例3と同様に実施する。ただし、顔料をN雰囲気中において800℃で熱後処理して被覆を濃縮する。被覆によって、マグネタイトの酸化のために要求される温度が、280℃から780℃に上昇する(合成空気〔synthetic air〕中における加熱速度10K/minのDTAにより測定した)。
【0040】
実施例5
ホウ珪酸リン(10 P−11 B−79 SiO)を基本材料とする複合エナメルの調製
出発材料:
エタノール 20ml
0.15M HCl 87.6ml
テトラエトキシシラン(TEOS) 270ml
ホウ酸トリメチル(TMB) 117.7ml
27.2g
マグネタイト 50g
エタノール、TEOS及び所望のHClの半分を混合する。TEOSが加水分解した後、TMBを滴下し、その後、混合物を50℃で2時間攪拌する。その後、残りのHClを、次に、Pを、最後にマグネタイト顔料を添加し、超音波浴中において5分間分散させる。実施例1と同様に噴霧乾燥する。その後、被覆顔料をN雰囲気中において720℃に加熱速度1K/min、保持時間1時間及び冷却速度約5K/minで加熱処理する。
【0041】
実施例6
ボロシリケートキセロゲルを基本材料とする黒色顔料の調製
出発材料:
テトラエトキシシラン(TEOS) 24.28g
10%強度の酢酸〔10 strength acetic acid〕 20ml
ホウ酸トリメチル(TMB) 8.96g
還流凝縮器及び滴下漏斗を備えた250mlの一口丸底フラスコ中においてTEOS 24.28g及び10%強度の酢酸20mlを混合する。50℃まで加熱した後、TMB 8.96gを滴下し、混合物をこの温度で1時間攪拌する。
【0042】
このようにして得られる無色透明のゾルをノズル温度130℃の噴霧乾燥によって乾燥する。この白色のキセロゲル粉末を750℃まで15K/minの速度で加熱し、この温度で1時間保持することによって、炭素コロイド及び組成70 SiO−30 Bのボロシリケートマトリックスからなる黒色顔料を調製する。熱処理は、空気中でも、また、不活性ガス雰囲気中でも実施することができる。得られる粉末の黒色の着色は、残存する有機基の不完全燃焼の結果としてキセロゲル中に残存する炭素コロイドから派生する。
【0043】
この黒色顔料は、公知のガラスフリット及びスクリーン印刷添加剤を添加して加工することができ、黒色のエナメル装飾が得られる。装飾は、500〜700℃での焼成範囲において、内部焼成によってもまた外部焼成によっても脱色しない。
【0044】
実施例7
SiOマトリックス中へのAuコロイドの包埋
出発材料:
3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTS) 100ml
水 12.2ml
3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTS) 6.98ml
エタノール 50ml
テトラクロロ金酸水和物(H[AuCl]・HO) 1.79g
還流凝縮器及び滴下漏斗を備えた250mlの三口丸底フラスコ中においてGPTS 100ml及びHO 12.2mlを混合する。その後、混合物を120℃において2時間及び還流下において加熱する。100mlの二口フラスコ中の第二の混合物について、エタノール50mlにH[AuCl]・HOを溶解させ1:1の比で滴下したAPTS 1.16mlと反応させて予備錯体を形成させる。その後、得られる金溶液を、予備加水分解したGPTSゾル中に注意深く攪拌する。その後、APTS 5.81mlを攪拌しながら金含有GPTSゾルにゆっくりと滴下し、完了した溶液を室温で10分間攪拌する。
【0045】
このようにして得られる橙赤色で透明なゾルを噴霧乾燥機において110℃のノズル温度で乾燥する。この橙色のキセロゲル粉末を70K/hの速度で1000℃まで加熱し、この温度に15分間保持して、金コロイド及びシリケートマトリックスSiOからなる赤色顔料を製造する。熱処理は空気中において実施する。得られる粉末の赤色の着色は、キセロゲルの有機構成物質による金イオンの還元によって製造されたサイズ2nm〜50nmのAuコロイドから派生する。
【0046】
実施例8
被覆磁性顔料粒子の調製
6つの異なるゾルを使用した。ゾルは以下の概要に従って調製した。
【0047】
ゾル1(SiO:B=7:3): 250mlの丸底フラスコ中において連続的に攪拌しながら合成した。
【0048】
テトラエチルオルトシリケート 86.6ml
+無水非変性エタノール 7ml
+0.15M HCl 14.1ml
二相の混合物が形成され、それを室温において一相となるまで攪拌する。この後、ホウ酸トリメチル37.8mlを滴下する。
【0049】
次に、ゾルを50℃に2時間保持する。この後、0.15M HCl 14.1mlを添加する。
【0050】
ゾル2(SiO:B=4:1):
250mlの丸底フラスコ中において連続的に攪拌しながら合成した。
【0051】
テトラエチルオルトシリケート 100.5ml
+無水非変性エタノール 7ml
+0.15M HCl 16.3ml
二相の混合物が形成され、それを室温において一相となるまで攪拌する。この後、ホウ酸トリメチル25.6mlを滴下する。
【0052】
次に、ゾルを50℃に2時間保持する。この後、0.15M HCl 16.3mlを添加する。
【0053】
ゾル3(SiO:B=85:15):
250mlの丸底フラスコ中において連続的に攪拌しながら合成した。
【0054】
テトラエチルオルトシリケート 107.8ml
+無水非変性エタノール 7ml
+0.15M HCl 17.5ml
二相の混合物が形成され、それを室温において一相となるまで攪拌する。この後、ホウ酸トリメチル19.4mlを滴下する。
【0055】
次に、ゾルを50℃に2時間保持する。この後、0.15M HCl 17.5mlを添加する。
【0056】
ゾル4(SiO:B=4:1;2mol%P):
250mlの丸底フラスコ中において連続的に攪拌しながら合成した。
【0057】
テトラエチルオルトシリケート 100.5ml
+無水非変性エタノール 7ml
+0.15M HCl 16.3ml
二相の混合物が形成され、それを室温において一相となるまで攪拌する。この後、ホウ酸トリメチル25.6mlを滴下する。
【0058】
次に、ゾルを50℃に2時間保持する。その後、0.15M HCl 16.3ml及びP 1.63gを添加する。
【0059】
ゾル5(SiO:B=4:1;mol%Al):
250mlの丸底フラスコ中において連続的に攪拌しながら合成した。
【0060】
テトラエチルオルトシリケート 100.5ml
+無水非変性エタノール 7ml
+0.15M HCl 16.3ml
二相の混合物が形成され、それを室温において一相となるまで攪拌する。この後、ホウ酸トリメチル25.6mlを滴下する。
【0061】
次に、ゾルを50℃に2時間保持する。この後、0.15M HCl 16.3ml及びAlCl 3.06gを添加する。
【0062】
ゾル6(SiO:B=4:1;mol%ZrO):
250mlの丸底フラスコ中において連続的に攪拌しながら合成した。
【0063】
テトラエチルオルトシリケート 100.5ml
+無水非変性エタノール 7ml
+0.15M HCl 16.3ml
二相の混合物が形成され、それを室温において一相となるまで攪拌する。この後、ホウ酸トリメチル25.6ml及びプロピオン酸ジルコニウ(IV)〔zirconium(IV)propylate〕(70重量%の1−プロパノール溶液)5.15mlを滴下する。
【0064】
次に、ゾルを50℃に2時間保持する。この後、0.15M HCl 16.3mlを添加する。
【0065】
更に2時間50℃に保持した後、各ゾル150ml中にマイカ(Iriodin 600)22.5gを攪拌し、その後、噴霧乾燥機によって被覆をする。噴霧乾燥機のノズル温度は134℃とした。
【0066】
次に、噴霧乾燥工程によって得られる粉末を窒素雰囲気下(90l/h)において加熱処理する。この処理中の加熱速度は1K/minとし、到達する最高温度における保持時間は2時間とした。この温度は、ゾル1による被覆の場合は750℃、ゾル2による被覆の場合は860℃及び他の被覆の場合は800℃とした。焼結工程の後、炉のスイッチを切り、粉末を室温まで冷却した。
【0067】
実施例9
対象組成物99.5 SiO−0.5 NaO(材料の量によるパーセント)のキセロゲルの加熱濃縮によるゾル−ゲルを基本材料とする黒色顔料の調製
出発材料:
メチルトリエトキシシラン(MTEOS) 17.84g
テトラエトキシシラン(TEOS) 5.20g
シリカゾル Bayer Levasil 300/30 7.0ml
濃硝酸 0.18ml
ギ酸0.64ml中のギ酸ナトリウム 114mg
50mlのガラスビーカー中において、MTEOS 17.84g及びTEOS 5.20gをシリカゾル7.0mlと混合した後、HNO0.18mlを添加する。約2分間攪拌した後、ギ酸0.64ml中のギ酸ナトリウム114mgを添加する。その後、透明なゾルを室温において15分間攪拌し、溶媒を除去した後、残さを乾燥炉中において120℃で24時間乾燥させる。このキセロゲルから、加熱速度10K/minで対象温度750℃の急速濃縮によって、対応する黒色顔料を製造する。熱処理は空気中又は窒素雰囲気中において実施することができる。
【0068】
この黒色顔料は、適当なガラスフリット及びスクリーン印刷油を添加して、公知の方法によるスクリーン印刷によって印刷するために使用し、焼成することができる。この場合、温度は使用するガラスに依存する。
【0069】
実施例10
Auコロイドを含有するGPTS/TEOSを基本材料とするSiO粉末の調製
出発材料:
3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTS) 36ml
テトラエトキシシラン(TEOS) 9ml
0.1M硝酸 6.5ml
テトラクロロ金酸水和物 H[AuCl]・HO 1.79g
エタノール 80ml
N−(2−アミノエチル−3−アミノプロピル−)−トリメトキシシラン(DIAMO) 6.67ml
還流凝縮器及び滴下漏斗を備えた250mlの三口丸底フラスコ中においてGPTS 36ml及びTEOS 9mlをエタノール25mlと混合し、混合物を還流下において1時間加熱する。その後、0.1M硝酸6.5mlをゆっくりと滴下し、混合物を還流下において24時間加熱する。得られるGPTS/TEOSゾルをエタノール25mlによって希釈する。
【0070】
第二の混合物について、100mlの二口フラスコ中においてH[AuCl]・HO 1.79gをエタノール30ml中に溶解させ、強く攪拌しながらDIAMO 1.10mlをゆっくりと滴下する。予備加水分解したGPTS/TEOSにDIAMO 5.57mlを添加することにより、更なる溶液を得る。この混合物をゆっくりと、また、強く攪拌しながら室温で金含有溶液に転化させ、得られる混合物を室温において15分間攪拌する。その後、透明な橙赤色のゾルをロータリーエバポレーターにおいて注意深く濃縮する。
【0071】
最初圧力を250mbarまで低下させ、同時に浴温を室温から50℃まで上昇させる。更に溶媒の蒸発が観察される前に、圧力を150mbarまで低下させる。残存する粘性ゾルをポリプロピレンビーカーに注入し、40℃で8時間乾燥させる。その後、橙色のキセロゲルを粉砕し、30K/hの速度で150°まで加熱し、この温度に3時間保持する。密閉した炉中において、得られる深赤色の粉末を再度粉砕した後、70K/hの速度で1000℃まで加熱し、この温度に10分間保持した後、室温まで冷却する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層厚が少なくとも0.8μmである完全な被覆を有する無機顔料を含有する被覆無機顔料を調製するためのプロセスであって、該プロセスは、以下の特徴を有する:
a)ゾルゲル法によって一又は二以上のガラス形成成分を反応させてゾルを形成させ、
b)得られるゾル中に無機顔料又は顔料前駆体を分散させ、
c)ゾル−顔料分散体を噴霧乾燥によってキセロゲル被覆を有する被覆無機顔料に転化させ、
d)必要に応じて、キセロゲル被覆を加熱処理により濃縮して粘性層を形成させる。
【請求項2】
顔料が、Ag、Au、Cu、Fe、Pb、Pd及びPtの様な金属顔料から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
顔料が、Al、Fe、Fe、Cr、CuO、CuO、In、Mn、PbO、PdO、SnO、TiO、ZnO及びZrOの様な金属酸化物顔料から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
顔料が、金属ハロゲン化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ヒ化物、金属リン化物及び金属カルコゲナイド(硫化物、セレン化物、テルル化物)の様な金属化合物顔料から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
顔料が、炭素の様な非金属顔料から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
顔料が、SiOの様な非金属酸化物顔料又はマイカ、スピネル、重晶石若しくはホタル石の様な鉱物から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
被覆前の顔料が0.5nm〜100μmの粒子サイズを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
被覆無機顔料の被覆組成物が公知の一成分又は多成分のガラス組成物に相当することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
被覆無機顔料が、層厚が1〜5μmの完全な被覆を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
被覆無機顔料が2〜100μmの粒子サイズを有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のプロセス。

【公開番号】特開2009−84580(P2009−84580A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319376(P2008−319376)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【分割の表示】特願2005−49589(P2005−49589)の分割
【原出願日】平成8年5月10日(1996.5.10)
【出願人】(500449008)ライプニッツ−インスティトゥート フィア ノイエ マテリアーリエン ゲマインニュッツィゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクタ ハフトゥンク (22)
【Fターム(参考)】