説明

被覆用樹脂組成物及び被覆鋼材

【課題】表面硬度、高流動性、耐摩耗性は所定の値を維持しつつ、耐環境応力亀裂性に優れた被覆用樹脂組成物及び被覆鋼材を提供する。
【解決手段】本発明は、鋼材に被覆する被覆用樹脂組成物であって、高密度ポリエチレンを含有せず、(a)直鎖状低密度ポリエチレンと、(b)熱可塑性エラストマーと、(c)エチレン系共重合体とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管、鋼板、線材等の被覆材として用いる被覆用樹脂組成物、土木建築部材に用いられる被覆鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の被覆用樹脂組成物は、金属表面に対する表面硬度、高流動性、耐摩耗性、耐環境応力亀裂成長性が要求されている。これに対して、特許文献1には、高密度ポリエチレンと、直鎖状低密度ポリエチレンと、スチレン系熱可塑性エラストマーと、変性ポリエチレンとを所定量を配合した被覆用樹脂組成物が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−143400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1に開示の技術は、表面硬度、高流動性、耐摩耗性については所定の値を得ることができるが、F50hrにおける耐環境応力亀裂性(耐ストレスクラッキング:ESCR)は、4.0hr以下である。一方、耐環境応力亀裂性については更に高い値が望まれている。
また、土木建築に用いられる被覆鋼材においては、特許文献1の被覆用樹脂組成物で被覆した被覆鋼材の被膜の応力亀裂や磨耗劣化により長期寿命が期待できないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、表面硬度、高流動性は所定の値を維持しつつ、耐摩耗性の良好な、耐環境応力亀裂性に優れた被覆用樹脂組成物及び被覆鋼材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の被覆用樹脂組成物は、高密度ポリエチレンを含有せず、(a)直鎖状低密度ポリエチレンと、(b)スチレン系熱可塑性エラストマーと、(c)変性ポリエチレンとからなることを特徴とする。
【0007】
(a)直鎖状低密度ポリエチレンとしては、チーグラー・ナッタ系又はメタロセン系などの触媒の存在下に中低圧の圧力下でエチレンとα−オレフィンとを気相内、溶液相内あるいはスラリー相内などの公知の方法で共重合したエチレンα-オレフィン共重合体が好ましい。ここで用いるα-オレフィンはプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1など炭素数3以上のα-オレフィンがある。
【0008】
直鎖状低密度ポリエチレンの物性は190℃、荷重21.2Nのメルトフローレート(MFR)が2〜30g/10分が好ましく、より好ましくは4〜20g/10分である。密度は、0.91〜0.94g/cm3のものが好ましい。
【0009】
(b)熱可塑性エラストマーは、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンラストマー等が好ましい。特に、好ましくはポリスチレン−ポリブタジエン、ポリスチレン−ポリイソプレン、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)−ポリスチレンなどの共重合体及び不飽和カルボン酸誘導体が挙げられる。不飽和カルボン酸誘導体として、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、グリシジル酸等及びその無水物、金属塩などを付加したものが挙げられる。
【0010】
(c)変性ポリエチレンは、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどにグラフト共重合した不飽和カルボン酸及びその無水物やその誘導体の不飽和カルボン酸エステル、金属塩などが挙げられる。不飽和カルボン酸はアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、グリシジル酸、シトラコン酸が挙げられる。
【0011】
更には、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル(メチル)酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体など挙げられる。その誘導体の金属塩、エチレン−アクリル酸エチル共重合体その誘導体の金属塩のアイオノマー樹脂が挙げられる。使用する金属はZn、Na、Mg、Mn、Al、Co、Li、Fe、K、Caなどの金属イオンが挙げられる。
【0012】
特に好ましいのは、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体エチル−アクリル酸メチル共重合体のZn、Na、Mgの金属塩である。
【0013】
本発明の被覆用樹脂組成物は、その他の添加剤として、一般的に知られているポリオレフィンの酸化防止剤、熱老化防止剤、オゾン老化防止剤などの老化防止剤、サルチル酸誘導体、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダード・アミン系などの紫外線吸収剤、光安定剤、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄などの無機系顔料、アゾ系、ニトロ、ニトロソ系など有機顔料などの着色剤、タルク、雲母などの充填剤、滑剤、耐磨耗性や機械特性などを改良する短繊維強化組成物(大丸産業製SHP)、短繊維強化弾性体(大丸産業製NTE)など、各種の添加剤を本発明の性能を損なわない範囲において含んでも良い。
【0014】
本発明に係る被覆鋼材で被覆されるべき鋼材(メッキ処理材も含む)としては、鋼管又はU字鋼材、線材等が好ましく用いることができ、部材の撓みや外部からの応力を受ける排水用及び取水用鋼材や、スラリーを含む水又は海水輸送用被覆鋼材に適用される。更に、本発明に係る被覆鋼材で被覆されるべき鋼材は、照明装置、標識、架線用の鋼材や、荷輸送用台車の線材又は鋼材等に用いられる。
【0015】
次に、本発明に係る被覆用樹脂組成物の製造方法について説明する。各成分を混練機の供給口より供給し、ポリエチレンの融点よりも高い温度、より好ましくは20℃以上の高い温度で混練する。混練機としては、バンバリー型ミキサー、ニーダーなどの密閉型混練機、一軸押出機、二軸押出機などの連続式混練機が用いられるが、連続的に混練が行なえ、短時間で混練能の優れた二軸押出機が最も好ましい。鋼材への被覆は、被覆用樹脂組成物を、前加熱した鋼材に熱溶着した後、冷却して被覆鋼材を得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、表1に示すように、表面硬度、高流動性は所定の値を維持しつつ耐摩耗性に優れた、F50hrにおける耐環境応力亀裂性(ESCR)は、比較例に対して二桁以上も値が高い被覆用樹脂組成物を得ることができた。本発明の被覆用樹脂組成物で被覆した被覆鋼材は、被膜の耐応力亀裂や耐摩耗劣化に優れ、寿命の長期化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施例について説明するが、先ず試験方法について説明する。実施例及び比較例について以下のように特性の試験方法を行った。
【0018】
流動特性MFRは、JIS K7210に準拠し、測定温度190℃−21.2Nで押出評価した。(g/10分)
密度は、JIS K7112に準拠した(g/cm3)。
硬度は、JIS K7215に準拠してタイプDデュロメーターにて評価した(HDD)
破断伸び及び引張強度は、JIS K7113に準拠し評価した(MPa)。
テーバ磨耗試験は、JIS K7204に準拠し、荷重9.8Nを掛け、回転数1000介護の磨耗量を測定した。
【0019】
密着力は以下のとおり測定した。
鋼板:SPCC−SD 2.3×50×150mm(中目グリッドブラスト)
前加熱温度:200℃(オーブン)
後加熱温度:200℃/2min(オーブン)
接着時間:1min
鋼板脱脂方法
(1)キシレン液に鋼板を2時間浸した。
(2)2時間後、キシレン液から取り出し、ウエス又はガーゼで拭き取った。
(3)アセトンで洗い流した後、200℃に昇温しておいたオーブン中に鋼板を入れ、前加熱を行った。
【0020】
次に、試験片作成方法について説明する。実施例及び比較例について、以下のように試験片を作成した。
(1)前加熱した鋼板を熱盤(プレス)の上に置き、目的の接着温度(240〜280℃)上からパウダー(またはシート)を均一に鋼板へ降り掛けた。
(2)鋼板の上にポリテトラフルオロエチレンシート、ステンレス板の順に被せ、プレス(常圧)上で1分間密着させた。
(3)200℃に加熱したオーブンの中で2分間かけて後加熱処理を行い、取り出した後は徐冷にて冷却した。
(4)充分冷却した後、下記の条件で密着力は、剥離試験にて求めた。
【0021】
剥離試験条件は、島津製作所製オートグラフAG−50kNDタイプで、ロードセル1000Nを使用して、剥離角度180度、試験速度50mm/分で測定した。
前記の剥離試験方法はJIS K6256加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−接着性の求め方に準じて行なった。
【0022】
耐環境応力亀裂性は、ASTM D1693に準拠し、厚み3mm、ノッチ0.5mmの複数のシート試験片を作成し、10%界面活性剤水溶液中50℃に浸漬し、全シート試験片の半数に亀裂の進度を確認するまでの時間とし、F50と表した。ここで用いる界面活性剤とはイゲパールCO-630であった。
【0023】
TEM(電子顕微鏡写真)の観察は、透過型電子顕微鏡 日立製作所)(株)製 H7100FA型を使用した。
【0024】
前処理は、ウルトラミクロトーム、クライオシステムによる切片作成する。染色方法は四酸化ルテニウム染色剤により染色した。
【0025】
実施例1〜6及び比較例1〜4について、各組成と試験結果を下記表1に示す。各組成は重量部で示している。実施例1〜6は、高密度ポリエチレン(HDPE)を含有せず、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)を100重量部に対して、熱可塑性エラストマーはスチレン系熱可塑性エラストマーを1.0〜10重量部、変性ポリエチレンは4.4〜11.5重量部とした。SHPは、より磨耗性を向上するために混入したが、実施例2にあるように無くても良い。
【0026】
比較例1〜4については、比較例1及び2はスチレン系熱可塑性エラストマーを含有せず、比較例3は変性ポリエチレンを含有せず、比較例4は直鎖状低密度ポリエチレンを含有していない例である。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から明らかなように、実施例1〜6においては、MFR、密度、硬度、引張強度、破断伸びは、比較例と同等であったが、テーバ磨耗は比較例よりも優れていると共に耐環境応力亀裂性(ESCR)が全て300hr以上であり、実施例2〜5においては、1000hrを越えた。即ち、本実施例1〜6では、比較例よりも耐環境応力亀裂性(ESCR)が桁違いに優れていることが明らかである。
【0029】
尚、実施例1では、スチレン系熱可塑性エラストマーは1.5重量部であったが、その他の実施例との関係から1.0重量部でも、少なくとも耐環境応力亀裂性(ESCR)については比較例よりも桁違いの結果であると推定でき、実施例2でも同様に、スチレン系熱可塑性エラストマーは10重量部であったが、20重量部でも少なくとも環境応力亀裂(ESCR)については、比較例よりも桁違いの値になると推定できる。
【0030】
変性ポリエチレンは、実施例3では4.5重量部であったが、その他の実施例との関係から3.0重量部でも少なくとも耐環境応力亀裂性(ESCR)については比較例よりも桁違いの結果であると推定でき、実施例6では11.5であったが、同様に、20重量部でも、少なくとも耐環境応力亀裂性(ESCR)については比較例よりも桁違いの結果であると推定できる。
【0031】
図1に実施例5のTEM(電子顕微鏡写真)を示す。このTEMの観察より、LLDPEの海構造とSEBS(スチレン系熱可塑性エラストマー)の島構造であった。その島構造のSEBSは1000nm以下(100〜300nmが主体)のアスペクト比10以下(基本的には球体アスペクト比1〜3程度)であった。このような海構造と島構造を形成することにより、耐環境応力亀裂性(ESCR)に対して比較例に対して格段の値が得られたものと考えられる。
【0032】
このような海構造と島構造を得たのは、高密度ポリエチレンが含有されていないからである。また、海構造と島構造を得るには、更にLLDPEとSEBSの溶融粘度のバランスが重要と言える。基本的な考え方としてミクロ相分離の原理に基づくと、LLDPEの溶融粘度に比べSEBSの溶融粘度が高いことが好ましい。前述の溶融粘度バランスからSEBSが微細な島構造を形成する。また、LLDPEの溶融粘度は、低い方が良く、直鎖状低密度ポリエチレンの物性は表1で得た結果から実施例で用いたもの考えると、190℃、荷重21.2Nのメルトフローレート(MFR)が2〜30g/10分が好ましく、より好ましくは4〜20g/10分である。また、密度は、0.91〜0.94g/cm3のものが好ましい。
【0033】
海構造と島構造とを形成するためにLLDPEとSEBSの両者間の反応を促進するには、接着性樹脂の無水マレイン酸やグリジジル変性エチレン共重合体などを有効利用することが好ましい。この際、混練機によるメカノケミカル反応、あるいは有機過酸化物を反応助剤的に微量添加することも有効である。
【0034】
海構造と島構造とにより、海構造のLLDPEのストレスによるクッラクを島構造のSEBSが緩和する役割を果たし、SEBSは非結晶性のゴム弾性体でストレスクラッキング性は良好でありこの性質を巧く利用し、耐環境応力亀裂性を改良したものである。但し、SEBS(熱可塑性エラストマー)を多量に用いると、SEBSのミクロ分散構造が損なわれ、SEBSの島構造の巨大化によりLLDPEの海構造の界面で凝集応力が高まり、クラック成長が促進され耐環境応力亀裂性の改量に繋がらないおそれがある。また、表面硬度も低くなり、磨耗性も悪くなるおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例5の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度ポリエチレンを含有せず、(a)直鎖状低密度ポリエチレンと、(b)熱可塑性エラストマーと、(c)エチレン系共重合体とからなることを特徴とする被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
(a)直鎖状低密度ポリエチレンを100重量部、(b)熱可塑性エラストマーはスチレン系熱可塑性エラストマーを1.0〜15重量部、(c)エチレン系共重合体は、変性ポリエチレンを3.0〜20重量部であることを特徴とする請求項1に記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項3】
(a)直鎖状低密度ポリエチレンは、190℃でのメルトフローレートが4.0g/10分〜20g/10分であることを特徴とする請求項2に記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の被覆用樹脂組成物で鋼材を被覆した被覆鋼材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−47663(P2010−47663A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211633(P2008−211633)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(502392434)大丸産業株式会社 (5)
【出願人】(000227261)日鉄防蝕株式会社 (31)
【Fターム(参考)】