説明

被覆用樹脂組成物

【課題】
耐粘着性、耐ワレ性、耐折り曲げ性等に優れた塗膜を形成するのに適する被覆用樹脂組成物、該被覆用樹脂組成物を含む塗料組成物、該塗料組成物を塗装する塗装方法および該塗料組成物が塗装された色見本カードを提供する。
【解決手段】
(A)重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内にあり且つガラス転移温度が20〜80℃の範囲内にあるアクリル樹脂、(B)重量平均分子量が500以上で且つ10,000未満の範囲内にあり且つガラス転移温度が−60〜20℃の範囲内にあるアクリル樹脂、(C)セルロースアセテートブチレートおよび(D)ワックスを含有し、該ワックス(D)を成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計質量を基準として0.1〜10質量%の範囲内で含有することを特徴とする被覆用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆用樹脂組成物、該被覆用樹脂組成物を含む塗料組成物、該塗料組成物を塗装する塗装方法および該塗料組成物が塗装されていることを特徴とする色見本カードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料の分野では、塗装作業性、形成塗膜の仕上がり性などの点から、フタル酸エステル系可塑剤が用いられてきたが、塗料中のフタル酸エステル系可塑剤の含有量が多いと、耐水性、耐候性等の塗膜物性が低下することが知られている。また、近年、フタル酸エステル系可塑剤が環境ホルモン物質に相当する可能性があるとして、可塑剤の代替が望まれている。
【0003】
フタル酸エステル系に代替し得る可塑剤として、特許文献1には特定の製造方法により得られるアクリル共重合体が開示されている。該アクリル共重合体は、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、AXS樹脂などの熱可塑性樹脂との相溶性に優れ、それらの樹脂やシーリング剤、成型物の可塑化に好適に使用することができ、耐久性、耐候性に優れ、表面のべとつきが少ない効果を発揮するものであるが、該可塑剤を塗料に適用した際においては、該塗料から形成される塗膜の柔軟性が十分とはいえず、紙、プラスチックなど薄い基材面に塗装した場合、基材の変形や加工により塗膜が破損することがあり、基材に対する付着性の向上が求められていた。
【0004】
また、特許文献2には、架橋官能基を少なくとも1個有するビニル系重合体および高分子可塑剤を含有する硬化性組成物が開示されている。該組成物によれば、良好な耐熱性、耐候性を有し、その上に塗料を塗装した際には良好な塗装作業性を有するものであるが、塗膜の乾燥性、柔軟性と基材に対する塗膜の付着性が十分ではないという問題点があった。
【0005】
そこで、上記不具合を解消するために本出願人は、特定分子量のセルロースアセテートブチレート、特定分子量のアクリル樹脂および特定の沸点の高沸点溶剤を含む被覆用樹脂組成物を提案した(特許文献3)。該被覆用樹脂組成物によれば仕上がり性、柔軟性、耐粘着性に優れた塗膜を常温乾燥または強制乾燥の条件でも形成することができるものであるが、このものを紙などの変形可能な基材面に塗装した場合、基材の変形に追随できず塗面にワレが生じたり、塗装物を切断する加工を行う際に、切断面付近にカケが生じるなどの不具合が生じる場合があった。また、可塑成分の量によっては、塗装面が粘着性を有している場合があり、該被覆用樹脂組成物を例えば色見本カードとして適用した場合、色見本カードを複数重ねると、色見本カード同士が付着することがあった。
【0006】
【特許文献1】WO01/83619号パンフレット
【特許文献2】特開2000−178456号公報
【特許文献3】特開2006−176609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐粘着性、耐ワレ性、耐折り曲げ性等に優れた塗膜を形成するのに適する被覆用樹脂組成物、該被覆用樹脂組成物を含む塗料組成物、該塗料組成物を塗装する塗装方法および該塗料組成物が塗装された色見本カードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題点を解決する為に鋭意検討した結果、分子量およびガラス転移温度が異なる2種のアクリル樹脂、セルロースアセテートブチレートを含む樹脂組成物に特定量のワックスを含ませることにより、柔軟性を有しつつも表面の耐粘着性が良好であり、しかも耐ワレ性に優れた塗膜を形成することができることを見出し、本発明に到達した。即ち本発明は、
1. (A)重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内にあり且つガラス転移温度が20〜80℃の範囲内にあるアクリル樹脂、(B)重量平均分子量が500以上で且つ10,000未満の範囲内にあり且つガラス転移温度が−60〜20℃の範囲内にあるアクリル樹脂、(C)セルロースアセテートブチレートおよび(D)ワックスを含有し、該ワックス(D)を成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計質量を基準として0.1〜10質量%の範囲内で含有することを特徴とする被覆用樹脂組成物、
2. アクリル樹脂(A)、アクリル樹脂(B)およびセルロースアセテートブチレート(C)の配合割合が、成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計質量を基準にして、成分(A)が10〜70質量%、成分(B)が10〜70質量%、成分(C)が20〜80質量%の範囲内にあることを特徴とする1項に記載の被覆用樹脂組成物、
3. アジピン酸エステル系可塑剤(E)をさらに含有する1項または2項に記載の被覆用樹脂組成物、
4. 体質顔料(F)をさらに含有する1項ないし3項のいずれか1項に記載の被覆用樹脂組成物、
5. 1項ないし4項のいずれか1項に記載の被覆用樹脂組成物を含んでなる塗料組成物、
6. 基材面に、5項に記載の塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法、
7. 5項に記載の塗料組成物が塗装されていることを特徴とする色見本カード、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被覆用樹脂組成物は、塗装作業性や乾燥性が良好であり、光沢が良好で仕上がり性に優れた塗膜を常温または強制乾燥の条件でも形成することができる。本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜は、圧力や温度変化に対して安定であり、互いに粘着することがなく、また、耐折り曲げ性や耐ワレ性に優れた特性を有しており、外力によって容易に変形する基材や塗装物を切断等加工を要する用途などに対しても好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、(A)重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内にあり且つガラス転移温度が20〜80℃の範囲内にあるアクリル樹脂、(B)重量平均分子量が500以上で且つ10,000未満の範囲内にあり且つガラス転移温度が−60〜20℃の範囲内にあるアクリル樹脂、(C)セルロースアセテートブチレートおよび(D)ワックスを含有し、該ワックス(D)を成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計質量を基準として0.1〜10質量%の範囲内で含有することを特徴とする被覆用樹脂組成物である。
【0011】
以下、本発明の被覆用樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0012】
アクリル樹脂(A)
本発明において、アクリル樹脂(A)は、被膜形成成分として用いられるものであり、従来公知のモノマー類を重合することにより容易に製造することができる。
【0013】
該アクリル樹脂(A)の製造に使用されるモノマーとしては、エチレン性不飽和結合を有する全ての重合可能なモノマーが使用でき、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)等の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基を有する重合性不飽和モノマー;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和モノマー;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニルモノマー;(2−アクリロイルオキチエチル)アシッドホスフェート、(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート、(2−メタクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート等のリン酸基含有重合性不飽和モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体等の水酸基含有(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有重合性不飽和モノマー;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基含有重合性不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;マレイミド基等の光重合性官能基含有重合性不飽和モノマー;1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート等;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;(メタ)アクリロニトリル等;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有重合性不飽和モノマー;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等のアミノ基含有重合性不飽和モノマー;2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムブロマイド、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウム(メタ)アクリレート、テトラメチルアンモニウム(メタ)アクリレート、トリメチルベンジルアンモニウム(メタ)アクリレート、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムジメチルホスフェート等の4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレートおよびそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基含有重合性不飽和モノマー;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基含有重合性不飽和モノマー等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
上記モノマー類の共重合反応は、既知の方法で行うことができ、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−バレロニトリル)等のアゾ系化合物;ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物;過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等のラジカル重合触媒を用いて有機溶剤中で行うことができる。
【0015】
得られるアクリル樹脂(A)は、重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内にあり、好ましくは15,000〜80,000の範囲内にあることが望ましい。
【0016】
本明細書において、重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、流量1.0ml/min、測定温度40℃でゲルパーミュレーションクロマトグラフィ(以下GPC)により測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算したときの値である。GPC装置には「HLC8120GPC」(東ソー(株)社製、商品名)が使用でき、溶媒のGPCに用いるカラムとしては、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)などを挙げることができる。
【0017】
アクリル樹脂(A)の重量平均分子量が10,000未満では、本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐折り曲げ性、伸び等の塗膜物性低下や乾燥性の低下等の不具合が生じ、一方100,000を超えると、本発明の被覆用組成物が高粘度となるため、塗装作業性、形成塗膜の仕上がり性等の不具合を生じることがあり、好ましくない。
【0018】
また、上記アクリル樹脂(A)は、ガラス転移温度(以下、Tgと略すことがある)が20〜80℃の範囲内にあり、特に25〜60℃の範囲内にあることが望ましい。
【0019】
本明細書において、Tgは、下記式により算出される値である。
【0020】
1/Tg=W/T+W/T+…W/T
式中、W、W…Wは各モノマーの質量%〔=(各モノマーの配合量/モノマー全質量)×100〕であり、T、T…Tは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)である。なお、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、Polymer Hand Book (4th edition,J.Brandrup・E.H.Immergut 編)による値であり、該文献に記載されていないモノマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が5万程度になるようにして合成し、そのガラス転移温度を示差走査型熱分析により測定したときの値を使用する。
【0021】
アクリル樹脂(A)のTgが20℃未満では、本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の表面に粘着性が残存する等の不具合が生じ、一方80℃を超えると、塗膜が硬く、もろくなるため、耐ワレ性や耐折り曲げ性が低下する等の不具合を生じることがあり、好ましくない。
【0022】
アクリル樹脂(B)
本発明において、アクリル樹脂(B)は可塑剤として用いられるものであり、重量平均分子量としては、500以上で且つ10,000未満の範囲内にあり、好ましくは800〜5,000の範囲内にあることが望ましい。また、Tgとしては、本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の柔軟性の点から、−60〜20℃の範囲内にあり、好ましくは−50〜0℃の範囲内にあることが望ましい。
【0023】
本発明において、上記アクリル樹脂(B)は、上記アクリル樹脂(A)の説明で列記したモノマー類と同様のモノマー類を共重合成分とすることができ、特にモノマー類としてn−ブチルアクリレートおよびエチルアクリレートを共重合成分として含有することが形成塗膜の仕上がりの点から適している。
【0024】
この場合、n−ブチルアクリレート/エチルアクリレートの使用割合は、質量比で10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20の範囲内にあることが適している。
【0025】
また、上記アクリル樹脂(B)は、その成分の一部として二重結合含有アクリル樹脂を含んでなることが望ましい。このように二重結合含有のアクリル樹脂を含んでなることにより、該アクリル樹脂(B)は、可塑剤としての役割とともに反応性希釈剤としても作用することもできる。
【0026】
上記アクリル樹脂(B)の製造方法としては、例えば、上記モノマー類を必要に応じて連鎖移動剤、重合開始剤および溶剤の存在下にて、例えば180〜350℃の高温の条件で共重合する方法を挙げることができる。
【0027】
セルロースアセテートブチレート(C)
本発明において、セルロースアセテートブチレート(C)(以下、CABと記載することがある)は、セルロースの部分アセチル化物をさらにブチリル化して得られるセルロース誘導体であり、本発明の被覆用樹脂組成物から形成される塗膜の乾燥性を向上させるために用いられる成分である。アセチル基含有率としては、1〜30質量%、好ましくは1〜14質量%、ブチリル基含有率としては、16〜60質量%、好ましくは35〜60質量%の範囲内が望ましく、ASTM−D1343−54T(Formul A)に記載された粘度測定法により測定した場合の粘度が0.005〜5秒、好ましくは0.005〜1秒の範囲内にあることが望ましい。また、数平均分子量が、10,000〜120,000、特に20,000〜35,000の範囲内のものであることが好ましい。
【0028】
本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーにより測定した数平均分子量を、ポリスチレンの数平均分子量を基準にして換算した値である。ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーの測定条件は、上記重量平均分子量の測定条件と同様であることができる。
【0029】
上記セルロースアセテートブチレート(C)として、具体的には、米国イーストマン・ケミカル社の製品、例えば、商品名[前者の数字の2桁目まではブチリル基含有(質量%)を、また同じく3桁目は水酸基含量(質量%)を示し、そして後者の数字は粘度(秒)を示す]で、CAB−171−2、CAB−381−0.5、CAB−381−2、CAB531−1、CAB−551−0.2、CAB−551−0.1、CAB−551−0.01等の等級のものが有利に使用される。
【0030】
ワックス(D)
本発明において、ワックス(D)は本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成された塗膜の耐ワレ性を向上させるために用いられる成分である。
【0031】
上記ワックス(D)としては一般に、天然ワックスおよび合成ワックスを挙げることができ、天然ワックスとしては、例えばカルナバロウ、キャンデリラワックス 、ライスワックス、パームワックス、木ロウ等の植物系ワックス;ミツロウ、鯨ロウ、牛脂等の動物系ワックス;モンタンロウ、セレシンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン等の石油系ワックスが挙げられ、合成ワックスとしては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス等が挙げられる。これらは1種または2種以上併用して使用でき、中でもポリオレフィン系ワックスが好適である。
【0032】
上記ワックス(D)としては常温で固体であり、融点が40〜150℃の範囲内にあると、本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成された塗膜の耐粘着性と耐ワレ性の点から適している。
【0033】
本発明において上記ワックス(D)の配合割合は、成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計質量を基準にして、0.1〜10質量%の範囲内にあり、好ましくは0.3〜5質量%の範囲内にあることが望ましい。
【0034】
0.1質量%未満では本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成された塗膜の耐ワレ性の低下に伴い、塗装物の加工性が低下し、10質量%を超えると形成塗膜の仕上がり性、特に光沢が低下し好ましくない。
【0035】
被覆用樹脂組成物
上記本発明の被覆用樹脂組成物は、上記アクリル樹脂(A)、アクリル樹脂(B)、セルロースアセテートブチレート(C)およびワックス(D)を含んでなるものであり、該アクリル樹脂(A)、アクリル樹脂(B)およびセルロースアセテートブチレート(C)の配合割合としては、成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計質量を基準にして、
成分(A)が10〜70質量%、好ましくは15〜60質量%、
成分(B)が10〜70質量%、好ましくは15〜60質量%、
成分(C)が20〜80質量%、好ましくは25〜70質量%の範囲内にあることが本発明の被覆用樹脂組成物の乾燥性、塗装作業性、耐折り曲げ性、仕上がり性(光沢)の点から適している。
【0036】
また、上記被覆用樹脂組成物は、アジピン酸エステル系可塑剤(E)を含有することが望ましい。これにより被覆用樹脂組成物の各成分同士の相溶性が向上し、また、基材、特に紙に対する付着性が向上する効果がある。
【0037】
該アジピン酸エステル系可塑剤(E)としては、一般にアジピン酸とジオールとの縮合重合により得られるものであり、従来公知のものを制限なく使用できる。
【0038】
本発明において上記アジピン酸エステル系可塑剤(E)の重量平均分子量は500以上であることが好ましく、より好ましくは500〜2000の範囲内にあると、本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐粘着性と基材に対する付着性の点から適している。
【0039】
上記アジピン酸エステル系可塑剤(E)の含有量としては一般に、上記成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計質量を基準として20質量%以下、好ましくは5〜15質量%の範囲内にするとよい。
【0040】
また、上記被覆用樹脂組成物は、体質顔料(F)を含むことが好適である。これにより、形成塗膜の柔軟性を維持しつつ耐粘着性を向上させる効果がある。該体質顔料(F)としては、従来公知のものを使用でき、例えば、シリカ、バリタ粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、クレー、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、タンカルなどが挙げられ、これらから一種または2種以上適宜選択され、任意の割合で使用できる。
【0041】
本発明においては上記体質顔料(F)としてシリカを使用すると、形成塗膜の外観や塗膜物性を損なうことなく耐粘着性を向上させることができ、好適である。
【0042】
上記体質顔料(F)の含有量としては、本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の光沢の点から成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計質量を基準として5質量%以下、好ましくは0.5〜3質量%の範囲内に調整するとよい。
【0043】
塗料組成物
本発明は、上記被覆用樹脂組成物を含んでなる塗料組成物である。
【0044】
本発明の塗料組成物はクリヤー塗料であっても着色塗料であってもよい。
【0045】
着色塗料として使用する場合において用いられる顔料としては、従来公知の顔料類を使用でき、通常塗料分野で用いられる光輝性顔料、着色顔料、防錆顔料等の顔料を特に制限なく使用できる。光輝性顔料として例えば、アルミニウム粉、ブロンズ粉、銅粉、錫粉、鉛粉、リン化鉄粉等のメタリック顔料;パール状金属コーティング雲母粉、マイカ状酸化鉄等のパール顔料を挙げることができ、着色顔料としては、酸化チタン等の白色顔料;カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、鉄黒、アニリンブラック等の黒色顔料;黄色酸化鉄、チタンイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー、アゾメチンイエロー、ビスマスバナデート、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ベンジジンイエロー、パーマネントイエロー等の黄色顔料;パーマネントオレンジ等の橙色顔料;赤色酸化鉄、ナフトールAS系アゾレッド、アンサンスロン、アンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール、ウォッチングレッド、パーマネントレッド等の赤色顔料;コバルト紫、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット等の紫色顔料;コバルトブルー、フタロシアニンブルー、スレンブルー等の青色顔料;フタロシアニングリーン等の緑色顔料;等を挙げることができ、防錆顔料としては、トリポリリン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等を挙げることができる。
【0046】
上記顔料の配合量は本発明の塗料組成物の用途や顔料の種類に応じて適宜選択することができる。
【0047】
本発明の塗料組成物は、塗膜の仕上がり性、耐粘着性および塗料組成物が塗装された塗装物の加工性を良好にする点から、表面調整剤を含有することが望ましい。表面調整剤としては、従来公知のものを制限なく使用でき、例えばシリコーン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤、アクリル系表面調整剤等が挙げられ、これらは単独で用いても2種類以上併用しても良い。
【0048】
上記表面処理剤の使用量としては、本発明の塗料組成物に含まれる樹脂の合計質量を基準として5質量%以下、好ましくは0.01〜3質量%の範囲内にすることができる。
【0049】
上記本発明の塗料組成物は、さらに必要に応じて四フッ化エチレン樹脂等のフッ素樹脂;顔料分散剤、乾燥剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、有機溶剤等の塗料用添加剤を含有することができる。
【0050】
上記本発明の塗料組成物は、温度を25℃に調整し、ストーマー型粘度計にて測定した粘度が60〜140KU、特に70〜115KUの範囲内にあることが貯蔵安定性の点から望ましい。
【0051】
本発明方法は、基材面に上記の通り得られる塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法である。
【0052】
基材面としては、特に制限されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅板、ステンレス鋼板、ブリキ板、亜鉛メッキ鋼板、合金化亜鉛(Zn−Al、Zn−Ni、Zn−Feなど)、メッキ鋼板などの金属基材面;これらの金属表面にリン酸亜鉛処理、クロメート処理などの化成処理を施した表面処理金属;プラスチック等の有機基材面;木材、コンクリート、モルタル等の無機基材面;またはこれら基材面にプライマー等の下塗りおよび/または中塗りおよび/または上塗り塗料を塗装した塗膜面等を挙げることができる。
【0053】
また、本発明塗料組成物の形成塗膜の仕上がり性が良好であり、耐粘着性、耐折り曲げ性、耐ワレ性に優れ、塗装後の塗装物の加工が容易であることから、上記塗料組成物を一般工業用、建築用、自動車補修用等の分野で用いられる色見本カード用基材に塗装すると本発明塗料組成物の効果を最大限に発揮することが可能である。
【0054】
色見本カードとは、一般に希望の色を提示したり、塗装作業時の塗膜の近傍に配置させ、塗装部分の色一致性を判定する為に用いられるものである。該色見本カードは、互いに異なる複数枚の色見本カードを結合手段により纏めることによって色見本帳とすることもできる。
【0055】
色見本カード用基材としては、従来公知のものを制限なく使用でき、例えばプラスチック、金属、紙などを挙げることができる。また、紙としては、グロスコート紙、マットコート紙、グラビアコート紙等のコート紙;アート紙、ミラーコート(キャストコート)紙、マット紙、軽量コート紙、微塗工紙等の一般に使用されている従来公知の塗工紙を挙げることができる。
【0056】
本発明方法において上記塗料組成物の塗装方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の手法から適宜選択することができる。例えば、色見本カードに適用される場合は、ロールコーターにより塗装され、ラインスピードが10m/分の場合などは100℃、10分間乾燥され、得られる塗膜は乾燥膜厚で10〜40μm、好ましくは15〜30μmの範囲内であることが適している。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」および「%」は、別記しない限り「質量部」および「質量%」を示す。また、本文中に記載の「水」は、別記しない限り「脱イオン水」を示す。
【0058】
塗料組成物の製造
実施例1〜7および比較例1〜10
攪拌混合容器に下記表1の配合組成で、各成分を配合、混合し、各塗料組成物を得た。また、各塗料組成物を温度が25℃になるように調整し、ストーマー型粘度計にて測定した塗料粘度を表1に併せて示した。
【0059】
【表1】

【0060】
(注1)55%アクリル樹脂溶液:
温度計、攪拌機、還流冷却器および滴下用ポンプを備えた容量4リットルの反応器に、酢酸ブチル68部を仕込み、攪拌しながら110℃まで昇温し、下記モノマー混合物と重合開始剤の混合液を、110℃で約3時間かけて一定速度で滴下した。
i−ブチルメタクリレート 69.75部
メチルメタクリレート 10部
2−ヒドロキシエチルアクリレート 20部
メタクリル酸 0.25部
アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) 0.2部
滴下終了後1時間110℃に保ち、攪拌を続けた。その後、追加触媒としてアゾ(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.5部を酢酸ブチル14部に溶解させたものを1時間かけて一定速度で滴下した。そして、滴下終了後1時間110℃に保ち、反応を終了した。得られたアクリル樹脂溶液は、不揮発分55.0%、均一で透明な溶液であり、該樹脂のガラス転移温度は26℃であり、重量平均分子量は50,000であった。
(注2)25%CAB溶解液:「CAB381−0.5」(商品名、イーストマン・ケミカル社製、数平均分子量30,000のセルロースアセテートブチレート)を酢酸ブチル/メチルイソブチルケトン=50/25に溶解したもの、固形分25%、
(注3)アクリル樹脂:1Lの容器に、n−ブチルアクリレート70部、エチルアクリレート30部、イソプロピルアルコール20部およびジtert−ブチルパーオキサイド0.5部のモノマー混合物を作成した。次いで300mlの攪拌機を備えた加圧式の反応容器をプロピオン酸エチルで満たし、該容器内温度を230℃に維持し、圧力調整器により反応容器内の圧力を2.45〜2.65MPaに調整した。反応器の圧力を保ちながら、上記モノマー混合物を供給速度が23g/分となるように反応器に供給し、モノマー混合物の供給体積と等しい体積の反応物を反応器の出口から連続的に抜き出した後、溶剤を取り除いて、アクリル樹脂を得た。該樹脂は、ガラス転移温度が−46℃であり、重量平均分子量が1400であり、末端に二重結合を有するアクリル樹脂をその成分の一部として含有していた。
(注4)ポリエステル系可塑剤:「ポリサイザーW−1000」(商品名、大日本インキ社製、アジピン酸エステル系可塑剤)、
(注5)高沸点溶剤:2,2,4−トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、
(注6)表面調整剤:「BYK−300」(商品名、BYK社製、ポリジメチルシロキサン系共重合物)、
(注7)40%ワックス分散液:「CERACAL39」(商品名、BYK社製、融点が110℃のポリエチレン系ワックスのディスパーション、ワックス有効成分量40%)。
【0061】
試験塗板の作成
上記で得られた各塗料組成物を、ベース原液のまま試料とした。アート紙を被塗面とし、乾燥膜厚が25μmとなるように各試料を9milアプリケータで塗装し、100℃10分 乾燥させたものを試験塗板とし、下記評価試験に供した。結果を表1に併せて示した。
(*1)仕上がり性
各試験塗板の仕上がり性について、破泡跡の程度と光沢について目視評価した。
破泡跡;○:破泡跡なし、△:破泡跡が若干あり、×:破泡跡が多数あり。
光沢;◎:光沢が非常に良好、○:光沢が良好、○△:光沢がやや良好であり、実用レベル、△:光沢がやや不良、×:光沢なし。
(*2)耐粘着性
温度40℃の恒温室内にて、試験塗板に50mm平方のガーゼを2枚重ね、その上に500gの重りをのせた。24時間後に試験塗板表面についたガーゼの跡を目視で評価した。
◎:塗膜外観に全く変化なし、○:塗膜の光沢低下が僅かに認められる、○△:ガーゼ跡が僅かに認められるが実用レベル、△:ガーゼ跡がはっきりと残る、×:ガーゼが塗面に付着する。
(*3)耐折り曲げ性
各試験塗板を90°の角度で折り曲げた後、外観を目視評価した。
◎:良好、○:塗膜欠陥は認められないが、曲面部と平面部とで外観が僅かに異なる、○△:塗膜欠陥は認められないが、曲面部と平面部とで外観が著しく異なる、△:若干剥離あり、×:剥離あり
(*4)付着性
各試験塗板にカッターで1辺の長さが2mmの100個の碁盤目を被塗面に達するまで刻み、この上に粘着テープを貼り付け、急速に剥がし取り、塗膜に残った碁盤目の残数を表示した。数が多いほど良好である。
(*5)耐ワレ性:
各試験塗板をペーパーカッターで切断し、その切断面付近の塗膜のカケ個数を以って評価した。
◎:カケの個数が0個、○:カケの個数が1個、○△:カケの個数が2〜4個、△:カケの個数が 5〜10個、×:カケの個数が11以上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内にあり且つガラス転移温度が20〜80℃の範囲内にあるアクリル樹脂、(B)重量平均分子量が500以上で且つ10,000未満の範囲内にあり且つガラス転移温度が−60〜20℃の範囲内にあるアクリル樹脂、(C)セルロースアセテートブチレートおよび(D)ワックスを含有し、該ワックス(D)を成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計質量を基準として0.1〜10質量%の範囲内で含有することを特徴とする被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
アクリル樹脂(A)、アクリル樹脂(B)およびセルロースアセテートブチレート(C)の配合割合が、成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計質量を基準にして、成分(A)が10〜70質量%、成分(B)が10〜70質量%、成分(C)が20〜80質量%の範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項3】
アジピン酸エステル系可塑剤(E)をさらに含有する請求項1または2に記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項4】
体質顔料(F)をさらに含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の被覆用樹脂組成物を含んでなる塗料組成物。
【請求項6】
基材面に、請求項5に記載の塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項7】
請求項5に記載の塗料組成物が塗装されていることを特徴とする色見本カード。

【公開番号】特開2008−156415(P2008−156415A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344562(P2006−344562)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】