被覆粒子及びその製造方法
【課題】気相中において、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を提供すること。
【解決手段】本発明は、金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子10と、該粒子10を被覆する被覆材20と、を有しており、被覆材20が撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆粒子100を提供する。
【解決手段】本発明は、金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子10と、該粒子10を被覆する被覆材20と、を有しており、被覆材20が撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆粒子100を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料や金属材料の形成には、原料として粉末が用いられる。この粉末のサイズや形状は、形成される材料の特性に影響を及ぼす。このため、求められる特性に応じて、様々なサイズや形状を有する粉末が提案されている。
【0003】
例えば、電子部品の材料に用いられる誘電体材料の分野では、電子材料の軽薄短小化に伴って、原料粒子を微細化することが要求されている。しかしながら、粒子の表面積は粒子径に反比例して大きくなり、特に粒子径が1μm以下のサブミクロン粒子ではその比表面積の大きさから反応活性も大きくなる。このため、このような微細な粒子は、通常の状態では、大気中の湿度による液架橋や、ファンデルワールス力、又は帯電による静電引力などによって、凝集しやすくなる傾向がある。このように、粒子同士が凝集してしまうと、個々の粒子を微細化してもその効果が損なわれ、要求される特性を満足する材料を形成することが困難になってしまう。
【0004】
ここで、凝集した粒子を分散させる方法として、液相中において超音波を印加する方法、界面活性剤によって分散させる方法、又はζ電位によって分散させる方法などが知られている。また、特許文献1では、粒子の表面を被覆することによって、炭化水素などのポリマー中における粒子の分散性を改善することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−530257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の分散方法はいずれも液相中において、粒子を分散させる方法である。例えば、上述の特許文献1の方法によって得られる粒子は、被覆物が、水酸基やハロゲンなどの反応性官能基を有しているため、気相中においては、水分の付着等に伴い粒子同士の間において液架橋が発生したり、水素結合が生じたりする傾向がある。このため、特許文献1の方法では、気相中において粒子の凝集を十分に抑制することは困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、気相中において、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を提供することを目的とする。また、気相中において、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、該粒子を被覆する被覆材と、を有しており、被覆材が撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆粒子を提供する。
【0009】
上記本発明の被覆粒子は、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材によって被覆されている。このため、被覆粒子同士の間において、大気中の水分等による液架橋の発生が抑制されるとともに、同極帯電による静電斥力が生じるため、気相中において被覆粒子同士が凝集することを抑制することができる。これによって、十分に優れた分散性を有する被覆粒子とすることができる。
【0010】
本発明の被覆粒子におけるシルセスキオキサンが有する撥水性の官能基は、ジメチルシロキシ基及びトリメチルシロキシ基の少なくとも一方であることが好ましい。このような官能基を有することによって、液架橋の発生を十分に抑制しつつ静電斥力を大きくすることができるため、一層分散性に優れた被覆粒子とすることが可能になる。
【0011】
本発明の被覆粒子の被覆材に含まれるシルセスキオキサンにおける官能基全体に対する撥水性の官能基の数の比率は0.6以上であることが好ましい。このように、撥水性の反応性官能基の数の比率を大きくすることによって、被覆粒子同士の間に生じる液架橋や水素結合が一層低減されるとともに、同極帯電による静電斥力を一層大きくすることができるため、分散性を一層優れたものとすることができる。
【0012】
本発明の被覆粒子の被覆材に含まれるシルセスキオキサンは、(RSiO1.5)nの繰り返し単位(但し、Rは1価の撥水性の官能基を示し、nは6〜10の整数を示す。)を有することが好ましい。
【0013】
本発明の被覆粒子に含まれる粒子の平均粒径は1μm以下であることが好ましい。このように微細な粒子を上述の被覆材で被覆することによって、粒子の凝集が効果的に抑制され、十分に優れた分散性を有する被覆粒子とすることができる。
【0014】
また、本発明では、金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材と、無極性溶媒と、を混合して分散液を調製する混合工程と、分散液から無極性溶媒を除去して、粒子が被覆材で被覆された被覆粒子を得る被覆工程と、を有する、被覆粒子の製造方法を提供する。
【0015】
上記本発明の製造方法によって得られる被覆粒子は、粒子が撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材によって被覆されている。このため、被覆粒子の間において、大気中の水分等による液架橋の発生が抑制されるとともに、同極帯電による静電斥力が生じるため、気相中において被覆粒子同士が凝集することを抑制することができる。また、分散液の状態では、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材が、粒子の分散材として機能するため、分散液中における粒子の分散性を良好なものとすることができる。すなわち、分散液中における粒子の良好な分散性と、被覆材を付着させた後の被覆粒子の良好な分散性との相乗効果によって、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を得ることができる。
【0016】
上記被覆工程は、分散液を噴霧して無極性溶媒を除去して被覆粒子を得る工程であることが好ましい。これによって、気相中において、一層優れた分散性を有する被覆粒子を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、気相中において、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を提供することができる。また、気相中において、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を製造することが可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の被覆粒子の好適な実施形態を示す模式断面図である。
【図2】実施例1の被覆粒子の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図4】比較例1のNi粒子の電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例1のNi粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図6】比較例2の被覆粒子の電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例2の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図8】比較例3の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図9】実施例2の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図10】比較例5のフェライト粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図11】比較例6の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図12】実施例3の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図13】実施例4の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図14】比較例7の球状BaTiO3粒子の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態の被覆粒子を示す模式断面図である。被覆粒子100は、被覆粒子の核となる粒子10と、粒子10の表面を覆う被覆材20とを有する。
【0021】
粒子10の材質としては、金属単体や合金などの金属材、セラミックスなどの金属酸化物、金属酸化物以外のセラミックス、及びこれらの組み合わせが挙げられる。電子部品の分野において、特に微細で分散性の優れた粒子が求められるという点で、粒子10は、Niなどの卑金属、フェライトなどの磁性粒子の他、圧電体や誘電体等の粒子(例えば、ぺロブスカイト型酸化物を含む粒子)であることが好ましい。特に、フェライトなどを含む、通常凝集しやすい粒子を用いれば、分散性向上の効果が一層際立ったものとなる。
【0022】
粒子10の平均粒径は、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以下である。本実施形態の被覆粒子100は、被覆材20を有しているため、粒子10が小さくても、被覆粒子100同士の凝集を十分に抑制することができる。
【0023】
被覆粒子100は、上述の粒子10の表面全体を覆う被覆材20を有している。被覆材20は、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含んでおり、粒子10の表面上に層状に形成されている。このようなシルセスキオキサンとしては、(RSiO1.5)nの繰り返し単位を有するポリシロキサンが挙げられる。なお、上記繰り返し単位において、Rは1価の撥水性の官能基であり、nは好ましくは6〜10の整数である。
【0024】
上述のシルセスキオキサンのうち、完全カゴ型構造を有する(RSiO1.5)8、(RSiO1.5)10、及び不完全カゴ型構造を有する[(RSiO1.5)w(RXSiO1.0)y]Σz(w=4、y=3、z=7)が好ましい。なお、上記化学式において、Rはいずれも1価の撥水性の官能基であり、Xは1価の反応性官能基である。これらの構造を有するシルセスキオキサンは、構造的に安定であるため、被覆粒子の優れた分散性を安定的に維持することができる。
【0025】
また、上述の完全カゴ型構造を有するシルセスキオキサンを用いると、被覆粒子100同士の間に生じる静電斥力を一層大きくすることができる。このため、一層分散性に優れた被覆粒子100とすることができる。
【0026】
シルセスキオキサンにおける撥水性の官能基は、水分をはじく性質を有する疎水性の官能基であり、好ましくは置換基を有するシロキシ基、より好ましくはメチル基を有するシロキシ基を含む。これらの中でも、被覆粒子の分散性を一層向上させる観点から、撥水性の官能基は、ジメチルシロキシ基及びトリメチルシロキシ基から選ばれる少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0027】
シルセスキオキサンにおける反応性官能基は、例えば、ヒドロキシル基、ハロゲン基、アルコキシド基(−OR1)、アセテート基(−OOCR2)、パーオキサイド基(−OOR3)、アミノ基、イソシアネート基などが挙げられる。なお、R1〜R3は、上述の撥水性の官能基とは異なる1価の有機基である。
【0028】
本実施形態では、シルセスキオキサンに含まれる反応性官能基が増えると、粒子10の表面を被覆するシルセスキオキサンと大気中の水分が反応するため、液架橋を起こしやすくなる。このような観点から、シルセスキオキサンに含まれる反応性官能基の数は少ない方が好ましい。具体的には、シルセスキオキサンに含まれる官能基全体に対する反応性官能基の数の比率が、好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.2以下であり、さらに好ましくは0.1以下である。同様の観点から、シルセスキオキサンは、反応性官能基を実質的に含まないことが特に好ましい。
【0029】
一方、被覆粒子100同士の間の液架橋の発生を十分に抑制する観点から、シルセスキオキサンに含まれる官能基全体に対する撥水性の官能基の比率は、好ましくは0.6以上であり、より好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは0.9以上であり、特に好ましくは1である。上記比率が1であるシルセスキオキサンとしては、上述の完全カゴ型構造を有する(RSiO1.5)8及び(RSiO1.5)10が例示できる(Rは、1価の撥水性の官能基を示す)。
【0030】
なお、本実施形態におけるシルセスキオキサンは、上述の化合物に限定されるものではなく、例えば、ランダム構造やはしご型構造を有するシルセスキオキサンの重合体であってもよい。
【0031】
粒子10上に層状に形成された被覆材20の厚みは、好ましくは1〜50nmであり、より好ましくは2〜20nmであり、さらに好ましくは3〜10nmである。被覆材20の層の厚みが小さくなり過ぎると、十分に優れた分散性が得られ難くなる場合がある。一方、被覆材20の層の厚みが大きくなり過ぎると、被覆粒子100を構成する材料中の有効成分(粒子10)の比率が低くなり、粒子10本来の機能を十分に発揮できなくなる傾向がある。
【0032】
次に、本発明における被覆粒子の製造方法の好適な実施形態について以下に説明する。本実施形態の被覆粒子の製造方法は、金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材と、無極性溶媒と、を混合して分散液を調製する混合工程と、分散液から無極性溶媒を除去して、粒子が被覆材で被覆された被覆粒子を得る被覆工程と、を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0033】
混合工程では、まず、金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材と、無極性溶媒と、を準備する。
【0034】
粒子としては、市販の金属粒子、金属酸化物粒子、又はセラミックス粒子を用いることができる。また、これらの粒子を通常の方法で調製してもよい。被覆材としては、市販の撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを用いてもよく、通常の方法で調製してもよい。無極性溶媒としては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテルなどを用いることができる。
【0035】
上述の各原料を攪拌して混合し、上記粒子が被覆材を含む無極性溶媒中に分散した分散液を調製する。各原料の混合割合に特に制限はなく、例えば無極性溶媒100質量部に対して、粒子を0.1〜5質量部、被覆材を溶媒に可溶な範囲で、例えば0.05〜1質量部混合することができる。粒子と被覆材の混合比率は、粒子の表面積と目的とする被覆材の膜厚から決められる。上記被覆材は、分散液中において分散剤として機能するため、分散液中における粒子同士の分散性を良好にすることができる。
【0036】
被覆工程では、上述の通り調製した分散液から無極性溶媒を除去して、粒子が被覆材で被覆された被覆粒子を得る。分散液から無極性溶媒を除去する方法としては、スプレー法やコアセルベーション法が挙げられる。スプレー法の場合は、分散液を空気中に噴霧して、無極性溶媒を除去するとともに、粒子表面に被覆材を付着させて、粒子10上に被覆材20を有する被覆粒子100を得ることができる。
【0037】
本実施形態の製造方法では、分散液中で分散剤として機能していた被覆材が、粒子の表面を被覆することとなる。このため、分散液中においても、無極性溶媒除去後の気相中においても、粒子の分散性が良好に維持される。したがって、粒子10として微細なものを用いた場合であっても、分散性に十分に優れる被覆粒子100を得ることができる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、被覆材20は、粒子10の全表面を覆う必要はなく、粒子10同士が接触しない程度に粒子10の表面を被覆していれば、本発明の効果を有する被覆粒子とすることができる。例えば、粒子10の表面に点在するように被覆材が付着している構造であってもよい。
【実施例】
【0039】
実施例及び比較例を用いて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
<被覆粒子の調製>
溶媒としてトルエンを、被覆材として市販のオクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサン([(RSiO1.5)8]、R:−O−Si(CH3)2−H、分子量1018)0.25gをそれぞれ準備した。被覆材をトルエンに添加して溶解させ、トルエン溶液(40℃)を調製した。市販の球状Ni粒子(平均粒子径:0.5μm)10gを、調製したトルエン溶液中に加え、市販の攪拌装置を用いて250rpmで24時間懸濁して分散液を得た。
【0041】
この分散液を、スプレードライ法で乾燥させることによって、Ni粒子の表面に被覆材としてオクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンを付着させて、被覆粒子を得た。
【0042】
<分散性の評価>
得られた被覆粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM、倍率:10000倍)を用いて観察した。図2は、実施例1の被覆粒子の電子顕微鏡写真である。この写真から、実施例1の被覆粒子は十分に優れた分散性を有することが確認された。
【0043】
また、得られた被覆粒子の気相中における分散性を、気流式分散ユニット付きのレーザー回折式粒子径分布測定装置(Sympatec社製、商品名:HELOS)を用いて評価した。具体的には、0.2gの被覆粒子を上記装置の分散ユニットに導入し、圧縮空気の圧力が0.1MPaの場合と0.2MPaの場合における粒度分布をそれぞれ測定し、分散性を評価した。
【0044】
図3は、実施例1の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。圧縮空気の圧力に関わらず、粒度分布が単分散となっており、気相中において十分に優れた分散性を有することが確認された。
【0045】
(比較例1)
実施例1で用いた球状Ni粒子の分散性を、実施例1の被覆粒子と同様にして評価した。図4は、比較例1のNi粒子の電子顕微鏡写真である。この写真から、表面に被覆材を有しない比較例1のNi粒子は凝集していることが確認された。
【0046】
図5は、比較例1のNi粒子の粒度分布を示すグラフである。圧縮空気の圧力が0.2MPaの場合に、粒度分布が単分散となっているものの、0.1MPaの場合には、Ni粒子同士が凝集していることを示すピークが認められた。このように、実施例1のような被覆材を用いない場合、Ni粒子は凝集してしまうことが確認された。
【0047】
(比較例2)
オクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンに代えて、被覆材としてメチルフェニル系シリコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、商品名:SILRES H44)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例1と同様にして、分散性の評価を行った。
【0048】
図6は、比較例2の被覆粒子の電子顕微鏡写真である。この写真から、表面に、1価の撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンとは異なるシリコーン樹脂を含む被覆材を有する比較例2の被覆粒子は、凝集していることが確認された。
【0049】
図7は、比較例2の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。比較例2の被覆粒子の粒度分布は、圧縮空気の圧力が0.1MPa及び0.2MPaのどちらの場合にも単分散にならず、被覆粒子同士が強固に凝集していることを示すピークが認められた。これは、分散液中で、Ni粒子が十分に分散されず、凝集した状態のまま被覆材の層が形成されていることによるものと思われる。
【0050】
(比較例3)
オクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンに代えて、被覆材としてオクタ(テトラメチルアンモニウム)シルセスキオキサン([(RSiO1.5)8]、R:−NH4+(CH3)4−,分子量:1137.8)を用いたこと、及びトルエンに代えて、溶媒として水を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例1と同様にして、分散性の評価を行った。
【0051】
図8は、比較例3の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。比較例3の被覆粒子の粒度分布は、圧縮空気の圧力が0.1MPa及び0.2MPaのどちらの場合にも単分散にならず、被覆粒子同士が凝集していることを示すピークが認められた。
【0052】
(比較例4)
オクタフェニルシルセスキオキサン([(RSiO1.5)8]、R:フェニル基、分子量:1033.5)0.25gを、実施例1と同量のトルエン(40℃)に添加して混合したが、溶解しなかった。また、トルエンに代えて、水,メタノール,エタノール,アセトン,トルエン,ヘキサンを用いたが、オクタフェニルシルセスキオキサンは、いずれの溶媒にも溶解しなかった。このため、いずれの溶媒を用いても、被覆粒子を得ることができなかった。
【0053】
(実施例2)
球状Ni粒子に代えて、金属酸化物粒子(フェライト粒子、平均粒子径:0.3μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例1と同様にして、以下の通り、分散性の評価を行った。
【0054】
得られた被覆粒子の気相中における分散性を、実施例1と同じ装置を用いて評価した。評価は、圧縮空気の圧力が0.1MPaの場合と0.5MPaの場合における、被覆粒子の粒度分布をそれぞれ測定した。そして、それぞれの圧縮空気の圧力における粒度分布を比較することによって、分散性を評価した。
【0055】
図9は、実施例2の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。圧縮空気の圧力が0.5MPaの場合に、粒度分布が単分散となることが確認された。すなわち、実施例2の被覆粒子は、容易に凝集を解消できることが確認された。また、圧縮空気の圧力が0.1MPaの場合も、被覆材を付着させない場合(比較例5)に比べて、粒子の分散性が大きく改善されていることが確認された。
【0056】
(比較例5)
実施例2で用いた金属酸化物粒子(フェライト粒子、平均粒子径:0.3μm)の分散性を、実施例2と同様にして評価した。図10は、比較例5のフェライト粒子の粒度分布を示すグラフである。フェライト粒子は、被覆材を有する実施例2の被覆粒子に比べて、かなり密に凝集していることが確認された。
【0057】
(比較例6)
オクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンに代えて、被覆材としてメチルフェニル系シリコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、商品名:SILRES H44)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例2と同様にして、分散性の評価を行った。
【0058】
図11は、比較例6の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。圧縮空気の圧力が0.1MPa及び0.5MPaのどちらの場合にも、被覆粒子が凝集していることを示すピークが認められ、分散状態は、比較例5とほぼ同等であった。これは、分散液中で、金属酸化物粒子が十分に分散されず、凝集した状態のまま被覆材の層が形成されていることによるものと思われる。
【0059】
(実施例3)
オクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンに代えて、被覆材として市販のオクタ(トリメチルシロキシ)シルセスキオキサン([(RSiO1.5)8]、R:−O−Si(CH3)3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例1と同様にして、分散性の評価を行った。
【0060】
図12は、実施例3の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。被覆材を有しない比較例1のNi粒子(図5)に比べて、気相中における粒子の分散性が大幅に改善されていることが確認された。
【0061】
(実施例4)
球状Ni粒子に代えて、市販の球状BaTiO3粒子(平均粒子径:0.5μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例2と同様にして、分散性の評価を行った。
【0062】
図13は、実施例4の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。実施例4の被覆粒子は、被覆材を付着させない場合(比較例7)に比べて、気相中において優れた分散性を有することが確認された。
【0063】
(比較例7)
実施例4で用いた球状BaTiO3粒子の分散性を、実施例4の被覆粒子と同様にして評価した。図14は、比較例7の球状BaTiO3粒子の粒度分布を示すグラフである。球状BaTiO3粒子は、被覆材を有する実施例4の被覆粒子に比べて、かなり密に凝集していることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
100…被覆粒子、10…粒子、20…被覆材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料や金属材料の形成には、原料として粉末が用いられる。この粉末のサイズや形状は、形成される材料の特性に影響を及ぼす。このため、求められる特性に応じて、様々なサイズや形状を有する粉末が提案されている。
【0003】
例えば、電子部品の材料に用いられる誘電体材料の分野では、電子材料の軽薄短小化に伴って、原料粒子を微細化することが要求されている。しかしながら、粒子の表面積は粒子径に反比例して大きくなり、特に粒子径が1μm以下のサブミクロン粒子ではその比表面積の大きさから反応活性も大きくなる。このため、このような微細な粒子は、通常の状態では、大気中の湿度による液架橋や、ファンデルワールス力、又は帯電による静電引力などによって、凝集しやすくなる傾向がある。このように、粒子同士が凝集してしまうと、個々の粒子を微細化してもその効果が損なわれ、要求される特性を満足する材料を形成することが困難になってしまう。
【0004】
ここで、凝集した粒子を分散させる方法として、液相中において超音波を印加する方法、界面活性剤によって分散させる方法、又はζ電位によって分散させる方法などが知られている。また、特許文献1では、粒子の表面を被覆することによって、炭化水素などのポリマー中における粒子の分散性を改善することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−530257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の分散方法はいずれも液相中において、粒子を分散させる方法である。例えば、上述の特許文献1の方法によって得られる粒子は、被覆物が、水酸基やハロゲンなどの反応性官能基を有しているため、気相中においては、水分の付着等に伴い粒子同士の間において液架橋が発生したり、水素結合が生じたりする傾向がある。このため、特許文献1の方法では、気相中において粒子の凝集を十分に抑制することは困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、気相中において、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を提供することを目的とする。また、気相中において、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、該粒子を被覆する被覆材と、を有しており、被覆材が撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆粒子を提供する。
【0009】
上記本発明の被覆粒子は、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材によって被覆されている。このため、被覆粒子同士の間において、大気中の水分等による液架橋の発生が抑制されるとともに、同極帯電による静電斥力が生じるため、気相中において被覆粒子同士が凝集することを抑制することができる。これによって、十分に優れた分散性を有する被覆粒子とすることができる。
【0010】
本発明の被覆粒子におけるシルセスキオキサンが有する撥水性の官能基は、ジメチルシロキシ基及びトリメチルシロキシ基の少なくとも一方であることが好ましい。このような官能基を有することによって、液架橋の発生を十分に抑制しつつ静電斥力を大きくすることができるため、一層分散性に優れた被覆粒子とすることが可能になる。
【0011】
本発明の被覆粒子の被覆材に含まれるシルセスキオキサンにおける官能基全体に対する撥水性の官能基の数の比率は0.6以上であることが好ましい。このように、撥水性の反応性官能基の数の比率を大きくすることによって、被覆粒子同士の間に生じる液架橋や水素結合が一層低減されるとともに、同極帯電による静電斥力を一層大きくすることができるため、分散性を一層優れたものとすることができる。
【0012】
本発明の被覆粒子の被覆材に含まれるシルセスキオキサンは、(RSiO1.5)nの繰り返し単位(但し、Rは1価の撥水性の官能基を示し、nは6〜10の整数を示す。)を有することが好ましい。
【0013】
本発明の被覆粒子に含まれる粒子の平均粒径は1μm以下であることが好ましい。このように微細な粒子を上述の被覆材で被覆することによって、粒子の凝集が効果的に抑制され、十分に優れた分散性を有する被覆粒子とすることができる。
【0014】
また、本発明では、金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材と、無極性溶媒と、を混合して分散液を調製する混合工程と、分散液から無極性溶媒を除去して、粒子が被覆材で被覆された被覆粒子を得る被覆工程と、を有する、被覆粒子の製造方法を提供する。
【0015】
上記本発明の製造方法によって得られる被覆粒子は、粒子が撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材によって被覆されている。このため、被覆粒子の間において、大気中の水分等による液架橋の発生が抑制されるとともに、同極帯電による静電斥力が生じるため、気相中において被覆粒子同士が凝集することを抑制することができる。また、分散液の状態では、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材が、粒子の分散材として機能するため、分散液中における粒子の分散性を良好なものとすることができる。すなわち、分散液中における粒子の良好な分散性と、被覆材を付着させた後の被覆粒子の良好な分散性との相乗効果によって、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を得ることができる。
【0016】
上記被覆工程は、分散液を噴霧して無極性溶媒を除去して被覆粒子を得る工程であることが好ましい。これによって、気相中において、一層優れた分散性を有する被覆粒子を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、気相中において、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を提供することができる。また、気相中において、十分に優れた分散性を有する被覆粒子を製造することが可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の被覆粒子の好適な実施形態を示す模式断面図である。
【図2】実施例1の被覆粒子の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図4】比較例1のNi粒子の電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例1のNi粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図6】比較例2の被覆粒子の電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例2の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図8】比較例3の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図9】実施例2の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図10】比較例5のフェライト粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図11】比較例6の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図12】実施例3の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図13】実施例4の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図14】比較例7の球状BaTiO3粒子の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態の被覆粒子を示す模式断面図である。被覆粒子100は、被覆粒子の核となる粒子10と、粒子10の表面を覆う被覆材20とを有する。
【0021】
粒子10の材質としては、金属単体や合金などの金属材、セラミックスなどの金属酸化物、金属酸化物以外のセラミックス、及びこれらの組み合わせが挙げられる。電子部品の分野において、特に微細で分散性の優れた粒子が求められるという点で、粒子10は、Niなどの卑金属、フェライトなどの磁性粒子の他、圧電体や誘電体等の粒子(例えば、ぺロブスカイト型酸化物を含む粒子)であることが好ましい。特に、フェライトなどを含む、通常凝集しやすい粒子を用いれば、分散性向上の効果が一層際立ったものとなる。
【0022】
粒子10の平均粒径は、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以下である。本実施形態の被覆粒子100は、被覆材20を有しているため、粒子10が小さくても、被覆粒子100同士の凝集を十分に抑制することができる。
【0023】
被覆粒子100は、上述の粒子10の表面全体を覆う被覆材20を有している。被覆材20は、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含んでおり、粒子10の表面上に層状に形成されている。このようなシルセスキオキサンとしては、(RSiO1.5)nの繰り返し単位を有するポリシロキサンが挙げられる。なお、上記繰り返し単位において、Rは1価の撥水性の官能基であり、nは好ましくは6〜10の整数である。
【0024】
上述のシルセスキオキサンのうち、完全カゴ型構造を有する(RSiO1.5)8、(RSiO1.5)10、及び不完全カゴ型構造を有する[(RSiO1.5)w(RXSiO1.0)y]Σz(w=4、y=3、z=7)が好ましい。なお、上記化学式において、Rはいずれも1価の撥水性の官能基であり、Xは1価の反応性官能基である。これらの構造を有するシルセスキオキサンは、構造的に安定であるため、被覆粒子の優れた分散性を安定的に維持することができる。
【0025】
また、上述の完全カゴ型構造を有するシルセスキオキサンを用いると、被覆粒子100同士の間に生じる静電斥力を一層大きくすることができる。このため、一層分散性に優れた被覆粒子100とすることができる。
【0026】
シルセスキオキサンにおける撥水性の官能基は、水分をはじく性質を有する疎水性の官能基であり、好ましくは置換基を有するシロキシ基、より好ましくはメチル基を有するシロキシ基を含む。これらの中でも、被覆粒子の分散性を一層向上させる観点から、撥水性の官能基は、ジメチルシロキシ基及びトリメチルシロキシ基から選ばれる少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0027】
シルセスキオキサンにおける反応性官能基は、例えば、ヒドロキシル基、ハロゲン基、アルコキシド基(−OR1)、アセテート基(−OOCR2)、パーオキサイド基(−OOR3)、アミノ基、イソシアネート基などが挙げられる。なお、R1〜R3は、上述の撥水性の官能基とは異なる1価の有機基である。
【0028】
本実施形態では、シルセスキオキサンに含まれる反応性官能基が増えると、粒子10の表面を被覆するシルセスキオキサンと大気中の水分が反応するため、液架橋を起こしやすくなる。このような観点から、シルセスキオキサンに含まれる反応性官能基の数は少ない方が好ましい。具体的には、シルセスキオキサンに含まれる官能基全体に対する反応性官能基の数の比率が、好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.2以下であり、さらに好ましくは0.1以下である。同様の観点から、シルセスキオキサンは、反応性官能基を実質的に含まないことが特に好ましい。
【0029】
一方、被覆粒子100同士の間の液架橋の発生を十分に抑制する観点から、シルセスキオキサンに含まれる官能基全体に対する撥水性の官能基の比率は、好ましくは0.6以上であり、より好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは0.9以上であり、特に好ましくは1である。上記比率が1であるシルセスキオキサンとしては、上述の完全カゴ型構造を有する(RSiO1.5)8及び(RSiO1.5)10が例示できる(Rは、1価の撥水性の官能基を示す)。
【0030】
なお、本実施形態におけるシルセスキオキサンは、上述の化合物に限定されるものではなく、例えば、ランダム構造やはしご型構造を有するシルセスキオキサンの重合体であってもよい。
【0031】
粒子10上に層状に形成された被覆材20の厚みは、好ましくは1〜50nmであり、より好ましくは2〜20nmであり、さらに好ましくは3〜10nmである。被覆材20の層の厚みが小さくなり過ぎると、十分に優れた分散性が得られ難くなる場合がある。一方、被覆材20の層の厚みが大きくなり過ぎると、被覆粒子100を構成する材料中の有効成分(粒子10)の比率が低くなり、粒子10本来の機能を十分に発揮できなくなる傾向がある。
【0032】
次に、本発明における被覆粒子の製造方法の好適な実施形態について以下に説明する。本実施形態の被覆粒子の製造方法は、金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材と、無極性溶媒と、を混合して分散液を調製する混合工程と、分散液から無極性溶媒を除去して、粒子が被覆材で被覆された被覆粒子を得る被覆工程と、を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0033】
混合工程では、まず、金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材と、無極性溶媒と、を準備する。
【0034】
粒子としては、市販の金属粒子、金属酸化物粒子、又はセラミックス粒子を用いることができる。また、これらの粒子を通常の方法で調製してもよい。被覆材としては、市販の撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを用いてもよく、通常の方法で調製してもよい。無極性溶媒としては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテルなどを用いることができる。
【0035】
上述の各原料を攪拌して混合し、上記粒子が被覆材を含む無極性溶媒中に分散した分散液を調製する。各原料の混合割合に特に制限はなく、例えば無極性溶媒100質量部に対して、粒子を0.1〜5質量部、被覆材を溶媒に可溶な範囲で、例えば0.05〜1質量部混合することができる。粒子と被覆材の混合比率は、粒子の表面積と目的とする被覆材の膜厚から決められる。上記被覆材は、分散液中において分散剤として機能するため、分散液中における粒子同士の分散性を良好にすることができる。
【0036】
被覆工程では、上述の通り調製した分散液から無極性溶媒を除去して、粒子が被覆材で被覆された被覆粒子を得る。分散液から無極性溶媒を除去する方法としては、スプレー法やコアセルベーション法が挙げられる。スプレー法の場合は、分散液を空気中に噴霧して、無極性溶媒を除去するとともに、粒子表面に被覆材を付着させて、粒子10上に被覆材20を有する被覆粒子100を得ることができる。
【0037】
本実施形態の製造方法では、分散液中で分散剤として機能していた被覆材が、粒子の表面を被覆することとなる。このため、分散液中においても、無極性溶媒除去後の気相中においても、粒子の分散性が良好に維持される。したがって、粒子10として微細なものを用いた場合であっても、分散性に十分に優れる被覆粒子100を得ることができる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、被覆材20は、粒子10の全表面を覆う必要はなく、粒子10同士が接触しない程度に粒子10の表面を被覆していれば、本発明の効果を有する被覆粒子とすることができる。例えば、粒子10の表面に点在するように被覆材が付着している構造であってもよい。
【実施例】
【0039】
実施例及び比較例を用いて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
<被覆粒子の調製>
溶媒としてトルエンを、被覆材として市販のオクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサン([(RSiO1.5)8]、R:−O−Si(CH3)2−H、分子量1018)0.25gをそれぞれ準備した。被覆材をトルエンに添加して溶解させ、トルエン溶液(40℃)を調製した。市販の球状Ni粒子(平均粒子径:0.5μm)10gを、調製したトルエン溶液中に加え、市販の攪拌装置を用いて250rpmで24時間懸濁して分散液を得た。
【0041】
この分散液を、スプレードライ法で乾燥させることによって、Ni粒子の表面に被覆材としてオクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンを付着させて、被覆粒子を得た。
【0042】
<分散性の評価>
得られた被覆粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM、倍率:10000倍)を用いて観察した。図2は、実施例1の被覆粒子の電子顕微鏡写真である。この写真から、実施例1の被覆粒子は十分に優れた分散性を有することが確認された。
【0043】
また、得られた被覆粒子の気相中における分散性を、気流式分散ユニット付きのレーザー回折式粒子径分布測定装置(Sympatec社製、商品名:HELOS)を用いて評価した。具体的には、0.2gの被覆粒子を上記装置の分散ユニットに導入し、圧縮空気の圧力が0.1MPaの場合と0.2MPaの場合における粒度分布をそれぞれ測定し、分散性を評価した。
【0044】
図3は、実施例1の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。圧縮空気の圧力に関わらず、粒度分布が単分散となっており、気相中において十分に優れた分散性を有することが確認された。
【0045】
(比較例1)
実施例1で用いた球状Ni粒子の分散性を、実施例1の被覆粒子と同様にして評価した。図4は、比較例1のNi粒子の電子顕微鏡写真である。この写真から、表面に被覆材を有しない比較例1のNi粒子は凝集していることが確認された。
【0046】
図5は、比較例1のNi粒子の粒度分布を示すグラフである。圧縮空気の圧力が0.2MPaの場合に、粒度分布が単分散となっているものの、0.1MPaの場合には、Ni粒子同士が凝集していることを示すピークが認められた。このように、実施例1のような被覆材を用いない場合、Ni粒子は凝集してしまうことが確認された。
【0047】
(比較例2)
オクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンに代えて、被覆材としてメチルフェニル系シリコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、商品名:SILRES H44)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例1と同様にして、分散性の評価を行った。
【0048】
図6は、比較例2の被覆粒子の電子顕微鏡写真である。この写真から、表面に、1価の撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンとは異なるシリコーン樹脂を含む被覆材を有する比較例2の被覆粒子は、凝集していることが確認された。
【0049】
図7は、比較例2の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。比較例2の被覆粒子の粒度分布は、圧縮空気の圧力が0.1MPa及び0.2MPaのどちらの場合にも単分散にならず、被覆粒子同士が強固に凝集していることを示すピークが認められた。これは、分散液中で、Ni粒子が十分に分散されず、凝集した状態のまま被覆材の層が形成されていることによるものと思われる。
【0050】
(比較例3)
オクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンに代えて、被覆材としてオクタ(テトラメチルアンモニウム)シルセスキオキサン([(RSiO1.5)8]、R:−NH4+(CH3)4−,分子量:1137.8)を用いたこと、及びトルエンに代えて、溶媒として水を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例1と同様にして、分散性の評価を行った。
【0051】
図8は、比較例3の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。比較例3の被覆粒子の粒度分布は、圧縮空気の圧力が0.1MPa及び0.2MPaのどちらの場合にも単分散にならず、被覆粒子同士が凝集していることを示すピークが認められた。
【0052】
(比較例4)
オクタフェニルシルセスキオキサン([(RSiO1.5)8]、R:フェニル基、分子量:1033.5)0.25gを、実施例1と同量のトルエン(40℃)に添加して混合したが、溶解しなかった。また、トルエンに代えて、水,メタノール,エタノール,アセトン,トルエン,ヘキサンを用いたが、オクタフェニルシルセスキオキサンは、いずれの溶媒にも溶解しなかった。このため、いずれの溶媒を用いても、被覆粒子を得ることができなかった。
【0053】
(実施例2)
球状Ni粒子に代えて、金属酸化物粒子(フェライト粒子、平均粒子径:0.3μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例1と同様にして、以下の通り、分散性の評価を行った。
【0054】
得られた被覆粒子の気相中における分散性を、実施例1と同じ装置を用いて評価した。評価は、圧縮空気の圧力が0.1MPaの場合と0.5MPaの場合における、被覆粒子の粒度分布をそれぞれ測定した。そして、それぞれの圧縮空気の圧力における粒度分布を比較することによって、分散性を評価した。
【0055】
図9は、実施例2の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。圧縮空気の圧力が0.5MPaの場合に、粒度分布が単分散となることが確認された。すなわち、実施例2の被覆粒子は、容易に凝集を解消できることが確認された。また、圧縮空気の圧力が0.1MPaの場合も、被覆材を付着させない場合(比較例5)に比べて、粒子の分散性が大きく改善されていることが確認された。
【0056】
(比較例5)
実施例2で用いた金属酸化物粒子(フェライト粒子、平均粒子径:0.3μm)の分散性を、実施例2と同様にして評価した。図10は、比較例5のフェライト粒子の粒度分布を示すグラフである。フェライト粒子は、被覆材を有する実施例2の被覆粒子に比べて、かなり密に凝集していることが確認された。
【0057】
(比較例6)
オクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンに代えて、被覆材としてメチルフェニル系シリコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、商品名:SILRES H44)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例2と同様にして、分散性の評価を行った。
【0058】
図11は、比較例6の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。圧縮空気の圧力が0.1MPa及び0.5MPaのどちらの場合にも、被覆粒子が凝集していることを示すピークが認められ、分散状態は、比較例5とほぼ同等であった。これは、分散液中で、金属酸化物粒子が十分に分散されず、凝集した状態のまま被覆材の層が形成されていることによるものと思われる。
【0059】
(実施例3)
オクタ(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンに代えて、被覆材として市販のオクタ(トリメチルシロキシ)シルセスキオキサン([(RSiO1.5)8]、R:−O−Si(CH3)3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例1と同様にして、分散性の評価を行った。
【0060】
図12は、実施例3の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。被覆材を有しない比較例1のNi粒子(図5)に比べて、気相中における粒子の分散性が大幅に改善されていることが確認された。
【0061】
(実施例4)
球状Ni粒子に代えて、市販の球状BaTiO3粒子(平均粒子径:0.5μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を得た。そして、実施例2と同様にして、分散性の評価を行った。
【0062】
図13は、実施例4の被覆粒子の粒度分布を示すグラフである。実施例4の被覆粒子は、被覆材を付着させない場合(比較例7)に比べて、気相中において優れた分散性を有することが確認された。
【0063】
(比較例7)
実施例4で用いた球状BaTiO3粒子の分散性を、実施例4の被覆粒子と同様にして評価した。図14は、比較例7の球状BaTiO3粒子の粒度分布を示すグラフである。球状BaTiO3粒子は、被覆材を有する実施例4の被覆粒子に比べて、かなり密に凝集していることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
100…被覆粒子、10…粒子、20…被覆材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、
該粒子を被覆する被覆材と、を有しており、
前記被覆材が撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆粒子。
【請求項2】
前記官能基がジメチルシロキシ基及びトリメチルシロキシ基の少なくとも一方である、請求項1記載の被覆粒子。
【請求項3】
前記シルセスキオキサンにおける官能基全体に対する前記撥水性の官能基の比率が0.6以上である、請求項1又は2記載の被覆粒子。
【請求項4】
前記シルセスキオキサンは、(RSiO1.5)nの繰り返し単位(但し、Rは1価の撥水性の官能基を示し、nは6〜10の整数を示す。)を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の被覆粒子。
【請求項5】
前記粒子の平均粒径が1μm以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の被覆粒子。
【請求項6】
金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材と、無極性溶媒と、を混合して分散液を調製する混合工程と、
前記分散液から前記無極性溶媒を除去して、前記粒子が前記被覆材で被覆された被覆粒子を得る被覆工程と、を有する、被覆粒子の製造方法。
【請求項7】
前記被覆工程では、前記分散液を噴霧して前記無極性溶媒を除去し前記被覆粒子を得る、請求項6記載の被覆粒子の製造方法。
【請求項1】
金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、
該粒子を被覆する被覆材と、を有しており、
前記被覆材が撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆粒子。
【請求項2】
前記官能基がジメチルシロキシ基及びトリメチルシロキシ基の少なくとも一方である、請求項1記載の被覆粒子。
【請求項3】
前記シルセスキオキサンにおける官能基全体に対する前記撥水性の官能基の比率が0.6以上である、請求項1又は2記載の被覆粒子。
【請求項4】
前記シルセスキオキサンは、(RSiO1.5)nの繰り返し単位(但し、Rは1価の撥水性の官能基を示し、nは6〜10の整数を示す。)を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の被覆粒子。
【請求項5】
前記粒子の平均粒径が1μm以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の被覆粒子。
【請求項6】
金属、金属酸化物及びセラミックスから選ばれる少なくとも一種を含む粒子と、撥水性の官能基を有するシルセスキオキサンを含む被覆材と、無極性溶媒と、を混合して分散液を調製する混合工程と、
前記分散液から前記無極性溶媒を除去して、前記粒子が前記被覆材で被覆された被覆粒子を得る被覆工程と、を有する、被覆粒子の製造方法。
【請求項7】
前記被覆工程では、前記分散液を噴霧して前記無極性溶媒を除去し前記被覆粒子を得る、請求項6記載の被覆粒子の製造方法。
【図1】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図4】
【図6】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図4】
【図6】
【公開番号】特開2011−144411(P2011−144411A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4926(P2010−4926)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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