説明

被覆蛍光材料、波長変換型太陽電池封止材、太陽電池モジュール及びこれらの製造方法

【課題】太陽電池モジュールにおける光利用効率を向上させ、発電効率を安定的に向上させることを可能にする被覆蛍光材料、これを含む波長変換型太陽電池封止材、太陽電池モジュール及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】蛍光物質と、透明材料と、を含む被覆蛍光材料。蛍光物質が、有機蛍光体である前記の被覆蛍光材料。蛍光物質が、希土類金属錯体である前記の被覆蛍光材料。前記の被覆蛍光材料と、封止樹脂と、を含む光透過性の樹脂組成物層を備える波長変換型太陽電池封止材。太陽電池セルと、前記太陽電池セルの受光面上に配置された前記波長変換型太陽電池封止材と、を備える太陽電池モジュール。前記被覆蛍光材料、波長変換型太陽電池封止材、太陽電池モジュールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆蛍光材料、これを用いた波長変換型太陽電池封止材、これを用いた太陽電池モジュール、及び、これらの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、発電に寄与しない波長域の光を発電に寄与する波長域の光に波長変換することにより発電効率を高くしうる太陽電池モジュール、それに用いる波長変換型太陽電池封止材、及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のシリコン結晶太陽電池モジュールは以下のような構成である。表面の保護ガラス(カバーガラスともいう)は耐衝撃性を重んじて強化ガラスが用いられており、封止材(通常、エチレンビニルアセテートコポリマー(エチレン−酢酸ビニル共重合体)を主成分とする樹脂、充填材ともいう)との密着性をよくするために、片面はエンボス加工による凹凸模様が施されている。
【0003】
また、その凹凸模様は内側に形成されており、太陽電池モジュールの表面は平滑である。また保護ガラスの下側には太陽電池セル及びタブ線を保護封止するための封止材及びバックフィルムが設けられている(例えば、非特許文献1参照)。
蛍光物質(発光材料ともいう)を用い、太陽光スペクトルのうち、発電に寄与しない紫外域または赤外域の光を波長変換することにより、発電に寄与しうる波長域の光を発光する層を太陽電池受光面側に設ける手法は、多数提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、蛍光物質である希土類錯体を、封止材中に含有させる方法の提案がされている(例えば、特許文献2参照)。
また従来から、太陽電池用透明封止材として熱硬化性を付与したエチレン−酢酸ビニル共重合体が広く用いられている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−218379号公報
【特許文献2】特開2006−303033号公報
【特許文献3】特開2003−51605号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】濱川圭弘編「太陽光発電」―最新の技術とシステム―、2000年、株式会社シーエムシー
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1にある、発電に寄与しない光を発電に寄与しうる波長域の光に波長変換する提案で、波長変換層には蛍光物質が含有されているが、この蛍光物質は一般的に形状が大きく、入射した太陽光が波長変換フィルムを通過する際に、太陽電池セルに十分届かず、発電に寄与しない割合が増加する。その結果、波長変換層で紫外域の光を可視域の光に変換しても、入射した太陽光に対する発電される電力の割合(発電効率)があまり高くならないという課題がある。
【0008】
また、特許文献3に記載の方法では、希土類錯体は、封止材として広く用いられているエチレンビニルアセテート(EVA)と共に加水分解しやすく、たちまち劣化してしまうばかりでなく、波長変換された光を太陽電池セルへ導入することは困難である。また、蛍光物質である希土類錯体をEVAに分散させた場合、該希土類金属分子同士が凝集しやすく、加水分解を受けやすいばかりでなく、凝集体が、励起波長を散乱させ、蛍光体としての希土類金属の利用効率が極めて悪くなるという問題がある。
【0009】
本発明は上記のような問題を改善しようとするもので、太陽電池モジュールにおける光利用効率を向上させ、発電効率を安定的に向上させることを可能にする被覆蛍光材料、これを含む波長変換型太陽電池封止材、太陽電池モジュール及びこれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、蛍光物質を含有した被覆蛍光材料を用いることにより、入射した太陽光のうち太陽光発電に寄与しない光を発電に寄与する波長へ変換するのと同時に、耐湿性及び耐熱性に優れ、分散性が良く且つ入射した太陽光を蛍光物質が散乱させることなく、太陽電池セルへ効率よく導入できることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、蛍光物質として希土類金属の有機錯体を用いる場合、特に蛍光物質の湿度に対する耐性を、より向上することができる。
特に本発明では、被覆蛍光材料において、光学的に透明性が高く、発光効率の高い被覆蛍光材料を得る手法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
<1> 蛍光物質と、透明材料と、を含む被覆蛍光材料。
<2> 前記蛍光物質が、有機蛍光体又は希土類金属錯体である前記<1>に記載の被覆蛍光材料。
<3> 前記蛍光物質が、希土類金属錯体である前記<1>に記載の被覆蛍光材料。
<4> 前記蛍光物質が、ユーロピウム錯体である前記<3>に記載の被覆蛍光材料。
<5> 前記透明材料が、透明樹脂である、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の被覆蛍光材料。
<6> 前記透明材料が、ビニル化合物である、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の被覆蛍光材料。
<7> 前記透明材料が、(メタ)アクリル樹脂である、前記<1>〜<4>のいずれかに記載の被覆蛍光材料。
<8> 前記透明材料の屈折率が、前記蛍光物質よりも低く、1.4以上である前記<1>〜<7>のいずれかに記載の被覆蛍光材料。
<9> 前記蛍光物質が、前記透明材料に溶解または分散された、前記<1>〜<8>のいずれかに記載の被覆蛍光材料。
<10> 前記蛍光物質が、ビニル化合物により樹脂被覆される、前記<6>に記載の被覆蛍光材料であって、前記ビニル化合物が、溶解または分散されたモノマー化合物を、ラジカル重合してなるものである、被覆蛍光材料。
【0012】
<11> 前記<1>〜<10>のいずれかに記載の被覆蛍光材料と、封止樹脂と、を含む光透過性の樹脂組成物層を備える波長変換型太陽電池封止材。
<12> 前記被覆蛍光材料の前記樹脂組成物層における含有率が、0.0001〜10質量%である前記<11>に記載の波長変換型太陽電池封止材。
<13> 前記樹脂組成物層以外の光透過性層をさらに備える、前記<11>または<12>に記載の波長変換型太陽電池封止材。
<14> 前記波長変換型太陽電池封止材の層および前記波長変換型太陽電池封止材の層以外の光透過性層からなるm個の層を備え、且つ、前記m個の層のそれぞれの屈折率を、光入射側から順にn、n、・・・、n(m−1)、nとした場合に、n≦n≦・・・≦n(m−1)≦nである、前記<13>に記載の波長変換型太陽電池封止材。
【0013】
<15> 太陽電池セルと、前記太陽電池セルの受光面上に配置された前記<11>〜<14>のいずれかに記載の波長変換型太陽電池封止材と、を備える太陽電池モジュール。
<16> 前記<1>〜<10>のいずれかに記載の被覆蛍光材料を準備する工程と、前記被覆蛍光材料を、封止樹脂に混合または分散させて得られる樹脂組成物をシート状に形成するシート形成工程と、を有する波長変換型太陽電池封止材の製造方法。
<17> 複数の光透過性層および太陽電池セルを有する太陽電池モジュールの製造方法であって、前記<11>〜<14>のいずれかに記載の波長変換型太陽電池封止材を、太陽電池セルの受光面側に配置して、前記光透過性層の1つを形成する工程を有する太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、太陽電池モジュールにおける光利用効率を向上させ、発電効率を安定的に向上させることを可能にする被覆蛍光材料、これを含む波長変換型太陽電池封止材、太陽電池モジュール及びこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】屈折率の異なる界面における光の屈折の一例を示す概念図である。
【図2】屈折率の波長依存性の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<被覆蛍光材料およびその製造方法>
本発明の被覆蛍光材料は、蛍光物質と、透明材料とを有してなる。そして、透明材料は、通常、蛍光物質を内包する。
前記被覆蛍光材料は、例えば、波長変換型太陽電池封止材を構成する波長変換性の樹脂組成物層に含有させて用いられる。例えば、シリコン結晶太陽電池では、太陽光のうち400nmよりも短波長、1200nmよりも長波長の光が有効に利用されず、太陽光エネルギーのうち約56%がこのスペクトルミスマッチにより発電に寄与しない。本発明は、耐湿性、耐熱性に優れ、分散性が良く、濃度消光を抑制した蛍光体を用いることで、波長変換によって、効率よく且つ安定的に太陽光を利用することにより、スペクトルミスマッチを克服しようというものである。さらに蛍光物質としての希土類金属錯体の利用効率を最大限に高め、実効的な発光効率を向上させようというものであり、これにより高価な希土類錯体を極僅かな量に抑え、発電に寄与することができる。
【0017】
即ち、本発明の被覆蛍光材料は、耐湿性及び耐熱性に優れ、分散性が良く、且つ、濃度消光が抑制された蛍光材料である。かかる蛍光材料によって高価な蛍光物質である希土類金属錯体の利用効率を最大限に高めることができ、さらに実効的な発光効率を向上させて、太陽電池モジュールの発電効率を向上させることができる。また、本発明の被覆蛍光材料、およびこれを用いた波長変換型太陽電池封止材は、入射した太陽光のうち太陽光発電に寄与しない光を発電に寄与する波長へ変換するのと同時に、その光の散乱を抑制して、太陽電池セルへ効率よく導入することができる。
【0018】
本発明においては、蛍光物質が閉じ込められていることにより、蛍光物質の能力を充分に発揮させうるものである。このことを、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、光が高屈折媒質から低屈折媒質へ進むとき、この界面では、その相対的な屈折率に応じて、全反射が起こる。この現象を積極的に応用したものの代表的な例として、光ファイバー、光導波路、半導体レーザーなど各種光学機器がある。全反射が起こる条件は、下式で表される臨界角θcよりも入射角が大きいときに起こる。
θc = sin−1(n/n
【0019】
一方、物質は固有の屈折率をもつが、これは波長に対する依存性をもち、透明材料であっても長波長から短波長へ向かって屈折率が大きくなる。特に物質がある特定波長で吸収をもつとき、その波長近傍で屈折率が大きくなる。
さらに蛍光物質においては、吸収波長(励起波長)において基底状態から励起状態への遷移が起こり、基底状態に戻るときに蛍光(発光ともいう)として、エネルギーを放出する。すなわち、ある蛍光物質を透明材料に均一に混合することにより、屈折率の分布を、母体である透明材料(例えば、透明樹脂)よりも、特にその励起波長域において高めることができる。
この様子を概念的に図2に示す。図中、実線は母体である透明材料の屈折率分布、破線は、これに蛍光物質を含有させたときの屈折率分布を表す。特に屈折率に関して、被覆蛍光材料の母体である透明材料、蛍光物質、さらに媒質(封止樹脂)を適宜選択することにより、図2のように被覆蛍光材料内の屈折率を励起波長域では媒質(封止樹脂)よりも大きく、発光波長域では媒質(封止樹脂)よりも小さくしうる相互関係を得ることができる。
【0020】
このような状況では、励起波長域において光は、高屈折率である被覆蛍光材料内に進入しやすくなるが、被覆蛍光材料内においては、被覆蛍光材料外の封止樹脂の屈折率が低いため、被覆蛍光材料内全反射により被覆蛍光材料外へ出にくくなり、被覆蛍光材料内部で全反射を繰り返す。このため被覆蛍光材料内に含有される蛍光物質は、励起光の利用効率が高くなると考えることができる。一方、発光波長域では、被覆蛍光材料の屈折率と被覆蛍光材料外である媒質(例えば、封止樹脂)との屈折率の差が大きくないため、光が被覆蛍光材料外へ容易に放出されることになる。
【0021】
このように蛍光物質を含有する被覆蛍光材料として構成することにより、結果として、高価な蛍光物質を僅かな量で用いた場合でも、十分な量の波長変換された発光が得られることになる。
またそればかりでなく、特に蛍光物質は励起波長を吸収するため、励起波長域での屈折率も高くなり光散乱が起こりやすくなる。さらに蛍光物質が凝集した場合には、光散乱がさらに大きくなり、目的とする波長変換による発電効率の向上効果が充分に得られなくなってしまう場合がある。しかしながら、蛍光物質が透明材料(好ましくは、蛍光物質よりも低屈折率の透明材料)に内包されることにより、蛍光物質と封止樹脂との屈折率の差に起因する光散乱を効果的に抑制することができる。
【0022】
さらに、蛍光物質として希土類錯体など、耐湿性の低い物質を用いる場合、これを透明材料(好ましくは、耐湿性の透明材料)に閉じ込めることにより、耐湿性をより向上することもできる。
本発明の被覆蛍光材料は、太陽電池モジュールに好適に使用できることは勿論のこと、その他にも、波長変換型農業用資材、発光ダイオード励起の各種光学機器、表示機器、レーザー励起の各種光学機器、表示機器になどに応用可能で、本発明は、用途を制限するものではない。
【0023】
本発明の被覆蛍光材料は、後述する蛍光物質の少なくとも1種と、透明材料の少なくとも1種と、を含み、構成されている。透明樹脂内に蛍光物質を封じ込める最も大きな理由は、散乱を回避することであり、その目的だけからすれば、その形状は必ずしも限定されるものではない。
また、被覆蛍光材料の大きさは目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、波長変換型太陽電池封止材に用いる場合、1〜1000μmとすることができ、10〜500μmであることが好ましい。
【0024】
<蛍光物質>
本発明に用いられる蛍光物質は、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、励起波長が500nm以下であって発光波長がそれよりも長い波長である蛍光物質であることが好ましく、通常の太陽電池で利用可能な波長域外の光を、太陽電池で利用可能な波長域に変換可能な化合物であることがより好ましい。
蛍光物質として具体的には例えば、有機蛍光体、無機蛍光体、および希土類金属錯体を好ましく挙げることができる。中でも波長変換効率の観点から、有機蛍光体および希土類金属錯体の少なくとも1種であることが好ましく、希土類金属錯体であることがより好ましい。
【0025】
<無機蛍光体>
前記無機蛍光体としては、例えば、YS:Eu、Mg、Tiの蛍光粒子、Er3+イオンを含有した酸化フッ化物系結晶化ガラス、酸化ストロンチウムと酸化アルミニウムからなる化合物に希土類元素のユウロピウム(Eu)とジスプロシウム(Dy)を添加したSrAl:Eu、Dyや、SrAl1425:Eu、Dyや、CaAl:Eu、Dyや、ZnS:Cu等の無機蛍光材料を挙げることができる。
【0026】
<有機蛍光体>
前記有機蛍光体としては、例えば、シアニン系色素、ピリジン系色素、ローダミン系色素等の有機色素、BASF社製のLumogen F Violet570、同Yellow083、同Orange240、同Red300、田岡化学工業株式会社製の塩基性染料Rhodamine B、住化ファインケム株式会社製のSumiplast Yellow FL7G、Bayer社製のMACROLEX Fluorescent Red G、同Yellow10GN等の有機蛍光体を挙げることができる。
【0027】
<希土類金属錯体>
前記希土類金属錯体を構成する金属としては、発光効率の観点から、ユーロピウムおよびサマリウムの少なくとも一方であることが好ましく、ユーロピウムであることがより好ましい。
また前記希土類金属錯体を構成する配位子としては、希土類金属に配位可能であれば特に制限はなく、用いる金属に応じて適宜選択することができる。中でも発光効率の観点から、有機配位子であることが好ましく、ユーロピウムおよびサマリウムの少なくとも1方と錯体を形成可能な有機配位子であることが好ましい。
【0028】
本発明では、配位子を限定するものではないが、中性配位子である、含窒素有機化合物、含窒素芳香族複素環式化合物、およびホスフィンオキサイド、又は、アニオン性配位子である、カルボン酸類、β−ジケトン類から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また希土類錯体の配位子として、一般式 RCOCHRCOR(式中、Rはアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基またはそれらの置換体を、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基またはアリール基を、Rはアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基またはそれらの置換体をそれぞれ示す)で表わされるβ−ジケトン類を含有してもよい。
【0029】
β−ジケトン類としては、具体的にはアセチルアセトン、パーフルオロアセチルアセトン、ベンゾイル−2−フラノイルメタン、1,3−ジ(3−ピリジル)−1,3−プロパンジオン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、ベンゾイルアセトン、5−クロロスルフォニル−2−テノイルトリフルオロアセトン、ビス(4−ブロモベンゾイル)メタン、ジベンゾイルメタン、d,d−ジカンフォリルメタン、1,3−ジシアノ−1,3−プロパンジオン、p−ビス(4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロ−1,3−ヘキサンジノイル)ベンゼン、4,4′−ジメトキシジベンゾイルメタン、2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン、ジナフトイルメタン、ジピバロイルメタン、ビス(パーフルオロ−2−プロポキシプロピオニル)メタン、1,3−ジ(2−チエニル)−1,3−プロパンジオン、3−(トリフルオロアセチル)−d−カンファー、6,6,6−トリフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−ヘキサンジオン、1,1,1,2,2,6,6,7,7,7−デカフルオロ−3,5−ヘプタンジオン、6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオン、2−フリルトリフルオロアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、3−(ヘプタフルオロブチリル)−d−カンファー、4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロ−1−(2−チエニル)−1,3−ヘキサンジオン、4−メトキシジベンゾイルメタン、4−メトキシベンゾイル−2−フラノイルメタン、6−メチル−2,4−ヘプタンジオン、2−ナフトイルトリフルオロアセトン、2−(2−ピリジル)ベンズイミダゾール、5,6−ジヒドロキシ−1,10−フェナントロリン、1−フェニル−3−メチル−4−ベンゾイル−5−ピラゾール、1−フェニル−3−メチル−4−(4−ブチルベンゾイル)−5−ピラゾール、1−フェニル−3−メチル−4−イソブチリル−5−ピラゾール、1−フェニル−3−メチル−4−トリフルオロアセチル−5−ピラゾール、3−(5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)−2,4−ペンタンジオン、3−フェニル−2,4−ペンタンジオン、3−[3′,5′−ビス(フェニルメトキシ)フェニル]−1−(9−フェナンチル)−1−プロパン−1,3−ジオン、5,5−ジメチル−1,1,1−トリフルオロ−2,4−ヘキサンジオン、1−フェニル−3−(2−チエニル)−1,3−プロパンジオン、3−(t−ブチルヒドロキシメチレン)−d−カンファー、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1,2,2,3,3,7,7,8,8,9,9,9−テトラデカフルオロ−4,6−ノナンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、4,4,4−トリフルオロ−1−(2−ナフチル)−1,3−ブタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオン、2,2,6−トリメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,2,7−トリメチル−3,5−オクタンジオン、4,4,4−トリフルオロ−1−(チエニル)−1,3−ブタンジオン(TTA)、1−(p−t−ブチルフェニル)−3−(N−メチル−3−ピロール)−1,3−プロパンジオン(BMPP)、1−(p−t−ブチルフェニル)−3−(p−メトキシフェニル)−1,3−プロパンジオン(BMDBM)、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン、べンゾイルアセトン、ジべンゾイルアセトン、ジイソブチロイルメタン、ジビパロイルメタン、3−メチルペンタン−2,4−ジオン、2,2−ジメチルペンタン−3,5−ジオン、2−メチル−1,3−ブタンジオン、1,3−ブタンジオン、3−フェニル−2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフロロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフロロ−5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、3−メチル−2,4−ペンタンジオン、2−アセチルシクロペンタノン、2−アセチルシクロヘキサノン、1−ヘプタフロロプロピル−3−t−ブチル−1,3−プロパンジオン、1,3−ジフェニル−2−メチル−1,3−プロパンジオン、または1−エトキシ−1,3−ブタンジオン等が挙げられる。
【0030】
希土類錯体の中性配位子の含窒素有機化合物、含窒素芳香族複素環式化合物、ホスフィンオキサイドとしては、たとえば、1,10−フェナントロリン、2−2′−ビピリジル、2−2′−6,2″−ターピリジル、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、2−(2−ピリジル)ベンズイミダゾール、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリ−n−ブチルホスフィンオキサイド、トリ−n−オクチルホスフィンオキサイド、トリ−n−ブチルホスフェート等が挙げられる。
【0031】
上記のような配位子を有する希土類錯体として、中でも波長変換効率の観点から、例えば、Eu(TTA)phen、Eu(BMPP)phen、Eu(BMDBM)phen等を好ましく利用できる。
Eu(TTA)Phenの製造法は、例えば、Masaya Mitsuishi, Shinji Kikuchi, Tokuji Miyashita, Yutaka Amano, J.Mater.Chem.2003,13,285−2879に開示されている方法を参照できる。
【0032】
本発明においては、蛍光物質として、特にユーロピウム錯体を用いることで、高い発電効率を有する太陽電池モジュールを構成することができる。ユーロピウム錯体は、紫外線域の光を高い波長変換効率で赤色の波長域の光に変換し、この変換された光が太陽電池セルにおける発電に寄与する。
【0033】
本発明の被覆蛍光材料における蛍光物質の含有量としては特に制限はなく、その目的や蛍光物質の種類に応じて適宜選択できるが、発電効率の観点から、0.001〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.5質量%であることがより好ましい。
【0034】
<透明材料>
本発明において前記蛍光物質は、透明材料に含有されている。本発明においては透明とは、光路長1cmにおける波長400〜800nmの光の透過率が90%以上であることをいう。
前記透明材料としては、透明であれば特に制限はなく、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂類を挙げることができる。中でも、光散乱抑制の観点から、アクリル樹脂、メタクリル樹脂であることが好ましい。前記樹脂を構成するモノマー化合物としては特に制限はないが、光散乱抑制の観点から、ビニル化合物を少なくとも含むことが好ましい。
【0035】
また前記蛍光物質を前記透明材料に含有させる方法としては、前記蛍光物質を、モノマー化合物中に溶解させ、その溶液を重合させて得る方法、及び、キャスト法、又は溶融法等によって得ることができ、この樹脂組成物を、粉砕、分級することで所望の大きさの被覆蛍光材料を得ることができる。
【0036】
<ビニル化合物>
本発明においてビニル化合物とは、エチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であれば特に制限はなく、重合反応した際にビニル樹脂、特にアクリル樹脂またはメタクリル樹脂になり得るアクリルモノマー、メタクリルモノマー、アクリルオリゴマー、メタクリルオリゴマー等の(メタ)アクリル酸系誘導体を特に制限なく用いることができる。本発明において好ましくは、アクリルモノマー、およびメタクリルモノマー等が挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリル酸系誘導体として好ましいアクリルモノマー、およびメタクリルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、これらのアルキルエステルが挙げられ、またこれらと共重合し得るその他のビニル化合物を併用しても良く、1種単独でも、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸、メタクリル酸またはそれらの混合物を意味する。
【0038】
アクリル酸アルキルエステル、およびメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸無置換アルキルエステルおよびメタクリル酸無置換アルキルエステル;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート;多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物(例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレン基の数が2〜14のもの)、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(プロピレン基の数が2〜14のもの)、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAトリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAデカオキシエチレンジ(メタ)アクリレート等);グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を付加して得られる化合物(例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート等);多価カルボン酸(例えば、無水フタル酸)と水酸基及びエチレン性不飽和基を有する物質(例えば、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)とのエステル化物;アクリル酸若しくはメタクリル酸のアルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸ブチルエステル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルエステル);ウレタン(メタ)アクリレート(例えば、トリレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとシクロヘキサンジメタノールと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物等);これらのアルキル基に水酸基、エポキシ基、ハロゲン基等が置換したアクリル酸置換アルキルエステルまたはメタクリル酸置換アルキルエステル;等が挙げられる。
【0039】
また、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルと共重合し得るその他のビニル化合物としては、アクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらのビニルモノマーは、1種単独でも、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明における2官能以上のビニル化合物とは、例えば、多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物(例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレン基の数が2〜14のもの)、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(プロピレン基の数が2〜14のもの)、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAトリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAデカオキシエチレンジ(メタ)アクリレート等);多価グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を付加して得られる化合物(例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート等);多価カルボン酸(例えば、無水フタル酸)と水酸基及びエチレン性不飽和基を有する物質(例えば、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)とのエステル化物;等が挙げられる。
【0041】
本発明におけるビニル化合物としては、形成される樹脂粒子の屈折率が所望の値になるように適宜選択することができ、アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0042】
<ラジカル重合開始剤>
本発明においてはビニル化合物を重合させるためにラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、特に制限なく通常用いられるラジカル重合開始剤を用いることができる。例えば、過酸化物等が好ましく挙げられる。具体的には、熱により遊離ラジカルを発生させる有機過酸化物やアゾ系ラジカル開始剤が好ましい。
有機化酸化物としては例えば、イソブチルパーオキサイド、α,α′−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス−s−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルネオデカノエート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ビス−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ビス(エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート、t−ヘキシルネオデカノエート、ビスメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ビス(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、サクシニックパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイル)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオノイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサノン、2,2−ビス(4,4−ジブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α,α′−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン等を使用することができる。
【0043】
アゾ系ラジカル開始剤としては、たとえば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、商品名V−60、和光純薬工業株式会社製)、2,2′−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)(商品名V−59、和光純薬工業株式会社製)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(商品名V−65、和光純薬工業株式会社製)、ジメチル−2,2′−アゾビス(イソブチレート)(商品名V−601、和光純薬工業株式会社製)、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(商品名V−70、和光純薬工業株式会社製)などが挙げられる。
【0044】
ラジカル重合開始剤の使用量は、前記ビニル化合物の種類や形成される樹脂粒子の屈折率等に応じて適宜選択することができ、通常用いられる使用量で使用される。具体的には例えば、ビニル化合物に対して0.01〜2質量%で使用することができ、0.1〜1質量%で使用することが好ましい。
【0045】
本発明における透明材料の屈折率について特に制限はないが、光散乱抑制の観点から、前記蛍光物質の屈折率よりも低いことが好ましく、前記蛍光物質の屈折率よりも低く、且つ、後述する封止樹脂の屈折率との比が1に近いことがより好ましい。一般に、蛍光物質の屈折率は1.5よりも大きく、封止樹脂の屈折率は1.4〜1.5程度であることから、前記透明材料の屈折率は1.4〜1.5であることが好ましい。
【0046】
また前記被覆蛍光材料は、蛍光物質の励起波長では分散媒となる封止樹脂よりも屈折率が高く、発光波長では封止樹脂よりも屈折率が低いことが好ましい。かかる態様であることにより、励起波長域における光の利用効率がさらに向上する。
【0047】
<波長変換型太陽電池封止材>
本発明の波長変換型太陽電池封止材は、複数の光透過性層と太陽電池セルとを有する太陽電池モジュールの光透過性層の一つとして用いられる波長変換能を有する光透過性の樹脂組成物層の少なくとも1層を備える。前記樹脂組成物層は、前記被覆蛍光材料の少なくとも1種と、封止樹脂(好ましくは、透明封止樹脂)の少なくとも1種とを含み、前記被覆蛍光材料が封止樹脂中に分散されている。
波長変換型太陽電池封止材が、前記被覆蛍光材料を含む樹脂組成物層を備えることで、太陽電池モジュールにおける光透過性層の一つとして用いられる場合に、その光利用効率を向上させ、発電効率を安定的に向上させることができる。
【0048】
光の散乱は、被覆蛍光材料の屈折率と、封止樹脂の屈折率との比に相関する。具体的には、光の散乱は、被覆蛍光材料の屈折率と透明封止樹脂との屈折率との比が「1」に近ければ、被覆蛍光材料の粒子径の影響が小さくなり、また、光の散乱も小さいものとなる。特に本発明を太陽電池モジュールの波長変換型の光透過層に適用する場合、太陽電池セルに感度のある波長領域、すなわち400〜1200nmにおける屈折率の比が「1」に近いことが好ましい。一方、被覆蛍光材料内において、励起波長域の光の全反射を効率的に起こすためには、被覆蛍光材料の屈折率は、励起波長域において媒質である封止樹脂との屈折率よりも高くなることが好ましい。
【0049】
以上のような要請から、例えば、蛍光物質としてEu(TTA)3phen、透明材料(球体母材料)としてメタクリル酸メチル95質量%とエチレングリコールジメタクリレート5質量%を懸濁重合して得た球体、封止樹脂として、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いることで、励起波長、発光波長の観点、さらには太陽電池の感度の観点から、特に良好な屈折率の相互関係を与えうる。
しかし、本発明においては、蛍光物質、透明材料、および封止樹脂のそれぞれの屈折率における相互の関係が上記条件を満たすように、それぞれを適宜選択することが好ましいのであって、上記組み合わせのみに制限されるものではない。
【0050】
本発明の波長変換型太陽電池封止材が備える波長変換性の樹脂組成物層中の上記被覆蛍光材料の好ましい配合量は、不揮発分総量に対し、0.0001〜10質量%である。0.0001質量%以上とすることで発光効率が向上する。また、10質量%以下とすることで入射光の散乱がより効果的に抑制され、発電効果がより向上する。
【0051】
(封止樹脂)
本発明における波長変換性の樹脂組成物層は、封止樹脂(透明封止樹脂)を含む。透明封止樹脂としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、および熱可塑性樹脂等が好ましく用いられる。
従来から、太陽電池用透明封止材として用いられている樹脂は、上述の特許文献3にあるように、熱硬化性を付与したエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が広く用いられているが、本発明においてはこれに制限されるものではない。
【0052】
波長変換型太陽電池封止材用樹脂組成物の分散媒樹脂(透明封止樹脂)に光硬化性樹脂を用いる場合、光硬化性樹脂の樹脂構成や光硬化方法は特に制限はない。例えば、光ラジカル開始剤による光硬化方法では、波長変換型太陽電池封止材用樹脂組成物は、上記被覆蛍光材料の他、(A)光硬化性樹脂、(B)架橋性モノマー及び(C)光により遊離ラジカルを生成する光開始剤等を含む分散媒樹脂からなる。
【0053】
ここで(A)光硬化性樹脂としては、アクリル酸またはメタクリル酸及びこれらのアルキルエステルと、これらと共重合し得るその他のビニルモノマーを構成モノマーとして共重合してなる共重合体が用いられる。これらの共重合体は、単独でも2種類以上を組み合わせて用いることもできる。アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸無置換アルキルエステルまたはメタクリル酸無置換アルキルエステルや、これらのアルキル基に水酸基、エポキシ基、ハロゲン基等が置換したアクリル酸置換アルキルエステル及びメタクリル酸置換アルキルエステル等が挙げられる。
【0054】
また、アクリル酸またはメタクリル酸やアクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルと共重合しうるその他のビニルモノマーとしては、アクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらのビニルモノマーは、単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、(A)成分の分散媒樹脂の重量平均分子量は、塗膜性及び塗膜強度の点から10,000〜300,000であることが好ましい。
【0055】
(B)架橋性モノマーとしては、例えば、多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物(例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレン基の数が2〜14のもの)、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(プロピレン基の数が2〜14のもの)、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAトリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAデカオキシエチレンジ(メタ)アクリレート等);グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を付加して得られる化合物(例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート等);多価カルボン酸(例えば、無水フタル酸)と水酸基及びエチレン性不飽和基を有する物質(例えば、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)とのエステル化物;アクリル酸若しくはメタクリル酸のアルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸ブチルエステル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルエステル);ウレタン(メタ)アクリレート(例えば、トリレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとシクロヘキサンジメタノールと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物等);等を挙げることができる。
【0056】
特に好ましい(B)架橋性モノマーとしては、架橋密度や反応性を制御しやすいという意味において、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジメタクリレートが挙げられる。なお、上記化合物は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0057】
後述するように、特に波長変換型太陽電池封止材あるいは、その下層(太陽電池セルに接する側)の屈折率を高くする場合には、(A)光硬化性樹脂及び/または(B)架橋性モノマーに、臭素、イオウ原子を含んでいることが有利である。臭素含有モノマーの例としては、第一工業製薬株式会社製、ニューフロンティアBR−31、ニューフロンティアBR−30、ニューフロンティアBR−42M等が挙げられる。イオウ含有モノマー組成物としては、三菱瓦斯化学株式会社製、IU−L2000、IU−L3000、IU−MS1010が挙げられる。ただし、本発明で使用される臭素、イオウ原子含有モノマー(それを含む重合物)は、ここに挙げたものに制限されるものではない。
【0058】
(C)光開始剤としては、紫外線または可視光線により遊離ラジカルを生成する光開始剤が好ましく、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン、N,N′−テトラメチル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、N,N′−テトラエチル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、ベンジルジメチルケタール(チバ・ジャパン社製、IRGACURE(イルガキュア)651)、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン類、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のキサントン類、あるいはヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・ジャパン社製、IRGACURE(イルガキュア)184)、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ビトロキシ−2−メチルプロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、ダロキュア1116)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、ダロキュア1173)等が、挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0059】
また、(C)光開始剤として使用しうる光開始剤としては、例えば、2,4,5−トリアリルイミダゾール二量体と2−メルカプトベンゾオキサゾール、ロイコクリスタルバイオレット、トリス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)メタン等との組み合わせも挙げられる。また、それ自体では光開始性はないが、前記物質と組み合わせて用いることにより全体として光開始性能のより良好な増感剤系となるような添加剤、例えば、ベンゾフェノンに対するトリエタノールアミン等の三級アミンを用いることができる。
【0060】
また、封止樹脂を熱硬化性とするためには、上記(C)光開始剤を熱開始剤に変更すればよい。
熱開始剤としては、熱により遊離ラジカルを発生させる有機過酸化物が好ましく、たとえば、イソブチルパーオキサイド、α,α′ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、ビス−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス−s−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルネオデカノエート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ビス(エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート、t−ヘキシルネオデカノエート、ビスメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ビス(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、サクシニックパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイル)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオノイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサノン、2,2−ビス(4,4−ジブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α,α′ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン等を使用することができる。
【0061】
上記はアクリル系の光硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂についての例示であるが、通常用いられるエポキシ系の光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂も、本発明の波長変換型太陽電池封止材の分散媒樹脂として用いることができる。ただし、エポキシの硬化はイオン性であるため、上記被覆蛍光体あるいは蛍光物質である希土類金属錯体は影響を受ける場合があり、劣化等を引き起こしうるため、アクリル系の方がより好ましい。
【0062】
波長変換型太陽電池封止材用樹脂組成物の分散媒樹脂に、加熱または加圧により流動する熱可塑性樹脂を用いる場合、例えば、天然ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリイソプレン、ポリ−1,2−ブタジエン、ポリイソブテン、ポリブテン、ポリ−2−ヘプチル−1,3−ブタジエン、ポリ−2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、ポリ−1,3−ブタジエン等の(ジ)エン類、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルヘキシルエーテル、ポリビニルブチルエーテル等のポリエーテル類、ポリビニルアセテート、ポリビニルプロピオネート等のポリエステル類、ポリウレタン、エチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリスルホン、フェノキシ樹脂、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリ−2−エチルヘキシルアクリレート、ポリ−t−ブチルアクリレート、ポリ−3−エトキシプロピルアクリレート、ポリオキシカルボニルテトラメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイソプロピルメタクリレート、ポリドデシルメタクリレート、ポリテトラデシルメタクリレート、ポリ−n−プロピルメタクリレート、ポリ−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリ−2−ニトロ−2−メチルプロピルメタクリレート、ポリ−1,1−ジエチルプロピルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステルが分散媒樹脂として使用可能である。
【0063】
これらの熱可塑性樹脂は、必要に応じて2種以上共重合してもよいし、2種類以上をブレンドして使用することも可能である。
【0064】
さら上記樹脂との共重合樹脂として、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエステルアクリレート等を使用することもできる。特に接着性の点から、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレートが優れている。
【0065】
エポキシアクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、アリルアルコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル等の(メタ)アクリル酸付加物が挙げられる。
【0066】
エポキシアクリレート等のように分子内に水酸基を有するポリマは接着性向上に有効である。これらの共重合樹脂は、必要に応じて、2種以上併用することができる。これら樹脂の軟化温度は、取扱い性から200℃以下が好ましく、150℃以下がさらに好ましい。太陽電池ユニットの使用環境温度が通常は80℃以下であることと加工性を考慮すると、上記樹脂の軟化温度は特に好ましくは80〜120℃である。
【0067】
熱可塑性樹脂を分散媒樹脂として用いた場合の、その他の樹脂組成物の構成は、上記被覆蛍光材料を含有させれば特に制限はないが、通常用いられる成分、例えば、可塑剤、難燃剤、安定剤等を含有させることが可能である。
本発明の波長変換型太陽電池封止材の分散媒樹脂としては、上記のように、光硬化性、熱硬化性、熱可塑性と、特に樹脂を制限するものではないが、特に好ましい樹脂として、従来の太陽電池用封止材として広く利用されているエチレン−酢酸ビニル共重合体に熱ラジカル開始剤を配合した組成が挙げられる。
【0068】
本発明の波長変換型太陽電池封止材は、被覆蛍光材料と封止樹脂とを含む波長変換性の樹脂組成物層のみから構成されていてもよいが、これに加えて前記樹脂組成物層以外の光透過層をさらに有することが好ましい。
前記樹脂組成物層以外の光透過層としては、例えば、前記波長変換性の樹脂組成物層から被覆蛍光材料、を除いた光透過性層を挙げることができる。
本発明の波長変換型太陽電池封止材が複数の光透過性層から構成される場合、少なくともその入射側の層よりも同程度かあるいは高屈折であることが好ましい。
詳細には、m個の光透過性層を、光入射側から順に層1、層2、・・・、層(m−1)、層mとし、またそれぞれの層の屈折率を順にn、n、・・・、n(m−1)、nとした場合に、n≦n≦・・・≦n(m−1)≦nが成り立つことが好ましい。
【0069】
本発明の波長変換型太陽電池封止材の屈折率としては特に制限はないが、好ましくは1.5〜2.1とし、より好ましくは1.5〜1.9とする。また本発明の波長変換型太陽電池封止材が複数の光透過層からなる場合、波長変換型太陽電池封止材の全体の屈折率が前記範囲内であることが好ましい。
【0070】
本発明の波長変換型太陽電池封止材は、太陽電池セルの受光面上に配置されることが好ましい。そうすることで、太陽電池セル受光表面のテクスチャー構造、セル電極、タブ線等を含めた凹凸形状に隙間なく追従できる。
【0071】
<波長変換型太陽電池封止材の製造方法>
本発明の波長変換型太陽電池封止材の製造方法は、(1)蛍光物質が溶解または分散された被覆蛍光材料を得る工程と、(2)前記被覆蛍光材料を、封止樹脂(透明封止樹脂)に混合または分散させて得られる樹脂組成物をシート状に形成するシート形成工程と、を含む。
被覆蛍光材料を得る工程の詳細については既述の通りである。また、シート形成工程は、樹脂組成物をシート状に形成する方法として通常用いられる方法を特に制限なく用いることができる。
本発明の波長変換型太陽電池封止材は、シート状に形成するのが、使用の容易さの点から好ましい。
【0072】
本発明においては、蛍光物質(好ましくは、ユーロピウム錯体)が溶解または分散された被覆蛍光材料を得る工程と、(2)前記被覆蛍光材料を、封止樹脂(透明封止樹脂)に分散させて得られる樹脂組成物をシート状に形成するシート形成工程と、を含む製造方法であることが好ましい。
【0073】
<太陽電池モジュール>
本発明は上記波長変換型太陽電池封止材を備える太陽モジュールもその範囲とする。本発明の太陽電池モジュールは、太陽電池セルと、前記太陽電池セルの受光面上に配置された前記波長変換型太陽電池封止材を備える。これにより発電効率が向上する。
本発明の波長変換型太陽電池封止材は、例えば、複数の光透過性層と太陽電池セルとを有する太陽電池モジュールの、光透過性層の一つとして用いられる。
【0074】
本発明において、太陽電池モジュールは、例えば、反射防止膜、保護ガラス、波長変換型太陽電池封止材、太陽電池セル、バックフィルム、セル電極、タブ線等の必要部材から構成される。これらの部材の中で、光透過性を有する光透過性層としては、反射防止膜、保護ガラス、本発明の波長変換型太陽電池封止材、太陽電池のSiNx:H層及びSi層等が挙げられる。
【0075】
本発明において、上記で挙げられる光透過性層の積層順は、通常、太陽電池モジュールの受光面から順に、必要により形成される反射防止膜、保護ガラス、本発明の波長変換型太陽電池封止材、太陽電池セルのSiNx:H層、Si層となる。
【0076】
即ち、本発明の波長変換型太陽電池封止材において、あらゆる角度から入り込む外部光が反射損失少なく、効率よく太陽電池セル内に導入するために、波長変換型太陽電池封止材の屈折率が、該波長変換型太陽電池封止材より光入射側に配置される光透過性層、すなわち、反射防止膜、保護ガラス等の屈折率より高く、且つ該波長変換型太陽電池封止材の反光入射側に配置される光透過性層、すなわち、太陽電池セルのSiNx:H層(「セル反射防止膜」ともいう)及びSi層等の屈折率よりも低くすることが好ましい。
【0077】
具体的には、波長変換型太陽電池封止材より光入射側に配置される光透過性層、すなわち、反射防止膜の屈折率は、1.25〜1.45、保護ガラスの屈折率は、通常1.45〜1.55程度のものが用いられる。該波長変換型太陽電池封止材の反光入射側に配置される光透過性層、すなわち、太陽電池セルのSiNx:H層(セル反射防止膜)の屈折率
は、通常1.9〜2.1程度及びSi層等の屈折率は、通常3.3〜3.4程度のものが用いられる。以上のことより、本発明の波長変換型太陽電池封止材の屈折率を好ましくは1.5〜2.1とし、より好ましくは1.5〜1.9とする。
【0078】
本発明の波長変換型太陽電池封止材に用いる蛍光物質にユーロピウム錯体を用いることで、高い発電効率を有する太陽電池モジュールを実現出来る。ユーロピウム錯体は紫外域の光を高い波長変換効率で赤色の波長域の光に変換し、この変換された光が太陽電池セルで発電に寄与する。
【0079】
<太陽電池モジュールの製造方法>
本発明の波長変換型太陽電池封止材となる、シート状の樹脂組成物を用いて、太陽電池セル上に波長変換型太陽電池封止材を形成し、太陽電池モジュールを製造する。
具体的には、通常のシリコン結晶太陽電池モジュールの製造方法と同様であり、通常の封止材シートに代えて、本発明の波長変換型太陽電池封止材(特に好ましくはシート状)を用いる。
【0080】
一般的にシリコン結晶系太陽電池モジュールは、まず、受光面であるカバーガラスの上にシート状の封止材(多くは、エチレン−酢酸ビニル共重合体を熱ラジカル開始剤で、熱硬化型にしたもの)を載せる。本発明では、ここで用いられる封止材を、本発明の波長変換型太陽電池封止材を用いる。次に、タブ線で接続されたセルを載せ、さらにシート状の封止材(ただし本発明では、受光面側のみで波長変換型太陽電池封止材を用いればよく、この裏面に関しては、従来のものでも構わない)を載せ、さらにバックシートを載せて、太陽電池モジュール専用の真空加圧ラミネータを用いてモジュールとする。
【0081】
このとき、ラミネータの熱板温度は、封止材が軟化、溶融し、セルを包み込み、さらに硬化するのに必要な温度となっており、通常、120〜180℃、多くは、140〜160℃でこれらの物理変化、化学変化が起こるように設計されている。
【0082】
本発明の波長変換型太陽電池封止材は、太陽電池モジュールとする前の状態のもの、具体的には硬化性樹脂を用いた場合は、半硬化状態をいう。なお、半硬化状態の波長変換型太陽電池封止材と、硬化した後(太陽電池モジュール化した後)の波長変換型太陽電池封止材との屈折率は大きくは変わらない。
本発明の波長変換型太陽電池封止材の形態は、特に制限はないが、太陽電池モジュールの製造の容易性からシート状であることが好ましい。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」および「部」は質量基準である。
【0084】
(実施例1)
<蛍光物質の合成>
4,4,4−トリフルオロ−1−(チエニル)−1,3−ブタンジオン(TTA)200mgを7mlのエタノールに溶解し、ここへ1Mの水酸化ナトリウム1.1mlを加え混合した。7mlのエタノールに溶かした6.2mgの1,10−フェナントロリンを先の混合溶液に加え、1時間攪拌した後、EuCl・6HO 103mgの3.5ml水溶液を加え、沈殿物を得る。これをろ別し、エタノールで洗浄し、乾燥をし、蛍光物質
Eu(TTA)Phen(フェナントロリン系ユウロピウム錯体)を得た。
【0085】
<被覆蛍光材料Aの作製>
上記で得られた蛍光物質Eu(TTA)Phenを0.05g、メタクリル酸メチルを100g、熱ラジカル開始剤である2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を0.5g、それぞれ秤取した後、塊状重合を行った。得られた蛍光物質を含有した樹脂組成物を、粉砕し、ふるいを用いて、分級することで、被覆蛍光材料Aを得た。
【0086】
<波長変換型太陽電池封止材用樹脂組成物の調製>
透明封止樹脂(分散媒樹脂)として東ソー株式会社製のエチレン−酢酸ビニル樹脂、ウルトラセン634(MFR;メルトフローレート=4.0、酢酸ビニル含量=26質量%)を100g、アルケマ吉富株式会社製の過酸化物熱ラジカル開始剤を用い、ルペロックス101(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン)を1.5g、東レ・ダウコーニング株式会社製のシランカップリング剤、SZ6030(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を0.5g、および、前記被覆蛍光材料Aを1.0gからなる混合物を100℃に調整したロールミキサで混練し、波長変換型太陽電池封止材用樹脂組成物を得た。
【0087】
<波長変換型太陽電池封止材シートの作製>
上記で得られた波長変換型太陽電池封止材用樹脂組成物の約30gを、離型シートに挟み、0.6mm厚ステンレス製スペーサーを用い、熱板を80℃に調整したプレスを用い、シート状にした。得られたシート状の波長変換型太陽電池封止材の屈折率は1.5であった。
【0088】
<裏面用太陽電池封止材シートの作製>
上記、波長変換型太陽電池封止材シートの作製において、波長変換型太陽電池封止材用樹脂組成物の代わりに、被覆蛍光材料を含まない他は上記と同様にして製した樹脂組成物を用いて、上記と同様の方法で裏面用太陽電池封止材シートを作製した。
【0089】
<波長変換型太陽電池モジュールの作製>
保護ガラスとしての強化硝子(旭硝子株式会社製、屈折率1.5)の上に、上記波長変換型太陽電池封止材シートを載せ、その上に、起電力を外部に取り出せるようにした太陽電池セルを受光面が下になるように載せ、さらに裏面用太陽電池封止材シート、バックフィルムとしてPETフィルム(東洋紡績株式会社製、商品名:A−4300)を載せ、真空ラミネータを用いて、ラミネートして、波長変換型太陽電池モジュールを作製した。
尚、用いた太陽電池セルには屈折率1.9のセル反射防止膜が形成されている。
【0090】
<太陽電池特性の評価>
擬似太陽光線として、ソーラーシミュレータ(株式会社ワコム電創製、WXS−155S−10、AM1.5G)を用い、電流電圧特性をI−Vカーブトレーサー(英弘精機株式会社製、MP−160)を用いて、JIS−C8914に準拠して、モジュール封止前のセルの状態の短絡電流密度Jscと、モジュール封止後の短絡電流密度Jscとを、それぞれ測定し、その差(ΔJsc)をとって評価した。その結果、ΔJscは0.431mA/cmであった。
【0091】
<発光高温高湿耐性の評価>
上記<波長変換型太陽電池モジュールの作製>と同様な方法で、保護ガラスとして5cm×10cm×1mmの青板ガラスを用いて、その上に上記波長変換型太陽電池封止材シートを載せ、バックフィルムとしてPETフィルム(東洋紡株式会社製、商品名:A−4300)を載せ、真空ラミネータを用いて、ラミネートし、これを試験片とした。
アズワン株式会社製ハンディーUVランプSLUV−4を用いて365nmの光をこの試験片に照射し、赤色発光の有無を観察した。さらにこの試験片を85℃、85%相対湿度に調整された恒温恒湿槽に入れ、適当な時間をおいて、上記と同様にして赤色発光の有無を観察した。その結果、2500時間まで発光が確認された。
【0092】
(実施例2)
<被覆蛍光材料Bの作製>
上記で得られた蛍光物質Eu(TTA)Phen0.005gをテトラヒドロフラン2gに溶解し、この溶液を、メタクリル酸メチルポリマー(和光純薬工業株式会社製)10gをテトラヒドロフラン100gに溶解させた溶液に加え、ミックスローターを用いて、攪拌混合した。得られた溶液を、PETフィルム上に塗工し、防爆オーブンにて120℃、1時間加熱乾燥することで、蛍光物質を含有した樹脂組成物成形体を得た。これを、粉砕し、分級することで、被覆蛍光材料Bを得た。
【0093】
実施例1の<波長変換型太陽電池封止材用樹脂組成物の調製>において、被覆蛍光材料Aに代えて被覆蛍光材料Bとしたこと以外は、上記と同様の手順、方法で、ΔJscおよび発光高温高湿耐性の評価を行った。その結果、ΔJscは0.389mA/cmであり、2500時間まで発光が確認された。
【0094】
(実施例3)
<被覆蛍光材料Cの作製>
上記で得られた蛍光物質Eu(TTA)Phen0.05g、メタクリル酸メチルポリマー(和光純薬工業株式会社製)100gを混合し、120℃に調整したロールミキサで混錬し、蛍光物質を含有した樹脂組成物を得た。これを、粉砕し、分級することで被覆蛍光材料Cを得た。
【0095】
実施例1の<波長変換型太陽電池封止材用樹脂組成物の調製>において、被覆蛍光材料Aに代えて被覆蛍光材料Cとしたこと以外は、上記と同様の手順、方法で、ΔJscおよび発光高温高湿耐性の評価を行った。その結果、ΔJscは0.452mA/cmであり、2500時間まで発光が確認された。
【0096】
(比較例1)
実施例1の<波長変換型太陽電池封止材用樹脂組成物の調製>において、被覆蛍光材料の代わりに、蛍光物質Eu(TTA)Phenをそのまま0.01g用いたこと以外は、上記と同様の手順、方法で、ΔJscおよび発光高温高湿耐性の評価を行った。その結果、ΔJscは−0.18mA/cmであり、24時間後には発光が確認されなかった。
【0097】
本発明の被覆蛍光材料を含む波長変換型太陽電池封止材を用いて太陽電池モジュールを構成することで、太陽電池モジュールにおける光利用効率を向上させ、発電効率を安定的に向上させることが可能となった。
さらに蛍光物質としての希土類金属錯体の利用効率を最大限に高め、実効的な発光効率を向上させることができ、これにより高価な希土類錯体を極僅かな量に抑え、発電に寄与することができる。そして、本発明の被覆蛍光材料は、耐湿性及び耐熱性に優れ、分散性が良く、且つ、濃度消光が抑制された蛍光材料である。かかる蛍光材料によって高価な蛍光物質である希土類金属錯体の利用効率を最大限に高めることができ、さらに実効的な発光効率を向上させて、太陽電池モジュールの発電効率を向上させることができる。また、本発明の被覆蛍光材料、およびこれを用いた波長変換型太陽電池封止材は、入射した太陽光のうち太陽光発電に寄与しない光を発電に寄与する波長へ変換するのと同時に、その光の散乱を抑制して、太陽電池セルへ効率よく導入することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光物質と、透明材料と、を含む被覆蛍光材料。
【請求項2】
蛍光物質が、有機蛍光体又は希土類金属錯体である請求項1に記載の被覆蛍光材料。
【請求項3】
蛍光物質が、希土類金属錯体である請求項1に記載の被覆蛍光材料。
【請求項4】
蛍光物質が、ユーロピウム錯体である請求項3に記載の被覆蛍光材料。
【請求項5】
透明材料が、透明樹脂である、請求項1〜4のいずれかに記載の被覆蛍光材料。
【請求項6】
透明材料が、ビニル化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の被覆蛍光材料。
【請求項7】
透明材料が、(メタ)アクリル樹脂である、請求項1〜4のいずれかに記載の被覆蛍光材料。
【請求項8】
透明材料の屈折率が、蛍光物質よりも低く、1.4以上である請求項1〜7のいずれかに記載の被覆蛍光材料。
【請求項9】
蛍光物質が、透明材料に溶解または分散された、請求項1〜8のいずれかに記載の被覆蛍光材料。
【請求項10】
蛍光物質が、ビニル化合物により樹脂被覆される、請求項6に記載の被覆蛍光材料であって、前記ビニル化合物が、溶解または分散されたモノマー化合物を、ラジカル重合してなるものである、被覆蛍光材料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の被覆蛍光材料と、封止樹脂と、を含む光透過性の樹脂組成物層を備える波長変換型太陽電池封止材。
【請求項12】
被覆蛍光材料の樹脂組成物層における含有率が、0.0001〜10質量%である請求項11に記載の波長変換型太陽電池封止材。
【請求項13】
樹脂組成物層以外の光透過性層をさらに備える、請求項11または12に記載の波長変換型太陽電池封止材。
【請求項14】
波長変換型太陽電池封止材の層および波長変換型太陽電池封止材の層以外の光透過性層からなるm個の層を備え、且つ、前記m個の層のそれぞれの屈折率を、光入射側から順にn、n、・・・、n(m−1)、nとした場合に、n≦n≦・・・≦n(m−1)≦nである、請求項13に記載の波長変換型太陽電池封止材。
【請求項15】
太陽電池セルと、前記太陽電池セルの受光面上に配置された請求項11〜14のいずれかに記載の波長変換型太陽電池封止材と、を備える太陽電池モジュール。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれかに記載の被覆蛍光材料を準備する工程と、前記被覆蛍光材料を、封止樹脂に混合または分散させて得られる樹脂組成物をシート状に形成するシート形成工程と、を有する波長変換型太陽電池封止材の製造方法。
【請求項17】
複数の光透過性層および太陽電池セルを有する太陽電池モジュールの製造方法であって、請求項11〜14のいずれかに記載の波長変換型太陽電池封止材を、太陽電池セルの受光面側に配置して、前記光透過性層の1つを形成する工程を有する太陽電池モジュールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate