説明

被覆超電導線材の製造方法、超電導線材被覆の電着方法、及び、被覆超電導線材

【課題】超電導線材の層間剥離を防止する被覆超電導線材の製造方法、超電導線材被覆の電着方法、及び、被覆超電導線材を提供する。
【解決手段】基板(11)の上に超電導層(14)を形成して超電導線材(11−15)を完成し、ポリイミド電着液(22)に浸漬した超電導線材(11−15)に通電して超電導線材(11−15)の周りにポリイミド層(16)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、超電導応用機器(フライホイール、SMES、リニアコイル、浮上式鉄道用電流リード、NMR(MRI)、超電導モーター、磁気分離装置、鉄道の電車線ケーブル、又は、超電導変圧器に用いられる被覆超電導線材の製造方法、超電導線材被覆の電着方法、及び、被覆超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RE(Rare Earth:希土類元素)系線材(RE−Ba−Cu−O材料を使用した高温超電導テープ線材の開発が著しく進展している。この線材は従前の高温超電導線材に比べて、(1)高温、高磁場中での臨界電流密度(Jc)が大きい、(2)強度が高く、歪みが加えられても特性が劣化しにくいので、小さな曲げ半径のコイルを製作できる、などの特長を有している。
【0003】
特に、イットリウム線材を中心としたRE系薄膜の高温超電導線材の開発競争は、日米間で激化している。今後は線材の中でRE系薄膜が主流のとなると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−110929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実用化への大きな課題として、複合材料特有の剥離の問題がある。すなわち、RE系線材は、セラミックスの多層薄膜と金属テープの複合材料である。このため、臨界温度(Tc)以下に冷却して使用する際、層間で剥離が発生し超電導線材として機能しなくなることがある。RE系線材(Y,Gd等)は多層薄膜の複合材で各層の間での剥離の発生という課題を有している。
【0006】
そこで、本発明の目的は、超電導線材の層間剥離を防止する被覆超電導線材の製造方法、及び、超電導線材被覆の電着方法、及び、被覆超電導線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、符号を付して本発明の特徴を説明する。なお、符号は参照のためであり、本発明を実施形態に限定するものでない。
【0008】
本発明の第1の特徴に係わる被覆超電導線材の製造方法は、基板(11)の上に超電導層(14)を形成して超電導線材(11−15)を完成し、ポリイミド電着液(22)に浸漬した超電導線材(11−15)に通電して超電導線材(11−15)の周りにポリイミド層(16)を形成する。
【0009】
以上の第1の特徴において、基板(11)と超電導層(14)との間に超電導層(14)の超電導結晶を制御する中間層(12、13)を形成する。また、超電導層(14)の上に安定化層(15)を形成する。
【0010】
本発明の第2の特徴に係わる超電導線材被覆の電着方法は、超電導線材(11−15)をポリイミド電着液(22)に浸漬し、ポリイミド電着液(22)に浸漬した超電導線材(11−15)に通電して超電導線材(11−15)の周りにポリイミド層(16)を形成する。
【0011】
本発明の第3の特徴に係る被覆超電導線材は、超電導線材(11−15)と、超電導線材(11−15)の周りに電着によって被覆されたポリイミド層(16)を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の特徴によれば、ポリイミド層は超電導線材を拘束するので、超電導線材の剥離を防止し、特性維持に優れた被覆超電導線材を実現することができる。
【0013】
また、ポリイミド層は、超電導線材の臨界電流密度(Jc)を向上させ、通電電流の増加や磁気シールド性能を改善することができる。
【0014】
また、従来から、超電導線材の電気的絶縁を目的にポリイミドテープが用いられており、超電導線材にポリイミドテープが巻かれ、テープ同士の重なり部分において被覆超電導線材の厚さ、断面積は増加していた。一方、本発明の実施により、ポリイミド層は均一に形成されるため、被覆超電導線材の厚さ、断面積は増加せずに、一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る被覆超電導線材の一部破断斜視図である。
【図2】超電導線材のポリイミド電着方法を示す概要図である。
【図3】電極電圧値とポリイミド層の膜厚との関係を示すグラフである。
【図4】(A)はポリイミド層を有しない超電導線材の磁気シールド効果を示す分布図、(B)はポリイミド層を有する超電導線材の磁気シールド効果を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
図1に示すように、被覆超電導線材10は、金属基板11と、金属基板11に積層された配向中間層12と、配向中間層12に積層された中間層13と、中間層13に積層された超電導層14と、超電導層14に積層された安定化層15と、金属基板11、配向中間層12、中間層13、超電導層14、安定化層15の周りを覆うポリイミド層16を有する。ここで、金属基板11、配向中間層12、中間層13、超電導層14、安定化層15は後述する超電導線材を構成する。
【0018】
金属基板11は、Ni、Agのような面内配向性金属基板、Ni合金、ハステロイ(登録商標)のようなNi基合金多結晶基板、または、Ni、Agのクラッドテープを用いる。金属基板11は、例えば、50〜100μmの厚さを有する。
【0019】
配向中間層12は、例えば、MgO、CeO2、NiO、BaZrO3を用いる。配向中間層12の厚さは、例えば、1μmである。配向中間層12は超電導層14の超電導結晶の配向度を向上させる。
【0020】
中間層13は、例えば、YSZを用いる。中間層13の厚さは、例えば、数μmである。中間層13は、線材作製のプロセスにおける加熱処理で基板11と超電導層14との反応を抑制し、また、超電導結晶の配向性を制御する。
【0021】
超電導層14は、例えば、RE123系(REは希土類元素)の超電導物質を用いる。RE123系超電導物質は、Y1Ba2Cu37-σ(Y123)で代表され、Tcは93Kである。
【0022】
なお、超電導層14は、RE123系超電導物質の代わりに、Bi系の超電導物質を用いてもよい。Bi系超電導物質は、例えば、Bi2Sr2CaCu28+σ(Bi2212)、Bi2Sr2Ca2Cu210+σで代表される。前者のTc(臨界温度)は85Kであり、後者のTcは110Kである。
【0023】
安定化層15は、例えば、Ag、Ag−Cuを用いる。安定化層15の厚さは、例えば、3−10μmである。安定化層15は、超電導層14を保護すると共に安定化させる。
【0024】
ポリイミド層16は、ポリイミドの電着によって形成したものである。ポリイミドは、例えば、3−7GPAの弾性率、200−600MPAの破壊強度を有し、500℃以上の熱分解温度、2.5×10-6(1/K)の熱膨張係数を有する。このように、ポリイミドは通常の高分子に比べて優れた高強度、耐熱性、及び、超電導線材11−15の構成材料に比して大きい熱膨張係数を有する(表1参照)。
【0025】
【表1】

【0026】
ポリイミド層16は、金属基板11、配向中間層12、中間層13、超電導層14、安定化層15を絶縁すると共に各層12−15の剥離を防止する。さらに、超電導層14に圧縮応力を付加し、臨界電流密度(Jc)を向上させる。
【0027】
次に、被覆超電導線材10の製造方法を説明する。
【0028】
金属基板11、配向中間層12、中間層13、超電導層14、安定化層15を順に積層する。
【0029】
ここで、超電導層14は、例えば、TFA−MOD法(Metal Organic Depoition using TriFlouoroAcetates:有機金属堆積法)、又は、PLD法(Pulsed−laser deposition)を用いて、形成する。
【0030】
また、面内配向性は、RABiTS法(Rolling Assisted Bi−axially Textured Substrate)、又は、IBAD法(Ion Beam Assisted Deposition)を用いて、配向中間層12、中間層13、超電導層14に付与する。
【0031】
次に、図2を用いて超電導線材11−15に対するポリイミド層16の電着方法を説明する。
【0032】
電着装置20は、容器21にポリイミド電着溶液22と、ポリイミド電着溶液22に挿入された陰極23と、ポリイミド電着溶液22に浸漬された超電導線材11−15と、陰極23と超電導線材11−15とに接続された電源25を有する。ここで、ポリイミド電着溶液22は、例えば、アニオン性ポリイミド水溶液と有機溶媒の混合溶媒溶液である。
【0033】
電源25が、例えば、20分から30分の間、50Vの電圧を陰極23と超電導線材11−15とに間に加えると、ポリイミドが超電導線材11−15の周りに電着し、ポリイミド層16を均一に形成する。以上より、被覆超電導線材10が完成する。
【0034】
次に、図1を参照して、被覆超電導線材10の使用方法を説明する。
【0035】
被覆超電導線材10を、例えば、コイル形状の所定の形状に変形させて設置する。このとき、被覆超電導線材10に応力が加わる。ここで、ポリイミド層16は、金属基板11、配向中間層12、中間層13、超電導層14、安定化層15を拘束するで、各層12−15の剥離を防止する。
【0036】
被覆超電導線材10を臨界温度以下に冷却し、通電する。被覆超電導線材10は超電導状態になり、その電気抵抗がゼロになる。このとき、また、ポリイミド層16は、臨界電流密度(Jc)を向上させるので、被覆超電導線材10の通電電流の増加や、磁気シールド性能を改善する。
【0037】
以上の実施形態によれば、ポリイミド層16は超電導線材11−15を拘束するので、金属基板11上の各層12、13、14、15の剥離を防止し、特性維持に優れた超電導線材を実現することができる。
【0038】
また、ポリイミド層16は、超電導線材11−15の臨界電流密度(Jc)を向上させ、通電電流を増加させ、磁気シールド性能を改善する。
【0039】
ポリイミド層16は均一に形成されるため、被覆超電導線材10の厚さ、断面積は増加せずに、一定に保つことができる。
【0040】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、また、各実施形態は発明の趣旨を変更しない範囲で変更、修正可能である。
【実施例】
【0041】
第1の実施例
図3は電極電圧値とポリイミド層の膜厚との関係を示す。
【0042】
薄膜構造によるRE系の高温超電導線材をポリイミド電着溶液に浸し通電を実施した。その結果、2分間の通電でポリイミド膜の形成を確認した。
【0043】
さらに、電極電圧値が増すことによって、ポリイミド膜の厚さが増すことが分かった。
すなわち、20Vの電極電圧値では、ポリイミド膜の厚さは16〜17μmであった。一方、150Vの電極電圧値では、ポリイミド膜の厚さは25μm〜31μmであった。
【0044】
また、このポリイミド膜を有する超電導線材に対して液体窒素を用いた浸漬冷却実験によって耐久性を確認したところ、十分な耐久性が確認された。
【0045】
第2の実施例
図4は、超電導線材の磁気シールド効果を示す分布図である。同図(A)の試験結果はポリイミド層を有しない超電導線材を用い、同図(B)の試験結果はポリイミド層を有する被覆超電導線材を用いた。各超電導線材に対して190G(ガウス)の磁束密度を印加した。
【0046】
同図(A)に示すように、ポリイミド層を有しない超電導線材の磁束密度は最小で125−130Gであった。これに対して、同図4(B)に示すように、ポリイミド層を有する被覆超電導線材の磁束密度は最小で115−120Gであった。
【0047】
以上から、ポリイミド層を有する被覆超電導線材は、ポリイミド層を有しない超電導線材より高い磁気シールド効果を示した。
【0048】
よって、ポリイミド層は超電導線材の、臨界電流密度(Jc)を向上させ、これは、超電導線材の通電電流を向上させることを示している。
【符号の説明】
【0049】
10 被覆超電導線材
11 金属基板
12 配向中間層
13 中間層
14 超電導層
15 安定化層
16 ポリイミド層
20 電着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に超電導層を形成して超電導線材を完成し、
ポリイミド電着液に浸漬した前記超電導線材に通電して前記超電導線材の周りにポリイミド層を形成する、
被覆超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記基板と超電導層との間に超電導層の超電導結晶を制御する中間層を形成する、
請求項1に記載の被覆超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記超電導層の上に安定化層を形成する、
請求項1又は2に記載の被覆超電導線材の製造方法。
【請求項4】
超電導線材をポリイミド電着液に浸漬し、
前記ポリイミド電着液に浸漬した超電導線材に通電して前記超電導線材の周りにポリイミド層を形成する、
超電導線材被覆の電着方法。
【請求項5】
超電導線材と、
前記超電導線材の周りに電着によって被覆されたポリイミド層を有する、
被覆超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−64495(P2012−64495A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209116(P2010−209116)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】