説明

被覆軟カプセル剤

【目的】軟カプセル同士の付着が起こりにくく、かつ、包装充填性の良好な軟カプセル剤を提供する。
【構成】硬化油、カルナバロウ及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の物質によって表面を被覆した軟カプセルを、さらに滑沢剤により被覆した軟カプセル。滑沢剤は融点100℃以上の物質であり、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、被覆した軟カプセル剤に関する。
【0002】
【発明の背景及び従来の技術】軟カプセル剤の皮膜は、通常、ゼラチンにグリセリンやソルビトール等の可塑剤を配合して得られる。そのためカプセル皮膜が吸湿しやすく、吸湿した場合にはカプセル同士の付着・癒着が起こりやすい。そのため皮膜成分中にカルシウム塩を配合したり、皮膜外殻にカルナバロウを被覆コーティングする方法が開示されている(特開昭56−156212)。また、硬化油をコーティングする方法も開示されている(特開昭64−42419)。
【0003】
【本発明が解決しようとする問題点】皮膜成分中にカルシウム塩を配合する方法はカプセル皮膜に濁りが生じ外観が悪くなるという欠点を有し、皮膜外殻にカルナバロウを被覆コーティングする方法は、室温40℃相対湿度75%のような高温多湿下に放置するとカプセル同士が付着する。また硬化油をコーティングする方法は、室温40℃相対湿度75%のような高温多湿下に放置してもカプセル同士の付着はほとんど見られないが、カプセルの滑りが悪くなって包装充填を行う場合にカプセルがシュートに入らず、包装充填ができないという欠点を有している。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により課題を解決できることを見いだし、本発明を完成した。すなわち本発明は、硬化油、カルナバロウ及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の物質によって表面を被覆した軟カプセル剤を、さらに滑沢剤により被覆した軟カプセル剤である。本発明における滑沢剤とは、いわゆる滑沢効果を有する物質であれば特に限定されないが、好ましくは融点が100℃以上の滑沢剤であり、具体的にはタルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどを挙げることができる。本発明によると、カプセル同士の付着がなく、しかも滑りが良いため包装充填を極めて容易に行うことができるが、これがすなわち本発明の目的である。
【0005】本発明における滑沢剤の使用量は、通常は軟カプセル100重量部に対し0.00002〜2重量部であり、好ましくは0.00005〜1重量部である。1カプセル当りの滑沢剤使用量は通常は約0.01mg以上となる。本発明における滑沢剤を被覆する前の硬化油、カルナバロウまたはショ糖脂肪酸エステルによる被覆は、すでに開示されている方法及び物質(特開昭56−156212、特開昭64−42419)を使用することができる。硬化油としては例えば、硬化ヒマシ油、硬化なたね油、硬化綿実油、硬化大豆油等を挙げることができ、ショ糖脂肪酸エステルとしては例えば、リョウトーエステルS−370,S−570,S770,S970,S1170,S−1570(いずれも商品名)などを挙げることができる。
【0006】さらに、硬化油、カルナバロウまたはショ糖脂肪酸エステルの他にミツロウ、ステアリン酸、ステアリルアルコール、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、カンデリラロウ等のワックス類を使用することもできる。
【0007】本発明における被覆した軟カプセル剤を得る方法は特に限定されず、通常の方法を用いることができる。例えば、被覆していない軟カプセルをコーティングパンまたは艶出し機に入れ微粒子硬化油またはショ糖脂肪酸エステルを加えて被覆し、次いでタルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどの滑沢剤を1種または2種以上添加して前記被覆軟カプセル剤を更に被覆して本発明の被覆した軟カプセル剤を得ることができる。被覆していない軟カプセル剤に最初にコーティングする方法は他に、有機溶媒中に硬化油またはショ糖脂肪酸エステルを溶解させ、その溶液を軟カプセル剤に吹きかける方法(流動床法)、硬化油またはショ糖脂肪酸エステルが溶解した有機溶媒に軟カプセルを浸漬する方法(液浸法)等によることもできる。
【0008】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0009】
【実施例1】硬化ひまし油0.3g、カルナバロウ1.0gを艶だし機に入れ、通常の方法で製造して得られた軟カプセル剤10000カプセルを艶だし機に投入し、被覆軟カプセル剤を得た。さらにタルク1.0gを別の艶だし機に加えて前記被覆カプセル剤を投入し、本発明にかかる被覆した軟カプセル剤を得た。
【0010】
【実施例2】硬化ひまし油1.0g、カルナバロウ0.3gを艶だし機に入れ、通常の方法で製造して得られた軟カプセル剤10000カプセルを艶だし機に投入し、被覆軟カプセル剤を得た。さらにタルク1.0gを別の艶だし機に加えて前記被覆カプセル剤を投入し、本発明にかかる被覆した軟カプセル剤を得た。
【0011】
【実施例3】硬化ひまし油0.5g、カルナバロウ0.5gを艶だし機に入れ、通常の方法で製造して得られた軟カプセル剤10000カプセルを艶だし機に投入し、被覆軟カプセル剤を得た。さらにステアリン酸カルシウム1.0gを別の艶だし機に加えて前記被覆カプセル剤を投入し、本発明にかかる被覆した軟カプセル剤を得た。
【0012】
【効果】
実験例1:実施例1、2および次に示す対照例1、2、3で得た被覆軟カプセル剤をPTP充填機で充填した。結果を以下に示す判定基準によってA〜Cの3段階に評価した。
A:問題なくPTP充填された。
B:シューターには充填されるがPTPポケットにきれいに充填されない。
C:シューターに充填されない。
【0013】対照例1硬化ひまし油2.0gを艶だし機に入れ、通常の方法で製造して得られた軟カプセル剤10000カプセルを艶だし機に投入し、被覆軟カプセル剤を得た。
対照例2硬化ひまし油0.3g、カルナバロウ1.0gを艶だし機に入れ、通常の方法で製造して得られた軟カプセル剤10000カプセルを艶だし機に投入し、被覆軟カプセル剤を得た。
対照例3硬化ひまし油0.1g、カルナバロウ1.0gを艶だし機に入れ、通常の方法で製造して得られた軟カプセル剤10000カプセルを艶だし機に投入し、被覆軟カプセル剤を得た。結果を表1に示した。本発明によりえられた被覆した軟カプセル剤は包装等の充填作業にも問題が生じないことが分かる。
【0014】
【表1】


【0015】実験例2:実施例1、2および対照例3で得た被覆軟カプセル剤50個をガラス瓶に入れて室温40℃相対湿度75%条件下に放置し、ガラス内壁への付着およびカプセル同士の付着の程度を観察した。結果は以下に示す判定基準によりA〜Cの3段階に評価した。
A:ガラス瓶を逆さにしたとき、ガラス瓶の底部からすべてのカプセルが直ちに落下する。
B:ガラス瓶を逆さにしたとき、ガラス瓶の底部に1〜10カプセルが付着し、落下しない。
C:ガラス瓶を逆さにしたとき、ガラス瓶の底部に10〜50カプセルが付着し、落下しない。ただし、瓶を軽くたたくと落下する。結果を表2に示す。本発明で得られた被覆した軟カプセル剤は高温高湿度下に保存しても付着が生じないことが明らかである。
【0016】
【表2】


【0017】実験例3:被覆しないカプセル及び対照例2で得られたカプセルそれぞれ10000カプセルにタルクを表3に示す割合で被覆しカプセルの滑りやすさを測定した。カプセルの滑りやすさは、長さ500mm、内径10mmのアクリル製筒に1カプセルを入れ、水平状態から徐々に筒を傾けカプセルが滑り始めたときの高さを測定することにより求めた。結果を表3に示した。本発明にかかるカプセルは、被覆しないカプセル及び対照例2で得られたカプセルより滑りやすくなったことが明らかである。またその効果は使用する滑沢剤の量に依存しており、カプセル100重量部に対するタルク量が0.000048重量部ですでに顕著な効果が認められた。
【0018】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】硬化油、カルナバロウ及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の物質によって表面を被覆した軟カプセル剤を、さらに滑沢剤により被覆した軟カプセル剤。
【請求項2】滑沢剤が融点100℃以上の物質である請求項1記載の被覆した軟カプセル剤。
【請求項3】滑沢剤がタルク、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムである請求項1記載の被覆した軟カプセル剤。
【請求項4】滑沢剤の被覆量が軟カプセル剤100重量部に対して0.00002重量部以上2重量部以下である請求項1記載の被覆した軟カプセル剤。

【公開番号】特開平7−330587
【公開日】平成7年(1995)12月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−129969
【出願日】平成6年(1994)6月13日
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)