説明

被覆電線

【課題】ハロゲン系難燃剤を用い、ISO6722に規定されるCHFUSの領域において難燃性、耐バッテリー液性を満足しつつ、耐摩耗性及び低温衝撃性をも満足することができる被覆電線を提供する。
【解決手段】(A)ポリプロピレン単独重合体55〜85質量部、(B)ポリプロピレン系変性樹脂5〜20質量部、(C)ポリオレフィン系共重合体5〜20質量部、(D)変性オレフィン系エラストマー5〜15質量部をそれぞれ配合し、(A)、(B)、(C)、及び(D)の樹脂合計100質量部に対して、金属水酸化物1〜45質量部、ハロゲン系難燃剤10〜80質量部を含む樹脂組成物により被覆層が形成されてなる被覆電線である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線に関し、より詳細には、ISO6722に規定される自動車電線のCHFUSの領域において、難燃性、耐バッテリー液性、耐摩耗性、及び低温衝撃性を満足できる被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用電線を被覆するための絶縁樹脂組成物として、例えば、55質量部以上98質量部のポリオレフィン系重合体と残部のポリアミドとからなるベース樹脂100質量部に対して60質量部以上90質量部以下の金属水酸化物が配合され、かつ、前記ポリアミドが、ポリアミド6とポリアミド66との共重合体である電線絶縁体用樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この樹脂組成物は、水酸化マグネシウムの添加量が多く、ISO6722(2006年度版)に準じる耐バッテリー液性を満たすことができないという問題があることが分かった。
そこで、耐バッテリー液性を満足させる為に水酸化マグネシウムを極力用いずに、難燃性及び耐バッテリー液性を満足させる検討が進められ、ハロゲン系難燃剤を添加することが見出された(例えば、特許文献2参照。)。その結果、耐バッテリー液性と難燃性を両立できる配合系統を見つけることが出来たものの、その弊害として耐低温性、摩耗性が低下するという問題があった。
その他、難燃性を付与した樹脂組成物が知られているが(例えば、特許文献3〜6参照。)、いずれも難燃性、耐バッテリー液性、低温衝撃性、及び耐摩耗性のすべてを満足するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−40947号公報
【特許文献2】特開平2−73838号公報
【特許文献3】特開平11−21392号公報
【特許文献4】特開2007−204653号公報
【特許文献5】特開2009−51918号公報
【特許文献6】特開平2−18432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ハロゲン系難燃剤を用い、ISO6722に規定されるCHFUSの領域において難燃性、耐バッテリー液性を満足しつつ、耐摩耗性及び低温衝撃性をも満足することができる被覆電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために種々検討したところ、臭素系難燃剤が摩耗性、低温衝撃性を悪くすることが見出された。しかし、臭素系難燃剤の量を減らすと難燃性が低下する。そこで、まず摩耗性を向上させるための種々検討した結果、ポリプロピレン単独重合体の配合量を制御することで特性を満たすことが出来た。しかし、ポリプロピレン樹脂の特性である低温衝撃性能に劣ることが原因で、低温衝撃性能が更に低下してしまうという問題が生じた。そこでポリプロピレン単独重合体の配合量を維持したまま(摩耗性能を落とさず)に、低温衝撃性能を向上させるため検討を行い、変性オレフィン系エラストマーを用いることで上記課題を解決することができた。
【0006】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)(A)ポリプロピレン単独重合体55〜85質量部、(B)ポリプロピレン系変性樹脂5〜20質量部、(C)ポリオレフィン系共重合体5〜20質量部、(D)変性オレフィン系エラストマー5〜15質量部をそれぞれ配合し、(A)、(B)、(C)、及び(D)の樹脂合計100質量部に対して、金属水酸化物1〜45質量部、ハロゲン系難燃剤10〜80質量部を含む樹脂組成物により被覆層が形成されてなることを特徴とする被覆電線。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ハロゲン系難燃剤を用い、ISO6722に規定されるCHFUSの領域において難燃性、耐バッテリー液性を満足しつつ、耐摩耗性及び低温衝撃性をも満足することができる被覆電線を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の被覆電線は、(A)ポリプロピレン単独重合体55〜85質量部、(B)ポリプロピレン系変性樹脂5〜20質量部、(C)ポリオレフィン系共重合体5〜20質量部、(D)変性オレフィン系エラストマー5〜15質量部をそれぞれ配合し、(A)、(B)、(C)、及び(D)の樹脂合計100質量部に対して、金属水酸化物1〜45質量部、ハロゲン系難燃剤10〜80質量部を含む樹脂組成物により被覆層が形成されてなることを特徴としている。
以下に、先ず本発明に係る非架橋型樹脂組成物の各成分について説明する。
【0009】
<樹脂組成物>
[(A)ポリプロピレン単独重合体]
本発明に用いるポリプロピレン単独重合体の配合量は、樹脂100質量部に対して55〜85質量部であり、60〜80質量部が好ましく、60〜70質量部がより好ましい。配合量が前記下限値未満では、摩耗性が十分ではなく、前記上限値を超えると、低温衝撃性が低下してしまう
【0010】
[(B)ポリプロピレン系変性樹脂]
本発明に用いるポリプロピレン系変性樹脂は、無水マレイン酸をポリプロピレン系樹脂にグラフト共重合したものである。該ポリプロピレン系変性樹脂としては、溶融法、溶液法いずれの製法で製造されたものであってもよい。該無水マレイン酸の酸価(JIS K 0070)は、好ましくは15〜55であり、より好ましくは30〜40である。また、該ポリプロピレン系変性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは15,000〜50,000であり、より好ましくは20,000〜40,000である。
該ポリプロピレン系変性樹脂の配合量は、樹脂100質量部に対して5〜20質量部であり、好ましくは10〜5質量部である。ポリプロピレン系変性樹脂の含有量が前記範囲より少ないと摩耗性が低下してしまう。含有量が前記範囲より多い場合は特に目立った効果は得られない。
【0011】
[(C)ポリオレフィン系共重合体]
本発明に用いるポリオレフィン系共重合体としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン・エチレン−α−オレフィンランダム共重合体などのプロピレンを主成分とする他のα−オレフィンとのブロック共重合体あるいはランダム共重合体などの公知のプロピレン(共)重合体のうち、単独または2種以上からなることが好ましい。
ポリオレフィン系共重合体の配合量は、樹脂100質量部に対して5〜20質量部、好ましくは10〜15質量部である。配合量が前記下限値未満では、低温性が十分ではなく、前記上限値を超えると摩耗性が低下してしまう。
【0012】
[(D)変性オレフィン系エラストマー]
本発明で用いる変性オレフィン系エラストマーとは、以下記述内容の構造を有し、変性をされたものを指す。構造としては、非晶性ゴムとしては、エチレン/プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン/1−ブテン共重合ゴム(EPM)、エチレン/プロピレン/ブテン共重合ゴム、及びエチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合ゴム(EPDM)などを挙げることができる。また、スチレン系熱可塑性エラストマーとして、芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)と共役ジエン系重合体ブロック(ソフトセグメント)を有するブロック共重合体もしくはランダム共重合体も挙げられる。芳香族ビニル系化合物の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、o−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−シクロヘキシルスチレン等の核アルキル置換スチレンなどが挙げられる。共役ジエン系化合物としては、ブタジエン、イソプレン、及びメチルペンタジエン等を挙げることが出来る。
その他ゴム成分として、たとえばスチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、及びブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴムなどを用いてもよい。
【0013】
また、変性に関しては溶融法、溶液法いずれの製法で製造されたものであってもよい。該無水マレイン酸の酸価(JIS K 0070)は15〜55であり、好ましくは30〜40である。
変性オレフィン系エラストマーの配合量は、樹脂100質量部に対して5〜15質量部、好ましくは5〜10質量部である。配合量が前記下限値未満では、低温性が十分ではなく、前記上限値を超えると、摩耗性が低下してしまう。
【0014】
[金属水酸化物]
難燃剤たる金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウムなどの水酸基あるいは結晶水を有する化合物及びこれらの組合わせを挙げることができる。これらのうち、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが好ましく、なかでも水酸化マグネシウム、特に、脂肪酸またはシランカップリング剤等で表面処理された水酸化マグネシウムが好ましく使用される。金属水酸化物の配合量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、1〜45質量部、好ましくは20〜30質量部である。配合量が前記下限値未満では、難燃性が十分ではなく、前記上限値を超えると、耐バッテリー液性が低下する傾向がある。
【0015】
[ハロゲン系難燃剤]
ハロゲン系難燃剤としては、臭素系難燃剤及び塩素系難燃剤が挙げられ、例えばヘキサブロモベンゼン、エチレンビス−ジブロモノルボルナンジカルボキシイミド、エチレンビス−テトラブロモフタルイミド、テトラブロモ−ビスフェノールS、トリス(2,3−ジブロモプロピル−1)イソシアヌレート、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、オクタブロモフニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA(TBA)エポキシオリゴマーもしくはポリマー、TBA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、塩素化ポリオレフィン、パークロロシクロペンタデカン、デカブロモジフェニルオキシド、ポリジブロモフェニレンオキシド、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、エチレンビス−ペンタブロモベンゼン、ジブロモエチル−ジブロモシクロヘキサン、ジブロモネオペンチルグリコール、トリブロモフェノール、トリブロモフェノールアリルエーテル、テトラデカブロモ−ジフェノキシベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ペンタブロモフェノール、ペンタブロモトルエン、ペンタブロモジフェニルオキシド、ヘキサブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルオキシド、ジブロモネオペンチルグリコールテトラカルボナート、ビス(トリブロモフェニル)フマルアミド、N−メチルヘキサブロモフェニルアミン、及びこれらの組み合わせが例示される。これらのうち、臭素系難燃剤が好ましく、TBA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)が最も好ましい。また、臭素系難燃剤と、二酸化アンチモン、三酸化アンチモンを併用することで、より少ない配合量で難燃性を満足させることができる。ハロゲン系難燃剤の配合量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、10〜80質量部、好ましくは20〜50質量部である。配合量が前記下限値未満では、難燃性が十分ではなく、前記上限値を超えると、難燃性の向上が無いばかりか、他の物理的特性、例えば耐摩耗性等が低下し、又、ブリードアウトが生じ得る。
【0016】
本発明には、上記必須成分の他、本発明の効果を妨げない範囲で、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、その他老化防止剤、滑剤、充填剤及び補強材、UV吸収剤、安定剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤などが配合されていてもよい。
【0017】
<被覆電線>
本発明の被覆電線は、以上の樹脂組成物により形成される被覆層が導体を被覆してなる。すなわち、上記樹脂組成物を、所望により各種添加剤を定法に従い溶融混合し、得られた組成物を、定法に従い、押出し機等を用いて導体上に被覆することによって得られる。組成物の混合手段としては、押出機、ヘンシェルミキサー、ニーダー、軸型混練機、バンバリーミキサー、ロールミル等のコンパウンディング可能な設備を使用することができる。
本発明の被覆電線は、既述の樹脂組成物により形成される被覆層により導体が被覆されてなるため、上述の本発明の樹脂組成物の特性がそのまま発揮され、低温衝撃性に優れ、難燃性、耐バッテリー液性、耐摩耗性を満足する被覆電線が得られる。
また、本発明の被覆電線は、自動車用電線、民生用電線等に好適に用いられる。
【実施例】
【0018】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
(被覆電線の作製)
実施例で用いた樹脂組成物は、それぞれ表1〜3に示された配合量(質量部)の各成分をニーダー又は軸型混速機で混練することによって調製し、それらの樹脂組成物を用い、押出機(φ60mm、L/D=24.5、FFスクリュー)に投入し、押出速度500m/min、押出温度230℃にて導体上に押出し、被覆電線を作製した。表1〜3中の各成分の詳細は以下の通りである。
ポリプロピレン単独重合体:Q100f サンアロマー(株)製
ポリプロピレン系変性樹脂:ユーメックス1001 三洋化成(株)製
ポリオレフィン系共重合体:E185GK (株)プライムポリマー製
オレフィン系エラストマー:タフマーMH7020 三井化学(株)製
金属水酸化物:キスマ5A、協和化学(株)製
ハロゲン系難燃剤:フレームカット121K、東ソー(株)製
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
<被覆電線の評価>
以上のようにして作製したそれぞれの実施例・比較例の被覆電線を以下のようにして評価した。
【0024】
[耐摩耗性評価]
7ニュートンの荷重、直径0.45ミリメートルの針、及び横断面積0.22平方ミリメートルの心線と厚さ0.125ミリメートルの被覆とを有する電線を用いてISO6722のスクレープ摩耗規格で測定を実施し、100回以上のスクレープ回数を合格(○)とし、100回未満を不合格(×)とした。評価結果を表1〜3に示す。
【0025】
[低温衝撃性評価]
JIS K7216にて規定される試験方法にて評価を実施した。プラスチック試験片の作製に関してはを本発明に規定される配合範囲で作製したものとする。
試験方法は一定温度の試験槽に入れた片持ばりの試験片に所定の打撃を与えて、破壊個数より脆化温度を算出し−10℃以下を合格(○)とし、それより高い物を不合格(×)とした。評価結果を表1〜3に示す。
【0026】
[難燃性評価]
被覆電線を45度の角度でドラフト内に設置し、ブンゼンバーナーの内炎部を、2.5mm 以下の被覆電線の場合は15秒後、導体サイズが2.5mmを超える被覆電線の場合は30秒後に試験試料から炎を外すIS06722の難燃試験において、絶縁材上の炎が全て70秒以内に消え、試験試料上部の絶縁体が50mm以上焼けずに残るものを合格(○)、70秒以上燃え続けるか、焼け残った試験試料上部の絶縁体が50mm未満のものを不合格(×)とした。評価結果を表1〜3に示す。
【0027】
[耐バッテリー液試験]
ISO6722に従い試験を行った。絶縁被覆電線に、比重1.260±0.005のバッテリー液(HSO溶液)を一滴ずつ、滴同士が互いに接触しないようにして、振りかけた。次いで、該絶縁被覆電線を8時間、90℃のオーブン中に保持した後、取り出して、再度、上記のようにしてバッテリー液滴を振りかけた後、16時間、90℃のオーブン中に保持した。これを1サイクルとして、計2サイクル繰り返した後、室温(23℃±5℃)で30分放置した。次いで、被覆電線を所定のマンドレルに巻き付け、巻き付けられた被覆電線の絶縁被覆部を目視観察した。導体の露出が認められなかったものについて、耐電圧試験を行い、導通断の無いものを合格(「○」)とした。導体の露出が認められたもの及び導通断が有ったものを「×」とした。評価結果を表1〜3に示す。
【0028】
表1〜3より、全成分の配合量が本発明の範囲内の実施例1〜9はいずれも、耐バッテリー液性、難燃性、耐摩耗性、及び低温衝撃性のすべての評価において良好な結果が得られたのに対し、各成分の配合量のうち少なくとも1つが本発明の範囲外である比較例1〜23は、いずれかの評価結果が不良であったことが分かる。
以上の実施例及び比較例の比較から、すべての評価結果において良好な結果を得るには、各成分の配合量を本発明において規定する配合量の範囲とすることが不可欠である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリプロピレン単独重合体55〜85質量部、(B)ポリプロピレン系変性樹脂5〜20質量部、(C)ポリオレフィン系共重合体5〜20質量部、(D)変性オレフィン系エラストマー5〜15質量部をそれぞれ配合し、(A)、(B)、(C)、及び(D)の樹脂合計100質量部に対して、金属水酸化物1〜45質量部、ハロゲン系難燃剤10〜80質量部を含む樹脂組成物により被覆層が形成されてなることを特徴とする被覆電線。

【公開番号】特開2012−199071(P2012−199071A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62392(P2011−62392)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】