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被覆面の形成方法
説明

被覆面の形成方法

【課題】薬剤添加、pH変化や温度変化を経ることなく、容易に剥離・脱離が可能な被覆面を提供すること。
【解決手段】バイオテクノロジー・ライフサイエンス分野において用いられる磁性粒子被覆面を形成する方法であって、(i)「複数の磁性粒子」または「複数の磁性粒子および液体を含んで成る磁性粒子分散液」と、面部材とが相互に接触した状態を得る工程、ならびに、(ii)「複数の磁性粒子」または「磁性粒子分散液」が接触している面部材の面Aと対向する面B側から磁場を印加する工程
を含んで成り、工程(ii)では、磁場の印加により複数の磁性粒子を面A上に膜状に配置し、それによって、面Aにおいて磁性粒子被覆面を一時的に形成することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被覆面の形成方法に関する。より詳細には、本発明はバイオテクノロジー・ライフサイエンス分野にて用いられる被覆面を形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な物品の表面には、なにがしらの被覆が施されていることが多く、それらの被覆は剥離・脱離しないように強く固定されたものがほとんどである。つまり、被覆材が、環境の変化を受けないようにできるだけ安定した状態で物品表面に固定・接合されている場合がほとんどである。
【0003】
しかしながら、用途によっては必要に応じて剥離・脱離できる被覆が望まれる場合がある。例えば、動物細胞の大部分を占める足場依存性細胞を培養するには、その培地の足場となる被覆が必要に応じて剥離・脱離できることが望まれる。また、反応に用いる酵素等を固定する反応容器内面の被覆や、体外診断に必要な抗体等を固定する反応容器内面への被覆なども必要に応じて剥離・脱離できることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−141053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでにも“剥離・脱離が可能な被覆”というものは存在するものの、薬剤添加、pH変化や温度変化といった環境の変化を与えなければならず、それらは細胞や蛋白質等にダメージを与える可能性がある。
【0006】
本願発明者らは、かかる課題に対して、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処して課題を解決するように試みた。つまり、本発明の主たる目的は、薬剤添加、pH変化や温度変化を経ることなく、容易に剥離・脱離が可能な被覆面を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、
バイオテクノロジー・ライフサイエンス分野において用いられる磁性粒子被覆面を形成する方法であって、
(i)「複数の磁性粒子」または「複数の磁性粒子および液体を含んで成る磁性粒子分散液」と、面部材とが相互に接触した状態を得る工程、ならびに
(ii)「複数の磁性粒子」または「磁性粒子分散液」が接触している“面部材の面A”と対向する面B側から磁場を印加する工程
を含んで成り、
工程(ii)では、磁場の印加により複数の磁性粒子を面A上に膜状に配置し、それによって、面Aにおいて磁性粒子被覆面を一時的に形成することを特徴とする方法が提供される。尚、工程(i)と工程(ii)とは実施順序が逆であってもよく、工程(ii)の後に工程(i)を実施してもよい。
【0008】
本明細書において「バイオテクノロジー・ライフサイエンス分野」とは、生物ないしは生体関連物質などが扱われる分野を意味している。例えば、動物・植物の組織、微生物、動物細胞、植物細胞、遺伝子、タンパク質、脂質などの生物・生体関連物質が扱われる分野を実質的に意味している。
【0009】
また、本明細書において「面部材」とは、磁性粒子を配置・配備することができる“面”を備えた部材またはその一部分のことを実質的に意味している。
【0010】
更に、本明細書において「一時的」とは、永続的・恒久的な磁性粒子被覆面を形成するのではなく、実際の用途に応じて面Aから磁性粒子被覆面を最終的には剥離させること、特には、個々の粒子又は幾つかの粒子同士が部分的に凝集した状態へと解離させることを実質的に意味している。また、本明細書において「膜状」とは、磁性粒子被覆面を成す磁性粒子膜が薄い層状に形成されることを実質的に意味している(例えば、磁性粒子膜の全体厚さが0.5〜1000μm程度となるような態様を指している)。
【0011】
ある好適な態様では、磁性粒子被覆面の“一時的形成”ゆえ、印加した磁場を除去することによって、膜状に配置されていた磁性粒子を面Aから離脱させる。
【0012】
ある好適な態様では、磁場の印加に際して「サブ磁石がマトリックス状に複数配置されて構成された磁石集合体」を面B側に供する。これによって、磁性粒子被覆面を均一に形成することができる。つまり、そのような磁石集合体を供することによって、磁性粒子被覆面の面内均一性(磁性粒子の均一膜状配置)を向上させることができる。例えば、「微小もしくは細いサブ磁石がマトリックス状に複数配置されることにより構成された磁石集合体」を面部材の面B側に配置してよい。
【0013】
ある好適な態様では、磁性粒子被覆面において、磁性粒子から成る層が複数積層した磁性粒子膜を一時的に形成する。つまり、工程(ii)では、単一の粒子層から成るものではなく、複数の粒子が積み上がるように3次元的に配置された磁性粒子膜を形成する。
【0014】
ある好適な態様において、磁性粒子被覆面として、複数の磁性粒子から構成された多孔性被覆面を形成する。例えば、粒子の外輪形状に基づく凹凸や、隣接する磁性粒子から形成された隙間部分に起因した“孔”を備えた磁性粒子被覆面を形成する。
【0015】
本発明の方法では、磁性粒子被覆面を培地担体または反応担体として用いることができる。また、粒子の外輪形状に基づく凹凸や、磁性粒子間に形成された「磁性粒子被覆面の隙間部分(即ち、上述した“孔”)」などは、表面積の大きな反応場として用いることができ、またナノピラー細胞培養シートと類似の効果(3次元組織体(スフェロイド)形成)も期待できる。特に本発明では、磁性粒子被覆面の最表面部分を、足場依存性細胞の培養のための足場として用いてよいし、あるいは、磁性粒子被覆面の最表面部分またはそこに形成された被覆内部の粒子表面部分を、酵素、抗体または抗原を固定するための担体として用いてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に従えば、磁性粒子の表面特性を備え、かつ、磁性粒子形状に基づく形態を備えた被覆面を形成することができる。このような“磁性粒子被覆面”は、背面側から磁場を印加して形成することができるので、磁場の印加時間および印加場所を適宜調整することによって、所望の時間および箇所に“磁性粒子被覆面”を形成することができる。
【0017】
磁性粒子の表面特性は、磁性物質を包む物質や粒子の表面処理によって任意に変更することができる。これは、磁性粒子の表面特性を調整することによって、必要な被覆面の特性を容易に調整できることを意味している。それゆえ、磁性粒子被覆面を足場依存性細胞の培養のための足場として好適に用いたり、あるいは、酵素、抗体または抗原を固定するための担体として磁性粒子被覆面を好適に用いたりできる。また、磁性粒子の形状に基づく形態についていえば、粒子の外輪形状に基づく凹凸を被覆面に対して供することができたり、隣接する磁性粒子から隙間部分を形成できるので(つまり、磁性粒子被覆面においては凹凸や隙間部分に起因した“孔”が形成されるので)、それらをバイオ処理に好適に活用することができる。例えば、“孔”構造(特に多孔構造)ゆえ、磁性粒子被覆面における表面積を増大させることができ、その結果、細胞培養効率や反応効率などを向上させることができる。例えば、磁性粒子被覆面における凹凸/隙間部分/孔などは、表面積の大きな反応場として用いることができたり、ナノピラー細胞培養シートと類似の効果(3次元組織体(スフェロイド)形成)が期待できたりする。
【0018】
このような磁性粒子被覆面は、磁場吸引により形成されているので、磁場を除去するだけで容易に被覆面を剥離・脱離することができる。つまり、本発明においては、被覆面の形成や剥離・脱離などを、薬剤添加、pH変化および温度変化を伴うことなく実施することができ、被覆面上に接着した生物・生体関連物質にダメージを与える可能性は減じられている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の方法についてのフローである。
【図2(a)】図2(a)は、磁性粒子分散液と面部材とが相互に接触した態様を表した模式図である。
【図2(b)】図2(b)は、面B側から磁場を印加して、磁性粒子を面A上に膜状に配置する態様を表した模式図である。
【図2(c)】図2(c)は、磁場除去によって「膜状に配置されていた磁性粒子」を面Aから離脱させる態様を表した模式図である。
【図3】図3は、面部材が“容器の底壁部”となる場合の態様を表した模式図である。
【図4】図4(a)および(b)は、「サブ磁石がマトリックス状に複数配置されて構成された磁石集合体」を用いる態様を表した模式図である。
【図5】図5は、磁性粒子被覆面が「磁性粒子から成る層が複数積層した磁性粒子膜の形態」および「凹凸や隙間部分に起因する“孔”を複数備えた形態」を有している態様を表した模式図である。
【図6】図6は、磁性粒子被覆面が「磁性粒子から成る層が複数積層した磁性粒子膜の形態」および「凹凸や隙間部分に起因する“孔”を複数備えた形態」を有している態様を表した模式図である。
【図7】図7は、磁性粒子被覆面が「磁性粒子から成る層が複数積層した磁性粒子膜の形態」および「凹凸や隙間部分に起因する“孔”を複数備えた形態」を有している態様を表した模式図である。
【図8】図8は、実施例において撮影された写真図である(図8(a):円筒形のサブ磁石をN極S極交互に並べて構成した磁石集合体の写真図、図8(b):容器に磁性粒子分散液を仕込んだ状態の写真図(磁場印加前)、図8(c):図8(b)の容器の底面の下から図8(a)のサブ磁石を当てた状態の写真図)。
【図9】図9は、実施例において撮影された写真図である(図9(a):磁石単体の写真図、図9(b):不均一に形成された磁性粒子被覆面の写真図)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下にて、図面を参照しながら、本発明の方法について詳細に説明する。図面に示す各種の要素は、本発明の理解のために模式的に示したにすぎず、寸法比や外観などは実物と異なり得ることに留意されたい。
【0021】
[本発明の方法]
本発明の方法のフローを図1に示す。本発明の実施に際しては、まず工程(i)を実施する。つまり、「複数の磁性粒子」または「複数の磁性粒子および液体を含んで成る磁性粒子分散液」と、面部材とが相互に接触した状態を得る。例えば、図2(a)に示すように、「複数の磁性粒子10および液体20を含んで成る磁性粒子分散液30」と面部材50とが相互に接触した状態を得る。
【0022】
用いられる磁性粒子10は、磁性を呈する粒子であって、磁気応答性を有している。ここでいう「磁気応答性を有している」とは、磁石等による外部磁界・外部磁場が存在するとき、磁界・磁場により磁化する、あるいは磁石に吸着するなど、磁界・磁場に対して感応性を示すことを意味している。尚、後述するが、磁性粒子には、フェライトなどの磁性物質だけでなく、ポリマー、セラミックおよび金属などの非磁性物質が付加的に含まれていてよい。
【0023】
磁性粒子の粒径についていえば、“磁場に起因した面部材への固定(即ち、面Aへの膜状配置)”を可能とする磁化が発現するサイズ以上であることが少なくとも求められるものの、そのサイズ以上であれば特に制限されないので、用途に応じて適宜選択すればよい。上記磁化が発現するサイズは液体を含むか否か、磁性物質の種類、コーティングの種類や比率、あるいは用いる磁場の強さ等によって異なるが、一例を挙げるとすると、粒径(または平均粒径)が50nm以上、好ましくは100nm以上である。その一方、磁性粒子の粒径が必要以上に大きくなると、磁性粒子被覆面における隙間が大きくなり過ぎ、被覆面としての効果が減じられるので、一般的に粒径(または平均粒径)は5mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以下、更に好ましくは200μm以下、最も好ましくは50μm以下である。尚、本明細書にいう「粒径」とは、粒子画像の重心を通る径の測定値の平均(例えば最小値と最大値との平均)を実質的に意味している。そして、「平均粒径」とは、粒子の透過または走査型電子顕微鏡写真または光学顕微鏡写真に基づいて例えば300個の粒子の粒径サイズを測定し、その数平均として算出した粒子サイズを実質的に意味している。
【0024】
磁性粒子の磁気特性も特には制限されないものの、磁性粒子を一時的に面部材へ固定しておくことに鑑みると、飽和磁化が高いものが好ましい。ただし粒径が小さくなるほど高い飽和磁化が必要となる一方、粒径が大きい場合にはそれほど大きな飽和磁化は必須でないので、飽和磁化は一概には規定できない。例えば、「磁場により固定した状態の実際の使用条件下における磁性粒子の残存率」なるもので規定すれば、90〜100%残存するのが好ましい。更にいえば、95〜100%残存するのがより好ましく、98%以上残存するのがさらに好ましい(尚、ここでいう「残存率」とは、実際に使用する場合と同等の条件で、使用開始時に磁場により固定された磁性粒子重量に対する使用終了時における残存磁性粒子重量の比率のことを意味している。物質の出入りがない場合には残存率は100%になるが、洗浄工程等が入る場合やフロー系等では磁性粒子が流されて100%よりも少なくなる場合がある。)。その一方で、磁性粒子被覆面の剥離・脱離後においては粒子同士が磁気的に強く凝集しない方がよいので、残留磁化は小さい方が好ましい。その点でいえば、例えば磁性粒子の残留磁化は0〜10A・m/kgであることが好ましく、より好ましくは0〜5A・m/kgである。
【0025】
磁性粒子の形状も特に制限されず、球形、楕円体形、多面体形、針状形、不定形等など、所望の被覆面を形成できればいずれでも構わない。また、用いられる磁性粒子は、一次粒子が凝集した形態であってもよい。
【0026】
上記のような特性を有する限り、磁性粒子の磁性物質はいずれの材質であってもよい。例えば、磁性物質は、強磁性粒子であるのが好ましく、例示すると強磁性酸化物粒子である。強磁性粒子の材質は、鉄、コバルト、ニッケルなどの公知の金属ならびにそれらの合金および酸化物などであってよい。特に磁界に対する吸引力に優れることから、強磁性酸化物粒子として強磁性酸化鉄や窒化鉄を用いることが好ましい。この強磁性酸化鉄としては、公知の種々のものを使用できるものの、特に化学的安定性に優れることから、マグヘマイト(γ−F e)、マグネタイト(Fe)、ニッケル亜鉛フェライト:Ni(1−X)ZnFe(0<X<1)およびマンガン亜鉛フェライト:Mn(1−x)ZnFe(0<X<1)から成る群から選択される少なくとも1種のフェライトであることが好ましい。これらの中でも大きな磁化量を有しており、磁界に対する感応性に優れたマグネタイト(Fe)が特に好ましい。磁性粒子は超常磁性粒子であってもよく、例えば粒径10nm以下の磁性酸化鉄粒子、FePt粒子やFe粒子などを使用してよい。さらに、磁性粒子は、軟磁性粒子であってもよく、例えば軟磁性鉄粒子であってよい。この粒子材質としては、ケイ素鋼、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、ソフトフェライト、アモルファス磁性合金および/またはナノクリスタル磁性合金等を使用することができる。
【0027】
上述したように、磁性粒子の形状は、球形、楕円体形、多面体形やこれらに近い不定形等であってよいものの、磁性粒子は小さい残留磁化を有することが好ましいので、形状磁気異方性を有する磁性物質(例えば強磁性酸化鉄)の場合では、等方的な形状に近い形状が好ましい。
【0028】
磁性粒子は磁性物質だけでなく、非磁性物質を含んでいてもよい。例えば、生体関連物質、ポリマー、セラミックス等の無機物質、または金属等を含んでいてよい。それらの中にはさらに別の成分が含まれていてもよく、例えば、架橋剤、分散剤、安定剤、可塑剤、界面活性剤、色素等が含まれていてもよい。
【0029】
磁性粒子に含まれる非磁性物質についていえば、特に用途に適した物質を選択することが重要である。例えば、細胞培養用途においては、細胞が接着するように親水性を呈する物質で表面を覆うことが好ましい。また、酵素反応、抗原抗体反応等においては、酵素、抗体または抗原などを結合させるための官能基もしくは物質、非特異結合を抑制する官能基や物質、または、活性や反応を阻害する金属イオン等の溶出を抑制する物質等で表面を覆うことが好ましい。
【0030】
磁性物質と非磁性物質とから成るハイブリッドな粒子形態としては、特に制限されるものではないが、磁性物質のコアを非磁性物質のシェルで覆った形態、非磁性物質の中に複数の磁性物質を分散させた形態、非磁性物質のコアに磁性物質のシェルで覆った形態、さらに非磁性物質のシェルをもう1層重ねた形態などを挙げることができる。先に挙げたものほど磁性物質の比率を高くしやすいため、強い磁性粒子被覆面を形成するにはその順に選択することが好ましい。磁性粒子中の磁性物質の比率は、被覆面において適当な強度を得るため、5体積%以上であることが好ましく、20体積%であることがより好ましく、50体積%以上であることがさらに好ましい(磁性粒子の体積基準)。
【0031】
磁性粒子に用いられるポリマーとして代表的なものを例示すれば、スチレン樹脂、スチレン誘導体の重合体、アクリル樹脂、アクリル誘導体の重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアルキレングリコール、セルロース、キチン、キトサン、ポリアミン、ポリイミン、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、スチレン−ブタジエンゴム等、および、これらの誘導体・共重合体等を挙げることができる。また、磁性粒子に用いられるセラミックス等の無機物質として代表的なものを例示すれば、シリカ、活性炭、ケイ酸マグネシウム、ハイドロキシアパタイト等を挙げることができる。更には、磁性粒子に用いられる金属として代表的なものを例示すれば、金、銀、銅、チタン等やこれらの合金等が挙げられる。
【0032】
工程(i)において磁性粒子分散液30を使用する場合、かかる分散液は、磁性粒子10と液体20とを相互に混ぜ合わせることによって調製することができる。磁性粒子と共に使用される液体は、特に制限されるわけではないが、水、培養液(例えば足場依存性細胞の培養に適した液体)、溶剤、バッファー、反応溶液、および検体液などの流体を挙げることができる。特に本発明はバイオテクノロジー・ライフサイエンス分野に関するものであり、その点に鑑みれば、動物・植物の組織、微生物、動物細胞、植物細胞、遺伝子、タンパク質および脂質などの生物・生体関連物質が液体中に含まれ得る。尚、磁性粒子の分散性を向上させるためには、必要に応じて界面活性剤などが液体に加えられてもよい。
【0033】
磁性粒子と液体とを混合する際の温度条件は、特に制限はなく、例えば常温である。また、混合する際の圧力条件も特に制限はなく、大気圧下で行うことができる。液体中に磁性粒子を供給するだけで、磁性粒子が液体中に好適に分散する場合においては特に攪拌操作は必要ないものの、磁性粒子の分散を促進するためにマグネティックスターラーやスリーワンモータなどの攪拌機を用いてもよい。尚、磁性粒子は、それが複数個存在する粉末形態として供給され得る。供される粉末形態の粒子量は、被覆面サイズや用途等との関係で決まってくるものであり、総括的に特定できるものではないが、少なくとも被覆面サイズ領域をカバーできる量が必要とされる(あくまでも一例であるが、おおよそ10−3g〜10g程度の磁性粒子粉末が必要となり得る)。
【0034】
工程(i)において磁性粒子または磁性粒子分散液と接触した状態で使用される面部材は、磁性粒子を配置・配備させることができる“面”を備えている。つまり、「面部材」は、そのような“面”を備えた部材またはその一部分であるといえる。具体的な「面部材」は、容器、容器の内壁部(例えば底壁部)、プレート部材、および流路部材などである。尚、“面”は、平面であることが一般に好ましいものの、特にそれに限定されず、曲面や凹凸面であってもよい。また、“面”は、平滑面に限らず、粗面であってもよい。
【0035】
例えば、磁性粒子分散液が使用され、「面部材」が容器の底壁部となる場合では(図3参照)、液体を予め容器に仕込んでおき、その容器中の液体に対して磁性粒子を供することによって、磁性粒子分散液と面部材とが相互に接触した状態を得ることができる。また、「面部材」がプレート部材の場合では、予め調製しておいた磁性粒子分散液をプレート部材へと供することによって、磁性粒子分散液と面部材とが相互に接触した状態を得ることができる。尚、磁性粒子分散液でなくて“複数の磁性粒子”がそのまま使用され、「面部材」が容器の底壁部となる場合では、容器内に磁性粒子を供するだけで(即ち、容器の内側に複数の磁性粒子を入れることによって)、磁性粒子と面部材とが相互に接触した状態を得ることができる。同様に、磁性粒子分散液でなくて“複数の磁性粒子”がそのまま使用され、「面部材」がプレート部材となる場合では、プレート部材に磁性粒子を供するだけで(即ち、プレート部材の上面に対して複数の磁性粒子を載せることによって)、磁性粒子と面部材とが相互に接触した状態を得ることができる。
【0036】
工程(i)に引き続いて、工程(ii)を実施する。つまり、「複数の磁性粒子」または「複数の磁性粒子および液体を含んで成る磁性粒子分散液」が接触している“面部材の面A”と対向する面B側から磁場を印加する。例えば、図2(b)に示すように、磁性粒子分散液30が接触している“面部材の面A”の背面側となる面B側から磁場を印加する。磁場の印加によって複数の磁性粒子を面A上に膜状に配置し、それによって、面部材の面Aにおいて磁性粒子被覆面を一時的に形成する。
【0037】
工程(ii)の磁場は、磁性粒子を面に固定しておくことができるものであれば、いかなるものを用いて発生させてもよい。例えば、磁場印加のために、永久磁石または電気的な磁石などを用いてよい。永久磁石は、例えば、希土類磁石のサマリウム-コバルト磁石やネオジム磁石、フェライト磁石の酸化鉄磁石、合金磁石のアルニコ磁石や鉄-クロム-コバルト磁石等を用いることができる。また電気的な磁石としては、例えば、電磁石やソレノイド等を用いてよい。必要な磁場の強さは磁性粒子の磁気的な特性によっても異なるが、上述したような「実際の使用条件下における磁性粒子の残存率」を発現できる磁場の強さを供するものが好ましい。
【0038】
ここで、磁場の強さは距離の二乗に反比例するため、所望の面の背面(即ち“B面”)になるべく近い位置に磁石を設置することが好ましい。同様の理由により、磁石の形状は、磁性粒子被覆を形成する部分全体に渡ってなるべく均一な距離で近接可能となる形状が好ましい。例えば、所望の面(“面A”)が平面であれば、少なくとも1つの面が平面となった磁石が好ましい。また、所望の面(“面A”)が曲面であれば、少なくとも1つの面が曲面となった磁石(特に面Aと相補的な曲面形状を有する磁石)が好ましい。
【0039】
磁性粒子被覆を形成する領域が十分に狭い場合、例えば概ね短手長さが2cm以下の場合、1つの磁石で磁性粒子被覆を得ることができる。しかしながら、短手長さが2cmよりも大きくなると、磁石周囲の磁場に対して中心部の磁場が弱くなるため、膜厚が均一な磁性粒子被覆を得ることが一般に難しくなる。そこで、本願発明者らは、鋭意検討した結果、小さい磁石をN極S極交互に並べると被覆面形成に効果的となり、磁性粒子被覆サイズが大きくても均一な膜厚の磁性粒子被覆を得ることができることを見出した(図4(a)および図4(b)参照)。特に本発明においては、図4(a)に示すような「サブ磁石60’がマトリックス状に複数配置されることにより構成された磁石集合体60」を用いることが好ましい。即ち、「サブ磁石60’が行列状または格子状に整列して配置されることにより構成された磁石集合体60」を用いることが好ましい。具体的には図4(a)に示すように、横方向(“行”方向)および縦方向(“列”方向)に整列するサブ磁石60’のN極またはS極が集合体の上面・下面において交互に表出するように、磁石集合体60を構成することが好ましい。個々のサブ磁石60’が円柱形状を有する場合、被覆形成面の背面に向ける面(即ち“B面側”に向ける面)の短径サイズは、5mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以下である。尚、サブ磁石60’における“背面に向ける面”(“B面側”に向ける面)の形状は、正方形、長方形、円形、楕円形、あるいはこれらを組み合わせたような中間的な形状であってよい。
【0040】
[本発明の種々の特徴的態様]
本発明の方法は、種々の特徴的態様で実施されるものである。以下これについて詳述する。
【0041】
本発明で形成される磁性粒子被覆面は培地担体または反応担体として用いることができる。磁性粒子被覆面を培地担体として用いる場合、親水性を呈するように磁性粒子を処理しておくことが好ましい。例えば、コラーゲン等のタンパク類、ペプチド類、(多)糖類等の天然高分子、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の合成高分子、およびリン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト等の無機物質から成る群から選択される少なくとも1種類以上の親水性物質で磁性粒子を覆っておいてよい。これにより、磁性粒子被覆面を細胞培養(特に足場依存性細胞)の足場として好適に用いることができる。なお、ナノピラー効果が期待できる場合には、磁性粒子を覆う物質として疎水性の物質も好適に用いることができる。また、磁性粒子被覆面を反応担体(特に、酵素、抗体または抗原などを固定するための担体)として好適に用いる場合、「酵素、抗体または抗原を結合させるための官能基または物質」を磁性粒子に固定化しておくことが好ましい。「酵素、抗体または抗原を結合させるための官能基」としては、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、トシル基、スクシンイミド基、マレイミド基、チオール基、チオエーテル基およびジスルフィド基などの硫化物官能基、アルデヒド基、アジド基、ヒドラジド基、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、イミドエステル基、カルボジイミド基、イソシアネート基、ヨードアセチル基、カルボキシル基のハロゲン置換体、金属錯体、ならびに、二重結合から成る群から選択される少なくとも1種以上の官能基を挙げることができる。また、用途に応じて、これらの官能基を仲介して、種々の物質を結合しておいてもよい。代表的なものを例示すれば、上記酵素や抗体の他、各種蛋白質、レセプター、リガンド、抗原、核酸、糖鎖等を結合させておいてよい。また、「酵素、抗体または抗原を結合させるための物質」としては、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、プロテインAおよびプロテインGから成る群から選択される少なくとも1種類以上の物質を挙げることができる。
【0042】
本発明の方法で形成される磁性粒子被覆面は、磁場吸引により形成されているので、磁場を除去するだけで容易に被覆面を剥離・脱離することができる。例えば、磁場印加に永久磁石を用いる場合では、かかる永久磁石を“B面”から遠ざけることによって磁場を除去することができる。また、磁場印加に電気的な磁石などを用いる場合では、同様に磁石を遠ざけるか、あるいは、通電を停止することによって磁場を除去できる。尚、サブ磁石から構成された磁石集合体を用いる場合についていうと、剥離・脱離に際して局所的な剥離・脱離を行うことができる。具体的には、一部のサブ磁石のみを遠ざけたり、通電停止などを局所的に施したりすると、磁性粒子被覆面の一部を局所的に剥離・脱離させることも可能である。
【0043】
本発明では被覆面の剥離・脱離を行うことができるので、即ち、磁性粒子被覆面が“一時的”に供されるので、培養処理や反応処理後の磁性粒子(例えば、「意図された細胞が付着した磁性粒子」または「反応生成物が付着した磁性粒子」など)を回収することができたり、あるいは、そのような磁性粒子に対して更なる処理を施すことができる。例示すると、図2(c)に示されるように、磁場を除去して、磁性粒子10を当初分散していた液体20中へと再分散させること(工程(i)で磁性粒子分散液が使用された場合)または別途供給した液体20中へと再分散させること(工程(i)で複数の磁性粒子がそのまま使用された場合)ができる。あるいは、液体を除去し、その後に磁場を除去すると磁性粒子を直接的に回収することもできる。更には、そのような液体除去の後に別の液体を供給し、その後において磁場を除去すると別途新たに供された液体中へと磁性粒子を分散させることも可能である。ここで、本発明においては、あくまでも“磁性を呈する粒子”が用いられているので、粒子の回収・分散などに際しては、必要に応じて磁気的な操作を施すことができる。即ち、別途磁場などを作用させて磁性粒子の効率的な回収・分散を行うことができる。
【0044】
磁性粒子被覆面の特徴的態様について更に説明する。図5〜図7に示すように、本発明では好ましくは、磁性粒子被覆面100として磁性粒子から成る層が複数積層した磁性粒子膜100’を形成する。換言すれば、図5〜図7に示されるように、形成される磁性粒子膜は複数の磁性粒子が積み重なった形態を有している(例えば、粒子膜厚さ方向に好ましくは数個分以上の粒子が積層した形態を有している)。特に図5および図6の下側に示されるように、磁性粒子膜自体は、粒子の外輪形状に基づく凹凸を有していたり、隣接する磁性粒子から形成された隙間部分を有している。つまり、磁性粒子被覆面は、凹凸や隙間部分に起因する“孔”を複数有し、多孔性の被覆面となっているので、培地担体または反応担体として好適に用いることができる。例えば、このような凹凸部分や隙間部分などの孔の存在によって、磁性粒子被覆面における表面積を増大させることができ、それゆえ、細胞培養効率や反応効率を向上させることができる。例えば、磁性粒子被覆面における凹凸/隙間部分/孔などは、表面積の大きな反応場として用いることができたり、ナノピラー細胞培養シートと類似の効果(3次元組織体(スフェロイド)形成)などが供される(尚、ここでいう「ナノピラー」とは微細または超微細な“柱状構造”を有する態様を実質的に意味している)。
【0045】
用途による粒径などの違いを例示すると次のようになる。例えば培地担体(即ち“細胞用の培地の被覆面”)としては、被覆面の剥離・脱離後も細胞表面に磁性粒子が残ることが考えられるので、細胞(5〜25μm程度)よりも小さなサイズの磁性粒子が好ましい。このため、例えば、磁性粒子の粒径は50nm以上かつ5μm以下であることが好ましく、100nm以上かつ2μm以下であることがより好ましい。また、反応担体(即ち“反応に供する酵素、抗体または抗原等を固定するための被覆面”としては、反応効率を更に上げるべく表面積を大きくしたい場合が多く、反応に関係する物質や反応液等が自由に出入りできる孔が好適に形成されるようなサイズ・形状の磁性粒子が好ましい。この点、孔のサイズは一次粒子の最も短い径(短径)が特に効いてくるため、例えば、磁性粒子の短径は50nm以上かつ1mm以下であることが好ましく、100nm以上かつ2μm以下であることがより好ましい。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0047】
例えば、上記の実施形態では、工程(i)に続いて工程(ii)を実施する形態について主に説明したが、本発明は、実施順序には依らない工程(i)および工程(ii)を含むものであって、どちらの工程を先に実施しても構わない。即ち、工程(ii)を実施した後に、工程(i)を実施してよく、その場合であっても本発明の効果は同様に奏される。換言すれば、本発明の工程(i)および(ii)の実施順序は、実際の用途や使用方法など応じて適宜選択可能である。
【実施例】
【0048】
本発明に従って実証試験を行った。かかる試験に使用した「磁性粒子分散液」、「面部材」および「磁場印加手段」は次の通りである。

●磁性粒子分散液
磁性粒子の材質:マグネタイト
磁性粒子の粒径:約0.25μm
磁性粒子の形状:球形〜立方体形
液体:水


●面部材
上面側が開口した容器(容器底面が“面”に相当)


●磁場印加手段(図8(a)参照)
サブ磁石がマトリックス状に複数配置された磁石集合体:直径2mmの円筒形のサブ磁石のN極またはS極が集合体の上面・下面において交互に表出するように横方向および縦方向に整列させた磁石集合体
【0049】
まず、磁性粒子分散液を容器に仕込み(図8(b))、次いで、容器底側に磁石集合体を配置して磁場を印加した。これにより、容器底壁の内面に磁性粒子を膜状に配置させ磁性粒子被覆面を形成した(図8(c))。得られた磁性粒子被覆面では、磁性粒子膜が複数の磁性粒子が積み重なった形態を有していた(磁性粒子被覆面は濃い黒色を呈していることから粒子膜厚さ方向に数十個以上の粒子が積層していたと推定される)。また、磁性粒子被覆面では、粒子の外輪形状に基づく凹凸や、隣接する磁性粒子から形成された隙間部分に起因した“孔”が多数確認された。そして、磁性粒子被覆面は強く容器底面に吸着しており、容器(液体)を全体的に揺らしても依然吸着状態が維持された。その後、磁石集合体を除去し、液をかき混ぜると、図8(b)に示すような「磁性粒子が分散した状態」へと戻すことができた。
【0050】
尚、付加的な試験として、大きな単一磁石(図9(a))を使用して同様の操作を行った。その結果、大きな磁石単体で磁性粒子を容器底面に固定した場合では、中央部の磁場が弱いため、容器(液体)を軽く揺すると磁性粒子被覆面(磁性粒子膜)に大きな隙間が生じてしまい不均一な被覆面となることが分かった(図9(b))。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明では、バイオテクノロジー・ライフサイエンス分野にて好適に用いられる磁性粒子被覆面を形成できる。例えば、動物細胞の足場依存性細胞を培養するための培地足場として好適な被覆面を形成できたり、あるいは、反応に用いる酵素等の固定や体外診断に必要な抗体等の固定にとって好適な反応容器内面の被覆面などを形成できたりする。
【符号の説明】
【0052】
10 磁性粒子
20 液体
30 磁性粒子分散液
50 面部材
60 サブ磁石がマトリックス状に複数配置されることにより構成された磁石集合体
60’ サブ磁石
100 磁性粒子被覆面
100’ 磁性粒子膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオテクノロジー・ライフサイエンス分野において用いられる磁性粒子被覆面を形成する方法であって、
(i)複数の磁性粒子または複数の磁性粒子および液体を含んで成る磁性粒子分散液と、面部材とが相互に接触した状態を得る工程、ならびに
(ii)前記複数の磁性粒子または前記磁性粒子分散液が接触している前記面部材の面Aと対向する面B側から磁場を印加する工程
を含んで成り、
前記工程(ii)では、前記磁場の印加により前記複数の磁性粒子を前記面A上に膜状に配置し、それによって、前記面Aにおいて磁性粒子被覆面を一時的に形成することを特徴とする、方法。
【請求項2】
サブ磁石がマトリックス状に複数配置されることにより構成された磁石集合体を前記面B側に供し、それによって前記磁場を印加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記磁性粒子被覆面において、前記磁性粒子から成る層が複数積層した磁性粒子膜を一時的に形成することを特徴する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記磁性粒子被覆面として、前記複数の磁性粒子から構成された多孔性被覆面を形成することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記磁性粒子被覆面が培地担体または反応担体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記磁性粒子被覆面を、足場依存性細胞を培養するための足場として用いることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記磁性粒子被覆面を、酵素、抗体または抗原を固定するための担体として用いることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記磁場を除去することによって、前記膜状に配置されていた前記磁性粒子を前記面Aから離脱させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−59281(P2013−59281A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199206(P2011−199206)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】