説明

被記録媒体

【課題】画像の長期保存における大気中の酸性ガスによる画像の変退色、および高温高湿下での画像の滲みが効果的に防止された被記録媒体を提供する。
【解決手段】基材上にインク吸収性および/またはインク透過性を有する樹脂層を少なくとも1層設けた支持体上に、樹脂層上に隣接して積層されるインク受容層が、2つ以上の活性水素基を持つ含硫黄有機化合物と2つ以上のイソシアネート基持つ化合物と少なくとも反応させて得られる高分子化合物を含有する被記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクによる記録に好適な被記録媒体に関し、特にインクジェット記録方式を利用したプリンターやプロッターに適用した際に、インク吸収性に優れ、高品質な画像記録が可能で、かつ長期保存における画像の変退色および高温高湿下での画像の滲みが抑制された被記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの微小液滴を種々の作動原理により紙などの被記録媒体に付着させると同時に、インクの溶媒成分が被記録媒体にしみ込むかまたは蒸発することで、色材成分が被記録媒体上に沈着し、画像や文字など(以下、単に「画像」という)の記録を行う記録方式である。また、インクジェット記録方式は、高速印字性、低騒音性および記録パターンの融通性に優れ、さらに多色化を容易に行うことができ、現像および画像定着が不要であるといった特徴がある。
【0003】
特に、多色インクジェット方式で形成された画像は、製版方式による多色印刷やカラー写真方式による画像と比較しても遜色のない記録を得ることが可能で、作成部数が少ない場合には通常の印刷技術や写真技術より印刷コストが安価に済むという利点もあることから、近年、各種情報機器の画像記録装置として急速に普及している。例えば、デザイン業界におけるイメージデザインのアウトプット、写真画質が要求される印刷分野におけるカラー版下の作製、頻繁に取り替えられる看板や商品の見本など、フルカラー画像記録が必要な分野へと幅広く応用されつつある。また、最近では、パーソナルコンピューターやデジタルスチルカメラが広く普及したことから、一般家庭においてもインクジェットプリンターを用いて写真画像を出力する機会が多くなっている。
【0004】
しかしながら、インクジェットプリンターで記録された画像は製版方式による多色印刷やカラー写真の画像と比較して、大気中の酸性ガスおよび光による変退色が著しく、長期保存には適していないのが現状である。特に、大気中に微量に含まれるオゾンガスは、記録画像を著しく劣化させる傾向があり、経時による変退色の原因となっており、これまでにその性能を改善するための提案が数多く為されてきた。
【0005】
例えば、耐ガス性の向上を目的として、特許文献1ではチオエーテル系化合物、特許文献2ではヒドラジド系化合物、特許文献3および特許文献4には、チオ尿素誘導体、チオセミカルバジド誘導体、チオカルボヒドラジド誘導体などを含有させた被記録媒体が開示されている。また、特許文献5では、チオ尿素誘導体、チオセミカルバジド誘導体およびチオカルボヒドラジド誘導体からの1種類と、ヨウ素、ヨウ化物、ジチオカルバミン酸、チオシアン酸塩およびチオシアン酸エステルからの1種類とをそれぞれ含有させた被記録媒体が開示されている。
【0006】
しかしながら、これら低分子化合物を用いた従来の手法では、変退色に有効な化合物でも、非水溶性のものは水系の塗工液に添加できなかったり、水溶性のものであっても耐水性や高温高湿下での画像滲みを悪化させるという弊害があり、被記録媒体の性能を向上させるだけの量を添加することは困難であった。
【0007】
また、これら低分子化合物における諸問題を解決する手段として、スルフィド基などのユニットが組み込まれた、変色または褪色防止効果を有する高分子化合物を含有させた被記録媒体が提案されている。例えば、特許文献6では、ジアリルアミン系化合物と、スルフィド基またはチオカルボニル基を有するエチレン性不飽和化合物とのコポリマーを含有した被記録媒体が、特許文献7では、アルキルチオ基、アリールチオ基、チオカルボニル基およびチオシアネート基のいずれかを有するカチオン性ポリウレタンを含有した被記録媒体が開示されている。しかしながら、これらの高分子化合物は、前記低分子化合物に比べて添加量に対する変色/褪色防止効果が低く、特に空隙型のインク受容層を有する被記録媒体に適用した場合、その改良効果を十分に発現できる量を添加すると、インク吸収性や画像濃度が低下するという問題を生じていた。
【0008】
一方、フォトライクな高画質記録物が得られる光沢紙の用途においては、光沢性や銀塩写真に類似した印画紙状の風合いが要求されており、支持体としてレジンコート紙を使用した被記録媒体が主流となっている。しかしながら、非吸水性であるレジンコート紙を用いた被記録媒体はインク吸収性が乏しく、画像記録後、高温高湿環境下で長時間保存した場合に染料が滲み、画像品位が悪化してしまう問題を生じる。このような問題を解決する方法として、一般的にカチオン性ポリマーが利用されている。カチオン性ポリマーを添加することで、染料の滲みが防止されるが、十分な効果を得るためには多量のカチオン性ポリマーが必要であり、インク受容層中に占めるカチオン性ポリマーの量は相対的に増加する。従って、無機微粒子を用いた多孔質(空隙型)のインク受容層では空隙が減少し、インク吸収性が低下する問題が生じる。
【0009】
光沢紙に分類される被記録媒体として、上記レジンコートを使用したもの以外、紙あるいはコート紙などの吸水性を有する支持体上に、キャスト法によりインク受容層を形成した被記録媒体がある。このような被記録媒体は、非吸収性支持体を使用した被記録媒体と比較して、インク吸収性に優れ、高温高湿環境下での画像の滲みが生じ難いという利点がある。しかしながら、吸水性支持体上にインク受容層を設けた被記録媒体は、カール制御が困難なこと、また、印刷部分の光沢度が低下したり、インク打込量が多い場合には被記録媒体にコックリングが発生するといった問題がある。さらにキャスト法で製造される被記録媒体は、その製造プロセスにおいて、湿潤状態にあるインク受容層を加熱した鏡面ロールに接触させることで平滑性が得られるが、この工程は被記録媒体の製造スピードを律速させ、生産性を低下させることから、このような平滑化処理を必要としないフィルムやレジンコート紙を支持体として用いた場合よりコスト的に不利であった。
【特許文献1】特開平01−115677号公報
【特許文献2】特開昭61−154989号公報
【特許文献3】特公平04−034953号公報
【特許文献4】特開平07−314883号公報
【特許文献5】特開平08−025796号公報
【特許文献6】特開2003−089266号公報
【特許文献7】特開2004−345309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の実態に鑑みて為されたものであり、インクジェット記録方式を利用したプリンターやプロッターで記録する際に、光沢性および、インク吸収性に優れた高品質な画像記録が可能で、かつ画像の長期保存における大気中の酸性ガスによる画像の変退色、および高温高湿下での画像の滲みが効果的に防止された被記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、平滑化処理を行なうことなく、光沢性に優れたインク受容層が形成でき、さらにインク吸収性に優れた高品質な画像記録が可能で、大気中の酸性ガスによる画像の変退色および高温高湿下での画像の滲みを効果的に防止した被記録媒体を得るために種々検討を重ねた結果、基材上にインク吸収性および/またはインク透過性を有する樹脂層を有し、その上に含硫黄有機化合物を反応させて得られる高分子化合物を含有するインク受容層を積層することで、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、支持体の少なくとも一方の面にインク受容層を設けてなる被記録媒体において、該支持体が、基材上にインク吸収性および/または透過性を有する樹脂層を少なくとも1層含有し、かつ該樹脂層上に積層されるインク受容層が含硫黄有機化合物を反応させて得られる高分子化合物を含有することを特徴とする被記録媒体を提供する。
【0013】
上記発明における被記録媒体においては、前記樹脂層の透湿度が100g/m2・24hr以上であること;さらに前記支持体表面の平滑度が300秒以上であること;前記高分子化合物が、2つ以上の活性水素基を有する含硫黄有機化合物と2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物とを少なくとも反応させて得られる化合物であること;および前記支持体が吸水性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の構成とすることで、光沢に優れ、インク吸収性に優れた高品質な画像記録が可能で、さらに大気中の酸性ガスによる画像の変退色および高温高湿下での画像の滲みが効果的に防止された被記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明において使用する基材としては特に限定はしないが、例えば、適度のサイジングが施された紙、無サイズ紙、コート紙、キャストコート紙、紙の片面或いは両面がポリオレフィンなどの非吸水性樹脂で被覆された樹脂被覆紙(以下「レジンコート紙」と記す)などの紙類からなるもの;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリアセテート、ポリ塩化ビニル、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレートおよびポリカーボネートなどの透明な熱可塑性樹脂フィルム;無機物の充填または微細な発泡により不透明化されたフィルムからなるシート状物質(合成紙など);布帛;さらにはガラスまたは金属などからなるシートなどが挙げられる。
【0016】
上記基材の中で、インク吸収性の観点から基材自身にも高い吸液性(特に水性インク、または水性インク中の水溶性溶媒に対する吸収性)を必要とする場合には、紙類あるいは布帛などが好ましく使用できる。
【0017】
本発明においては、上記基材上に樹脂層を形成することで支持体が得られるが、該支持体表面の平滑性を上げ、さらに樹脂層上に形成するインク受容層の光沢度を高めて、銀塩写真と同等の画質が付与できる被記録媒体を製造する場合には、上記吸液性を有する基材の中で、上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙などの平滑性の高い基材を用いるのが好ましい。特に、JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.5による王研式平滑度が10秒以上のものが好ましく、より好ましくは50秒以上、さらに好ましくは100秒以上ものが望ましい。
【0018】
基材の厚さには特に制限はないが、25μm〜500μmの範囲が好ましく、より好ましくは50μm〜300μmの範囲である。基材の厚さが25μmより薄い場合は得られる被記録媒体の剛性が低く、手にした時の感触や質感或いは不透明性が不十分となるなどの不都合が生じる。逆に、500μmより厚い場合には、得られた被記録媒体が剛直となり、プリンターの給紙走行に支障を来すことがある。また、基材の重さについても特に制限はなく、おおよそ25g/m2〜500g/m2の範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明の支持体は、前記基材の少なくとも一方の面にインクを吸収および/または透過(特に水性インク、または水性インク中の水溶性溶媒の吸収性または透過性であり、以下、特に断らない限り「インク浸透性」という)する樹脂層を形成することで得られる。
【0020】
基材上に形成される樹脂層は、水性インクに対して濡れ性が高く、水性インク(特にインク中の水溶性溶媒)を吸収・透過可能な親水性重合体を主成分として構成されていることが好ましい。親水性重合体としては、例えば、セルロース、セルロース誘導体[セルロースエステル(酢酸セルロース(セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなど)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの混酸エステルなど)、セルロースエーテル(エチルセルロースなど)]、ビニル系重合体[ポリ酢酸ビニルおよびその完全または部分ケン化物(ポリビニルアルコールなど)、エチレン−酢酸ビニル共重合体およびその完全または部分ケン化物(エチレン−ビニルアルコール共重合体)]、アクリル系重合体[ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、ポリN−メチルアクリルアミドなど]、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキサイド(ポリエチレングリコールなど)、ポリアルキルビニルエーテル(ポリメチルビニルエーテルなど)、カルボキシル基含有重合体またはその塩(スチレン−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル−(メタ)アクリル酸共重合体、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体など)、ポリスルホン系重合体(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、ポリアミド、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、これら親水性重合体は、単独もしくは二種以上を組合せて使用することができる。
【0021】
上記親水性重合体の中で、セルロース、その誘導体;ポリアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系重合体;あるいはポリスルホン系重合体など、所謂半透膜の素材として利用されているもの、およびポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニル系重合体は、高温高湿下での画像の滲みを抑制するという本発明の支持体の効果を発揮するうえで特に優れており、好ましく使用することができる。
【0022】
上記親水性重合体は、水に対する接触角が80°未満のものを指すが、本発明においては樹脂層のインク浸透性を向上させるという観点から、接触角が60°以下のものが好ましく、40°以下のものがさらに好ましい。ここで接触角とは、重合体表面に置かれた水滴の表面と重合体との交点において、水滴に対する接線と重合体表面とがなす角度であり、この角度が小さい程、水性インクに対する濡れ性が高いことを意味する。本発明における接触角の値は、上記親水性重合体からなるフィルムを23℃、50%RHで12時間放置した後、フィルム上に純水2μlを滴下し、液量が変化しない範囲(液滴がフィルムに吸収されず、かつ蒸発しない範囲)で、液滴の広がりが最大となる時点(滴下後0.1〜60秒後)の角度を接触角計(例えば、自動接触角計CA−VP(協和界面科学(株)社製))を用いて測定することにより得られる。
【0023】
また、本発明においては、樹脂層のインク浸透性を向上させ、高温高湿下での画像の滲みを抑制するという本発明の支持体の効果を十分に発揮させるために、樹脂層のJIS−Z−0208に基づく透湿度が100g/m2・24hr以上であることが好ましく、透湿度が300g/m2・24hr以上であればさらに好ましい。なお、本発明における透湿度は、JIS−Z−0208に規定された温湿度条件(温度:40℃、湿度:90%RH)で測定された値である。
【0024】
本発明の支持体において、基材上に形成される樹脂層の厚さは10〜100μmの範囲が好ましく、より好ましい範囲は10〜50μm程度である。樹脂層の厚さが10μm未満では、製造時にピンホールなどの欠陥が発生してインク吸収性が不均一となったり、あるいは基材表面の凹凸が緩和されずに樹脂層表面の平滑性が低下する場合がある。逆に、樹脂層の厚さが100μmを超える場合は、インク吸収性が低下する恐れがある。該樹脂層上に形成するインク受容層の光沢性を高めるためには、樹脂層の厚さは上記範囲内であって、かつ基材の表面粗さ[JIS−B−0601に基づく最大高さ(Ry)]より大きいことが好ましい。
【0025】
本発明において、基材上に樹脂層を形成する方法としては、上記の好適な親水性重合体を適宜選択し、これらを適当な溶剤に溶解または分散させて塗工する方法;親水性重合体からなるフィルムを形成した後、該フィルムを基材にラミネートする方法;基材上にフィルムを押し出し成型して積層させる方法などが挙げられる。親水性重合体を溶解/分散した液の塗工方法としては、例えば、ロールコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、ゲートロールコーター法、バーコーター法、サイズプレス法、シムサイザー法、スプレーコート法、グラビアコート法、カーテンコーター法などが挙げられる。また、ラミネートする際に使用する接着剤としては、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエステル系、イソシアネート系、フェノール系、酢酸ビニル系およびアクリル系などが挙げられる。
【0026】
また、親水性重合体としてセルロースを使用する場合、従来より公知のセロファンフィルムの製造方法と類似するビスコース加工紙の製造方法と同様にして、基材上にビスコースを塗布・含浸させ、再生セルロース膜を生成することで樹脂層を形成してもよい。
【0027】
上記の如き方法で基材上に樹脂層が形成された支持体表面の平滑性については、JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.5による王研式平滑度が300秒以上、より好ましくは500秒以上である。支持体表面の平滑度が300秒未満の場合、被記録媒体の表面および形成される画像の光沢度が、著しく低くなる場合がある。
【0028】
樹脂層は透明、半透明または不透明のいずれであってもよいが、インク受容層に透明性があり、基材の色や凹凸面の模様が印刷される画像に影響する場合には、樹脂層中に樹脂層のインク浸透性を妨げない範囲で、各種着色剤、白色顔料、蛍光増白剤などを添加してもよい。また、樹脂層は、親水性重合体の種類やその他の添加剤の各組成比を変更して多層形成してもよく、基材の片面もしくは両面に形成することも可能である。特に、樹脂層が両面に形成された支持体では、その片面にインク受容層を形成しても樹脂層自体の表面電気抵抗が低いことから帯電し難く、一般のフィルムやレジンコート紙の裏面に施されている帯電防止処理が不要となる。また、親水性重合体からなる樹脂層は、インク受容層を形成する際に使用する水性塗工液に対して親和性が高く、疎水性表面を有するフィルムやレジンコート紙のようにインク受容層形成面に易接着処理を施す必要がないという利点もあり、いずれも被記録媒体の製造コストを下げるうえで有利に働く。
【0029】
なお、基材の片面のみに樹脂層を形成した支持体には、耐水性、カールバランス、被記録媒体として重積した場合のインク受容層表面との摩擦係数および摩擦による帯電などの調整、もしくはブロッキングを防止する目的で、樹脂層に使用される親水性重合体以外の各種樹脂、または無機微粒子や帯電防止剤などが混入された樹脂を、樹脂層が形成されていない裏面にバックコートもしくはラミネートしてもよい。また、樹脂層とその上に形成するインク受容層との接着強度を向上させるために、樹脂層表面にコロナ放電処理や各種アンダーコート処理を施すことも可能である。
【0030】
本発明においては、上記支持体上に、含硫黄有機化合物を反応させて得られる高分子化合物を含有するインク受容層を形成することで、本発明の被記録媒体が得られる。
【0031】
上記高分子化合物は、2つ以上の活性水素基を有する含硫黄有機化合物(A)とイソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネート化合物(B)とを原料成分とした反応生成物(以下「高分子化合物I」という)、さらに前記化合物Aおよび化合物Bに加えて、2つ以上の活性水素基を有するアミン化合物(C)を反応させ、得られた高分子化合物のアミノ基の少なくとも一部を、酸または4級化剤によりカチオン化したもの(以下「高分子化合物II」という)である。
【0032】
上記高分子化合物Iおよび高分子化合物IIの原料成分である化合物Aとしては、特に限定はしないが、分子内にスルフィド基を少なくとも1つ有する化合物が好ましく、特に好ましい範囲はスルフィド基の数が1〜10であり、更には1〜4の範囲である化合物が最も好ましい。具体的には下記一般式(1)〜(6)により表される化合物を挙げることができる。また、以下の含硫黄有機化合物Aは単独、もしくは2種以上を同時に使用して本発明で用いる高分子化合物Iおよび高分子化合物IIを合成することが可能である。
【0033】

(式中nは1または2を表す。また、R1はメチレン基、エチレン基、またはプロピレン基を表す。)
【0034】

(式中nは1または2を表す。また、R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子、水酸基またはアルキル基を表し、R2およびR3は同一であっても異なっていてもよい。)
【0035】

(式中nは0または1を表す。)
【0036】

(式中nは1または2を表す。また、R4は硫黄原子または酸素原子を表し、R5は硫黄原子または−SO2−を表し、R4およびR5は同一ではなく、それぞれ異なる基で構成される。)
【0037】

(式中R6およびR7はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、R6およびR7は同一であっても異なっていてもよい。)
【0038】

(式中R8は水酸基またはアルキル基を表す。)
【0039】
本発明で用いられる高分子化合物Iおよび高分子化合物IIの原料成分である化合物Bとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらポリイソシアネート化合物を単独、もしくは2種以上同時に使用して、本発明で用いる高分子化合物Iおよび高分子化合物IIを合成することが可能である。
【0040】
本発明で用いる高分子化合物Iは、上記化合物Aと化合物Bとの反応生成物である。化合物Aと化合物Bとは、活性水素基を例えばOHとした場合、両者をOH/NCOの当量比をほぼ1前後で反応させることが好ましい。OH/NCOの当量比が1から大きく外れると得られる高分子化合物Iの分子量が大きくならないので好ましくない。好ましいOH/NCOの当量比は0.95〜1.05の範囲である。さらに上記化合物Aと化合物Bとの反応に際しては、化合物Aおよび後述する化合物C以外の2つ以上の活性水素基を有する化合物(以下「化合物D」という)を併用してもよい。これらの化合物Dについては後述するが、この場合にも全反応物のOH/NCOの当量比は1前後で合成を行うことが好ましい。
【0041】
以上の如き方法で得られる本発明で用いる高分子化合物Iの中で特に好ましいものは、下記一般式(7)〜(12)で表される化合物である。
【0042】

(式中nは1または2を、R1はメチレン基、エチレン基、またはプロピレン基を、R9はアルキレン、脂環を1つ以上含む二価の脂肪族炭化水素基もしくは芳香環を1つ以上含む二価の芳香族炭化水素基を表す。mは重量平均分子量が1,000〜150,000になる数である。)
【0043】

(式中nは1または2を、R2およびR3はそれぞれ独立で水素原子、水酸基またはアルキル基を、R2およびR3は同一であっても異なっていてもよい。なお、R9およびmは一般式(7)と同義である。)
【0044】

(式中nは0または1を表す。R9およびmは一般式(7)と同義である。)
【0045】

(式中nは1または2を、R4は硫黄原子または酸素原子を、R5は硫黄原子または−SO2−を表し、R4およびR5は同一ではなく、それぞれ異なる基で構成される。なお、R9およびmは一般式(7)と同義である。)
【0046】

(式中R6およびR7はそれぞれ独立で水素原子またはアルキル基を表し、R6およびR7は同一であっても異なっていてもよい。なお、R9およびmは一般式(7)と同義である。)
【0047】

(式中R8は水酸基またはアルキル基を表す。なお、R9およびmは一般式(7)と同義である。)
【0048】
また、得られる高分子化合物Iにおいては、化合物Aから誘導されるユニットの高分子化合物I中に占める割合は、10〜70質量%であることが好ましい。より好ましくは30〜70質量%である。化合物Aユニットの含有量が上記範囲未満であると、充分な画像の変色または褪色防止効果を有する高分子化合物Iが得られない。一方、化合物Aユニットの含有量が上記範囲を超える割合であると、得られる高分子化合物Iが高価になり、また、高分子化合物Iを用いてインク受容層を構成する際の水性塗工液に対する溶解性や分散性が劣る場合が生じる。なお、化合物Aユニットの含有量が上記範囲において水性塗工液に対する溶解性や分散性が低い場合には、水溶性有機溶媒や界面活性剤などを用いることで改善することが可能である。使用可能な水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。使用可能な界面活性剤としては、カチオン性、ノニオン性、アニオン性の低分子、あるいは高分子系のものが使用できる。また、このようにして得られた高分子化合物Iの重量平均分子量は後述の理由と同様の理由で1,000〜150,000の範囲が好ましい。
【0049】
本発明で用いる高分子化合物IIにおいては、前記化合物Aと前記化合物Bとの反応に際して、さらに2つ以上の活性水素基を有するアミン化合物Cを反応させ、得られる高分子化合物II中に化合物Cユニットを組み込み、該ユニット中のアミノ基の少なくとも一部をカチオン化することが好ましい。化合物Cとしては、下記一般式(13)で表わされるような3級アミンが好ましい。
【0050】

(式中、R1、R2、R3はいずれか一つが炭素数1〜6のアルキル基、アルカノール基、またはアミノアルキル基であり、それ以外は同一もしくは異なっていてもよく、アルカノール基、アミノアルキル基、またはアルカンチオール基を表す。)
【0051】
上記一般式(13)で表される化合物の具体例としては、例えば、ジオール化合物としてN−メチル−N,N−ジエタノールアミン、N−エチル−N,N−ジエタノールアミン、N−イソブチル−N,N−ジエタノールアミン、N−t−ブチル−N,N−ジエタノールアミン、N−t−ブチル−N,N−ジイソプロパノールアミンなどが挙げられ、トリオール化合物としてはトリエタノールアミンなどが挙げられる。また、ジアミン化合物としてはメチルイミノビスプロピルアミン、ブチルイミノビスプロピルアミンなどが挙げられ、トリアミン化合物としてはトリ(2−アミノエチル)アミンなどが挙げられる。これらアミン化合物は単独、または2種以上同時に使用して本発明で用いる高分子化合物IIを合成することが可能である。
【0052】
本発明で用いる高分子化合物IIは、上記の通り化合物Aと化合物Bと化合物Cとを反応させ、化合物Aユニットと化合物Bユニットと化合物Cユニット(該ユニット中の3級アミノ基はカチオン化されている)を分子中に含む高分子として得られる。該高分子化合物IIの機能を十分に発現させるためには、該高分子化合物II中の化合物Cの含有量がモル比で5.5〜18.5%の範囲であることが好ましい。化合物Cの含有量がモル比で5.5%より低いと、親水基の含有率が低下してしまい、高分子化合物IIの水分散体を調製することが困難となり、インク受容層を形成する際の水性塗工液中への配合が難しくなる場合がある。一方、化合物Cの含有量がモル比で18.5%より高いと、該高分子化合物IIを含有させた被記録媒体において、光沢度や印字濃度が低下するといった問題が生じる場合がある。
【0053】
本発明で用いる高分子化合物IIは、化合物Cのモル比が上記の範囲であれば、化合物Cユニットは、該高分子化合物II中において3〜80質量%を占めることが可能である。化合物Cの高分子化合物IIにおける含有量が3%未満の場合、前述したような高分子化合物II自体の水分散性が低下し、80%を超えると被記録媒体における光沢度や印字濃度の低下を引き起こす場合がある。
【0054】
本発明で用いる高分子化合物IIにおいて、化合物Cの含有量が前述した範囲であれば、該高分子化合物II中に組み込まれた化合物Aユニットの質量は、該高分子化合物II中において10〜65質量%を占めることが好ましい。より好ましくは30〜65質量%を占める割合である。化合物Aユニットの占める割合が10質量%未満では、画像の変色/褪色防止効果が不十分となる場合がある。一方、化合物Aユニットの占める割合が65質量%を超えると、相対的に親水性基の含有率が低下してしまい、高分子化合物IIの水分散物を調製する際に不都合となる場合がある。
【0055】
また、化合物Bは、化合物Aと化合物Cとを連結させる機能を有し、その使用量は特に限定されないが、化合物Cユニットの含有量が前述した範囲であれば、化合物Bユニットの質量は、得られる高分子化合物II中において10〜80質量%を占めることが好ましい。より好ましくは30〜60質量%を占める割合である。化合物Bユニットの占める割合がこの範囲内であれば、化合物Aと化合物Cの各ユニットの機能を充分発揮するに足る量を結合することができる。
【0056】
また、上記化合物A〜Cを用いる高分子化合物IIの製造方法は、上記化合物A〜Cを一度に反応させてランダム重合体とする、所謂ワンショット方法でもよいし、化合物A(または化合物C)と化合物Bとをイソシアネート基リッチの割合で反応させて、末端イソシアネート基を有するプレポリマーを製造し、該プレポリマーと化合物C(または化合物A)とを反応させる、所謂プレポリマー法を用いてもよい。また、いずれの方法においても低分子量ポリオールや低分子量ジアミンなどの鎖伸長剤を併用してもよい。また、得られる高分子化合物IIの分子量は、化合物A〜Cの使用量の変更や、モノアルコールやモノアミンなどの反応停止剤を適当なタイミングで反応系に添加することによって調整することができる。
【0057】
このようにして得られた高分子化合物IまたはIIの重量平均分子量は、反応条件にもよるが、1,000〜150,000の範囲が好ましく、2,000〜50,000の範囲がさらに好ましい。高分子化合物の重量平均分子量が1,000未満では光沢度や印字濃度が低下する場合があり、150,000を超えると反応時間が長くなり製造コストが増加するので好ましくない。
【0058】
また、本発明で用いる高分子化合物IまたはIIの製造に際しては、前記化合物Aおよび化合物C以外の2つ以上の活性水素基を有する化合物Dを必要に応じて共重合させてもよい。このような化合物Dとしては、以下のようなポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、またはポリカーボネートポリオールを単独、もしくは2種以上同時に使用して、本発明に用いられる高分子化合物IまたはIIを合成することも可能である。
【0059】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量が300〜1,000であるポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン、アルキレンオキシド付加体などのグリコール成分と、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ヘンデカンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビスフェノキシエタン−p,p’−ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物ないしエステル形成性誘導体などの酸成分とから、脱水縮合反応によって得られたポリエステル類をはじめとして、さらにはε−カプロラクトンなどの環状エステル化合物の開環重合反応によって得られるポリエステル類、またはそれらの共重合ポリエステル類などが挙げられる。
【0060】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、しょ糖、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、アコニット酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、燐酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノールアミン、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタール酸、1,2,3−プロパントリチオールなどの活性水素を少なくとも2個有する化合物を、開始剤としてエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレンなどのモノマーの1種または2種以上を用いて、常法により付加重合したものが挙げられる。また、他のポリエーテルポリオールとして、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの1級アミノ基を少なくとも2個有する化合物を開始剤として用いて、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレンなどのモノマーの1種または2種以上を常法により付加重合したものを用いることもできる。
【0061】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールなどのグリコールとジフェニルカーボネートおよびホスゲンとの反応によって得られる化合物などが挙げられる。
【0062】
本発明で用いられる前記高分子化合物IおよびIIの合成に際しては、イソシアネート重付加反応において、錫系触媒および/またはアミン系触媒を用いることが望ましい。かかる錫系触媒としては、ジブチルスズジラウレート、スタナスオクトエートなどが挙げられ、アミン系触媒としてはトリエチレンジアミン、トリエチルアミン、テトラメチルプロパンジアミン、テトラメチルブタンジアミン、N−メチルモルホリンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
上記のイソシアネート重付加反応は、組成によって無溶剤下で行うことも可能であるが、反応系の反応抑制やベース粘度コントロールなどの目的でイソシアネート重付加反応系に直接関与しない親水性有機溶剤を反応溶媒として用いることが一般的である。このような親水性有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンの如きケトン類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチルの如き有機酸エステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンの如きアミン類などが挙げられる。また、使用した親水性有機溶剤は最終的に取り除かれるのが好ましい。
【0064】
本発明で用いる高分子化合物IIは、含有する化合物Cユニットの3級アミノ基の少なくとも一部を、該高分子化合物IIの合成前または合成後に、酸または4級化剤でカチオン化することで、水中に分散または溶解することができる。なお、前記高分子化合物IIを後述する好ましい粒子径で水中に分散あるいは溶解させるには、酸を用いてカチオン化する方が好ましく、酸としてリン酸または一価の酸を用いることがより好ましい。リン酸としては、例えば、リン酸、亜リン酸が挙げられる。また一価の酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、メタンスルホン酸などの有機酸、および塩酸、硝酸などの無機酸が挙げられる。これらの酸が好ましい理由については、リン酸以外の多価酸を用いてカチオン化した高分子化合物IIでは、これを水中に分散または溶解させた場合に増粘を起すことがあるためである。また、グリコール酸や乳酸などのヒドロキシ酸でカチオン化した高分子化合物IIは、被記録媒体に適用した場合に、他の酸でカチオン化した高分子化合物IIと比べて白紙部の黄変を抑制する効果があることから、特に好ましく用いることができる。
【0065】
以上の如き方法で得られる本発明で用いる高分子化合物IIの中で特に好ましいものは、下記一般式(14)〜(19)で表される化合物である。
【0066】

(式中nは1または2を、R1はメチレン基、エチレン基、またはプロピレン基を、R9はアルキレン、脂環を1つ以上含む二価の脂肪族炭化水素基もしくは芳香環を1つ以上含む二価の芳香族炭化水素基を、R10は炭素数1〜4のアルキル基を、R11およびR12はそれぞれ独立で水素原子もしくはメチル基を、X-は酸陰イオンを表す。mは重量平均分子量が1,000〜150,000になる数である。)
【0067】

(式中nは1または2を、R2およびR3はそれぞれ独立で水素原子、水酸基またはアルキル基を、R2およびR3は同一であっても異なっていてもよい。なお、R9〜R12、X-およびmは一般式(14)と同義である。)
【0068】

(式中nは0または1を表す。R9〜R12、X-およびmは一般式(14)と同義である。)
【0069】

(式中nは1または2を、R4は硫黄原子または酸素原子を、R5は硫黄原子または−SO2−を表し、R4およびR5は同一ではなく、それぞれ異なる基で構成される。なお、R9〜R12、X-およびmは一般式(14)と同義である。)
【0070】

(式中R6およびR7はそれぞれ独立で水素原子またはアルキル基を表し、R6およびR7は同一であっても異なっていてもよい。なお、R9〜R12、X-およびmは一般式(14)と同義である。)
【0071】

(式中R8は水酸基またはアルキル基を表す。なお、R9〜R12、X-およびmは一般式(14)と同義である。)
【0072】
なお、本発明で用いる高分子化合物IおよびIIを水性媒体に分散した場合、保存安定性の観点から該分散体の平均粒子径は5nm〜500nmの範囲であることが好ましい。また、本発明でいう平均粒子径は動的光散乱法によって測定され、「高分子の構造(2)散乱実験と形態観察 第1章 光散乱」(共立出版 高分子学会編)、あるいはJ.Chem.Phys.,70(B),15 Apl.,3965(1979)に記載のキュムラント法を用いた解析から求めることができる。本発明で定義される平均粒子径は、例えば、レーザー粒径解析装置 PARIII(大塚電子株式会社製)などを用いて容易に測定することができる。
【0073】
また、高分子化合物のインク受容層への添加方法については特に限定はしないが、例えば、後述するような無機微粒子とバインダーを含む塗工液に直接高分子化合物を添加してバッチ方式で塗工を行う方法;高分子化合物を予め微粒子分散液またはバインダーを含有する液のいずれかに添加しておき、塗工直前にバインダーを含有する液または微粒子分散液と連続的に混合しながら塗工を行う方法;高分子化合物を別の水性媒体に分散しておき、塗工直前に無機微粒子とバインダーを含む塗工液へインライン添加する方法;さらには、無機微粒子とバインダーを含む塗工液の塗工前後に、高分子化合物を含有する液を塗工する方法などがあり、いずれの方法も利用できる。
【0074】
従って本発明の被記録媒体の構成としては、支持体上に少なくとも前記高分子化合物を含有するインク受容層を設けたもの;前記高分子化合物を含む塗工液をインク受容層上にオーバーコートしたもの;あるいは前記高分子化合物を含む塗工液を支持体表面に微量塗工してインク受容層を形成させた構成などが選択できる。本発明では、これらの構成も「支持体の表面にインク受容層が形成された」ものとして包含する。
【0075】
本発明で用いる高分子化合物の含有量は、インク受容層の0.05〜20質量%(固形分換算)であることが好ましく、より好ましくはインク受容層の0.05〜15質量%(固形分換算)の範囲、さらに好ましくはインク受容層の0.05〜10質量%(固形分換算)の範囲である。含有量がこの範囲であれば大気中の酸化ガスによる画像の変退色を効果的に防止することができる。含有量がインク受容層の含有量が0.05質量%未満では本発明の目的である画像の変退色を充分防止することができず、また、含有量が20質量%を超えると、インク吸収性の悪化や印字濃度の低下を引き起こす恐れがある。
【0076】
本発明において、インク受容層の形成に使用できる無機微粒子は、インク吸収能が高く、発色性に優れ、高品位の画像が形成可能な微粒子であることが好ましい。このような無機微粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ケイソウ土、アルミナ、コロイダルアルミナ、水酸化アルミニウム、アルミナ水和物、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、リトポン、ゼオライトなどを挙げることができ、これらを単独或いは複数種併用することができる。
【0077】
上記無機微粒子の形態としては、高光沢かつ高透明性のインク受容層を得るために、平均粒子径が50nm〜500nmの範囲が好ましく、より好ましくは100nm〜300nmの範囲である。無機微粒子の平均粒子径が50nmより小さい場合、インク受容層のインク吸収性が著しく低下し、吐出量の多いプリンターで印字した際にインクの滲みやビーディング(インクを吸収できずに粒状の濃度ムラとなる現象)が発生する。
【0078】
一方、平均粒子径が500nmより大きい場合は、インク受容層の透明性が低下するとともに、画像の印字濃度や光沢が低下する場合がある。なお、本発明でいう平均粒子径は動的光散乱法によって測定され、「高分子の構造(2)散乱実験と形態観察 第1章 光散乱」(共立出版 高分子学会編)、あるいはJ.Chem.Phys.,70(B),15 Apl.,3965(1979)に記載のキュムラント法を用いた解析から求めることができる。
【0079】
本発明においては、前述した無機微粒子の中で、シリカ、アルミナ、アルミナ水和物などが好ましく使用でき、さらに、形成するインク受容層の透明性や平滑性に優れ、より微細な空隙を形成できること、また、粒子表面が正電荷を有し、インク中の染料の定着性が良いという点から、ベーマイト構造または擬ベーマイト構造を有するアルミナ水和物がより好ましく使用できる。
【0080】
特に、BET比表面積が50m2/g以上のアルミナ水和物が好ましく、より好ましくは50〜500m2/gの範囲であり、さらに好ましくは50〜250m2/gの範囲である。アルミナ水和物のBET比表面積が50〜500m2/gの範囲であれば、インク受容層のインク吸収性、ビーディングおよび平滑性などに優れる。一方、BET比表面積が50m2/g未満の場合、インク受容層の透明性や、印字濃度が低下して、印字物が白くモヤのかかったような画像になりやすく、また、BET比表面積が500m2/gを超える場合、インク吸収性が低下したり、アルミナ水和物を安定に分散するために解膠剤として多量の酸が必要となるため好ましくない。
【0081】
本発明で好ましく用いられる、ベーマイト構造または擬ベーマイト構造を有するアルミナ水和物は下記一般式(20)により表される。
一般式(20)
Al23-n(OH)2n・mH2
式中、nは0、1、2または3の整数の内、いずれかを表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の値を表す。mH2Oは多くの場合結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表すものであるため、mは整数でない値をとることができる。また、この種のアルミナ水和物をか焼するとmは0の値に達することがあり得る。
【0082】
一般にベーマイト構造を示すアルミナ水和物の結晶は、その(020)面が巨大平面を形成する層状化合物であり、X線回折図形に特有の回折ピークを示す。ベーマイト構造としては、完全ベーマイトの他に擬ベーマイトと称する、過剰な水を(020)面の層間に含んだ構造を取ることもできる。この擬ベーマイトのX線回折図形は完全なベーマイトよりも幅広な回折ピークを示す。完全ベーマイトと擬ベーマイトは明確に区別できるものではないので、以下特に断らない限り、両者を含めてベーマイト構造を示すアルミナ水和物という。
【0083】
上記アルミナ水和物の製造方法としては特に限定はされないが、例えば、バイヤー法、明バン熱分解法などのいずれの方法も採用することができる。特に好ましい方法は、長鎖のアルミニウムアルコキシドに酸を添加して加水分解する方法である。また、得られたアルミナ水和物は、水熱合成の工程を経て粒子を成長させる熟成工程の条件を調整することにより、アルミナ水和物の粒子形状を特定範囲に制御することができ、熟成時間を適当に設定すると、粒子径が比較的均一なアルミナ水和物の一次粒子が成長する。ここで得られたゾルは、解膠剤として酸を添加することで、そのまま分散液として用いることもできるが、アルミナ水和物の水への分散性をより向上させるため、ゾルをスプレードライなどの方法により粉末化した後、酸を添加して分散液とすることもできる。また、アルミナ水和物を解膠する酸としては従来より公知のものが使用でき、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、メタンスルホン酸などの有機酸、および塩酸、硝酸などの無機酸が挙げられ、それらの中から1種または2種以上を自由に選択して用いることができる。
【0084】
また、解膠剤として酸を使用する代わりに、各種界面活性剤あるいは高分子分散剤を用いて分散液を調製することもできる。さらに、有機酸とカチオン性ポリマーの少なくとも1つを用い、水中に無機微粒子を分散解膠することで微粒子分散液を調製してもよい。
【0085】
微粒子分散液の溶媒としては、水、または水に混合可能な有機溶剤との混合溶液などの水性媒体であれば特に制限はない。水に混合可能な有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフランなどのエーテル類が挙げられる。
【0086】
本発明においては、上記無機微粒子とともに、水溶性樹脂および/または水分散性樹脂を用いてインク受容層が形成される。本発明で使用される水溶性樹脂または水分散性樹脂としては、例えば、ゼラチン、カゼインおよびそれらの変性物、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、完全または部分ケン化のポリビニルアルコールまたはその変性物(カチオン変性、アニオン変性、シラノール変性など)、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸またはその共重合体、アクリルアミド系樹脂、無水マレイン酸系共重合体、ポリエステル系樹脂、SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系重合体ラテックスおよびこれらの各種重合体ラテックスにカチオン性基またはアニオン性基を付与した官能基変性重合体ラテックス類などが挙げられる。好ましいのは、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールで、平均重合度が300〜5,000のものである。ケン化度は70〜100%未満のものが好ましく、80〜99.5%のものが特に好ましい。また、これらの水溶性樹脂または水分散性樹脂は単独あるいは複数種混合して用いることができる。
【0087】
また、前記無機微粒子(A)と水溶性樹脂および/または水分散性樹脂(B)の混合質量比は、好ましくはA:B=1:1〜30:1、より好ましくはA:B=1.5:1〜20:1の範囲である。水溶性樹脂および/または水分散性樹脂の量がこれらの範囲内であれば、形成されたインク受容層のひび割れや粉落ちが発生し難くなり、インク吸収性も良い。また、前記無機微粒子と水溶性樹脂および/または水分散性樹脂の混合方法については特に限定しないが、好ましいのは、予め必要に応じた量の水性媒体に水溶性樹脂および/または水分散性樹脂を溶解し、これを微粒子分散液と混合する方法であり、バッチ式あるいは連続式のいずれの方法でも混合可能である。
【0088】
また、本発明の被記録媒体において、無機微粒子、および水溶性樹脂および/または水分散性樹脂によって形成される皮膜の造膜性、耐水性および皮膜強度を改善するために、インク受容層中に硬膜剤を添加してもよい。一般に、硬膜剤は使用するポリマーが持つ反応性基の種類によって様々なものが選択され、例えば、ポリビニルアルコール系の樹脂であれば、エポキシ系硬膜剤や、ホウ酸などのホウ素化合物あるいは水溶性アルミニウム塩などの無機系硬膜剤などが挙げられる。
【0089】
硬膜剤の使用量は、バインダーとして用いる水溶性樹脂および/または水分散性樹脂の量によって変化するが、水溶性樹脂および/または水分散性樹脂の概ね0.1〜30.0質量%の割合で添加するとよい。硬膜剤の含有量が、水溶性樹脂および/または水分散性樹脂の0.1質量%未満の場合では、造膜性が低下し十分な耐水性が得られない。逆に、30.0質量%を超える場合は、塗工液粘度の経時変化が大きくなり、塗工安定性が低下することがある。
【0090】
また、本発明の被記録媒体において、高温高湿下での画像の滲みをより効果的に防止するために、インク受容層中にインク吸収性に影響を与えない範囲でカチオン性ポリマーを添加してもよい。カチオン性ポリマーとしては従来より公知のものが使用でき、例えば、ポリアリルアミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、ポリビニルピリジニウムハライド、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ポリアクリルアミドのカチオン変性物或いはアクリルアミドとカチオン性モノマーの共重合体、ビニルピロリドン系モノマーと他の一般的なモノマーとの共重合体、ビニルオキサゾリドン系モノマーと他の一般的なモノマーとの共重合体、ビニルイミダゾール系モノマーと他の一般的なモノマーとの共重合体などが挙げられ、それぞれ単独もしくは二種以上を組合せて使用することができる。
【0091】
インク受容層を形成するための塗工液中の固形分濃度は、支持体上にインク受容層を形成できる程度の粘度であれば特に制限はないが、塗工液全質量の5.0〜50.0質量%が好ましい。固形分濃度が5.0質量%未満の場合は、インク受容層の膜厚を厚くするのに塗工量を増やす必要があり、乾燥に多くの時間とエネルギーを必要とすることから非経済的である。また、50.0質量%を超えると塗工液の粘度が高くなり、塗工性が低下する場合がある。
【0092】
また、前記塗工液には、本発明の効果を妨げない範囲内で各種添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、消泡剤、インク定着剤、ドット調整剤、着色剤、蛍光増白剤、防腐剤、pH調整剤、浸透剤、帯電防止剤、導電剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤(退色防止剤)などを挙げることができる。
【0093】
調製された塗工液を支持体上に塗工する方法としては、ロールコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、ゲートロールコーター法、バーコーター法、サイズプレス法、スピンコーター法、スプレーコーター法、グラビアコーター法、カーテンコーター法、ダイコーター法など、従来より公知の塗工方法を用いることができる。その後、熱風乾燥機、熱ドラム、遠赤外線乾燥機などの乾燥装置を用いて乾燥することで、インク受容層を形成することができる。なお、本発明の被記録媒体におけるインク受容層は、無機微粒子、バインダーおよびその他の添加剤の各組成比を変更して多層形成してもよく、支持体の片面もしくは両面に形成することが可能である。また、画像の解像度および搬送性などを向上させる目的で、カレンダーやキャストなどの装置を用いて平滑化処理してもよい。
【0094】
塗工液の支持体上への塗工量として好ましい範囲は、固形分換算で0.5〜60.0g/m2であり、より好ましい範囲は5.0〜55.0g/m2である。塗工量が0.5g/m2未満の場合は、形成されたインク受容層がインクの水分を十分に吸収できず、インクが流れたり、画像が滲んだりする場合があり、60.0g/m2を超えると、乾燥時にカールが発生したり、印字性能に期待されるほど顕著な効果が現れない場合がある。
【0095】
このようにして得られた本発明の被記録媒体は、インク吸収性に優れた高品質な画像記録が可能で、大気中の酸性ガスよる画像の変退色、および高温高湿下での画像の滲みを効果的に防止することができる。画像の変色および退色を防止した理由については明確ではないが、少なくとも前記高分子化合物がインク受容層中でラジカルや過酸化物の発生を抑制していると推察される。また、高温高湿下での画像滲みが防止された理由については、化合物Aや化合物Cが有する水酸基が高分子化することにより大幅に減少し、元来有していた吸湿性が低減したこと、また、支持体にレジンコート紙などの非吸水性支持体を用いた場合に生じる滲みが、インク中に含まれる高沸点溶媒が原因で、溶媒が染料とともに拡散して生じていると仮定すると、おそらく本発明の被記録媒体では、インク中の染料がインク受容層のアルミナ微粒子に吸着され、有機溶媒が樹脂層へ浸透したことで色材と有機溶媒が分離され、溶媒と染料がともに拡散することがなくなったことが原因であると推察される。
【0096】
本発明の被記録媒体に画像を記録する際に使用するインクは、特に限定しないが、媒体として水と水溶性有機溶剤との混合物を使用し、これに色材として染料または顔料を溶解または分散した一般的なインクジェット記録用の水性インクが好ましく使用できる。
【0097】
前記被記録媒体に上記インクを付与して画像形成を行う方法としては、インクジェット記録方法が特に好適であり、このインクジェット記録方法としてはインクをノズルより効果的に離脱させて、被記録媒体にインクを付与し得る方法であれば如何なる方法でもよい。特に特開昭54−59936号公報などに記載されている方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット方式は有効に使用することができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例中、「部」および「%」は特に記載が無い限り質量基準である。
【0099】
<支持体Aの製造>
基材として上質紙(厚さ:145μm、坪量:147.8g/m2、平滑度:153秒)および樹脂層用の素材としてセロファンフィルム(厚さ:21μm、坪量:29.5g/m2、接触角:22.3°、透湿度:710g/m2・24hr)を用意し、前記セロファンフィルム上に、乾燥塗工量が6g/m2となるようにグラビアコーターを用いて接着剤(商品名:タケラックA−520および商品名:タケネートA−50(三井武田ケミカル(株)社製)の混合品、混合比:A−520/A−50=4/1、混合希釈後の固形分濃度:25%)を塗布し、乾燥後、上質紙にラミネートして支持体Aを製造した。
【0100】
<支持体Bの製造>
支持体Aの製造方法において、基材をコート紙(厚さ:178μm、坪量:160.4g/m2、平滑度:230秒)に変更した以外は、支持体Aの製造方法と同様にして支持体Bを製造した。
【0101】
<支持体Cの製造>
支持体Aの製造方法において、樹脂層用の素材をポリビニルアルコールフィルム(厚さ:30μm、接触角:28.5°、透湿度:370g/m2・24hr)に変更した以外は、支持体Aの製造方法と同様にして支持体Cを製造した。
【0102】
<支持体Dの製造>
支持体Aの製造方法において、樹脂層用の素材をポリビニルアルコールフィルム(厚さ:65μm、接触角:32.3°、透湿度:100g/m2・24hr)に変更した以外は、支持体Aの製造方法と同様にして支持体Dを製造した。
【0103】
<支持体Eの製造>
従来より公知のセルロースケーシングの製法を参考にして、上質紙(厚さ:145μm、坪量:147.8g/m2、平滑度:153秒)上にビスコースを塗布し、厚さ30μmの再生セルロース膜を形成して支持体Eを製造した。なお、セルロース膜表面の接触角は23.5°、透湿度は590g/m2・24hrであった(セルロース膜の透湿度は、支持体Eの透湿度から基材の透湿度を差引いた値である)。
【0104】
<支持体F>
支持体Fとしてポリエチレン被覆紙(ポリエチレン被覆層の厚さ:30μm、ポリエチレン被覆層の接触角:96.8°、ポリエチレン被覆層の透湿度:15g/m2・24hr、JIS−Z−8741による60度鏡面光沢度:64%)を用いた。
【0105】
<評価1:平滑度についての評価>
王研式平滑度試験機((株)旭精工社製)を用いて、支持体A〜Fの平滑度を測定した。結果を表1に示す。
【0106】

【0107】
<アルミナ水和物およびその分散液の製造>
米国特許第4,242,271号明細書に記載された方法で、アルミニウムドデキシドを製造した。次に米国特許第4,202,870号明細書に記載された方法で、前記アルミニウムドデキシドを加水分解してアルミナスラリーを製造した。このアルミナスラリーに、アルミナ水和物固形分が7.7%になるまで水を加えた。この時、アルミナスラリーのpHは9.4であり、これに3.9%の硝酸溶液を加えてpHを調整した。次にオートクレーブを用いて、熟成前のpH:6.0、熟成温度:150℃、熟成時間:6時間にて熟成を行いコロイダルゾルを得た。このコロイダルゾルを入口温度87℃でスプレードライしてアルミナ水和物粉末とした。
【0108】
さらに、イオン交換水100部に、得られたアルミナ水和物を27.3部、6%−酢酸水溶液を9.10部(アルミナ水和物の2%)添加し、スリーワンモータ(商品名:BL600、新東科学(株)社製)を用いて350rpmで10分間撹拌して、固形分濃度が20%のアルミナ分散液を調製した。また、得られたアルミナ分散液を60℃で乾燥して粉末化し、X線回折装置(X'Pert-PRO、PANalytical社製)を用いて結晶構造を解析したところ、ベーマイト構造を示していた。さらに、下記の方法で比表面積を測定したところ139.7m2/gであった。
【0109】
<比表面積の測定方法>
アルミナ分散液を60℃で乾燥して粉末化し、さらに120℃で24時間真空脱気した後、比表面積/細孔分布測定装置(TriStar3000、マイクロメリティックス((株)島津製作所)社製)を用いて、BET法により比表面積を求めた。なお、吸着ガスとして窒素を使用した。
【0110】
<高分子化合物aの製造方法>
以下のようにして高分子化合物aを製造した。
攪拌装置、温度計および還流冷却管を備えた反応容器に、反応溶媒としてアセトン109gを投入し、撹拌下3,6−ジチア−1,8−オクタンジオールを40.00gおよびメチルジエタノールアミン6.79g溶解後、40℃まで昇温してイソホロンジイソシアネートを62.07g加えた。その後50℃まで昇温して錫系触媒を0.2g加え、さらに55℃まで昇温して撹拌しながら4時間反応を行なった。
【0111】
反応終了後、反応溶液を室温まで冷却して85%蟻酸3.09gを加えてカチオン化した。さらに水446gを加えた後、減圧濃縮をしてアセトンを除去して、さらに水で濃度調製することにより、固形分20%の高分子化合物水分散液(高分子化合物a)を製造した。
【0112】
<高分子化合物bの製造方法>
以下のようにして高分子化合物bを製造した。
攪拌装置、温度計および還流冷却管を備えた反応容器に、反応溶媒としてアセトン81gを投入し、撹拌下3,6−ジチア−1,8−オクタンジオールを30.00gおよびt−ブチルジエタノールアミン6.98g溶解後、40℃まで昇温してイソホロンジイソシアネートを44.28g加えた。その後50℃まで昇温して錫系触媒を0.4g加え、さらに55℃まで昇温して撹拌しながら5時間反応を行なった。
【0113】
反応終了後、反応溶液を室温まで冷却して35%塩酸4.51gを加えてカチオン化した。さらに水331gを加えた後、高分子化合物aの製造方法と同様にして、固形分20%の高分子化合物水分散液(高分子化合物b)を製造した。
【0114】
<高分子化合物cの製造方法>
以下のようにして高分子化合物cを製造した。
攪拌装置、温度計および還流冷却管を備えた反応容器に、反応溶媒としてアセトン258gを投入し、撹拌下5−ヒドロキシ−3,7−ジチア−1,9−ノナンジオールを40.00gおよびメチルジエタノールアミン6.29g溶解後、40℃まで昇温してイソホロンジイソシアネートを54.17g加えた。その後50℃まで昇温して錫系触媒を0.1g加え、さらに55℃まで昇温して撹拌しながら2時間反応を行なった。
【0115】
反応終了後、反応溶液を室温まで冷却して85%蟻酸2.86gを加えてカチオン化した。さらに水412gを加えた後、高分子化合物aの製造方法と同様にして、固形分20%の高分子化合物水分散液(高分子化合物c)を製造した。
【0116】
<高分子化合物dの製造方法>
以下のようにして高分子化合物dを製造した。
攪拌装置、温度計、還流冷却管のついた反応容器に、反応溶媒としてアセトン140gを投入し、撹拌下3,6−ジチア−1,8−オクタンジオールを68.13g溶解後、40℃まで昇温してイソホロンジイソシアネートを79.66g加えた。その後50℃まで昇温して錫系触媒を0.4g加え、更に55℃まで昇温して撹拌しながら4時間反応を行なった。
【0117】
反応終了後、反応溶液を室温まで冷却した後1190gのアセトンを加えることで固形分10%の高分子化合物アセトン溶液を調製して、高分子化合物dを製造した。
【0118】
高分子化合物a〜dの合成成分とその質量比を表2に示す。表3にはGPC(Gel Permeation Chromatography、コントローラー:SC8010、検出器:RI8012、東ソー(株)製)により測定した、重量平均分子量と分子量分布(Mw/Mn)を示す。また、赤外分光光度計(FT/IR−5300、日本分光株式会社製)により、ウレタン基の特徴を示す吸収(1,730〜1,690cm-1のC=O伸縮振動、1,540cm-1付近のN−H変角振動、3,450〜3,300cm-1付近のN−H伸縮振動)を検出したことから、全ての反応で重合が起こり、原料成分が高分子化したことを確認した。
【0119】

【0120】
上記表2の高分子化合物a〜cは20%水分散液であり、高分子化合物dは10%アセトン溶液である。
【0121】

【0122】
<実施例1>
先程調製したアルミナ分散液100部に、ホウ酸を0.4部(ポリビニルアルコールの20%)、高分子化合物aを10部添加し、さらにポリビニルアルコール(PVA224、(株)クラレ社製)の10%水溶液を20部(アルミナ水和物の10%)添加してスリーワンモータで均一になるまで撹拌して塗工液を調製した。この塗工液を、乾燥塗工量が35g/m2となるように支持体A上にメイヤーバーで塗工し、送風定温乾燥器((株)東洋製作所社製、商品名:FC−610)で110℃、20分間乾燥して本発明の被記録媒体を作製した。得られた被記録媒体について下記評価2〜5を行った。結果を表4に示す。
【0123】
得られた被記録媒体の諸物性について、下記の要領で評価を行った。
<評価2:光沢度についての評価方法>
光沢計(商品名:VG−2000、日本電色工業(株)社製)を用いて、被記録媒体のインク受容層表面のJIS−Z−8741で規定される75度鏡面光沢度を測定した。結果を表4に示す。
【0124】
<評価3:インク吸収性についての評価方法>
インクジェットプリンタ(商品名:BJ F870、キヤノン(株)社製)を用いて、インク打込量が90%〜270%の範囲で、グリーン(シアンインク/フォトシアンインク/イエローインクの混合比率が85/90/100)のベタ印字を行い、ビーディングが発生しない最大打込量を求めることでインク吸収性の評価を行った。インク打込量が200%以上のものを「○」、インク打込量が170%以上かつ200%未満のものを「△」、インク打込量が170%未満のものを「×」とした。結果を表4に示す。
【0125】
<評価4:高温高湿下での画像滲みについての評価方法>
インクジェットプリンタ(商品名:BJ F870、キヤノン(株)製)を用いて、ブラック(シアンインク/マゼンタインク/イエローインクの混合比率:50/50/50、インク打込量:150%)のベタ印字を行い、30℃、80%RHの環境下に1週間暴露して、画像が滲む度合いを目視にて評価した。滲みが起きていないものを「〇」、僅かに滲みが起きているものを「△」、大きく滲んでいるものを「×」とした。結果を表4に示す。
【0126】
<評価5:ガスによる退色・変色抑制効果についての評価方法>
インクジェット記録装置(BJ F870、キヤノン(株)製)を用いて、ブラック(Bk)インクおよびシアン(C)インクを単色で、かつインク打込量100%でベタ印字した被記録媒体を、オゾン暴露試験機(スガ試験機社製、特注品)に入れて、40℃・55%RHの条件下で濃度1ppmのオゾンに4時間暴露した後、BkおよびCの光学濃度を光学反射濃度計(グレタマクベス社製、RD−918)を用いて測定した。次いで、下記式(3)より残OD率を算出し、残OD率が80%以上のものを「○」、残OD率が60%以上かつ80%未満のものを「△」、残OD率が60%未満のものを「×」として評価を行った。結果を表4に示す。
残OD率=(試験後のOD/試験前のOD)×100% 式(3)
【0127】
<実施例2〜5>
実施例1において、支持体Aを支持体B〜Eに変更した以外は、実施例1と同様にして被記録媒体を作製し、評価2〜5のテストを行った。結果を表4に示す。
【0128】
<実施例6および実施例7>
実施例1において、高分子化合物aを高分子化合物b(実施例6)、高分子化合物c(実施例7)に変更した以外は、実施例1と同様にして被記録媒体を作製し、評価2〜5のテストを行った。結果を表4に示す。
【0129】
<実施例8>
実施例1において、高分子化合物aを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして塗工液を調整し、支持体A上にインク受容層を形成した。その後、高分子化合物d(10%アセトン溶液)をインク受容層中のアルミナ水和物の10%(固形分換算)添加されるように、インク受容層上にメイヤーバーでオーバーコートし、送風定温乾燥器((株)東洋製作所社製、FC−610)で110℃、10分間乾燥して高分子化合物dを含有するインク受容層を形成した。(ただし、高分子化合物dをオーバーコートしたインク受容層は、その乾燥重量が35g/m2となるよう調整した)。上記の方法で、高分子化合物dがオーバーコートされたインク受容層を有する被記録媒体を作製し、評価2〜5のテストを行った。結果を表4に示す。
【0130】
<比較例1>
実施例1において、支持体Aを支持体Fに変更し、高分子化合物を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして被記録媒体を作製し、評価2〜5のテストを行った。結果を表4に示す。
【0131】
<比較例2>
実施例1において、支持体Aを支持体Fに変更した以外は、実施例1と同様にして被記録媒体を作製し、評価2〜5のテストを行った。結果を表4に示す。
【0132】
<比較例3>
実施例6において、支持体Aを支持体Fに変更した以外は、実施例6と同様にして被記録媒体を作製し、評価2〜5のテストを行った。結果を表4に示す。
【0133】
<比較例4>
実施例7において、支持体Aを支持体Fに変更した以外は、実施例7と同様にして被記録媒体を作製し、評価2〜5のテストを行った。結果を表4に示す。
【0134】
<比較例5>
実施例8において、支持体Aを支持体Fに変更した以外は、実施例8と同様にして被記録媒体を作製し、評価2〜5のテストを行った。結果を表4に示す。
【0135】
<比較例6>
実施例1において、支持体Aを上質紙(厚さ:145μm、坪量:147.8g/m2、平滑度:153秒)に変更した以外は、実施例1と同様にして被記録媒体を作製し、評価2〜5のテストを行った。結果を表4に示す。
【0136】
<比較例7>
実施例1において、支持体Aをコート紙(厚さ:178μm、坪量:160.4g/m2、平滑度:230秒)に変更した以外は、実施例1と同様にして被記録媒体を作製し、評価2〜5のテストを行った。結果を表4に示す。
【0137】

【0138】
表4から明らかなように、本発明の支持体を用いて製造した被記録媒体は、光沢性およびインク吸収性に優れた高品質な画像記録が可能で、かつ大気中の酸性ガスによる画像の変退色が効果的に防止され、さらに、高温高湿下での画像の滲み防止効果に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明によれば、基材上にインク吸収性および/またはインク浸透性を有する樹脂層を設けた支持体を用いることで、平滑化処理を行うことなく光沢性に優れたインク受容層が形成でき、さらに大気中の酸性ガスよる画像の変退色に優れ、高温高湿下での画像の滲みが効果的に防止された被記録媒体を提供することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも一方の面にインク受容層を設けてなる被記録媒体において、該支持体が、基材上にインク吸収性および/またはインク透過性を有する樹脂層を少なくとも1層有し、かつ該樹脂層上に積層されるインク受容層が含硫黄有機化合物を反応させて得られる高分子化合物を含有することを特徴とする被記録媒体。
【請求項2】
前記樹脂層の透湿度が、下記式(1)を満たす請求項1に記載の被記録媒体。
樹脂層の透湿度≧100g/m2・24hr 式(1)
【請求項3】
前記支持体表面の平滑度が、下記式(2)を満たす請求項1に記載の被記録媒体。
支持体表面の平滑度≧300秒 式(2)
【請求項4】
前記高分子化合物が、少なくとも下記化合物Aと化合物Bとを反応させて得られる化合物である請求項1に記載の被記録媒体。
A:2つ以上の活性水素基を有する含硫黄有機化合物
B:2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物
【請求項5】
前記支持体が、吸水性を有する請求項1に記載の被記録媒体。

【公開番号】特開2008−80605(P2008−80605A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262242(P2006−262242)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】