説明

被験体の3次元的位置及び向き測定装置

【課題】ガントリ内部のような細長い狭い空間であっても、1個の立体マーカと1台の連続撮像装置のみからなる装置で、立体マーカの3次元的位置と3次元的向きを連続して測定可能とする。
【解決手段】4以上の目印が立体的に配置されている立体マーカ40を撮像装置(カメラ24)を用いて撮影し、撮影画像中の見かけの2次元的位置を計測し、立体マーカ40の既知の幾何学的形状をもとに、立体マーカ40の3次元的位置と向きを計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体の3次元的位置及び向き測定装置に係り、特に、PET(ポジトロンCT)検査やシンチグラフィ検査等の被験者の動きを測定する必要がある放射線画像診断分野や放射線治療分野で、患者の部位(頭や身体)の移動量を計量する際に用いるのに好適な、被検体を撮影した画像から被検体の位置と向き及び角度を検出するための被験体の3次元的位置及び向き測定方法及び装置、及び、これに用いるための立体マーカ及び立体マーカ撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PET検査やシンチグラフィ検査等の核医学検査は、通常、数分〜数十分という長い撮像時間を必要とする。少しでも被験者(患者)が動いてしまえば画質が劣化し、診断精度が著しく悪化してしまうので、その間、特殊な器具を使用するなどして、被験者の動きを抑えるのが一般的である。このような身体的束縛は、取り分け高齢者、心身疾患者、幼児、小児にとっては大変な精神的・肉体的負担である。また、たとえ動きを抑える努力をしたとしても小さな動きは避けられない。近年の高分解能装置においては、そのわずかな動きでも画質に影響を与える可能性がある。従って、被験者の動きをある程度は許容しても最終的な画質の劣化が生じないような核医学イメージング手法が求められている。検査装置とは別の何らかの装置により被験者の動きを測定し、動きの影響を補正することができれば、この問題を解決できる。
【0003】
このような目的で、従来技術において、図1に示す如く、被験者10から所定距離離れて設置された複数(図では2台)のデジタルビデオカメラ等の光学的連続撮像装置21、22により、検査中の被験者10の頭部の動きを2眼ステレオ方式で測定する場合、撮像装置から見える部位の少なくとも3ヵ所(図では4ヵ所)に取り付けた点状マーカ31、32、33、34を、離れた位置に置かれた2台以上の連続撮像装置21、22により互いに異なる方向から連続撮像し、得られた像全体の中から画像処理により各点状マーカ像を抽出し、その抽出像から各点状マーカの三次元座標を三角測量法により計算して複数のマーカ座標値を得、そして得られた各座標値を組合せることで被験者10の位置や向きを計算していた。
【0004】
又、特許文献1には、手術中の患者に、磁場を発生する基準ユニットを備えたヘッドセットを装着し、前記基準ユニットの磁場をセンサによって検出して、手術器具の位置を検出することが記載されている。
【0005】
又、特許文献2には、特定のマーカを使用せずに、画像中から、被験者の顔の眉、目、鼻、ほくろ、口等の特徴的な認識対象(特徴点)を抽出し、その3次元位置を2眼ステレオ法により計測し、その特徴点の相対的な位置変化から、頭部の動きを測定することが記載されている。
【0006】
又、発明者らが先に提案した特許文献3には、立体マーカを用いて、1台のカメラのみで対象の位置と向きを計測する手法が記載されている。
【0007】
一方、医療分野以外にも目を向けると、特許文献4や5には、光学的手段で撮像した画像中から対象物の位置を抽出するための平面状のターゲットやマーカが記載されている。
【0008】
又、特許文献6には、向き(対象の傾き)を高精度で測定するための、図2に示すような2段の平行な円形などの面をもつ立体的なターゲットが提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開平11−318937号公報
【特許文献2】特開平11−63927号公報
【特許文献3】特開2005−111115号公報
【特許文献4】特開平9−178447号公報
【特許文献5】特開平7−98208号公報
【特許文献6】特開平11−63952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図1に示した2眼ステレオ方式による方法は、少なくとも2台の撮像装置の間隔、及び、それらと測定対象物との距離を、ある程度離さねばならず、ガントリ内部のような狭い空間には適用できないという問題点があった。
【0011】
又、特許文献1のように磁気センサを用いる方法では、磁場発信装置が必要になると共に、医療装置等、磁場に影響を与える物質が測定に影響を及ぼさないように測定状況が限定されるという問題点があった。
【0012】
又、特許文献2のように画像中から特徴的な認識対象を抽出する方法では、髪の毛や洋服等の影響や、複雑な変形運動による影響を受け易いという問題点があり、又、複数の撮像装置が必要であるため図1の手法と同様な問題点があった。
【0013】
又、特許文献3の方法は、カメラを1台のみしか使用しないため、ガントリ内部のような細長い空間にも設置可能ではあるが、カメラと対象物との距離を表す座標を正確には測定できず、3次元的な位置を計測するには、何らかの補助的測定手段を併用しなければならないという問題点があった。
【0014】
又、特許文献4や5で用いられているターゲットやマーカは、いずれも平面的なものであり、向きや回転角度の測定精度には限界があった。
【0015】
又、特許文献6に用いられている立体的なターゲットでは、ターゲットに目印が付けられていないため、ターゲット中心軸の周りの回転角度を検出することができず、更にターゲット上に2つの平行な図形が存在する必要があるため、比較的大きなターゲットを用いる場合には、被験者の頭部等には取り付け難いという問題点があった。
【0016】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、ガントリ内部のような狭い空間であっても、1個の立体マーカと1台の連続撮像装置のみからなる装置で、立体マーカの3次元的な位置と3次元的な向きを連続して測定可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は4以上の目印が立体的に配置されている立体マーカを、撮像装置を用いて撮影し、撮影画像中の見かけの2次元的位置を計測し、立体マーカの既知の幾何学的形状をもとに、立体マーカの3次元的位置と向きを計算することにより、前記課題を解決したものである。
【0018】
前記立体マーカと撮像装置の距離は、見かけの拡大率を十分な精度で計測できるように、十分に小さくすることが望ましい。
【0019】
前記立体マーカを、検査時に被験体の検査部位近傍面に一つ取り付け、被験体測定部位の動きを計量することができる。
【0020】
本発明は、又、3以上の目印が平面的に配置され、その平面から撮像装置側に向かって所定の高さに1以上の目印を有することにより、4以上の目印が立体的に配置されていることを特徴とする、前記被験体の3次元的位置及び向き測定方法に用いるための立体マーカを提供するものである。
【0021】
前記所定の高さは、3次元的向きを表す3種類の角度座標を高精度で計測できるように、十分に大きくすることが望ましい。
【0022】
本発明は、又、前記立体マーカの目印を動画撮影し、画像中における目印の2次元的位置を測定するための一台のカメラと、動画処理装置を備えたことを特徴とする、前記被験体の3次元的位置及び向き測定方法に用いるための立体マーカ撮像装置を提供するものである。
【0023】
本発明は、又、前記の立体マーカと、前記の立体マーカ撮像装置と、該立体マーカ撮像装置を用いて撮像された画像中の見かけの2次元的位置を計測し、立体マーカの既知の幾何学的形状をもとに、立体マーカの3次元的位置と向きを計算する手段と、を備えたことを特徴とする被験体の3次元的位置及び向き測定装置を提供するものである。
【0024】
前記立体マーカ撮像装置は、ガントリに配設することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ガントリ内部のような細長い狭い空間であっても、1個の立体マーカと1台の連続撮像装置のみからなる装置で、三角測量法を使うことなく立体マーカの3次元的位置と3次元的向きを計測でき、それらの時間的変化を追跡できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0027】
本発明に係る立体マーカ40は、図3に示す如く、所定の平面に3つ以上の目印41、42、43が付され、その平面から所定の高さに少なくとも1つの目印44が付されたものであり、PET検査やSPECT検査などの核医学検査時に被験者の身体面に取り付けて使用するものである。
【0028】
前記立体マーカ40を撮像する連続撮像装置(単にカメラと称する)24は、図3に示す如く、従来の技術と同様にデジタルビデオカメラなど、所定位置から立体マーカ40の目印41〜44を連続して撮像可能なものである。
【0029】
前記カメラ24で取得された画像を処理するコンピュータ部50は、図3に示した如く、撮像された画像を処理する画像処理部52と、続く演算処理部54と、予め立体マーカ40の目印41〜44の配置、形状、相対位置などを記憶しておく記憶部56とで構成することができる。
【0030】
前記画像処理部52においては、所定の画像処理により、先ず立体マーカ40上の目印41〜44が2次元画像中で抽出される。但し、カメラは全ての目印41〜44の位置や向きの変化が見える位置にあらかじめ設置されているものとする。
【0031】
被験者の動きに伴う立体マーカ40の3次元的位置と3次元的向きの変化により、抽出2次元画像上での見掛の目印41〜44の位置が変化する。逆に、2次元画像中における目印41〜44の2次元的な位置から、図4に手順を示す演算により、3次元的位置と3次元的向きを計測することができる。
【0032】
まず、図4のステップ100で初期設定する。具体的には、立体マーカ40に付された目印41〜44の個数をn(自然数)(この例ではn=4)とする。図5に示す如く、所定の目印iと目印j(iとjはn以下の自然数でi<j)の距離をlij、目印iで形成される平面Sからの目印jの高さをhjとする。この例では、所定の高さに付された目印は1つのみなので、高さをhと記す。
【0033】
次に、図6に示す如く、前記立体マーカ40をカメラ24の中心光軸を横軸Z軸とし、Y軸を鉛直上向きとする座標系の中に設置し、原点に置かれたカメラ仮想視点から観察するとする。原点から目印iまでの距離をdi、目印iの極座標系での極角をθi、位相角をφiとする。
【0034】
次に、図7に示す如く、カメラ24で撮影したある時刻における2次元画像中において、目印iのピクセル座標を(pxi、pyi)、原点からの距離をpri、位相角をψiとする。
【0035】
次に、カメラ仮想視点を中心とした半径d0の球面を想定し、これを基準球面と考え、基準球面上における極角θと位相角φを対応する2次元画像中の座標pr、ψ、及びd0の関数としてθ=θ(pr、ψ、d0)、φ=φ(pr、ψ、d0)のように表せるように校正を行う。ちなみに、カメラ特性の線形性が優れていれば、近似的には、
θ≒c×pr(cは定数)、
φ≒ψ
とすることができる。
【0036】
以上により、xyz座標系における目印iの3次元座標(xi,yi,zi)は以下のように表せる(ステップ110)。
【0037】
xi=di×sin(θi)×cos(φi) …(1)
yi=di×sin(θi)×sin(φi) …(2)
zi=di×cos(θi) …(3)
θi=θi(pri、ψi、di)≒c×pri …(4)
φi=φi(pri、ψi、di)≒ψi …(5)
【0038】
次に、目印間の距離は既知なので、次の制約条件が成立する。
【0039】
lij2=|(xi,yi,zi)−(xj,yj,zj)|2 …(6)
(i、jはn以下の自然数で、i<j)
【0040】
制約条件の数はn(n−1)/2個、演算により決定しなければならない変数はdi(iはn以下の自然数)でn個なので、nが4以上ならば十分にdiを決定することが可能である。
【0041】
実際の演算処理においては、最小にすべき関数を適切に定義し、非線形の最小化演算法によりdiを決定する(ステップ120)。例えば、最小化関数δを以下で定義する。
【0042】
δ=Σ|lij2−|(xi,yi,zi)−(xj,yj,zj)|2| …(7)
【0043】
全ての目印について変数diが求まれば、目印の座標(xi,yi,zi)が求まり(ステップ130)、結果として、立体マーカ40の3次元的位置と3次元的向きを計測できる。
【0044】
次に、立体マーカとすることで、向きの変化における極角の測定精度が向上することを説明する。図8に示す如く、立体マーカ40が中心光軸に対してγの角度(極角)だけ微小に変化したとする。所定の高さhの位置に目印があるので、2次元画像中における目印の見掛けの位置の変化はh×sinγ〜hγに比例する。もし、立体マーカではなく平面マーカならば、2次元画像中における目印の見掛けの位置の変化は、立体マーカの底面の半径をr程度とすると、
r×(1−cosγ)∝γ
となり、γの微小変化を測定することが困難である。
【0045】
次に、従来技術の特許文献3で問題となっていた、立体マーカとカメラの距離方向の動きの計測精度の向上について、試行結果を含めて説明する。距離zがdzだけ微小に変化するとすれば、2次元画像中における見掛けの拡大率の変化の割合はdz/zの程度である。2次元画像中におけるマーカの大きさの程度がピクセル数にしてpr程度とすれば、検出可能なzの変化はdz〜z/pr程度となる。即ち、立体マーカを数百ピクセル程度の大きさで撮影すれば、距離zの数百分の1程度の距離測定精度が得られることになる。図8に示す実施例では、ピクセル数が高々640×480のデジタル動画カメラ24を、立体マーカ40に距離20cm程度まで近づけ撮影して動きを計測した場合、prは200ピクセル程度であり、z方向の測定精度として良好な測定精度が得られた。
【0046】
前記カメラ24は、図9に例示する如く、ガントリ60内、例えばガントリ上部60Aの被験者10に装着した立体マーカ40の近傍に配設することができる。図において、60Bはガントリ下部である。
【0047】
前記実施形態では、4つの目印を持つ立体マーカを用いていたが、目印の数は4つに限定されず、5つ以上であっても良い。また、連続撮像装置もデジタル動画カメラに限定されない。
【0048】
更に、本発明の立体マーカ撮像装置を2台以上組み合わせ、冗長性を高め、データの相互比較などにより計測精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】2眼ステレオ方式による従来技術の一例を示す斜視図
【図2】特開平11−63952で提案された立体マーカの例を示す斜視図
【図3】本発明の実施形態による測定状況を示す斜視図
【図4】前記実施形態の演算処理手順を示す流れ図
【図5】前記実施形態で用いた立体マーカを示す斜視図
【図6】本発明の原理を説明するための、カメラ仮想視点と目印の位置関係を示す正面図
【図7】同じく2次元撮影画像中における目印の位置を示す正面図
【図8】同じく極角と距離の測定精度を説明するための斜視図
【図9】前記実施形態のガントリへの配設例を示す断面図
【符号の説明】
【0050】
10…被験者
24…連続撮像装置(カメラ)
40…立体マーカ
41〜44…目印
50…コンピュータ部
52…画像処理部
54…演算処理部
56…記憶部
60…ガントリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4以上の目印が立体的に配置されている立体マーカを、撮像装置を用いて撮影し、
撮影画像中の見かけの2次元的位置を計測し、
立体マーカの既知の幾何学的形状をもとに、立体マーカの3次元的位置と向きを計算することを特徴とする被験体の3次元的位置及び向き測定方法。
【請求項2】
前記立体マーカを、検査時に被験体の検査部位近傍面に取り付け、被験体測定部位の動きを計量することを特徴とする請求項1に記載の被験体の3次元的位置及び向き測定方法。
【請求項3】
3以上の目印が平面的に配置され、その平面から撮像装置側に向かって所定の高さに1以上の目印を有することにより、4以上の目印が立体的に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の被験体の3次元的位置及び向き測定方法に用いるための立体マーカ。
【請求項4】
請求項3に記載の立体マーカの目印を動画撮影し、画像中における目印の2次元的位置を測定するための一台のカメラと、動画処理装置を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の被験体の3次元的位置及び向き測定方法に用いるための立体マーカ撮像装置。
【請求項5】
請求項3に記載の立体マーカと、
請求項4に記載の立体マーカ撮像装置と、
該立体マーカ撮像装置を用いて撮像された画像中の見かけの2次元的位置を計測し、立体マーカの既知の幾何学的形状をもとに、立体マーカの3次元的位置と向きを計算する手段と、
を備えたことを特徴とする被験体の3次元的位置及び向き測定装置。
【請求項6】
前記立体マーカ撮像装置が、ガントリに配設されていることを特徴とする請求項5に記載の被験体の3次元的位置及び向き測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−216089(P2008−216089A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55044(P2007−55044)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】