被験物質の評価方法
【課題】皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を抑制する物質を簡便な操作で評価することができる被験物質の評価方法を提供すること。
【解決手段】エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、得られた細胞構造体の形態を観察し、前記細胞構造体の形態に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することを特徴とする被験物質の評価方法。
【解決手段】エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、得られた細胞構造体の形態を観察し、前記細胞構造体の形態に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することを特徴とする被験物質の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験物質の評価方法に関する。さらに詳しくは、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常に対する外用剤、治療剤または予防剤の開発などに有用な被験物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの表皮は、下層から順に、基底層と有棘層と顆粒層と角質層とからなる。ヒトの正常な皮膚は、通常、28日間の周期でターンオーバーする。正常な皮膚のターンオーバーでは、ケラチノサイトが顆粒層から角質層へと押し上げられる。このとき、ケラチノサイトの分化により脱核が生じて有核細胞が消失し、成熟した角質層が形成される。
【0003】
しかしながら、皮脂中に含まれる不飽和脂肪酸などによって表皮における細胞の増殖が異常に促進された場合、皮膚における角化が異常に促進され、最終分化段階のケラチノサイトにおいて、脱核が起こらないことがある(以下、「不全角化」という)。この場合、角質層における有核細胞の割合が高くなることから、皮膚の角質層のバリア機能が著しく低下する。このようにバリア機能が低下した皮膚は、ニキビ、肌荒れなどが生じやすい傾向にある。そこで、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常に対する外用剤などが開発されている。
【0004】
皮脂によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常に対する外用剤などの評価は、例えば、マウスなどの動物の皮膚へのオレイン酸の塗布を繰り返して不全角化を生じさせ、この不全角化に対する外用剤などの影響を調べること、マウスなどの皮膚への粘着テープの貼付および剥離を繰り返して表皮の肥厚化を生じさせ、肥厚化した表皮に対する外用剤の影響を調べることなどによって行なわれている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、近年、動物愛護の傾向が高まっていることから、動物試験を行なわずに、簡便な操作で、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常に対する外用剤などの評価をすることができる方法が求められている。
【0005】
一方、本発明者らは、外因性エピモルフィンを発現するケラチノサイトを三次元で培養した場合、三次元培養によって得られる細胞構造体が不全角化を伴う皮膚の病理学的特徴に似た特徴を示すことを見出している。しかしながら、本発明者らは、現時点では、エピモルフィンによって引き起こされる前記不全角化を伴う皮膚の病理学的特徴に似た特徴を示す状態とオレイン酸などの不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常とが関連していることや、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる細胞や細胞構造体の状態の異常が、皮脂によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常と関連していることを具体的に記載した文献を発見していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−81834号参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を抑制する物質を簡便な操作で評価することができる被験物質の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、得られた細胞構造体の形態を観察し、前記細胞構造体の形態に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することを特徴とする被験物質の評価方法、
(2)(A1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C1)前記ステップ(A1)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B1)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む前記(1)に記載の被験物質の評価方法、
(3)(A2)被験物質を含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸と被験物質とを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B2)カルシウムイオノフォアを含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸を含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C2)前記ステップ(A2)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B2)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む前記(1)に記載の被験物質の評価方法、ならびに
(4)(A3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C3)前記ステップ(A3)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B3)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む前記(1)に記載の被験物質の評価方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被験物質の評価方法によれば、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を抑制する物質を簡便な操作で評価することができるという優れた効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実験例1において、培地の種類とHaCaT細胞における内因性エピモルフィンの発現量との関係を調べた結果を示す図面代用写真である。
【図2】実験例2において、培地の種類とHaCaT−TE細胞の培養上清およびPT67−TE細胞の培養上清それぞれにおける分泌エピモルフィンの量との関係を調べた結果を示す図面代用写真である。
【図3】製造例4において、ペプチドのマススペクトルを示すチャートである。
【図4】製造例4において、酸化後のペプチドのマススペクトルを示すチャートである。
【図5】(A)は、実施例1において、実験番号:11の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を示す図面代用写真、(B)は、実施例1において、実験番号:10の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を示す図面代用写真である。
【図6】実施例1において、培地の種類と内腔形成率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図7】(A)は、実施例3において、実験番号:15の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を示す図面代用写真、(B)は、実施例3において、実験番号:14の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を示す図面代用写真である。
【図8】実施例3において、培地の種類と内腔形成率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図9】実施例5において、培地の種類とコーニファイドエンベロープ形成率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図10】実施例7において、培地の種類または細胞の種類とコーニファイドエンベロープ形成率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図11】(A)は、実施例9において、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液を塗布せずに実験番号:32の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を示す図面代用写真、(B)は、実施例9において、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:33の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を示す図面代用写真、(C)は、実施例9において、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:34の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を示す図面代用写真、(D)は、実施例9において0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:35の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の被験物質の評価方法は、エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、得られた細胞構造体の形態を観察し、前記細胞構造体の形態に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することを特徴とする。
【0012】
本発明者らは、
(a)皮脂に含まれる不飽和脂肪酸の1つであるオレイン酸とエピモルフィンを発現するケラチノサイトとを接触させた場合、当該ケラチノサイト外に分泌されるエピモルフィンの量が増加すること、
(b)エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を、オレイン酸と接触させながら分化条件下で培養して得られた細胞構造体では、不全角化を伴う皮膚の病理学的特徴に似た組織形態の異常が見られるのに対して、エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を、オレイン酸およびエピモルフィンの機能を抑制する環状ペプチド化合物(配列番号:1)と接触させながら分化条件下で培養して得られた細胞構造体では、前記組織形態の異常が見られないこと、および
(c)エピモルフィンによって引き起こされる不全角化を伴う皮膚の病理学的特徴に似た組織形態と、皮脂によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常とが互いに関連していること
を見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0013】
本発明の評価方法は、エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養する点に1つの大きな特徴がある。前記分化条件下で培養するという簡便な操作を行なうことにより、エピモルフィンの発現下または不飽和脂肪酸の存在下でのヒトの皮膚の分化の過程を再現し、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生の過程を簡便に再現することができる。このエピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる皮膚の状態の異常は、ヒトの皮膚において、皮脂によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常と関連している。したがって、本発明の評価方法によれば、簡便な操作で、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができる。
【0014】
皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常としては、例えば、ニキビ、肌荒れ、吹き出物などが挙げられる。
【0015】
また、本明細書において、「野生型ケラチノサイト」とは、エピモルフィンを発現しないケラチノサイトをいう。
【0016】
野生型ケラチノサイトとしては、例えば、ヒト野生型ケラチノサイト、マウス野生型ケラチノサイトなどが挙げられる。これらのなかでは、ヒトにおける皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を十分に再現する観点から、ヒト野生型ケラチノサイトが好ましい。ヒト野生型ケラチノサイトとしては、特に限定されないが、例えば、HaCaT細胞、正常ヒト皮膚表皮ケラチノサイトなどが挙げられる。ヒト野生型ケラチノサイトのなかでは、ヒトにおける皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を十分に再現する観点から、HaCaT細胞が好ましい。
【0017】
エピモルフィンを発現するケラチノサイトは、エピモルフィンをコードする核酸を野生型ケラチノサイトに導入することにより得られる細胞である。
【0018】
前記エピモルフィンをコードする核酸としては、特に限定されないが、マウスエピモルフィンをコードする核酸、ヒトエピモルフィンをコードする核酸などが挙げられる。なかでも、発現およびエピモルフィンの作用機構に関する情報量が豊富であり、ケラチノサイト内における挙動が把握しやすい観点から、好ましくはマウスエピモルフィンをコードする核酸である。
【0019】
マウスエピモルフィンをコードする核酸としては、例えば、GenBankアクセッション番号:D10475に示される塩基配列の153位〜1022位からなる核酸(配列番号:2)などが挙げられる。また、ヒトエピモルフィンをコードする核酸としては、GenBankアクセッション番号:D14582に示される塩基配列の96位〜995位からなる核酸(配列番号:4)などが挙げられる。
【0020】
なお、前記エピモルフィンをコードする核酸は、コードされたポリペプチドがエピモルフィンとしての機能を発現するのであれば、配列番号:2または4に示される塩基配列からなる核酸のバリアントであってもよい。前記バリアントとしては、例えば、
(a)縮重を介して配列番号:2または4に示される塩基配列と異なる配列からなる核酸、
(b)配列番号:3または5に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1個、例えば、1個又は数個のアミノ酸残基の挿入、置換又は欠失を有する配列からなり、ケラチノサイト中でエピモルフィンとしての機能を発現するポリペプチドをコードする核酸、
(c)配列番号:2または4に示される塩基配列に対して、BLASTアルゴリズムにより、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 11の条件でアライメントして算出される配列相同性の値が、エピモルフィンとしての機能を十分に発現させる観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である塩基配列からなり、かつコードされたポリペプチドがケラチノサイト中でエピモルフィンとしての機能を発現するポリペプチドである核酸、
(d)配列番号:2または4に示される塩基配列に完全に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、かつコードされたポリペプチドがケラチノサイト中でエピモルフィンとしての機能を発現するポリペプチドである核酸などが挙げられる。
【0021】
なお、本明細書において、前記ストリンジェントな条件とは、例えば、配列番号:2または4に示される塩基配列からなる核酸と前記核酸に対応するハイブリダイゼーション対象の核酸とを、ハイブリダイゼーション用溶液〔組成:6×SSC(組成:0.9M塩化ナトリウム、0.09Mクエン酸ナトリウム、pH7.0に調整)、0.5質量%ドデシル硫酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、100μg/mL変性サケ精子DNA、50体積%ホルムアミド〕中で、室温以上の温度、よりストリンジェントな条件として42℃以上の温度、さらにストリンジェントな条件として60℃以上の温度で10時間インキュベーションし、つぎに、例えば、2×SSC、よりストリンジェントな条件として0.1×SSCのイオン強度条件下で、かつ室温以上の温度、よりストリンジェントな条件として42℃以上の温度、さらにストリンジェントな条件として60℃以上の温度で洗浄を行なう条件をいう。
【0022】
前記核酸には、ヒトにおける皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を十分に再現する観点から、シグナルペプチドがさらに付加されていてもよい。
【0023】
野生型ケラチノサイトへの核酸の導入は、特に限定されないが、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いる方法〔例えば、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、ザンブルーク(Sambrook)ら、コールド・スプリング・ハーバー・プレス(Cold Spring Harbor Press)、1989年発行など参照〕などによって行なうことができる。
【0024】
細胞構造体の形態の観察は、肉眼、位相差顕微鏡などで行なうことができる。
【0025】
本発明の評価方法は、1つの側面では、
(A1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質および不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C1)前記ステップ(A1)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B1)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む方法(以下、「評価方法1」という)である。評価方法1は、表皮角化細胞の最終分化段階であるアポトーシスを簡便に追跡することができることから、経皮吸収性の高い皮膚外用剤としての使用を前提とした成分の有効性の評価を目的とする場合に好適である。
【0026】
ステップ(A1)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質および不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0027】
細胞凝集物は、例えば、エピモルフィンを発現するケラチノサイトまたは野生型ケラチノサイトを細胞との接着性の極めて低い表面を有する培養容器内で旋回培養することなどによって得ることができる。
【0028】
前記旋回培養における旋回速度は、細胞凝集物を良好に形成させる観点から、好ましくは10min-1以上、より好ましくは50min-1以上であり、細胞の状態を良好に維持する観点から、好ましくは180min-1以下、より好ましくは150min-1以下である。
【0029】
前記旋回培養に用いられる培養雰囲気中における二酸化炭素濃度は、ケラチノサイトの種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、ケラチノサイトの種類などに応じて適宜設定することが好ましい。前記二酸化炭素濃度は、例えば、ケラチノサイトがヒトケラチノサイトまたはマウスケラチノサイトである場合、通常、5体積%程度である。
【0030】
前記旋回培養における培養温度は、ケラチノサイトの種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、ケラチノサイトの種類などに応じて適宜設定することが好ましい。前記培養温度は、例えば、ケラチノサイトがヒトケラチノサイトまたはマウスケラチノサイトである場合、通常、ケラチノサイトを良好に生育させる観点から、36〜38℃であることが好ましく、36.5〜37.5℃であることがより好ましい。
【0031】
旋回培養に用いられる培地は、ケラチノサイトの生育に適した培地であればよい。前記培地としては、例えば、熱不活性化血清含有DMEM/HamF12培地、熱不活性化血清含有DMEMなどが挙げられる。これらのなかでは、ケラチノサイトを良好に生育させる観点から、熱不活性化血清含有DMEM/HamF12培地が好ましい。かかる培地に用いられる熱不活性化血清としては、例えば、熱不活性化FCSなどが挙げられる。前記培地は、インスリンなどの細胞増殖促進因子を適宜含有していてもよい。
【0032】
旋回培養に用いられる培養容器は、細胞凝集物を形成させる観点から、細胞接着性が低いことが好ましく、細胞非接着性であることがより好ましい。なお、「細胞接着性が低い」とは、細胞を播種後、好ましくは細胞凝集物の形成が完了するまで(10時間以上)静置させても細胞が表面に接着しない程度の接着性であることをいう。
【0033】
旋回培養における培養時間は、ケラチノサイトの種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、ケラチノサイトの種類などに応じて適宜設定することが好ましい。前記培養時間は、例えば、ケラチノサイトがヒトケラチノサイトまたはマウスケラチノサイトである場合、通常、10時間程度である。
【0034】
足場となる支持体としては、例えば、コラーゲンゲル、ラミニンとエンタクチンとからなるゲル、コラーゲン、ラミニンなどを含有する合成高分子化合物などが挙げられる。合成高分子化合物としては、例えば、メチルセルロース、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらのなかでは、細胞凝集物に含まれるケラチノサイトを効率よく分化させる観点から、コラーゲンゲルが好ましい。コラーゲンゲルのなかでは、細胞凝集物に含まれるケラチノサイトを効率よく分化させる観点から、I型コラーゲンからなるゲルが好ましい。
【0035】
ステップ(A1)において、支持体がコラーゲンゲルである場合、細胞凝集物は、コラーゲンゲル内に包埋して分化条件下で培養することができる。コラーゲンゲル内への細胞凝集物の包埋は、コラーゲンと培地とを含む混合物中に細胞凝集物を入れ、得られた混合物をゲル化させることによって行なうことができる。コラーゲンゲル内への細胞凝集物の包埋に用いられる培地は、旋回培養における培地と同様である。
【0036】
分化条件下での培養は、細胞凝集物を含む支持体を培地中に浸漬させてインキュベーションすることによって行なわれる。
【0037】
評価方法1における分化条件とは、細胞凝集物を支持体中に包埋し、ケラチノサイトの生育に適した培地中で、必要に応じて細胞凝集物の増殖および/または分化を誘導する薬剤の存在下に培養することをいう。
【0038】
分化条件下での培養における二酸化炭素濃度および培養温度は、旋回培養における二酸化炭素濃度および培養温度と同様である。
【0039】
分化条件下での培養に用いられる培地としては、特に限定されないが、ウシ胎仔血清をその濃度が5〜20質量%程度となるようにケラチノサイト用無血清培地に添加した培地などが挙げられる。前記ケラチノサイト用無血清培地としては、特に限定されないが、例えば、DMEM/HamF12培地、α−MEM、DMEMなどが挙げられる。
【0040】
分化条件下での培養における培養時間は、被験物質を用いなかったときに細胞凝集物中のケラチノサイトが分化して細胞クラスターが形成され、かつ細胞クラスターの内部に空間が形成される時間であればよい。前記培養時間は、前記時間を確保する観点から、好ましくは3日間以上、より好ましくは5日間以上であり、分化以外の要因により引き起こされる細胞死を抑制し、被験物質の評価の精度を向上させる観点から、好ましくは10日以下である。
【0041】
ステップ(A1)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を用いた場合、細胞凝集物と被験物質との接触は、分化条件下での培養に用いられる培地として、被験物質を含む培地を用い、細胞凝集物を含む支持体をかかる被験物質を含む培地に浸漬させることによって行なうことができる。この場合、培地中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、被験物質の種類などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0042】
一方、ステップ(A1)において、野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を用いた場合、細胞凝集物と被験物質および不飽和脂肪酸との接触は、分化条件下での培養に用いられる培地として、被験物質と不飽和脂肪酸とを含む培地を用い、細胞凝集物を含む支持体を、かかる被験物質と不飽和脂肪酸とを含む培地に浸漬させることによって行なうことができる。この場合、培地中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、被験物質の種類などに応じて適宜設定することが好ましい。また、培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、不飽和脂肪酸の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、不飽和脂肪酸の種類などに応じて適宜設定することが好ましい。培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、通常、ケラチノサイトに対する不飽和脂肪酸による作用を十分に発現させる観点から、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上であり、分化以外の要因により引き起こされる細胞死を抑制し、被験物質の評価の精度を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。
【0043】
つぎに、ステップ(B1)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0044】
ステップ(A1)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いた場合、ステップ(B1)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いる。また、ステップ(A1)において、野生型ケラチノサイトを用いた場合、ステップ(B1)では、野生型ケラチノサイトを用いる。
【0045】
ステップ(B1)では、分化条件下での培養は、前記ステップ(A1)における分化条件下での培養と同じ操作によって行なう。
【0046】
また、ステップ(B1)で用いられる細胞凝集物、支持体、分化条件下での培養に用いられる培地、分化条件下における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間は、前記ステップ(A1)で用いられる細胞凝集物、支持体、分化条件下での培養に用いられる培地、分化条件下における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間と同一である。
【0047】
なお、ステップ(B1)において、野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を用いた場合、細胞凝集物と不飽和脂肪酸との接触は、分化条件下での培養に用いられる培地として、不飽和脂肪酸とを含む培地を用い、細胞凝集物を含む支持体をかかる不飽和脂肪酸とを含む培地に浸漬させることによって行なうことができる。この場合、培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、ステップ(A1)における培地中における不飽和脂肪酸の濃度と同一である。
【0048】
つぎに、ステップ(C1)では、前記ステップ(A1)で得られた細胞構造体〔細胞構造体(A1)〕と前記ステップ(B1)で得られた細胞構造体〔細胞構造体(B1)〕との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0049】
野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を支持体内で分化条件下で培養した場合、培養時間の経過に伴い、細胞凝集物から、野生型ケラチノサイトと野生型ケラチノサイトの分化細胞とを含む細胞クラスターが形成される。この細胞クラスターでは、当該細胞クラスターの最表部から内部方向に向かって、順に、正常な皮膚と同様に、野生型ケラチノサイトを含有する基底層と、野生型ケラチノサイトの分化細胞を含有する分化細胞層である有棘層、顆粒層および角質層とが形成され、かつ最内部に空間が形成される。
【0050】
これに対して、細胞構造体(B1)では、最内部に空間が形成されず、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化の状態が反映された形態が現れる。
【0051】
ところが、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質である場合、前記被験物質により、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化が抑制されることから、細胞構造体(A1)は、前記細胞クラスターと同様の形態を示す。
【0052】
したがって、ステップ(C1)では、細胞構造体(A1)と細胞構造体(B1)との間の差異を調べることにより、前記差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができる。
【0053】
本発明の評価方法は、他の側面では、
(A2)被験物質を含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸と被験物質とを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B2)カルシウムイオノフォアを含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸を含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C2)前記ステップ(A2)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B2)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む方法(以下、「評価方法2」という)である。評価方法2は、表皮角化細胞の基底層から中間層への分化が簡便に追跡することができることから、皮膚分化初期に作用する不全角化の予防成分の評価を目的とする場合に好適である。
【0054】
ステップ(A2)では、被験物質を含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸と被験物質とを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0055】
ステップ(A2)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いる場合、まず、被験物質を含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養し、つぎに、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養する。この場合、培地中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、被験物質の種類などに応じて適宜設定することが好ましい。また、培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープが形成される量となるように調整することが好ましい。培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、通常、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープを形成する量となるように培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度を確保する観点から、好ましく0.0002質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上であり、分化以外の要因により引き起こされる細胞死を抑制し、被験物質の評価の精度を向上させる観点から、好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.002質量%以下である。
【0056】
一方、ステップ(A2)において、野生型ケラチノサイトを用いる場合、まず、被験物質と不飽和脂肪酸とを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを分化条件下で培養し、つぎに、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養する。この場合、培地中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、被験物質に応じて適宜設定することが好ましい。また、培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、不飽和脂肪酸の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、不飽和脂肪酸に応じて適宜設定することが好ましい。培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、通常、ケラチノサイトに対する不飽和脂肪酸による作用を十分に発現させる観点から、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上であり、分化以外の要因により引き起こされる細胞死を抑制し、被験物質の評価の精度を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープが形成される量となるように調整することが好ましい。培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、通常、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープを形成する量となるように培地中におけるカルシウムイオノフォアの濃度を確保する観点から、好ましく0.0002質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上であり、分化以外の要因により引き起こされる細胞死を抑制し、被験物質の評価の精度を向上させる観点から、好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.002質量%以下である。
【0057】
被験物質を含有する培地は、基本培地に被験物質を添加することにより得ることができる。また、被験物質と不飽和脂肪酸とを含有する培地は、基本培地に被験物質と不飽和脂肪酸とを添加することにより得ることができる。また、カルシウムイオノフォアを含有する培地は、ケラチノサイト用無血清培地にカルシウムイオノフォアを添加することにより得ることができる。基本培地は、前記評価方法1において、分化条件下での培養に用いられる培地と同様である。
【0058】
評価方法2における分化条件とは、ケラチノサイト用無血清培地にカルシウムイオノフォアを添加した培地中でケラチノサイトを培養することをいう。
【0059】
分化条件下での培養における二酸化炭素濃度および培養温度は、前記評価方法1のステップ(A1)における二酸化炭素濃度および培養温度と同様である。
【0060】
分化条件下での培養における培養時間は、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープが形成される時間となるように調整することが好ましい。培養時間は、通常、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープが形成される時間を確保するの観点から、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上である。なお、培養時間の上限値は、評価方法の用途によって異なることから、一概には決定することができないので、評価方法の用途に応じて適宜設定することが好ましい。
【0061】
つぎに、ステップ(B2)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを、不飽和脂肪酸を含有する培地中で培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0062】
ステップ(A2)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いた場合、ステップ(B2)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いる。また、ステップ(A2)において、野生型ケラチノサイトを用いた場合、ステップ(B2)では、野生型ケラチノサイトを用いる。
【0063】
ステップ(B2)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いる場合、基本培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養し、つぎに、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養する。この場合、培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、ステップ(A2)における培地中におけるカルシウムイオノフォアの濃度と同一である。
【0064】
ステップ(B2)において、野生型ケラチノサイトを用いる場合、まず、不飽和脂肪酸を含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養し、つぎに、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養する。この場合、培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、ステップ(A2)における培地中における不飽和脂肪酸の濃度と同一である。また、培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、ステップ(A2)における培地中におけるカルシウムイオノフォアの濃度と同一である。
【0065】
不飽和脂肪酸を含有する培地は、基本培地に不飽和脂肪酸を添加することにより得ることができる。基本培地は、前記評価方法1において、分化条件下での培養に用いられる培地と同様である。カルシウムイオノフォアを含有する培地は、ケラチノサイト用無血清培地にカルシウムイオノフォアを添加することにより得ることができる。
【0066】
分化条件下での培養における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間は、前記評価方法1のステップ(A1)における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間と同一である。
【0067】
つぎに、ステップ(C2)では、前記ステップ(A2)で得られた細胞構造体〔細胞構造体(A2)〕と前記ステップ(B2)で得られた細胞構造体〔細胞構造体(B2)〕との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0068】
カルシウムイオノフォアを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを分化条件下で培養した場合、培養時間の経過に伴い、野生型ケラチノサイトは、分化し、コーニファイドエンベロープを形成する。
【0069】
これに対して、細胞構造体(B2)では、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化の状態が反映され、コーニファイドエンベロープが形成されない。
【0070】
ところが、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質である場合、被験物質により、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化が抑制されることから、細胞構造体(A2)では、コーニファイドエンベロープが形成される。
【0071】
したがって、ステップ(C2)では、細胞構造体(A2)と細胞構造体(B2)との間の差異を調べることにより、前記差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができる。
【0072】
本発明の評価方法は、さらに他の側面では、
(A3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C3)前記ステップ(A3)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B3)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む方法(以下、「評価方法3」という)。評価方法3は、皮膚の総合的な分化を追跡することができ、短時間で多くの成分の評価が可能であることから、外用剤に限らず内服での有効成分のスクリーニングを目的とする場合に好適である。
【0073】
ステップ(A3)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0074】
分化細胞構築物は、エピモルフィンを発現するケラチノサイトまたは野生型ケラチノサイトを、多孔性ポリマーに線維芽細胞を包埋させて得られた基材上で三次元に培養することにより得られる。
【0075】
線維芽細胞は、ヒトにおいて、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を十分に再現する観点から、ヒト線維芽細胞が好ましい。前記ヒト線維芽細胞としては、例えば、MRC−5細胞(ATCC CCL171)、ヒト初代皮膚線維芽細胞などが挙げられる。なかでも、ケラチノサイトの培地と同じ組成で培養できることから、MRC−5細胞が好ましい。
【0076】
前記多孔性ポリマーとしては、例えば、コラーゲンゲル、ポリビニルアルコールなどの合成高分子化合物、キトサンなどが挙げられる。前記多孔性ポリマーには、ケラチノサイトを分化させる物質、基底膜成分と類似の成分などがさらに含まれていてもよい。
【0077】
前記基材としては、例えば、線維芽細胞包埋コラーゲンゲルなどが挙げられる。これらの支持体のなかでは、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を十分に再現する観点から、線維芽細胞包埋コラーゲンゲルが好ましい。コラーゲンゲルのなかでは、ヒトの皮膚を良好に再現する観点から、I型コラーゲンからなるゲルが好ましい。線維芽細胞包埋コラーゲンゲルは、例えば、I型コラーゲンを含む溶液にヒト線維芽細胞を播種し、得られた混合物をゲル化させることにより調製することができる。前記コラーゲンゲルは、ヒト線維芽細胞が包埋されることにより、当該ヒト線維芽細胞の作用によって収縮し、真皮相当物として機能を発揮する。
【0078】
前記基材が、ヒト線維芽細胞包埋コラーゲンゲルである場合、ケラチノサイトをヒト線維芽細胞包埋コラーゲンゲル上に接着させて当該ケラチノサイトの足場を確保する観点から、前記コラーゲンゲルの表面に、フィブロネクチンなどの細胞接着因子を存在させることが望ましい。
【0079】
エピモルフィンを発現するケラチノサイトまたは野生型ケラチノサイトの三次元での培養に用いる培地は、評価方法1における旋回培養で用いる培地と同様である。なかでも、長期間の高密度培養に適し、かつ細胞のコロニー増殖に適する観点から、熱不活性化FCS含有DMEM/HamF12培地が好ましい。
【0080】
エピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞の三次元での培養は、例えば、
(1)前記基材上に、エピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞を播種するステップ、
(2)前記ステップ(1)で得られた播種後の基材を、培地に浸漬させて基材上のエピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞を培養するステップ、および
(3)前記ステップ(2)で得られた培養物におけるエピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞の表面を、空気と前記培地との接触面まで持ち上げて配置し、当該エピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞を培養するステップ、
を行なう方法(Air−lift法)などによって行なわれる。
【0081】
評価方法3における分化条件とは、基材上において、エピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞をコンフルエントな状態まで培養し、エピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞の表面を、空気と培地との接触面まで持ち上げて配置して気相曝露させ、2日に一度培地交換をしながら、14日以上培養することをいう。
【0082】
分化条件下での培養に用いられる培地、二酸化炭素濃度および培養温度は、評価方法1における分化条件下での培養に用いられる培地、二酸化炭素濃度および培養温度と同様である。
【0083】
分化条件下での培養における培養時間は、皮膚におけるターンオーバーを良好に再現する観点から、好ましくは14日間以上、より好ましくは20日間以上であり、組織を良好な状態に維持する観点から、好ましくは28日間以下、より好ましくは25日間以下である。
【0084】
ステップ(A3)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を用いる場合、分化細胞構築物と被験物質との接触は、分化細胞構築物におけるエピモルフィンを発現するケラチノサイトまたはこれらの分化細胞の上表面を、空気と培地との接触面まで持ち上げて配置するとともに、被験物質を含有する溶液を、分化細胞構築物の上表面に塗布し、分化細胞構築物を培養することによって行なわれる。この場合、溶液中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから、被験物質に応じて適宜設定することが好ましい。
【0085】
一方、ステップ(A3)において、野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を用いる場合、分化細胞構築物と被験物質および不飽和脂肪酸との接触は、分化細胞構築物におけるエピモルフィンを発現するケラチノサイトまたはこれらの分化細胞の上表面を、空気と培地との接触面まで持ち上げて配置するとともに、被験物質を含有する溶液および不飽和脂肪酸を含有する溶液を分化細胞構築物の上表面に塗布し、分化細胞構築物を培養することによって行なわれる。この場合、溶液中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから一概には決定することができないため、被験物質に応じて適宜設定することが好ましい。また、溶液中における不飽和脂肪酸の濃度は、不飽和脂肪酸の種類などによって異なることから一概には決定することができないため、不飽和脂肪酸に応じて適宜設定することが好ましい。溶液中における不飽和脂肪酸の濃度は、通常、被験物質を用いないときに不飽和脂肪酸による作用を発現するのに十分な量を確保する観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、取り扱いの容易性を確保する観点から、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0086】
つぎに、ステップ(B3)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0087】
ステップ(B3)で用いられる分化細胞構築物および培地ならびに分化条件下での培養における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間は、ステップ(A3)で用いられた分化細胞構築物および培地ならびに分化条件下での培養における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間と同一である。
【0088】
ステップ(A3)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を用いた場合、ステップ(B3)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を用いる。また、ステップ(A3)において、野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を用いた場合、ステップ(B3)において、野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を用いる。
【0089】
ステップ(B3)において、野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を用いた場合、分化細胞構築物と不飽和脂肪酸との接触は、分化細胞構築物の表面に不飽和脂肪酸を含む溶液を塗布することによって行なうことができる。この場合、不飽和脂肪酸を含む溶液中における不飽和脂肪酸の濃度は、ステップ(A3)における不飽和脂肪酸を含む溶液中における不飽和脂肪酸の濃度の濃度と同一である。
【0090】
つぎに、ステップ(C3)では、前記ステップ(A3)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B3)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0091】
野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養した場合、培養時間の経過に伴い、得られた細胞構造体の最表面に核を有しない成熟した細胞が現れる。
【0092】
これに対して、細胞構造体(B3)では、最表面に有核細胞が現れ、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化の状態が反映された形態が現れる。
【0093】
ところが、被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質である場合、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化が抑制されることから、細胞構造体(A3)では、最表面に核を有しない成熟した細胞が現れる。
【0094】
したがって、ステップ(C3)では、細胞構造体(A3)と細胞構造体(B3)との間の差異を調べることにより、前記差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができる。
【0095】
なお、本発明では、前記評価方法1のステップ(C1)、評価方法2のステップ(C2)および評価方法3のステップ(C3)それぞれにおいて、陽性対照として、例えば、式(I):
【0096】
【化1】
【0097】
〔式中、Xaa1およびXaa5はそれぞれ独立して、置換基を有してもよいセリル基、置換基を有してもよいスレオニル基または置換基を有してもよいチロシニル基、Xaa2は置換基を有してもよいイソロイシル基、置換基を有してもよいバリル基または置換基を有してもよいロイシル基、Xaa3およびXaa4はそれぞれ独立して、置換基を有してもよいアスパラギニル基、置換基を有してもよいグルタミニル基、置換基を有してもよいアスパラチル基または置換基を有してもよいグルタミル基、Cysはシステイニル基、R1は式(II):
【0098】
【化2】
【0099】
(式中、nは1〜10の整数を示す)
で表される基または式(III):
【0100】
【化3】
【0101】
(式中、nは1〜10の整数を示す)
で表される基を示す〕
で表される環状ペプチド化合物またはその薬理的に許容される塩などを用いてもよい。かかる環状ペプチド化合物またはその薬理的に許容される塩は、本発明の評価方法により、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質として選別された物質である。なお、前記式(I)は、配列番号:1に対応している。
【0102】
Xaa1は、置換基を有してもよいセリル基、置換基を有してもよいスレオニル基または置換基を有してもよいチロシニル基である。前記置換基は、本発明の効果を阻害しない官能基であればよい。前記置換基としては、例えば、単糖または多糖から誘導されたチオグリコシル基、単糖または多糖から誘導されたO-グリコシル基、単糖または多糖から誘導されたN-グリコシル基、リン酸基などが挙げられる。前記Xaa1のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、好ましくはセリル基である。
【0103】
Xaa2は、置換基を有してもよいイソロイシル基、置換基を有してもよいバリル基または置換基を有してもよいロイシル基である。前記置換基は、本発明の効果を阻害しない官能基であればよい。前記Xaa2のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、好ましくはイソロイシル基である。
【0104】
Xaa3は、置換基を有してもよいアスパラギニル基、置換基を有してもよいグルタミニル基、置換基を有してもよいアスパラチル基または置換基を有してもよいグルタミル基である。前記置換基は、本発明の目的を阻害しない官能基であればよい。Xaa3が置換基を有してもよいアスパラギニル基である場合、前記置換基としては、単糖または多糖から誘導されたチオグリコシル基、単糖または多糖から誘導されたO-グリコシル基、単糖または多糖から誘導されたN-グリコシル基などが挙げられる。Xaa3が置換基を有してもよいグルタミニル基である場合、前記置換基としては、アミノ基などが挙げられる。Xaa3が置換基を有してもよいアスパラチル基である場合、前記置換基としては、スクシンイミド基、リン酸基などが挙げられる。Xaa3が置換基を有してもよいグルタミル基である場合、前記置換基としては、カルボキシル基などが挙げられる。前記Xaa3のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、好ましくはグルタミル基である。
【0105】
Xaa4は、置換基を有してもよいアスパラギニル基、置換基を有してもよいグルタミニル基、置換基を有してもよいアスパラチル基または置換基を有してもよいグルタミル基である。前記置換基は、本発明の効果を阻害しない官能基であればよい。前記置換基としては、前記Xaa3における置換基と同様のものが挙げられる。前記Xaa4のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、好ましくはグルタミニル基である。
【0106】
Xaa5は、置換基を有してもよいセリル基、置換基を有してもよいスレオニル基または置換基を有してもよいチロシニル基である。前記置換基は、本発明の効果を阻害しない官能基であればよい。前記置換基としては、前記Xaa1における置換基と同様のものが挙げられる。前記Xaa5のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、好ましくはセリル基である。
【0107】
式(I)において、nは、1〜10の整数である。前記nは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、10以下、好ましくは8以下であり、より好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは1である。
【0108】
なお、Xaa1〜Xaa5、R1およびCysは、それぞれ、L−体の官能基であってもよく、D−体の官能基であってもよい。ヒトの皮膚への適応性の観点から、Xaa1〜Xaa5、R1およびCysは、好ましくはL−体の官能基である。
【0109】
薬理的に許容される塩としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば、無機酸塩、有機酸塩などが挙げられる。前記無機酸塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩などが挙げられる。また、有機酸塩としては、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩などが挙げられる。塩基付加塩としては、無機塩基塩、有機塩基塩などが挙げられる。無機塩基塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基塩としては、例えば、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩などの有機塩基塩などが挙げられる。
【0110】
式(I)で表される環状ペプチド化合物またはその薬理的に許容される塩のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、式(I)において、Xaa1がセリル基、Xaa2がイソロイシル基、Xaa3がグルタミル基、Xaa4がグルタミニル基、Xaa5がセリル基であり、R1が式(III)で表される基であり、nが1である化合物が好ましい。
【0111】
以上のように、本発明の評価方法によれば、分化条件下での培養を行なうという簡便な操作を行なうことにより、エピモルフィンの発現下または不飽和脂肪酸の存在下でのヒトの皮膚の分化の過程を再現し、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生の過程を簡便に再現することができる。このエピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる皮膚の状態の異常は、ヒトの皮膚において、皮脂によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常と関連していることから、本発明の評価方法によれば、簡便な操作で、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができる。したがって、本発明の評価方法は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を抑制する物質の開発、スクリーニング、バリデーションなどに有用である。
【実施例】
【0112】
つぎに、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。なお、以下において、Cysはシステイニル基、Serはセリル基、Glnはグルタミニル基、Gluはグルタミル基、Ileはイソロイシル基、Glyはグリシル基を示す。
【0113】
(製造例1)
DMEM/HamF12(シグマ−アルドリッチ社製)に、熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)を濃度が10質量%となるように添加し、熱不活性化FCS含有DMEM/HamF12培地(以下、「DH10培地」という)を得た。
【0114】
正常ヒト表皮ケラチノサイト細胞株であるHaCaT細胞を、前記DH10培地中、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で培養した。
【0115】
マウスエピモルフィンをコードするcDNA(GenBankアクセッション番号:E06629、配列番号:2)におけるエピモルフィンのN末端側に対応する部位に、T7−タグをコードするDNA(配列番号:6)を付加し、T7−タグエピモルフィンをコードするcDNAを調製した。つぎに、前記T7−タグエピモルフィンをコードするcDNAを、レトロウイルス発現ベクターpQCXIN(クローンテック社製)のEcoRI認識部位に挿入し、T7−タグエピモルフィン用発現プラスミドを調製した。
【0116】
得られたT7−タグエピモルフィン用発現プラスミドを、遺伝子導入用試薬(インビトロジェン社製、商品名:リポフェクタミンおよびインビトロジェン社製、商品名:プラス試薬)を用いてパッケージング細胞〔クローンテック社製、PT67細胞(マウス線維芽細胞由来細胞)〕に導入した。つぎに、得られた細胞のうち、500μg/mLのジェネティシン(ギブコ・ラボラトリー社製、商品名:G418)に対して耐性能を示す細胞から培養上清を回収した。回収された培養上清中から、レトロウイルスを得た。得られたレトロウイルスを前記HaCaT細胞に感染させ、500μg/mLジェネティシン(ギブコ・ラボラトリー社製、商品名:G418)の存在下に、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で8日間培養した。その後、培養後の細胞におけるエピモルフィン発現を調べることにより、T7−タグエピモルフィンを産生するケラチノサイト(HaCaT−TE細胞)を単離した。
【0117】
(製造例2)
PT67細胞を、DH10培地中、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で培養した。
【0118】
前記製造例1のT7−タグエピモルフィン用発現プラスミドを、遺伝子導入用試薬(インビトロジェン社製、商品名:リポフェクタミンおよびインビトロジェン社製、商品名:プラス試薬)を用いて、PT67細胞に導入した。つぎに、得られた細胞を、500μg/mLジェネティシン(ギブコ・ラボラトリー社製)の存在下に、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で8日間培養した。その後、培養後の細胞におけるエピモルフィン発現を調べることにより、T7−タグエピモルフィンを産生する線維芽細胞(PT67−TE細胞)を単離した。
【0119】
(製造例3)
IL−2シグナルペプチドをコードする核酸(配列番号:7)を、エピモルフィンをコードするcDNA(配列番号:2)におけるエピモルフィンのN末端に対応する部位に付加し、IL−2シグナルペプチド結合エピモルフィンをコードする核酸を得た。得られた核酸をレトロウイルス発現ベクター(クローンテック社製、商品名:pQCXIN)のEcoRI認識部位に挿入して、細胞表面エピモルフィン用発現プラスミドを調製した。
【0120】
得られた細胞表面エピモルフィン用発現プラスミドを、商品名:リポフェクタミン(インビトロジェン社製)およびプラス試薬(インビトロジェン社製)を用いてPT67に導入した。前記製造例1と同様にして得られたレトロウイルスをHaCaT細胞に感染させた。つぎに、得られた細胞を、500μg/mLジェネティシン(ギブコ・ラボラトリー社製、商品名:G418)の存在下に、5体積%二酸化炭素雰囲気下、37℃で8日間培養した。その後、培養後の細胞におけるエピモルフィン発現を調べることにより、細胞外エピモルフィンを産生する細胞(HaCaT−EPM細胞)を単離した。
【0121】
(実験例1)
HaCaT細胞をDH10培地(実験番号:1)、0.01体積%オレイン酸含有DH10培地(実験番号:2)または0.025体積%オレイン酸含有DH10培地(実験番号:3)中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した。
【0122】
培養後の細胞を単離し、得られた細胞を可溶化試薬〔組成:2体積%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、10体積%グリセロール、5体積%2−メルカプトエタノール、0.008体積%ブロモフェノールブルー、0.65Mトリス−塩酸緩衝液(pH約6.8)〕に溶解させることによって細胞抽出液を得た。
【0123】
得られた細胞抽出液と抗エピモルフィン抗体〔R&Dシステムズ社製〕とを用いてウエスタンブロッティングを行ない、HaCaT細胞における内因性エピモルフィンの発現量を調べた。なお、抗エピモルフィン抗体の代わりに抗β−アクチン抗体を用いたことを除き、前記と同様にして、HaCaT細胞におけるβ―アクチンの発現量を調べた。
【0124】
実験例1において、培地の種類とHaCaT細胞における内因性エピモルフィンの発現量との関係を調べた結果を図1に示す。図1中、レーン1は実験番号:1の培地を用いたときの内因性エピモルフィンに対応するバンド、レーン2は実験番号:2の培地を用いたときの内因性エピモルフィンに対応するバンド、レーン3は、実験番号:3の培地を用いたときの内因性エピモルフィンに対応するバンドを示す。
【0125】
図1に示された結果から、HaCaT細胞における内因性エピモルフィンの発現量は、実験番号:1〜3のいずれの培地を用いた場合であっても同程度であることがわかる。なお、HaCaT細胞におけるβ―アクチンの発現量も、実験番号:1〜3のいずれの培地を用いた場合であっても同程度であることがわかる。したがって、これらの結果から、オレイン酸は、HaCaT細胞における内因性エピモルフィンの発現量にはほとんど影響を与えないことがわかる。
【0126】
(実験例2)
製造例1で得られたHaCaT−TE細胞または製造例2で得られたPT67−TE細胞をDH10培地(実験番号:4)、0.01体積%オレイン酸含有DH10培地(実験番号:5)または0.025体積%オレイン酸含有DH10培地(実験番号:6)中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した。また、製造例1で得られたHaCaT−TE細胞または製造例2で得られたPT67−TE細胞に対して、照射量が10mJ/cm2となるように紫外線B(UVB)を照射し、その後、DH10培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した(実験番号7)。
【0127】
得られた培養物を遠心分離〔1000×g、30分間〕に供し、培養上清を得た。
【0128】
得られた培養上清から、抗T7タグ抗体〔ノバジェン社製〕と、プロテインGセファロースビーズ〔GEヘルスケア製〕とを用いて、分泌エピモルフィンを回収した。回収された分泌エピモルフィンとHRP標識抗T7タグ抗体〔ノバジェン社製〕とを用いてウエスタンブロッティングを行ない、HaCaT−TE細胞の培養上清およびPT67−TE細胞の培養上清それぞれにおける分泌エピモルフィンの量を調べた。
【0129】
実験例2において、培地の種類とHaCaT−TE細胞の培養上清およびPT67−TE細胞の培養上清それぞれにおける分泌エピモルフィンの量の関係を調べた結果を図2に示す。図2中、レーン1は実験番号:4の培地を用いたときの分泌エピモルフィンに対応するバンド、レーン2は実験番号:5の培地を用いたときの分泌エピモルフィンに対応するバンド、レーン3は、実験番号:6の培地を用いたときの分泌エピモルフィンに対応するバンド、レーン4は、実験番号:7の培地を用いたときの分泌エピモルフィンに対応するバンドを示す。
【0130】
図2に示された結果から、ケラチノサイトであるHaCaT−TE細胞の培養上清における分泌エピモルフィンの量は、オレイン酸の濃度が最も高い実験番号:6の培地を用いた場合、最も多く、UVBが照射されたHaCaT−TE細胞の培養上清における分泌エピモルフィンの量と同程度であることがわかる。一方、HaCaT−TE細胞の培養上清における分泌エピモルフィンの量は、オレイン酸を含まない実験番号:4の培地を用いた場合、最も低くなることがわかる。これに対して、線維芽細胞であるPT67−TE細胞の培養上清においては、オレイン酸の濃度とは関係なく、分泌エピモルフィンが検出されないことがわかる。これらの結果から、オレイン酸は、ケラチノサイトからのエピモルフィンの分泌を引き起こすことがわかる。したがって、オレイン酸により引き起こされる皮膚の不全角化とエピモルフィンにより引き起こされる皮膚の状態の異常とが関連していることが示唆される。
【0131】
(製造例4)
式(I)において、Xaa1がセリル基、Xaa2がイソロイシル基を示し、Xaa3がグルタミル基、Xaa4がグルタミニル基、Xaa5がセリル基であり、n=1である化合物を以下のようにして、合成した。
【0132】
(1)ペプチドの合成
出発原料として、Fmoc−Cys(Trt)−Trt(2−Cl)樹脂〔2-クロロトリチルクロライド樹脂1gあたりFmoc−Cys(Trt)の量が0.70mmol〕0.25mmol相当量を、自動ペプチド合成装置〔アプライド・バイオシステム(Applied Biosystem)社製、商品名:430A〕に入れた。
【0133】
まず、自動ペプチド合成装置のプログラムの制御下に、Fmoc−アミノ酸誘導体であるFmoc−Ser(OBu)2mmolをカップリング剤〔0.45M O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(以下、「HBTu」という)と0.45M1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(以下、「HOBt」という)とを含むジメチルホルムアミド〕で活性化させ、前記反応槽に入れた。これにより、前記反応槽内において、樹脂上のアミノ酸残基とFmoc−アミノ酸誘導体とのカップリング反応を行ない、Fmoc基保護ペプチド鎖を生成した。
【0134】
つぎに、樹脂上のFmoc基保護ペプチド鎖中におけるFmoc基を20体積%ピペリジン含有N−メチルピロリドン溶液で除去し(脱保護)、洗浄した。その後、Fmoc−Gln(Trt)、Fmoc−Glu(OBu)、Fmoc−Ile、Fmoc−Ser(OBu)、Fmoc−GlyおよびFmoc−Cys(Trt)をこの順で用いて前記と同様の操作を行なうことにより、配列番号:8に示されるアミノ酸配列にしたがって、対応するFmoc−アミノ酸誘導体を樹脂上のFmoc基保護ペプチド鎖に逐次導入し、配列番号:8に示されるアミノ酸配列を有するFmoc基保護ペプチドを含む樹脂を得た。なお、カップリング反応の成否は、カイザーテストを行なうことにより適宜確認した。
【0135】
得られたFmoc基保護ペプチドを含む樹脂を、トリフルオロ酢酸(以下、「TFA」という)とトリイソプロピルシラン(以下、「TIS」という)と水とエタンジチオール(以下、「DT」という)の混合液〔TFA/TIS/水/DT(体積比)が92.5/2.5/2.5/2.5〕中、室温で2時間インキュベーションして脱保護および樹脂からのペプチド鎖の切り出しを行なった。インキュベーション後の混合液から2-クロロトリチルクロライド樹脂をろ別し、ろ液を得た。得られたろ液を減圧下に濃縮して当該ろ液からTFAを留去した。得られた残渣に、冷却ジエチルエーテルを添加して、ペプチドの粗生成物の沈殿物約700mgを回収した。
【0136】
得られた粗生成物約700mgを、逆相カラム〔ゾルバックス(Zorbax)社製、オクタデシルシリカカラム、カラムの内径:30mm、カラムの長さ250mm〕を備えた高速液体クロマトグラフィー分取装置〔(株)島津製作所製、商品名:モデルLC8A〕に供した。そして、0.1体積%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1体積%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリル溶液とを用い、溶離液中のアセトニトリルの濃度勾配が1〜60体積%となるように溶離液中のアセトニトリルの濃度を調整しながら、流速:1.0mL/分で25分間クロマトグラフィーを行なった。目的のペプチドを含む画分を回収し、前記画分からアセトニトリルを留去した。つぎに、残渣を凍結乾燥させ、目的のペプチドのトリフルオロ酢酸塩110mgを得た。その後、目的のペプチドのトリフルオロ酢酸塩を脱塩し、目的のペプチド(直鎖状ペプチド)を得た。なお、カイザーテストの結果から、前記ペプチドは、配列番号:8に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであることが確認された。
【0137】
(2)ペプチドの環化
前記(1)で得られたペプチド110mg(0.135mmol)を50体積%酢酸水溶液130mLに添加した。得られた混合物に、0.5Mヨウ素水溶液210μL(0.8当量)を添加し、撹拌しながら室温で3時間混合した。これにより、ペプチド中の2つのシステイニル基のチオール基を酸化して、ジスルフィド結合を形成させた。その後、得られた混合物にアスコルビン酸70mgを添加した。
【0138】
つぎに、得られた混合物を、逆相カラム〔ズルバックス(Zorbax)社製、オクタデシルシリカカラム、カラムの内径:30mm、カラムの長さ250mm〕を備えた逆相高速クロマトグラフィー分取装置〔(株)島津製作所製、商品名:モデルLC8A〕に供した。そして、0.1体積%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1体積%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリル溶液とを用い、溶離液中のアセトニトリルの濃度勾配が1〜60体積%となるように溶離液中のアセトニトリルの濃度を調整しながら、流速:1.0mL/分で25分間クロマトグラフィーを行なった。これにより、生成物20mgを得た。
【0139】
(3)環状ペプチド化合物の確認
前記(1)で得られたペプチドおよび前記(2)で得られた生成物(酸化後のペプチド)それぞれを質量分析装置〔(株)島津製作所製、商品名:LC−MS−2010〕に供し、前記(1)で得られたペプチドおよび前記(2)で得られた酸化後のペプチドそれぞれのマススペクトルを調べた。製造例4において、ペプチドのマススペクトルを図3に、製造例4において、酸化後のペプチドのマススペクトルを図4に示す。
【0140】
図3に示された結果から、前記(1)で得られたペプチドのマススペクトルでは、配列番号:8に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの理論値付近の826.2m/zにピークが見られることがわかる。この結果から、前記(1)で得られたペプチドが配列番号:8に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであることが裏付けられた。
【0141】
また、図3および4に示された結果から、前記(1)で得られたペプチドのマススペクトルでは、826.2m/zにピークが見られるのに対して(図3参照)、前記(2)で得られた酸化後のペプチドのマススペクトルでは、水素原子2個分少ない824.2m/zにピークが見られることがわかる。これらの結果から、前記(2)で得られた酸化後のペプチドは、2つのシステイニル基間でジスルフィド結合が形成されることによって、前記(1)で得られたペプチドが環化されていることが裏付けられた。したがって、前記(2)で得られた酸化後のペプチドは、式(I)において、Xaa1がセリル基、Xaa2がイソロイシル基、Xaa3がグルタミル基、Xaa4がグルタミニル基、Xaa5がセリル基であり、R1が式(III)で表される基であり、nが1である環状ペプチド化合物であることがわかる。なお、前記環状ペプチド化合物の純度を高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」という)で調べたところ、98.2%であることが確認された。
【0142】
(製造例5)
(1)直鎖状ペプチドの調製
製造例4において、Fmoc−Cys(Trt)−Trt(2−Cl)樹脂の代わりにFmoc−Asp(OBu)−Alko−樹脂〔樹脂1gあたりFmoc−Asp(OBu)の量が0.70mmol〕0.25mmol相当量を用いたことと、Fmoc−アミノ酸誘導体として、Fmoc−Ser(OBu)、Fmoc−Gln(Trt)、Fmoc−Glu(OBu)、Fmoc−Ile、Fmoc−Ser(OBu)、Fmoc−GlyおよびFmoc−Cys(Trt)をこの順に用いる代わりに、Fmoc−Gln(Trt)、Fmoc−Glu(OBu)、Fmoc−IleおよびFmoc−Ser(OBu)をこの順に用いたことを除き、製造例4と同様に操作を行ない、配列番号:9に示されるアミノ酸配列からなる直鎖状ペプチドを得た。
【0143】
(実施例1)
(1)被験試料の調製
被験物質として製造例4で得られた環状ペプチド化合物をその濃度が10μg/mLとなるように精製水に溶解させ、被験試料1を得た。また、被験物質として製造例5で得られた直鎖状ペプチドをその濃度が10μg/mLとなるように精製水に溶解させ、被験試料2を得た。
【0144】
(2)培地の調製
以下の実験において、DH10培地を実験番号:8の培地として用いた。また、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液を、オレイン酸の濃度が0.05体積%となるようにDH10培地に添加し、培地を得た(実験番号:9)。さらに、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と被験試料2とを、オレイン酸の濃度が0.05体積%となり、かつ直鎖状ペプチドの濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加し、培地を得た(実験番号:10)。また、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と被験試料1とを、オレイン酸の濃度が0.05体積%となり、かつ環状ペプチド化合物の濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加し、培地を得た(実験番号:11)。
【0145】
(3)細胞クラスターの形成および内腔形成率の算出
HaCaT細胞(野生型ケラチノサイト)を、DH10培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で培養した。
【0146】
つぎに、得られたHaCaT細胞を、1000U/mL DNアーゼI(シグマ−アルドリッチ社製)含有DH10培地350μLに懸濁した。得られた懸濁物を、24−ウェルディッシュ(コーニング社製、超低接着表面)中、100min-1で回転させながら、5体積%二酸化炭素雰囲気下、37℃で24時間旋回培養して、平滑で丸い細胞凝集物を形成させた。
【0147】
形成された細胞凝集物を、0.5質量%タイプIAコラーゲン溶液〔(株)高研製〕で調製された高密度のコラーゲンゲル中に包埋した。前記コラーゲンゲルは、細胞の足場となる支持体である。
【0148】
つぎに、包埋後の細胞凝集物を、実験番号8:の培地、実験番号:9の培地、実験番号:10の培地または実験番号:11の培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で4日間培養して、細胞クラスター(細胞構造体)を形成させた。得られた細胞クラスターの形態を位相差顕微鏡下で観察した。
【0149】
細胞クラスター内において、最外層の細胞は、コラーゲンと接しているために未分化状態を保持している。しかしながら、前記最外層に存在する未分化状態の細胞の内側に位置する細胞は、通常、速やかに分化を開始し、アノイキスに至る。そのため、前記細胞クラスターでは、正常状態では培養開始から3〜4日間経過時において、容易に判別できる内腔が形成される。そこで、ランダムに選択された100個の細胞クラスターを観察し、全100個の細胞クラスターにおける明らかな内腔形成が見られた細胞クラスターの割合を調べることにより、内腔形成率を算出した。
【0150】
実施例1において、実験番号:11の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を図5(A)に、実施例1において、実験番号:10の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を図5(B)に示す。図中、スケールバーは100μmの長さを示す。
【0151】
また、実施例1において、培地の種類と内腔形成率との関係を調べた結果を図6に示す。図中、レーン1は実験番号:8の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン2は実験番号:9の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン3は実験番号:10の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン4は実験番号:11の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率を示す。
【0152】
図5(A)、図5(B)および図6に示された結果から、実験番号:11の培地を用いたときの細胞クラスターは、内腔形成率が高いのに対して、実験番号:10の培地を用いたときの細胞クラスターは、内腔形成率が低いことがわかる。これらの結果から、被験試料1を含む実験番号:11の培地は、オレイン酸により引き起こされる細胞クラスターにおける内腔形成の異常の発生を抑制しているが、被験試料2を含む実験番号:10の培地は、オレイン酸によって引き起こされる細胞クラスターにおける内腔形成の異常の発生を抑制していないことがわかる。
【0153】
前記細胞クラスターにおける内腔形成は、皮膚における分化や状態を反映していることから、オレイン酸によって引き起こされる細胞クラスターにおける内腔形成の異常は、皮脂中に多く含まれているオレイン酸などの不飽和脂肪酸によって引き起こされる皮膚の状態の異常の1つである不全角化を再現していると考えられる。したがって、被験試料1中に含まれる環状ペプチド化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であることが示唆される。
【0154】
以上の結果から、野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を、被験試料およびオレイン酸などの不飽和脂肪酸と接触させながら足場となる支持体内で分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を、不飽和脂肪酸と接触させながら足場となる支持体内で分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0155】
(実施例2)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例1と同様の操作を行ない、当該被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0156】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0157】
(実施例3)
(1)培地の調製
以下の実験において、DH10培地を実験番号:12の培地として用いた。精製水1μLをDH10培地1mLに添加し、培地を得た(実験番号:13)。さらに、実施例1(1)で得られた被験試料2を直鎖状ペプチドの濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加し、培地を得た(実験番号:14)。また、実施例1(1)で得られた被験試料1を環状ペプチド化合物の濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加し、培地を得た(実験番号:15)。
【0158】
(2)細胞クラスター(細胞構造体)の形成および内腔形成率の算出
実施例1において、HaCaT細胞の代わりに製造例3で得られたHaCaT−EPM細胞を用いたことと、実施例1において、実験番号8:の培地、実験番号:9の培地、実験番号:10の培地または実験番号:11の培地の代わりに実験番号12:の培地、実験番号:13の培地、実験番号:14の培地または実験番号:15の培地を用いたこととを除き、実施例1と同様に操作を行ない、内腔形成率を算出した。
【0159】
実施例3において、実験番号:15の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を図7(A)に、実施例3において、実験番号:14の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を図7(B)に示す。図中、スケールバーは100μmの長さを示す。
【0160】
また、実施例3において、培地の種類と内腔形成率との関係を調べた結果を図8に示す。図中、レーン1は実験番号:12の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン2は実験番号:13の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン3は実験番号:14の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン4は実験番号:15の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率を示す。図中、データは、3回の計数に基づくものであり、平均±標準誤差で示す。また、図中、*は、P<0.05である。
【0161】
図7(A)、図7(B)および図8に示された結果から、実験番号:15の培地を用いたときの細胞クラスターは、内腔形成率が高いのに対して、実験番号:14の培地を用いたときの細胞クラスターは、内腔形成率が低いことがわかる。これらの結果から、被験試料1を含む実験番号:14の培地は、エピモルフィンにより引き起こされる細胞クラスターにおける内腔形成の異常の発生を抑制しているが、被験試料2を含む実験番号:15の培地は、エピモルフィンにより引き起こされる細胞クラスターにおける内腔形成の異常の発生を抑制していないことがわかる。
【0162】
前記細胞クラスターにおける内腔形成は、皮膚における分化や状態を反映している。また、前記実験例2に示された結果から、オレイン酸により引き起こされる皮膚の不全角化とエピモルフィンにより引き起こされる皮膚の状態の異常とが関連していることが示唆されている。したがって、被験試料1に含まれる環状ペプチド化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であることが示唆される。
【0163】
以上の結果から、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を、被験試料と接触させながら足場となる支持体内で分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を、足場となる支持体内で分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0164】
(実施例4)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例3と同様の操作を行ない、当該被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0165】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0166】
(実施例5)
(1)培地の調製
以下の実験において、DH10培地を実験番号:16の培地として用いた。また、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液をオレイン酸の濃度が0.02体積%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:17)。さらに、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料2とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ直鎖状ペプチドの濃度が0.000001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:18)。また、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料1とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ環状ペプチド化合物の濃度が0.000001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:19)。1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料2とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ直鎖状ペプチドの濃度が0.00001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:20)。1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料1とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ環状ペプチド化合物の濃度が0.00001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:21)。また、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料2とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ直鎖状ペプチドの濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:22)。1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料1とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ環状ペプチド化合物の濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:23)。
【0167】
(2)コーニファイドエンベロープ形成率の算出
HaCaT細胞を、実験番号:16〜23のいずれかの培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した。
【0168】
つぎに、得られたHaCaT細胞を、リン酸緩衝生理的食塩水で洗浄し、ついで、トリプシン−EDTA溶液〔シグマ(SIGMA)社製〕500μL中において、37℃で3分間インキュベーションした。
【0169】
その後、得られたHaCaT細胞を1.0×105細胞/mLとなるように無血清DH培地(DMEM/HamF12、シグマーアルドリッチ社製)に懸濁した。得られた懸濁液に、カルシウム流入を引き起こすカルシウムイオノフォアA23187(シグマ−アルドリッチ社製)を濃度が20ng/mLとなるように添加し、得られた混合物中に含まれるHaCaT細胞を5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で5時間培養した。
【0170】
得られた細胞をリン酸緩衝化生理的食塩水で洗浄した。洗浄後の細胞を可溶化液〔組成:2質量%SDS、20mMジチオスレイトール、残部精製水〕中で10分間インキュベーションした。その後、カルシウムイオノフォアA23187によるカルシウム流入後の不溶性コーニファイドエンベロープに起因する残存不溶化細胞の数を光学顕微鏡下で計数し、全細胞の数と残存不溶化細胞の数とを用い、コーニファイドエンベロープ形成率を算出した。
【0171】
実施例5において、培地の種類とコーニファイドエンベロープ形成率との関係を調べた結果を図9に示す。図中、1は実験番号:16の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、2は実験番号:17の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、3は実験番号:18の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、4は実験番号:19の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、5は実験番号:20の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、6は実験番号:21の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、7は実験番号:22の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、8は実験番号:23の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率を示す。図中、データは、3回の計数に基づくものであり、平均±標準誤差で示す。また、図中、**はP<0.01、***はP<0.001である。
【0172】
図9に示された結果から、被験試料1を含む実験番号:19(図中、4)、21(図中、6)および23(図中、8)の培地それぞれを用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率は、被験試料2を含む実験番号:18(図中、3)、20(図中、5)および22(図中、7)の培地それぞれを用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率と比べて高くなっていることがわかる。
【0173】
コーニファイドエンベロープの形成は、皮膚における分化や状態を反映していることから、オレイン酸存在下におけるコーニファイドエンベロープ形成率は、皮膚の不全角化の場合のコーニファイドエンベロープ形成率と相関していると考えられる。したがって、被験試料1中に含まれる環状ペプチド化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であることが示唆される。
【0174】
以上の結果から、野生型ケラチノサイトを、被験物質とオレイン酸などの不飽和脂肪酸とカルシウムイオノフォアとを含有する培地中で分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、野生型ケラチノサイトを、不飽和脂肪酸とカルシウムイオノフォアとを含有する培地中で分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0175】
(実施例6)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例5と同様の操作を行ない、当該被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0176】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0177】
(実施例7)
(1)培地の調製
以下の実験において、DH10培地を実験番号:24または25の培地として用いた。実施例1(1)で得られた被験試料2を、直鎖状ペプチドの濃度が0.000001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:26)。また、実施例1(1)で得られた被験試料1を、環状ペプチド化合物の濃度が0.000001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:27)。実施例1(1)で得られた被験試料2を、直鎖状ペプチドの濃度が0.00001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:28)。実施例1(1)で得られた被験試料1を、環状ペプチド化合物の濃度が0.00001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:29)。また、実施例1(1)で得られた被験試料2を、直鎖状ペプチドの濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:30)。実施例1(1)で得られた被験試料1を、環状ペプチド化合物の濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:31)。
【0178】
(2)コーニファイドエンベロープ形成率の算出
HaCaT細胞を、実験番号:24の培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した。
【0179】
また、HaCaT-EPM細胞を用いた場合、HaCaT-EPM細胞を、実験番号:25〜31のいずれかの培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した。
【0180】
つぎに、得られたHaCaT細胞またはHaCaT−EPM細胞を、リン酸緩衝生理的食塩水で洗浄し、ついで、トリプシン−EDTA溶液500μL中において、37℃で3分間インキュベーションした。
【0181】
その後、得られたHaCaT細胞またはHaCaT−EPM細胞を1.0×105細胞/mLとなるように無血清DH培地に懸濁した。得られた懸濁液に、カルシウム流入を引き起こすカルシウムイオノフォアA23187を濃度が20ng/mLとなるように添加し、得られた混合物中に含まれるHaCaT細胞を5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で5時間培養した。
【0182】
実施例5と同様の操作を行なって、コーニファイドエンベロープ形成率を算出した。
【0183】
実施例7において、培地の種類または細胞の種類とコーニファイドエンベロープ形成率との関係を調べた結果を図10に示す。図中、1は実験番号:24の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、2は実験番号:25の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、3は実験番号:26の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、4は実験番号:27の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、5は実験番号:28の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、6は実験番号:29の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、7は実験番号:30の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、8は実験番号:31の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率を示す。図中、データは、3回の計数に基づくものであり、平均±標準誤差で示す。また、図中、*はP<0.05、**はP<0.01である。
【0184】
図10に示された結果から、被験試料1を含む実験番号:27(図中、4)、29(図中、6)および31(図中、8)の培地それぞれを用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率は、被験試料2を含む実験番号:26(図中、3)、28(図中、5)および30(図中、7)の培地それぞれを用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率と比べて高くなっていることがわかる。コーニファイドエンベロープの形成は、皮膚における分化や状態を反映していることから、エピモルフィンを発現させたときにおけるコーニファイドエンベロープの形成率は、皮膚の不全角化の場合のコーニファイドエンベロープの形成率と相関していると考えられる。したがって、被験試料1中に含まれる環状ペプチド化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であることが示唆される。
【0185】
以上の結果から、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを、被験物質とカルシウムイオノフォアとを含有する培地中で分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0186】
(実施例8)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例7と同様の操作を行ない、当該被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0187】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0188】
(実施例9)
(1)試料の調製
以下の実験において、DH10培地を実験番号:32の試料として用いた。精製水1μLをDH10培地1mLに添加し、試料を得た(実験番号:33)。また、実施例1(1)で得られた被験試料1を環状ペプチド化合物の濃度が0.001質量%となるようにDH10培地に添加して、試料を得た(実験番号:34)。比較例1(1)で得られた被験試料2を直鎖状ペプチドの濃度が0.001質量%となるようにDH10培地に添加して、試料を得た(実験番号:35)。
【0189】
(2)三次元培養で得られた細胞構造体の組織形態の観察
ヒト胎児肺線維芽細胞のMRC−5細胞を、10質量%熱不活性化FCSを含有するα−MEM(ギブコ・ラボラトリー社製)10mL中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で72時間培養した。
【0190】
24ウェル培養プレートのウェル内に支持体〔BDバイオサイエンス社製、商品名:セルカルチャーインサート〕を設置した。前記支持体中において、前記MRC−5細胞とコラーゲンゲル混合溶液(コラーゲンI型、新田ゼラチン株式会社製)とを混合した。得られた混合物をゲル化させて、細胞包埋ゲル(1.7×105/mL)を得た。得られた細胞包埋ゲルの上表面に、1mg/mLフィブロネクチン水溶液(BDバイオサイエンス社製)0.05mlを添加し、前記細胞包埋ゲルを室温で1時間放置した。つぎに、前記細胞包埋ゲル中のMRC−5細胞を、DH10培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で一晩インキュベーションした。
【0191】
その後、0.4μg/mLヒドロコルチゾン(シグマ−アルドリッチ社製)と100μg/mLゲンタマイシン(ギブコ・ラボラトリー社製)とインスリン(5μg/ml)と50μg/mLアスコルビン酸(シグマ−アルドリッチ社製)とを含有するDH10培地0.2mLに懸濁したHaCaT細胞(7.0×104細胞)を前記細胞包埋ゲル上に播種した。
【0192】
つぎに、前記HaCaT細胞が播種された細胞包埋ゲルを、24ウェル培養プレートのウェル中のDH10に浸漬させた。その後、細胞包埋ゲル中に含まれる細胞を、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で5日間インキュベーションし、細胞構築物を得た。つぎに、得られた細胞構築物中のHaCaT細胞の表面を、空気とDH10培地との接触面まで持ち上げて配置し、前記細胞構築物を、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で15日間培養し、HaCaT細胞を含む分化細胞構築物を得た。
【0193】
その後、実験番号:32においては、分化細胞構築物の表面に、実験番号:36の試料5μLを塗布し、分化細胞構築物を5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃でさらに1日間培養した。一方、実験番号:33〜35においては、分化細胞構築物の表面に、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液5μLと、実験番号:33〜35のいずれかの試料5μLとを塗布し、分化細胞構築物を5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃でさらに1日間培養した。
【0194】
得られた細胞構造体から凍結切片を作製した。かかる凍結切片をヘマトキシリン−エオシン染色により、細胞核を青紫色に染色するとともに、細胞質細胞質物質の大部分を赤色に染色した。染色後の凍結切片を用い、細胞構造体の組織形態を位相差顕微鏡下で観察した。
【0195】
実施例9において、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液を塗布せずに実験番号:32の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を図11(A)に、実施例9において、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:33の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を図11(B)に、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:34の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を図11(C)に、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:35の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を図11(D)に示す。図中、スケールバーは、50μmの長さを示す。
【0196】
図11(A)および(C)に示された結果から、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液と被験試料1を含む実験番号:34の試料とを塗布したときの細胞構造体では、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液を塗布せずに実験番号:32の試料を塗布したときの細胞構造体と同様に、細胞核が見られないことがわかる。したがって、被験試料1に含まれる環状ペプチド化合物は、オレイン酸によって引き起こされる不全角化の発生を抑制することができることがわかる。
【0197】
一方、図11(B)および(D)に示された結果から、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実験番号:33の試料とを塗布したときの細胞構造体ならびに0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液と被験試料2とを含む実験番号:35の試料とを塗布したときの細胞構造体においては、細胞核が見られることがわかる。したがって、被験試料2に含まれる直鎖状ペプチドは、オレイン酸によって引き起こされる不全角化の発生を抑制することができないことがわかる。
【0198】
これらの結果から、被験試料1中に含まれる環状ペプチド化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であることが示唆される。
【0199】
以上の結果から、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を、被験試料と接触させながら分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を、分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0200】
(実施例10)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例9と同様の操作を行ない、当該被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0201】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0202】
(実施例11)
実施例9において、HaCaT細胞の代わりに製造例3で得られたHaCaT−EPM細胞を用いたことおよび0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液を用いなかったことを除き、実施例9と同様の操作を行ない、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0203】
その結果、実施例9と同様に、製造例4で得られた環状ペプチド化合物が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるという評価が得られる。
【0204】
(実施例12)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例11と同様の操作を行ない、当該被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0205】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0206】
以上の結果から、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を被験試料と接触させながら分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0207】
また、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかの評価に際して、式(I)で表される化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質の陽性対照として用いることができることが示唆される。
【0208】
(比較例1)
実施例1(1)で得られた被験試料1を環状ペプチド化合物の濃度が0.001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:36)。また、実施例1(1)で得られた被験試料2を直鎖状ペプチドの濃度が0.001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:37)。なお、被験試料1の代わりに、被験試料1に含まれる精製水と同じ量の精製水(対照)を用いたことを除き、前記と同様にして、培地を得た。
【0209】
得られた培地中において、製造例3で得られたHaCaT−EPM細胞を5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で培養し、経時的に細胞を採取した。採取された細胞に、細胞計数用キット〔(株)同仁化学研究所製、商品名:Cell Counting Kit〕に添付の試薬A〔(株)同仁化学研究所製、商品名:WST−1〕と溶液Bとの混合溶液〔試薬Aと溶液Bとの体積比(試薬A/溶液B)=10/1〕110μLを添加し、3時間インキュベーションした。得られた混合物について、分光光度計〔ワッラック(WALLAC)社製、商品名:ARVOtmSX 1420 MULTILABEL COUNTER〕を用いて波長450nmにおける吸光度を測定し、HaCaT−EPM細胞の生育への影響を調べた。
【0210】
実験番号:36または37の培地を用いたときのHaCaT−EPM細胞の生育状態を調べた結果を表1に示す。なお、表1における評価基準は以下のとおりである。
【0211】
+ :対照を用いたときと比べ、有意にHaCaT−EPM細胞の生育状態が良好である(危険率0.01以下)。
− :HaCaT−EPM細胞の生育状態が対照を用いたときのHaCaT−EPM細胞の生育状態と同様である。
【0212】
【表1】
【0213】
表1に示された結果から、被験試料1を含む実験番号:36の培地中で培養したHaCaT−EPM細胞の生育状態は、良好であることがわかる。これに対し、被験試料2を含む実験番号:37の培地中で培養したHaCaT−EPM細胞の生育状態は、不良であることがわかる。
【0214】
しかしながら、これらの結果からは、被験試料1中に含まれる環状ペプチド化合物が不全角化に影響を与えているかどうかまでは不明である。したがって、被験物質によるHaCaT−EPM細胞の生育状態に対する影響を調べることでは、被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることができないと考えられる。
【配列表フリーテキスト】
【0215】
配列番号:1は、環状ペプチド化合物の配列である。1番目のシステイニル基と8番目のシステイニル基との間には、ジスルフィド結合が形成されている。2番目のXaaは、−CO−(CH2)n−NH−(式中、nは1〜10の整数である)である。3番目のXaaは、置換基を有してもよいSer、置換基を有してもよいThrまたは置換基を有してもよいTyrである。4番目のXaaは、置換基を有してもよいIle、置換基を有してもよいValまたは置換基を有してもよいLeuである。5番目のXaaは置換基を有してもよいAsn、置換基を有してもよいGln、置換基を有してもよいAspまたは置換基を有してもよいGluである。6番目のXaaは、置換基を有してもよいAsn、置換基を有してもよいGln、置換基を有してもよいAspまたは置換基を有してもよいGluである。7番目のXaaは、置換基を有してもよいSer、置換基を有してもよいThrまたは置換基を有してもよいTyrである。
【0216】
配列番号:6は、T7タグ配列である。
【0217】
配列番号:7は、IL−2シグナルペプチドの配列である。
【0218】
配列番号:8は、環状ペプチド化合物の部分配列である。2番目のXaaは、−CO−(CH2)n−NH−(式中、nは1〜10の整数である)である。3番目のXaaは、置換基を有してもよいSer、置換基を有してもよいThrまたは置換基を有してもよいTyrである。4番目のXaaは、置換基を有してもよいIle、置換基を有してもよいValまたは置換基を有してもよいLeuである。5番目のXaaは置換基を有してもよいAsn、置換基を有してもよいGln、置換基を有してもよいAspまたは置換基を有してもよいGluである。6番目のXaaは、置換基を有してもよいAsn、置換基を有してもよいGln、置換基を有してもよいAspまたは置換基を有してもよいGluである。7番目のXaaは、置換基を有してもよいSer、置換基を有してもよいThrまたは置換基を有してもよいTyrである。
【0219】
配列番号:9は、直鎖状ペプチドの配列である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験物質の評価方法に関する。さらに詳しくは、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常に対する外用剤、治療剤または予防剤の開発などに有用な被験物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの表皮は、下層から順に、基底層と有棘層と顆粒層と角質層とからなる。ヒトの正常な皮膚は、通常、28日間の周期でターンオーバーする。正常な皮膚のターンオーバーでは、ケラチノサイトが顆粒層から角質層へと押し上げられる。このとき、ケラチノサイトの分化により脱核が生じて有核細胞が消失し、成熟した角質層が形成される。
【0003】
しかしながら、皮脂中に含まれる不飽和脂肪酸などによって表皮における細胞の増殖が異常に促進された場合、皮膚における角化が異常に促進され、最終分化段階のケラチノサイトにおいて、脱核が起こらないことがある(以下、「不全角化」という)。この場合、角質層における有核細胞の割合が高くなることから、皮膚の角質層のバリア機能が著しく低下する。このようにバリア機能が低下した皮膚は、ニキビ、肌荒れなどが生じやすい傾向にある。そこで、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常に対する外用剤などが開発されている。
【0004】
皮脂によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常に対する外用剤などの評価は、例えば、マウスなどの動物の皮膚へのオレイン酸の塗布を繰り返して不全角化を生じさせ、この不全角化に対する外用剤などの影響を調べること、マウスなどの皮膚への粘着テープの貼付および剥離を繰り返して表皮の肥厚化を生じさせ、肥厚化した表皮に対する外用剤の影響を調べることなどによって行なわれている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、近年、動物愛護の傾向が高まっていることから、動物試験を行なわずに、簡便な操作で、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常に対する外用剤などの評価をすることができる方法が求められている。
【0005】
一方、本発明者らは、外因性エピモルフィンを発現するケラチノサイトを三次元で培養した場合、三次元培養によって得られる細胞構造体が不全角化を伴う皮膚の病理学的特徴に似た特徴を示すことを見出している。しかしながら、本発明者らは、現時点では、エピモルフィンによって引き起こされる前記不全角化を伴う皮膚の病理学的特徴に似た特徴を示す状態とオレイン酸などの不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常とが関連していることや、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる細胞や細胞構造体の状態の異常が、皮脂によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常と関連していることを具体的に記載した文献を発見していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−81834号参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を抑制する物質を簡便な操作で評価することができる被験物質の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、得られた細胞構造体の形態を観察し、前記細胞構造体の形態に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することを特徴とする被験物質の評価方法、
(2)(A1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C1)前記ステップ(A1)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B1)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む前記(1)に記載の被験物質の評価方法、
(3)(A2)被験物質を含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸と被験物質とを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B2)カルシウムイオノフォアを含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸を含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C2)前記ステップ(A2)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B2)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む前記(1)に記載の被験物質の評価方法、ならびに
(4)(A3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C3)前記ステップ(A3)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B3)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む前記(1)に記載の被験物質の評価方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被験物質の評価方法によれば、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を抑制する物質を簡便な操作で評価することができるという優れた効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実験例1において、培地の種類とHaCaT細胞における内因性エピモルフィンの発現量との関係を調べた結果を示す図面代用写真である。
【図2】実験例2において、培地の種類とHaCaT−TE細胞の培養上清およびPT67−TE細胞の培養上清それぞれにおける分泌エピモルフィンの量との関係を調べた結果を示す図面代用写真である。
【図3】製造例4において、ペプチドのマススペクトルを示すチャートである。
【図4】製造例4において、酸化後のペプチドのマススペクトルを示すチャートである。
【図5】(A)は、実施例1において、実験番号:11の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を示す図面代用写真、(B)は、実施例1において、実験番号:10の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を示す図面代用写真である。
【図6】実施例1において、培地の種類と内腔形成率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図7】(A)は、実施例3において、実験番号:15の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を示す図面代用写真、(B)は、実施例3において、実験番号:14の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を示す図面代用写真である。
【図8】実施例3において、培地の種類と内腔形成率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図9】実施例5において、培地の種類とコーニファイドエンベロープ形成率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図10】実施例7において、培地の種類または細胞の種類とコーニファイドエンベロープ形成率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図11】(A)は、実施例9において、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液を塗布せずに実験番号:32の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を示す図面代用写真、(B)は、実施例9において、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:33の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を示す図面代用写真、(C)は、実施例9において、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:34の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を示す図面代用写真、(D)は、実施例9において0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:35の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の被験物質の評価方法は、エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、得られた細胞構造体の形態を観察し、前記細胞構造体の形態に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することを特徴とする。
【0012】
本発明者らは、
(a)皮脂に含まれる不飽和脂肪酸の1つであるオレイン酸とエピモルフィンを発現するケラチノサイトとを接触させた場合、当該ケラチノサイト外に分泌されるエピモルフィンの量が増加すること、
(b)エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を、オレイン酸と接触させながら分化条件下で培養して得られた細胞構造体では、不全角化を伴う皮膚の病理学的特徴に似た組織形態の異常が見られるのに対して、エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を、オレイン酸およびエピモルフィンの機能を抑制する環状ペプチド化合物(配列番号:1)と接触させながら分化条件下で培養して得られた細胞構造体では、前記組織形態の異常が見られないこと、および
(c)エピモルフィンによって引き起こされる不全角化を伴う皮膚の病理学的特徴に似た組織形態と、皮脂によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常とが互いに関連していること
を見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0013】
本発明の評価方法は、エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養する点に1つの大きな特徴がある。前記分化条件下で培養するという簡便な操作を行なうことにより、エピモルフィンの発現下または不飽和脂肪酸の存在下でのヒトの皮膚の分化の過程を再現し、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生の過程を簡便に再現することができる。このエピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる皮膚の状態の異常は、ヒトの皮膚において、皮脂によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常と関連している。したがって、本発明の評価方法によれば、簡便な操作で、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができる。
【0014】
皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常としては、例えば、ニキビ、肌荒れ、吹き出物などが挙げられる。
【0015】
また、本明細書において、「野生型ケラチノサイト」とは、エピモルフィンを発現しないケラチノサイトをいう。
【0016】
野生型ケラチノサイトとしては、例えば、ヒト野生型ケラチノサイト、マウス野生型ケラチノサイトなどが挙げられる。これらのなかでは、ヒトにおける皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を十分に再現する観点から、ヒト野生型ケラチノサイトが好ましい。ヒト野生型ケラチノサイトとしては、特に限定されないが、例えば、HaCaT細胞、正常ヒト皮膚表皮ケラチノサイトなどが挙げられる。ヒト野生型ケラチノサイトのなかでは、ヒトにおける皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を十分に再現する観点から、HaCaT細胞が好ましい。
【0017】
エピモルフィンを発現するケラチノサイトは、エピモルフィンをコードする核酸を野生型ケラチノサイトに導入することにより得られる細胞である。
【0018】
前記エピモルフィンをコードする核酸としては、特に限定されないが、マウスエピモルフィンをコードする核酸、ヒトエピモルフィンをコードする核酸などが挙げられる。なかでも、発現およびエピモルフィンの作用機構に関する情報量が豊富であり、ケラチノサイト内における挙動が把握しやすい観点から、好ましくはマウスエピモルフィンをコードする核酸である。
【0019】
マウスエピモルフィンをコードする核酸としては、例えば、GenBankアクセッション番号:D10475に示される塩基配列の153位〜1022位からなる核酸(配列番号:2)などが挙げられる。また、ヒトエピモルフィンをコードする核酸としては、GenBankアクセッション番号:D14582に示される塩基配列の96位〜995位からなる核酸(配列番号:4)などが挙げられる。
【0020】
なお、前記エピモルフィンをコードする核酸は、コードされたポリペプチドがエピモルフィンとしての機能を発現するのであれば、配列番号:2または4に示される塩基配列からなる核酸のバリアントであってもよい。前記バリアントとしては、例えば、
(a)縮重を介して配列番号:2または4に示される塩基配列と異なる配列からなる核酸、
(b)配列番号:3または5に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1個、例えば、1個又は数個のアミノ酸残基の挿入、置換又は欠失を有する配列からなり、ケラチノサイト中でエピモルフィンとしての機能を発現するポリペプチドをコードする核酸、
(c)配列番号:2または4に示される塩基配列に対して、BLASTアルゴリズムにより、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 11の条件でアライメントして算出される配列相同性の値が、エピモルフィンとしての機能を十分に発現させる観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である塩基配列からなり、かつコードされたポリペプチドがケラチノサイト中でエピモルフィンとしての機能を発現するポリペプチドである核酸、
(d)配列番号:2または4に示される塩基配列に完全に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、かつコードされたポリペプチドがケラチノサイト中でエピモルフィンとしての機能を発現するポリペプチドである核酸などが挙げられる。
【0021】
なお、本明細書において、前記ストリンジェントな条件とは、例えば、配列番号:2または4に示される塩基配列からなる核酸と前記核酸に対応するハイブリダイゼーション対象の核酸とを、ハイブリダイゼーション用溶液〔組成:6×SSC(組成:0.9M塩化ナトリウム、0.09Mクエン酸ナトリウム、pH7.0に調整)、0.5質量%ドデシル硫酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、100μg/mL変性サケ精子DNA、50体積%ホルムアミド〕中で、室温以上の温度、よりストリンジェントな条件として42℃以上の温度、さらにストリンジェントな条件として60℃以上の温度で10時間インキュベーションし、つぎに、例えば、2×SSC、よりストリンジェントな条件として0.1×SSCのイオン強度条件下で、かつ室温以上の温度、よりストリンジェントな条件として42℃以上の温度、さらにストリンジェントな条件として60℃以上の温度で洗浄を行なう条件をいう。
【0022】
前記核酸には、ヒトにおける皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を十分に再現する観点から、シグナルペプチドがさらに付加されていてもよい。
【0023】
野生型ケラチノサイトへの核酸の導入は、特に限定されないが、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いる方法〔例えば、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、ザンブルーク(Sambrook)ら、コールド・スプリング・ハーバー・プレス(Cold Spring Harbor Press)、1989年発行など参照〕などによって行なうことができる。
【0024】
細胞構造体の形態の観察は、肉眼、位相差顕微鏡などで行なうことができる。
【0025】
本発明の評価方法は、1つの側面では、
(A1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質および不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C1)前記ステップ(A1)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B1)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む方法(以下、「評価方法1」という)である。評価方法1は、表皮角化細胞の最終分化段階であるアポトーシスを簡便に追跡することができることから、経皮吸収性の高い皮膚外用剤としての使用を前提とした成分の有効性の評価を目的とする場合に好適である。
【0026】
ステップ(A1)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質および不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0027】
細胞凝集物は、例えば、エピモルフィンを発現するケラチノサイトまたは野生型ケラチノサイトを細胞との接着性の極めて低い表面を有する培養容器内で旋回培養することなどによって得ることができる。
【0028】
前記旋回培養における旋回速度は、細胞凝集物を良好に形成させる観点から、好ましくは10min-1以上、より好ましくは50min-1以上であり、細胞の状態を良好に維持する観点から、好ましくは180min-1以下、より好ましくは150min-1以下である。
【0029】
前記旋回培養に用いられる培養雰囲気中における二酸化炭素濃度は、ケラチノサイトの種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、ケラチノサイトの種類などに応じて適宜設定することが好ましい。前記二酸化炭素濃度は、例えば、ケラチノサイトがヒトケラチノサイトまたはマウスケラチノサイトである場合、通常、5体積%程度である。
【0030】
前記旋回培養における培養温度は、ケラチノサイトの種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、ケラチノサイトの種類などに応じて適宜設定することが好ましい。前記培養温度は、例えば、ケラチノサイトがヒトケラチノサイトまたはマウスケラチノサイトである場合、通常、ケラチノサイトを良好に生育させる観点から、36〜38℃であることが好ましく、36.5〜37.5℃であることがより好ましい。
【0031】
旋回培養に用いられる培地は、ケラチノサイトの生育に適した培地であればよい。前記培地としては、例えば、熱不活性化血清含有DMEM/HamF12培地、熱不活性化血清含有DMEMなどが挙げられる。これらのなかでは、ケラチノサイトを良好に生育させる観点から、熱不活性化血清含有DMEM/HamF12培地が好ましい。かかる培地に用いられる熱不活性化血清としては、例えば、熱不活性化FCSなどが挙げられる。前記培地は、インスリンなどの細胞増殖促進因子を適宜含有していてもよい。
【0032】
旋回培養に用いられる培養容器は、細胞凝集物を形成させる観点から、細胞接着性が低いことが好ましく、細胞非接着性であることがより好ましい。なお、「細胞接着性が低い」とは、細胞を播種後、好ましくは細胞凝集物の形成が完了するまで(10時間以上)静置させても細胞が表面に接着しない程度の接着性であることをいう。
【0033】
旋回培養における培養時間は、ケラチノサイトの種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、ケラチノサイトの種類などに応じて適宜設定することが好ましい。前記培養時間は、例えば、ケラチノサイトがヒトケラチノサイトまたはマウスケラチノサイトである場合、通常、10時間程度である。
【0034】
足場となる支持体としては、例えば、コラーゲンゲル、ラミニンとエンタクチンとからなるゲル、コラーゲン、ラミニンなどを含有する合成高分子化合物などが挙げられる。合成高分子化合物としては、例えば、メチルセルロース、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらのなかでは、細胞凝集物に含まれるケラチノサイトを効率よく分化させる観点から、コラーゲンゲルが好ましい。コラーゲンゲルのなかでは、細胞凝集物に含まれるケラチノサイトを効率よく分化させる観点から、I型コラーゲンからなるゲルが好ましい。
【0035】
ステップ(A1)において、支持体がコラーゲンゲルである場合、細胞凝集物は、コラーゲンゲル内に包埋して分化条件下で培養することができる。コラーゲンゲル内への細胞凝集物の包埋は、コラーゲンと培地とを含む混合物中に細胞凝集物を入れ、得られた混合物をゲル化させることによって行なうことができる。コラーゲンゲル内への細胞凝集物の包埋に用いられる培地は、旋回培養における培地と同様である。
【0036】
分化条件下での培養は、細胞凝集物を含む支持体を培地中に浸漬させてインキュベーションすることによって行なわれる。
【0037】
評価方法1における分化条件とは、細胞凝集物を支持体中に包埋し、ケラチノサイトの生育に適した培地中で、必要に応じて細胞凝集物の増殖および/または分化を誘導する薬剤の存在下に培養することをいう。
【0038】
分化条件下での培養における二酸化炭素濃度および培養温度は、旋回培養における二酸化炭素濃度および培養温度と同様である。
【0039】
分化条件下での培養に用いられる培地としては、特に限定されないが、ウシ胎仔血清をその濃度が5〜20質量%程度となるようにケラチノサイト用無血清培地に添加した培地などが挙げられる。前記ケラチノサイト用無血清培地としては、特に限定されないが、例えば、DMEM/HamF12培地、α−MEM、DMEMなどが挙げられる。
【0040】
分化条件下での培養における培養時間は、被験物質を用いなかったときに細胞凝集物中のケラチノサイトが分化して細胞クラスターが形成され、かつ細胞クラスターの内部に空間が形成される時間であればよい。前記培養時間は、前記時間を確保する観点から、好ましくは3日間以上、より好ましくは5日間以上であり、分化以外の要因により引き起こされる細胞死を抑制し、被験物質の評価の精度を向上させる観点から、好ましくは10日以下である。
【0041】
ステップ(A1)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を用いた場合、細胞凝集物と被験物質との接触は、分化条件下での培養に用いられる培地として、被験物質を含む培地を用い、細胞凝集物を含む支持体をかかる被験物質を含む培地に浸漬させることによって行なうことができる。この場合、培地中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、被験物質の種類などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0042】
一方、ステップ(A1)において、野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を用いた場合、細胞凝集物と被験物質および不飽和脂肪酸との接触は、分化条件下での培養に用いられる培地として、被験物質と不飽和脂肪酸とを含む培地を用い、細胞凝集物を含む支持体を、かかる被験物質と不飽和脂肪酸とを含む培地に浸漬させることによって行なうことができる。この場合、培地中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、被験物質の種類などに応じて適宜設定することが好ましい。また、培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、不飽和脂肪酸の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、不飽和脂肪酸の種類などに応じて適宜設定することが好ましい。培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、通常、ケラチノサイトに対する不飽和脂肪酸による作用を十分に発現させる観点から、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上であり、分化以外の要因により引き起こされる細胞死を抑制し、被験物質の評価の精度を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。
【0043】
つぎに、ステップ(B1)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0044】
ステップ(A1)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いた場合、ステップ(B1)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いる。また、ステップ(A1)において、野生型ケラチノサイトを用いた場合、ステップ(B1)では、野生型ケラチノサイトを用いる。
【0045】
ステップ(B1)では、分化条件下での培養は、前記ステップ(A1)における分化条件下での培養と同じ操作によって行なう。
【0046】
また、ステップ(B1)で用いられる細胞凝集物、支持体、分化条件下での培養に用いられる培地、分化条件下における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間は、前記ステップ(A1)で用いられる細胞凝集物、支持体、分化条件下での培養に用いられる培地、分化条件下における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間と同一である。
【0047】
なお、ステップ(B1)において、野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を用いた場合、細胞凝集物と不飽和脂肪酸との接触は、分化条件下での培養に用いられる培地として、不飽和脂肪酸とを含む培地を用い、細胞凝集物を含む支持体をかかる不飽和脂肪酸とを含む培地に浸漬させることによって行なうことができる。この場合、培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、ステップ(A1)における培地中における不飽和脂肪酸の濃度と同一である。
【0048】
つぎに、ステップ(C1)では、前記ステップ(A1)で得られた細胞構造体〔細胞構造体(A1)〕と前記ステップ(B1)で得られた細胞構造体〔細胞構造体(B1)〕との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0049】
野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を支持体内で分化条件下で培養した場合、培養時間の経過に伴い、細胞凝集物から、野生型ケラチノサイトと野生型ケラチノサイトの分化細胞とを含む細胞クラスターが形成される。この細胞クラスターでは、当該細胞クラスターの最表部から内部方向に向かって、順に、正常な皮膚と同様に、野生型ケラチノサイトを含有する基底層と、野生型ケラチノサイトの分化細胞を含有する分化細胞層である有棘層、顆粒層および角質層とが形成され、かつ最内部に空間が形成される。
【0050】
これに対して、細胞構造体(B1)では、最内部に空間が形成されず、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化の状態が反映された形態が現れる。
【0051】
ところが、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質である場合、前記被験物質により、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化が抑制されることから、細胞構造体(A1)は、前記細胞クラスターと同様の形態を示す。
【0052】
したがって、ステップ(C1)では、細胞構造体(A1)と細胞構造体(B1)との間の差異を調べることにより、前記差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができる。
【0053】
本発明の評価方法は、他の側面では、
(A2)被験物質を含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸と被験物質とを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B2)カルシウムイオノフォアを含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸を含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C2)前記ステップ(A2)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B2)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む方法(以下、「評価方法2」という)である。評価方法2は、表皮角化細胞の基底層から中間層への分化が簡便に追跡することができることから、皮膚分化初期に作用する不全角化の予防成分の評価を目的とする場合に好適である。
【0054】
ステップ(A2)では、被験物質を含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸と被験物質とを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0055】
ステップ(A2)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いる場合、まず、被験物質を含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養し、つぎに、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養する。この場合、培地中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、被験物質の種類などに応じて適宜設定することが好ましい。また、培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープが形成される量となるように調整することが好ましい。培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、通常、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープを形成する量となるように培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度を確保する観点から、好ましく0.0002質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上であり、分化以外の要因により引き起こされる細胞死を抑制し、被験物質の評価の精度を向上させる観点から、好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.002質量%以下である。
【0056】
一方、ステップ(A2)において、野生型ケラチノサイトを用いる場合、まず、被験物質と不飽和脂肪酸とを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを分化条件下で培養し、つぎに、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養する。この場合、培地中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、被験物質に応じて適宜設定することが好ましい。また、培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、不飽和脂肪酸の種類などによって異なることから、一概には決定することができないため、不飽和脂肪酸に応じて適宜設定することが好ましい。培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、通常、ケラチノサイトに対する不飽和脂肪酸による作用を十分に発現させる観点から、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上であり、分化以外の要因により引き起こされる細胞死を抑制し、被験物質の評価の精度を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープが形成される量となるように調整することが好ましい。培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、通常、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープを形成する量となるように培地中におけるカルシウムイオノフォアの濃度を確保する観点から、好ましく0.0002質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上であり、分化以外の要因により引き起こされる細胞死を抑制し、被験物質の評価の精度を向上させる観点から、好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.002質量%以下である。
【0057】
被験物質を含有する培地は、基本培地に被験物質を添加することにより得ることができる。また、被験物質と不飽和脂肪酸とを含有する培地は、基本培地に被験物質と不飽和脂肪酸とを添加することにより得ることができる。また、カルシウムイオノフォアを含有する培地は、ケラチノサイト用無血清培地にカルシウムイオノフォアを添加することにより得ることができる。基本培地は、前記評価方法1において、分化条件下での培養に用いられる培地と同様である。
【0058】
評価方法2における分化条件とは、ケラチノサイト用無血清培地にカルシウムイオノフォアを添加した培地中でケラチノサイトを培養することをいう。
【0059】
分化条件下での培養における二酸化炭素濃度および培養温度は、前記評価方法1のステップ(A1)における二酸化炭素濃度および培養温度と同様である。
【0060】
分化条件下での培養における培養時間は、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープが形成される時間となるように調整することが好ましい。培養時間は、通常、被験物質を用いなかったときにコーニファイドエンベロープが形成される時間を確保するの観点から、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上である。なお、培養時間の上限値は、評価方法の用途によって異なることから、一概には決定することができないので、評価方法の用途に応じて適宜設定することが好ましい。
【0061】
つぎに、ステップ(B2)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを、不飽和脂肪酸を含有する培地中で培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0062】
ステップ(A2)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いた場合、ステップ(B2)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いる。また、ステップ(A2)において、野生型ケラチノサイトを用いた場合、ステップ(B2)では、野生型ケラチノサイトを用いる。
【0063】
ステップ(B2)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを用いる場合、基本培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養し、つぎに、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養する。この場合、培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、ステップ(A2)における培地中におけるカルシウムイオノフォアの濃度と同一である。
【0064】
ステップ(B2)において、野生型ケラチノサイトを用いる場合、まず、不飽和脂肪酸を含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養し、つぎに、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養する。この場合、培地中における不飽和脂肪酸の濃度は、ステップ(A2)における培地中における不飽和脂肪酸の濃度と同一である。また、培地中におけるカルシウムウイオノフォアの濃度は、ステップ(A2)における培地中におけるカルシウムイオノフォアの濃度と同一である。
【0065】
不飽和脂肪酸を含有する培地は、基本培地に不飽和脂肪酸を添加することにより得ることができる。基本培地は、前記評価方法1において、分化条件下での培養に用いられる培地と同様である。カルシウムイオノフォアを含有する培地は、ケラチノサイト用無血清培地にカルシウムイオノフォアを添加することにより得ることができる。
【0066】
分化条件下での培養における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間は、前記評価方法1のステップ(A1)における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間と同一である。
【0067】
つぎに、ステップ(C2)では、前記ステップ(A2)で得られた細胞構造体〔細胞構造体(A2)〕と前記ステップ(B2)で得られた細胞構造体〔細胞構造体(B2)〕との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0068】
カルシウムイオノフォアを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを分化条件下で培養した場合、培養時間の経過に伴い、野生型ケラチノサイトは、分化し、コーニファイドエンベロープを形成する。
【0069】
これに対して、細胞構造体(B2)では、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化の状態が反映され、コーニファイドエンベロープが形成されない。
【0070】
ところが、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質である場合、被験物質により、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化が抑制されることから、細胞構造体(A2)では、コーニファイドエンベロープが形成される。
【0071】
したがって、ステップ(C2)では、細胞構造体(A2)と細胞構造体(B2)との間の差異を調べることにより、前記差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができる。
【0072】
本発明の評価方法は、さらに他の側面では、
(A3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C3)前記ステップ(A3)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B3)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む方法(以下、「評価方法3」という)。評価方法3は、皮膚の総合的な分化を追跡することができ、短時間で多くの成分の評価が可能であることから、外用剤に限らず内服での有効成分のスクリーニングを目的とする場合に好適である。
【0073】
ステップ(A3)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0074】
分化細胞構築物は、エピモルフィンを発現するケラチノサイトまたは野生型ケラチノサイトを、多孔性ポリマーに線維芽細胞を包埋させて得られた基材上で三次元に培養することにより得られる。
【0075】
線維芽細胞は、ヒトにおいて、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を十分に再現する観点から、ヒト線維芽細胞が好ましい。前記ヒト線維芽細胞としては、例えば、MRC−5細胞(ATCC CCL171)、ヒト初代皮膚線維芽細胞などが挙げられる。なかでも、ケラチノサイトの培地と同じ組成で培養できることから、MRC−5細胞が好ましい。
【0076】
前記多孔性ポリマーとしては、例えば、コラーゲンゲル、ポリビニルアルコールなどの合成高分子化合物、キトサンなどが挙げられる。前記多孔性ポリマーには、ケラチノサイトを分化させる物質、基底膜成分と類似の成分などがさらに含まれていてもよい。
【0077】
前記基材としては、例えば、線維芽細胞包埋コラーゲンゲルなどが挙げられる。これらの支持体のなかでは、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を十分に再現する観点から、線維芽細胞包埋コラーゲンゲルが好ましい。コラーゲンゲルのなかでは、ヒトの皮膚を良好に再現する観点から、I型コラーゲンからなるゲルが好ましい。線維芽細胞包埋コラーゲンゲルは、例えば、I型コラーゲンを含む溶液にヒト線維芽細胞を播種し、得られた混合物をゲル化させることにより調製することができる。前記コラーゲンゲルは、ヒト線維芽細胞が包埋されることにより、当該ヒト線維芽細胞の作用によって収縮し、真皮相当物として機能を発揮する。
【0078】
前記基材が、ヒト線維芽細胞包埋コラーゲンゲルである場合、ケラチノサイトをヒト線維芽細胞包埋コラーゲンゲル上に接着させて当該ケラチノサイトの足場を確保する観点から、前記コラーゲンゲルの表面に、フィブロネクチンなどの細胞接着因子を存在させることが望ましい。
【0079】
エピモルフィンを発現するケラチノサイトまたは野生型ケラチノサイトの三次元での培養に用いる培地は、評価方法1における旋回培養で用いる培地と同様である。なかでも、長期間の高密度培養に適し、かつ細胞のコロニー増殖に適する観点から、熱不活性化FCS含有DMEM/HamF12培地が好ましい。
【0080】
エピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞の三次元での培養は、例えば、
(1)前記基材上に、エピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞を播種するステップ、
(2)前記ステップ(1)で得られた播種後の基材を、培地に浸漬させて基材上のエピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞を培養するステップ、および
(3)前記ステップ(2)で得られた培養物におけるエピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞の表面を、空気と前記培地との接触面まで持ち上げて配置し、当該エピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞を培養するステップ、
を行なう方法(Air−lift法)などによって行なわれる。
【0081】
評価方法3における分化条件とは、基材上において、エピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞をコンフルエントな状態まで培養し、エピモルフィンを発現するケラチノサイト、野生型ケラチノサイトまたはこれらの分化細胞の表面を、空気と培地との接触面まで持ち上げて配置して気相曝露させ、2日に一度培地交換をしながら、14日以上培養することをいう。
【0082】
分化条件下での培養に用いられる培地、二酸化炭素濃度および培養温度は、評価方法1における分化条件下での培養に用いられる培地、二酸化炭素濃度および培養温度と同様である。
【0083】
分化条件下での培養における培養時間は、皮膚におけるターンオーバーを良好に再現する観点から、好ましくは14日間以上、より好ましくは20日間以上であり、組織を良好な状態に維持する観点から、好ましくは28日間以下、より好ましくは25日間以下である。
【0084】
ステップ(A3)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を用いる場合、分化細胞構築物と被験物質との接触は、分化細胞構築物におけるエピモルフィンを発現するケラチノサイトまたはこれらの分化細胞の上表面を、空気と培地との接触面まで持ち上げて配置するとともに、被験物質を含有する溶液を、分化細胞構築物の上表面に塗布し、分化細胞構築物を培養することによって行なわれる。この場合、溶液中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから、被験物質に応じて適宜設定することが好ましい。
【0085】
一方、ステップ(A3)において、野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を用いる場合、分化細胞構築物と被験物質および不飽和脂肪酸との接触は、分化細胞構築物におけるエピモルフィンを発現するケラチノサイトまたはこれらの分化細胞の上表面を、空気と培地との接触面まで持ち上げて配置するとともに、被験物質を含有する溶液および不飽和脂肪酸を含有する溶液を分化細胞構築物の上表面に塗布し、分化細胞構築物を培養することによって行なわれる。この場合、溶液中における被験物質の濃度は、被験物質の種類などによって異なることから一概には決定することができないため、被験物質に応じて適宜設定することが好ましい。また、溶液中における不飽和脂肪酸の濃度は、不飽和脂肪酸の種類などによって異なることから一概には決定することができないため、不飽和脂肪酸に応じて適宜設定することが好ましい。溶液中における不飽和脂肪酸の濃度は、通常、被験物質を用いないときに不飽和脂肪酸による作用を発現するのに十分な量を確保する観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、取り扱いの容易性を確保する観点から、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0086】
つぎに、ステップ(B3)では、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得る。
【0087】
ステップ(B3)で用いられる分化細胞構築物および培地ならびに分化条件下での培養における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間は、ステップ(A3)で用いられた分化細胞構築物および培地ならびに分化条件下での培養における二酸化炭素濃度、培養温度および培養時間と同一である。
【0088】
ステップ(A3)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を用いた場合、ステップ(B3)において、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を用いる。また、ステップ(A3)において、野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を用いた場合、ステップ(B3)において、野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を用いる。
【0089】
ステップ(B3)において、野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を用いた場合、分化細胞構築物と不飽和脂肪酸との接触は、分化細胞構築物の表面に不飽和脂肪酸を含む溶液を塗布することによって行なうことができる。この場合、不飽和脂肪酸を含む溶液中における不飽和脂肪酸の濃度は、ステップ(A3)における不飽和脂肪酸を含む溶液中における不飽和脂肪酸の濃度の濃度と同一である。
【0090】
つぎに、ステップ(C3)では、前記ステップ(A3)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B3)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0091】
野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養した場合、培養時間の経過に伴い、得られた細胞構造体の最表面に核を有しない成熟した細胞が現れる。
【0092】
これに対して、細胞構造体(B3)では、最表面に有核細胞が現れ、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化の状態が反映された形態が現れる。
【0093】
ところが、被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質である場合、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる不全角化が抑制されることから、細胞構造体(A3)では、最表面に核を有しない成熟した細胞が現れる。
【0094】
したがって、ステップ(C3)では、細胞構造体(A3)と細胞構造体(B3)との間の差異を調べることにより、前記差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができる。
【0095】
なお、本発明では、前記評価方法1のステップ(C1)、評価方法2のステップ(C2)および評価方法3のステップ(C3)それぞれにおいて、陽性対照として、例えば、式(I):
【0096】
【化1】
【0097】
〔式中、Xaa1およびXaa5はそれぞれ独立して、置換基を有してもよいセリル基、置換基を有してもよいスレオニル基または置換基を有してもよいチロシニル基、Xaa2は置換基を有してもよいイソロイシル基、置換基を有してもよいバリル基または置換基を有してもよいロイシル基、Xaa3およびXaa4はそれぞれ独立して、置換基を有してもよいアスパラギニル基、置換基を有してもよいグルタミニル基、置換基を有してもよいアスパラチル基または置換基を有してもよいグルタミル基、Cysはシステイニル基、R1は式(II):
【0098】
【化2】
【0099】
(式中、nは1〜10の整数を示す)
で表される基または式(III):
【0100】
【化3】
【0101】
(式中、nは1〜10の整数を示す)
で表される基を示す〕
で表される環状ペプチド化合物またはその薬理的に許容される塩などを用いてもよい。かかる環状ペプチド化合物またはその薬理的に許容される塩は、本発明の評価方法により、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質として選別された物質である。なお、前記式(I)は、配列番号:1に対応している。
【0102】
Xaa1は、置換基を有してもよいセリル基、置換基を有してもよいスレオニル基または置換基を有してもよいチロシニル基である。前記置換基は、本発明の効果を阻害しない官能基であればよい。前記置換基としては、例えば、単糖または多糖から誘導されたチオグリコシル基、単糖または多糖から誘導されたO-グリコシル基、単糖または多糖から誘導されたN-グリコシル基、リン酸基などが挙げられる。前記Xaa1のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、好ましくはセリル基である。
【0103】
Xaa2は、置換基を有してもよいイソロイシル基、置換基を有してもよいバリル基または置換基を有してもよいロイシル基である。前記置換基は、本発明の効果を阻害しない官能基であればよい。前記Xaa2のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、好ましくはイソロイシル基である。
【0104】
Xaa3は、置換基を有してもよいアスパラギニル基、置換基を有してもよいグルタミニル基、置換基を有してもよいアスパラチル基または置換基を有してもよいグルタミル基である。前記置換基は、本発明の目的を阻害しない官能基であればよい。Xaa3が置換基を有してもよいアスパラギニル基である場合、前記置換基としては、単糖または多糖から誘導されたチオグリコシル基、単糖または多糖から誘導されたO-グリコシル基、単糖または多糖から誘導されたN-グリコシル基などが挙げられる。Xaa3が置換基を有してもよいグルタミニル基である場合、前記置換基としては、アミノ基などが挙げられる。Xaa3が置換基を有してもよいアスパラチル基である場合、前記置換基としては、スクシンイミド基、リン酸基などが挙げられる。Xaa3が置換基を有してもよいグルタミル基である場合、前記置換基としては、カルボキシル基などが挙げられる。前記Xaa3のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、好ましくはグルタミル基である。
【0105】
Xaa4は、置換基を有してもよいアスパラギニル基、置換基を有してもよいグルタミニル基、置換基を有してもよいアスパラチル基または置換基を有してもよいグルタミル基である。前記置換基は、本発明の効果を阻害しない官能基であればよい。前記置換基としては、前記Xaa3における置換基と同様のものが挙げられる。前記Xaa4のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、好ましくはグルタミニル基である。
【0106】
Xaa5は、置換基を有してもよいセリル基、置換基を有してもよいスレオニル基または置換基を有してもよいチロシニル基である。前記置換基は、本発明の効果を阻害しない官能基であればよい。前記置換基としては、前記Xaa1における置換基と同様のものが挙げられる。前記Xaa5のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、好ましくはセリル基である。
【0107】
式(I)において、nは、1〜10の整数である。前記nは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、10以下、好ましくは8以下であり、より好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは1である。
【0108】
なお、Xaa1〜Xaa5、R1およびCysは、それぞれ、L−体の官能基であってもよく、D−体の官能基であってもよい。ヒトの皮膚への適応性の観点から、Xaa1〜Xaa5、R1およびCysは、好ましくはL−体の官能基である。
【0109】
薬理的に許容される塩としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば、無機酸塩、有機酸塩などが挙げられる。前記無機酸塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩などが挙げられる。また、有機酸塩としては、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩などが挙げられる。塩基付加塩としては、無機塩基塩、有機塩基塩などが挙げられる。無機塩基塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基塩としては、例えば、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩などの有機塩基塩などが挙げられる。
【0110】
式(I)で表される環状ペプチド化合物またはその薬理的に許容される塩のなかでは、前記抑制作用を十分に発現させる観点から、式(I)において、Xaa1がセリル基、Xaa2がイソロイシル基、Xaa3がグルタミル基、Xaa4がグルタミニル基、Xaa5がセリル基であり、R1が式(III)で表される基であり、nが1である化合物が好ましい。
【0111】
以上のように、本発明の評価方法によれば、分化条件下での培養を行なうという簡便な操作を行なうことにより、エピモルフィンの発現下または不飽和脂肪酸の存在下でのヒトの皮膚の分化の過程を再現し、エピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生の過程を簡便に再現することができる。このエピモルフィンまたは不飽和脂肪酸によって引き起こされる皮膚の状態の異常は、ヒトの皮膚において、皮脂によって引き起こされる不全角化などの皮膚の状態の異常と関連していることから、本発明の評価方法によれば、簡便な操作で、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができる。したがって、本発明の評価方法は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常を抑制する物質の開発、スクリーニング、バリデーションなどに有用である。
【実施例】
【0112】
つぎに、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。なお、以下において、Cysはシステイニル基、Serはセリル基、Glnはグルタミニル基、Gluはグルタミル基、Ileはイソロイシル基、Glyはグリシル基を示す。
【0113】
(製造例1)
DMEM/HamF12(シグマ−アルドリッチ社製)に、熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)を濃度が10質量%となるように添加し、熱不活性化FCS含有DMEM/HamF12培地(以下、「DH10培地」という)を得た。
【0114】
正常ヒト表皮ケラチノサイト細胞株であるHaCaT細胞を、前記DH10培地中、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で培養した。
【0115】
マウスエピモルフィンをコードするcDNA(GenBankアクセッション番号:E06629、配列番号:2)におけるエピモルフィンのN末端側に対応する部位に、T7−タグをコードするDNA(配列番号:6)を付加し、T7−タグエピモルフィンをコードするcDNAを調製した。つぎに、前記T7−タグエピモルフィンをコードするcDNAを、レトロウイルス発現ベクターpQCXIN(クローンテック社製)のEcoRI認識部位に挿入し、T7−タグエピモルフィン用発現プラスミドを調製した。
【0116】
得られたT7−タグエピモルフィン用発現プラスミドを、遺伝子導入用試薬(インビトロジェン社製、商品名:リポフェクタミンおよびインビトロジェン社製、商品名:プラス試薬)を用いてパッケージング細胞〔クローンテック社製、PT67細胞(マウス線維芽細胞由来細胞)〕に導入した。つぎに、得られた細胞のうち、500μg/mLのジェネティシン(ギブコ・ラボラトリー社製、商品名:G418)に対して耐性能を示す細胞から培養上清を回収した。回収された培養上清中から、レトロウイルスを得た。得られたレトロウイルスを前記HaCaT細胞に感染させ、500μg/mLジェネティシン(ギブコ・ラボラトリー社製、商品名:G418)の存在下に、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で8日間培養した。その後、培養後の細胞におけるエピモルフィン発現を調べることにより、T7−タグエピモルフィンを産生するケラチノサイト(HaCaT−TE細胞)を単離した。
【0117】
(製造例2)
PT67細胞を、DH10培地中、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で培養した。
【0118】
前記製造例1のT7−タグエピモルフィン用発現プラスミドを、遺伝子導入用試薬(インビトロジェン社製、商品名:リポフェクタミンおよびインビトロジェン社製、商品名:プラス試薬)を用いて、PT67細胞に導入した。つぎに、得られた細胞を、500μg/mLジェネティシン(ギブコ・ラボラトリー社製)の存在下に、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で8日間培養した。その後、培養後の細胞におけるエピモルフィン発現を調べることにより、T7−タグエピモルフィンを産生する線維芽細胞(PT67−TE細胞)を単離した。
【0119】
(製造例3)
IL−2シグナルペプチドをコードする核酸(配列番号:7)を、エピモルフィンをコードするcDNA(配列番号:2)におけるエピモルフィンのN末端に対応する部位に付加し、IL−2シグナルペプチド結合エピモルフィンをコードする核酸を得た。得られた核酸をレトロウイルス発現ベクター(クローンテック社製、商品名:pQCXIN)のEcoRI認識部位に挿入して、細胞表面エピモルフィン用発現プラスミドを調製した。
【0120】
得られた細胞表面エピモルフィン用発現プラスミドを、商品名:リポフェクタミン(インビトロジェン社製)およびプラス試薬(インビトロジェン社製)を用いてPT67に導入した。前記製造例1と同様にして得られたレトロウイルスをHaCaT細胞に感染させた。つぎに、得られた細胞を、500μg/mLジェネティシン(ギブコ・ラボラトリー社製、商品名:G418)の存在下に、5体積%二酸化炭素雰囲気下、37℃で8日間培養した。その後、培養後の細胞におけるエピモルフィン発現を調べることにより、細胞外エピモルフィンを産生する細胞(HaCaT−EPM細胞)を単離した。
【0121】
(実験例1)
HaCaT細胞をDH10培地(実験番号:1)、0.01体積%オレイン酸含有DH10培地(実験番号:2)または0.025体積%オレイン酸含有DH10培地(実験番号:3)中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した。
【0122】
培養後の細胞を単離し、得られた細胞を可溶化試薬〔組成:2体積%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、10体積%グリセロール、5体積%2−メルカプトエタノール、0.008体積%ブロモフェノールブルー、0.65Mトリス−塩酸緩衝液(pH約6.8)〕に溶解させることによって細胞抽出液を得た。
【0123】
得られた細胞抽出液と抗エピモルフィン抗体〔R&Dシステムズ社製〕とを用いてウエスタンブロッティングを行ない、HaCaT細胞における内因性エピモルフィンの発現量を調べた。なお、抗エピモルフィン抗体の代わりに抗β−アクチン抗体を用いたことを除き、前記と同様にして、HaCaT細胞におけるβ―アクチンの発現量を調べた。
【0124】
実験例1において、培地の種類とHaCaT細胞における内因性エピモルフィンの発現量との関係を調べた結果を図1に示す。図1中、レーン1は実験番号:1の培地を用いたときの内因性エピモルフィンに対応するバンド、レーン2は実験番号:2の培地を用いたときの内因性エピモルフィンに対応するバンド、レーン3は、実験番号:3の培地を用いたときの内因性エピモルフィンに対応するバンドを示す。
【0125】
図1に示された結果から、HaCaT細胞における内因性エピモルフィンの発現量は、実験番号:1〜3のいずれの培地を用いた場合であっても同程度であることがわかる。なお、HaCaT細胞におけるβ―アクチンの発現量も、実験番号:1〜3のいずれの培地を用いた場合であっても同程度であることがわかる。したがって、これらの結果から、オレイン酸は、HaCaT細胞における内因性エピモルフィンの発現量にはほとんど影響を与えないことがわかる。
【0126】
(実験例2)
製造例1で得られたHaCaT−TE細胞または製造例2で得られたPT67−TE細胞をDH10培地(実験番号:4)、0.01体積%オレイン酸含有DH10培地(実験番号:5)または0.025体積%オレイン酸含有DH10培地(実験番号:6)中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した。また、製造例1で得られたHaCaT−TE細胞または製造例2で得られたPT67−TE細胞に対して、照射量が10mJ/cm2となるように紫外線B(UVB)を照射し、その後、DH10培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した(実験番号7)。
【0127】
得られた培養物を遠心分離〔1000×g、30分間〕に供し、培養上清を得た。
【0128】
得られた培養上清から、抗T7タグ抗体〔ノバジェン社製〕と、プロテインGセファロースビーズ〔GEヘルスケア製〕とを用いて、分泌エピモルフィンを回収した。回収された分泌エピモルフィンとHRP標識抗T7タグ抗体〔ノバジェン社製〕とを用いてウエスタンブロッティングを行ない、HaCaT−TE細胞の培養上清およびPT67−TE細胞の培養上清それぞれにおける分泌エピモルフィンの量を調べた。
【0129】
実験例2において、培地の種類とHaCaT−TE細胞の培養上清およびPT67−TE細胞の培養上清それぞれにおける分泌エピモルフィンの量の関係を調べた結果を図2に示す。図2中、レーン1は実験番号:4の培地を用いたときの分泌エピモルフィンに対応するバンド、レーン2は実験番号:5の培地を用いたときの分泌エピモルフィンに対応するバンド、レーン3は、実験番号:6の培地を用いたときの分泌エピモルフィンに対応するバンド、レーン4は、実験番号:7の培地を用いたときの分泌エピモルフィンに対応するバンドを示す。
【0130】
図2に示された結果から、ケラチノサイトであるHaCaT−TE細胞の培養上清における分泌エピモルフィンの量は、オレイン酸の濃度が最も高い実験番号:6の培地を用いた場合、最も多く、UVBが照射されたHaCaT−TE細胞の培養上清における分泌エピモルフィンの量と同程度であることがわかる。一方、HaCaT−TE細胞の培養上清における分泌エピモルフィンの量は、オレイン酸を含まない実験番号:4の培地を用いた場合、最も低くなることがわかる。これに対して、線維芽細胞であるPT67−TE細胞の培養上清においては、オレイン酸の濃度とは関係なく、分泌エピモルフィンが検出されないことがわかる。これらの結果から、オレイン酸は、ケラチノサイトからのエピモルフィンの分泌を引き起こすことがわかる。したがって、オレイン酸により引き起こされる皮膚の不全角化とエピモルフィンにより引き起こされる皮膚の状態の異常とが関連していることが示唆される。
【0131】
(製造例4)
式(I)において、Xaa1がセリル基、Xaa2がイソロイシル基を示し、Xaa3がグルタミル基、Xaa4がグルタミニル基、Xaa5がセリル基であり、n=1である化合物を以下のようにして、合成した。
【0132】
(1)ペプチドの合成
出発原料として、Fmoc−Cys(Trt)−Trt(2−Cl)樹脂〔2-クロロトリチルクロライド樹脂1gあたりFmoc−Cys(Trt)の量が0.70mmol〕0.25mmol相当量を、自動ペプチド合成装置〔アプライド・バイオシステム(Applied Biosystem)社製、商品名:430A〕に入れた。
【0133】
まず、自動ペプチド合成装置のプログラムの制御下に、Fmoc−アミノ酸誘導体であるFmoc−Ser(OBu)2mmolをカップリング剤〔0.45M O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(以下、「HBTu」という)と0.45M1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(以下、「HOBt」という)とを含むジメチルホルムアミド〕で活性化させ、前記反応槽に入れた。これにより、前記反応槽内において、樹脂上のアミノ酸残基とFmoc−アミノ酸誘導体とのカップリング反応を行ない、Fmoc基保護ペプチド鎖を生成した。
【0134】
つぎに、樹脂上のFmoc基保護ペプチド鎖中におけるFmoc基を20体積%ピペリジン含有N−メチルピロリドン溶液で除去し(脱保護)、洗浄した。その後、Fmoc−Gln(Trt)、Fmoc−Glu(OBu)、Fmoc−Ile、Fmoc−Ser(OBu)、Fmoc−GlyおよびFmoc−Cys(Trt)をこの順で用いて前記と同様の操作を行なうことにより、配列番号:8に示されるアミノ酸配列にしたがって、対応するFmoc−アミノ酸誘導体を樹脂上のFmoc基保護ペプチド鎖に逐次導入し、配列番号:8に示されるアミノ酸配列を有するFmoc基保護ペプチドを含む樹脂を得た。なお、カップリング反応の成否は、カイザーテストを行なうことにより適宜確認した。
【0135】
得られたFmoc基保護ペプチドを含む樹脂を、トリフルオロ酢酸(以下、「TFA」という)とトリイソプロピルシラン(以下、「TIS」という)と水とエタンジチオール(以下、「DT」という)の混合液〔TFA/TIS/水/DT(体積比)が92.5/2.5/2.5/2.5〕中、室温で2時間インキュベーションして脱保護および樹脂からのペプチド鎖の切り出しを行なった。インキュベーション後の混合液から2-クロロトリチルクロライド樹脂をろ別し、ろ液を得た。得られたろ液を減圧下に濃縮して当該ろ液からTFAを留去した。得られた残渣に、冷却ジエチルエーテルを添加して、ペプチドの粗生成物の沈殿物約700mgを回収した。
【0136】
得られた粗生成物約700mgを、逆相カラム〔ゾルバックス(Zorbax)社製、オクタデシルシリカカラム、カラムの内径:30mm、カラムの長さ250mm〕を備えた高速液体クロマトグラフィー分取装置〔(株)島津製作所製、商品名:モデルLC8A〕に供した。そして、0.1体積%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1体積%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリル溶液とを用い、溶離液中のアセトニトリルの濃度勾配が1〜60体積%となるように溶離液中のアセトニトリルの濃度を調整しながら、流速:1.0mL/分で25分間クロマトグラフィーを行なった。目的のペプチドを含む画分を回収し、前記画分からアセトニトリルを留去した。つぎに、残渣を凍結乾燥させ、目的のペプチドのトリフルオロ酢酸塩110mgを得た。その後、目的のペプチドのトリフルオロ酢酸塩を脱塩し、目的のペプチド(直鎖状ペプチド)を得た。なお、カイザーテストの結果から、前記ペプチドは、配列番号:8に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであることが確認された。
【0137】
(2)ペプチドの環化
前記(1)で得られたペプチド110mg(0.135mmol)を50体積%酢酸水溶液130mLに添加した。得られた混合物に、0.5Mヨウ素水溶液210μL(0.8当量)を添加し、撹拌しながら室温で3時間混合した。これにより、ペプチド中の2つのシステイニル基のチオール基を酸化して、ジスルフィド結合を形成させた。その後、得られた混合物にアスコルビン酸70mgを添加した。
【0138】
つぎに、得られた混合物を、逆相カラム〔ズルバックス(Zorbax)社製、オクタデシルシリカカラム、カラムの内径:30mm、カラムの長さ250mm〕を備えた逆相高速クロマトグラフィー分取装置〔(株)島津製作所製、商品名:モデルLC8A〕に供した。そして、0.1体積%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1体積%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリル溶液とを用い、溶離液中のアセトニトリルの濃度勾配が1〜60体積%となるように溶離液中のアセトニトリルの濃度を調整しながら、流速:1.0mL/分で25分間クロマトグラフィーを行なった。これにより、生成物20mgを得た。
【0139】
(3)環状ペプチド化合物の確認
前記(1)で得られたペプチドおよび前記(2)で得られた生成物(酸化後のペプチド)それぞれを質量分析装置〔(株)島津製作所製、商品名:LC−MS−2010〕に供し、前記(1)で得られたペプチドおよび前記(2)で得られた酸化後のペプチドそれぞれのマススペクトルを調べた。製造例4において、ペプチドのマススペクトルを図3に、製造例4において、酸化後のペプチドのマススペクトルを図4に示す。
【0140】
図3に示された結果から、前記(1)で得られたペプチドのマススペクトルでは、配列番号:8に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの理論値付近の826.2m/zにピークが見られることがわかる。この結果から、前記(1)で得られたペプチドが配列番号:8に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであることが裏付けられた。
【0141】
また、図3および4に示された結果から、前記(1)で得られたペプチドのマススペクトルでは、826.2m/zにピークが見られるのに対して(図3参照)、前記(2)で得られた酸化後のペプチドのマススペクトルでは、水素原子2個分少ない824.2m/zにピークが見られることがわかる。これらの結果から、前記(2)で得られた酸化後のペプチドは、2つのシステイニル基間でジスルフィド結合が形成されることによって、前記(1)で得られたペプチドが環化されていることが裏付けられた。したがって、前記(2)で得られた酸化後のペプチドは、式(I)において、Xaa1がセリル基、Xaa2がイソロイシル基、Xaa3がグルタミル基、Xaa4がグルタミニル基、Xaa5がセリル基であり、R1が式(III)で表される基であり、nが1である環状ペプチド化合物であることがわかる。なお、前記環状ペプチド化合物の純度を高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」という)で調べたところ、98.2%であることが確認された。
【0142】
(製造例5)
(1)直鎖状ペプチドの調製
製造例4において、Fmoc−Cys(Trt)−Trt(2−Cl)樹脂の代わりにFmoc−Asp(OBu)−Alko−樹脂〔樹脂1gあたりFmoc−Asp(OBu)の量が0.70mmol〕0.25mmol相当量を用いたことと、Fmoc−アミノ酸誘導体として、Fmoc−Ser(OBu)、Fmoc−Gln(Trt)、Fmoc−Glu(OBu)、Fmoc−Ile、Fmoc−Ser(OBu)、Fmoc−GlyおよびFmoc−Cys(Trt)をこの順に用いる代わりに、Fmoc−Gln(Trt)、Fmoc−Glu(OBu)、Fmoc−IleおよびFmoc−Ser(OBu)をこの順に用いたことを除き、製造例4と同様に操作を行ない、配列番号:9に示されるアミノ酸配列からなる直鎖状ペプチドを得た。
【0143】
(実施例1)
(1)被験試料の調製
被験物質として製造例4で得られた環状ペプチド化合物をその濃度が10μg/mLとなるように精製水に溶解させ、被験試料1を得た。また、被験物質として製造例5で得られた直鎖状ペプチドをその濃度が10μg/mLとなるように精製水に溶解させ、被験試料2を得た。
【0144】
(2)培地の調製
以下の実験において、DH10培地を実験番号:8の培地として用いた。また、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液を、オレイン酸の濃度が0.05体積%となるようにDH10培地に添加し、培地を得た(実験番号:9)。さらに、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と被験試料2とを、オレイン酸の濃度が0.05体積%となり、かつ直鎖状ペプチドの濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加し、培地を得た(実験番号:10)。また、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と被験試料1とを、オレイン酸の濃度が0.05体積%となり、かつ環状ペプチド化合物の濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加し、培地を得た(実験番号:11)。
【0145】
(3)細胞クラスターの形成および内腔形成率の算出
HaCaT細胞(野生型ケラチノサイト)を、DH10培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で培養した。
【0146】
つぎに、得られたHaCaT細胞を、1000U/mL DNアーゼI(シグマ−アルドリッチ社製)含有DH10培地350μLに懸濁した。得られた懸濁物を、24−ウェルディッシュ(コーニング社製、超低接着表面)中、100min-1で回転させながら、5体積%二酸化炭素雰囲気下、37℃で24時間旋回培養して、平滑で丸い細胞凝集物を形成させた。
【0147】
形成された細胞凝集物を、0.5質量%タイプIAコラーゲン溶液〔(株)高研製〕で調製された高密度のコラーゲンゲル中に包埋した。前記コラーゲンゲルは、細胞の足場となる支持体である。
【0148】
つぎに、包埋後の細胞凝集物を、実験番号8:の培地、実験番号:9の培地、実験番号:10の培地または実験番号:11の培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で4日間培養して、細胞クラスター(細胞構造体)を形成させた。得られた細胞クラスターの形態を位相差顕微鏡下で観察した。
【0149】
細胞クラスター内において、最外層の細胞は、コラーゲンと接しているために未分化状態を保持している。しかしながら、前記最外層に存在する未分化状態の細胞の内側に位置する細胞は、通常、速やかに分化を開始し、アノイキスに至る。そのため、前記細胞クラスターでは、正常状態では培養開始から3〜4日間経過時において、容易に判別できる内腔が形成される。そこで、ランダムに選択された100個の細胞クラスターを観察し、全100個の細胞クラスターにおける明らかな内腔形成が見られた細胞クラスターの割合を調べることにより、内腔形成率を算出した。
【0150】
実施例1において、実験番号:11の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を図5(A)に、実施例1において、実験番号:10の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を図5(B)に示す。図中、スケールバーは100μmの長さを示す。
【0151】
また、実施例1において、培地の種類と内腔形成率との関係を調べた結果を図6に示す。図中、レーン1は実験番号:8の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン2は実験番号:9の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン3は実験番号:10の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン4は実験番号:11の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率を示す。
【0152】
図5(A)、図5(B)および図6に示された結果から、実験番号:11の培地を用いたときの細胞クラスターは、内腔形成率が高いのに対して、実験番号:10の培地を用いたときの細胞クラスターは、内腔形成率が低いことがわかる。これらの結果から、被験試料1を含む実験番号:11の培地は、オレイン酸により引き起こされる細胞クラスターにおける内腔形成の異常の発生を抑制しているが、被験試料2を含む実験番号:10の培地は、オレイン酸によって引き起こされる細胞クラスターにおける内腔形成の異常の発生を抑制していないことがわかる。
【0153】
前記細胞クラスターにおける内腔形成は、皮膚における分化や状態を反映していることから、オレイン酸によって引き起こされる細胞クラスターにおける内腔形成の異常は、皮脂中に多く含まれているオレイン酸などの不飽和脂肪酸によって引き起こされる皮膚の状態の異常の1つである不全角化を再現していると考えられる。したがって、被験試料1中に含まれる環状ペプチド化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であることが示唆される。
【0154】
以上の結果から、野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を、被験試料およびオレイン酸などの不飽和脂肪酸と接触させながら足場となる支持体内で分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を、不飽和脂肪酸と接触させながら足場となる支持体内で分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0155】
(実施例2)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例1と同様の操作を行ない、当該被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0156】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0157】
(実施例3)
(1)培地の調製
以下の実験において、DH10培地を実験番号:12の培地として用いた。精製水1μLをDH10培地1mLに添加し、培地を得た(実験番号:13)。さらに、実施例1(1)で得られた被験試料2を直鎖状ペプチドの濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加し、培地を得た(実験番号:14)。また、実施例1(1)で得られた被験試料1を環状ペプチド化合物の濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加し、培地を得た(実験番号:15)。
【0158】
(2)細胞クラスター(細胞構造体)の形成および内腔形成率の算出
実施例1において、HaCaT細胞の代わりに製造例3で得られたHaCaT−EPM細胞を用いたことと、実施例1において、実験番号8:の培地、実験番号:9の培地、実験番号:10の培地または実験番号:11の培地の代わりに実験番号12:の培地、実験番号:13の培地、実験番号:14の培地または実験番号:15の培地を用いたこととを除き、実施例1と同様に操作を行ない、内腔形成率を算出した。
【0159】
実施例3において、実験番号:15の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を図7(A)に、実施例3において、実験番号:14の培地を用いたときの細胞クラスター(細胞構造体)の形態を観察した結果を図7(B)に示す。図中、スケールバーは100μmの長さを示す。
【0160】
また、実施例3において、培地の種類と内腔形成率との関係を調べた結果を図8に示す。図中、レーン1は実験番号:12の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン2は実験番号:13の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン3は実験番号:14の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率、レーン4は実験番号:15の培地を用いたときの細胞クラスターにおける内腔形成率を示す。図中、データは、3回の計数に基づくものであり、平均±標準誤差で示す。また、図中、*は、P<0.05である。
【0161】
図7(A)、図7(B)および図8に示された結果から、実験番号:15の培地を用いたときの細胞クラスターは、内腔形成率が高いのに対して、実験番号:14の培地を用いたときの細胞クラスターは、内腔形成率が低いことがわかる。これらの結果から、被験試料1を含む実験番号:14の培地は、エピモルフィンにより引き起こされる細胞クラスターにおける内腔形成の異常の発生を抑制しているが、被験試料2を含む実験番号:15の培地は、エピモルフィンにより引き起こされる細胞クラスターにおける内腔形成の異常の発生を抑制していないことがわかる。
【0162】
前記細胞クラスターにおける内腔形成は、皮膚における分化や状態を反映している。また、前記実験例2に示された結果から、オレイン酸により引き起こされる皮膚の不全角化とエピモルフィンにより引き起こされる皮膚の状態の異常とが関連していることが示唆されている。したがって、被験試料1に含まれる環状ペプチド化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であることが示唆される。
【0163】
以上の結果から、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を、被験試料と接触させながら足場となる支持体内で分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を、足場となる支持体内で分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0164】
(実施例4)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例3と同様の操作を行ない、当該被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0165】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0166】
(実施例5)
(1)培地の調製
以下の実験において、DH10培地を実験番号:16の培地として用いた。また、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液をオレイン酸の濃度が0.02体積%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:17)。さらに、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料2とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ直鎖状ペプチドの濃度が0.000001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:18)。また、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料1とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ環状ペプチド化合物の濃度が0.000001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:19)。1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料2とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ直鎖状ペプチドの濃度が0.00001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:20)。1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料1とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ環状ペプチド化合物の濃度が0.00001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:21)。また、1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料2とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ直鎖状ペプチドの濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:22)。1体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実施例1(1)で得られた被験試料1とを、オレイン酸の濃度が0.02体積%となり、かつ環状ペプチド化合物の濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:23)。
【0167】
(2)コーニファイドエンベロープ形成率の算出
HaCaT細胞を、実験番号:16〜23のいずれかの培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した。
【0168】
つぎに、得られたHaCaT細胞を、リン酸緩衝生理的食塩水で洗浄し、ついで、トリプシン−EDTA溶液〔シグマ(SIGMA)社製〕500μL中において、37℃で3分間インキュベーションした。
【0169】
その後、得られたHaCaT細胞を1.0×105細胞/mLとなるように無血清DH培地(DMEM/HamF12、シグマーアルドリッチ社製)に懸濁した。得られた懸濁液に、カルシウム流入を引き起こすカルシウムイオノフォアA23187(シグマ−アルドリッチ社製)を濃度が20ng/mLとなるように添加し、得られた混合物中に含まれるHaCaT細胞を5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で5時間培養した。
【0170】
得られた細胞をリン酸緩衝化生理的食塩水で洗浄した。洗浄後の細胞を可溶化液〔組成:2質量%SDS、20mMジチオスレイトール、残部精製水〕中で10分間インキュベーションした。その後、カルシウムイオノフォアA23187によるカルシウム流入後の不溶性コーニファイドエンベロープに起因する残存不溶化細胞の数を光学顕微鏡下で計数し、全細胞の数と残存不溶化細胞の数とを用い、コーニファイドエンベロープ形成率を算出した。
【0171】
実施例5において、培地の種類とコーニファイドエンベロープ形成率との関係を調べた結果を図9に示す。図中、1は実験番号:16の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、2は実験番号:17の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、3は実験番号:18の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、4は実験番号:19の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、5は実験番号:20の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、6は実験番号:21の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、7は実験番号:22の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、8は実験番号:23の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率を示す。図中、データは、3回の計数に基づくものであり、平均±標準誤差で示す。また、図中、**はP<0.01、***はP<0.001である。
【0172】
図9に示された結果から、被験試料1を含む実験番号:19(図中、4)、21(図中、6)および23(図中、8)の培地それぞれを用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率は、被験試料2を含む実験番号:18(図中、3)、20(図中、5)および22(図中、7)の培地それぞれを用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率と比べて高くなっていることがわかる。
【0173】
コーニファイドエンベロープの形成は、皮膚における分化や状態を反映していることから、オレイン酸存在下におけるコーニファイドエンベロープ形成率は、皮膚の不全角化の場合のコーニファイドエンベロープ形成率と相関していると考えられる。したがって、被験試料1中に含まれる環状ペプチド化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であることが示唆される。
【0174】
以上の結果から、野生型ケラチノサイトを、被験物質とオレイン酸などの不飽和脂肪酸とカルシウムイオノフォアとを含有する培地中で分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、野生型ケラチノサイトを、不飽和脂肪酸とカルシウムイオノフォアとを含有する培地中で分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0175】
(実施例6)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例5と同様の操作を行ない、当該被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0176】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0177】
(実施例7)
(1)培地の調製
以下の実験において、DH10培地を実験番号:24または25の培地として用いた。実施例1(1)で得られた被験試料2を、直鎖状ペプチドの濃度が0.000001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:26)。また、実施例1(1)で得られた被験試料1を、環状ペプチド化合物の濃度が0.000001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:27)。実施例1(1)で得られた被験試料2を、直鎖状ペプチドの濃度が0.00001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:28)。実施例1(1)で得られた被験試料1を、環状ペプチド化合物の濃度が0.00001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:29)。また、実施例1(1)で得られた被験試料2を、直鎖状ペプチドの濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:30)。実施例1(1)で得られた被験試料1を、環状ペプチド化合物の濃度が0.0001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:31)。
【0178】
(2)コーニファイドエンベロープ形成率の算出
HaCaT細胞を、実験番号:24の培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した。
【0179】
また、HaCaT-EPM細胞を用いた場合、HaCaT-EPM細胞を、実験番号:25〜31のいずれかの培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で3日間培養した。
【0180】
つぎに、得られたHaCaT細胞またはHaCaT−EPM細胞を、リン酸緩衝生理的食塩水で洗浄し、ついで、トリプシン−EDTA溶液500μL中において、37℃で3分間インキュベーションした。
【0181】
その後、得られたHaCaT細胞またはHaCaT−EPM細胞を1.0×105細胞/mLとなるように無血清DH培地に懸濁した。得られた懸濁液に、カルシウム流入を引き起こすカルシウムイオノフォアA23187を濃度が20ng/mLとなるように添加し、得られた混合物中に含まれるHaCaT細胞を5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で5時間培養した。
【0182】
実施例5と同様の操作を行なって、コーニファイドエンベロープ形成率を算出した。
【0183】
実施例7において、培地の種類または細胞の種類とコーニファイドエンベロープ形成率との関係を調べた結果を図10に示す。図中、1は実験番号:24の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、2は実験番号:25の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、3は実験番号:26の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、4は実験番号:27の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、5は実験番号:28の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、6は実験番号:29の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、7は実験番号:30の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率、8は実験番号:31の培地を用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率を示す。図中、データは、3回の計数に基づくものであり、平均±標準誤差で示す。また、図中、*はP<0.05、**はP<0.01である。
【0184】
図10に示された結果から、被験試料1を含む実験番号:27(図中、4)、29(図中、6)および31(図中、8)の培地それぞれを用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率は、被験試料2を含む実験番号:26(図中、3)、28(図中、5)および30(図中、7)の培地それぞれを用いたときのコーニファイドエンベロープ形成率と比べて高くなっていることがわかる。コーニファイドエンベロープの形成は、皮膚における分化や状態を反映していることから、エピモルフィンを発現させたときにおけるコーニファイドエンベロープの形成率は、皮膚の不全角化の場合のコーニファイドエンベロープの形成率と相関していると考えられる。したがって、被験試料1中に含まれる環状ペプチド化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であることが示唆される。
【0185】
以上の結果から、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを、被験物質とカルシウムイオノフォアとを含有する培地中で分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、エピモルフィンを発現するケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0186】
(実施例8)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例7と同様の操作を行ない、当該被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0187】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0188】
(実施例9)
(1)試料の調製
以下の実験において、DH10培地を実験番号:32の試料として用いた。精製水1μLをDH10培地1mLに添加し、試料を得た(実験番号:33)。また、実施例1(1)で得られた被験試料1を環状ペプチド化合物の濃度が0.001質量%となるようにDH10培地に添加して、試料を得た(実験番号:34)。比較例1(1)で得られた被験試料2を直鎖状ペプチドの濃度が0.001質量%となるようにDH10培地に添加して、試料を得た(実験番号:35)。
【0189】
(2)三次元培養で得られた細胞構造体の組織形態の観察
ヒト胎児肺線維芽細胞のMRC−5細胞を、10質量%熱不活性化FCSを含有するα−MEM(ギブコ・ラボラトリー社製)10mL中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で72時間培養した。
【0190】
24ウェル培養プレートのウェル内に支持体〔BDバイオサイエンス社製、商品名:セルカルチャーインサート〕を設置した。前記支持体中において、前記MRC−5細胞とコラーゲンゲル混合溶液(コラーゲンI型、新田ゼラチン株式会社製)とを混合した。得られた混合物をゲル化させて、細胞包埋ゲル(1.7×105/mL)を得た。得られた細胞包埋ゲルの上表面に、1mg/mLフィブロネクチン水溶液(BDバイオサイエンス社製)0.05mlを添加し、前記細胞包埋ゲルを室温で1時間放置した。つぎに、前記細胞包埋ゲル中のMRC−5細胞を、DH10培地中において、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で一晩インキュベーションした。
【0191】
その後、0.4μg/mLヒドロコルチゾン(シグマ−アルドリッチ社製)と100μg/mLゲンタマイシン(ギブコ・ラボラトリー社製)とインスリン(5μg/ml)と50μg/mLアスコルビン酸(シグマ−アルドリッチ社製)とを含有するDH10培地0.2mLに懸濁したHaCaT細胞(7.0×104細胞)を前記細胞包埋ゲル上に播種した。
【0192】
つぎに、前記HaCaT細胞が播種された細胞包埋ゲルを、24ウェル培養プレートのウェル中のDH10に浸漬させた。その後、細胞包埋ゲル中に含まれる細胞を、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で5日間インキュベーションし、細胞構築物を得た。つぎに、得られた細胞構築物中のHaCaT細胞の表面を、空気とDH10培地との接触面まで持ち上げて配置し、前記細胞構築物を、5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で15日間培養し、HaCaT細胞を含む分化細胞構築物を得た。
【0193】
その後、実験番号:32においては、分化細胞構築物の表面に、実験番号:36の試料5μLを塗布し、分化細胞構築物を5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃でさらに1日間培養した。一方、実験番号:33〜35においては、分化細胞構築物の表面に、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液5μLと、実験番号:33〜35のいずれかの試料5μLとを塗布し、分化細胞構築物を5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃でさらに1日間培養した。
【0194】
得られた細胞構造体から凍結切片を作製した。かかる凍結切片をヘマトキシリン−エオシン染色により、細胞核を青紫色に染色するとともに、細胞質細胞質物質の大部分を赤色に染色した。染色後の凍結切片を用い、細胞構造体の組織形態を位相差顕微鏡下で観察した。
【0195】
実施例9において、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液を塗布せずに実験番号:32の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を図11(A)に、実施例9において、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:33の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を図11(B)に、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:34の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を図11(C)に、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液および実験番号:35の試料を塗布したときの細胞構造体の組織形態を観察した結果を図11(D)に示す。図中、スケールバーは、50μmの長さを示す。
【0196】
図11(A)および(C)に示された結果から、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液と被験試料1を含む実験番号:34の試料とを塗布したときの細胞構造体では、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液を塗布せずに実験番号:32の試料を塗布したときの細胞構造体と同様に、細胞核が見られないことがわかる。したがって、被験試料1に含まれる環状ペプチド化合物は、オレイン酸によって引き起こされる不全角化の発生を抑制することができることがわかる。
【0197】
一方、図11(B)および(D)に示された結果から、0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液と実験番号:33の試料とを塗布したときの細胞構造体ならびに0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液と被験試料2とを含む実験番号:35の試料とを塗布したときの細胞構造体においては、細胞核が見られることがわかる。したがって、被験試料2に含まれる直鎖状ペプチドは、オレイン酸によって引き起こされる不全角化の発生を抑制することができないことがわかる。
【0198】
これらの結果から、被験試料1中に含まれる環状ペプチド化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であることが示唆される。
【0199】
以上の結果から、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を、被験試料と接触させながら分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を、分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0200】
(実施例10)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例9と同様の操作を行ない、当該被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0201】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0202】
(実施例11)
実施例9において、HaCaT細胞の代わりに製造例3で得られたHaCaT−EPM細胞を用いたことおよび0.5体積%オレイン酸含有エタノール溶液を用いなかったことを除き、実施例9と同様の操作を行ない、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0203】
その結果、実施例9と同様に、製造例4で得られた環状ペプチド化合物が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるという評価が得られる。
【0204】
(実施例12)
被験物質として、式(I)で表される環状ペプチド化合物のうち、製造例4で得られた環状ペプチド化合物以外の化合物を用い、実施例11と同様の操作を行ない、当該被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価する。
【0205】
その結果、かかる被験物質は、製造例4で得られた環状ペプチド化合物と同様の傾向を示すことがわかる。
【0206】
以上の結果から、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を被験試料と接触させながら分化条件下で培養して得られた細胞構造体と、エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養して得られた細胞構造体との間の差異に基づき、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0207】
また、被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかの評価に際して、式(I)で表される化合物は、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質の陽性対照として用いることができることが示唆される。
【0208】
(比較例1)
実施例1(1)で得られた被験試料1を環状ペプチド化合物の濃度が0.001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:36)。また、実施例1(1)で得られた被験試料2を直鎖状ペプチドの濃度が0.001質量%となるようにDH10培地に添加して、培地を得た(実験番号:37)。なお、被験試料1の代わりに、被験試料1に含まれる精製水と同じ量の精製水(対照)を用いたことを除き、前記と同様にして、培地を得た。
【0209】
得られた培地中において、製造例3で得られたHaCaT−EPM細胞を5体積%二酸化炭素雰囲気下に37℃で培養し、経時的に細胞を採取した。採取された細胞に、細胞計数用キット〔(株)同仁化学研究所製、商品名:Cell Counting Kit〕に添付の試薬A〔(株)同仁化学研究所製、商品名:WST−1〕と溶液Bとの混合溶液〔試薬Aと溶液Bとの体積比(試薬A/溶液B)=10/1〕110μLを添加し、3時間インキュベーションした。得られた混合物について、分光光度計〔ワッラック(WALLAC)社製、商品名:ARVOtmSX 1420 MULTILABEL COUNTER〕を用いて波長450nmにおける吸光度を測定し、HaCaT−EPM細胞の生育への影響を調べた。
【0210】
実験番号:36または37の培地を用いたときのHaCaT−EPM細胞の生育状態を調べた結果を表1に示す。なお、表1における評価基準は以下のとおりである。
【0211】
+ :対照を用いたときと比べ、有意にHaCaT−EPM細胞の生育状態が良好である(危険率0.01以下)。
− :HaCaT−EPM細胞の生育状態が対照を用いたときのHaCaT−EPM細胞の生育状態と同様である。
【0212】
【表1】
【0213】
表1に示された結果から、被験試料1を含む実験番号:36の培地中で培養したHaCaT−EPM細胞の生育状態は、良好であることがわかる。これに対し、被験試料2を含む実験番号:37の培地中で培養したHaCaT−EPM細胞の生育状態は、不良であることがわかる。
【0214】
しかしながら、これらの結果からは、被験試料1中に含まれる環状ペプチド化合物が不全角化に影響を与えているかどうかまでは不明である。したがって、被験物質によるHaCaT−EPM細胞の生育状態に対する影響を調べることでは、被験物質が、皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することができることができないと考えられる。
【配列表フリーテキスト】
【0215】
配列番号:1は、環状ペプチド化合物の配列である。1番目のシステイニル基と8番目のシステイニル基との間には、ジスルフィド結合が形成されている。2番目のXaaは、−CO−(CH2)n−NH−(式中、nは1〜10の整数である)である。3番目のXaaは、置換基を有してもよいSer、置換基を有してもよいThrまたは置換基を有してもよいTyrである。4番目のXaaは、置換基を有してもよいIle、置換基を有してもよいValまたは置換基を有してもよいLeuである。5番目のXaaは置換基を有してもよいAsn、置換基を有してもよいGln、置換基を有してもよいAspまたは置換基を有してもよいGluである。6番目のXaaは、置換基を有してもよいAsn、置換基を有してもよいGln、置換基を有してもよいAspまたは置換基を有してもよいGluである。7番目のXaaは、置換基を有してもよいSer、置換基を有してもよいThrまたは置換基を有してもよいTyrである。
【0216】
配列番号:6は、T7タグ配列である。
【0217】
配列番号:7は、IL−2シグナルペプチドの配列である。
【0218】
配列番号:8は、環状ペプチド化合物の部分配列である。2番目のXaaは、−CO−(CH2)n−NH−(式中、nは1〜10の整数である)である。3番目のXaaは、置換基を有してもよいSer、置換基を有してもよいThrまたは置換基を有してもよいTyrである。4番目のXaaは、置換基を有してもよいIle、置換基を有してもよいValまたは置換基を有してもよいLeuである。5番目のXaaは置換基を有してもよいAsn、置換基を有してもよいGln、置換基を有してもよいAspまたは置換基を有してもよいGluである。6番目のXaaは、置換基を有してもよいAsn、置換基を有してもよいGln、置換基を有してもよいAspまたは置換基を有してもよいGluである。7番目のXaaは、置換基を有してもよいSer、置換基を有してもよいThrまたは置換基を有してもよいTyrである。
【0219】
配列番号:9は、直鎖状ペプチドの配列である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、得られた細胞構造体の形態を観察し、前記細胞構造体の形態に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することを特徴とする被験物質の評価方法。
【請求項2】
(A1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C1)前記ステップ(A1)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B1)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む請求項1に記載の被験物質の評価方法。
【請求項3】
(A2)被験物質を含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸と被験物質とを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B2)カルシウムイオノフォアを含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸を含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C2)前記ステップ(A2)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B2)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む請求項1に記載の被験物質の評価方法。
【請求項4】
(A3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C3)前記ステップ(A3)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B3)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む請求項1に記載の被験物質の評価方法。
【請求項1】
エピモルフィンを発現するケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトもしくはその分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、得られた細胞構造体の形態を観察し、前記細胞構造体の形態に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価することを特徴とする被験物質の評価方法。
【請求項2】
(A1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B1)エピモルフィンを発現するケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトを含む細胞凝集物を足場となる支持体内で不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C1)前記ステップ(A1)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B1)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む請求項1に記載の被験物質の評価方法。
【請求項3】
(A2)被験物質を含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸と被験物質とを含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B2)カルシウムイオノフォアを含有する培地中でエピモルフィンを発現するケラチノサイトを分化条件下で培養するか、または不飽和脂肪酸を含有する培地中で野生型ケラチノサイトを培養した後、得られたケラチノサイトを、カルシウムイオノフォアを含有する培地中で分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C2)前記ステップ(A2)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B2)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む請求項1に記載の被験物質の評価方法。
【請求項4】
(A3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を被験物質と接触させながら分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸および被験物質と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、
(B3)エピモルフィンを発現するケラチノサイトの分化細胞構築物を分化条件下で培養するか、または野生型ケラチノサイトの分化細胞構築物を不飽和脂肪酸と接触させながら分化条件下で培養し、細胞構造体を得るステップ、および
(C3)前記ステップ(A3)で得られた細胞構造体と前記ステップ(B3)で得られた細胞構造体との間の差異に基づき、前記被験物質が皮脂によって引き起こされる皮膚の状態の異常の発生を抑制する物質であるかどうかを評価するステップ
を含む請求項1に記載の被験物質の評価方法。
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図11】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図11】
【公開番号】特開2012−16311(P2012−16311A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155603(P2010−155603)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】
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