説明

被験試料による清涼感の評価方法

【課題】被験試料による清涼感を迅速かつ簡便な操作で評価することができる被験試料による清涼感の評価方法を提供すること。
【解決手段】被験試料を、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞と接触させるか、またはTRPM8−TRPA1共発現細胞と接触させ、前記被験試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象および前記被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を測定する被験試料による清涼感の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験試料による清涼感の評価方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、清涼化剤を含有する皮膚外用剤や頭髪外用剤など外用剤の開発、使用者に適した清涼感の強度を有する皮膚外用剤や頭髪外用剤などの外用剤の提供方法の開発などに有用な被験試料による清涼感の評価方法に関する。なお、本明細書において、被験試料とは、皮膚外用剤、頭髪外用剤などの外用剤に使用される成分であって、清涼感を調べる対象となる物質をいう。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚に用いられる化粧料などの皮膚外用剤や、ヒトの皮膚に接触することがある頭髪外用剤などには、必要により、爽快感や清涼感を付与するための清涼化剤が配合されている。前記清涼化剤としては、例えば、メントールやその誘導体などが挙げられる。
【0003】
前記メントールやその誘導体は、ヒトの皮膚に接触したとき、その使用者に強い清涼感を与えることが知られている。ところが、使用者によっては、メントールやその誘導体が皮膚に接触したとき、痛みを感じることがある。
【0004】
一方、近年、使用者の安全意識の高まりから、このような痛みを与えないか、または痛みが少ない外用剤が好まれる傾向にある。したがって、使用者に痛みを与えずに、清涼感を与える清涼化剤が求められている。
【0005】
ところで、一過性受容体電位チャネル(以下、「TRPチャネル」という)は、痛みを惹起する因子を受容する受容体として機能することが知られている。例えば、TRPチャネルの1つであるTRPA1を介した細胞内カルシウムイオン濃度の変化が、パラベン類やアルカリ剤が配合された皮膚外用剤を用いたときに引き起こされる不快な刺激と関連していることが、本発明者らによって見出されている。また、前記パラベン類やアルカリ剤による刺激と前記TRPA1を介した細胞内カルシウムイオン濃度の変化との関連性を利用して、パラベン類やアルカリ剤による刺激を抑制する物質を評価することが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0006】
しかしながら、本発明者らは、現時点では、メントールなどの清涼化剤による清涼感に伴う痛み刺激とTRPA1との関連性や前記関連性を利用して、前記清涼化剤による清涼感を迅速かつ簡便な操作で評価する方法を具体的に記載した文献を発見していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−79528号公報
【特許文献2】特開2009−82053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、被験試料による清涼感を迅速かつ簡便な操作で評価することができる被験試料による清涼感の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、
(1) 被験試料を、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞と接触させるか、またはTRPM8−TRPA1共発現細胞と接触させ、前記被験試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象および前記被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とする被験試料による清涼感の評価方法、
(2) 生理学的事象が、前記被験試料との接触前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化である前記(1)に記載の評価方法、
(3) 前記被験試料との接触前後におけるTRPM8を介して引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の変化と、前記被験試料との接触前後におけるTRPA1を介して引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の変化との比を被験試料による清涼感の心地よさの指標として用い、前記被験試料によってヒトに与えられる清涼感の心地よさを評価する前記(1)または(2)に記載の評価方法、ならびに
(4) 前記被験試料との接触前後におけるTRPM8を介して引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の変化と、前記被験試料との接触前後におけるTRPA1を介して引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の変化との比を被験試料による清涼感の心地よさの指標として用い、前記被験試料による清涼感の心地よさごとに前記被験試料を分類する前記(1)または(2)に記載の評価方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被験試料による清涼感の評価方法は、被験試料による清涼感を迅速かつ簡便な操作で評価することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1において、試料とΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフである。
【図2】実施例1において、試料とΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1において、試料と快適指標との関係を示すグラフである。
【図4】実施例2において、試料とΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフである。
【図5】実施例2において、試料とΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフである。
【図6】実施例2において、試料と快適指標との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の被験試料による清涼感の評価方法は、被験試料を、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞と接触させるか、またはTRPM8−TRPA1共発現細胞と接触させ、前記被験試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象および前記被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とする。
【0013】
本発明の被験試料による清涼感の評価方法には、被験試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象および被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を測定する点にも1つの大きな特徴がある。本発明の被験試料による清涼感の評価方法によれば、前記生理学的事象を測定するので、ヒト、実験動物などを用いる場合と比べて、迅速かつ簡便な操作で、被験試料によってヒトに与えられる清涼感を評価することができる。さらに、前記生理学的事象は、同一条件下に同時に何回も並行して測定することができるので、本発明の被験試料による清涼感の評価方法によれば、迅速かつ高い処理効率で多種類の被験試料による清涼感を評価することができる。
【0014】
被験試料としては、清涼化剤、清涼化剤の候補物質、エッセンシャルオイルなどが挙げられる。
【0015】
前記TRPM8発現細胞は、TRPM8の生理学的機能を発現する細胞である。前記TRPM8の生理学的機能としては、例えば、メントールによる化学刺激、冷覚刺激(例えば、8〜28℃程度の刺激)などの刺激による細胞外から細胞内へのナトリウムイオン、カルシウムイオンなどの陽イオンの透過などが挙げられる。
【0016】
前記TRPM8発現細胞としては、内因性TRPM8を発現している野生型の細胞、TRPM8をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞などが挙げられる。前記TRPM8発現細胞のなかでは、かかるTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象を簡便な操作で測定する観点から、TRPM8をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞(以下、「外因性TRPM8発現細胞」ともいう)が好ましい。
【0017】
前記TRPA1発現細胞は、TRPA1の生理学的機能を発現する細胞である。前記TRPA1の生理学的機能としては、例えば、マスタード、シナモアルデヒド、アリルイソチオシアネート、カルバクロール、アリシンなどによる化学刺激、冷覚刺激(例えば、17℃前後での刺激)、痛み刺激、機械刺激などの刺激による細胞外から細胞内へのナトリウムイオン、カルシウムイオンなどの陽イオンの透過などが挙げられる。
【0018】
前記TRPA1発現細胞としては、内因性TRPA1を発現している野生型の細胞、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞などが挙げられる。前記TRPA1発現細胞のなかでは、かかるTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象を簡便な操作で測定する観点から、TRPA1をコードする核酸が発現可能に宿主細胞に導入された細胞(以下、「外因性TRPA1発現細胞」ともいう)が好ましい。
【0019】
前記内因性TRPM8を発現している野生型の細胞としては、特に限定されないが、例えば、感覚神経の細胞、前立腺の細胞などが挙げられる。また、前記内因性TRPA1を発現している野生型の細胞としては、特に限定されないが、例えば、感覚神経の細胞、内耳の細胞などが挙げられる。
【0020】
前記TRPM8−TRPA1共発現細胞は、TRPM8をコードする核酸およびTRPA1をコードする核酸がいずれも発現可能に宿主細胞に導入された細胞などが挙げられる。前記TRPM8−TRPA1共発現細胞においては、TRPM8をコードする核酸およびTRPA1をコードする核酸は、被験試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象および被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象をそれぞれ測定する観点から、それぞれ別々の発現プロモーターの制御下にあることが好ましい。発現プロモーターは、宿主細胞内でTRPM8およびTRPA1を発現させるのに適したプロモーターであればよい。発現プロモーターは、用いられる宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
【0021】
前記外因性TRPM8発現細胞、外因性TRPA1発現細胞およびTRPM8−TRPA1共発現細胞は、染色体外要素として前記核酸が存在している細胞であってもよく、前記核酸が染色体に組み込まれている細胞であってもよい。
【0022】
前記外因性TRPM8発現細胞は、TRPM8をコードする核酸を保持する組換えベクターにより宿主細胞を形質転換することによって得られる。また、前記外因性TRPA1発現細胞は、例えば、TRPA1をコードする核酸を保持する組換えベクターにより宿主細胞を形質転換することによって得られる。前記TRPM8−TRPA1共発現細胞は、例えば、TRPM8をコードする核酸およびTRPA1をコードする核酸を保持する組換えベクターにより宿主細胞を形質転換することによって得られる。
【0023】
前記TRPM8をコードする核酸は、ヒトTRPM8をコードする核酸であってもよく、他の動物のTRPM8をコードする核酸であってもよい。また、前記TRPA1をコードする核酸は、ヒトTRPA1をコードする核酸であってもよく、他の動物のTRPA1をコードする核酸であってもよい。
【0024】
前記TRPM8をコードする核酸は、ヒトに適用する被験試料を的確に評価する観点から、ヒトTRPM8をコードする核酸であることが好ましい。前記TRPM8をコードする核酸としては、例えば、配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸などが挙げられる。この配列番号:1に示される塩基配列は、アクセッション番号:NM_024080.4としてGenBankに登録されているヒトTRPM8をコードする核酸の塩基配列である。前記TRPM8をコードする核酸は、前記核酸によりコードされるポリペプチドが前記生理学的機能を発現するのであれば、TRPM8の構造遺伝子の塩基配列の内部または末端に、1または数個のヌクレオチド残基の置換、欠失または挿入を有する変異型核酸であってもよい。
【0025】
また、前記TRPA1をコードする核酸は、ヒトに適用する被験試料を的確に評価する観点から、ヒトTRPA1をコードする核酸であることが好ましい。前記TRPA1をコードする核酸としては、例えば、配列番号:3に示される塩基配列からなる核酸などが挙げられる。この配列番号:3に示される塩基配列は、アクセッション番号:NM_007332としてGenBankに登録されているヒトTRPA1をコードする核酸の塩基配列である。前記TRPA1をコードする核酸は、前記核酸によりコードされるポリペプチドが前記生理学的機能を発現するのであれば、TRPA1の構造遺伝子の塩基配列の内部または末端に、1または数個のヌクレオチド残基の置換、欠失または挿入を有する変異型核酸であってもよい。
【0026】
TRPM8をコードする核酸の変異型核酸としては、例えば、
(A)配列番号:1に示される塩基配列に対して、BLASTアルゴリズムにより、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 11の条件でアライメントして算出される配列相同性の値が、それぞれの生理学的機能を十分に発揮させる観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である塩基配列からなり、かつコードされるポリペプチドが少なくとも前記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸、
(B)配列番号:2において、1個または数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列をコードし、コードされるポリペプチドが少なくとも陽イオンを透過させる機能を発現するポリペプチドである核酸、
(C)ストリンジェントな条件下で、配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸に対する相補鎖核酸とハイブリダイズし、コードされるポリペプチドが、陽イオンを透過させる機能を発現するポリペプチドである核酸
などが挙げられる。
【0027】
また、TRPA1をコードする核酸の変異型核酸としては、例えば、
(a)配列番号:3に示される塩基配列に対して、BLASTアルゴリズムにより、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 11の条件でアライメントして算出される配列相同性の値が、それぞれの生理学的機能を十分に発揮させる観点から、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である塩基配列からなり、かつコードされるポリペプチドが少なくとも前記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸、
(b)配列番号:4において、1個または数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列をコードし、コードされるポリペプチドが少なくとも前記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸、
(c)ストリンジェントな条件下で、配列番号:3に示される塩基配列からなる核酸に対する相補鎖核酸とハイブリダイズし、コードされるポリペプチドが、前記生理学的機能を発現するポリペプチドである核酸
などが挙げられる。
【0028】
なお、本明細書において、前記ストリンジェントな条件としては、例えば、配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸または配列番号:3に示される塩基配列からなる核酸と前記核酸に対応するハイブリダイゼーション対象の核酸とを、ハイブリダイゼーション用溶液〔組成:6×SSC(組成:0.9M塩化ナトリウム、0.09Mクエン酸ナトリウム、pH7.0に調整)、0.5質量%ドデシル硫酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、100μg/mL変性サケ精子DNA、50体積%ホルムアミド〕中で、室温以上の温度、よりストリンジェントな条件として42℃以上の温度、さらにストリンジェントな条件として60℃以上の温度で10時間インキュベーションし、つぎに、例えば、2×SSC、よりストリンジェントな条件として0.1×SSCのイオン強度条件下で、かつ室温以上の温度、よりストリンジェントな条件として42℃以上の温度、さらにストリンジェントな条件として60℃以上の温度で洗浄を行なう条件などが挙げられる。
【0029】
前記TRPM8をコードする核酸は、例えば、配列番号:1に示される塩基配列に基づいて作成されたプローブを用いるハイブリダイゼーション法、配列番号:1に示される塩基配列に基づいて設計され、合成された2種類のオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対を用いる核酸増幅法などによって得られる。前記TRPA1をコードする核酸は、例えば、配列番号:3に示される塩基配列に基づいて作成されたプローブを用いるハイブリダイゼーション法、配列番号:1に示される塩基配列に基づいて設計され、合成された2種類のオリゴヌクレオチドプライマーからなるプライマー対を用いる核酸増幅法などによって得られる。
【0030】
前記宿主細胞としては、前記TRPM8をコードする核酸および/またはTRPA1をコードする核酸が効率よく発現され、かつ培養が容易なものであればよく、特に限定されないが、例えば、動物細胞、細菌細胞、植物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。これらのなかでは、ヒトにおけるTRPM8および/またはTRPA1の生理学的機能を十分に再現する観点から、動物細胞であることが好ましい。動物細胞としては、例えば、ヒト細胞、サル細胞、マウス細胞などが挙げられる。ヒト細胞としては、特に限定されないが、例えば、HEK293細胞、Hela細胞などが挙げられる。サル細胞としては、特に限定されないが、例えば、COS−7細胞などが挙げられる。マウス細胞としては、特に限定されないが、例えば、CHO細胞、NIH3T3細胞などが挙げられる。前記宿主細胞のなかでは、取扱いが容易である観点から、HEK293細胞、CHO細胞、COS−7細胞およびNIH3T3細胞が好ましい。これらのなかでは、TRPチャネルがほとんど発現しておらず、外因性のTRPM8および/またはTRPA1の活性化を容易にかつ選択的に測定することができる観点から、HEK293細胞が好ましい。
【0031】
前記組換えベクターは、TRPM8をコードする核酸および/またはTRPA1をコードする核酸と慣用のベクターとを連結させることによって得られるベクターである。前記ベクターは、その調製が容易であり、効率よく宿主細胞に導入することができ、かつ宿主細胞内でTRPM8および/またはTRPA1を効率よく発現させることができるベクターであればよい。前記ベクターは、形質転換後に、組換えベクターを保持する細胞を容易に選択する観点から、選択マーカー遺伝子を有するベクターであることが好ましい。ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどが挙げられる。これらのベクターは、用いられる宿主細胞に応じて適宜選択することができる。なお、前記外因性TRPM8発現細胞および外因性TRPA1発現細胞を作製するための組換えベクターに用いられるベクターは、発現プロモーターを有していてもよい。
【0032】
前記組換えベクターを用いた形質転換は、用いられる宿主細胞の種類に応じて、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、トランスフェクション法、パーティクルガン法などの形質転換方法によって行なうことができる。これらの形質転換方法は、例えば、モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)〔ザンブルーク(Sambrook)ら、コールド スプリング ハーバー プレス(Cold Spring Harbor Press)、1989年発行〕などの記載に準じて行なうことができる。形質転換後の細胞からの外因性TRPM8発現細胞、外因性TRPA1発現細胞およびTRPM8−TRPA1共発現細胞の選択は、例えば、用いられた組換えベクターが選択マーカー遺伝子を有する場合、選択マーカー遺伝子に応じた選択培地で培養することなどによって行なうことができる。
【0033】
得られた細胞が、TRPM8を発現している細胞であることの確認は、例えば、細胞を1mMメントールと接触させ、後述の細胞内カルシウムイオン濃度の測定方法により、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を測定することによって行なうことができる。細胞がTRPM8を発現している場合、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度は、メントールと接触させていない細胞の細胞内カルシウムイオン濃度よりも高くなる。得られた細胞が、TRPA1を発現している細胞であることの確認は、例えば、細胞を1〜10mMパラオキシ安息香酸メチルエステルと接触させ、後述の細胞内カルシウムイオン濃度の測定方法により、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を測定することによって行なうことができる。細胞がTRPA1を発現している場合、接触後の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度は、パラオキシ安息香酸メチルエステルと接触させていない細胞の細胞内カルシウムイオン濃度よりも高くなる。
【0034】
被験試料と、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞またはTRPM8−TRPA1共発現細胞との接触は、例えば、各細胞の培養に適した培地中で、被験試料と、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞またはTRPM8−TRPA1共発現細胞とをインキュベーションすること、被験試料と、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞またはTRPM8−TRPA1共発現細胞との混合物をインキュベーションすることなどによって行なわれる。なお、TRPM8−TRPA1共発現細胞を用いる場合、被験試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象および被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象それぞれを測定するタイミングに合わせて、TRPM8およびTRPAをそれぞれ別々に発現させるようにする。
【0035】
前記培地としては、TRPM8発現細胞、TRPA1発現細胞またはTRPM8−TRPA1共発現細胞が生育するのに適した成分〔例えば、グルコース、アミノ酸、ペプトン、ビタミン、細胞増殖促進因子(例えば、細胞成長因子、ホルモン、結合タンパク質、細胞接着因子、脂質など)、血清(例えば、ウシ胎仔血清など)、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど〕を含む培地であればよい。前記培地は、慣用の基本培地に前記成分を補った培地であってもよく、市販されている培地であってもよい。基本培地としては、特に限定されないが、MEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地などが挙げられる。かかる培地は、細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、用いられる細胞がHEK293細胞から得られた細胞である場合、培地として、10質量%ウシ胎仔血清含有DMEM培地などが用いられる。
【0036】
被験試料に接触させるTRPM8発現細胞、TRPA1発現細胞またはTRPM8−TRPA1共発現細胞の量は、試験データの信頼性の観点から、被験試料100μLあたり、それぞれ1×101細胞以上が好ましく、1×102細胞以上がより好ましく、細胞の間隔を確保し、細胞が密になりすぎないようにする観点から、3×10細胞以下が好ましく、2×10細胞以下がより好ましい。
【0037】
前記TRPM8発現細胞、TRPA1発現細胞またはTRPM8−TRPA1共発現細胞にそれぞれ接触させる被験試料の量は、被験試料の種類によって異なるため、一概に決定することができないことから、被験試料の種類に応じて適宜設定することができる。
【0038】
なお、TRPM8発現細胞、TRPA1発現細胞またはTRPM8−TRPA1共発現細胞は、それぞれ、前記生理学的事象を測定するのに適した状態に細胞を維持するために、必要に応じて、TRPM8発現細胞、TRPA1発現細胞またはTRPM8−TRPA1共発現細胞を、各細胞に適した条件下で、予めインキュベーションしておいてもよい。
【0039】
前記インキュベーションは、用いられる細胞の種類に応じた方法によって行なうことができる。かかる方法としては、例えば、単層静置培養法、浮遊培養法、回転培養法、三次元担体培養法などが挙げられる。また、インキュベーション温度、インキュベーション時間、二酸化炭素濃度などの条件は、用いられる細胞に応じて適宜設定される。例えば、TRPM8発現細胞、TRPA1発現細胞またはTRPM8−TRPA1共発現細胞として、HEK293細胞から得られた細胞を用いる場合、かかる細胞は、前記生理学的事象を測定するのに適した状態に細胞を維持する観点から、通常、5体積%二酸化炭素を含む雰囲気中で、36〜38℃、好ましくは36.5〜37.5℃でインキュベーションすればよい。
【0040】
前記生理学的事象としては、被験試料との接触前後の一定電位下での電流の変化、被験試料との接触前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化、これらの組み合わせなどが挙げられる。本発明においては、簡便な操作で、かつ高感度で測定することができる観点から、前記生理学的事象は、被験試料との接触前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化であることが好ましい。
【0041】
前記一定の電位での電流の測定方法としては、例えば、パッチクランプ法などが挙げられる。
【0042】
細胞内カルシウムイオン濃度は、例えば、カルシウムキレート化剤に基づく蛍光試薬(以下、「蛍光カルシウム指示薬」ともいう)をTRPM8発現細胞、TRPA1発現細胞またはTRPM8−TRPA1共発現細胞に導入し、細胞内のカルシウムイオンに前記蛍光カルシウム指示薬を結合させ、カルシウムイオンと結合した蛍光カルシウム指示薬の蛍光強度を調べる方法などを用いて算出することができる。この場合、被験試料との接触前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化は、TRPM8のアゴニストまたはTRPA1のアゴニストと接触させたときの細胞内カルシウムイオン濃度に対する被験試料と接触させたときの細胞内カルシウムイオン濃度の変化を求めることによって調べることができる。
【0043】
TRPM8のアゴニストおよびTRPA1のアゴニストは、同一の物質であってもよく、異なる物質であってもよい。前記TRPM8およびTRPA1両方のアゴニストとして、例えば、メントールなどを用いることができる。
【0044】
前記蛍光カルシウム指示薬としては、例えば、カルシウムイオンと結合した当該蛍光カルシウム指示薬の量によってその蛍光特性が変化する試薬であればよく、特に限定されないが、例えば、FURA 2、FURA 2−AM、Fluo−3などが挙げられる。
【0045】
なお、蛍光カルシウム指示薬が2種類の励起波長を有する場合、より精度を高める観点から、各励起波長における蛍光強度から蛍光強度比を算出することが好ましい。例えば、蛍光カルシウム指示薬であるFURA 2−AMの励起波長は、340nmおよび380nmである。この場合、前記TRPM8のアゴニストまたはTRPA1のアゴニストと接触させたときの細胞内カルシウムイオン濃度に対する被験試料と接触させたときの細胞内カルシウムイオン濃度の変化は、Δ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストを算出することにより調べることができる。
【0046】
前記Δ蛍光強度比試料は、式(I):
【0047】
【数1】

【0048】
に基づいて算出することができる。また、前記Δ蛍光強度比アゴニストは、式(II):
【0049】
【数2】


に基づいて算出することができる。なお、本明細書において、「蛍光強度340nm」は励起波長340nmにおける蛍光強度を示し、「蛍光強度380nm」は励起波長380nmにおける蛍光強度を示す。
【0050】
また、生理学的事象として被験試料との接触前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化を用いる場合、被験試料による清涼感は、前記被験試料との接触前後におけるTRPM8を介して引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の変化と、前記被験試料との接触前後におけるTRPA1を介して引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の変化との比を指標(以下、「快適指標」という)として用いることにより評価することができる。前記快適指標は、例えば、式(III):
【0051】
【数3】

【0052】
に基づいて算出することができる。この場合、被験試料の快適指標が1よりも高い場合、当該被験試料による冷感が、アゴニストよりも痛みの少ない冷感であると考えられる。したがって、被験試料の快適指標が1よりも高い場合、前記被験試料による清涼感の心地よさがアゴニストと比べて高い可能性があるという判断をすることができる。一方、被験試料の快適指標が1以下である場合、当該被験試料による冷感がアゴニストによる冷感よりも小さく、かつ当該被験試料による痛み感覚がアゴニストによる痛み感覚と同等であるか、またはアゴニストによる痛み感覚よりも大きいと考えられる。したがって、被験試料の快適指標が1以下である場合、前記被験試料による清涼感の心地よさがアゴニストと同等以下である可能性があるという判断をすることができる。
【0053】
以上説明したように、本発明の被験試料による清涼感の評価方法によれば、前記被験試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象および前記被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象により、ヒトの皮膚に対する清涼感を評価することができる。したがって、本発明の被験試料による清涼感の評価方法は、皮膚外用剤や頭髪外用剤などの外用剤に適した清涼化剤のスクリーニング、清涼化剤を含有する皮膚外用剤や頭髪外用剤などの外用剤の開発、使用者に適した清涼感の強度を有する皮膚外用剤や頭髪外用剤などの外用剤の提供方法の開発などに利用することができる。
【実施例】
【0054】
つぎに、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
(製造例1)
ヒトTRPM8をコードするcDNA〔配列番号:1(GenBankアクセッション番号:NM_024080.4)に示される塩基配列の41位〜3355位のポリヌクレオチド〕を、哺乳動物細胞用ベクター〔インビトロジェン社製、商品名:pcDNA3.1(+)〕のクローニングサイトに挿入し、ヒトTRPM8発現ベクターを得た。得られたヒトTRPM8発現ベクター1μgと、遺伝子導入用試薬〔インビトロジェン社製、商品名:PLUS Reagent(プラスリージェント)、カタログ番号:11514−015〕6μlとを混合し、混合物Iを得た。また、遺伝子導入用カチオン性脂質〔インビトロジェン社製、商品名:リポフェクタミン(登録商標)、カタログ番号:18324−012〕4μlと、血清使用量低減培地〔インビトロジェン社製、商品名:OPTI−MEM(登録商標)I Reduced−Serum Medium(カタログ番号:11058021)200μlとを混合し、混合物IIを得た。
【0056】
また、5体積%二酸化炭素の雰囲気中、37℃に維持された直径35mmのシャーレ上の10質量%FBS含有DMEM培地中において、5×10細胞のHEK293細胞を70%のコンフルエンシーになるまで培養した。
【0057】
得られた細胞培養物に、前記混合物Iと混合物IIとを添加することにより、HEK293細胞に前記ヒトTRPM8発現ベクターを導入し、TRPM8発現細胞を得た。
【0058】
(製造例2)
製造例1において、ヒトTRPM8をコードするcDNAの代わりにヒトTRPA1をコードするcDNA〔配列番号:1(GenBankアクセッション番号:NM_007332)に示される塩基配列の63位〜3888位のポリヌクレオチド〕を用いたことを除き、製造例1と同様にしてTRPA1発現細胞を得た。
(実験例1)
製造例2で得られたTRPA1発現細胞を、細胞内カルシウムイオン測定用試薬であるFURA 2−AM(インビトロジェン社製)を最終濃度5μMで含む10質量%ウシ胎仔血清含有DMEM培地中、室温で60分間インキュベーションすることにより、前記TRPA1発現細胞にFURA 2−AMを導入し、FURA 2−AM導入TRPA1発現細胞を得た。
【0059】
得られたFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞を循環定温チャンバー付蛍光測定装置〔浜松ホトニクス(株)製、商品名:ARGUS−50〕の各チャンバーに入れた。その後、チャンバー中のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞を、溶媒A〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、2mM塩化カルシウム、10mMグルコース、10mMヘペス塩酸緩衝液(pH7.4)〕で洗浄した。
【0060】
つぎに、洗浄後のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞が入ったチャンバーに1mMメントールを含有する溶媒Aを入れ、FURA 2−AM導入TRPA1発現細胞と1mMメントールを含有する溶媒Aとを混合した。
【0061】
その後、チャンバーにおいて、励起波長340nmにおけるTRPA1発現細胞に導入され、かつ細胞内のカルシウムイオンに結合したFURA 2−AMに基づく蛍光の強度(以下、「蛍光強度340nm」という)および励起波長380nmにおけるTRPA1発現細胞に導入されたFURA 2−AMに基づく蛍光の強度(以下、「蛍光強度380nm」という)を測定した。
【0062】
測定された蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmから、蛍光強度比メントールを算出した。前記蛍光強度比メントールは、下記式(IV):
【0063】
【数4】

【0064】
に基づいて算出した。
【0065】
また、前記1mMメントールを含有する溶媒Aの代わりに溶媒Aを用いたことを除き、前記被験試料を用いた場合と同様にして蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmを測定した。
【0066】
測定された蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmから、蛍光強度比溶媒Aを算出した。前記蛍光強度比溶媒Aは、下記式(V):
【0067】
【数5】

【0068】
に基づいて算出した。
【0069】
その結果、蛍光強度比メントールは、1.80であった。また、蛍光強度比溶媒Aは、0.87であった。これらの結果から、1mMメントールを含有する溶媒Aを用いた場合、溶媒Aを用いた場合と比べて、TRPA1発現細胞の細胞内カルシウムイオン濃度が増加していることがわかる。
【0070】
TRPA1の活性化は、パラベン類やアルコールによる痛み感覚と関連していると考えられている。したがって、以上の結果から、TRPA1がメントールによっても活性化されるので、メントールにより皮膚に与えられる感覚のうちの痛み感覚は、TRPA1の活性化によって引き起こされていることが示唆される。
【0071】
(実施例1)
(1)TRPM8発現細胞による評価
製造例1で得られたTRPM8発現細胞を、細胞内カルシウムイオン測定用試薬であるFURA 2−AM(インビトロジェン社製)を最終濃度5μMで含む10質量%ウシ胎仔血清含有DMEM培地中、室温で60分間インキュベーションすることにより、前記TRPM8発現細胞にFURA 2−AMを導入し、FURA 2−AM導入TRPM8発現細胞を得た。
【0072】
得られたFURA 2−AM導入TRPM8発現細胞を循環定温チャンバー付蛍光測定装置〔浜松ホトニクス(株)製、商品名:ARGUS−50〕の各チャンバーに入れた。その後、チャンバー中のFURA 2−AM導入TRPA1発現細胞を、溶媒A〔組成:140mM塩化ナトリウム、5mM塩化カリウム、2mM塩化マグネシウム、2mM塩化カルシウム、10mMグルコース、10mMヘペス塩酸緩衝液(pH7.4)〕で洗浄した。
【0073】
つぎに、洗浄後のFURA 2−AM導入TRPM8発現細胞が入ったチャンバーに被験試料を入れ、FURA 2−AM導入TRPM8発現細胞と被験試料とを混合した。なお、前記被験試料として、1mMシネオールを含有する溶媒A、1mMカルボンを含有する溶媒A、1mMメントンを含有する溶媒A、1mMシトロネラールを含有する溶媒A、1mMシトラールを含有する溶媒A、1mMリナロールを含有する溶媒A、1mMテルピネオールを含有する溶媒A、1mMシメンを含有する溶媒A、1mMオイゲノールを含有する溶媒A、1mMリモネンを含有する溶媒A、1mM(+)−ピネンを含有する溶媒A、1mM(−)−ピネンを含有する溶媒Aまたは1mMアネトールを含有する溶媒Aを用いた。これらの被験試料は、一般的に清涼化剤またはアロマテラピーに用いられている香油に含まれる成分である。
【0074】
その後、チャンバーにおいて、励起波長340nmにおけるTRPA1発現細胞に導入され、かつ細胞内のカルシウムイオンに結合したFURA 2−AMに基づく蛍光の強度(以下、「蛍光強度340nm」という)および励起波長380nmにおけるTRPM8発現細胞に導入されたFURA 2−AMに基づく蛍光の強度(以下、「蛍光強度380nm」という)を測定した。
【0075】
測定された蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmから、Δ蛍光強度比試料を算出した。前記Δ蛍光強度比試料は、式(I):
【0076】
【数6】

【0077】
に基づいて算出した。なお、前記対照は、溶媒Aである。
【0078】
また、前記被験試料の代わりにTRPM8のアゴニストを用いたことを除き、前記被験試料を用いた場合と同様にして蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmを測定した。なお、前記アゴニストとして、1mMメントールを含有する溶媒Aを用いた。
【0079】
測定された蛍光強度340nmおよび蛍光強度380nmから、Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。前記Δ蛍光強度比アゴニストは、式(II):
【0080】
【数7】

【0081】
に基づいて算出した。
【0082】
算出されたΔ蛍光強度比試料とΔ蛍光強度比アゴニストとから、TRPM8発現細胞におけるΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。
【0083】
実施例1において、試料とΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフを図1に示す。
【0084】
図1において、試料番号1は1mMシネオールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号2は1mMカルボンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号3は1mMメントンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号4は1mMシトロネラールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号5は1mMシトラールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号6は1mMリナロールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号7は1mMテルピネオールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号8は1mMシメンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号9は1mMオイゲノールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号10は1mMリモネンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号11は1mM(+)−ピネンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号12は1mM(−)−ピネンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストおよび試料番号13は1mMアネトールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストを示す。
【0085】
図1に示された結果から、1mMシネオールを含有する溶媒A(試料番号1)、1mMメントンを含有する溶媒A(試料番号3)および1mMオイゲノールを含有する溶媒A(試料番号6)それぞれを用いた場合、Δ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストが0.3〜0.6であることがわかる。これらの結果から、シネオール、メントンおよびオイゲノールは、メントールよりもTRPM8の活性化能が低いことがわかる。
【0086】
また、前記結果から、1mMシネオールを含有する溶媒A(試料番号1)、1mMメントンを含有する溶媒A(試料番号3)および1mMオイゲノールを含有する溶媒A(試料番号6)それぞれを用いた場合、他の試料を用いた場合と比べてΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストが大きいことがわかる。したがって、これらの結果から、シネオール、メントンおよびオイゲノールは、カルボン、シトロネラール、シトラール、リナロール、テルピネオール、シメン、リモネン、(+)−ピネン、(−)−ピネンおよびアネトールよりもTRPM8の活性化能が高いことがわかる。
【0087】
(2)TRPA1発現細胞による評価
前記(1)において、製造例1で得られたTRPM8発現細胞の代わりに製造例2で得られたTRPA1発現細胞を用いたことを除き、前記(1)と同様にして、TRPA1発現細胞におけるΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。
【0088】
実施例1において、試料とΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフを図2に示す。
【0089】
図2において、試料番号1は1mMシネオールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号2は1mMカルボンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号3は1mMメントンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号4は1mMシトロネラールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号5は1mMシトラールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号6は1mMリナロールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号7は1mMテルピネオールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号8は1mMシメンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号9は1mMオイゲノールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号10は1mMリモネンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号11は1mM(+)−ピネンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号12は1mM(−)−ピネンを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストおよび試料番号13は1mMアネトールを含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストを示す。
【0090】
図2に示された結果から、1mMシトラールを含有する溶媒A(試料番号5)および1mMオイゲノールを含有する溶媒A(試料番号9)それぞれを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストが1を超えていることがわかる。したがって、前記結果から、シトラールおよびオイゲノールは、メントールよりもTRPA1の活性化能が高いことが示唆される。
【0091】
これに対して、図2に示された結果から、1mMシネオールを含有する溶媒A(試料番号1)、1mMカルボンを含有する溶媒A(試料番号2)、1mMメントンを含有する溶媒A(試料番号3)、1mMシトロネラールを含有する溶媒A(試料番号4)、1mMリナロールを含有する溶媒A(試料番号6)、1mMテルピネオールを含有する溶媒A(試料番号7)、1mMシメンを含有する溶媒A(試料番号8)、1mMリモネンを含有する溶媒A(試料番号10)、1mM(+)−ピネンを含有する溶媒A(試料番号11)、1mM(−)−ピネンを含有する溶媒A(試料番号12)および1mMアネトールを含有する溶媒A(試料番号13)それぞれを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストが1未満であることがわかる。したがって、前記結果から、カルボン、メントン、シトロネラール、リナロール、テルピネオール、シメン、リモネン、(+)−ピネン、(−)−ピネンおよびアネトールは、メントールよりもTRPA1の活性化能が低いことが示唆される。
【0092】
(3)被験試料によるTRPM8およびTRPA1それぞれの活性化能に基づく清涼感の心地よさの評価
実験例1の結果から、メントールによりTRPA1が活性化されるので、メントールにより皮膚に与えられる感覚のうちの痛み感覚が、TRPA1の活性化によって引き起こされていることが示唆される。また、TRPM8は、メントールによって活性化される一方、8〜28℃程度の冷刺激によっても活性化する。したがって、TRPM8は、メントールによってヒトの皮膚にもたらされる感覚のうち特に冷感と関連していると考えられる。
【0093】
そこで、前記(1)で測定したTRPM8発現細胞におけるΔ蛍光強度比試料およびΔ蛍光強度比アゴニストと、前記(2)で測定したTRPA1発現細胞におけるΔ蛍光強度比試料およびΔ蛍光強度比アゴニストとに基づいて、被験試料による清涼感の心地よさの評価を行なった。
【0094】
前記(1)で測定したTRPM8発現細胞におけるΔ蛍光強度比試料およびΔ蛍光強度比アゴニストと、前記(2)で測定したTRPA1発現細胞におけるΔ蛍光強度比試料およびΔ蛍光強度比アゴニストとから、被験試料によるTRPM8の活性化能と被験試料によるTRPA1の活性化能との比を算出した。以下、前記比を「快適指標」として用いた。かかる快適指標は、式(III):
【0095】
【数8】

【0096】
に基づいて算出した。
【0097】
ここで、被験試料の快適指標が1よりも高い場合、当該被験試料による冷感がメントールによる冷感よりも痛みの少ない冷感であると考えられる。したがって、被験試料の快適指標が1よりも高い場合、前記被験試料による清涼感の心地よさがメントールと比べて高い可能性があるという判断をすることができる。
【0098】
一方、被験試料の快適指標が1以下である場合、当該被験試料による冷感がメントールによる冷感よりも小さく、かつ当該被験試料による痛み感覚がメントールによる痛み感覚と同等であるか、またはメントールによる痛み感覚よりも大きいと考えられる。したがって、被験試料の快適指標が1以下である場合、前記被験試料による清涼感の心地よさがメントールと同等以下である可能性があるという判断をすることができる。
【0099】
実施例1において、試料と快適指標との関係を示すグラフを図3に示す。なお、図中、快適指標=1の破線は、メントールの快適指標を示す。
【0100】
図3において、試料番号1は1mMシネオールを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号2は1mMカルボンを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号3は1mMメントンを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号4は1mMシトロネラールを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号5は1mMシトラールを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号6は1mMリナロールを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号7は1mMテルピネオールを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号8は1mMシメンを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号9は1mMオイゲノールを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号10は1mMリモネンを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号11は1mM(+)−ピネンを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号12は1mM(−)−ピネンを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標および試料番号13は1mMアネトールを含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標を示す。
【0101】
図3に示された結果から、1mMシネオールを含有する溶媒A(試料番号5)を用いた場合の快適指標が1を超えていることがわかる。したがって、前記結果から、シネオールの清涼感の心地よさがメントールの清涼感の心地よさと比べて高い可能性があることが示唆される。
【0102】
これに対して、図3に示された結果から、1mMメントンを含有する溶媒A(試料番号3)および1mMオイゲノールを含有する溶媒A(試料番号9)それぞれを用いた場合の快適指標が1未満であることがわかる。したがって、前記結果から、メントンおよびオイゲノールそれぞれの清涼感の心地よさがメントールの清涼感の心地よさよりも低い可能性があることが示唆される。
【0103】
これらの結果から、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞の両方を用いて、被験試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象と、被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象とを測定し、被験試料によるTRPM8およびTRPA1それぞれの活性化能を調べることにより、被験試料による清涼感の心地よさを評価することができることが示唆される。
【0104】
(実施例2)
(1)TRPM8発現細胞による評価
実施例1の(1)において、被験試料として、0.01体積%ペパーミント油を含有する溶媒A(試料番号1)、0.01体積%スペアミント油を含有する溶媒A(試料番号2)、0.01体積%ユーカリ油〔(株)永廣堂本店製、ユーカリ油〕を含有する溶媒A(試料番号3)、0.01体積%タイム油を含有する溶媒A(試料番号4)、0.01体積%クローブ油を含有する溶媒A(試料番号5)、0.01体積%ラベンダー油を含有する溶媒A(試料番号6)、0.01体積%セージ油を含有する溶媒A(試料番号7)、0.01体積%ユーカリ油〔小川香料(株)製、ユーカリ油〕を含有する溶媒A(試料番号8)または0.01体積%ローマカミツレ油を含有する溶媒A(試料番号9)を用いたことを除き、実施例1の(1)と同様にしてTRPM8発現細胞におけるΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。なお、これらの被験試料は、香油の含有成分の水溶液である。
【0105】
実施例2において、試料とΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフを図4に示す。
【0106】
図4において、試料番号1は0.01体積%ペパーミント油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号2は0.01体積%スペアミント油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号3は0.01体積%ユーカリ油〔(株)永廣堂本店製、ユーカリ油〕を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号4は0.01体積%タイム油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号5は0.01体積%クローブ油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号6は0.01体積%ラベンダー油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号7は0.01体積%セージ油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号8は0.01体積%ユーカリ油〔小川香料(株)製、ユーカリ油〕を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストおよび試料番号9は0.01体積%ローマカミツレ油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストを示す。
【0107】
図4に示された結果から、0.01体積%ペパーミント油を含有する溶媒A(試料番号1)、0.01体積%タイム油を含有する溶媒A(試料番号4)、0.01体積%クローブ油を含有する溶媒A(試料番号5)および0.01体積%ユーカリ油〔小川香料(株)製、ユーカリ油〕を含有する溶媒A((試料番号8)それぞれを用いた場合、Δ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストが0.1以上1未満であることがわかる。これらの結果から、ペパーミント油、タイム油、クローブ油およびユーカリ油〔小川香料(株)製、ユーカリ油〕は、メントールよりもTRPM8の活性化能が低いことがわかる。
【0108】
また、前記結果から、0.01体積%ペパーミント油を含有する溶媒A(試料番号1)、0.01体積%タイム油を含有する溶媒A(試料番号4)、0.01体積%クローブ油を含有する溶媒A(試料番号5)および0.01体積%ユーカリ油〔小川香料(株)製、ユーカリ油〕を含有する溶媒A(試料番号8)それぞれを用いた場合、他の試料を用いた場合と比べてΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストが大きいことがわかる。したがって、これらの結果から、ペパーミント油、タイム油、クローブ油およびユーカリ油〔小川香料(株)製、ユーカリ油〕は、スペアミント油を含有する溶媒A、ユーカリ油〔(株)永廣堂本店製、ユーカリ油〕、ラベンダー油を含有する溶媒A、セージ油を含有する溶媒Aおよびローマカミツレ油を含有する溶媒AよりもTRPM8の活性化能が高いことがわかる。
【0109】
(2)TRPA1発現細胞による評価
実施例1の(2)において、被験試料として、本実施例2の前記(1)で用いた被験試料を用いたことを除き、実施例1の(2)と同様にしてTRPA1発現細胞におけるΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストを算出した。
【0110】
実施例2において、試料とΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストの値との関係を示すグラフを図5に示す。
【0111】
図5において、試料番号1は0.01体積%ペパーミント油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号2は0.01体積%スペアミント油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号3は0.01体積%ユーカリ油〔(株)永廣堂本店製、ユーカリ油〕を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号4は0.01体積%タイム油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号5は0.01体積%クローブ油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号6は0.01体積%ラベンダー油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号7は0.01体積%セージ油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニスト、試料番号8は0.01体積%ユーカリ油〔小川香料(株)製、ユーカリ油〕含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストおよび試料番号9は0.01体積%ローマカミツレ油を含有する溶媒Aを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストを示す。
【0112】
図5に示された結果から、0.01体積%ペパーミント油を含有する溶媒A(試料番号1)および0.01体積%タイム油を含有する溶媒A(試料番号4)それぞれを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストが1を超えていることがわかる。したがって、前記結果から、ペパーミント油およびタイム油は、メントールよりもTRPA1の活性化能が高いことが示唆される。
【0113】
これに対して、図5に示された結果から、0.01体積%スペアミント油を含有する溶媒A(試料番号2)、0.01体積%ユーカリ油〔(株)永廣堂本店製、ユーカリ油〕を含有する溶媒A(試料番号3)、0.01体積%クローブ油を含有する溶媒A(試料番号5)、0.01体積%ラベンダー油を含有する溶媒A(試料番号6)、0.01体積%セージ油を含有する溶媒A(試料番号7)、0.01体積%ユーカリ油〔小川香料(株)製、ユーカリ油〕を含有する溶媒A(試料番号8)および0.01体積%ローマカミツレ油を含有する溶媒A(試料番号9)それぞれを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストが1未満であることがわかる。したがって、前記結果から、スペアミント油、ユーカリ油、クローブ油、ラベンダー油、セージ油、ユーカリ油およびローマカミツレ油は、メントールよりもTRPA1の活性化能が高いことが示唆される。
【0114】
(3)快適指標による被験試料による清涼感の心地よさの評価
実施例1の(3)において、被験試料として、本実施例2の前記(1)で用いた被験試料を用いたことを除き、実施例1の(3)と同様にして快適指標を算出した。
【0115】
実施例2において、試料と快適指標との関係を示すグラフを図6に示す。なお、図中、快適指標=1の破線は、メントールの快適指標を示す。
【0116】
図6において、試料番号1は0.01体積%ペパーミント油を含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号2は0.01体積%スペアミント油を含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号3は0.01体積%ユーカリ油〔(株)永廣堂本店製、ユーカリ油〕を含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号4は0.01体積%タイム油を含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号5は0.01体積%クローブ油を含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号6は0.01体積%ラベンダー油を含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号7は0.01体積%セージ油を含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標、試料番号8は0.01体積%ユーカリ油〔小川香料(株)製、ユーカリ油〕を含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標および試料番号9は0.01体積%ローマカミツレ油を含有する溶媒Aを用いた場合の快適指標を示す。
【0117】
図6に示された結果から、0.01体積%ペパーミント油を含有する溶媒A(試料番号1)および0.01体積%ユーカリ油〔小川香料(株)製、ユーカリ油〕を含有する溶媒A(試料番号8)それぞれを用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストがほぼ1であることがわかる。したがって、前記結果から、ペパーミント油およびユーカリ油〔小川香料(株)製〕それぞれの清涼感の心地よさが、メントールの清涼感の心地よさと同等である可能性があることが示唆される。
【0118】
これに対して、図6に示された結果から、0.01体積%クローブ油を含有する溶媒A(試料番号5)を用いた場合のΔ蛍光強度比試料/Δ蛍光強度比アゴニストが1未満であることがわかる。したがって、前記結果から、クローブ油の清涼感の心地よさがメントールの清涼感の心地よさよりも低い可能性があることが示唆される。
【0119】
(試験例1)
頸部の汚れを濡れタオルで除去した6名の被験者を室温22℃、相対湿度50%の試験室内で10分間馴化させた。
【0120】
つぎに、ディスペンサー〔(株)吉野工業所製、商品名:Y−150〕を用いて、被験者の左頸部にエチルアルコール含有1体積%メントール水溶液(エタノール濃度:40体積%)または1体積%シネオール水溶液300μLを塗布した。また、前記ディスペンサーを用い、被験者の右頸部に対照精製水300μLを塗布した。塗布終了時から3分間経過後の感覚の比較を行なった。
【0121】
その結果、エチルアルコール含有1体積%メントール水溶液を塗布した場合、6名中6名が「冷感を感じるが痛みも感じる」と回答したのに対し、1体積%シネオール水溶液を塗布した場合、被験者6名中6名が「冷感のみを感じる(心地よい清涼感を感じる)」と回答した。
【0122】
以上の結果から、被験試料の快適指標と、被験者による被験試料による清涼感の心地よさの評価結果との間に相関性があることがわかる。
【0123】
以上説明したように、被検試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象と、被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象とを測定し、これらの生理学的事象に基づいて得られた被験試料の快適指標の大きさに基づいて、被験試料による清涼感の心地よさを評価することができることが示唆される。したがって、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞の両方を用いて、被験試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象と、被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象とを測定することにより、被験試料による清涼感を評価することができることが示唆される。また、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞の両方を用いるのに代えて、TRPM8−TRPA1共発現細胞を用いた場合にも、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞の両方を用いる場合と同様に、被験試料による清涼感を評価することができることが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験試料を、TRPM8発現細胞およびTRPA1発現細胞と接触させるか、またはTRPM8−TRPA1共発現細胞と接触させ、前記被験試料によりTRPA1を介して引き起こされる生理学的事象および前記被験試料によりTRPM8を介して引き起こされる生理学的事象を測定することを特徴とする被験試料による清涼感の評価方法。
【請求項2】
生理学的事象が、前記被験試料との接触前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化である請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記被験試料との接触前後におけるTRPM8を介して引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の変化と、前記被験試料との接触前後におけるTRPA1を介して引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の変化との比を被験試料による清涼感の心地よさの指標として用い、前記被験試料によってヒトに与えられる清涼感の心地よさを評価する請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記被験試料との接触前後におけるTRPM8を介して引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の変化と、前記被験試料との接触前後におけるTRPM8を介して引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の変化との比を被験試料による清涼感の心地よさの指標として用い、前記被験試料による清涼感の心地よさごとに前記被験試料を分類する請求項1または2に記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−205977(P2011−205977A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77397(P2010−77397)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】