説明

裁断部のほつれにくい編織物

【課題】縫製時の裁断工程以降に裁断パーツの生地端がほつれることが無く、折り返し縫い、かがり縫いなどのミシンによる始末なしに縫製工程の一部を省力化することの可能な編織物を作成すること。
【解決手段】少なくとも一部に180℃以下で溶融する低融点熱可塑性弾性糸が単体、又は他の繊維との複合糸として用いられ製編織された編織物で、前記低融点熱可塑性弾性糸が部分的に融着されてなる編織物。更に好ましくは、前記低融点熱可塑性弾性糸が他の繊維糸と交編又は交織されてなる織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は縫製時の裁断工程において裁断後の切り離し部分のほつれを防止することにより、パーツの折り返し、及び、その部分のミシン縫い工程を省略し縫製の簡略化を図ると共に生地要尺を抑えコストダウンを図ることを目的とする技術である。
【背景技術】
【0002】
従来より、一般的にカットソーと呼ばれる分野での縫製品の製造は仕上生地を延反し型紙に合わせ裁断した後、そのパーツをミシンにて縫製することによってなる。しかしながら一般にインナーと呼ばれる肌に密着するような衣服においては脇縫いなどミシンによる縫製部にゴロツキ感などの不快感を感じるため、小口径の丸編機で製造された脇縫い無しのシームレスな丸胴使いの丸編生地を使用することが多い。また、そうすることにより縫製工程を省略化すると共に生地ロスも減少し生地要尺を抑え縫製品のコストダウンを図ることが出来る。最近ではさらに成形肌着と呼ばれる編機が開発されさらに無縫製のシームレスの部分が増し、さらなる縫製工程での省力化と生地要尺ダウンが図られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら成形肌着編機自体は編機も高価で生産性も悪く必ずしも縫製品でのコストダウンは達成されていない。
【特許文献1】特開2004−232112号公報(請求項4など)
【0003】
かかる状況において既存編機により如何に無縫製編地に近づけた編地を作成するかは編地製造者にとって重要な課題となった。脇縫い無しに関しては前述の小口径の編機で対処可能で有るが裾端に関しては何らかの対処が必要となる。これらを解決するために縫製工程において裁断後に生地端がほつれない編地の製造方法は重要な生地製造技術となった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は無縫製成形肌着の概念に近づけた編地の開発を背景になされたもので、縫製時の裁断工程以降に裁断パーツの生地端がほつれることが無く折り返し縫い、かがり縫いなどのミシンによる始末なしに縫製工程の一部を省力化することの可能な編織物を作成することを課題とするものである。
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は裁断後のほつれを防止するために編地のループ間が部分的に溶融、融着されることを目的に低融点熱可塑性弾性糸を交編などにより編地にブレンドした。その結果、染色仕上げ後の編地はループ間の適度な溶融、融着が発生し、裁断後も生地端のほつれ難い編地が得られた。また当然のことながら生地の溶融、融着などは生地風合いの劣化を起こしやすく衣服の要求性能と相反する性質も多く、この問題も合わせて解決する必要があり、当業者といえども無し得なかった技術であったが問題点を解明し成就した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は以下の構成よりなる。
1.少なくとも一部に180℃以下で溶融する低融点熱可塑性弾性糸を用いて製編織された編織物で、前記低融点熱可塑性弾性糸が部分的に融着されてなることを特徴とする編織物。
2.低融点熱可塑性弾性糸が、単体で用いられてなることを特徴とする上記第1に記載の編織物。
3.低融点熱可塑性弾性糸が、他の熱可塑性フィラメントとの複合糸若しくはセルロース系繊維との複合糸として用いられてなることを特徴とする上記第1に記載の編織物。
4.低融点熱可塑性弾性糸が、他の繊維糸と交編又は交織されてなることを特徴とする上記第1〜第3のいずれかに記載の編織物。
5.低融点熱可塑性弾性糸が、全面に均等に用いられ、製編織されてなることを特徴とする上記第1〜第4のいずれかに記載の編織物。
6.低融点熱可塑性弾性糸が、ある一定のパターンを持って用いられ、製編織されてなることを特徴とする上記第1〜第4のいずれかに記載の編織物。
【発明の効果】
【0007】
従来より、一般的にカットソーと呼ばれる分野での縫製品の製造は仕上生地を延反し型紙に合わせ裁断した後、そのパーツをミシンにて縫製することによってなる。主にミシンによって縫製される部位は身頃、袖、衿部に大別される。しかしながら一般にインナーと呼ばれる肌に密着するような衣服においては着用時に脇縫い部などにミシンによる縫製部にゴロツキ感などの不快感が生じるため、小口径の丸編機で製造された丸仕上の丸編生地を使用することが多い。また、そうすることにより着用感が良くなると共に身頃の脇縫いを省略化出来、さらに生地ロスも減少し生地要尺を抑え縫製品のコストダウンを図ることも出来る。本発明は縫製時の裁断工程において裁断後の切り離し部分のほつれを防止することにより、パーツの折り返し、及び、その部分のミシン縫い工程を省略し縫製の簡略化を図ると共に生地要尺を抑えコストダウンを図ることを目的とする技術である。本発明により製造された編地を使用することにより裁断後の裾部のほつれは無くなり、身頃裾部の折り返し縫いが省略化出来た。さらなるコストダウンが実現出来た。また、風合いにも違和感が無く、デザイン的にも美しいシルエットの新しい感覚の縫製品が実現出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。即ち本発明は裁断後のほつれを防止するために編地のループ間が部分的に溶融、融着されることを目的に低融点熱可塑性弾性糸を交編などにより編地にブレンドした。その後、染色仕上げ工程にて熱を付与することにより低融点熱可塑性弾性糸の表面が部分的に溶融し、他の構成繊維と適度な融着が発生し、編地ループ間の部分的接着が発生することにより生地端のループの解除性が著しく低下し裁断後もほつれ難い編地となる。
【0009】
低融点熱可塑性弾性糸は熱可塑性ポリウレタン弾性糸が良くその融点は180℃以下が望ましくそれより高温になると染色仕上げ工程で均一で適度な溶融、融着が困難となる。また、染色仕上げ工程で必要以上に高温となり染料の分解を引き起こしたり劣化を招くなど不具合が生じる。また、熱可塑性ポリウレタン弾性糸は熱により部分的に溶融しても糸全体の硬度は必要以上に硬化せず生地風合いを損ない難い。これに対しポリエステル系などの低融点熱可塑性糸を使用すると熱による溶融の際に融着部が硬化し生地風合いが劣化し、生地の裁断部分に滑らかさがなくなり安全性でも問題が発生し易くなる。尚、低融点熱可塑性弾性糸としては、例えば特開2000−264326号公報に記載のポリウレタン弾性糸が好適に使用できる。また、市販品としては、東洋紡績株式会社製、エスパ(登録商標)−Mや日清紡績株式会社製、モビロン(登録商標)−Rなどが使用できる。
【0010】
低融点熱可塑性弾性糸の編地への含ませ方は単体、即ちベアーで他の繊維と交編されても、複合糸として加工されたのち編地に交編されても良い。その場合に組合わせる繊維の融点は180℃以上が必須で望ましくは200℃以上が良い。又、複合糸の加工方法はカバーリングでも良く、合撚でも良い。組み合わせる素材は熱可塑性繊維でも、セルロース系繊維でも良いがその混合比率は低融点熱可塑性ポリウレタン弾性糸を少なくとも10%以上含ませる必要がある。 望ましくは20〜30%の混合比率が良い。30%以上になると薄い生地などは溶融部が編地表面に露出し易く風合いを損ねることになる。
【0011】
本発明において、低融点熱可塑性弾性糸は編地の全面に編み込まれても良く、また、編地の長さ方向に間欠的に編み込まれても良い。全面的に編み込まれた場合は縫製工程での裁断時いずれをカットしても編地のほつれが難いものとなるが、風合い面からは溶融部が多く差し障りとなる場合も発生する。編地の長さ方向に間欠的に編みこむ場合は身頃、袖部などをパターン化し端末の折り返し、かがり縫いを省略することが可能となりその場合でも身頃本体の生地風合いは損なわないという利点がある。小口径の編機による丸仕上編地を利用すると脇縫いと裾縫いが不要となり縫製は著しく簡略化できる。また、生地要尺も少なく合わせてコストダウンが図れる。
【0012】
また、全面的に編み込む場合も間欠的に編み込む場合も全ての給糸口を使用する必要は無く、1完全編組織の繰返しの中で適宜、要求性能を満たし、且つ、最適風合いとなるよう編み込めば良い。また、間欠的に挿入する方法では切り替え装置を有する編機を使用すれば良いが丸仕上げ生地の場合は切り替え線がらせん状の不連続にならないように一斉に糸の切り替わるノッター切り替え装置を利用すると良い。
【0013】
以下に、実施例を例示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中における測定は下記のようにおこなった。
【0014】
(A)融点
サンプルは繊維を細かく刻んだものを約5mg用い、マックサイエンス製DSC3100Sで、室温から330℃まで昇温速度10℃/分、アルゴンガス雰囲気下で測定した。
吸熱を示すカーブがベースラインから立ち上がりはじめる位置を融点とする。
【実施例】
【0015】
実施例1〜3は東洋紡績製「エスパ(登録商標)―M」(融点150℃)を低融点熱可塑性ポリウレタン弾性糸<以下TPUと標記する場合がある>として使用した。比較例1は東洋紡績製「エスパ(登録商標)」(ポリウレタンウレア弾性糸<以下PUと標記する場合がある>:融点無し210℃以上で熱分解)を弾性糸として使用した。また、編み機は19インチ19Gを使用し、得られた布帛は丸仕上げで加工し、テンター条件は180℃で30秒間、乾熱セットをした。
【0016】
(実施例1)
編組織(フライス片袋)のリブ編部にTPU(22dtex−1fil)のベア糸とナイロン(33dtex−24fil)加工糸をリバーシブルに編込みダイヤル天竺部に綿50/1を編込んだ。なお生地全面にTPUベア糸をリバーシブルに編み込んだ。繊維の混率及び裁断後の生地のほつれにくさ、生地風合いの結果は表1に示す。
【0017】
(実施例2)
編組織(フライスリバーシブル)のタックリブ部にPUカバーリング糸(芯糸にPU22dtex−2filに2.5倍のドラフトをかけ鞘糸にナイロン44dtex−38filを600回/mで巻きつけた)を編み込み、ダイヤル天竺部、シリンダー天竺部に綿50/1を編込んだ。なお、身生地相当部編地60cmに対し裾部相当部編地5cmのみPUカバーリング部分をTPUカバーリング糸(芯糸にPU22dtex−1filに2.5倍のドラフトをかけ鞘糸にナイロン33dtex−24filを600回/mで巻きつけた)に切り替え編込んだ。繊維の混率及び裁断後の生地のほつれにくさ、生地風合いの結果は表1に示す。
【0018】
(実施例3)
フライス組織で身生地相当部編地に綿40/1、裾部相当部編地に綿とTPUカバーリング糸(芯糸にTPU44dtex−1filに2.5倍のドラフトをかけ鞘糸にナイロン44dtex−38filを600回/mで巻きつけた)を交互に編み込んだ。なお編地60cmに対し裾部5cmのみ綿糸40/1と同TPUカバーリング糸を交互に切り替え編込んだ。繊維の混率及び裁断後の生地のほつれにくさ、生地風合いの結果は表1に示す。
【0019】
(比較例1)
TPU(22dtex−1fil)の代わりにPU(22dtex−2fil)を用いた以外は実施例1に従った。繊維の混率及び裁断後の生地のほつれにくさ、生地風合いの結果は表1に示す。
【0020】
(比較例2)
編組織(フライス片袋)のリブ編部にナイロン(33dtex−24fil)とポリプロピレン(33dtex−12fil)の合撚糸を編込みダイヤル天竺部に綿50/1を編込んだ。なお生地全面に同ナイロン/ポリプロピレン合撚糸を編み込んだ。繊維の混率及び裁断後の生地のほつれにくさ、生地風合いの結果は表1に示す。
【0021】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ニット衣服製造分野において裁断後のパーツ部の生地端をほつれにくすることにより縫製部門でのミシンでの裾かがり縫いなどの工程の省力化を図ると共に生地要尺を抑えコストダウンに繋げる。また、デザイン性、ファッション性においても消費者ニーズを満足させる新たな商品の提供が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に180℃以下で溶融する低融点熱可塑性弾性糸を用いて製編織された編織物で、前記低融点熱可塑性弾性糸が部分的に融着されてなることを特徴とする編織物。
【請求項2】
低融点熱可塑性弾性糸が、単体で用いられてなることを特徴とする請求項1に記載の編織物。
【請求項3】
低融点熱可塑性弾性糸が、他の熱可塑性フィラメントとの複合糸若しくはセルロース系繊維との複合糸として用いられてなることを特徴とする請求項1に記載の編織物。
【請求項4】
低融点熱可塑性弾性糸が、他の繊維糸と交編又は交織されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の編織物。
【請求項5】
低融点熱可塑性弾性糸が、全面に均等に用いられ、製編織されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の編織物。
【請求項6】
低融点熱可塑性弾性糸が、ある一定のパターンを持って用いられ、製編織されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の編織物。

【公開番号】特開2006−169688(P2006−169688A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366047(P2004−366047)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】