説明

装置の清浄度を証明するための方法およびシステム

試験を実施することによって装置の清浄度を証明するためのシステムおよび方法を記述する。このシステムは、ターゲット信号強度を計測するとともに、装置サンプルのn≧1個の試験信号強度を計測するためのイオン移動度分光分析計を含む。また、このシステムは、特定の信頼度レベルに関連する統計的信頼度レベルパラメータの値を取得する統計モジュール、および統計的信頼度レベルパラメータの値およびn個のターゲット信号強度とから信号強度の合格範囲を取得する合格範囲モジュールを含む。システムは、さらに、n個の試験信号強度から平均試験信号強度を取得するための平均化モジュール、および平均試験信号強度が合格範囲にある場合には、装置が試験に合格すると判定し、装置が特定の信頼度レベルの範囲内で有意に清浄であることを指示する結果モジュールを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、イオン移動度分光法を使用する定量解析に関する。
【0002】
発明の背景
食品または製薬工業における製造施設などの装置の清浄度が、安全規制または基準に合致することを証明することは不可欠であることが多い。サンプル中の汚染物質を計測して、それらが安全レベルを超えないかどうかを判定しなくてはならない。
【0003】
製薬工業の大部分では、現在、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)を使用して、生産機械から収集されるサンプルが評価されている。高度に訓練された分析室の技術者が、移動相および希釈液を準備して、HPLC機器を設定する。次いで、収集された各サンプルが準備されて、通常はオートローダを使用して、オペレータの介入なしに連続的に注入、処理される。清浄化とサンプル準備に、通常は、丸一日かかるので、分析技術者は、一日の終わりに機器に装填して、次いで、翌朝、必要な計算を実行して、サンプル結果をデータベースに入力する。通常、生産はその日の中頃に再開し、少なくとも1日半の無駄を生ずる。
【0004】
発明の概要
本発明では、イオン移動度分光法を使用して、装置の清浄度を証明する。イオン移動度分光法とは、電界の影響下で、大気圧のガスを通過してイオンが移動するときのドリフト速度を計測することによって特定される、化学物質の気相イオン移動度に基づいて、化学物質を特徴づける原理、実施方法および機器を意味する。一般的な医薬化合物は、サンプルを気化させるために、熱的に脱着(desorb)される。次いで、気化されたサンプルは、選択的にイオン化される前に、キャリアガス流を介して、イオン移動度分光分析計に導入される。次いで、電子ゲートが周期的に解放されて、有限パルス(finite pulse)の生成イオンがドリフト管中に受け入れられる。このイオンは、低磁場に伝播して、コレクタ電極に当たり、電流を生成する。イオン電流は、増幅されて、イオン移動度スペクトルまたはプラズマグラム(plasmagram)として表示され、電流対時間の関係を示す。
【0005】
本発明の方法は、イオン移動度分光法を使用して、装置の清浄度を証明する。イオン移動度は、分子の大きさおよび形状に依存するので、イオン移動度は、試験されている汚染物質の標識として使用することができる。この方法は、HPLCよりも、100倍程度まで速いとともに、より安価にすることができる。さらに、この方法は、試験を管理する高度に訓練された人材を必要としない。
【0006】
特に、合格/不合格試験を実施することによる装置の清浄度を証明するためのシステムを、本明細書に記述する。このシステムは、イオン移動度分光分析計を用いてn個≧1個のターゲット信号強度を計測するとともに、装置サンプルのn個≧1個の試験信号強度を計測するための、イオン移動度分光分析計を含む。このシステムは、特定の信頼度レベルに関連する統計的信頼度レベルパラメータを取得するための統計モジュール、および統計的信頼度レベルパラメータの値とn個のターゲット信号強度とから信号強度の合格範囲を取得するための合格範囲モジュールをさらに含む。このシステムは、n個の試験信号強度から平均試験信号強度を取得するための平均化モジュール、および平均信号強度が合格範囲にある場合には、装置が試験に合格すると判定して、装置が特定の信頼度レベルの範囲内で有意に清浄であることを指示する、結果モジュールをさらに含む。
【0007】
本明細書には、イオン移動度分光分析計(IMS)を利用する試験に基づいて装置の清浄度を証明するための方法について記述するが、この方法は、IMSを用いてn個≧1個のターゲット信号強度を計測すること、およびIMSを用いて装置サンプルのn個≧1個の試験信号強度を計測すること含む。この方法は、特定の信頼度レベルに関連する、統計的信頼度レベルパラメータの値を取得すること、および統計的信頼度レベルパラメータの値とn個のターゲット信号強度とを利用して、信号強度の合格範囲を取得することをさらに含む。本方法は、また、n個の試験信号強度から平均試験強度を計算すること,および平均試験信号強度が合格範囲にある場合には、装置が試験に合格すると判定し、特定の信頼度レベルの範囲内で、装置が有意に清浄であることを指示する。
【0008】
発明の詳細な説明
本発明をより詳細に理解するとともに、本発明を実際に実施する方法をより明確に示すために、一例として、添付の図面を参照する。
食品または薬品業界における製造機器などの装置の清浄度は、安全規制または基準に合致することを証明しなくてはならないことが多い。本明細書に記述するシステムおよび方法は、存在する汚染物質の量が、ある信頼度で許容できるレベルを超えないことを、正確かつ比較的安価に証明するのに使用することができる。
【0009】
図1は、合格/不合格試験を実施することによって装置の清浄度を証明するためのシステム10を示す。システム10は、イオン化装置14を備えるイオン移動度分光分析計(IMS)12を含む。また、システム10は、統計モジュール16、合格範囲モジュール18、平均化モジュール20および結果モジュール22を含む。
IMS12は、n≧1個のターゲット信号強度およびn≧1個の試験信号強度を計測するのに使用される。n個の試験信号強度は、装置サンプルを取得するために装置をスワブで拭き取ること(swabbing)によって計測され、次いで、そのサンプルは、以下にさらに詳細に説明するように、イオン化されてIMS12を用いて分析される。
【0010】
次いで、ターゲット信号強度を計測するために、汚染物質の既知のターゲット濃度を有するターゲットサンプルが提供される。ターゲットサンプルは、イオン化されたサンプルをイオン移動度分光分析器にかける前に、イオン化装置14を用いてイオン化される。特に、サンプルのターゲット信号強度は、IMS12を用いて計測される。これらのイオン化および計測のステップが反復されてn個すべてのターゲット信号強度が取得される。
【0011】
統計モジュール16は、所与のnおよびnに対して、特定の信頼度レベルに関連する統計的信頼度レベルパラメータの値を取得するための、ハードウエアおよび/またはソフトウエアを含む。統計モジュール16には、特定の信頼度レベルを入力するために、マウス、キーボード、およびコンピュータディスプレイなどのハードウエアを含めることができる。統計モジュール16には、与えられた信頼度レベルに関連する統計的信頼度レベルパラメータの値を計算するための、ソフトウエアおよびハードウエアを含めることができる。例えば、特定の信頼度レベルが百分率で入力されると、統計モジュール16は、当業者には知られている、関連するスチューデントのtパラメータ(Student's t parameter)を計算することができる。スチューデントのtパラメータは、2つの分布が同一の平均を有するかどうかを判定するのに使用される。本発明に応用する場合には、スチューデントのtパラメータは、ターゲット信号強度に関連する第1の平均と、試験信号強度に関連する第2の平均との間の差が有意であるか、または偶然によるものかを証明するのに使用される。代替手法として、スチューデントのtパラメータは、統計モジュール16から直接的に入力することができる。
【0012】
合格範囲モジュール18は、統計的信頼度レベルパラメメータの値、n個のターゲット信号強度およびn個の試験信号強度から、信号強度の合格範囲を取得するための、ハードウエアおよび/またはソフトウエアを含む。特に、合格範囲モジュールには、n個のターゲット信号強度およびn個の試験信号強度を入力するための、マウス、キーボードおよびコンピュータディスプレイなどのハードウエアを含めることができる。代替手法として、これらは、IMS12がターゲット信号強度および試験信号強度を計測した後に、人間の介入なしに自動的に入力することもできる。以下にさらに詳細に説明するように、n個の試験信号強度から平均化モジュール20によって計算される、平均試験信号強度
【数1】

が、合格範囲に入る場合には、装置は、特定の信頼度レベルの範囲内で有意に清浄である。
【0013】
結果モジュール22は、平均試験信号強度が合格範囲ある場合には、装置が試験に合格すると判定して、特定の信頼度レベルの範囲内で装置が有意に清浄であることを指示する、ソフトウエアおよび/またはハードウエアを含む。結果モジュール22には、清浄度の試験の合格または不合格を指示する、画像または音声を生成することのできる、ディスプレイを含めることができる。
図2は図1の合格範囲モジュール18を示す。合格範囲モジュール18は、偏差モジュール24および閾モジュール26を含む。
【0014】
偏差モジュール24は、合格範囲を取得するために、プール標準偏差sを計算する。プール標準偏差sは、式:
【数2】

で与えられ、ここで
【数3】

および
【数4】

であり、{x,...,xn1}はn個のターゲット信号強度、{y,...,yn2}はn個の試験信号強度である。
【0015】
閾モジュール26は、次式:
【数5】

で与えられる閾強度zを計算する。次いで、合格範囲が[0,z]で与えられる。したがって、y∈[0,z]の場合には、装置は、ターゲットサンプル内に含まれる特定の汚染物質に対して、特定の信頼度レベルの範囲内で有意に清浄である。一方で、結果モジュール22は、平均試験信号強度が合格範囲の補集合として与えられる不合格範囲、すなわち(z,∞)にある場合には、装置は試験に合格しないと判定し、装置は特定の信頼度レベルの範囲内で有意に清浄ではないことを指示する。
【0016】
t値に関連する有意性は、ゼロから1の間の数であり、
【数6】

が、同じ平均を有する分布に対して、偶然にこの大きさであるか、またはそれよい大きい確率である。
本発明の一態様においては、結果モジュール22は、不合格範囲をさらに2つの範囲、第1の範囲
【数7】

、および第2の範囲
【数8】

に分割することができる。平均試験信号
【数9】

が、第1の範囲にある場合には、結果モジュール22は、装置は清浄であるが、有意に清浄ではないと判定し、平均試験信号強度が第2の範囲にある場合には、結果モジュール22は、装置は清浄ではないと判定する。
【0017】
図3に、n≧1個の試験信号強度を計測するのに使用されるシステム10の設備30を示してある。設備30は、装置を拭き取るためのスワブ(swab)32と、スワブ32内に存在し得る汚染物質を抽出するための溶媒36を含む抽出瓶(extraction vial)34とを含む。スワブ32には、綿、ポリエステルおよびナイロンを含めることができる。一般的に、微粒子材料を残さず、その後のIMS分析に干渉しないようなスワブ材料が選択される。拭取りサンプルは、装置の一定の表面領域から採取する。スワブ32は、一定量の溶媒36を含む瓶に浸漬され、その溶媒は、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノールまたはイソプロパノールとすることができる。瓶34は、例えば超音波処理するか、またはシェーキングして抽出を促進することができる。スワブ32は、複数回抽出して、抽出物を一緒にして、一定体積まで希釈することができる。次いで、スワブを取り除き、液相をフィルタリングして、溶液をIMS12に挿入する前に微粒子材料を除去し、それによって結果モジュール23が試験の結果を提供できるようにすることができる。
【0018】
図4を参照すると、特定の汚染物質の質量応答曲線を示してあり、これは(平均)信号強度対汚染物質量(ナノグラム単位)に対応する。このような曲線を取得するために、汚染物質のイオン移動度が調査される。当業者には知られているように、イオン移動度は、ドリフト時間に対応する。異なる量の汚染物質に対して、その汚染物質のドリフト時間において、IMS12の検出器からの信号強度の読取りを行うことができる。結果として得られる図4のカーブは、単調に増加しており、この理由は、より大量の汚染物質が存在するほど、ドリフト時間において検出器に到達する汚染物質イオンの数は多くなる(とともに、それによって信号強度が大きくなる)ためである。
【0019】
適当な量の溶媒36を用いてスワブで拭き取るために、ターゲット質量が選択され、それは平均ターゲット信号強度
【数10】

と関連しており、これより上では装置は清浄ではないと判断される。ターゲット質量は、IMS12に挿入される溶液内に存在する可能性のある、試験中の汚染物質の質量である。小さな質量によって得られる単位質量当たりの高い応答と、大きな質量によって得られる小さな相対標準偏差との間の妥協をもたらすターゲット質量を選択するために、図4における曲線の直線限界(limit of linearity)が選択されるが、これは、直線領域は、最高の感度を有するとともに、一般に最低の相対標準偏差をもたらすからである。ターゲット質量が選択されると、これは図4に示す例証的な曲線では10ナノグラムであり、抽出のために使用する溶媒36の量を以下のように計算することができる。
【0020】
ターゲット質量と関連する平均ターゲット信号強度が、曲線からわかる。図4の図式化した曲線においては、
【数11】

である。考慮すべきその他の因子としては、サンプル質量をIMS12に配送するのに使用されるサンプル体積(通常は1〜10マイクロリットル)、ターゲット濃度(ターゲット質量とサンプル体積とを用いて求められる)、およびIMS12におけるターゲット清浄化レベル(通常は、100〜1000ng/cm)がある。最悪事態スワブ拭取りシナリオが想定されており、それは通常、スワブ拭取りによる60〜90%回収である。
【0021】
上記の因子は、実行レベル(action level)において拭取りサンプルをターゲット濃度に希釈するのを確実にするために使用する。例えば、ターゲット質量が10ng、サンプル体積が1μL、ターゲット清浄化実行レベルが200ng/cm、スワブ拭取り面積が100cm、そしてスワブ拭取り回収が16μgであれば、ターゲット濃度は1μg/mL、スワブ上の実行レベルは16μgである。したがって、スワブを抽出処理すべき体積は、スワブ当たり16mLである。
【0022】
一般に、スワブから抽出すべき体積は、
【数12】

であり、ここで
exは、スワブが抽出処理された結果の体積(mL単位)、
Fは、表面のスワブ拭取りに対する回収率係数、
Dは、初期抽出物が非常に高濃度の場合に、必要となる希釈係数、
Cは、実行レベル表面のターゲット表面濃度(ng/cm単位)、
Aは、スワブ拭取りの面積(cm単位)、
tsは、分析すべきターゲットサンプル体積(μL単位)、
tsは、分析すべきサンプル質量(ng単位)である。
【0023】
すなわち、先の例に対して、F=0.8、D=1(希釈なし)、C=200ng/cm、A=100cm、Vts=1.0μL、およびmts=1であり、サンプルスワブは、サンプルを適切に希釈するために、16mLの溶媒中に抽出処理される。
ターゲット濃度を達成すると、IMS12は、ターゲット濃度においていくつかのサンプルの信号強度を計測して、平均
【数13】

を計算する。次いで、装置から拭取りサンプルが採取されて、上述のように、適正な量の溶媒で試験サンプルを調製することができる。平均試験信号強度
【数14】

が、合格範囲にある場合には、
【数15】

は、
【数16】

よりも有意に小さく、清浄度試験の合格を指示する。
【0024】
一例として図4を参照すると,ターゲットサンプルに対して10回の分析を実行し、平均ターゲット信号強度が100ディジタル単位(du)で、標準偏差が5duの場合に、式(1)を用いることによって、一回の計測(すなわちn=1)に対して、z=83du未満の試験信号強度を生成する溶液は、少なくとも99.5%の信頼度で清浄である。IMS12を用いて行う計測に必要な時間は短いので、追加ターゲット計測を実施するのは賢明なことであり、その理由は、それによって、標準偏差に対する予測精度が向上して、限界閾が増大し、したがって、フォールスポジティブ(false positive)の確率が低下するからである。
【0025】
ほとんどの場合には、最初に計測されるとき、スワブは清浄と分析される。場合によっては,スワブの応答は、閾をはるかに超えて、さらなる清浄化が必要なことを示す。まれには、スワブの応答は、わずかに閾を上まわる。IMS12は、迅速に結果を生成するので、この場合には、再洗浄することを決定する前に、サンプルのさらにいつくかのアリコート(aliquot)を分析することが推奨される。上述のように、再現サンプルの平均が合格範囲にある場合には、スワブは清浄であると断定することができる。再現サンプルを分析するときには、t検定の特性のために、合格/不合格閾は高くなる。フォールスネガティブを防止するために、いくつかの予防策をとることができる。第1は、スワブが整合性を伴って回収されることを検証することである。第2は、システム応答を確証するために、対象とする範囲全体にわたる機器応答を検査することである。第3は、まれに分析物の信号が、特定の化合物、特に洗浄剤または賦形剤の存在によって抑制されることがあるので、存在し得る潜在的な干渉(例えば、賦形剤)の影響を評価することである。
【0026】
試験しようとする装置からサンプルを獲得する様々な方法がある。上述のように、ひとつの方法は、所定の領域を拭取り、次いで溶媒を用いてスワブから汚染物質を抽出する方法である。第2の方法は、装置の所定の領域を溶媒ですすぎ、試験用のサンプルを調製する方法である。
【0027】
実験内容
装置に対して実施される清浄度試験の実験上の詳細について、この章で説明する。IMS12として、IonScan−LS(米国、ニュージャージ州、Warren、Smiths Detection社)を使用した。代表的な分析においては、対象とするサンプルを含む基板を、IMSの脱着器(desorber)上に配置して、この脱着器は290℃の一定プログラム温度に維持された。キャリアガス、すなわち空気が、熱的に蒸発したサンプル材料をイオン化反応領域に輸送する。蒸発化合物は、63Ni−source、および制御化学イオン化環境を有するイオン化装置14によって選択的にイオン化されて、分子イオンまたはイオンクラスタを生成する。次いで、それらのイオンは、大気圧で、ゲート誘導されてIMS12のドリフト室に入り、そこでイオンは、印加された電界の下で、コレクタ電極に向かって加速される。
【0028】
化合物の識別は、それらの特性減少イオン移動度(characteristic reduced ion mobility)K(cm/Vsec)値に基づいている。Kは、次式:
observed=K internal calibrant X(τcal/τobs
を用いて求められ、ここでτcalは、内部calibrantのドリフト時間、τobsは観察ピークのドリフト時間である。内部calibrantのKは既知の値であり、calibrantおよび観察ピークのドリフト時間は実験的に計測される値である。外部較正過程においては、この式で使用される内部calibrantK値は、外部(一次)calibrantに対して観察されるKが、K=1.1600(コカイン(cocaine))の値を有するように設定される。
【0029】
ここで理解すべきことは、アルゴンまたは窒素などの、その他のキャリアガスも使用できることである。同様に、290℃よりも高いか、または低い、その他の脱着器温度も適切である。
ドリフト領域に印加される電界の極性は、正または負のいずれかとして、正または負のイオンの分析が可能となる。適正な電荷のイオンは、反応領域からドリフト領域に向かって加速される。IMSスペクトルの各走査は、ゲートグリッドが短時間開いてイオンのバーストをドリフトチューブに受け入れるときに始まり、ゲートグリッドが再び開く直前に終了する。この間隔が、「走査期間(scan period)」である。いくつかの走査からのデータが互いに相互加算されて、シグナル/ノイズ比が向上し、「セグメント」と呼ばれる。サンプルに対する、特性イオンピークを有する一連のセグメントが取得されて、一連の個別セグメント、対、秒単位の脱着時間(3Dプラズマグラム)として、または分析中に取得されるすべてのセグメントの平均(2Dプラズマグラム)として表示することができる。
【0030】
GlaxoSmithKline(登録商標)製の試験品および賦形剤を供給される状態で使用した。殺虫薬グレードのアセトンを使用して、試験品サンプルを調製し、賦形剤は水またはエタノール中で調製した。テフロン(登録商標)基板(0.45ミクロン空孔)をOsmonics(登録商標)(米国、ミネソタ州、Minnetonka)から取得した。
サンプルの1μLアリコートを、1.0μL注射器(オールトラリア、メルボルン、SGE(登録商標))を使用して、テフロン(登録商標)基板の上に堆積させ、分析の前に15秒間蒸発させた。
【0031】
1ngの試験品を含む8つの標準試料を分析して、合格/不合格閾を求めた。次いで、0.25〜10ngの範囲の、48の試験溶液を分析した。その目的は、この限界試験が、1.5ng未満の試験品を含有するサンプルを清浄として識別し、少なくとも1.5ngを含むサンプルを清浄でないと識別することを検証することであった。
【0032】
ターゲットサンプルのターゲットレベルデータは、次のように要約される:質量=1.5ng、n=8、
【数17】

、s=10du(RSD=2.6%)、99.95%信頼度に対してt=5.408、およびz=339duである。これらの8つのデータ点から計算される合格/不合格閾は339duであり、したがって、ある試験サンプルの1つの分析が339du未満の信号強度を示す場合には、少なくとも99.95%信頼度で、その試験サンプルは、実行レベル量未満の作用医薬成分(API:Active Pharmaceutical Ingredient)を含有することになる。
【0033】
試験サンプルデータに関して、24の清浄サンプル(1.5ng未満のAPIを含有)が分析された。これらの23の場合において、サンプルは清浄度試験に合格した。しかしながら、1つのフォールスポジティブがあった。24の「汚れた」試験サンプルに対しては、フォールスネガティブはなかった。すべての汚れたサンプルはそのとおりの試験結果となった。上記の1つのフォールスポジティブの場合には、所定の実行方法は、そのサンプルについて2つの追加アリコートを分析すること、およびその3つの結果の平均に限界検定(limit test)を適用することであった。この平均を、多くの計測値に基づいており、したがってより高くなっている、改訂閾と比較することになる。最悪事態例として、1ngに対する3つの最高応答(329、330および344du)が、平均信号強度334duを示し、これは3つの試験サンプルに対する365duの改訂閾よりも小さい。したがって、試験サンプルは、清浄であると断定される。
【0034】
方法開発および検証の一部として、賦形剤による潜在的な干渉効果を調査した。3種の賦形剤:ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルメチルセルローズ(HPMC)、およびラクトースについて調査した。干渉の試験をするために、試験品の10個のサンプルを、3種類すべての賦形剤1000ngの存在下で、同時に試験した。次いで、溶液中の各賦形剤のサンプル(1000ng)を分析した。HPMCだけを検出した。K=0.9688における試験品ピークの最大振幅を比較に使用した。このデータは、100倍過剰の3種類の賦形剤によって、試験品信号は抑制されなかったことを示している。
【0035】
方法開発およびルーチン分析の両方に対する分析時間がはるかに短いことから、清浄化検証をHPLCからIMSに切り替えることにことによって達成される、生産停止の大幅な低減の実現が容易になる。ここで理解すべきことは、添付のクレームによってその範囲が定義される本発明から逸脱することなく、本明細書に記述して図解した態様に対して様々な修正および改造を加えることができることである。例えば、装置の清浄度についての結論の導出について、スチューデントのt検定を重視したが、当業者に知られているその他の統計的検定を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の原理に従って、合格/不合格試験を実施することによって装置の清浄度を証明するシステムを示す図である。
【図2】図1の合格範囲モジュールを示す図である。
【図3】試験信号強度を計測するのに使用される図1のシステムの設備を示す図である。
【図4】特定の汚染物質の質量応答曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン移動度分光分析計(IMS)を使用する試験に基づいて、装置の清浄度を証明する方法であって、
前記IMSを用いてn≧1個のターゲット信号強度を計測すること、
前記IMSを用いて装置サンプルのn≧1個の試験信号強度を計測すること、
特定の信頼度レベルに関連する統計的信頼度レベルパラメータの値を取得すること、
前記統計的信頼度レベルパラメータの値およびn個のターゲット信号強度を使用して、信号強度の合格範囲を取得すること、
前記n個の試験信号強度から平均試験信号強度を計算すること、および
前記平均試験信号強度が前記合格範囲内にある場合に、前記装置が試験に合格すると判定して、前記装置が特定の信頼度レベルの範囲内にあるように有意に清浄であることを指示することを含む、前記方法。
【請求項2】
≧1個のターゲット信号強度を計測するステップが、
既知のターゲット濃度を有する汚染物質のターゲットサンプルを提供すること、
IMSを用いて前記ターゲットサンプルのターゲット信号強度を計測すること、および
前記提供するステップおよび前記ターゲット信号強度を計測するステップを反復して、n個すべてのターゲット信号強度を取得することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
≧1個の試験信号強度を計測するステップが、
装置から装置サンプルを獲得すること、
IMSを用いて前記装置サンプルの試験信号強度を計測すること、および
前記獲得するステップおよび前記試験信号強度を計測するステップを反復して、n個すべてのターゲット信号強度を取得することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
獲得するステップが、
装置から拭取りサンプルを採取すること、および
適当な量の溶媒で前記拭取りサンプルを抽出処理付すことを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
装置サンプルの試験信号強度を計測するステップが、
前記装置サンプルをイオン化すること、および
前記イオン化サンプルをイオン移動度分析計にかけることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
取得するステップにおいて、統計的信頼度レベルパラメータがスチューデントのtパラメータである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
使用するステップが、プール標準偏差を取得することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
プール標準偏差sは、次式:
【数1】

で与えられ、ここで
【数2】

および
【数3】

であり、また{x,...,xn1}はn個のターゲット信号強度、{y,...,yn2}はn個の試験信号強度である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
使用するステップが、次式:
【数4】

で与えられる、閾強度zを計算することをさらに含み、合格範囲が[0,z]で与えられる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
平均試験信号強度が、合格範囲の補集合で与えられる不合格範囲(z,∞)にある場合に、装置が試験に合格しないと判定し、前記装置が特定の信頼度レベルの範囲内で有意に清浄ではないことを示すことをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
不合格範囲が2つの範囲、すなわち第1の範囲
【数5】

と、第2の範囲
【数6】

とに分割されており、平均試験信号強度が前記第1の範囲にある場合には、装置は清浄であるが、有意に清浄ではなく、前記平均試験信号強度が前記第2の範囲にある場合には、前記装置は清浄ではないとする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
イオン移動度分光分析計(IMS)を使用する試験に基づいて、装置の清浄度を証明する方法であって、
前記IMSを用いてn≧1個のターゲット信号強度を計測すること、
特定の信頼度レベルに関連する統計的信頼度レベルパラメータの値を供給して、信号強度の合格範囲を求めること、および
個の試験信号強度が前記合格範囲にある平均試験信号強度をもたらす場合に、前記装置は試験に合格すると判定し、前記装置が前記特定の信頼度レベルの範囲内で有意に清浄であることを指示する、前記方法。
【請求項13】
≧1個の試験信号強度を計測するステップが、
装置から装置サンプルを獲得すること、
IMSを用いて前記装置サンプルの試験信号強度を計測すること、および
前記獲得するステップおよび前記試験信号強度を計測するステップを反復して、n個すべてのターゲット信号強度を取得することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
獲得するステップが、
装置から拭取りサンプルを採取すること、および
適当な量の溶媒で前記拭取りサンプルを抽出処理に付すことを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
装置サンプルの試験信号強度を計測するステップが、
前記装置サンプルをイオン化すること、および
前記イオン化サンプルをイオン移動度分析計にかけることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
供給するステップにおいて、統計的信頼度レベルパラメータがスチューデントのtパラメータである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
供給するステップにおいて、IMSを用いて取得されるn≧1個のターゲット信号強度を使用して合格範囲を取得する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
供給するステップにおいて、合格範囲は[0,z]で与えられ、ここで、
【数7】

であり、式中でsは、n≧1個のターゲット信号強度およびn≧1個の試験信号強度から得られるプール標準偏差であり、
【数8】

は、n≧1個のターゲット信号強度の平均である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
プール標準偏差sは、次式:
【数9】

で与えられ、ここで
【数10】

は、n≧1個の試験信号強度の平均である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
試験を実施することによって装置の清浄度を証明するシステムであって、
≧1個のターゲット信号強度を計測するとともに、装置サンプルのn≧1個の試験信号強度を計測するイオン移動度分光分析計、
特定の信頼度レベルに関連する統計的信頼度レベルパラメータの値を取得する統計モジュール、
前記統計的信頼度レベルパラメータの値および前記n個のターゲット信号強度から信号強度の合格範囲を取得する合格範囲モジュール、
前記n個の試験信号強度から平均試験信号強度を取得する平均化モジュール、および
前記平均試験信号強度が前記合格範囲にある場合に、前記装置が試験に合格すると判定し、前記装置が前記特定の信頼度レベルの範囲内で有意に清浄であることを指示する結果モジュールを含む、システム。
【請求項21】
≧1個のターゲット信号強度を計測するために、
既知のターゲット濃度を有する、汚染物質のターゲットサンプルがIMS分析のために提供され、
前記ターゲットサンプルのターゲット信号強度がIMSを用いて計測され、そして
前記ターゲットサンプルを提供するステップおよび前記ターゲット信号強度を計測するステップの、最後の2つのステップが反復されてn個すべてのターゲット信号強度が取得される、請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
≧1個の試験信号強度を計測するために、
装置サンプルが装置から獲得され、
前記装置サンプルの試験信号強度がIMSを用いて計測され、そして
前記装置サンプルを獲得するステップおよび前記試験信号強度を計測するステップが反復されて、n個すべてのターゲット信号強度が取得される、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
装置を拭き取るためのスワブ、および
前記スワブを抽出処理するための溶媒をさらに含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
IMSが、イオン化されたサンプルをイオン移動度分光法にかける前に装置サンプルをイオン化するための、イオン化装置を含む、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
統計的信頼度レベルパラメータがスチューデントのtパラメータである、請求項20に記載のシステム。
【請求項26】
合格範囲モジュールが、プール標準偏差を計算するための偏差モジュールを含み、合格範囲を取得する、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
プール標準偏差sが、次式:
【数11】

で与えられ、ここで
【数12】

および
【数13】

であり、また{x,...,xn1}はn個のターゲット信号強度、{y,...,yn2}はn個の試験信号強度である、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
合格範囲モジュールが、次式:
【数14】

で与えられる閾強度zを計算する閾モジュールをさらに含み、合格範囲が[0,z]で与えられる、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
結果モジュールは、平均試験信号強度が合格範囲の補集合で与えられる不合格範囲(z,∞)にある場合に、装置が試験に合格しないと判定し、前記装置が特定の信頼度レベルの範囲内で有意に清浄ではないことを示す、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
不合格範囲が2つの範囲、すなわち第1の範囲
【数15】

と、第2の範囲
【数16】

とに分割されており、平均試験信号強度が前記第1の範囲にある場合には、装置は清浄であるが、有意に清浄ではなく、前記平均試験信号強度が前記第2の範囲にある場合には、前記装置は清浄ではないとする、請求項29に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−521566(P2006−521566A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509352(P2006−509352)
【出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/009325
【国際公開番号】WO2004/088278
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(505363374)スミス ディテクション インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】