説明

装置組込み型光度計の波長確認方法及び自動分析装置

【課題】装置組込み型光度計の波長確認方法において、現場にて簡便に実施できることであり、使用する溶液の調製,保管管理を厳密に行なう必要がなく、また、測定機器類を一切使用せずに実施できるものを得る
【解決手段】発明の装置組込み型光度計の波長確認方法において、自動分析装置に組み込まれた、連続的ではなく特定の複数種類の波長を取り出すことができる光度計の波長が、製造時と比べて変化しているか否かを、分光吸収特性が既知の溶液の特性データと当該自動分析装置による実測データを使用して確認することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置などに搭載される装置組込み型光度計の波長確認方法と、該方法が適用される自動分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者から採取した検体を検査したデータは臨床診断に不可欠であることから、現在、検体検査用の自動分析システムは、病院や検査所の規模の大きさに関わらず広く導入されている。検体の検査データにおける精度は臨床診断の信頼性を左右する重要な要素であり、近年は臨床検査室を試験所として認定するという制度の導入が図られている。
【0003】
検査室を試験所として認定するにあたっては、国際規格のISO15189を基に認定可否の審査がされる。国際規格の技術的な要求事項の一つとして、機器の機能,試薬,自動分析システムが適切に校正され且つ運用されていることを定期的にモニターし、立証することが求められている。
【0004】
臨床検査用の自動分析システムでは、自動分析装置や、検査対象物である例えば患者検体と反応する試薬を用いて検査結果を求める。濃度が未知の患者検体を測定し定量するためには、あらかじめ濃度が既知の試料をキャリブレータとして測定し、その測定値を基に患者検体の濃度を算出することが基本である。
【0005】
一方、キャリブレータが存在しない検査項目では、装置の計量,計測の物理的因子、例えば試料及び試薬の分注量,吸光測定用容器の光路長,測定溶液の分子吸光係数等に基づき算出した係数を使用して測定結果が算出される。ここで分子吸光係数に関わる主な要因は波長及び波長純度であり、分注などと併せて波長などの物理的因子の管理が重要であり、適正な状態のモニターが求められる。
【0006】
自動分析装置を設置した場合、その各機能の性能を確認する方法を示すものとして、日本臨床検査自動化学会から発行された「汎用自動分析装置の性能確認試験法マニュアル」がある。このマニュアルの中には、測光に関わる性能の確認事項として、(1)吸光度の比例性,(2)測光繰り返し精度,(3)見かけのモル吸光係数、そして(4)実測Kファクターが開示されている。これらの確認事項の中で、測光用の光における波長の正確性を推定することの可能性があるのは(3)に示した「見かけのモル吸光係数」だけである。
【0007】
これは規定濃度の反応指示物質を調製し、測定された吸光度からモル吸光係数を算出し、そのモル吸光係数を使用して測定をするというもので、狙いの波長からのズレを求めて波長の校正を実施するというものではなく、ズレがあればその状態での見かけのモル吸光係数を使用するというものである。
【0008】
一方、通常、分光光度計として市販されているものでは波長校正として水銀の輝線を使用するのが一般的である。JISでは吸光光度分析通則(K0115)において、波長正確さ或いは波長目盛及び波長目盛の校正については低圧水銀ランプ又は重水素放電管から放射される輝線又は波長校正用光学フィルターの吸収曲線の測定による方法が提示されている。輝線では強度が極大を示す波長、吸収曲線では吸収の極大波長を確認するものであり、ガラス光学フィルターとしてはネオジムフィルター、ホルミウムフィルターが、また、溶液フィルターとしてNISTのホルミウム溶液(SRM2034)等がある。
【0009】
特開平6−74823号公報に開示された「分光光度計の波長校正方法」はアレイ型受光素子を備えた装置を用いているが、ほぼ連続的に波長を取り出す分光光度計であり、複数のピークを有する校正用フィルターを使用する方法が示されている。
【特許文献1】特開平6−74823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来から用いられている「見かけのモル吸光係数」を求めて波長のズレを予測する方法では、規定濃度の反応指示物質を調製することが大きな技術課題であり、欠点でもある。反応指示物質を精製、秤量し規定濃度に調製すること自体、高い技能レベルが必要であり、しかも調製後の安定性を確保することが困難である。安定性を考慮するならば、測定現場にて調製が必要である。その場合、正しく校正された化学天秤が必要となるが、自動分析装置を導入している施設が全てそのような環境を整えている状況にはない。また、安定性が確保できないことを考慮して現場にて基準となる分光光度計で測定値を得てそれを対照に求めるということも有り得るが、この際には基準となるべき正しく校正された分光光度計が必要になるということで、これまた全ての検査室に求めることは不可能である。
【0011】
次に、一般の分光光度計の校正方法であるが、分光光度計のようにある波長範囲を連続的にカバーすることを想定した方法であり、自動分析装置に組み込まれた光度計のように特定の波長のみ取り出すものでは水銀などの輝線と一致する波長を有しないものでは利用できない。輝線と同じ波長の取り出しができるものであっても該当する光源及び電源の持ち込みや現場での光源の取り付け作業などには相当の工数が必要となる。また光学フィルターや溶液フィルターの吸収曲線を用いる方法は特定波長しか持たない光度計には適用ができない。
【0012】
特開平6−74823号公報に記載された内容も基本的にはほぼ連続的な波長の測定ができる分光光度計であり、校正に特別のフィルターを使用しているが、自動分析装置に組み込まれた光度計には適用が出来ない。
【0013】
その他、製造時の波長確認に使用している測定機器、例えばスペクトルアナライザーを持ち込むということは機器の特性上、頻繁な輸送は不適であり、加えて自動分析装置を現場で解体し光度計を取り出して測定するというのは現実的ではない。
【0014】
本発明の目的は、現場にて簡便に実施できることであり、使用する溶液の調製,保管管理を厳密に行なう必要がなく、また、測定機器類を一切使用せずに実施できる方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従来の方法での問題点は、測定溶液(反応指示物質)の厳密な濃度調製と調製後の安定的保存管理及び校正済み測定機器類の必要性等にある。
【0016】
これらの問題を解決するために、検査室現場に設置されている自動分析装置の現在の波長を直接的に数値で求めるのではなく、初期設定値からの変化量を求めることにしている。また、その変化は極端ではなく、毎日の検査に使用していることから日常の妨げとなることが殆どない、僅かな量であることを想定する。そして波長の変化は各波長で同一方向に同一量であるという条件を設定する。同一方向に同一量の変化と限定したのは波長に関連して調整が可能なものが回折格子で分散された所定の波長を受光するフォトダイオードアレイの位置のみであり、複数の波長に対応したフォトダイオードの間隔は固定され、全体として一方向への移動を調整する構造になっていることによる。
【0017】
本法では測定対象である溶液(反応指示物質)の分光吸収特性の活用が一つのポイントである。特に確認対象の波長近傍での波長変化に対する吸収の変化率の利用である。
【0018】
反応指示物質と確認波長の関係は測光精度と比べて十分大きな吸光度変化が観測されることが必要であり、波長変化に対して吸収が大きく変化するものを選択することが重要である。また、同一方向への波長変化により吸収が増加するものと、反対に減少する波長が選択できる方が変化の度合いを高感度に検出ができるので好都合である。特に、複数波長での吸光度比を使用するものではこのことが重要である。
【0019】
測定溶液(反応指示物質)の厳密な濃度調製及び調製後の安定的な保存管理を不要とするポイントは複数波長(主には2波長)測定である。これは濃度の異なる溶液をその溶液の吸収がある各波長で測定した時、波長ごとに吸光度比は一定の関係にあることを利用したものである。
【0020】
以上をふまえ、請求項1に係る発明の装置組込み型光度計の波長確認方法は、自動分析装置に組み込まれた、連続的ではなく特定の複数種類の波長を取り出すことができる光度計の波長が、製造時と比べて変化しているか否かを、分光吸収特性が既知の溶液の特性データと当該自動分析装置による実測データを使用して確認することを特徴とする。
【0021】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載された装置組込み型光度計の波長確認方法において、上記測定には、使用溶液の最大吸収波長を外し波長変化に対する吸収の変化が大きく得られる複数種類の波長を使用することを特徴とする。
【0022】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載された装置組込み型光度計の波長確認方法において、製造後、出荷前に溶液の実測データがある場合には、市場に設置の現場での測定データと確認対象の波長近傍での溶液の分光吸収特性から得られる吸収変化率を使用して出荷後の波長の変化量を算出することを特徴とする。
【0023】
請求項4に記載された装置組込み型光度計の波長確認方法は、製造時に組込む光度計の波長を別途スペクトルアナライザーなどの計測器を使用して確認したものでは、出荷前に溶液での実測データがなくても、溶液に対して吸収を有する確認対象の波長を含み複数種類の波長による測定吸光度の比と測定溶液の吸収特性から得られる製造時に確認した当該及びその近傍波長での吸光度比を使用して波長変化の程度を算出することを特徴とする。
【0024】
請求項5に記載された装置組込み型光度計の波長確認方法は、製造時の波長データも出荷前の溶液の実測データもない場合は、確認対象の波長を含み複数種類の波長それぞれの組合せによる吸収特性から求められる吸光度比データを使用して市場で測定した当該複数波長の吸光度比を比較し現状の波長が規格内にあるか否かを判定することを特徴とする。
【0025】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の装置組込み型光度計の波長確認方法を適用される自動分析装置において、溶液の吸収特性データ及び製造時の波長確認データを記憶し、運用現場での溶液の測定データから自動的に波長の変化の程度を測定し表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、近年になり要求されるようになった自動分析装置に組み込まれた光度計の、波長確認について、今後出荷の装置、そのようなことを考慮していないで既に出荷し市場で稼動している装置、製造時のデータが保管されていないような長年に渡り使用されている装置、等それぞれに対応が可能な方法を使い分けて現状の波長状態が現地に設置されている自動分析装置と厳密な濃度管理を必要としない溶液だけを使用して確認ができるので準備及び測定の作業工数を大幅に節減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
自動分析装置で波長正確性が重要な検査はキャリブレータがなく、装置で計量、計測の物理的因子をもとに濃度換算係数を定めるものであり、それらは装置定数と呼ばれる。具体的には酵素活性測定で使用されることがある。
【0028】
測定溶液(反応指示物質)としては確認対象の波長の波長変化に対して吸収が大きく変化するものを使用する。
【0029】
ここでは410nmの波長の変化を確認するために溶液としてパラニトロアニリンを使用した例で説明する。
【0030】
臨床検査の酵素項目の一つにγ−GTPがあり、この基質であるパラニトロアニリンの測定波長は405nmあるいは410nmを使用するのが一般的であるが、ここでは410nmで測定する場合の実施例を説明する。
(実施の形態1)
まず、第1の実施の形態として、自動分析装置の出荷時に、反応指示物質であるパラニトロアニリン,濃度CAの2波長(410nm/340nm)による吸光度測定を行なった場合を示す。
【0031】
図1に示した反応指示物質の分光吸収特性例をモデルとして説明する。
【0032】
出荷時に測定した自動分析装置での実際の波長は410nm相当がλ1、340nm相当がλ2であったと仮定する。また、パラニトロアニリンの410nm近傍での波長変化に伴う吸収の変化の割合を、パラニトロアニリンの分光吸収特性から事前に求めておき、これをα%/nmとする。
【0033】
同様に340nm近傍での波長変化に伴う吸収の変化の割合としてβ%/nmを求めておく。パラニトロアニリン、濃度CAのλ1,λ2の測定吸光度をEλ1,Eλ2を記録する。測定は多重測定によりその平均値を記録することが望ましい。
【0034】
出荷後、装置が市場に設置された状態での波長を確認のため、現地にてパラニトロアニリンの測定を行なう。この時の濃度は出荷時に使用したものと合わせる必要はなく、濃度CBとする。装置を設置し使用している間に波長がΔλシフトしたと仮定し、410nm相当はλ1X=λ1+Δλに、また、340nm相当はλ2X=λ2+Δλになっているとする。この状態で測定された吸光度はそれぞれEBλ1X,EBλ2Xである。よって、λ1X及びλ2Xでの出荷時に使用した濃度CAでの吸光度EAλ1X,EAλ2Xは、次の数1,数2で求められる。
【0035】
【数1】

【0036】
【数2】

λ1Xにおける溶液の濃度CBとCAの吸光度比はλ2Xにおける吸光度比と同一であることから、数3が成立する。
【0037】
【数3】

これから数4に示すごとく、Δλを求めることができる。
【0038】
【数4】

(実施の形態2)
次に、第2の実施の形態として、出荷前におけるパラニトロアニリンの測定データがないもので製造時の波長確認データが保管されている場合を説明する。
【0039】
波長変化の有無及び、程度を確認する波長を410nmとした時、もう一つの波長は同一波長変化に対して吸収の増減が反対となる波長を設定する。パラニトロアニリンの場合には例えば340nmとする。
【0040】
パラニトロアニリンの分光吸収特性から340nmにおける吸光度と410nm波長における吸光度の比であるAを求めて記録する。次に、同じパラニトロアニリンの分光吸収特性から340−1nm、すなわち339nmにおける吸光度と410−1nm、すなわち409nmにおける吸光度との比であるBを求めて記録する。さらに、340+1nm、すなわち341nmにおける吸光度と410+1nm、すなわち411nmにおける吸光度との比であるCを求めて記録する。
【0041】
現地にて任意の濃度のパラニトロアニリンを340nm,410nm相当の波長で測定した吸光度であるDを求める。
【0042】
測定結果DをB,Cと比較し、B≦D≦Cであれば出荷時からの波長変化は±1nm以内に収まっていると考えられる。また、表1に示したごとき“340±k”nmと“440±k”nm(kは変数)の比のテーブルを作成しておき、Dと一致する時のkが波長の変化量であるとしても良い。例えば、表1に示したごとく、製造時の確認波長での吸光度比のデータが0.8931であり、現地に設置した装置の測定データが0.8031であれば、波長の変化量は−2nmとなる。
【0043】
【表1】

(実施の形態3)
さらに、第3の実施の形態として、出荷前のパラニトロアニリンの測定データがなく、製造時の波長確認データも保管されていない場合について説明する。
【0044】
この場合には現状と比較するデータが全く存在しないため、波長の変化量を求めることはできない。パラニトロアニリンの分光吸収特性を用いて、340nm近傍の波長と410nm近傍の波長での吸光度比テーブルを作成する(表2参照)。
【0045】
【表2】

表2では例えば製造時の波長正確性規格を340nmと410nmそれぞれ±1nmとして規格内で取り得る340nmと410nm相当波長での吸光度比をテーブルに太線で枠囲みをして示す。現地でパラニトロアニリンを340nmと410nm相当の波長で測定し、その際における吸光度の比をこのテーブル内に当てはめてどのような状態にあるかを推定する。その際、同じ値をとる波長の組合せが複数あるため、各波長が同一方向に同じ量変化するという前提条件を用いて絞り込みを行なう。例えば、現地での測定結果が0.8454だった場合、一つには(339nm,409nm)の組合せであり、これは規格内といえるが、その他にも薄く網掛けした部分で0.8454を取り得る。出荷時に規格内に合った2波長が共に同一方向、同一量変化するという条件に合致するのは表2における破線で囲んだ2箇所だけである。これらは規格からの変化が±1nm以下であることが判定できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明にかかる装置組込み型光度計の波長確認方法及び自動分析装置においては、現状の波長状態が現地に設置されている自動分析装置と厳密な濃度管理を必要としない溶液だけを使用して確認ができるので、準備及び測定の作業工数を大幅に節減できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】反応指示物質の分光吸収特性例を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動分析装置に組み込まれた、連続的ではなく特定の複数種類の波長を取り出すことができる光度計の波長が、製造時と比べて変化しているか否かを、分光吸収特性が既知の溶液の特性データと当該自動分析装置による実測データを使用して確認することを特徴とする、装置組込み型光度計の波長確認方法。
【請求項2】
上記測定には、使用溶液の最大吸収波長を外し波長変化に対する吸収の変化が大きく得られる複数種類の波長を使用することを特徴とする、請求項1に記載された装置組込み型光度計の波長確認方法。
【請求項3】
製造後、出荷前に溶液の実測データがある場合には、市場に設置の現場での測定データと確認対象の波長近傍での溶液の分光吸収特性から得られる吸収変化率を使用して出荷後の波長の変化量を算出することを特徴とする、請求項1に記載された装置組込み型光度計の波長確認方法。
【請求項4】
製造時に組込む光度計の波長を別途スペクトルアナライザーなどの計測器を使用して確認したものでは、出荷前に溶液での実測データがなくても、溶液に対して吸収を有する確認対象の波長を含み複数種類の波長による測定吸光度の比と測定溶液の吸収特性から得られる製造時に確認した当該及びその近傍波長での吸光度比を使用して波長変化の程度を算出することを特徴とする、装置組込み型光度計の波長確認方法。
【請求項5】
製造時の波長データも出荷前の溶液の実測データもない場合は、確認対象の波長を含み複数種類の波長それぞれの組合せによる吸収特性から求められる吸光度比データを使用して市場で測定した当該複数波長の吸光度比を比較し現状の波長が規格内にあるか否かを判定することを特徴とする、装置組込み型光度計の波長確認方法。
【請求項6】
溶液の吸収特性データ及び製造時の波長確認データを記憶し、運用現場での溶液の測定データから自動的に波長の変化の程度を測定し表示することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の装置組込み型光度計の波長確認方法を適用される自動分析装置。


【図1】
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【公開番号】特開2006−162355(P2006−162355A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351857(P2004−351857)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】