説明

装飾された染色プラスチックレンズ

【課題】デザイン性に富んだ装飾された染色プラスチックを提供する。
【解決手段】それぞれ1色以上かつ異なる色となるように染料で光学面の裏面側及び表面側の一部が着色されたプラスチックレンズであって、着色されていない部分の一部又は全部が光軸方向において対向していないことを特徴とする装飾された染色プラスチックレンズである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面と表面とが異なる色の染料で着色されたプラスチックレンズであって、該プラスチックレンズの光学面の一部に着色されていない部分を設けることによって装飾した染色プラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レンズの縁(コバ)の一部あるいは全部が露出している眼鏡やサングラスの需要が増え、レンズ自体に高いデザイン性が求められるようになってきている。例えば、レンズの光学面に穴を開け、その穴の内壁を着色したもの(例えば、特許文献1参照)、レンズの端部を粗面加工あるいはマスキングし、その加工面やマスキングした部分を着色したもの(例えば、特許文献2参照)、レンズの一部分に所望の模様が形成されるようにレーザー加工し、その加工部分に色彩を施したもの(例えば、特許文献3参照)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−146051号公報
【特許文献2】特開平10−307281号公報
【特許文献3】特開2007−58146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜3は、いずれも無色透明レンズの一部に加工を施し、該加工部分を着色したものであり、染色されたプラスチックレンズに上記の様な従来の装飾を施してもデザイン性に富んだものとなるとは言い難い。また、コバが厚いレンズを薄く見せるために光学面外周端付近を削ることがある(メッツ加工ともいう)が、一方の面が染色されたプラスチックレンズの場合、削った部分が無色透明となり、デザイン性に劣るものとなっていた。
本発明は、上記従来の状況に鑑みなされたもので、デザイン性に富んだ装飾した染色プラスチックを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、裏面と表面とが異なる色の染料で着色されたプラスチックレンズであって、該プラスチックレンズの光学面の一部に着色されていない部分を設けることにより上記課題を解決し得ること見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0006】
[1]それぞれ1色以上かつ異なる色となるように染料で光学面の裏面側及び表面側の一部が着色されたプラスチックレンズであって、着色されていない部分の一部又は全部が光軸方向において対向していないことを特徴とする装飾された染色プラスチックレンズ。
[2]前記着色されていない部分が、研磨加工によって形成された光学面の一部分及び/又はマスキングによって形成された光学面の一部分である、上記[1]に記載の装飾された染色プラスチックレンズ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、裏面と表面とが異なる色のプラスチックレンズの光学面の一部に着色されていない部分を設けることにより、着色されていない部分を有する面と反対側の面の色を、該着色されていない部分に移りこませることができるため、デザイン性に富んだ装飾した染色プラスチックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】浸漬染色法におけるレンズ保持具にプラスチックレンズを装着した状態の一例を示す図である。
【図2】浸漬染色法におけるプラスチックレンズの浸漬状態の一例を示す図である。
【図3】研磨加工した染色プラスチックレンズの正面図である。
【図4】研磨加工した染色プラスチックレンズの側面図である。
【図5】マスキングした染色プラスチックレンズの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の装飾された染色プラスチックレンズは、要件(1)それぞれ1色以上かつ異なる色となるように染料で光学面の裏面側及び表面側の一部が着色されており、要件(2)着色されていない部分の一部又は全部が光軸方向において対向していないことを要する。
【0010】
[要件(1)]
前記要件(1)のとおり、本発明の装飾された染色プラスチックレンズは、光学面の裏面側及び表面側がそれぞれ1色以上かつ異なる色となるように染料で着色されていることを要する。
【0011】
プラスチックレンズの裏面側及び表面側を上記のように着色する方法としては、例えば、昇華染色法や浸漬染色法により片面ずつ染色する方法が挙げられる。
(昇華染色法)
例えば、昇華染色法の場合、ガラスや紙などの基板に昇華性染料含有インクを塗布した該塗布面と、プラスチックレンズの被染色面(裏面及び表面の一方)を離間して対向させ、基板を加熱することにより昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズの被染色面に染料を付着させ、続いて同様の方法で他方の被染色面に染料を付着させる。このとき、プラスチックレンズが所望の色となるように、裏面側と表面側とが異なる色の昇華性染料を選択する。
次に、昇華性染料を付着させたプラスチックレンズをオーブンなどの加熱炉に入れ、付着させた昇華性染料をプラスチックレンズ内に加熱浸透させることにより、前記の光学面の裏面側及び表面側がそれぞれ1色以上かつ裏面側と表面側とが異なる色となるように昇華性染料で着色された染色プラスチックレンズを得ることができる。
【0012】
プラスチックレンズの素材としては特に制限はなく、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル系樹脂、フマル酸系樹脂、スチレン系樹脂、繊維系樹脂などの眼鏡レンズに一般的に使用される素材が挙げられる。
また、本発明においてプラスチックレンズは、昇華染色法により染色することができるので、高屈折率(屈折率1.7以上)のプラスチックレンズであっても所望の色及び色調に染色することができる。
プラスチックレンズの形状に特に制限はなく、例えば、球面、回転対称非球面、非球面、凸面及び凹面などの多様な曲面を有するプラスチックレンズを利用可能である。
【0013】
昇華性染料は、加熱により昇華する性質を有する染料であれば特に制限はない。昇華性染料は工業的に容易に入手可能であり、市販品としては、例えばKiwalon Blue ESP(紀和化学工業(株)製)、Kiwalon Red ESP(紀和化学工業(株)製)、Kiwalon Yellow ESP eco(紀和化学工業(株)製)、Kayalon Microester Red C-LS conc(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Red DX-LS(日本化薬(株)製)、Dianix Blue AC-E(ダイスタージャパン(株)製)、FSP-Blue AUL-S(双葉産業(株)製)、FSP-Red BL(双葉産業(株)製)、FSP-Yellow P-E(双葉産業(株)製)、Kayalon Microester Blue C-LS conc(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Blue AQ-LE(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Yellow AQ-LE(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Yellow C-LS(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Blue DX-LS conc(日本化薬(株)製)などの分散染料が好適に使用できる染料として挙げられる。
また、昇華性染料含有インクには、プラスチックレンズを高濃度で均一に染色する観点から、界面活性剤、保湿剤、有機溶媒、粘度調整剤、pH調整剤、バインダーなどを含有させてもよい。
【0014】
(浸漬染色法)
例えば、浸漬染色法の場合、プラスチックレンズの被染色面のうち、裏面及び表面の一方の被染色面を、浸漬染料液に浸漬させ染料を付着させる。この時、他方の面を前記浸漬染料液に浸漬させない状態に保持しながら染色する。次いで、他方の被染色面を前記染料とは異なる染料を用いた浸漬染料液に浸漬させ染料を付着させる。この時、前記染色した一方の面を前記浸漬染料液に浸漬させない状態に保持しながら染色する。さらに、両面に付着させた染料をプラスチックレンズ内に浸透させる。
このようにプラスチックレンズを片面ずつ浸漬染色法で染色して、裏面側と表面側とが異なる色のプラスチックレンズを得ることができる。
【0015】
上記した他方の面(又は一方の面)を染料に浸漬させない状態に保持する方法としては、プラスチックレンズをレンズ保持具で保持することにより、他方の面(又は一方の面)を密閉空間に面する状態に保持しながら浸漬染色を行えばよい。レンズ保持具を用いた浸漬染色法の具体例について図を用いて説明する。
【0016】
上記レンズ保持具にプラスチックレンズを装着した状態の一例を図1に示す。
レンズ保持具は、全体にカップ型に形成されたレンズ保持部材20を用いて構成され、開口部21を有している。レンズ保持部材20は、ゴム状弾性を有する弾性材料を用いて構成され、図1(A)断面図,(B)レンズ方向から見た図に示すように、レンズ保持部材20にプラスチックレンズ10が装着され、プラスチックレンズ10のコバ面11はレンズ保持部材20に密着した状態となることで、レンズ保持部材20の中空部22に、プラスチックレンズ10を蓋体とした密閉空間23が形成される。
【0017】
次に、上記レンズ保持具を用いた浸漬染色法として、プラスチックレンズを浸漬染料液に浸漬させた浸漬状態の一例を図2に示す。
レンズ保持部材20にプラスチックレンズ10を装着した後、図2に示すように、プラスチックレンズ10を浸漬染料液30に浸漬させる。このとき、プラスチックレンズ10が有する2つの被染色面12,13のうち、一方の被染色面12は浸漬染料液30に浸漬し、かつ他方の被染色面13は、密閉空間23を形成しているため、浸漬染料液30に浸漬しない状態となる。これにより、プラスチックレンズ10の被染色面13が染色されずに被染色面12だけを染色することができる。
同様に他方の被染色面13についても、該面が浸漬染料液30に浸漬するようにレンズ保持具を用いて染色すればよい。
【0018】
浸漬染料液の温度及び浸漬時間は、プラスチックレンズの素材や所望する染色濃度などに応じて設定すればよく、プラスチックレンズの素材や染料の種類などによって適宜選択すればよいが、プラスチックレンズを均一に、かつ効率よく染色する観点から、浸漬染料液の温度は通常70〜100℃程度であり、浸漬時間通常5〜120分程度である。
また、効率よくプラスチックレンズを染色する観点から、オートクレーブなどを用いて加圧条件下で染色してもよく、通常0.5〜5.0MPa程度の加圧条件下でおこなうことができる。
浸漬染料液から引き揚げたプラスチックレンズは、必要に応じて水洗や乾燥処理を行ってもよく、乾燥温度、乾燥時間等の条件は適宜選択することができる。
【0019】
プラスチックレンズ:
プラスチックレンズの屈折率及び素材としては、昇華染色法で上述したものと同様であり、特に制限はないが、浸漬法の場合、例えば屈折率が1.5〜1.67程度のプラスチックレンズであれば、上記染料液の温度、浸漬時間、圧力条件などの浸漬条件を適宜調整することにより、高濃度まで染色することが可能であるため、工程の煩雑さを考慮した時には浸漬法を用いた方が好ましい。また、フィニッシュレンズ及びセミフィニッシュレンズであることが好ましい。
【0020】
浸漬染料:
浸漬染色法において使用する染料としては、昇華染色法で上述したものと同様であり、特に制限はなく、分散染料を好適に使用することが出来る。
【0021】
[要件(2)]
前記要件(2)のとおり、本発明の装飾された染色プラスチックレンズは、着色されていない部分の一部又は全部が光軸方向において対向していないことを要する。
前述の光学面の裏面側及び表面側がそれぞれ1色以上かつ異なる色となるように着色した染色プラスチックレンズにおいて、着色されていない部分を形成することにより、該着色されていない部分が光軸方向において対向していない場合、該着色されていない部分に反対側の面の色を移りこますことができる。一方、該着色されていない部分が光軸方向において対向している場合、該着色されていない部分に対向する部分は着色されていないので、該着色されていない部分は無色透明となる。
【0022】
すなわち、着色されていない部分の全部に反対側の面の色を移りこませたければ、着色されていない部分の全部が光軸方向において対向しないように、該部分を形成すればよい。また、着色されていない部分に無色透明部分と反対側の色と表せたければ、着色されていない部分の一部が光軸方向において対向しないように、該部分を形成すればよい。このように、上記着色されていない部分は、所望するレンズのデザインに応じ形成すればよい。
【0023】
プラスチックレンズの光学面に着色されていない部分を形成するには、光学面の所望する部分、例えば外周端部分を研磨加工(メッツ加工)することによって着色を除く方法、また、光学面を染色する際に、所望の模様や文字を形成するようマスキングテープなどによりマスキングを行う方法などを採ればよく、同一又は異なる光学面上でこれらの方法を組み合わせて行ってもよい。
また、研磨加工及びマスキングは、所望するデザインとなるように光学面のいずれの部分で行ってもよいが、例えば、眼鏡レンズの場合、研磨加工する場合は光学面の外周端部分を研磨加工することが好ましく、またマスキングする場合は光学面の内部分をマスキングすることが好ましい。
【0024】
さらに、本発明の装飾された染色プラスチックレンズの具体的な態様例(眼鏡レンズ)について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は該図面によって限定されるものではない。
図3は、外周端部分を研磨加工した本発明の装飾された染色プラスチックレンズの正面図である。また、図4は、図3のレンズをAの方向から見た側面図である。
図2が示すように、図3のレンズは、表面側Bの外周端部分を研磨加工した部分4と、裏面側Cの外周端部分を研磨加工した部分5を有することにより、図3における表面側研磨加工部分(網目部分)1において裏面側Cの着色が移りこみ、裏面側研磨加工部分(斜線部分)2において表面側Bの着色が移りこみ、研磨加工されていない部分3は、裏面側と表面側の色が組み合わせされて表れた色となる。すなわち、図3のレンズは、3色の色で装飾された染色プラスチックレンズとなり、研磨加工を施しても加工部分に無色透明部分を発現させない染色プラスチックレンズとすることができる。
【0025】
図5は、光学面を染色する際に所望の模様(図5における大小の丸)のマスキングを行った本発明の装飾された染色プラスチックレンズの正面図である。
図5が示すように、模様6となるように表面側をマスキングして染色を行った場合、染色後の模様6には裏面側の色が移りこみ、模様7となるように裏面側をマスキングして染色を行った場合、染色後の模様7には表面側の色が移りこみ、マスキングしなかった部分8は、裏面側と表面側の色が組み合わせされて表れた色となる。すなわち、図5のレンズは、異なる2色の模様で装飾された染色プラスチックレンズとなる。
【0026】
また、本発明の装飾された染色プラスチックレンズは、上記の研磨加工やマスキングを独創的なデザインとなるよう工夫を凝らすことによって、また研磨加工とマスキングとを組み合わせることによって、さらにデザイン性に富んだものとすることができる。
【実施例】
【0027】
実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
[材料]
(プラスチックレンズ)
各例で使用するプラスチックレンズは以下のとおりである。
・「EYRY(アイリー)」(商品名、HOYA(株)製);屈折率1.71、中心厚1.0mm、レンズ度数0.00、直径80mm、ポリスルフィド結合を有するプラスチックレンズ、光学面の一方が凸面、他方が凹面である。
・「HL」(商品名、HOYA(株)製);屈折率1.50、中心肉厚2.0mm、レンズ度数0.00、素材:ジエチレングリコ−ルビスアリルカ−ボネ−ト、光学面の一方が凸面、他方が凹面である。
【0029】
(昇華性染料含有インクの調製)
各例で使用する昇華性染料含有インキの調製は以下のとおりである。
<調製例1>
昇華性染料として「Kayalon Microester Blue DX-LS(日本化薬(株)製)」(青色)を水に分散させ、さらに分散剤、保湿剤を混合して昇華性染料含有インクとした。各成分の組成比は以下の通りである。
昇華性染料/水/分散剤/保湿剤/=5/74.55/0.45/20(質量比)
<調製例2>
昇華性染料として「Kayalon Microester Red DX-LS(日本化薬(株)製)」(赤色)を水に分散させ、さらに分散剤及び保湿剤を混合して昇華性染料含有インクとした。各成分の組成比は調整例1と同様である。
<調製例3>
昇華性染料として「Kayalon Microester Yellow DX-LS(日本化薬(株)製)」(黄色)を水に分散させ、さらに分散剤及び保湿剤を混合して昇華性染料含有インクとした。各成分の組成比は調整例1と同様である。
<調製例4>
調製例1のインクと調整例2のインクを半々に混合して、紫色の昇華性染色含有インクとした。
【0030】
(浸漬染色用染料液の調整)
<調製例5>
分散染料としてKayalon Microester Blue DX-LS(日本化薬(株)製)(青色)を水に分散させ、さらに分散剤としてニッカサンソルト7000(商品名、日華化学(株)製)を混合して分散染料液とした。各成分の組成比は以下の通りである。
分散染料/水/分散剤=5/94.8/0.2(質量比)
<調製例6>
分散染料としてKayalon Microester Red DX-LS(日本化薬(株)製)(赤色)を水に分散させ、さらに分散剤としてニッカサンソルト7000(商品名、日華化学(株)製)を混合して分散染料液とした。各成分の組成比は調整例5と同様である。
【0031】
[実施例及び比較例]
実施例1
昇華染色法により、プラスチックレンズ(商品名「EYRY」、HOYA(株)製)の凸面側を調製例1のインク(青色)で染色し、凹面側を調製例2のインク(赤色)で染色し、染色プラスチックレンズとした。
上記染色プラスチックレンズについて、レンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ該染色プラスチックレンズを目視したところ、色が均一に紫色であった。
さらに、得られた染色プラスチックレンズを、眼鏡レンズの枠形状に加工した後、加工したレンズのコバ(縁)の凸面側、凹面側を対向しないようにそれぞれ研磨加工し、装飾した染色プラスチックレンズとした。
得られた装飾した染色プラスチックレンズについてレンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ目視したところ、凸面側の研磨加工した部分が凹面側を染色した調整例2のインクの赤色に見え、凹面側の研磨加工した部分が凸面側を染色した調整例1のインクの青色に見え、また凸面及び凹面において研磨加工されていないレンズの中央部分は紫色に見えた。すなわち、実施例1で得られた染色した装飾プラスチックレンズは、紫色、赤色及び青色の3色を有するレンズに見えた。
【0032】
実施例2
実施例1で用いた調製例2のインクの代わりに、調製例3のインクを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、装飾した染色プラスチックレンズを得た。
得られた染色プラスチックレンズについて、レンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ該染色プラスチックレンズを目視したところ、色が均一にオレンジ色であった。
また、得られた装飾した染色プラスチックレンズについてレンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ目視したところ、凸面側の研磨加工した部分が凹面側を染色した調整例3のインクの黄色に見え、凹面側の研磨加工した部分が凸面側を染色した調整例1のインクの青色に見え、また凸面及び凹面において研磨加工されていないレンズの中央部分はオレンジ色に見えた。すなわち、実施例2で得られた染色した装飾プラスチックレンズは、オレンジ色、赤色及び黄色の3色を有するレンズに見えた。
【0033】
比較例1
実施例1において、凹面側への昇華染色を行わず、凸面のみの染色を行い、その他は実施例1と同様にして、装飾した染色プラスチックレンズを得た。
得られた染色プラスチックレンズについて、レンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ該染色プラスチックレンズを目視したところ、色が均一に青色であった。
また、得られた装飾した染色プラスチックレンズについてレンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ目視したところ、凸面側の研磨加工した部分が無色透明に見え、凹面側の研磨加工した部分が凸面側を染色した調整例1のインクの青色に見えた。すなわち、比較例1で得られた染色した装飾プラスチックレンズは、研磨加工した部分が無色透明に見える青色に染色されたレンズにしか見えなかった。
【0034】
比較例2
実施例1において、凹面側への昇華染色を行わず、凸面のみ調整例4を用いて染色を行い、その他は実施例1と同様にして、装飾した染色プラスチックレンズを得た。
得られた染色プラスチックレンズについて、レンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ該染色プラスチックレンズを目視したところ、色が均一に紫色であった。
また、得られた装飾した染色プラスチックレンズについてレンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ目視したところ、凸面側の研磨加工した部分が無色透明に見え、凹面側の研磨加工した部分が凸面側を染色した調整例4のインクの紫色に見えた。すなわち、比較例2で得られた染色した装飾プラスチックレンズは、研磨加工した部分が無色透明に見える紫色に染色されたレンズにしか見えなかった。
【0035】
比較例3
実施例1において、凹面及び凸面を調製例1のインクで昇華染色を行い、その他は実施例1と同様にして、装飾した染色プラスチックレンズを得た。
得られた染色プラスチックレンズについて、レンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ該染色プラスチックレンズを目視したところ、色が均一に青色であった。
また、研磨加工した部分は凸面側及び凹面側が共に調整例1のインクの青色に見えた。すなわち、比較例3で得られた染色した装飾プラスチックレンズは、研磨加工した部分についても青色に見える、均一に青色に染色されたレンズにしか見えなかった。
【0036】
比較例4
実施例1において、凹面及び凸面を調製例4のインクで昇華染色を行い、その他は実施例1と同様にして、装飾した染色プラスチックレンズを得た。
得られた染色プラスチックレンズについて、レンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ該染色プラスチックレンズを目視したところ、色が均一に紫色であった。
また、研磨加工した部分は凸面側及び凹面側が共に調整例4のインクの紫色に見えた。すなわち、比較例4で得られた染色した装飾プラスチックレンズは、研磨加工した部分についても紫色に見える、均一に紫色に染色されたレンズにしか見えなかった。
【0037】
実施例3
図1に示したレンズ保持具を用いて浸漬染色法により、プラスチックレンズ(商品名「HL」、HOYA(株)製)の凸面側を調製例5の染料液(青色)で染色し、凹面側を調製例6の染料液(赤色)で染色し、染色プラスチックレンズとした。
上記染色プラスチックレンズについて、レンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ該染色プラスチックレンズを目視したところ、色が均一に紫色であった。
さらに、得られた染色プラスチックレンズを、眼鏡レンズの枠形状に加工した後、加工したレンズのコバ(縁)の凸面側、凹面側を対向しないようにそれぞれ研磨加工し、装飾した染色プラスチックレンズとした。
得られた装飾した染色プラスチックレンズについてレンズ正面から凸面側と凹面側とを通じ目視したところ、凸面側の研磨加工した部分が凹面側を染色した調整例6の染料液の赤色に見え、凹面側の研磨加工した部分が凸面側を染色した調整例5の染料液の青色に見え、また凸面及び凹面において研磨加工されていないレンズの中央部分は紫色に見えた。すなわち、実施例3で得られた染色した装飾プラスチックレンズは、紫色、赤色及び青色の3色を有するレンズに見えた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、裏面と表面とが異なる色のプラスチックレンズの光学面の一部に、着色されていない部分を設けることにより、着色されていない部分を有する面と反対側の面の色を、該着色されていない部分に移りこませることができるため、デザイン性に富んだ装飾した染色プラスチックを提供でき、特に眼鏡用として有用である。
【符号の説明】
【0039】
1 レンズ正面から見た表面側研磨加工部分
2 レンズ正面から見た裏面側研磨加工部分
3 レンズ正面から見た研磨加工しなかった部分
4、5 レンズ側面から見た研磨加工部分
6 レンズ正面から見た表面側をマスキングした模様部分
7 レンズ正面から見た裏面側をマスキングした模様部分
8 レンズ正面から見たマスキングしなかった部分
10 プラスチックレンズ
20 レンズ保持部材
21 開口部
22 中空部
23 密閉空間
30 浸漬染料液
A 研磨加工したレンズの側面側
B レンズの表面側
C レンズの裏面側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ1色以上かつ異なる色となるように染料で光学面の裏面側及び表面側の一部が着色されたプラスチックレンズであって、着色されていない部分の一部又は全部が光軸方向において対向していないことを特徴とする装飾された染色プラスチックレンズ。
【請求項2】
前記着色されていない部分が、研磨加工によって形成された光学面の一部分及び/又はマスキングによって形成された光学面の一部分である、請求項1に記載の装飾された染色プラスチックレンズ。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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