説明

装飾品の製造方法

【課題】隠蔽部をインクジェットで形成し、シート状の装飾部を接着することで、より低コストに螺鈿模様を有した装飾品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】装飾品10の製造方法において、透明樹脂層20にインクジェットプリンタで隠蔽部30を所望の形状で形成し、隠蔽部30が形成されていない凹部31に対向した位置で裏面に装飾部50となる螺鈿模様のシートを接着することで、透明樹脂層20から凹部31を通して視認できる螺鈿模様の装飾部50と、隠蔽部30により装飾品を加飾する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品に加飾するための装飾品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な製品において、樹脂などを積層したシート状の装飾品を物品に貼り付けたり、一体で成形するなど加飾が施されている。例えば、自動車分野の内装においても、乗員が常に自動車内にいるときに視覚で認識されるようなインストルメントパネルなとこのろにも、加飾されている。近年では、自動車の内装においても、使用者の好みも多様化し、様々な模様の装飾が求められている。その中でも、螺鈿模様は、高級感もあることで知られており、一部の高級車などで使用されている。螺鈿模様の装飾品は、従来、伝統工芸に用いられる装飾技法のひとつである螺鈿細工で作製されている。螺鈿細工とは、貝殻の内側など光沢感のある部分をちりばめてはめ込むことで加飾することである。
【0003】
螺鈿細工としては、従来より、実際に貝を粉砕したものを積層しているものあるが、近年では、レーザーで精密に切り抜いて嵌め込む方法(象嵌細工)が用いられている。しかし、レーザーで精密に切り抜いて嵌め込む製造方法は、精密になるほど加工個数が増加し、大量生産には、向かなかった。
【0004】
そこで、上記の問題の改善方法として、物品の本体の表面に、貝殻の光沢に似た装飾層を積層し、その上に透明状層を積層させる製造方法を用いていた(特許文献1)。さらに、一部分の装飾層が見えるようにするために、透明状層に部分的に隠蔽層を積層していた。この場合の隠蔽層の積層方法は、以下のとおりである。まずは、透明状層に、エポキシ樹脂等の透明状の樹脂材料等を、材料粘度と空気圧等を調節して吹き付け等を行い、透明状層の表面にランダム状態に分散した突条の透明状部を形成する。その表面にさらに装飾層を隠蔽する色の塗装を行う。その後、サンドペーパーを有したサンダーベルト等によって、隠蔽するための色がついた突条の透明状部を削ることにより、隠蔽するための色がない透明状部が他の隠蔽層と平滑な面になり、視認窓ともいえる透明状部のみを通して、下層の装飾層を視覚することができる。
【0005】
しかし、前述した手段によると、透明状層とは別に、エポキシ樹脂等の透明状の樹脂材料等吹き付け工程を要し、また、サンダーベルトによって削る工程を有しており、工程が多くなっていた。また、削る分だけの余分な材料を要することにもなり、さらには、削った樹脂の処分などに余分な作業も生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9―48200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術の課題を踏まえ、より低コストに螺鈿模様を有した装飾品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
装飾品の製造方法において、透明な透明樹脂層の裏面に、断続的に複数の隠蔽部を所定位置にインクジェットで印刷形成し、複数の上記隠蔽部が形成されていない凹部の開口面積よりも大きい面積を有し該凹部をすべて覆う装飾部を上記隠蔽部の裏面であって該凹部に対向した箇所に接着することを特徴とする。
【0010】
適用例1の装飾品の製造方法によれば、インクジェットプリンタで隠蔽部を形成するため、所望の箇所に隠蔽部が形成され、デザインの自由度が増える。また、隠蔽部が形成されていない凹部からは、隠蔽部の裏面であって凹部に対向した箇所に接着されている装飾部を視認することができ、凹部に対向した箇所にのみ装飾部を配置していれば良いため、隠蔽部で視認されない部分には、装飾部を配置する必要もなく、材料コストも低減することができる。
【0011】
[適用例2]
適用例2の装飾品の製造方法においては、装飾部は、螺鈿模様の装飾シートにより形成されている。装飾部は、装飾シートでありシート状であるため、接着材などで簡単に、かつ、大量に接着できる。また、装飾部が螺鈿模様の装飾シートであるため、貝殻の裏側のような光沢感のある模様により高級感を有する装飾品を、貝殻を粉砕したものを象嵌したりする場合に比べ、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の製造方法で作製された装飾品の断面図である。
【図2】図2は、製造方法の順番に作製される装飾品の断面図であり、(a)は、第1工程後の断面図であり、(b)は、第2工程後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、装飾品の製造方法により装飾品を製造する一実施例を説明する。図1は、本発明の製造方法で作製された装飾品10の断面図である。本実施例の装飾品10は、主に樹脂を積層しているシート状のものであり、様々な物品に接着するなどして、意匠性を向上させることができるものである。
【0014】
装飾品10の構成は、透明樹脂性の透明樹脂層20の裏面に隠蔽部30が積層されており、さらに、接着層40、装飾部50、補強層60の順番で積層されている。本発明を説明する図面においては、説明の都合上、図面の上方を裏面とする。
【0015】
隠蔽部30は、色のついた塗料であり、断片的に透明樹脂層20の積層されている。本実施例においては、ピアノブラックといわれる光沢感のある深みのある色を用いている。断片的に隠蔽部30は積層されているため、同面上では、隠蔽部30が形成されていない凹部31が形成されている。
【0016】
隠蔽部30の裏側の面(図1では上側の面)において、接着層40が積層されている。接着層40は、透明であり、液状で粘着力の使用しているため、隠蔽部30の裏面および凹部31を埋めるように積層されている。このため、凹部31においては、接着層40は透明樹脂層20と接着している。
【0017】
装飾部50について説明する。接着層40の裏面には、装飾部50が断片的に積層されている。この装飾部50は、隠蔽部30の凹部31に断面厚み方向において、対向して配置されている。それぞれの装飾部50の水平方向の裏面の面積の大きさは、凹部31の開口面積よりも大きく形成されている。そして、透明樹脂層20の表面(図1では下方)より見たときに、装飾部50が、凹部31の開口全面に隙間なく見えるように装飾部50は凹部31を覆っている。この構成により、透明樹脂層20の表面から見たときに、隠蔽部30と、凹部31から通して見える装飾部50の組み合わせによって、装飾品10の全体の模様が形成される。本実施例においては、装飾部50は、螺鈿模様のシートが使用されている。
【0018】
装飾部50の裏面および周囲には、硬化性樹脂を材料とした補強層60が形成されている。補強層60により装飾部50の剥離や、傷つきなどを防いだりすることができる。また、装飾品10全体の強度も向上させている。
【0019】
次に、上述した装飾品10の製造方法について説明する。図2は、製造方法の順番に作製される装飾品の断面図である。図2(a)は、透明な可撓性の樹脂シート状である透明樹脂層20に隠蔽部30を印刷している第1工程により作製された装飾品10の断面図である。第1工程においては、、透明樹脂層20を用意し、その裏面(本図面では、上方の面)にインクジェットプリンタで、隠蔽部30を印刷する。この場合、インクジェットプリンタであるため、断続的に印刷をしたり、任意の模様および色彩で印刷することができる。この場合、断片的にできた隠蔽部30の間には、凹部31が形成されており、図2(a)に示す通り、凹部31は、透明樹脂層20に印刷されていない箇所である。
【0020】
図2(b)は、装飾部50を接着する第2工程により作製された装飾品10の断面図である。第2工程は、装飾部50を第1工程ででき透明樹脂層20に隠蔽部30が印刷され積層されたものに、接着する工程である。装飾部50としては、事前に、第1工程でできた凹部31の開口面積より大きい面積の装飾シートを用意する。この場合、凹部31の開口面積より大きければ、分割していて形成されていても良く、また連続したシートでも良い。本実施例においては、装飾部50は、光沢により高級感のある螺鈿模様のシートを用いる。
【0021】
装飾部50となる上記工程で用意した螺鈿模様のシートを、接着層40を介して接着する。接着層40としては、透明で粘着力のあるものを使用する。接着剤は、隠蔽部30の間の凹部31に入り込み、隠蔽部30の裏面全体を覆うように固まり、接着層40を形成する。接着層40が固化する前に、接着層40の裏側であって、凹部31に対向した位置に、凹部31の開口面積よりも大きい面積を有した螺鈿模様のシートを配置して接着することで、装飾部50として形成される。
【0022】
最後に、必要に応じて、装飾部50の裏面に、保護および補強を目的としてコーティング剤を塗布し補強層60を形成する。コーティング剤としては、接着性のよい樹脂材料を用いればよく、一般的な、フッ素樹脂、ポリカーボネート、アクリルなど、仕様に応じて適宜選択することができる。
【0023】
ここでは、本発明の効果を説明する。第1工程においては、透明樹脂層20の裏面に隠蔽部30をインクジェットプリンタにより印刷するため、あらかじめ、プリンタにどの部分を印刷するかの設定を施せば、自動的に、複雑な模様や、断片的な模様であっても簡単に印刷し、所望の隠蔽部30を形成する。透明樹脂層20の裏面に直接印刷するため、隠蔽部30として樹脂部材等を接着剤で接着する工程など必要とせず、安価に形成することができる。また、最初に、透明樹脂層20を、完成後の装飾品10を物品につけるときの形状に変形させておき、その後、隠蔽部30を印刷することもできるため、3次元形状にも印刷可能である。
【0024】
次に、第2工程においては、シート状の装飾部50を、第1工程で形成された隠蔽部30の凹部31に対向した位置に配置し接着することで、簡単に隠蔽部30に対向した位置に積層できる。本実施例においては、装飾部50は、螺鈿模様のシートを使用しており、貝殻を粉砕したものを嵌めるなどの工程を要さず、材料費や加工費用においても安価に作製できる。さらに、螺鈿模様のシートを分割して使用しても良いし、一枚のシートを複数の凹部31に対向するように配置しても良く、材料費や加工費用に応じて適宜選択しても良い。
【0025】
なお、上記で説明した本発明の要旨を逸脱しない範囲においては、適宜、構成を変更することができる。例えば、装飾部50に螺鈿模様のシートを用いたが、隠蔽部30と組み合わせることで、装飾品10の全体に模様を形成できるシートであれば、装飾部50として他の模様・色彩のシートを用いてもよい。
【符号の説明】
【0026】
10・・・装飾品
20・・・透明樹脂層
30・・・隠蔽部
31・・・凹部
40・・・接着層
50・・・装飾部
60・・・補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な透明樹脂層(20)の裏面に、断続的に複数の隠蔽部(30)を所定位置にインクジェットで印刷形成し、
複数の上記隠蔽部(30)が形成されていない凹部(31)の開口面積よりも大きい面積を有し該凹部(31)をすべて覆う装飾部(50)を上記隠蔽部(30)の裏面であって該凹部(31)に対向した箇所に接着する装飾品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の装飾品の製造方法において、
上記装飾部(50)は、螺鈿模様の装飾シートにより形成される装飾品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−59935(P2013−59935A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200404(P2011−200404)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)