説明

装飾外装シートの製造方法およびそれに用いる転写シート

【構成】基体シート上に設けられた100μm以上の厚さのモルタル塗装層に対して、ベースシートの一方の面に耐候性顔料と耐候性バインダーを主成分とする所望の絵柄を有する印刷模様層を剥離可能に設けた転写シートを、熱圧着することにより所望の印刷模様を熱転写することを特徴とする装飾外装シートの製造方法。
【効果】特殊な施工技術を必要とせず、短かい工期で、密集地帯でも近隣に迷惑をかけることなく、高級で安定した意匠を建物の外壁に付与することを可能にする装飾外装シートが得られる。また、絵柄の付与に転写方式を用いたので、モルタル塗装層のような凹凸表面にも美麗な印刷模様を設けたものとなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、建造物の外装用途に使用される装飾シートに関する。
【0002】
【従来の技術】建物の外壁を装飾する方法として従来からよく知られているものに外装用塗料によるモルタル吹き付け塗装がある。ところが、これらの塗装方式は、以下の理由で、市場に受け入れられにくくなっているのが現状である。
【0003】■労働力不足。とくに現場での塗装技能労働者の不足。
■住宅及び低層ビルディングの密集化により、吹き付け塗装は近所迷惑であること。
■工期の短縮に対応できないこと。
■安定した均一な品質が求められているのに、対応しにくいこと。
■より高級な意匠性が求められてきている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、以上のような従来の課題に鑑みなされたもので、吹き付け塗装で得られる装飾層とほとんど同一の組成、物性を保持しながら、以上のような欠点を克服することが可能になるように、装飾シート化することを目的としてなされたものであり、本発明は、特殊な技術を必要とせず、短かい工期で、密集地帯でも近隣に迷惑をかけることなく、高級で美観のある意匠を建物の外壁に実現できる装飾外装シートを提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、基体シートの上に、アクリルエマルジョンおよび無機粉粒体からなるモルタル塗装膜を100μm以上の厚みで設け、耐候性顔料と耐候性バインダーを主成分とする所望の印刷模様層をその一方の面に剥離可能に設けた転写シートを、その印刷模様面が前記モルタル塗装膜と接触するように対向させ、熱圧着することにより所望の印刷模様を熱転写することを特徴とする装飾外装シートの製造方法である。
【0006】本発明のいくつかの変形にあっては、転写シートの印刷模様層の上に接着層を設けて印刷模様を熱転写しても良く、あるいは、アクリルエマルジョンおよび無機粉粒体からなるモルタル塗装膜の上に、接着層を塗布形成して、転写シートの印刷模様を熱転写することも好ましい実施態様のひとつである。
【0007】本発明を図面に基づいてさらに説明する。図1に示すように、使用する基体シート(1)は、柔軟性を有し、かつ通気性を有するシートなら任意で、有機質または無機質、あるいは合成および天然の繊維質シート等である。通気性を必要とする理由は、塗材の乾燥性及び基体シートへの食い付きを考慮したためである。
【0008】この基体シート(1)上に形成されるモルタル塗装層(2)を構成する組成物としては、基本的には従来から吹き付け塗装に使用されているモルタル塗料と殆ど同一の物を使用する。すなわち、アクリルエマルジョンと無機質粉粒体と水、及び、各種添加剤からなるモルタル塗料を用いる。このモルタル塗料を用いて基体シート上に厚さ100μm以上のモルタル塗装層(2)を設ける。モルタル塗装層(2)の形成方法は、ロールコーター、フローコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等を用いればよい。
【0009】ここで得られたシートに所望の印刷模様を設ける方式として、本発明では、耐候性の良好な絵柄層を熱転写する方式を発案し、採用するものである。この方式を用いることにより、印刷適性を全く有しない上記モルタル塗装層(2)に良好な模様を付与することが可能となる。
【0010】用いる転写シート(3)としては、図2に示すように、ベースシート(4)上に、所望の絵柄を有する印刷模様層(5)を剥離可能に設けたものを用いる。ここで用いるベースシート(4)としては、ポリオレフィン系フィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、等が使用できる。所望の絵柄を有する印刷模様層(5)は、合成樹脂製バインダー中に顔料を混在させた耐候性に富む特殊な印刷インキを用いて、公知の印刷方法によりベースシート(4)上に設ける。
【0011】印刷インキに用いる合成樹脂製バインダーを例示すれば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、またはこれらの組合せによる混合物、あるいは共重合物が用いられる。
【0012】しかしながら、特に耐候性に富むバインダーとしては、アクリル主鎖をシロキサン結合で架橋した構造のアクリルシリコン樹脂、フッ素系樹脂;例えばフルオロオレフィンとビニルエーテルモノマーとの交互共重合体、あるいはシリコンアクリル樹脂;3級アミノ基を導入したアクリル樹脂を主剤としアルコキシシリル基を有するシリコン化合物を硬化剤とした重合物、などがあげられる。
【0013】顔料としては、酸化鉄等に代表される無機顔料、フタロシアニン系顔料等の多環縮合物の結晶体に代表される耐候性のある有機顔料、いずれを用いてもよい。印刷方式としては、シルクスクリーン印刷法、グラビア印刷法等を用いればよい。印刷模様層(5)を剥離可能に設ける方法としては、上記ベースシート(1)と、インキバインダーの組合せによっては別途、剥離層(6)を設ける必要がある。例えば、塩化ビニルシートの上に、塩酢ビ系のインキを構成する場合には、ポリビニルブチラールから成る層を設ければよい。
【0014】以上のようにして得られた転写シート(3)を用いて、アクリルエマルジョンのモルタル塗膜層(2)の上に所望の絵柄を熱転写するわけだが、インキバインダーの種類によっては、図3または図4に示すように、転写シート(3)の上か、あるいは、モルタル塗膜層(2)の上に、予め接着層(7)(9)を付与しておくと、さらに印刷模様層(5)の転写後の密着強度を向上させることができる。上記の場合を例とすると、ポリウレタンからなる接着層が、両方の場合に好適に用いられる。
【0015】このようにして得られた本発明の装飾外装シートの上に、場合によっては、さらに耐候性を向上させるために、ポリウレタン、フッ素系樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂等のトップコート層(8)を設けることもできる。
【0016】
【作用】本発明は、以上のような装飾外装シートであるので、特殊な施工技術を必要とせず、短かい工期で、密集地帯でも近隣に迷惑をかけることなく、高級で美観のある意匠を建物の外壁に施すことができる。また、耐候性のある印刷模様層としたので、長期間にわたって色褪せることがない。
【0017】
【実施例】
<実施例1>坪量130g/cm2の耐アルカリ硝子繊維混抄紙を基体シートとし、以下の組成より成る塗材を用いて、フローコーターにて厚さ500μmのモルタル塗装膜を形成した。
【0018】〔塗材組成〕
アクリルエマルジョン 25重量部炭酸カルシウム 35重量部水 55重量部分散剤 3重量部消泡剤 2重量部
【0019】一方、25μm厚のポリエステルフィルムの上に、フルオロオレフィンとビニルエーテルモノマーとの交互共重合体からなるフッ素樹脂(旭硝子(株)製商品名「ルミフロン」)をバインダーとし、下記の組成のインキを用いて、グラビア印刷法にて、大理石模様の印刷模様層を形成して、転写シートとした。
【0020】
イエローインキ バインダー(上記のとおり) 20重量部 耐候性顔料 7重量部 溶媒(トルエン:メチルエチルケトン=1:1) 108重量部
【0021】
マゼンタインキ バインダー 20重量部 耐候性顔料(キナクリドン) 5.8重量部 溶媒(トルエン:メチルエチルケトン=1:1) 103重量部
【0022】
シアンインキ バインダー 20重量部 耐候性顔料(銅フタロシアニン) 7.2重量部 溶媒(トルエン:メチルエチルケトン=1:1) 109重量部
【0023】
墨インキ バインダー 20重量部 耐候性顔料(カーボンブラック) 13.3重量部 溶媒(トルエン:メチルエチルケトン=1:1) 155重量部
【0024】
白インキ バインダー 20重量部 耐候性顔料(チタンホワイト) 70重量部 溶媒(トルエン:メチルエチルケトン=1:1) 360重量部
【0025】上記のように作成した転写シートを、その印刷模様面が前記モルタル塗装膜と接触するように対向させ、以下の条件でロール熱圧着させ、一体化させ、室温まで温度が下がった後に転写シートのベースシートを剥離することにより、所望の絵柄を設けた装飾外装シートを得た。
〔熱圧着条件〕
温度:165℃線圧:10kg/cm速度:10m/分
【0026】<実施例2>実施例1において、フッ素樹脂に代えて、アクリル酸/塩化ビニル/酢酸ビニル共重合樹脂をバインダーとしたインキを用いて、グラビア印刷法にて、大理石模様の印刷模様層を形成して、転写シートとした。
【0027】さらに転写シートの印刷模様層の上に、ポリウレタンからなる接着層を5μmの厚みで設けた転写シートを使用して、以下の条件でロール熱転写することにより、所望の絵柄を設けた装飾シートを得た。
〔熱圧着条件〕
温度:165℃線圧:10kg/cm速度:20m/min
【0028】<実施例3>実施例1において、塗装膜の上に、ポリウレタンからなる接着層を10μmの厚みで設けておいたものを使用して、以下の条件で熱転写することにより、所望の絵柄を設けた装飾シートを得た。
〔熱圧着条件〕
温度:165℃線圧:10kg/cm速度:30m/min
【0029】
【発明の効果】以上、詳述したように、本発明によれば、特殊な施工技術を必要とせず、短かい工期で、密集地帯でも近隣に迷惑をかけることなく、高級で安定した意匠を建物の外壁に付与することを可能にする装飾外装シートが得られる。また、絵柄の付与に転写方式を用いたので、モルタル塗装層のような凹凸表面にも美麗な印刷模様を設けたものとなる。さらに、耐候性のある印刷模様層としたので、長期間にわたって色褪せることがない。
【0030】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装飾外装シートの一実施例を示す説明図である。
【図2】本発明の装飾外装シートを製造方法の一工程である転写工程の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の装飾外装シートを製造方法の一工程である転写工程の他の例を示す説明図である。
【図4】本発明の装飾外装シートの製造方法の一工程である転写工程の他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
(1) 基体シート
(2) モルタル塗装層
(3) 転写シート
(4) ベースシート
(5) 印刷模様層
(6) 剥離層
(7) 接着層
(8) トップコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】基体シートの上に、アクリルエマルジョンおよび無機粉粒体からなるモルタル塗装層を100μm以上の厚みで設け、ベースシートの一方の面に耐候性顔料と耐候性バインダーを主成分とする所望の絵柄を有する印刷模様層を剥離可能に設けた転写シートを、その印刷模様面が前記モルタル塗装膜と接触するように対向させ、熱圧着することにより所望の印刷模様を熱転写することを特徴とする装飾外装シートの製造方法。
【請求項2】転写シートの印刷模様層の上に接着層を設けていることを特徴とする請求項1記載の装飾外装シートの製造方法。
【請求項3】アクリルエマルジョンおよび無機粉粒体からなるモルタル塗装膜の上に、接着層を塗布形成して、転写シートの印刷模様を熱転写することを特徴とする請求項1記載の装飾シートの製造方法。
【請求項4】ベースシートの一方の面に、耐候性顔料と、アクリルシリコン樹脂、フッ素系樹脂もしくはシリコンアクリル樹脂から選択された少なくとも一種からなる耐候性バインダーを主成分とする所望の絵柄を有する印刷模様層を剥離可能に設けた転写シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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