説明

装飾展示物およびその製造方法

【課題】高強度で壊れにくく、しかも長期間鑑賞するための展示物として好適な装飾置物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】ケース10内に装飾体20が収容された装飾置物1であって、ケース10は、その一部である前面パネル16が、ケース10内の観賞を可能にする透明素材で構成されており、装飾体20は、ケース10内に設置された土台30に装飾素材40を装飾してなるものであり、土台30は、多孔質成形体からなる基材31の底面が被覆層32によって被覆されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾展示物の構造およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自然の草木や造花を花器に装飾することは、日常的に行われていることである。また、最近では、いわゆるフラワーアレンジメントが盛んに行われており、草花の特性を活かした多様な装飾物が提案されている。
【0003】
例えば、ワイングラスのような容器に装飾して観賞用に使用することが可能な花装飾セットがある(特許文献1参照)。この花装飾セットは、観賞場所で作られ、鑑賞者と同じ空間に置かれて観賞されるものである。
【0004】
また、盆栽鉢などの実物の器部に擬似花などを装飾した擬似花装飾体がある(特許文献2参照)。この擬似花装飾体は、鑑賞者と同じ空間にある祭壇上に飾りつけとして設置され、その後、設置者が撤収するという形態等で使用されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3098912号公報
【特許文献1】実用新案登録第3123997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来の花装飾セット及び花装飾体は、いずれも、鑑賞者と同じ空間に置かれ、直に観賞できる状態で使用されるものである。ところが、草花や擬似花などの装飾物は強度が弱い。また、鑑賞者と同じ空間に置かれるという使用形態は、外界からの力を受けやすい使用形態である。このようなことから、従来の花装飾セット及び花装飾体では、装飾に使用されている草花などの装飾物の折れや抜け落ちなどの不具合が生じやすい。従って、鑑賞対象としての品質が劣化しやすく、長期間鑑賞するための装飾展示物としては不向きである。
また、このような不具合が生じやすい花装飾セットや花装飾体は、長距離運送にも不向きである。長距離輸送しようとすれば、花装飾セットや花装飾体を、万全の注意を払って梱包する必要があるなど、手間がかかる。
さらに、上述した従来品のうち後者の花装飾体は、祭壇まで搬送されて設置され、その後、撤収されるが、このような作業の際、擬似花や草花の折れや抜け落ちが生じないように取り扱う必要があり、やはり手間がかかる。また、取り扱いに慣れた者が必要である。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、高強度で壊れにくく、しかも長期間鑑賞するための展示物として好適な装飾置物およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、置物のケース内に装飾体が収容された装飾展示物であって、前記ケースは、少なくともその一部が、ケース内の観賞を可能にする透明の部材で構成されており、前記装飾体は、前記ケース内に設置された土台に装飾素材を装飾してなるものであり、前記土台は、多孔質成形体からなる基材の底面が被覆層によって被覆されたものである。
このように、土台の底面に被覆層を形成すると、土台の底面が強化される。
例えば、装飾工程において、作業台に載置した土台に装飾素材を装飾する際、土台の底面は、作業台からの反作用の力を受けたり、作業台との間で擦れが生じたりする部分であり、装飾工程中に破損しやすい。この点、本発明のように、底面に被覆層があれば、底面強度が高まるので、装飾工程中の破損が防止される。また、製作された装飾置物の耐久性が向上するので、長期間鑑賞するための展示物として好適である。
また、土台の底面は、装飾体をケース内に収容してケース底板上に設置したとき、ケース底面に接する面であり、設置した状態においても破損しやすい部分である。この点、底面に被覆層があれば、設置状態における破損が防止されることとなり、装飾置物の耐久性が向上するので、長期間鑑賞するための展示物として好適である。
なお、被覆層としては、基材の表面に密着する皮膜が好ましく、水分や液状の接着剤などの含浸性の低い皮膜がより好ましい。
また、被覆膜形成時の作業性を考慮すると、被覆膜としては、流体状の塗布剤によって形成されるものが好ましい。流体状の塗布剤であれば、これを土台の底面に塗布すれば、塗布後の乾燥によって被覆膜が形成される。液体には、例えば、スラリー、ジェル、泡などの状態のものが含まれる。また、塗布剤としては、例えば、接着剤を挙げることができる。
【0009】
前記土台は、前記基材の側面が前記被覆層によって被覆されたものである。
このように、土台の側面に被覆層を形成すると、土台の側面が強化される。
例えば、装飾工程において、作業者に把持された状態の土台に装飾素材を装飾する際、土台の側面は、作業者の把持力を受ける部分であり、装飾工程中に破損しやすい。この点、本発明のように、側面に被覆層があれば、側面強度が高まるので、装飾工程中の破損が防止される。また、製作された装飾置物の耐久性が向上するので、長期間鑑賞するための展示物として好適である。
また、土台の側面は貼着型装飾素材が固定される面であり、土台の側面には、装飾素材を貼り付け易く、固定しやすい性質が要求される。この点、側面に被覆層があれば、貼着型装飾素材を接着などによって固定しやすく、装飾素材の固定状態が確実に維持される。そして、装飾置物の耐久性が向上するため長期間鑑賞用の展示物として好適である。
【0010】
前記ケースは、前面板と両側板とを備えているものであり、前記前面板は、前記ケース内の観賞を可能にする透明素材で構成されており、前記両側板は、その内側面が反射面になっており、前記装飾体は、前記前面板と接触した状態で設置されている。
ケースの前面板が透明素材であれば、前面板越しにケース内を観賞することができる。そして、ケースの両側板の内側面が鏡面などの反射面であれば、ケース内に収容された装飾体が反射面に映る。これにより、例えばケース内空間が、より広く見えるようになり、ケース内空間がよりリアルな空間になる。このような装飾置物は、長期間鑑賞するための展示物として好適である。さらに、装飾体が前面板と接触した状態であれば、前面板と装飾体との間に隙間がないので、ケース内空間の一体感が向上する。これにより、ケース内空間がよりリアルな空間になる。このような装飾置物は、長期間鑑賞するための展示物として好適である。
なお、装飾体は、ケースの両側板に接触した状態であることが好ましい。装飾体が両側面板と接触した状態であれば、側面板と装飾体との間に隙間がないので、ケース内空間の一体感が向上する。特に側面板の内側面が反射面の場合、側面板と装飾体との間に隙間があると、その隙間が目立つ。この点、側面板と装飾体との間に隙間がなければ、ケース内空間の一体感が向上し、ケース内空間がよりリアルな空間になる。このような装飾置物は、長期間鑑賞するための展示物として好適である。
【0011】
前記土台は、前記底面に形成された被覆層を前記ケースの底板に接着させることによって固定されている。
装飾体の土台の基材である多孔質成形体は、軽量で加工性に優れるものであるので、装飾体の土台の基材として好適であるが、吸水性を有する。従って、基材の底面に接着剤を塗布して装飾体をケース底板に接着させようとしても、接着剤が基材に吸収され、装飾体をケース底板に接着できない。この点、本発明のように、土台の底面に被覆層があれば、基材内部への接着剤の吸収が防止され、土台をケース底板に確実に接着することができる。土台をケース底板に確実に接着できれば、装飾体のケースへの固定強度が向上し、装飾置物の耐久性が向上する。
【0012】
土台に装飾素材が装飾されてなる装飾体がケース内に収容された装飾展示物の製造方法であって、土台の基材として用意した多孔質成形体の底面を被覆層で被覆する被覆工程と、前記基材に装飾素材を装飾する装飾工程と、前記基材をケース内に設置する設置工程とを備えていることを特徴とする装飾展示物の製造方法である。
このように、被覆工程において、土台の底面に被覆層を形成すると、土台の底面が強化され、その後の装飾工程中の土台の破損が防止される。また、土台の底面に被覆層があれば、設置状態での土台の破損も防止される。
【0013】
前記被覆工程は、前記底面の表面に流体状の塗布剤を塗布するステップと、塗布された塗布剤を乾燥させるステップとを有するものである。
流体状の塗布剤を塗布した後、乾燥させるだけで被覆層を形成することができるので、容易に被覆層を形成することができる。なお、液体には、例えば、スラリー、ジェル、泡などの状態が含まれる。また、塗布剤としては、例えば、接着剤を挙げることができる。
【0014】
前記被覆工程は、前記基材の前記底面及び側面を被覆層で被覆する工程である。
このように、被覆工程において、土台の底面及び側面に被覆層を形成すると、土台の底面だけでなく側面も強化され、その後の装飾工程中の土台の破損がより確実に防止される。また、土台の側面が被覆層で被覆されていれば、貼着型装飾素材を接着などによって固定しやすく、装飾素材の固定状態が確実に維持される。これにより装飾体の耐久性が向上し、装飾置物の耐久性が向上する。
【0015】
前記設置工程は、前記被覆層を備える前記土台の前記底面と前記ケースの底板とを接着する接着ステップを有する工程である。
被覆工程において土台の底面に被覆層を形成しているので、土台の底面に接着剤を塗布したとき、基材内部への接着剤の吸収が防止され、土台をケース底板に確実に接着することができる。土台をケース底板に確実に接着できれば、装飾体のケースへの固定強度が向上し、装飾置物の耐久性が向上する。
【0016】
前記ケースは、前面板と両側板とを備えているものであり、前記前面板は、前記ケース内の観賞を可能にする透明素材で構成されており、前記両側板は、その内側面が反射面になっており、前記装飾工程は、前記土台の前面及び側面に貼着型装飾素材を装飾するステップを有する工程であり、前記設置工程は、前記装飾体の前面に装飾された貼着型装飾素材が前面板に接すると共に前記装飾体の両側面に装飾された貼着型装飾素材が反射面に接する状態で、前記装飾体をケース内に収容する工程である。
装飾体を前面板及び両側板の反射面に接触する状態に設置すれば、装飾体と前面板や両側板との間の隙間がなくなり、ケース内空間の一体感が向上する。これにより、ケース内空間がよりリアルな空間になる。このような装飾置物は、長期間鑑賞するための展示物として好適である。
【0017】
前記ケースは、背板を備えているものであり、当該背板は、その内側面に背景が表示されているものであり、前記設置工程は、前記装飾工程において前記土台に差込みによって固定された差込型装飾素材の葉の部分が前記背景のハイライト領域の前方になるように、前記装飾体を配置するステップを含むものである。
このような配置にすると、ケース内空間の立体感が増すと共に一体感が向上する。これにより、ケース内空間がよりリアルな空間になる。このような装飾置物は、長期間鑑賞するための展示物として好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る装飾展示物では、ケース内に収容される装飾体の土台の基材の底面が被覆層で被覆されており、土台の底面が強化されている。従って、土台に装飾素材を装飾する際の土台の破損が防止される。また、装飾体をケース内に設置した状態においても、土台の底面に被覆層があれば、土台の破損も防止される。このように、装飾体の土台が高強度化された本発明に係る装飾展示物は、長期間鑑賞するための展示物として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施例の装飾置物を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A面における装飾置物の断面構造を示す断面図である。
【図3】図1の装飾置物を構成する構成要素を示す説明図であり、(A)は、ケースを示す斜視図であり、(B)は、(A)に示されるケースのB―B断面を示す断面図であり、(C)は、基材を示す斜視図であり、(D)は土台を示す斜視図である。
【図4】本発明の第2実施例の装飾置物を示す斜視図である。
【図5】図4のC−C面における装飾置物の断面構造を示す断面図である。
【図6】図4の装飾置物を構成する構成要素を示す説明図であり、(A)は、ケースを示す斜視図であり、(B)は、(A)に示されるケースのE―E断面を示す断面図であり、(C)は、基材を示す斜視図であり、(D)は(C)の基材を示す平面図であり、(E)は基材と接着剤とで土台を作る際の含浸工程を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1,2…装飾置物(装飾展示物)、10…ケース、11…底板、11a…スリット、
11i…内側面、11o…外側面、12…左側板、12a…溝、12i…内側面、13…右側板、
13a…溝、13i…内側面、14…天板、14a…溝、14i…内側面、15…背板、
15i…内側面、16…前面パネル(窓部材)、17…フレーム部材、17a…上枠体、
17b…下枠体、17c…右枠体、17d…左枠体、T1…フレーム部材の枠体基部、
T2…フレーム部材の枠体保持部、18…溝、20…装飾体、
30…土台、31…基材、31H…基材高さ、31L…基材の長さ寸法、31W…基材の幅寸法、
32…被覆層、33…接着剤、33a…木工用ボンド(接着成分)、33b…水(希釈液)、
40…装飾素材、41…プリザーブド処理された杉の枝、41a…枝の根元部分、
42…プリザーブド処理された草花、42a…草花の根元部分、
43…プリザーブド処理された苔、44…ミニチュアの熊の置物、
45…ミニチュアの鹿の置物、46…ミニチュアの柵の置物、47…木片、
L1…ケース内空間の横方向長さ、L2…ケース内の閉空間の前後方向長さ、
D1…横方向、D2…前後方向、t…容器。
【発明を実施するための形態】
【0021】
装飾展示物の一種である装飾置物は、置物のケース内に装飾体が収容された装飾置物である。このケースは、透明の窓部材を備えており、前面パネル越しにケース内の観賞が可能な構造である。そして、装飾体はケース内に設置された土台に装飾素材を装飾してなるものである。また、土台は多孔質成形体の底面に被覆層を形成したものである。そして、装飾体を構成するための装飾素材には、土台に差し込んで固定する装飾素材が含まれている。
【実施例1】
【0022】
次に、本発明に係る装飾展示物の実施例である装飾置物を説明する。
図1に示されるように、本発明に係る装飾置物1は、置物の外箱に相当するケース10(図3(A)参照)と、ケース10内に収容された装飾体20とを備えている。
【0023】
ケース10は、通常の使用状態で底部に位置する底板11(図3(A)参照)と、左側板12と、右側板13と、天板14と、背板15とで構成されるケース本体を備えている。このケース本体は、前面に開口部を有する升形状の構造物であり、奥行きのある箱内空間が確保されている。そして、ケース10は、ケース本体の前面開口部に配置される四角形の前面パネル(前面板)16と、この前面パネルをケース本体の前面開口部に固定するための四角形のフレーム部材17とを備えている。なお、このケース10は、左右の側板12,13の上部に形成された通気孔(不図示)を備えており、ケース10内の換気が可能になっている。
【0024】
前面パネル16は、四角形(長方形)の透明の板状体である(図3(A)参照)。なお、本実施例では、前面パネル16として透明のガラス板を用いた。前面パネル16が透明であるので、前面パネル16越しにケース10内の装飾体20を観賞できる。また、透明の前面パネル越しにケース内空間を見ると、ケース内空間の風景の彩度及び明度が低くなる効果が得られると考えられる。ケース内空間の風景の明度を低くすることで、背板15の内側面に表示された後述の背景とその前の装飾体20との融合をより図ることができ、これによりケース内空間の一体感を向上させることができる。そして、一体感が向上すると、立体感が向上し、ケース内空間がよりリアルな空間になる。
【0025】
フレーム部材17は、前面パネル16を取り囲むように配置された4つの枠体(すなわち上枠体17a、下枠体17b、右枠体17c及び左枠体17d)で構成されており、フレーム部材17の中心部は、これらの枠体で囲まれた窓空間になっている。
図3(A)に示されるように、各枠体17a〜17dは、ケース本体の前面開口端面に固定される部分である肉厚の枠体基部T1と、前面パネル16の前面外周部に接する薄肉の枠体保持部T2とを備えている。このうち薄肉の枠体保持部T2は、窓空間に隣接している。従って、フレーム部材17をケース本体に取り付けると、ケース本体とフレーム部材17の枠体保持部T2との間に、窓空間に臨む溝18が窓空間を取り囲むように形成される。前面パネル16は、この溝18に外周縁が嵌め込まれた状態でケース本体に固定される。
また、フレーム部材17の左枠体17dは、ケース本体に対して着脱可能に取り付けられている。そして、この左枠体17dを取外した状態にすると、前面パネル16をケース本体の前面開口を覆うパネル設置位置に設置することができる。その後、左枠体17dをケース本体の前面開口端面に取り付けると、前面パネル16がケース本体に固定され、ケース10内が閉空間になる。なお、装飾体20をケース10内に収容した状態で前面パネル16を固定すると装飾置物が完成することになる。他方、完成した装飾置物から左枠体17dをケース本体から取外すと、容易に前面パネル16をケース本体から取り外すことができる状態になる。なお、左枠体17dは、図示しないネジによってケース本体に固定されるようになっている。
また、フレーム部材17は、窓空間の左右の外縁(つまり左右の枠体17c,17dの窓空間に隣接する内側縁)がケース本体の左右の側板12,13の内側面(反射面)12i,13iと面一になるように、ケース本体前面に配置されている。このような配置にすると、ケース内空間の一体感が増し、立体感が向上する。これにより、ケース内空間がよりリアルな空間になる。
【0026】
背板15は、その内側面15iに背景が表示されたものである。本実施例の背板15の内側面15iに印刷された景色は、ケース10内に設置された装飾体20と同化する風景である。このような背景があると、ケース10内に設置された装飾体20と相俟って、よりリアルで遠近感に富む自然風景がケース10内に構築される。
なお、背景としては、色の濃い部分と薄い部分があるもの(別言すれば、ハイライト領域を備えるもの)が好ましい。そして、後述の装飾体20の配置としては、背景のハイライト領域の前方に、装飾体20を構成している後述の装飾素材40の葉の部分が位置するような配置が好ましい。ここで、装飾素材40の葉の部分とは、例えば、装飾体20の後述する土台30に差込み固定された木、花又は草の葉の部分や、土台に固定された苔43のことであって、且つ背景のハイライト領域の明度よりも明度が低いもののことである。このように配置すると、ハイライト領域の前方に、ハイライト領域よりも明度の低い装飾素材が位置することとなり、ハイライト領域の前側に配置された葉の部分の輪郭が際立って見えるようになり、ケース内空間の立体感が増すと共に一体感が向上する。これにより、ケース内空間がよりリアルな空間になる。
【0027】
左右の側板12,13は、その内側面12i,13i(図3(B)参照)が鏡面(反射面)になっている。このように、左右の側板12,13の内側面12i,13iを鏡面等の反射面にすると、ケース内に収容された装飾体が反射面に映り、ケース内空間がより広く見えるようになる。これにより、より遠近感に富むリアルな自然風景がケース10内に構築される。また、ケース内空間がより広く見えるようになるので、正面以外の方向からケース内空間を見られた場合であっても、ケース内空間の立体感を実感させることができる。つまり、観賞範囲の広角化を図ることができる。
また、左右の側板12,13の内側面12i,13iが鏡面(反射面)であれば、前面パネル16を通ってケース10内に入射した光が内側面12i,13iに反射され、ケース10内を照らす効果が得られる。これにより、ケース10内の装飾体20の立体感を増すことができ、ケース10内の空間がより遠近感に富むリアルな自然風景になる。
【0028】
ケース10内の装飾体20は、本実施例では、山里周辺の森林風景を表現したものである。そして、装飾体20は、図2に示されるように、構造的には、土台30と、土台30に固定された装飾素材40とで構成されたものである。
なお、土台30は、後述するように、多孔質成形体からなる基材31の底面及び外側面に被覆層が形成されたものである。そして、この被覆層は、後述するように、基材表面に接着剤(例えば木工用ボンド)を塗布した後、自然乾燥させることにより形成された皮膜である。
【0029】
基材31は、カット成形によって次のような大きさに成形されたものである。つまり、基材31の長さ寸法31L(図3(C)参照)は、ケース10内空間の横方向長さL1(図3(B)参照)に対応した長さ(ケースに入る長さ又は等しい長さ)であり、基材の幅寸法31Wは、前面パネル設置状態のケース10内の閉空間の前後方向長さL2に対応した長さ(ケースに入る長さ又は等しい長さ)である。なお、ここでは、後述するように、土台30の外周面(例えば、左右の側板12,13及び前面パネル16に隣接する土台側面及び土台上面)に、プリザーブド処理された苔43などの貼着型装飾素材を固定するので、この点を考慮し、貼着型装飾素材を固定した状態でちょうどケース10内に収まる大きさになるように、基材31をカットした。具体的には、基材の長寸法31Lをケース10内空間の横方向長さL1よりもやや短くし、基材31の幅寸法31Wをケース10内空間の前後方向長さL2よりもやや短くした。
また、基材31の高さ寸法31H(図3(B)参照)は、ケース内空間の高さ寸法の1/4以下の寸法である。このような寸法にすると、装飾体を設置した状態においても、ケース内に十分な空間が確保され、立体感のあるケース内空間が実現される。また、ケース外からの光がケース内の装飾体に十分に照射されることとなり、立体物である装飾体の陰影が確実に表現され、この点でも立体感あるケース内空間が実現される。
なお、本実施例では、基材31としてオアシス(=OASIS、「スミザーズ‐オアシス・カンパニー」社の登録商標)と称される多孔質成形体を用いた。これは、軽量で加工性に優れた発泡材からなる発泡体であり、本実施例の装飾置物の土台の基材として好適である。
【0030】
装飾素材40は、例えば、ケース10内に立体的な森林風景、山里風景、山岳風景などの自然風景を構築するための木、草、花、苔、藻などの実際の植物を長期保存可能な状態に処理したプリザーブド植物(プリザーブドフラワー)や、これらの植物を模したミニチュアのイミテーション(擬似植物)、動物や人間などを模したミニチュア(擬似動物)、椅子、テーブルあるいは家屋などを模したミニチュア(擬似家具や擬似建造物などの擬似構造物)である。
【0031】
このような装飾素材40は、各素材に応じた適当な固定方法によって土台30に固定され、装飾される。装飾素材40の固定方法としては、例えば、土台への差込み、貼着などを挙げることができる。差込みとは、主に土台30への差込みのことであり、貼着とは、土台30の表面や他の装飾素材40への貼着のことである。
【0032】
例えば、木、草、花などを模した擬似植物など、根元部分が茎状(あるいは棒状)になっている装飾素材40の固定方法としては、差込みが適している。このようなことから、以下、差込みによる固定が適している装飾素材40のことを差込型装飾素材と称することがある。なお、差込みによる固定は、差込み部分に接着剤を付着させた状態で行うことが好ましい。このようにすれば、差込み作業後、接着剤33が乾燥し、差込まれた部分全体が接着剤33によって土台30(又は基材31)に固定されることとなり、装飾素材40がより強固に土台30に固定される。
【0033】
また、動物や椅子などを模した擬似動物や擬似構造物など、装飾素材の底部などに、貼着に適した面(例えば底面)を有する装飾素材の固定方法としては、貼着が適している。このようなことから、以下、貼着による固定が適している装飾素材40のことを貼着型装飾素材と称することがある。なお、苔のように、差込みでも貼着でも固定可能な装飾素材40は、状況に応じて、差込型装飾素材としても、また貼着型装飾素材としても用いられる。
【0034】
本実施例の装飾置物1は、上述したように、ケース10内に山里周辺の森林風景を構築したものである(図1参照)。このような風景を構築するために、本実施例の装飾置物1では、プリザーブド処理された杉の枝41、プリザーブド処理された草花42、プリザーブド処理された苔43、ミニチュアの熊の置物44、ミニチュアの鹿の置物45及びミニチュアの柵の置物46、木片47などの装飾素材40を用いている。これらの装飾素材40のうち、プリザーブドの杉の枝41、草花42は、差込型装飾素材であり、プリザーブドの苔43、ミニチュアの熊、鹿及び柵の置物44,45,46は、貼着型装飾素材である。
そして、本実施例の装飾置物の装飾体では、プリザーブドの苔43が土台30の前側及び両側の側面を覆うように固定されており、ケース10の前面パネル16及び側板12,13に接触している。装飾体20を構成する素材とケース10の前面パネル16とが接触していれば、前面パネル16と装飾体20との間に隙間がないので、ケース内空間の一体感が向上する。これにより、ケース内空間がよりリアルな空間になる。
また、土台30の前側及び両側面に柔軟な装飾素材であるプリザーブドの苔43を固定する構造の場合、プリザーブドの苔43を多めに固定し、これを圧縮させつつケース10内に収容することによって、土台30の周囲に固定したプリザーブドの苔43を前面パネル16及び側板12,13に確実に接触させることができる。これにより、リアルなケース内空間をより確実に実現することができる。
【0035】
次に、本発明の装飾置物の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0036】
まず、図3(A)に示されるケース10と、適宜の大きさにカットした土台30用の基材31(多孔質成形体)と、木工用ボンド(被覆剤、接着剤)と、装飾素材40を用意する。装飾素材40としては、具体的には、プリザーブドの杉の枝41、草花42及び苔43と、ミニチュアの熊、鹿及び柵の置物44,45,46、木片47などを用意した。
【0037】
これらを用意した後、まず、基材31の底面及び外側面に、被覆剤としての木工用ボンドを塗布し、乾燥させて、底面及び外側面に被覆層32(図3(D)参照)を備える土台を形成する(被覆工程)。
このようにして被覆層32を形成すると、土台30の底面及び外側面の強度が向上する。
土台30の底面は、土台30を作業台に置いたときに作業台と接する部分であり、作業台に置いた土台30に装飾素材40を装飾する際(後述の装飾工程参照)、作業台からの反作用の力を受けたり、作業台との間で擦れが生じたりして破損しやすい部分である。この点、本実施例のように、予め底面に被覆層32を形成しておけば、土台30の底面が強化されることとなり、装飾作業中の土台底面の破損が防止される。
そして、土台底面は、ケース底板11に接着される面であり(後述の設置工程参照)、ケース底板11への接着強度が要求される面である。ところが、土台30の基材31は比較的脆い素材であると共に吸水性を有する素材であり、接着剤を塗布してケース底板11に接着させようとしても、接着剤が基材31に吸収されてしまい、土台30をケース底板11にしっかりと接着できない可能性がある。この点、本実施例のように、予め底面に被覆層32を形成しておけば、基材内部への接着剤の吸収を防止することができ、土台30をケース底板11に確実に接着することができる。
また、土台30の外側面は、後述する装飾工程において土台30に装飾素材を装飾する際、作業者によって把持される部分であり、装飾作業中に破損しやすい部分である。この点、本実施例のように、予め外側面に被覆層32を形成しておけば、外側面が強化されることとなり、作業者によって把持されたときの破損が防止される。
【0038】
被覆置工程が終了すると、次に、基材31に装飾素材40を装飾する(装飾工程)。
具体的には、プリザーブドの杉の枝41や草花42の根元部分41a,42a(図2参照)を土台30に差込む作業(差込作業)や、貼着型装飾素材である苔43を土台30の前面、両側面及び上面に貼着する作業や、ミニチュアの置物の熊44、鹿45及び柵46や木片47を貼着する作業である。これらの装飾作業が終了すると、土台30への装飾素材40の装飾が完成し、装飾体20が完成する。
【0039】
装飾工程が終了すると、次に完成した装飾体20をケース内に設置する(設置工程)。
具体的には、被覆層32を備える土台30の底面とケース10の底板11とを接着剤によって接着する。装飾体20の土台30の底面に被覆層32があるので、接着剤によって土台30をケース底板11に確実に接着することができる。
そして、装飾体20の土台30をケース底板11上に接着する際、装飾体20の両側面に装飾された苔(貼着型装飾素材)43が左右の側板12,13の内側の反射面12i,13iに接触する状態にする。このような状態にすると、反射面12i,13iにケース内に収容された装飾体20が映り、ケース内空間がより広く見えるようになる。これにより、より遠近感に富むリアルな自然風景がケース10内に構築される。また、ケース内空間がより広く見えるようになるので、正面以外の方向からケース内空間を見られた場合であっても、ケース内空間の立体感を実感させることができるようになる。
また、装飾体20の土台30をケース底板11上に接着する際、装飾体20の、上述した装飾素材40の葉の部分が背景のハイライト領域の前方になるように、装飾体20を配置する。このような配置にすると、ハイライト領域前方の葉の部分が栄えることとなり、ケース内空間の立体感が増すと共に一体感が向上する。これにより、ケース内空間がよりリアルな空間になる。
さらに、その後、ケース本体に前面パネル16(図3(A)参照)をパネル装着位置に装着すると共に左枠体17dを取り付けて、前面パネル16をケース本体に固定する。このとき、装飾体20の前面に装飾された苔43が前面パネル16に接触する状態にする。このような状態にすると、前面パネル16と装飾体20との間に隙間がないので、ケース内空間の一体感が向上する。これにより、ケース内空間がよりリアルな空間になる。
また、透明の前面パネル16を設置すると、前面パネル越しにケース内空間を観賞させることになる。このようにしてケース内空間を観賞させると、ケース内空間の明度が若干低くなり、背景とその前の装飾体との融合をより図ることができ、これによりケース内空間の一体感を向上させることができる。そして、一体感が向上すると、立体感が向上し、ケース内空間がよりリアルな空間になる。
【実施例2】
【0040】
次に、本発明に係る装飾展示物の別の実施例の装飾置物を説明する。
本実施例の装飾置物は、上述した実施例の装飾置物とは、ケース10の一部の構成と、装飾体20の土台30の構成が異なっているが、それ以外の構成は共通である。そこで、上述した実施例の装飾置物と共通の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0041】
図4に示されるように、本実施例の装飾置物2は、置物の外箱に相当するケース10(図6(A)参照)と、ケース10内に収容された装飾体20とを備えている。
【0042】
ケース10は、底板11と、左側板12と、右側板13と、天板14と、背板15とで構成されるケース本体を備えている。そして、ケース10は、ケース本体の前面開口部に装着される前面パネル16を、さらに備えている。
【0043】
図5に示されるように、底板11は、開口部寄りの位置にスリット11aを備えている。このスリット11aは、内側面11iと外側面11oとに貫通している。そして、左側板12及び右側板13は、これらの内側面12i,13iの開口部寄りの位置に、それぞれ、上下方向の延びる溝12a,13a(図6(B)参照)を備えている。また、天板14は、その内側面14iの開口部寄りの位置に、横方向に延びる溝14aを備えている。
これら3つの溝12a,13a,14aは一連に連なっている。そして、底板11のスリット11aは、その両端位置において、溝12a及び溝13aの下端部に連なっている(図6(B)参照)。これらスリット11a及び溝12a,13a,14aは、後述するように、ケース本体に前面パネル16を着脱自在に装着できるようにするための構造である。
【0044】
前面パネル16は、上述したように、ケース本体の前側開口寄りの位置に設置される。前面パネル16が透明であるので、前面パネル16越しにケース10内の装飾体20を観賞できる。本実施例では、前面パネル16として透明のプラスチック板を用いている。前面パネル16は、完成された装飾置物1では、図5に示される位置(すなわち、ケース本体前寄りの前面パネル設置位置)に設置されている。当該位置の前面パネル16は、その周縁部が上記3つの溝12a,13a,14aとスリット11aに嵌まった状態でケース本体に保持されている。
前面パネル16を設置する場合は、ケース本体外側から底板11のスリット11a内に前面パネル16を挿入して押し込む。すると、前面パネル16の押し込まれた部分が左右の側板12,13の溝12a,13aに差し込まれた状態になる。この状態から更に、前面パネル16を溝12a,13aに沿って天板14側(上方)にスライドさせると、前面パネル16の挿入先端部が天板14の溝14aに嵌り、前面パネル16が前面パネル設置位置に達する(装着状態になる)。この状態になると、ケース10内に閉空間が形成される。つまり、ケース10内が閉じた空間になる。
前面パネル16を取外す場合は、前面パネル設置位置の前面パネル16を天板14から離間させる向きに押す(下方にスライド移動させる)。すると、前面パネル16の挿入後端部がスリット11aから突出した状態(底面11の外側面11oから外側に突出した状態)になるので、この突出部分を引っ張ると、前面パネル16がケース本体の外側に引き出され、ケース本体から取外される。
【0045】
図4に示されるように、背板15の内側面15iには、風景写真が印刷されている。また、左右の側板12,13の内側面12i,13i(図6(B)参照)は鏡面になっている。左右の側板12,13の内側面12i,13iのうち少なくとも一方を鏡面等の反射面にすると、より広がりがあり、しかも遠近感に富む自然風景をケース10内に構築することができる。
【0046】
ケース10内の装飾体20は、山里周辺の森林風景を表現したものである。装飾体20は、土台30と、土台30に固定された装飾素材40とで構成されている。そして、土台30は、多孔質成形体からなる基材31に接着剤33を含浸させ、その後、乾燥したものである(図6参照)。なお、土台30の製造法については後述している。
【0047】
基材31は、カット成形によって成形されたものである。なお、基材の大きさや材質は、上記実施例の基材31と同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0048】
接着剤33は、土台30を製造する際に、基材31に含浸させるものである。本実施例では、木工用ボンド33aを水33bで希釈したもの(水系接着剤)を接着剤33として用いた。なお、希釈の際の木工用ボンド33aと水33bの混合比率は、本実施例では、1:2である。なお、接着剤33を含浸させた基材31の乾燥方法は、本実施例では、後述するように自然乾燥である。
【0049】
本実施例で用いている装飾素材40及び装飾素材40の工程方法は、上記実施例の装飾素材40と同じであるので、ここではその説明を省略する。装飾素材40には、一般的な造花が含まれる。また、装飾素材40には、照明、液晶ディスプレイ、LEDディスプレイ、時計等の電装品など、装飾のための素材が含まれる。
【0050】
なお、差込みによる固定は、本実施例の装飾素材40の製造にあっては、基材31に含浸させた接着剤33の乾燥が完了する前に行うのが良い。このように、基材31に含浸させた接着剤33の乾燥完了前に装飾素材40の差し込みを行うようにすれば、差し込み作業を容易に行うことができ、しかも接着剤33が乾燥したときに装飾素材40の差し込まれた部分全体が接着剤33によって基材31(又は土台30)に固定されることとなり、装飾素材40がより強固に土台30に固定される。
【0051】
そして、本実施例の装飾置物1は、上述したように、土台30の基材31として多孔質成形体を用いているので、含浸させた接着剤33の乾燥完了前であれば、基材31に装飾素材40を差込むことによって容易に装飾素材40を基材に差し込むことができる。そして、差し込まれた装飾素材40は、接着剤乾燥後、強固に基材31(土台30)に固定される。差し込まれた装飾素材40を接着剤33によって土台30に強固に固定することができれば、差込まれた装飾素材40と土台30との間のガタの発生が最小限に抑制され、装飾素材40の傾きや脱落が最小限に抑制される。装飾素材40が土台30に強固に固定された装飾置物1は、高強度で壊れ難いので、長距離の輸送に対する耐久性にも優れており、長距離運送されることも多い贈答品としても好適である。
【0052】
また、基材31全体に接着剤を含浸させ、乾燥させた土台30を用いるようにすれば、土台に差し込んだ装飾素材を接着剤によって強固に固定できる上に、土台全体を均等な強度に強化することができる。つまり、本実施例のような土台30であれば、装飾素材40の根元周辺の土台30と、その周囲の土台部分との間で強度差が生じることを防止でき、根元周辺の土台30とその周囲の基材部分との境界部分での破壊の発生が防止される。
【0053】
ところで、土台30は、後述するように、ケース10に対して位置決めされた状態で設置されるものである。従って、土台30としては位置決めしやすいものが好ましい。ところが、例えば単なる基材(接着剤を含浸、乾燥させていない基材)31は、削れや圧縮によって小さくなり易いものであり、当初位置決めされていたとしても、その後、削れや圧縮などで小さくなって、ガタつき易い。
この点、本実施例の装飾置物1の土台30は、上述したように、全体が均等に高強度化されているので崩壊し難い。つまり、土台30の一部が擦れて削れたり、押付力を受けて圧縮したりすることが最小限に抑制されている。このように崩壊し難い土台30を用いた装飾置物1は、高強度で壊れ難いので、長距離の輸送に対する耐久性にも優れており、長距離運送されることも多い贈答品としてやはり好適である。
【0054】
次に、本発明の装飾置物の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0055】
まず、図6(A)に示されるケース10と、適宜の大きさにカットした土台30用の基材31(多孔質成形体)と、接着剤33用の木工用ボンド33a及び希釈液である水33bを用意し、さらに装飾素材40を用意する。本実施例では、具体的には、装飾素材40として、プリザーブドの杉の枝41、草花42及び苔43と、ミニチュアの熊、鹿及び柵の置物44,45,46、木片47などを用意した。
【0056】
これらを用意した後、まず、木工用ボンド33aと水33bを、1:2で混合して接着剤33を調製し(図6(E)参照)、その後、この接着剤33を基材31に含浸させる(含浸工程)。含浸工程では、容器tに入った接着剤液中に基材31を浸漬させる方法(いわゆるどぶ漬け)を用いた。その後、接着剤33から基材31を引き上げ、基材31から接着剤33が滴り落ちない状態になるのを待った。
【0057】
含浸工程が終了すると、次に、基材31をケース10内に設置した(設置工程)。
本実施例の設置工程では、乾燥完了前の基材31をケース10内に設置した。基材31の長さ寸法31Lはケース10内空間の幅寸法L1に合っており、基材31の幅寸法31wはケース10内空間の奥行き寸法L2に合っているので、基材31をケース10の底板11上に設置すれば、基材31は、ケース10に対して横方向の位置を位置決めした状態でケース10内に設置される。
【0058】
設置工程が終了すると、次に、接着剤33が含浸された基材31に装飾素材40を装飾する(装飾工程)。
具体的には、プリザーブドの杉の枝41や草花42の根元部分41a,42a(図5参照)を乾燥前の基材31に差込む作業(差込作業)や、苔43を基材31の表面に貼着する作業や、ミニチュアの置物の熊44、鹿45及び柵46や木片47を貼着する作業である。これらの装飾作業が終了すると、土台30への装飾素材40の装飾が完成する。
【0059】
装飾が終了すると、基材31を本格的に乾燥させる(乾燥工程)。
乾燥により、土台30に差し込んだ装飾素材40(ここでは枝41や草花42の根元41a,42a)が接着剤によってより強固に土台に固定されると共に土台全体が均等な強度に高強度化される。本実施例では、いわゆる自然乾燥による乾燥を行った。ここでいう乾燥工程には、接着剤33の乾燥を完了させる工程だけでなく、乾燥を促進する工程などが含まれる。たとえば、乾燥促進のために風を当てたり、加熱したり、ケース10内に乾燥材を入れた後、前面パネルを閉じて乾燥させるような方法が含まれる。なお、基材31の自然乾燥は、含浸工程終了の時点で既に開始しているということができる。この場合、乾燥工程開始後に、設置工程、装飾工程を行うことになる。
【0060】
そして、基材31の乾燥が進むと、装飾体20が完成した状態になる。この状態になると、土台30に差し込まれた装飾素材40の保持強度が増し、土台30全体の強度が増す。この状態で、ケース10内に乾燥剤(不図示)を入れ、前面パネル16を閉じると、装飾置物1の完成である。
また、この後もケース10内の土台30は、乾燥が進むことで、徐々に、より高強度なものになる。装飾置物1の土台30の高強度化の促進及びケース10内環境の維持のためには、ケース10内に入れた乾燥剤を定期的に取換えることが好ましい。
【0061】
なお、底板11の上面(ケース内側面11i)に、土台30をケース本体に対して位置決めするための突起(位置決め部材、不図示)を設けても良い。このような突起があれば、底板11上に土台30を設置したとき、土台30の底面側に突起が差し込まれた状態になる。これにより、土台30のケース本体に対する横方向の位置がより確実に位置決めされる。
また、底板11として、上底板材及び下底板材を備えると共に両底板材の間に隙間を有する構造のものを用いてもよい。さらに、上底板材に穴や切り欠きが形成されており、これらの穴や切り欠きを介して上記隙間空間と底板上側の空間との間における通気性がより確実に確保された構造のものを用いてもよい。このような構造の底板11を用いると、両底板材の隙間空間に乾燥剤を配置できる。
【0062】
また、上述したように、設置工程は、含浸工程終了後に行われる工程であり、装飾工程は、基材の乾燥完了前に行われる工程である。別言すれば、本実施例の設置工程は、乾燥工程中に行われているということができる。これらの説明から解るように、装飾工程の時期は、含浸工程と乾燥工程の間に限られるものではなく、含浸工程前や乾燥工程開始後(乾燥工程中)に装飾素材40を装飾してもよい。ただし、背景描写があるような場合は、ケース10内に土台30を設置した状態で装飾した方が、背景との関係を考慮して装飾素材40を装飾できるという利点がある。
【0063】
また、上述したように、土台30の乾燥は、含浸工程終了時に既に開始しているということもできる。従って、例えば、乾燥完了前の土台30に風を当てる工程や、ケース10内に乾燥剤を入れ、前面パネル16を閉じてケース10内の装飾体20(又は土台30)を乾燥させる工程など、自然乾燥に比べて積極的に装飾体20(又は土台30)を乾燥させる工程を乾燥促進工程と定義し、乾燥促進工程との関係で、上記設置工程や装飾工程との手順を特定してもよい。好ましい工程順としては、例えば、含浸工程、設置工程、装飾工程、乾燥促進工程の工程順を挙げることができる。
【0064】
これをまとめると、本実施例の装飾置物は、ケース内に装飾体が収容されたものであって、ケースは、少なくともその一部が、ケース内の観賞を可能にする透明の窓部材で構成されており、装飾体は、ケース内に設置された土台に装飾素材を装飾してなるものであり、土台は、多孔質成形体からなる基材に接着剤を含浸させた後、乾燥されてなるものであり、装飾素材として、乾燥が完了する前までに土台に差し込まれて固定された装飾素材が少なくとも含まれているものである。
そして、土台は、ケースに対して横方向の位置を位置決めされた状態で設置されている。
また、ケースは、少なくとも、底板と、当該底板の左右両側に位置する左右の側板と、一部又は全部が窓部材で構成された前板とを備え、底板上に設置された土台の横方向位置を位置決めする位置決め部材は、左右の一対の側板と、底板に設置された突起とのうちの少なくともいずれか一方である。
また、本実施例の装飾置物の製造方法は、土台に装飾素材が装飾されてなる装飾体がケース内に収容された装飾展示物の製造方法であって、土台の基材として多孔質成形体からなる基材を用意し、当該基材に接着剤を含浸させる含浸工程と、接着剤を含浸した基材を乾燥させて土台を得る乾燥工程と、基材をケース内に設置する設置工程と、基材に装飾素材を装飾する装飾工程と、を備えており、設置工程は、含浸工程終了後に行われる工程であり、装飾工程は、基材の乾燥完了前に行われる工程であることを特徴とする方法である。
そして、装飾工程は、基材又は土台に装飾素材を差し込んで固定する差込作業を含んでいる。
また、装飾工程で行われる固定作業の少なくとも一部は、設置工程の後に行われる。
また、設置工程は、乾燥完了前の基材又は乾燥完了後の基材である土台をケース内に設置する工程であり、設置工程における設置対象である基材又は土台は、設置工程で、ケースに対する横方向の位置を位置決めされた状態で設置される。
また、ケースは、少なくとも、底板と、底板の左右両側に位置する左右の側板と、一部又は全部が窓部材で構成された前板とを備えているものであり、底板上に設置された基材又は土台の横方向位置を位置決めする位置決め部材は、左右の側板と、底板に設置された突起とのうちの少なくともいずれか一方である。
【0065】
なお、本発明の装飾展示物は、上記実施例の装飾置物のような構成に限られるものではなく、発明の趣旨を変更しない範囲内で種々改変されたものを含むものである。
【0066】
例えば、ケース本体の背板15は、上記実施例では、ケース本体の底板11、左右の側板12,13、天板14に対して固定されているが、これらの板部材12,13,14に対して着脱可能でもよい。着脱可能であれば、背板15の内側面15iに背景描写を付ける際、背景描写の選択や交換が容易である。
【0067】
また、ケース10内に設置された土台30の上面に接して、土台30の上下動を防止する留め部材(土台の上下方向の位置決め部材、不図示)をケース10内に設置してもよい。設置位置としては、例えば左右の側板12,13を挙げることができる。留め部材としては、着脱可能に取り付けられるものが好ましく、底板11上に土台30を設置した後に取り付けることができるものが好ましい。土台30と側板12,13や突起などとの間の摩擦力によって土台30の上下動を防止でき、装飾体20の装飾素材40と側板12,13などとの間の摩擦力によって装飾体20の上下動を防止できが、上記留め部材があれば、土台30の上下方向の位置がより確実に位置決めされ、上下方向のズレがより確実に防止される。
【0068】
また、装飾展示物は、上記実施例のような装飾置物1に限られず、例えば絵画を展示するための額縁のように、壁などに掛けて用いられるものでも良い。掛けて用いることが可能な装飾展示物としては、掛け止め構造を備えているものでもよい。
掛け止め構造としては、例えば、壁等に設けられた釘などの突起に掛けるための引っ掛け構造がある。引っ掛け構造の取り付け位置や形成位置として好ましい位置としては、例えば、装飾展示物の背面(例えば背板)を挙げることができる。
引っ掛け構造としては、例えば、両端が装飾展示物の背面(例えば背板)に固定された紐部材や段差の上面等に引っ掛け可能な係合爪、装飾展示物の背面に形成された穴構造などを挙げることができる。また、掛け止め構造としては、例えば、段差の上面や壁等に設けられた凹部に掛けるための係合構造などを挙げることができる。係合構造としては、例えば、壁等に形成された穴に差し込むことが可能な棒状の突出部材や、穴や段差部の上面に引っ掛けることが可能な係合爪などを挙げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
置物のケース内に装飾体が収容された装飾展示物であって、
前記ケースは、少なくともその一部が、ケース内の観賞を可能にする透明の部材で構成されており、
前記装飾体は、前記ケース内に設置された土台に装飾素材を装飾してなるものであり、
前記土台は、多孔質成形体からなる基材の底面が皮膜被覆層によって被覆されたものであることを特徴とする装飾展示物。
【請求項2】
前記土台は、前記基材の側面が前記被覆層によって被覆されたものである請求項1に記載の装飾展示物。
【請求項3】
前記ケースは、前面板と両側板とを備えているものであり、
前記前面板は、前記ケース内の観賞を可能にする透明素材で構成されており、
前記両側板は、その内側面が反射面になっており、
前記装飾体は、前記前面板と接触した状態で設置されている請求項1又は請求項2に記載の装飾展示物。
【請求項4】
前記土台は、前記底面に形成された被覆層を前記ケースの底板に接着させることによって固定されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装飾展示物。
【請求項5】
土台に装飾素材が装飾されてなる装飾体がケース内に収容された装飾展示物の製造方法であって、
土台の基材として用意した多孔質成形体の底面を被覆層で被覆する被覆工程と、
前記基材に装飾素材を装飾する装飾工程と、
前記基材をケース内に設置する設置工程とを備えていることを特徴とする装飾展示物の製造方法。
【請求項6】
前記被覆工程は、前記底面の表面に流体状の塗布剤を塗布するステップと、塗布された塗布剤を乾燥させるステップとを有するものである、請求項1に記載の装飾展示物の製造方法。
【請求項7】
前記被覆工程は、前記基材の前記底面及び側面を被覆層で被覆する工程である請求項5又は請求項6に記載の装飾展示物の製造方法。
【請求項8】
前記設置工程は、前記被覆層を備える前記土台の前記底面と前記ケースの底板とを接着する接着ステップを有する工程である請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の装飾展示物の製造方法。
【請求項9】
前記ケースは、前面板と両側板とを備えているものであり、前記前面板は、前記ケース内の観賞を可能にする透明素材で構成されており、前記両側板は、その内側面が反射面になっており、
前記装飾工程は、前記土台の前面及び側面に貼着型装飾素材を装飾するステップを有する工程であり、
前記設置工程は、前記装飾体の前面に装飾された貼着型装飾素材が前面板に接すると共に前記装飾体の両側面に装飾された貼着型装飾素材が反射面に接する状態で、前記装飾体をケース内に収容する工程である請求項8に記載の装飾展示物の製造方法。
【請求項10】
前記ケースは、背板を備えているものであり、当該背板は、その内側面に背景が表示されているものであり、
前記設置工程は、前記装飾工程において前記土台に差込みによって固定された差込型装飾素材の葉の部分が前記背景のハイライト領域の前方になるように、前記装飾体を配置するステップを含むものである請求項9に記載の装飾展示物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−71593(P2012−71593A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186331(P2011−186331)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(500123142)有限会社あいざわ (1)