説明

装飾物

【課題】鑑賞者に立体感や遠近感を感じさせることができる、芸術性の高い装飾物を提供する。
【解決手段】原画5を描写した伸長可能な布2と、原画5の一部を描写した透明基板3と、布2と透明基板3とを所定の間隔を隔てて重ね合わせて固定する枠4とを備え、布2は引き伸ばされて枠4に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁掛けや、机・棚に置く置物等として使用される装飾物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、装飾物として、下記特許文献1のように、絵画の前方に透明基板を配し、この透明基板の前面に両面テープで形象体を貼り付けたものが知られている。この特許文献1の装飾物は、透明基板に貼り付けた形象体と、この透明基板において形象体を貼り付けていない部分から見える絵画との組み合わせにより、芸術性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−323500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の装飾物は、鑑賞者に立体感や遠近感を感じさせることができるものではないため、芸術性を高める余地が残されたものであった。
【0005】
そこで、本願発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、鑑賞者に立体感や遠近感を感じさせることができる、芸術性の高い装飾物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の装飾物は、原画を描写した伸長可能な布と、前記原画の一部を描写した透明基板と、前記布と前記透明基板とを所定の間隔を隔てて重ね合わせて固定する枠とを備え、前記布は引き伸ばされて前記枠に固定されていることを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、布に描写された絵全体は、布が引き伸ばされることにより寸法が大きくされる。従って、布に描写された絵柄のうちの透明基板にも描写されている絵柄と、透明基板に描写された絵柄を布に投影してなる投影絵柄とは微少にずれることになる。その結果、この絵柄同士の微小なズレと、布と透明基板との間の間隔(空間)により、鑑賞者に立体感や遠近感を感じさせることができるため、芸術性の高い装飾物とすることができる。
【0008】
また、本発明の装飾物において、前記布は、この布の一点を基点として、周囲に略均等に引き伸ばされて前記枠に固定されていてもよい。上記の構成によれば、布の基点からの距離が遠くなるに従い、布に描写された絵柄のうちの透明基板にも描写されている絵柄と、透明基板に描写された絵柄を布に投影してなる投影絵柄との間のずれが大きくなる。その結果、この布の基点に描写された絵柄を中心とした奥行き感を、鑑賞者に感じさせることができる。
【0009】
また、本発明の装飾物において、前記原画の絵柄のうち前記布の基点の周囲に描写されている絵柄が、選択的に前記透明基板に描写されていてもよい。上記の構成によれば、この布の基点に描写された絵柄を中心とした奥行き感を、鑑賞者により一層感じさせることができる。
【0010】
また、本発明の装飾物において、前記布の基点は、前記原画の焦点位置が描写されている位置であってもよい。上記の構成によれば、布に描写された原画の絵の焦点と、布を引き伸ばす基点とが同じであるため、原画の焦点位置が描写された位置を中心とした奥行き感を、鑑賞者に感じさせることができる。
【0011】
また、本発明の装飾物において、前記布が染色技術により前記原画を描写した織物であり、前記透明基板が印刷技術により前記原画の一部が描写されたガラス板であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
鑑賞者に立体感や遠近感を感じさせることができる、芸術性の高い装飾物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る装飾物の正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る装飾物の製造工程の一部を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
(装飾物)
図1、及び図2に示すように、本実施形態の装飾物1は、伸長可能な布2と、透明基板3と、布2と透明基板3とを所定の間隔を隔てて重ね合わせて固定する枠4とを備えている。
【0016】
(布)
布2は、伸長可能な織物(例えば絹布)であり、元の寸法の0.1%〜10%伸長することができる。この織物は、平織、綾織、朱子織等に製織されたものである。また、布2は、図3に示すように、引き伸ばされる前の状態時に、公知の染布技術により原画5の絵全体が染色(描写)されている。
【0017】
布2は、原画5の焦点位置が描写されている位置を基点として、周囲に略均等に、0.1%〜10%の伸長度で引き伸ばされて枠4に固定されている。これにより、布2に描写された絵全体は、布2が引き伸ばされることにより寸法が大きくされている。ここで、原画5の焦点位置とは、原画5における主題となる絵柄(例えば、人物画なら人物)が描写された位置、又は原画における消失点(無限遠点)が描写された位置のことである。なお、原画5における主題となる絵柄が描写された位置を焦点位置とする場合は、図3に示すように、この主題となる絵柄中の任意の一点が焦点位置とされる。
【0018】
(透明基板)
透明基板3は、ガラスや、アクリル、PC(ポリカーネート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の透明樹脂からなる四辺形の透明板である。また、透明基板3の裏面には、図3に示すように、原画5の一部が描写されている。具体的には、透明基板3には、原画5の絵柄のうち、布2の基点の周囲に描写されている絵柄(原画5の絵柄のうち、焦点位置の周囲にある絵柄)が選択的に描写されている。例えば、布2の基点の周囲に描写されている、建物等の静物の絵柄のみが選択されて透明基板3に描写されている。
【0019】
透明基板3への原画5の一部の描写は、公知の印刷技術(例えば、スクリーン印刷技術)や公知のスプレー塗装技術により行われる。なお、透明基板3に描写される絵柄は、布2に描写されている絵柄と同じ色で印刷(塗装)されていてもよいし、立体感や遠近感をより表出可能な、布2に描写されている絵柄とは異なる色で印刷(塗装)されていてもよい。また、この透明基板3に、原画5の描写とは別に、透明着色、フロスト調、隠蔽(ぼかし)等の加工を行ってもよい。
【0020】
また、透明基板3の裏面への描写は、原画5の絵全体を左右反転させた状態で行われる。その理由は、透明基板3を枠4に固定した際に、原画5の構図と同じ、正しい状態で表示をするためである。
【0021】
透明基板3に描写される絵柄の寸法は、布2に描写された絵柄の寸法と同じにされている。つまり、布2が引き伸ばされる前の状態時に、この布2に透明基板3を重ね合わせると、それぞれに描写された絵柄同士は、ずれずに重なり合わすことができる。
【0022】
透明基板3は、布2の前方位置において、この布2から所定の間隔(空間)を隔てて重なり合うように枠4により固定されている。上記したように、布2は引き伸ばされて枠4に固定されているため、布2に描写された絵柄のうちの透明基板3にも描写されている絵柄と、透明基板3に描写された絵柄を布2に投影してなる投影絵柄とは、図3に示すように微少にずれることになる。その結果、この絵柄同士の微小なズレと、布2と透明基板3との間の空間(間隔)により、鑑賞者に立体感や遠近感を感じさせることができる。
【0023】
また、上記したように、布2は、布2の一点を基点として、周囲に略均等に引き伸ばされて枠4に固定されている。これにより、布2の基点からの距離が遠くなるに従い、布2に描写された絵柄のうちの透明基板3にも描写されている絵柄と、透明基板3に描写された絵柄を布2に投影してなる投影絵柄との間のずれが大きくなる。その結果、この布2の基点に描写された絵柄を中心とした奥行き感を、鑑賞者に感じさせることができる。
【0024】
また、原画5の絵柄のうち布2の基点の周囲に描写されている絵柄が、選択的に透明基板3に描写されているので、この布2の基点に描写された絵柄を中心とした奥行き感を、鑑賞者により一層感じさせることができる。
【0025】
また、布2の基点は、上記したように、原画5の焦点位置が描写されている位置なので、原画5の焦点位置が描写された位置を中心とした奥行き感を、鑑賞者に感じさせることができる。具体的には、図3に示すように原画5において主題となる絵柄、又は原画5の消失点を中心とした奥行き感を、鑑賞者に感じさせることができる。
【0026】
(枠)
枠4は、額縁外枠41、マット42、板紙43、スチロール板44、及び裏押さえ板45から主に構成されている。
【0027】
額縁外枠41は、四辺形の窓枠状の枠体である。この額縁外枠41の内周面には、透明基板3、マット42、板紙43、及びスチロール板44のそれぞれの外周縁が嵌合されている。また、額縁外枠41の前面には、内方向に突出する突条枠体41aが形成されており、この突条枠体41aは、透明基板3の前面の外周縁と当接されている。
【0028】
マット42は、中央部に開口部を有する四辺形の板状のスペーサであり、額縁外枠41に嵌合されている。マット42の後面には、布2が引き伸ばされた状態で粘着テープ等により固定されている。マット42の開口部の大きさは、このマット42に固定されている布2において描写されている絵全体を、鑑賞者が見ることが可能な大きさに設定されている。なお、額縁外枠41に嵌合された透明基板3において描写された原画5の焦点位置を布2に投影してなる投影位置と、布2において描写された原画5の焦点位置とが重なり合うように、布2はマット42に固定されている。これにより、布2に描写された絵柄のうちの透明基板3にも描写されている絵柄と、透明基板3に描写された絵柄を布2に投影してなる投影絵柄とを微少にずらすことができる。
【0029】
また、マット42の前面は透明基板3の後面と当接されており、このマット42の厚さにより、布2と透明基板3とを所定の間隔で隔てられている。つまり、布2と透明基板3との間隔は、マット42の厚さを調整することにより変更可能にされている。本実施形態においては、布2と透明基板3との間隔は、布2が透明基板3に密着しない間隔(0.01mm)以上に設定されている。
【0030】
板紙43は、マット42の後面と当接されて、額縁外枠41に嵌合されている。この板紙43は、マット42に固定されている布2の布ゆれ・しわを防止するためのものである。
【0031】
スチロール板44は、板紙43の後面と当接されて、額縁外枠41に嵌合されている。このスチロール板44は、板紙43と裏押さえ板45との間の隙間を埋めるためのものである。
【0032】
また、裏押さえ板45は、図示しない止め具により額縁外枠41に固定されている。この裏押さえ板45は、スチロール板44を介して板紙43を前方に向けて押圧するためのものである。
【0033】
(装着物の製造方法)
次に、本発明の装着物における一実施形態の製造方法について説明する。
【0034】
まず、図3に示すように、絹製の平織りの布2に染布技術により原画5の絵全体を染色(描写)する。本実施形態においては、友禅と呼ばれる染布技術により布2を染色した。
【0035】
また、透明基板3の裏面に、原画5の焦点位置の周囲にある絵柄を選択的に、公知の印刷技術又は公知のスプレー塗装技術により印刷する。本実施形態においては、透明基板3として、板厚2mmのフロートガラス板(FLガラス板)を用い、スクリーン印刷機(ニューロング社製:LS−560)により、この透明基板3上にスクリーン印刷をした。また、印刷の塗料としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シランカップリング剤、光安定剤消泡剤、シリカ粉末、粉末顔料、溶剤が配合された、アクリルウレタン系塗料(三ツ星ベルト社製:ハイカラーF)を用いた。
【0036】
このスクリーン印刷機による印刷が終了した後、透明基板3を連続式ベルト炉により150℃で30分間の熱処理をする。
【0037】
次に、図3に示すように、布2をマット42の裏面において、原画5の焦点位置が描写されている位置を基点として、しわが残らないように周囲に略均等に0.1%〜10%の伸長度で引き伸ばして張った後、粘着テープによりマット42の裏面に固定する。なお、布2を引き伸ばす伸長度は、原画5の絵柄、透明基板3に描写された絵柄等を基に、適宜選択される。
【0038】
次に、額縁外枠41に、透明基板3、布2が固定されたマット42、板紙43、及びスチロール板44を順に嵌合し、その後、裏押さえ板45を止め具により額縁外枠41に固定することで、布2と透明基板3とを所定の間隔を隔てて重ね合わせて固定する。
【0039】
以上の工程を経ることにより、本実施形態の装飾物1を製造することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態及び実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1 装飾物
2 布
3 透明基板
4 枠
5 原画

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原画を描写した伸長可能な布と、
前記原画の一部を描写した透明基板と、
前記布と前記透明基板とを所定の間隔を隔てて重ね合わせて固定する枠と
を備え、
前記布は引き伸ばされて前記枠に固定されていることを特徴とする装飾物。
【請求項2】
前記布は、この布の一点を基点として、周囲に略均等に引き伸ばされて前記枠に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の装飾物。
【請求項3】
前記原画の絵柄のうち前記布の基点の周囲に描写されている絵柄が、選択的に前記透明基板に描写されていることを特徴とする請求項2に記載の装飾物。
【請求項4】
前記布の基点は、前記原画の焦点位置が描写されている位置であることを特徴とする請求項2又は3に記載の装飾物。
【請求項5】
前記布が染色技術により前記原画を描写した織物であり、前記透明基板が印刷技術により前記原画の一部が描写されたガラス板であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の装飾物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−51295(P2012−51295A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197034(P2010−197034)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)