説明

装飾用フィルムの製造方法

【課題】ポリオレフィン系樹脂組成物を用いたカレンダー成形法による装飾用フィルムの製造方法であり、漆黒性を有するとともに、PVCを用いた場合のような良好な品質を有するフィルムを得ることが可能な製法を提供する。
【解決手段】カーボンブラックを含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程と、ポリオレフィン系樹脂組成物をカレンダーロール加工する工程とを有し、ポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程は、ポリオレフィン系樹脂組成物の温度がカレンダーロール加工時の温度より高温で、かつ、ポリオレフィン系樹脂組成物の分解温度未満となる条件下で原料混合物を溶融混練することにより行い、ポリオレフィン系樹脂組成物をカレンダーロール加工する工程は、カレンダーロール設備温度が160〜190℃、カレンダーロール上のポリオレフィン系樹脂組成物の温度が160〜190℃の条件下で行う、単層構造の装飾用フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾用フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屋内外用途の合板、鋼板、壁紙等の化粧材、ステッカー、マーキングフィルム、ラベル等の用途において、漆黒性を与える手段として黒色の装飾性フィルムが使用されることがある。一方、このようなフィルムの材料として、従来からポリ塩化ビニル樹脂(PVC)が用いられてきたが、環境保護の観点から非塩素化(非ハロゲン化)材料への代替が検討され、ポリオレフィン系樹脂が注目されている。
【0003】
フィルムの成形方法としては、段替が容易で材料ロスも少ない、運転中の条件変更が比較的容易である等の利点から、カレンダー成形法が用いられるケースがあり、着色剤としてカーボンブラック等の黒色顔料、フィルム材料としてポリオレフィン系樹脂を用い、カレンダー成形法によって黒色のフィルムを製造することが試みられている。
【0004】
しかし、このような手法でフィルムを製造した場合、フィルムに漆黒性を発現させることが困難であったため、灰色傾向を呈するフィルムとなっていた。このため、カレンダー成形法によって充分な漆黒性を有するポリオレフィン系装飾用フィルムの製造方法を提供することが望まれていた。
【0005】
また、これとともに、製造されたフィルムがPVCを用いた場合のような優れた品質(折り曲げ白化性等)を有していることも望まれている。更に、装飾用フィルムは任意の箇所に貼付されることから、高い隠蔽力も要求されている。
【0006】
特許文献1には、高透明フィルムと黒色の裏打ちフィルムを熱圧着させた加飾用フィルムが開示されているが、ポリオレフィン系樹脂がカレンダー成形法で製造されたフィルムではなく、また、単層構造のフィルムでもない。特許文献2には、平均一次粒子径20nm未満のカーボンブラックを配合した黒色の着色剤組成物が開示されている。しかし、原着繊維の着色剤として使用される組成物であって、漆黒性を有する装飾用フィルムに用いられるものではなく、カレンダー成形法にてフィルム成形したものでもない。更に、樹脂材料として主にポリエステル系樹脂が使用されているにすぎない。
【0007】
特許文献3には、ポリオレフィン系樹脂にカーボンブラックを配合したポリオレフィン系樹脂組成物が開示されている。しかし、耐塩素性を有し、水道管、配水管等の送水管に適用されるものであって、漆黒性を有する装飾用フィルムに用いられるものではない。また、カレンダー成形法にてフィルム成形したものでもない。
更に、上記文献では、成形温度等の成形時の条件も詳しく検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−292798号公報
【特許文献2】特開2003−277518号公報
【特許文献3】特開2005−75990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、カーボンブラックを添加したポリオレフィン系樹脂組成物をカレンダー成形法によって成形することで黒色のフィルムを製造した場合、得られた黒色フィルムは、充分な漆黒性を獲得することができず、灰色傾向のフィルムとなってしまうとの問題が発生することがあった。
そこで、本発明者等は鋭意検討を重ね、その結果、上記問題が発生する原因は、カレンダー成形するポリオレフィン系樹脂組成物中でカーボンブラックが充分に分散していないことあるとの結論に達し、さらに、カレンダーロール加工を行う前に、カレンダーロール加工の温度を考慮した特定の温度条件で、ポリオレフィン系樹脂組成物を調製し、その後、得られたポリオレフィン系樹脂組成物を、特定の条件下でカレンダーロール加工により成形することで、漆黒性を有するとともに、PVCを用いた場合のような良好な品質を有する装飾用フィルムを製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カーボンブラックを含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程と、得られたポリオレフィン系樹脂組成物をカレンダーロール加工する工程とを有するカレンダー成形により装飾用フィルムを製造する方法であって、
上記ポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程は、上記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度が上記カレンダーロール加工時の温度より高温で、かつ、ポリオレフィン系樹脂組成物の分解温度未満となる条件下で原料混合物を溶融混練することにより行い、
上記ポリオレフィン系樹脂組成物をカレンダーロール加工する工程は、カレンダーロール設備温度が160〜190℃、カレンダーロール上の上記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度が160〜190℃の条件下で行い、
単層構造の装飾用フィルムを製造する
ことを特徴とする装飾用フィルムの製造方法である。
【0011】
上記ポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程において、上記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度は190〜260℃であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の装飾用フィルムの製造方法において、上記カーボンブラックの一次粒子径は、13〜22nmであることが好ましい。また、上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、124〜370m/gであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の装飾用フィルムの製造方法において、上記ポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂及びオレフィン系熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カレンダーロール加工の条件を考慮した特定の条件でポリオレフィン系樹脂組成物を調製する成形前工程を行い、この形成前工程で調製したカーボンブラックを含有するポリオレフィン系樹脂組成物を特定の条件でカレンダーロール加工して、黒色のフィルムを製造するため、優れた漆黒性を有するとともに、PVCを用いた場合のような良好な品質を有する黒色フィルム(装飾用フィルム)を製造することができる。
これは、カレンダーロール加工を行うためのポリオレフィン系樹脂組成物が、成形前工程を行うことにより、カーボンブラックが良好に分散したポリオレフィン系樹脂組成物となったからであると考えられる。
ここで、上記した成形前工程の条件によりカーボンブラックを含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調製することでカーボンブラックが良好に分散するとの知見は、本発明者らにより見出された新規で、かつ、予想外の知見である。
従来は、例えば、カーボンブラックをゴム組成物に混合する場合であれば、カーボンブラックの分散性を向上させるために、低温かつ高シェアの条件で混合するのが好ましいとされており、上記した成形前工程の条件のように、ポリオレフィン系樹脂組成物の温度をカレンダーロール加工の温度を超えるような高温にして、カーボンブラックを溶融混練することにより、カーボンブラックの分散性が向上するなど到底予想しえなかったのである。
また、本発明の製造方法は、カレンダー加工性にも優れる。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、カーボンブラックを含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程と、得られたポリオレフィン系樹脂組成物をカレンダーロール加工する工程とを有するカレンダー成形により装飾用フィルム(単層構造)を製造する方法であり、カーボンブラックを含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程(以下、成形前工程ともいう)、及び、得られたポリオレフィン系樹脂組成物をカレンダーロール加工する工程(以下、本成形工程ともいう)のそれぞれを特定の条件で行うことを特徴としている。
【0016】
上述したように、漆黒性を付与するためにカーボンブラックを添加したポリオレフィン系樹脂組成物を通常のカレンダー成形法によって成形した場合、得られる黒色フィルムが灰色傾向のフィルムとなってしまい、所望の漆黒性を得ることは困難であったのに対し、本発明の製造方法では、本成形工程に先立ち、特定の条件で成形前工程を行っているため、製造したフィルム内において、カーボンブラックが良好に分散している。従って、本発明によれば、白ボケや赤みがなく、充分な漆黒性を有する装飾用フィルムを製造することができるのである。
【0017】
本発明の製造方法では、まず、カーボンブラックを含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程(成形前工程)を行う。
上記成形前工程は、上記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度が、後述するカレンダーロール加工時の温度より高温で、かつ、ポリオレフィン系樹脂組成物の分解温度未満となる条件下で原料混合物を溶融混練することにより行う。
【0018】
ここでは、押出機やバンバリーミキサを用いて原料混合物を溶融混錬する。この時、上記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度を、後述するカレンダーロール加工時の温度より高温にすることが重要である。
カレンダーロール加工時の温度以下で溶融混錬を行うのであれば、別途、形成前工程を行う意義がなく、カーボンブラックの分散性は向上せず、充分な漆黒性を有する装飾用フィルムが製造できないのに対し、カレンダーロール加工時の温度より高温で原料混合物を溶融混錬することで、原料混合物に含まれるポリオレフィン系樹脂の粘度が充分に低下し、その結果、カーボンブラックの分散性が極めて良好となるからである。
また、上記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度は、ポリオレフィン系樹脂組成物の分解温度未満である。分解温度以上では、所望のポリオレフィン系樹脂組成物を調製することができないからである。
なお、上記ポリオレフィン系樹脂組成物中に複数種類のポリオレフィン系樹脂が含まれている場合、ポリオレフィン系樹脂組成物の分解温度は、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)を使用して下記の試験条件で測定した、測定前の試料重量に対して、重量が5%減少した時の温度である。
試験条件:
測定温度範囲:20℃から500℃
昇温速度:20℃/min
試料量:約10mg
試料容器:白金製試料容器
測定雰囲気:空気(200ml/min)
【0019】
上記成形前工程において、上記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度は、上記範囲にあれば良いが、カレンダーロール加工時の温度より高温であって、190〜260℃であることが好ましい。
成形前工程における上記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度が、190℃未満では、カレンダーロール加工時の温度よりも高温であっても、カーボンブラックの分散性が不充分になるおそれがある。
一方、上記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度が、260℃を超えると、たとえポリオレフィン系樹脂組成物の分解温度以下であっても、樹脂の熱安定性が下がるため加工性が悪くなり、また、安定剤等の添加剤が熱により分解されるおそれがある。
【0020】
上記原料混合物には、少なくともカーボンブラックとポリオレフィン系樹脂とが含まれる。
上記カーボンブラックとしては特に限定されないが、例えば、漆黒度の点からチャンネルブラック〔HCC(High Color Channel)、MCC(Medium Color Channel)〕、ファーネスブラック〔HCF(High Color Furnace)、MCF(Medium Color Furnace)〕等が好適に用いられ、ファーネスブラックが特に好ましい。
【0021】
上記カーボンブラックの一次粒子径は、13〜22nmであることが好ましい。
22nmを超えると、フィルムの色味が白ぼけたり赤くなりやすく、また、添加量を増量しても漆黒性が出ないおそれがある。一方、13nm未満のカーボンブラックは、入手が困難である。
本明細書において、上記一次粒子径は、カーボンブラックの集合体を構成する小さな球状(微結晶による輪郭を有し、分離できない)成分を電子顕微鏡写真にて観察し、観察像中の各粒子について、粒子をはさむ一定方向の二本の平行線の間隔を粒子径として測定し(フェレー径/Feret径)、その測定値より求めた算術平均値である。
【0022】
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、124〜370m/gであることが好ましい。124m/g未満であると、フィルムの色味が白ぼけたり赤くなりやすく、また、添加量を増量しても漆黒性が出ないおそれがある。
本明細書において、上記窒素吸着比表面積は、窒素吸着量からS−BET式で求めた比表面積である(JIS K 6217)。
【0023】
上記カーボンブラックの含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.5〜5.0質量部であることが好ましい。0.5質量部以上添加することにより、高い隠蔽性、漆黒性を得ることができる。また、5.0質量部を超えると、配合樹脂の粘度が高くなるおそれがあり、また、安定剤等を吸着し、加工時の耐熱性が低下する等、加工性が悪くなるおそれがある、コスト面も不利となる。漆黒性、加工性及びコスト等のバランスに優れることから、上記含有量は1.0〜3.0質量部であることがより好ましい。
【0024】
上記ポリオレフィン系樹脂としては特に限定されず、従来公知のものを使用することができるが、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましい。なかでも、ポリプロピレン系樹脂を使用することがより好ましく、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂及びオレフィン系熱可塑性エラストマーをすべて使用すること(3種混合系)が更に好ましい。この場合、所望の漆黒性、良好なカレンダー加工性を得ることができる。また、PVCを用いた場合のような良好な品質のフィルムを得ることが可能である。
【0025】
上記ポリプロピレン系樹脂としては特に限定されず、例えば、単独重合ポリプロピレン(h−PP)、ランダム共重合ポリプロピレン(r−PP)、ブロック共重合ポリプロピレン(b−PP)等を挙げることができる。なかでも、ランダム共重合ポリプロピレンが好ましい。上記ポリプロピレン系樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他のモノマーを含むモノマー組成物により得られる共重合体であってもよい。
【0026】
上記ポリエチレン系樹脂としては特に限定されず、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等を挙げることができる。なかでも、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。上記ポリエチレン系樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他のモノマーを含むモノマー組成物により得られる共重合体であってもよい。
【0027】
上記オレフィン系熱可塑性エラストマー(以下、TPOともいう)としては特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。TPOを使用することにより、従来から使用されている塩化ビニル樹脂のような優れた柔軟性と伸縮性を得ることができる。
【0028】
上記オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、エチレン−プロピレン共重合体成分及び/又はポリブチレン成分と、ポリプロピレン成分とを有する共重合体であることが好ましい。このような共重合体は、ハードセグメントとなる結晶性のポリプロピレン樹脂とソフトセグメントとなるエチレン−プロピレンゴム成分やブチルゴム成分とを有するものであり、ハードセグメントとソフトセグメントとの割合を調節することによって、種々の物性のものを得ることができる。上記オレフィン系熱可塑性エラストマーは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他のモノマーを含むモノマー組成物により得られる共重合体であってもよい。
【0029】
上記オレフィン系熱可塑性エラストマーの製造方法としては、上記ハードセグメントとソフトセグメントに必要に応じて架橋剤や可塑化オイル等を混合し、押出機を用いて溶融混練し、架橋させるような従来から用いられている方法の他、近年、上記ハードセグメントとソフトセグメントとを重合反応によって直接に製造する方法も知られており、特に、後者の方法によるオレフィン系熱可塑性エラストマーは、反応器中で製造するオレフィン系熱可塑性エラストマーという趣旨から、リアクターTPOと呼ばれている。
【0030】
上記原料混合物には、ワックスが含まれていてもよい。ワックスを添加することにより、カーボンブラックの分散性が高められる。
上記ワックスとしては、例えば、天然系ワックス、石油ワックス、合成ワックス、炭化水素系化合物、脂肪酸系化合物、脂肪酸アミド系化合物、エステル系化合物、アルコール系化合物、金属石鹸等を挙げることができる。
【0031】
上記ワックスの含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましい。0.1質量部未満であると、分散性を向上させる効果が充分に得られないおそれがあり、5質量部より多いと、カレンダー加工時にロールへの滑性が低下して加工性が悪くなるおそれがあり、また、後加工でフィルム表面への噴出を起こすおそれがある。
【0032】
上記原料混合物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料等、一般に樹脂に添加される公知の添加剤が適量添加されていてもよい。
上記ポリオレフィン系樹脂組成物は、上記ポリオレフィン系樹脂、カーボンブラック及び必要に応じて他の添加剤を、押出機等、公知の装置を用いて溶融混練して製造することができる。
【0033】
本発明の製造方法では、上述した方法で、ポリオレフィン系樹脂組成物を調製した後、ポリオレフィン系樹脂組成物をカレンダーロール加工する工程(本成形工程)を行う。
上記本成形工程においては、カレンダーロール設備温度を160〜190℃の範囲内に調整するとともに、カレンダーロール上のポリオレフィン系樹脂組成物の温度を160〜190℃の範囲内に調整する。
【0034】
上記設備温度や樹脂組成物の温度が160℃未満であると、融点が近いためポリオレフィン系樹脂組成物をフィルム化できず、190℃を超えるとポリオレフィン系樹脂組成物の粘度が下がり、フィルムが破断しやすくなるので、この場合もフィルム化できない。
一方、上記の特定温度範囲に設備温度及び樹脂組成物温度を調整することにより、得られるフィルムは、カーボンブラックが良好に分散したものとなる。よって、本発明の製造方法では漆黒性に優れたフィルムを製造することができ、フィルムに白ボケや赤みが生じることを防止することができる。また、カレンダー成形時において優れた加工性も確保することができる。
【0035】
上記カレンダーロール加工に用いられるカレンダー形式は、特に限定されず、例えば、逆L型、Z型、直立2本型、L型、傾斜3本型等を挙げることができる。本形成工程では、カレンダーロール加工を用いているため、製造するフィルムにおいてフレアや弛みが生じることを抑制でき、高隠蔽性のフィルムを安価に製造できる。また、優れた厚み精度を有するフィルムを製造できる。更に、従来のカレンダー加工装置をそのまま使用できる。
【0036】
本発明の製造方法で得られる装飾用フィルムは、単層構造のものである。このような単層構造の装飾用フィルムは、充分な漆黒性を有している。
本発明により得られる装飾用フィルムの厚みは、0.05〜0.2mmであることが好ましい。カレンダー成形に適する点で、0.06〜0.2mmであることがより好ましい。
【0037】
また、本発明により得られる装飾用フィルムは、PVCを用いたフィルムのように、柔軟な風合いを持ち、透明性、耐折り曲げ白化性、耐候性、耐衝撃性、着色性、接着性等の性質に優れている。更に、高い隠蔽力も有している。このため、化粧材、ステッカー、マーキングフィルム、ラベル、看板装飾用印刷ベースフィルム等の用途に好適に使用することができる。ステッカー、マーキングフィルム、ラベルとしては、上記装飾用フィルムに、公知の粘着剤、離型紙と積層したもの等を挙げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0039】
実施例1
(装飾用フィルムの作製)
ランダム共重合ポリプロピレン樹脂(r−PP樹脂)(「F794NV」、プライムポリマー社製)50質量部、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂(TPO樹脂)(「T−310E」、プライムポリマー社製)30質量部、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE樹脂、「KF−271」、日本ポリエチレン社製)20質量部、フェノール系酸化防止剤(「アンチオックス10」、日本油脂社製)0.2質量部、紫外線吸収剤(バイオソーブ130)0.2質量部、及び、カーボンブラック(粒子径13nm、窒素吸着比表面積370m/g、「HCF#2700」、三菱カーボンブラック社製)0.5質量部を配合した原料混合物を、押出機を用いて、押出機の設備温度180℃、樹脂組成物の温度190℃で溶融混錬し、ポリオレフィン系樹脂組成物を調製した。なお、本工程で調製した樹脂組成物の分解温度は、340℃であり、この分解温度は、「エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、EXSTAR TG/DTA 6200」を使用し、上述した試験条件で測定した。
得られたポリオレフィン系樹脂組成物を4本逆L字ロール型24インチカレンダーに供給し、カレンダーロール設備温度160℃、樹脂組成物の温度160℃の条件下で、0.06mmの厚みにカレンダー成形し、フィルムを作製した。
【0040】
実施例2〜5、比較例1〜5、参考例1〜2
表1、表2に示したように配合、成形条件を変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。
なお、表に記載の配合量は固形分の質量部を表す。
【0041】
〔評価方法・基準〕
実施例、比較例及び参考例において、加工状態及び得られたフィルムを下記の評価方法、基準により評価し、結果を表1及び表2に示した。
(1)カレンダー加工性の評価
〔滑性(ロールへの樹脂の密着性)〕
ロールに樹脂がべたつかずに綺麗に剥がれてフィルム化可能なものを○、べたついて引き剥がしが困難なものを×とした。
【0042】
〔バンク回転性〕
カレンダーロール間にある樹脂のバンクが、ロールの回転にあわせて綺麗に回るものを○、バンクが綺麗に回らず、スリップや凸凹が発生するものを×とした。
【0043】
〔ロールへのプレートアウト〕
カレンダーロールに溶融樹脂から可塑剤や添加剤が噴出して(プレートアウト)ロール表面が曇るものを×、プレートアウトが生じないものを○とした。
【0044】
〔溶融フィルムの延伸性(カレンダーロールからテイクオフロール間)〕
100〜300%の延伸を行い、フィルム全体が均一にネッキングが生じないものを○、フィルムの厚みが均一にならないものや、溶融した樹脂の張力が低すぎてドローダウンしたもの、ネッキングの起きたものを×とした。
【0045】
〔フィルムの表面平滑性〕
フィルムの表面が平滑でフローマークの発生がないかどうかを目視により判断し、良好なものを○、表面が荒れたりフローマークの発生したものを×とした。
【0046】
〔加工性の総合判断〕
上記カレンダー加工性を総合的に判断し、カレンダー加工性が良好なものを○、不良のものを×とした。
【0047】
(2)フィルム特性の評価
〔フィルムの漆黒性(色味)〕
昼間11時から13時の晴天時の太陽光の元で、フィルムを目視にて観察し、下記の基準で○、×、△を判断した。
○:青みのある黒
△:青みがあるが、グレーがかかった黒
×:赤味がある黒
【0048】
〔フィルムの耐折り曲げ白化性〕
フィルムを180度折り曲げた際に、目視にてフィルムの白化を判断し、白化しないものを○、白化するものを×とした。
【0049】
〔フィルムの耐ブルーム・ブリード性〕
フィルムを70℃95%RHの高温高湿下に放置し、1週間後のフィルム表面のブルーム、ブリードの発生を目視により判断し、発生しないものを○、発生したものを×とした。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1及び表2の結果からも、上述した特定の条件で成形前工程を行った後、特定の条件でカレンダーロール加工を行うことにより、充分な漆黒性を有するフィルムを製造できることが明らかとなった。また、優れた耐折り曲げ白化性、耐ブルーム・ブリード性を得ることもでき、製造時におけるカレンダー加工性も良好であった。
また、カーボンブラックの一次粒子径が12〜22nmであると漆黒性に特に優れることも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製造方法により得られる装飾用フィルムは、ラベル、ステッカー、マーキング等、種々の用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックを含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程と、得られたポリオレフィン系樹脂組成物をカレンダーロール加工する工程とを有するカレンダー成形により装飾用フィルムを製造する方法であって、
前記ポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程は、前記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度が前記カレンダーロール加工時の温度より高温で、かつ、ポリオレフィン系樹脂組成物の分解温度未満となる条件下で原料混合物を溶融混練することにより行い、
前記ポリオレフィン系樹脂組成物をカレンダーロール加工する工程は、カレンダーロール設備温度が160〜190℃、カレンダーロール上の前記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度が160〜190℃の条件下で行い、
単層構造の装飾用フィルムを製造する
ことを特徴とする装飾用フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物を調製する工程において、
前記ポリオレフィン系樹脂組成物の温度は190〜260℃である請求項1に記載の装飾用フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記カーボンブラックの一次粒子径は、13〜22nmである請求項1又は2に記載の装飾用フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、124〜370m/gである請求項1、2又は3に記載の装飾用フィルムの製造方法。
【請求項5】
ポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂及びオレフィン系熱可塑性エラストマーを含む請求項1、2、3又は4に記載の装飾用フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−212967(P2011−212967A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83047(P2010−83047)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】