説明

裏地およびこれを使用した衣料

【課題】縫製後に洗い加工を行う衣料品に好適な裏地、およびこれを使用した衣料において、洗い加工で収縮する生地に裏地を縫い合わせてからガーメント洗いを行う。
【解決手段】洗濯によるヨコ寸法変化率が−3〜−20%であり、洗濯前のヨコ伸長率が1〜15%、洗濯後のヨコ伸長率が2〜30%であることを特徴とする、水溶性ポリマーの付着した裏地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製後に洗い加工を行う衣料品に好適な裏地およびこれを使用した衣料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、縫製を終えた衣料品に洗い加工を行い着ざらした外観を得る、いわゆるガーメント洗いが流行している。裏地を付けた衣料品に洗い加工を行うと、表地と裏地の寸法変化率が異なるために裏地がたるんだりパッカリングする問題があるため、従来は裏地なしで洗い加工を行ってから裏地をつけていた。しかしこの方法は裏地を付ける工程が別に増えるためにコスト高となるので、洗い加工によって表地と同じように収縮する裏地の開発が望まれていた。
【0003】
一方、現在知られている織物裏地としては、織物伸長率が10%以上であるものや(特許文献1参照)、沸騰水収縮率が8〜80%であり生機の染色加工における加工収縮率が5〜40%のものがあるが(特許文献2参照)、伸長性のある生地に水溶性ポリマーの布付着した裏地については例がない。
【特許文献1】特開2001−316923
【特許文献2】特開2003−183947
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はかかる従来技術の背景に鑑み、表地の洗い加工での収縮に追従するよう、表地と同じ程度の寸法変化率を持つ裏地およびこれを使用した衣料に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、洗濯によるヨコ寸法変化率が−3〜−20%であり、洗濯前のヨコ伸長率が1〜15%、洗濯後のヨコ伸長率が2〜30%であることを特徴とする裏地およびこれを使用した衣料を用いて、洗い加工後の裏地つけ工程をなくすものである。
【発明の効果】
【0006】
洗い加工で収縮する生地に裏地を縫い合わせてからガーメント洗いを行うことができるので、従来の洗い加工で2回に分けて行われていた縫製が1回に減り、コストダウンが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、洗濯によるヨコ寸法変化率が−3〜−20%であり、洗濯前のヨコ伸長率が1〜15%、洗濯後のヨコ伸長率が2〜30%であることを特徴とする裏地およびこれを使用した衣料に関するものである。
【0008】
本発明における洗濯による寸法変化率は、JIS L−1096 寸法変化 電機洗濯機法(G法)によって測定されるものであり、洗い加工による収縮率に対応する。率は、通常表地に用いられる生地の洗濯による寸法変化率としては、0〜−20%程度であり、本発明の裏地は、−3〜−20%、好ましくは−5から−10%の洗濯によるヨコ寸法変化率を有する。寸法変化率が−3%を越えると、本発明の課題である表地洗い加工への追従が不充分でたるみやすく、反対に−20%未満であると洗い加工によって裏地が縮みすぎて着用時の動きが大幅に制約をうける。
【0009】
かかる洗濯による寸法変化率を得るためには、伸長特性の高いストレッチ裏地を用いるのが有効であり、洗濯前のヨコ伸長率が1〜15%、洗濯後のヨコ伸長率が2〜30%であることが好ましい。なぜなら、伸長率の高い裏地では伸長特性の固定が比較的容易に行えるため、洗い加工前、洗い加工後の寸法コントロールが可能となるからである。ここでいう伸長率は、JIS L−1096 伸長弾性率 定速伸長法(A法)によって測定した値である。
【0010】
裏地ではヨコ寸法が特に重要であり、これが短くなると着用時に動きにくく、反対に長いとだぶついて衣料品の外観が悪くなる。このため、ヨコ伸長率が洗濯前には1〜15%、好ましくは3〜10%、洗濯後には2〜30%、好ましくは5〜15%であると、表地の洗い加工による収縮に対応する裏地を作ることが可能になるのである。
【0011】
本発明における裏地は、織物、編物のいずれでもよいが、厚みの薄い裏地が得られることから、織物が好ましく用いられる。織物の組織はどんなものでもよいが、平、ツイル、サテン、ヘリンボーンなどが好ましく用いられる。
【0012】
伸長特性の高いストレッチ裏地を得るためには、ストレッチ性の高い糸を使用して織布することが好ましく、特にヨコ糸に使用した場合は伸長性に富む裏地を得ることができる。
【0013】
ストレッチ性の高い糸としては、ポリウレタン系繊維、ポリエステル系繊維などが好ましく用いられる。ポリウレタン繊維としては、ポリエーテル系ポリウレタン繊維、ポリエステル系ポリエステル繊維のフィラメント糸、およびこれらを他繊維でカバリングした糸を用いることができる。
【0014】
ポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート系繊維(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維(PTT)、ポリブチレンテレフタレート系繊維(PBT)などを用いることが出来る。
【0015】
これらは単独紡糸でも複合紡糸でもよく、伸長率の異なる2種以上のポリマーをバイメタルの形で複合紡糸したもののフィラメント糸も好ましく用いられる。糸断面はどんな形状でもよいが、丸断面、ダルマ断面、多角形断面、多葉断面、中空断面などが好ましい。中でも収縮特性の異なるポリマーを貼り合わせたバイメタルは好ましく用いられ、PET/PET、PET/PTT、PTT/PTTなどの組み合わせで貼り合わせたものなどが用いられる。
【0016】
また、紡糸後に仮ヨリ、交絡、混繊などの糸加工を行うことも好ましい。
【0017】
その他の裏地を構成するタテ糸、ヨコ糸は、合成繊維、半合成繊維、天然繊維のいずれでもよい。
【0018】
合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリブチレンテレフタレート系繊維などのポリエステル系繊維、ナイロン−6、ナイロン−6,6、などのポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリ乳酸系繊維などが好ましく用いられる。特に、導電性のあるカーボンや親水性物質などを練りこんで帯電防止性を持たせた合成繊維は好ましく用いられる。
【0019】
半合成繊維としては、アセテート系繊維、レーヨン系繊維、銅アンモニアレーヨン系繊維などが好ましく用いられる。天然繊維としては、綿、麻、絹、羊毛、その他獣毛などが好ましく用いられる。
【0020】
洗い加工による寸法変化をコントロールするためには、織布後の裏地に伸長特性の固定を行うことが有効である。染色前に行う中間セット(熱固定)で裏地の基本特性が決まるので、この時点で縫製・洗い加工後に要求される寸法・ヨコ伸長率を設定して形状を記憶させる。
その後染色を行い、水溶性ポリマーをつけて最終セットを行い、幅だしを行う。最終セット時の幅だし率は、表地の洗濯による寸法変化率に合わせることが好ましく、通常の表地の洗濯による寸法変化率を考えると中間セット幅の好ましくは2〜25%、さらに好ましくは3〜18%、5〜11%に設定して伸長特性を固定する。
【0021】
水溶性ポリマーは裏地のヨコ収縮を抑える目的でつける糊剤のようなものであり、例えばポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリ酢酸ビニル、コーンスターチ、小麦デンプン、フノリなどを使用するとよい。水溶性ポリマーを糊剤として用いると、洗い加工時にポリマーが脱落して伸長特性の固定が解除され、裏地の幅が中間セットの幅に戻り狭まるのである。
【0022】
本発明の裏地をつける表地は織物でも編物でもよく、素材も合成繊維、半合成繊維、天然繊維およびこれらの混紡、交織、交編などいずれでもよい。
【0023】
本発明では、洗い加工を行なわない衣料品と同様に裏地を表地と共に縫製した後、洗い加工を行って衣料を得ることが好ましい。洗い加工前に縫製を終えてしまえるのが本発明の利点であり、衣料品のコストダウンにもつながる。
【0024】
衣料品に使用する表地は、洗濯によるヨコ寸法変化率が−3〜−20%であるのが好ましい。表地の洗濯によるヨコ寸法変化率と同程度の裏地を選定して使用すると、洗い加工を行った後に表地と裏地が同程度に収縮して衣料品としてのバランスが保たれ、好ましい。
【0025】
洗い加工は常法に従って行えばよい。例えば、ワッシャー型洗濯機を用いて、浴比1:10〜20となるよう縫製品と界面活性剤の入った水を加え、40〜60℃に昇温して15〜30分間洗い加工を行うとよい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
<洗濯>
自動反転渦巻き式電気洗濯機VH−3410(東芝(株)製)を用い、市販洗剤(アタックコンパクト、花王(株)製)0.1%、温度40±2℃、浴比1:30で5分間強反転で洗濯し、その後排水、オーバーフローさせながらすすぎを2分間行う操作を2回繰り返し、これを洗濯1回とする。
<洗濯による寸法変化率>
JIS L−1096 寸法変化 電機洗濯機法(G法)に準じて測定を行う。
【0027】
洗濯前の印間の距離をB、一般洗濯1回後の印間の距離をAとすると、寸法変化率は以下の式によって表される。
【0028】
寸法変化率(%)=(A−B)÷B×100
<伸長率>
JIS L−1096 伸長弾性率 定速伸長法(A法)に準じて測定を行う。
【0029】
つかみ間隔をL、14.7N(1.5kg)まで伸ばした時のつかみ間隔をL1とすると、伸長率は以下の式によって表される。
【0030】
伸長率(%)=(L1−L)÷L×100
実施例1
ホモPETを丸断面型に紡糸した84デシテックス18フィラメントの糸をタテ糸に、22デシテックスのポリウレタン糸にホモPETを丸断面型に紡糸した33デシテックス18フィラメントの糸をカバリングした糸をヨコ糸に用い、ウォータージェット織機にて幅140cm、生機密度92×56本/2.54cmになるよう、2/1ツイル織物を作成した。
【0031】
得られた生機を精練・リラックス処理し、シリンダー乾燥機にて130℃乾燥後、ピンテンターにて乾熱180℃で幅110cmとなるよう中間セットを行った。ついで、液流染色機で130℃染色を行い、シリンダー乾燥機にて130℃乾燥を行った。次いで、帯電防止剤(ナイスポールNL、日華化学(株)製)1%、水溶性ポリマー(カルボキシメチルセルロース)1%の水溶液にパディングし、ピンテンターにて乾熱170℃で幅120cmとなるよう仕上げセットを行った。仕上げ反の密度は、107×60本/2.54cmであった。この織物のヨコ伸長率は12%であった。
【0032】
得られた織物を洗濯し、ヨコ寸法変化率を測定したところ、−9.0%であった。また洗濯後の織物のヨコ伸長率は24%であった。
実施例2
ポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを丸断面型に紡糸した55デシテックス18フィラメントの糸をタテ糸に、ホモPETとホモPPTをサイドバイサイド型に紡糸した84デシテックス48フィラメントの糸をヨコ糸に用い、ウォータージェット織機にて幅140cm、生機密度85×81本/2.54cmになるよう、平織物を作成した。
【0033】
得られた生機を精練・リラックス処理し、シリンダー乾燥機にて130℃乾燥後、ピンテンターにて乾熱180℃で幅120cmとなるよう中間セットを行った。ついで、液流染色機で130℃染色を行い、シリンダー乾燥機にて130℃乾燥を行った。次いで、帯電防止剤(ナイスポールNL、日華化学(株)製)1%、水溶性ポリマー(ポリビニルアルコール)3%の水溶液にパディングし、ピンテンターにて乾熱170℃で幅130cmとなるよう仕上げセットを行った。仕上げ反の密度は、91×86本/2.54cmであった。この織物のヨコ伸長率は7%であった。
【0034】
得られた織物を洗濯し、ヨコ寸法変化率を測定したところ、−7.3%であった。また洗濯後の織物のヨコ伸長率は18%であった。
比較例1
実施例2と同様のタテ糸を用い、実施例1でタテ糸として用いている糸をヨコ糸として用いて、ウォータージェット織機にて幅140cm、生機密度97×81本/2.54cmになるよう、平織物を作成した。
【0035】
得られた生機を精練・リラックス処理し、シリンダー乾燥機にて130℃乾燥後、ピンテンターにて乾熱180℃で幅120cmとなるよう中間セットを行った。ついで、液流染色機で130℃染色を行い、シリンダー乾燥機にて130℃乾燥を行った。次いで、帯電防止剤(ナイスポールNL、日華化学(株)製)1%、水溶性ポリマー(ポリビニルアルコール)3%の水溶液にパディングし、ピンテンターにて乾熱170℃で幅123cmとなるよう仕上げセットを行った。仕上げ反の密度は、110×86本/2.54cmであった。この織物のヨコ伸長率は1.5%であった。
【0036】
得られた織物を洗濯し、ヨコ寸法変化率を測定したところ、−1.4%であった。また洗濯後の織物のヨコ伸長率は1.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
洗い加工で収縮する生地に裏地を縫い合わせてからガーメント洗いを行うことができるので、従来の洗い加工で2回に分けて行われていた縫製が1回に減り、コストダウンが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗濯によるヨコ寸法変化率が−3〜−20%であり、洗濯前のヨコ伸長率が1〜15%、洗濯後のヨコ伸長率が2〜30%であることを特徴とする、水溶性ポリマーの付着した裏地。
【請求項2】
該裏地に用いられるヨコ糸がポリウレタン系繊維またはポリエステル系繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の裏地。
【請求項3】
請求項1または2に記載の裏地を使用した衣料。
【請求項4】
請求項1または2に記載の裏地を表地と共に縫製した後、洗い加工を行ったことを特徴とする、裏地を使用した衣料。
【請求項5】
該衣料に使用されている表地の洗濯によるヨコ寸法変化率が−3〜−20%であることを特徴とする、請求項4に記載の衣料。

【公開番号】特開2006−57193(P2006−57193A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237994(P2004−237994)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】