説明

裏地の加工法

【課題】 本来裏地が具備すべき、シボが無く滑りの良さと、肌触りの良さ、ソフトさ、しなやかさと緯方向にストレッチ性を有するストレッチ裏地を提供する。
【解決手段】 緯糸に、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有する裏地の染色加工において、染色前にヒートセットを2回行うことを特徴とする裏地の加工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緯糸に、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有する裏地の染色仕上げ加工に関する。
さらに詳しくは、優れたストレッチ性と風合がソフトで寸法安定性に優れる裏地の加工法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、衣服の着心地、体にフィットしたスリムなシルエットを重視するファッションが主流になっており、この流れを反映して表地も、ソフトで、しかも度な伸縮性・ストレッチ性を有するいわゆるストレッチ表地が急速にシェアを広げている。
このストレッチ表地は、一般的には、合成繊維、天然繊維、再生繊維にポリウレタン弾性糸を3〜20%複合し織物とすることで作られる。このようにして作られるストレッチ表地の伸びは20〜40%もあり、この大きな伸びがあるために快適な着心地感、動き易さを得ることが出来る。
【0003】
このストレッチ表地を使って、体にフィットしたスリムなシルエットの衣服を作る場合、2〜3%の伸びしか有していない従来裏地を併用すると、裏地の伸びが小さいため着用動作時、裏地によって圧迫感を受けてしまい快適な着心地感を得ることが出来なくなる。また大きなゆとり率やキセをとることはシルエットを損ねるため受け入れられない。したがって、快適な着心地感を得るためには、伸び2〜3%の従来裏地ではなく、数%以上の伸びを有するいわゆるストレッチ裏地が求められている
【0004】
そこで、良好なストレッチ性を有し、かつ表面にシボが無く、さらに光沢や滑らかな触感、ソフトな風合いを有する裏地として、一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルである2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合せた複合繊維のマルチフィラメントを実質的に無撚りで、経糸および緯糸の少なくとも一方に用い、当該糸条を用いた方向の織物伸長率が10%以上である織物により達成されるとしている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、ストレッチ裏地を製造するために当該糸条を用い、通常の染色加工工程により製造する方法では十分なストレッチ性が得られず、また、生地にシボが発生し、滑りや風合いも硬く、裏地としては不適なものしか製造できない。
【特許文献1】特開2001−316923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するために成されたものであり、本来裏地が具備すべき、シボが無く滑りの良さと、肌触りの良さ、ソフトさ、しなやかさと緯方向にストレッチ性を有するストレッチ裏地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題について鋭意検討した結果、特定の方法で染色仕上げ加工を行うと課題解決の目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
緯糸に、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有する裏地の染色加工において、染色前にヒートセットを2回行うことを特徴とする裏地の加工法、
である。
【発明の効果】
【0007】
ストレッチ表地を使って、体にフィットしたスリムなシルエットの衣服を作る場合、本発明により製造されるストレッチ裏地を使用することによって、着用動作時、圧迫感を受けることはほとんどなくなり、快適な着心地感を楽しむことが出来る。また、凹凸状のシボのない表面平滑性に優れた裏地となっているため、滑りが流行で且つソフトでしなやかと言う特徴ももっているためさらに着用感が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明について詳述する。
本発明の裏地の加工法における裏地とは、緯方向に10%以上のストレッチ性のある裏地をいい、かつ、緯糸の少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有する裏地である。
本発明における潜在捲縮発現性ポリエステル繊維とは、少なくとも二種のポリエステル成分で構成(具体的にはサイドバイサイド型又は偏芯芯鞘型に接合されたものが多い)されているものであり、熱処理によって捲縮を発現するものである。二種のポリエステル成分の複合比(一般的に質量%で70/30〜30/70の範囲内のものが多い)、接合面形状(直線又は曲線形状のものがある)は特に限定されない。又、総繊度は30〜165dtex(デシテックス:以下同様の表現とする)、単糸繊度は0.3〜3dtexが好ましく用いられるがこれに限定されるものではない。
【0009】
本発明における潜在捲縮発現性ポリエステル繊維は、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートであることに特徴がある。
具体的には、特開2001−40537号公報に開示されているようなポリトリメチレンテレフタレートを一成分とするものがある。
【0010】
即ち、二種のポリエステルポリマーをサイドバイサイド型又は偏芯芯鞘型に接合された複合繊維であり、サイドバイサイド型の場合、二種のポリエステルポリマーの溶融粘度比が、1.00〜2.00が好ましく、偏芯芯鞘型の場合は、鞘ポリマーと芯ポリマーのアルカリ減量速度比は、3倍以上鞘ポリマーが速いことが好ましい。具体的なポリマーの組み合わせとしては、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート並びにポリトリメチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートが好ましく、特に捲縮の内側にポリトリメチレンテレフタレートが配置されると好ましい。ポリエチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たるジカルボン酸とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、ブタンジオール等のグリコール類やイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸等を共重合してもよい。また、ポリブチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たるジカルボン酸とし、1,4−ブタンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、エチレングリコール等のグリコール類やイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸等を共重合してもよい。
【0011】
さらにまた、本願のポリエステルポリマーには、他ポリマー、艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料等の添加剤を含有してもよい。
このように、潜在捲縮発現性ポリエステル繊維を構成するポリエステル成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートであるものとしては、上記特開2001−40537号公報以外にも、特公昭43−19108号公報、特開平11−189923号公報、特開2000−239927号公報、特開2000−256918号公報、特開2000−328382号公報、特開2001−81640号公報等には、第一成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、第二成分がポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルを並列的あるいは偏芯的に配置したサイドバイサイド型又は偏芯鞘芯型に複合紡糸したものが開示されており、本発明に好ましく用いることができる。特にポリトリメチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレート共重合体の組み合わせや、極限粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせが好ましい。
【0012】
さらに、潜在捲縮発現性ポリエステル繊維の初期引張抵抗度が10〜30cN/dtexであると好ましく、特に20〜30cN/dtexさらに20〜27cN/dtexがよい。尚、10cN/dtex未満のものは製造困難である。又、顕在捲縮の伸縮伸長率は10〜100%であると好ましく、特に10〜80%より好ましくは10〜60%である。更に、顕在捲縮の伸縮弾性率は80〜100%であることが好ましく、特に85〜100%より好ましくは85〜97%である。
さらに、100℃における熱収縮応力が0.1〜0.5cN/dtexであることが好ましく、特に0.1〜0.4cN/dtexさらに0.1〜0.3cN/dtexであることが好ましい。100℃における熱収縮応力は、布帛の精錬、染色工程において捲縮を発現させるための重要な要件である。すなわち、布帛の拘束力に打ち勝って捲縮が発現するためには、100℃における熱収縮応力が0.1cN/dtex以上であることが好ましい。
【0013】
熱水処理後の伸縮伸長率は100〜250%であることが好ましく、より好ましくは150〜250%特に180〜250%である。熱水処理後の伸縮弾性率は90〜100%であることが好ましく、より好ましくは95〜100%である。
このような特性を有する潜在捲縮発現性ポリエステル繊維としては、固有粘度の異なる2種類のポリトリメチレンテレフタレートが互いにサイドバイサイド型に複合された単糸から構成された複合繊維があげられる。
【0014】
2種類のポリトリメチレンテレフタレートの固有粘度差は0.05〜0.50(dl/g)であることが好ましく、特に0.1〜0.45(dl/g)、さらに0.15〜0.45(dl/g)がよい。例えば高粘度側の固有粘度を0.7〜1.3(dl/g)から選択した場合には、低粘度側の固有粘度は0.5〜1.1(dl/g)から選択されるのが好ましい。
また、この複合繊維自体の固有粘度即ち平均固有粘度は、0.7〜1.2(dl/g)がよく、0.8〜1.2(dl/g)がより好ましい。特に0.85〜1.15(dl/g)が好ましく、さらに0.9〜1.1(dl/g)がよい。
【0015】
なお、本発明でいう固有粘度の値は、使用するポリマーではなく、紡糸されている糸の粘度を指す。この理由は、ポリトリメチレンテレフタレート特有の欠点としてポリエチレンテレフタレート等と比較して熱分解が生じ易く、高い固有粘度のポリマーを使用しても熱分解によって固有粘度が著しく低下し、複合マルチフィラメントにおいては両者の固有粘度差を大きく維持することが困難であるためである。
【0016】
ここで、ポリトリメチレンテレフタレートは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、トリメチレンテレフタレート単位を約50モル%以上好ましくは70モル%以上、さらには80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上のものをいう。従って、第三成分として他の酸成分及び/又はグリコール成分の合計量が、約50モル%以下好ましくは30モル%以下、さらには20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の範囲で含有されたポリトリメチレンテレフタレートを包含する。
【0017】
ポリトリメチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその機能的誘導体と、トリメチレングリコール又はその機能的誘導体とを、触媒の存在下で、適当な反応条件下に結合せしめることにより合成される。この合成過程において、適当な一種又は二種以上の第三成分を添加して共重合ポリエステルとしてもよいし、又、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、ナイロンとポリトリメチレンテレフタレートを別個に合成した後、ブレンドしたりしてもよい。ブレンドする際のポリトリメチレンテレフタレートの含有率は質量%で50%以上である。
【0018】
添加する第三成分としては、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、アジピン酸等)、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、ソジウムスルホイソフタル酸等)、脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等)、脂環族グリコール(シクロヘキサンジメタノール等)、芳香族を含む脂肪族グリコール(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)、ポリエーテルグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、脂肪族オキシカルボン酸(ω−オキシカプロン酸等)、芳香族オキシカルボン酸(P−オキシ安息香酸等)等がある。又、1個又は3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物(安息香酸等又はグリセリン等)も重合体が実質的に線状である範囲内で使用出来る。
【0019】
さらに二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等が含有されていてもよい。
潜在捲縮発現性ポリエステル繊維の紡糸については、前記の特開の公報類に開示されており、例えば、3000m/分以下の巻取り速度で未延伸糸を得た後、2〜3.5倍程度で延撚する方法が好ましいが、紡糸−延撚工程を直結した直延法(スピンドロー法)、巻取り速度5000m/分以上の高速紡糸法(スピンテイクアップ法)を採用しても良い。
【0020】
また、繊維の形態は、マルチフィラメント糸条であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、断面においても丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブ−メラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
ポリトリメチレンテレフタレート繊維の単糸繊度は、0.3〜3dtexである必要があり、より好ましくは0.5〜2.5dtexである。単糸繊度が0.3dtex未満となると製織性が低下する傾向にあり、3dtexを超えると織物の耐針性能の低下並びに粗硬な風合いとなってくる。また、経糸もしくは緯糸として用いる際の糸の太さは、40dtex以上とすることで、裏地として実用に供し得る引裂強力を得ることができ、110dtex以上では裏地として厚くなりすぎ、従って、40〜110dtexであることが好ましい。
【0021】
本発明でいう裏地は、緯糸に、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有しているが、仕上げ裏地の緯糸密度としては使用する該繊維の太さにより変わるが、56dtexの場合、90〜120本/in、70dtexの場合、80〜110本/inが好ましく、仕上げ裏地の経糸密度も使用する糸の太さにより変わるが、56dtexの場合は100〜180本/in、経糸が33dtexの場合、経糸密度160〜250本/inが好ましく、この範囲内であれば厚み、風合いの良い裏地を製造する事ができる。
また、本発明でいう裏地の組織としては、平織り、ツイルなど任意な組織が選択可能であるが、平織り組織が最も薄手となり各種アウターに使用する事が出来好ましい。
本発明でいう裏地の製織は、レピア、ウォータージェット、エアージェットなどにより生機製織可能である。
【0022】
本発明は、裏地の染色加工に際し、染色前にヒートセットを2回行うことを特徴とする加工法であり、このヒートセット工程によるセット条件がストレッチ性を大きく左右するため、ピンテンターなど、生地の巾と温度管理がきっちり出来る機械が好ましい。ヒートセットを2回行う工程順としては特に限定されないが、生機を40〜90℃の温水につけてウェットリラックス後、1回目のヒートセットを行い、次いで必要に応じ樹脂加工後2回目のヒートセットを行う。あるいは、生機をそのまま1回目のヒートセットを行い、次いで40〜90℃の温水につけてウェットリラックス後、必要に応じて樹脂加工を行った後2回目のヒートセットを行う事も可能であり、生機をそのままヒートセットを行う方がストレッチ性の制御がしやすく好ましい。なお、40〜90℃の温水でウェットリラックスの方法は特に限定されないが、40〜90℃の温度で2分〜30分拡布状で連続的、又はロープ状でバッチ式に行うことが出来る装置で、例えば、オープンソーパー、ウインス染色機などの使用が可能である。また、1回目と2回目のヒートセットの間に、シュリンクサーファードライヤー、ショートループドライヤーなど、巾が設定されず、温度が180℃未満のヒートセット工程を追加することも可能であるが、本発明ではこれら巾が設定されないのヒートセット工程は、ヒートセットの回数に含まない。
2回目のヒートセット後は必要に応じてアルカリ減量を行い、染色、樹脂加工、仕上げセット工程を行い、裏地とする。
【0023】
本発明では1回目のヒートセットは特に重要で、1回目のヒートセットの巾入れ率がストレッチ性をほぼ決定する為、巾入れ率と温度が重要な管理項目で、巾入れ率については10〜25%とする。巾入れ率が10%未満では十分な緯方向のストレッチ性が得られず、巾入れ率が25%より大きくなると生地に凹凸状のシボが発生し、滑りが悪くなり裏地として適さない生地となる。また、ヒートセット温度は140〜170℃とし、140℃未満ではセット効果が無く、染色時に少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維の捲縮発現が大きくなりすぎてシボ立ちが発生し易くなる。また、170℃より高い温度でヒートセットを行うと染色時に捲縮発現が少なく、良好なストレッチ性が得られない。従いヒートセット温度は140〜170℃とし、好ましくは、150〜160℃で、ヒートセットの時間は30〜90秒が好ましい。
【0024】
2回目のヒートセットについては、1回目に行ったヒートセットによる少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維の捲縮発現を固定、および、仕上げ巾の決定のため重要であり、ヒートセット条件としては、巾出し率は、−10〜10%とするのが好ましく、ヒートセット温度は1回目のヒートセット温度と同じか高く設定し、150〜180℃、好ましくは160〜170℃とし、ヒートセットの時間は30〜90秒とすれば良い。
【0025】
本発明の裏地の加工法において、プレセット以降は通常の染色仕上げ工程が行え、染色については、液流染色機、エアフロー染色機など任意の染色機が使用でき、場合によっては染色前に、ソフト化、薄地化のためアルカリ減量も行える。また、通常繊維加工に用いられる樹脂加工、柔軟加工、吸水加工、制電加工、抗菌加工、撥水加工や酵素処理などの加工を必要に応じて行い仕上げセットを行い、仕上げセットはセット温度、時間は160〜190℃、30〜90秒とし、巾設定は規格巾に設定するが、洗濯などによる寸法安定性を考慮して仕上げセットによる巾出し率は、染色シワとり程度に収めるのが好ましい。
本発明で製造される裏地の経糸については、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維の他、キュプラ、レーヨンなどの再生セルロースの使用も可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
本発明において実施例に使用したポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維は、以下の方法により製造した。
固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートをピーナツ形状の紡糸口、あるいは丸形状の紡糸高口を使用し、比率1:1でサイドバイサイド型に押出し、紡糸温度265℃、紡糸速度1500m/分で未延伸糸を得、次いでホットロール温度55℃、ホットプレート温度140℃、延伸速度400m/分、延伸倍率は延伸後の繊度が56dtex、あるいは70dtexとなるように設定して延撚し、56dtex/24f、あるいは70dtex/24fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを得た。得られた複合マルチフィラメントの固有粘度は高粘度側が[η]=1.26、低粘度側が[η]=0.92であった。
【0027】
なお、固有粘度の測定は以下の方法により測定した。
固有粘度[η](dl/g)は、次式の定義に基づいて求められる値である。
[η]=lim(ηr−1)/C
C→0
定義中のηrは純度98%以上のo−クロロフェノール溶媒で溶解したポリトリメチレンテレフタレート糸又はポリエチレンテレフタレート糸の稀釈溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cはg/100mlで表されるポリマー濃度である。
なお、固有粘度の異なるポリマーを用いた複合マルチフィラメントは、マルチフィラメントを構成するそれぞれの固有粘度を測定することは困難であるので、複合マルチフィラメントの紡糸条件と同じ条件で2種類のポリマーをそれぞれ単独で紡糸し、得られた糸を用いて測定した固有粘度を、複合マルチフィラメントを構成する固有粘度とした。
【0028】
また、裏地のストレッチ率、着用感は下記により求めた。
(1)ストレッチ率
ストレッチ率(S:%)はカトーテック(株)製のKES−FB1を用いて、20cm×20cmの裏地試料を引っ張り速度=0.2mm/秒で裏地の経方向、または、緯方向に伸長したときの4.9N/cm応力下での伸び(A:cm)より、次式によって求めた値である。
S(%)=(A/20)×100
A:4.9N/cm応力下で伸びた長さ(cm)
【0029】
(2)着用感
23%の緯伸びのあるストレッチ表地と実施例で作製した裏地を組み合わせてタイトスカート(身体のヒップ周りの寸法に対してゆとり率2%で裏地のパターンを作成)を作成して、モニター5人に着用してもらった時の官能評価で4段階判定した。
◎:非常に良好
○:良好
△:圧迫感強い
×:圧迫感大又はザラツキ感大にて不適
【0030】
(3)動摩擦係数
カトーテック(株)製のKES−SEを用いて、摩擦面寸法が1cm×1cmで重量が0.245Nの摩擦子に、カナキン3号精練上がりの綿布を取り付けて、5cm/minの速度で固定した裏地の表面上をすべらせ、その時の摩擦抵抗力から、次式によって動摩擦係数(μ)を求めた。
μ=A/B A:摩擦抵抗力の平均値(N)
B:摩擦子の重量(N)
本発明では裏地の経糸方向に滑らせたときの摩擦係数と、緯糸方向に滑らせたときの摩擦係数の平均値を、裏地の動摩擦係数とした。
【0031】
(4)外観品位
製造した裏地の外観品位を4段階判定した。
◎:非常に良好 ○:良好 △:やや凹凸がある ×:凹凸状のシボがあり不良
なお、巾入れ率は下記により求める。
巾入れ率=(A―B)/A×100
A:ヒートセット投入前の巾
B:ヒートセット後の巾
A<Bの場合は巾出しであり、−表示とする。
【0032】
[実施例1]
経糸にポリエステル制電糸PQW56デシテックス/24フィラメント(旭化成せんい株式会社製)、緯糸に断面がピーナツ形状のポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維70デシテックス/24フィラメントを、織機上で経糸本数113本/2.54cmに、95本/2.54cmとなるよう緯糸を打ち込み、平織り組織の織物を製織した。この生機をピンテンター使用150℃1分間、巾入れ率13%で1回目のヒートセット後、オープンソーパーで90℃5分間ウェットリラックスを行い、2回目のヒートセットをピンテンターにて、170℃1分間、巾出し率0%の条件で行った。次いでアルカリ減量を10%行った後、液流染色機を使用し130℃で30分間染色後、還元洗浄を行い、シリコン系の仕上げ剤に浸漬後、仕上げセットを170℃1分間、巾出し率0.9%で行った結果、仕上げ密度、経160本/インチ、緯99本/インチのストレッチ裏地とした。
製造した裏地のストレッチ率、着用感、外観品位を評価し、結果を表1に示す。
【0033】
[実施例2〜7]
実施例1に於いて、染色前に行うヒートセットの条件を変え、仕上げセットの条件は同じとして裏地を製造し、ストレッチ率、着用感、外観を評価し、結果を表1に示す。
【0034】
[実施例8]
経糸にポリエステル制電糸PQW56デシテックス/24フィラメント(旭化成せんい株式会社製)、緯糸に断面が丸形状のポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維56デシテックス/24フィラメントを、織機上で経糸本数115本/2.54cmに、105本/2.54cmとなるよう緯糸を打ち込み、平織り組織の織物を製織した。この生機をピンテンター使用150℃1分間、巾入れ率20%で1回目のヒートセット後、オープンソーパーで90℃5分間ウェットリラックスを行い、2回目のヒートセットをピンテンターにて、170℃1分間、巾出し率0%の条件で行った。次いでアルカリ減量を10%行った後、液流染色機を使用し130℃で30分間染色後、還元洗浄を行い、シリコン系の仕上げ剤に浸漬後、仕上げセットを170℃1分間、巾出し率1%で行った結果、仕上げ密度、経168本/インチ、緯111本/インチのストレッチ裏地とした。
【0035】
[実施例9]
経糸にポリエステルW型断面糸34デシテックス/18フィラメント(旭化成せんい株式会社製)、緯糸に断面がピーナッツ形状のポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維70デシテックス/24フィラメントを、織機上で経糸本数149本/2.54cmに、90本/2.54cmとなるよう緯糸を打ち込み、平織り組織の織物を製織した。この生機をピンテンター使用150℃1分間、巾入れ率13%で1回目のヒートセット後、オープンソーパーで90℃5分間ウェットリラックスを行い、2回目のヒートセットをピンテンターにて、170℃1分間、巾出し率0%の条件で行った。次いでアルカリ減量を10%行った後、液流染色機を使用し130℃で30分間染色後、還元洗浄を行い、シリコン系の仕上げ剤に浸漬後、仕上げセットを170℃1分間、巾出し率0.5%で行った結果、仕上げ密度、経185本/インチ、緯94本/インチのストレッチ裏地とした。
【0036】
[比較例1、2]
実施例1に於いて、染色前に行うヒートセットを1回とし、ヒートセット温度、巾入れ率を変更した以外は実施例1と同様にして裏地を製造した。得られた裏地のストレッチ率、着用感、外観を評価し、結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
ストレッチ表地を使って、体にフィットしたスリムなシルエットの衣服を作る場合、本発明により製造されるストレッチ裏地を使用することによって、着用動作時、圧迫感を受けることはほとんどなくなり、快適な着心地感を楽しむことが出来る。また、凹凸状のシボのない表面平滑性に優れた裏地となっているため、滑りが流行で且つソフトでしなやかと言う特徴ももっているためさらに着用感が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯糸に、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維を含有する裏地の染色加工において、染色前にヒートセットを2回行うことを特徴とする裏地の加工法。

【公開番号】特開2007−2352(P2007−2352A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182105(P2005−182105)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】