説明

裏地の製造方法

【課題】経方向及び緯方向ともにストレッチ性を有し、寸法安定性に優れたストレッチ裏地を提供する。
【解決手段】少なくとも二種類のポリエステル成分で構成され、その少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである複合繊維を、経糸及び緯糸に用いた織物からなる裏地を染色加工するに際し、染色前にヒートセットを2回行うことを特徴とする裏地の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経方向及び緯方向共にストレッチ性を有する裏地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣服において着心地がよく、体にフィットしたスリムなシルエットを重視するファッションが主流になっており、この流れを反映して、表地もソフトで、しかも適度な伸縮性・ストレッチ性を有するいわゆるストレッチ表地が急速にシェアを広げている。
【0003】
ストレッチ表地は、一般的には、合成繊維、天然繊維、再生繊維にポリウレタン弾性糸を3〜20%併用して作られる織物である。このようなストレッチ表地の伸びは20〜40%もあり、この大きなストレッチ性のために、体にフィットしたスリムなシルエットの衣服を作ることができ、快適な着心地感、動き易さを得ることが出来る。
【0004】
しかし、ストレッチ表地に従来の裏地を使用すると、従来の裏地は伸びが2〜3%と小さいため、表地のストレッチ性を十分に生かすことができず、着用動作時に裏地によって圧迫感を受け、快適な着心地感を得ることが出来ない。着心地感を改善するために、大きなゆとり率やキセをとると、シルエットが損なわれるという問題がある。
【0005】
したがって、良好なシルエットと快適な着心地感を得るためには、伸びが2〜3%である従来の裏地ではなく、数%以上の伸びを有するいわゆるストレッチ裏地を使う必要がある。
【0006】
特許文献1には、一成分がポリトリメチレンテレフタレートである二種類のポリエステル成分を、繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合せた複合繊維のマルチフィラメントを、実質的に無撚りで経糸及び緯糸の少なくとも一方に用いた織物が記載されている。そして、この織物は、該複合繊維を用いた方向に10%以上の良好なストレッチ性を有し、かつ表面にシボが無く、さらに光沢や滑らかな触感およびソフトな風合いを有しており、ストレッチ裏地として好適であると記載されている。そして、実施例等では、緯方向のみに該複合繊維が用いられ、緯方向のみに10%以上のストレッチ性を有する裏地が開示されている。
【0007】
しかしながら、この裏地は、緯方向のみにストレッチ性を有するにすぎないため、ストレッチ表地の特長を十分に生かすことができず、満足しうる着心地感とシルエットを得ることができない。
【0008】
したがって、ストレッチ表地の特長を有効に生かし、満足しうる快適な着心地感と共に優れたシルエットを得るためには、経方向及び緯方向共にストレッチ性を有する、ストレッチ裏地が求められている。
【0009】
この課題を解決するために、上記の公開公報に記載されているような、二種類のポリエステル成分を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合せた複合繊維を、緯糸だけでなく経糸にも用いた織物が考えられるが、このような織物からなるストレッチ裏地を製造することは、これまで極めて困難であった。
【0010】
その理由は、上記の織物を通常の方法で染色加工すると、十分なストレッチ性が得られず、また、縫製時や家庭での取り扱い時に寸法変化が大きいという問題があり、さらに、生地にシボが発生し、滑りや風合いも硬く、裏地としては到底満足できるものが得られないからである。したがって、経方向及び緯方向共にストレッチ性を有し、寸法安定性、風合い等に優れたストレッチ裏地の製造技術を確立することが求められていた。
【特許文献1】特開2001−316923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、経方向及び緯方向ともにストレッチ性を有し、寸法安定性にも優れるストレッチ裏地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の染色仕上げ加工方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は下記の通りである。
(1)少なくとも二種類のポリエステル成分で構成され、その少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである複合繊維を、経糸及び緯糸に用いた織物からなる裏地を染色加工するに際し、染色前にヒートセットを2回行うことを特徴とする裏地の製造方法。
【0014】
(2)1回目のヒートセットの巾入れ率が10〜25%であり、ヒートセット温度が140〜180℃であることを特徴とする上記1に記載の裏地の製造方法。
(3)2回目のヒートセット温度が150〜190℃であることを特徴とする上記1または2に記載の裏地の製造方法。
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における裏地は、経方向及び緯方向共に7%以上のストレッチ率を有し、少なくとも二種類のポリエステル成分で構成され、その少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートであるポリエステル系の複合繊維を、経糸及び緯糸に用いた織物からなる。
【0016】
本発明において、複合繊維は、少なくとも二種類のポリエステル成分で構成され、その少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートであるポリエステル系の複合繊維である。二種類のポリエステル成分は、サイドバイサイド型又は偏心芯鞘型に接合されていることが好ましい。
【0017】
本発明における複合繊維は、潜在捲縮発現性を有し、熱処理によって捲縮を発現することができる。二種類のポリエステル成分の複合比は、質量%で70/30〜30/70の範囲内であることが好ましく、接合面形状は特に限定されないが、直線又は曲線形状のものが好ましい。また、複合繊維の繊度は30〜165dtexが好ましく、単糸繊度は0.3〜3dtexが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明における複合繊維は、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートであることに特徴がある。
【0019】
本発明において、ポリトリメチレンテレフタレートは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、トリメチレンテレフタレート単位を約50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくはは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上のものをいう。従って、第三成分として、他の酸成分及び/又はグリコール成分の合計量が、約50モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の範囲で含有されたポリトリメチレンテレフタレートを包含する。
【0020】
ポリトリメチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその機能的誘導体と、トリメチレングリコール又はその機能的誘導体とを、触媒の存在下で、適当な反応条件下に結合せしめることにより合成される。この合成過程において、適当な一種又は二種以上の第三成分を添加して共重合ポリエステルとしてもよい。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルやナイロンと、ポリトリメチレンテレフタレートとをブレンドしてもよい。ブレンドする際のポリトリメチレンテレフタレートの含有率は質量%で50%以上であることが好ましい。
【0021】
添加する第三成分としては、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、アジピン酸等)、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、ソジウムスルホイソフタル酸等)、脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等)、脂環族グリコール(シクロヘキサンジメタノール等)、芳香族を含む脂肪族グリコール(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)、ポリエーテルグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、脂肪族オキシカルボン酸(ω−オキシカプロン酸等)、芳香族オキシカルボン酸(p−オキシ安息香酸等)等が挙げられる。また、1個又は3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物(安息香酸等又はグリセリン等)も、重合体が実質的に線状である範囲内で使用出来る。
【0022】
さらに、二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等が含有されていてもよい。
【0023】
本発明に用いられる複合繊維の例としては、特開2001−40537号公報に開示されているようなポリトリメチレンテレフタレートを一成分とする複合繊維が挙げられる。
【0024】
即ち、二種類のポリエステルポリマーがサイドバイサイド型又は偏心芯鞘型に接合された複合繊維であり、サイドバイサイド型の場合、二種類のポリエステルポリマーの溶融粘度比は1.00〜2.00が好ましく、偏心芯鞘型の場合は、鞘ポリマーと芯ポリマーのアルカリ減量速度比は、3倍以上鞘ポリマーが速いことが好ましい。
【0025】
ポリマーの組み合わせの具体例としては、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート(テレフタル酸を主たるジカルボン酸とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、ブタンジオール等のグリコール類やイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸等を共重合してもよい。また、他のポリマー、艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料等の添加剤を含有してもよい。)、並びにポリトリメチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート(テレフタル酸を主たるジカルボン酸とし、1,4−ブタンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、エチレングリコール等のグリコール類やイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸等を共重合してもよい。また、他のポリマー、艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料等の添加剤を含有してもよい。)が好ましい。特に、捲縮の内側にポリトリメチレンテレフタレートが配置されることが好ましい。
【0026】
潜在捲縮発現性を有し、ポリエステル成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートである複合繊維としては、上記の特開2001−40537号公報以外にも、特公昭43−19108号公報、特開平11−189923号公報、特開2000−239927号公報、特開2000−256918号公報、特開2000−328382号公報、特開2001−81640号公報等に記載されたものがある。
【0027】
これらの公報には、第一成分としてポリトリメチレンテレフタレートを用い、第二成分としてポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルを用いて、第一成分と第二成分をサイドバイサイド型又は偏心鞘芯型に複合紡糸した複合繊維が記載されており、本発明に好ましく用いることができる。特に、ポリトリメチレンテレフタレートと共重合ポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせや、固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせが好ましい。
【0028】
複合繊維は、初期引張抵抗度が10〜30cN/dtexであることが好ましく、より好ましくは20〜30cN/dtex、さらに好ましくは20〜27cN/dtexである。なお、初期引張抵抗度が10cN/dtex未満の複合繊維は製造困難である。
【0029】
複合繊維は、顕在捲縮の伸縮伸長率が10〜100%であることが好ましく、より好ましくは10〜80%、さらに好ましくは10〜60%である。更に、顕在捲縮の伸縮弾性率は80〜100%であることが好ましく、より好ましくは85〜100%、さらに好ましくは85〜97%である。
【0030】
複合繊維は、100℃における熱収縮応力が0.1〜0.5cN/dtexであることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.4cN/dtex、さらに好ましくは0.1〜0.3cN/dtexである。100℃における熱収縮応力は、織物の精練工程、染色工程において捲縮を発現させるための重要な要件である。すなわち、織物組織の拘束力に打ち勝って捲縮が発現するためには、100℃における熱収縮応力が0.1cN/dtex以上であることが好ましい。
【0031】
複合繊維は、熱水処理後の伸縮伸長率が100〜250%であることが好ましく、より好ましくは150〜250%、さらに好ましくは180〜250%である。また、熱水処理後の伸縮弾性率が90〜100%であることが好ましく、より好ましくは95〜100%である。
【0032】
上記のような特性を有する潜在捲縮発現性の複合繊維としては、固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートが互いにサイドバイサイド型に複合された単糸から構成された複合繊維が、好ましい例として挙げられる。
【0033】
二種類のポリトリメチレンテレフタレートの固有粘度差は0.05〜0.50dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.45dl/g、さらに好ましくは0.15〜0.45dl/gである。例えば、高粘度側の固有粘度を0.7〜1.3dl/gから選択した場合には、低粘度側の固有粘度は0.5〜1.1dl/gから選択されるのが好ましい。
【0034】
また、この複合繊維自体の固有粘度、即ち、二種類のポリトリメチレンテレフタレートの平均固有粘度は、0.7〜1.2dl/gが好ましく、より好ましくは0.8〜1.2dl/g、さらに好ましくは0.85〜1.15dl/g、特に好ましくは0.9〜1.1dl/gである。
【0035】
なお、本発明でいう固有粘度の値は、使用するポリマーの固有粘度ではなく、紡糸して得られた糸の固有粘度を指す。この理由は、ポリトリメチレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレート等と比較して熱分解が生じ易く、高い固有粘度のポリマーを使用しても、紡糸工程で熱分解によって固有粘度が低下し、紡糸後に得られた糸においては、両ポリマーの固有粘度差をそのまま維持することが困難であるためである。
【0036】
複合繊維の紡糸については、例えば、上記の公報に記載された方法を適用することができ、例えば、3000m/分以下の巻取り速度で未延伸糸を得た後、2〜3.5倍程度で延撚する方法が好ましい。また、紡糸−延撚工程を直結した直延法(スピンドロー法)、巻取り速度5000m/分以上の高速紡糸法(スピンテイクアップ法)を採用してもよい。
【0037】
繊維の形態は、マルチフィラメントが好ましく、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面は、特に限定されず、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブ−メラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
【0038】
複合繊維の単糸繊度は、好ましくは0.3〜3dtexであり、より好ましくは0.5〜2.5dtexである。単糸繊度がこの範囲であると、製織性が良好であり、また、織物の風合いがソフトで、耐針性能が良好である。
【0039】
製織の際の経糸もしくは緯糸の太さは、40〜110dtexであることが好ましい。経糸もしくは緯糸の太さが上記の範囲であると、裏地として実用に供し得る引裂強力を得ることができ、また、裏地として適度の厚みが得られる。
【0040】
本発明において、裏地(仕上げ後)の緯糸密度は、経糸もしくは緯糸の太さにより変わるが、太さが56dtexの場合は90〜120本/2.54cmが好ましく、70dtexの場合は80〜110本/2.54cmが好ましい。また、経糸密度も、経糸もしくは緯糸の太さにより変わるが、太さが56dtexの場合は100〜180本/2.54cmが好ましく、33dtexの場合は150〜250本/2.54cmが好ましい。上記の範囲内であれば、厚み、風合いが良好である。
【0041】
本発明において、裏地を構成する織物の組織としては、平織り、ツイルなど任意な組織が選択可能であるが、平織り組織が最も薄手となり、各種アウターに使用することが出来るので好ましい。製織は、レピア、ウォータージェット、エアージェットなどの織機を用いることができる。
【0042】
本発明の製造方法は、染色前にヒートセットを2回行うことが特徴である。このヒートセットのセット条件が、裏地のストレッチ性と、寸法安定性を大きく左右するため、生地の巾と温度を厳密に管理することが出来る機械を用いることが好ましい。ヒートセットに用いる好ましい機械としては、ピンテンターが挙げられる。
【0043】
ヒートセットを2回行う工程順としては、特に限定されないが、生機を40〜90℃の温水に浸漬してウェットリラックス後、1回目のヒートセットを行い、次いで、必要に応じ樹脂加工後、2回目のヒートセットを行うことが好ましい。あるいは、生機をそのまま1回目のヒートセットを行い、次いで、40〜90℃の温水に浸漬してウェットリラックス後、必要に応じて樹脂加工を行った後、2回目のヒートセットを行うことも可能である。後者の、生機をそのままヒートセットを行う方が、ストレッチ性を制御しやすいので好ましい。
【0044】
なお、40〜90℃の温水に浸漬してウェットリラックスする具体的な方法は、特に限定されないが、40〜90℃の温度で2〜30分間、拡布状で連続的に、又は、ロープ状でバッチ式に行うことが出来る装置を用いることが好ましく、例えば、オープンソーパー、ウインス染色機などを使用することが可能である。
【0045】
また、1回目と2回目のヒートセットの間に、シュリンクサーファードライヤー、ショートループドライヤーなど、巾が設定されず、温度が180℃未満のヒートセット工程を追加することも可能であるが、本発明の方法では、これら巾が設定されないヒートセット工程は、ヒートセットの回数に含まない。
【0046】
2回目のヒートセット後は、必要に応じて、アルカリ減量を行い、染色、樹脂加工、仕上げセットを行い、裏地とする。
【0047】
本発明の製造方法では、1回目のヒートセットは、ストレッチ性を出すため、特に温度条件と巾入れ率が重要であり、1回目のヒートセットの巾入れ率がストレッチ性をほぼ決定する。巾入れ率は10〜25%とすることが好ましい。巾入れ率が10〜25%であると、十分な緯方向のストレッチ性が得られ、また、生地に凹凸状のシボが発生することがなく、滑りが良好で、裏地して好適な生地となる。
【0048】
オーバーフィード率は0〜15%とすることが好ましい。オーバーフィード率が0〜15%であると、生地に凹凸状のシボが発生することがなく、滑りが良好で、裏地として好適な生地となる。
【0049】
ヒートセット温度は140〜180℃とすることが好ましい。ヒートセット温度が140〜180℃であると、潜在捲縮発現性を有する複合繊維の捲縮発現が大きく、十分なストレッチ性が得られ、また、生地に凹凸状のシボが発生することがなく、滑りが良好で、裏地として好適な生地となる。ヒートセット温度は150〜170℃が好ましく、ヒートセットの時間は30〜90秒が好ましい。
【0050】
2回目のヒートセットは、1回目に行ったヒートセットにより発現した複合繊維の捲縮を固定し、かつ、仕上げ巾の決定を行う役目を果たすものであり、裏地の寸法を安定化するために、特に温度条件が重要である。
【0051】
2回目のヒートセットは、巾出し率を−10〜10%とすることが好ましく、オーバーフィード率を−10〜10%とすることが好ましい。
2回目のヒートセット温度は、1回目のヒートセット温度と同程度か、あるいは高く設定することが好ましく、好ましくは150〜190℃、さらに好ましくは160〜180℃である。ヒートセットの時間は30〜90秒とすることが好ましい。
【0052】
ヒートセット温度が上記の範囲であると、縫製時の熱プレスによる寸法変化が極めて小さく、家庭での製品洗濯においても寸法変化が極めて少ない、寸法安定性に優れたストレッチ裏地となる。また、発現した複合繊維の捲縮が十分に保持されるので、優れたストレッチ性が得られる。
【0053】
なお、巾入れ率、オーバーフィード率は、下記式により求める。但し、マイナス表示は、巾出し、及び、経引きセットを意味する。
巾入れ率=[(生機巾−ヒートセット後の巾)/生機巾]×100
オーバーフィード率=[(ヒートセット後の緯密度−生機の緯密度)/生機の緯密度]×100
【0054】
本発明の製造方法において、プレセット以降は、通常の染色仕上げ工程を適用することができ、染色については、液流染色機、エアフロー染色機など任意の染色機を使用することができる。また、必要に応じて、染色前に、ソフト化、薄地化のためアルカリ減量を行うことができる。
【0055】
さらに必要に応じて、通常、繊維加工に用いられる樹脂加工、柔軟加工、吸水加工、制電加工、抗菌加工、撥水加工、酵素処理などの加工を行い、仕上げセットを行うことができる。仕上げセットのセット温度は160〜190℃が好ましく、セット時間は30〜90秒が好ましい。また、巾設定は、規格巾に設定するが、洗濯などによる寸法安定性を考慮して、仕上げセットによる巾出し率は、染色シワとり程度の範囲内とすることが好ましい。
【0056】
本発明により製造される裏地は、経糸及び緯糸に、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである複合繊維を100%用いた場合に、最も安定して高品位のストレッチ裏地が得られる。しかし、本発明の効果を損なわない範囲で、他の繊維、例えば、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維、キュプラ、レーヨンなどの再生セルロース繊維などを混用することも可能である。ただし、ストレッチ裏地のストレッチ性や表面平滑性を阻害しないよう、混率は60%以下が好ましく、また、混用に際しては1本交互に配列するなどの工夫をすることが好ましい。
【発明の効果】
【0057】
本発明の製造方法により、シボが無く、滑りの良さ、肌触りの良さ、ソフトさ、しなやかさを兼ね備え、経方向及び緯方向ともにストレッチ性を有し、寸法安定性に優れたストレッチ裏地が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
なお、測定法、評価法等は下記の通りである。
【0059】
(1)固有粘度[η](dl/g)
固有粘度は、次式の定義に基づいて求められる値である。
【数1】

式中、ηrは、純度98%以上のo−クロロフェノール溶媒で溶解した複合繊維の稀釈溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cは、g/100mlで表されるポリマー濃度である。
【0060】
なお、固有粘度の異なるポリマーを用いた複合繊維は、単糸を構成するそれぞれのポリマーの固有粘度を測定することは困難であるので、複合繊維の紡糸条件と同じ条件で2種類のポリマーをそれぞれ単独で紡糸し、得られた糸を用いて測定した固有粘度を、複合繊維の固有粘度とした。
【0061】
(2)ストレッチ率(%)
ストレッチ率は、カトーテック(株)製のKES−FB1を用いて、20cm×20cmの裏地試料を、引っ張り速度0.2mm/秒で、裏地の経方向及び緯方向に伸長したときの4.9N/cm応力下での伸び(A:cm)より、次式によって求める。
【0062】
経ストレッチ(%)=(A/20)×100
緯ストレッチ(%)=(A/20)×100
ストレッチ率(%)=経ストレッチ(%)+緯ストレッチ(%)
【0063】
(3)寸法変化(%)
裏地の寸法変化を、JIS L1096(寸法変化、H−3法)に準じて測定した。
【0064】
(4)外観品位
裏地の外観品位を、下記の基準で4段階判定した。
5:非常に良好
4:良好
3:ところどころに細かいシボ(凹凸)があるが、合格である
2:シボ(凹凸)が目立つ
1:全面にシボ(凹凸)があり、不良である
【0065】
実施例に使用した複合繊維は、以下の製造例1、2により製造した。
〔製造例1〕
固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートを、ピーナツ形状の紡糸口金から、比率1:1でサイドバイサイド型に押出し、紡糸温度265℃、紡糸速度1500m/分で未延伸糸を得た。次いで、得られた未延伸糸を、ホットロール温度55℃、ホットプレート温度140℃、延伸速度400m/分で延撚した。なお、延伸倍率は、延伸後の繊度が56dtexとなるように設定した。
【0066】
得られた複合繊維は、56dtex/24フィラメントであり、固有粘度は、高粘度側が[η]=1.26、低粘度側が[η]=0.92であった。
〔製造例2〕
製造例1と同様にして、40dtex/24フィラメントの複合繊維を製造した。
【0067】
[実施例1]
上記の製造例1で得られた複合繊維(56dtex/24フィラメント)を経糸及び緯糸に用い、経糸本数105本/2.54cm、緯糸本数95本/2.54cmとして、平織り組織の織物を製織した。
【0068】
この織物を、巾入れ率15%、オーバーフィード率0%として、150℃で1回目のヒートセットを行った後、連続式の拡布状精練機を使用し、90℃で60秒間精練を行った。次いで、乾燥後、巾入れ率−15%(巾出し15%)、オーバーフィード率0%、170℃で2回目のヒートセットを行ってセット反を得た。
【0069】
このセット反を、液流染色機により120℃で染色し、175℃で仕上げセットを行った。仕上げセット時は、シワ伸ばし程度の巾出し、オーバーフィード率0%とした。仕上げセットして得られた裏地は、経密度143本/2.54cm、緯密度123本/2.54cmであった。
この裏地のストレッチ率、寸法変化、外観品位を評価した結果を表1に示す。
【0070】
[実施例2〜9]
実施例1において、ヒートセットの条件を表1に示す条件にしたこと以外は、実施例1と同様にして裏地を製造した。評価結果を表1に示す。
【0071】
[実施例10]
経糸に、上記の製造例2で得られた複合繊維(40dtex/24フィラメント)を用い、緯糸に、上記の製造例1で得られた複合繊維(56dtex/24フィラメント)を用い、経糸本数137本/2.54cm、緯糸本数95本/2.54cmとして、平織り組織の織物を製織した。
【0072】
得られた織物を、巾入れ率15%、オーバーフィード率10%として、150℃で1回目のヒートセットを行った後、連続式の拡布状精練機を使用し、90℃で60秒間精練を行った。次いで、乾燥後、巾入れ率−13%(巾出し13%)、オーバーフィード率0%として、180℃で2回目のヒートセットを行ってセット反を得た。
【0073】
このセット反を、液流染色機により120℃で染色し、175℃で仕上げセットを行った。仕上げセット時は、シワ伸ばし程度の巾出し、オーバーフィード0%とした。仕上げセットして得られた裏地は、経密度166本/2.54cm、緯密度122本/2.54cmであった。
この裏地のストレッチ率、寸法変化、外観品位を評価した結果を表1に示す。
【0074】
[比較例1及び2]
実施例1において、ヒートセットを1回のみとして表1に示す条件で行ったこと以外は、実施例1と同様にして裏地を製造した。評価結果を表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により製造されるストレッチ裏地は、ストレッチ表地の特性を有効に生かすことができるので、この裏地を用いることにより、体にフィットしたスリムなシルエットの衣服が得られ、着用動作時、圧迫感を受けることはほとんどなく、快適な着心地感を楽しむことが出来る。また、この裏地は、ストレッチ性、寸法安定性に優れ、洗濯を繰り返してもほとんど寸法変化がない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二種類のポリエステル成分で構成され、その少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである複合繊維を、経糸及び緯糸に用いた織物からなる裏地を染色加工するに際し、染色前にヒートセットを2回行うことを特徴とする裏地の製造方法。
【請求項2】
1回目のヒートセットの巾入れ率が10〜25%であり、ヒートセット温度が140〜180℃であることを特徴とする請求項1に記載の裏地の製造方法。
【請求項3】
2回目のヒートセット温度が150〜190℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の裏地の製造方法。

【公開番号】特開2007−231437(P2007−231437A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52795(P2006−52795)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】