説明

裏波溶接方法

【課題】
狭い開先底部の裏面側に裏ビード形成が必要な開先継手に対して、非消耗性のタングステン電極によるパルスアーク溶接又は直流アーク溶接の適正施工によって裏面側に凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に形成し得る。
【解決手段】
パルスアーク溶接のピーク電流,ベース電流,ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が特定値である4〜6mmの範囲に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管の突合せ溶接方法及び装置に係わり、特に溶接部の信頼性確保のための裏波溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材の開先継手を表面側からアーク溶接を行う場合、多層盛溶接が必要であるばかりでなく、初層溶接で裏面側に完全溶け込みの健全な裏ビード形成が必要である。下向き姿勢での溶接は、施工が比較的易しく、初層溶接時に裏面側の裏ビードが凸形状に形成し易い。これに対して、上向き姿勢や横向き姿勢や全姿勢の初層溶接(裏波溶接)では、裏面側の裏ビード形状が凹み易く、下向き姿勢より施工が格段に難しく、高度な溶接技術を必要とする。
【0003】
特に、原子力発電プラント,火力発電プラント,精密機械部品などで使用される高級材料を溶接する場合には、規定の試験に合格した高度な溶接技能を有する熟練溶接士が施工している。この時の溶接法は、主にTIG(タングステン イナートガス)アーク溶接法が用いられている。例えば、熟練溶接士が溶接トーチ及びワイヤ送りを手動操作する手動TIG溶接、あるいはこの手動TIG溶接の一部を機械化した自動TIG溶接装置を熟練溶接士が操作する自動TIG溶接が行われている。また、最近では、カメラで溶接部を撮像して溶接状態やビード形成状態を監視する装置、あるいはカメラで撮像する溶接部の画像を処理して溶融プール形状を検出し、その検出結果に基づいて溶接条件を制御する装置を備えた自動溶接装置が開発,実用されつつある。
【0004】
開先継手の形状については、V開先,Y開先,J開先よりもU開先の方が裏波溶接の施工に適しており、多く用いられている。また、最近では、開先角度の広い従来開先から開先幅及び開先角度をより狭くした狭開先継手に替わりつつあり、この狭開先継手に適した初層裏波溶接、それ以降の多層盛溶接を適正に施工する必要がある。
【0005】
また、対象製品の溶接結果については、溶接欠陥のない高品質で信頼性の高い溶接部が要求されるため、初層裏波溶接の終了後や最終層までの溶接終了後に、非破壊検査(例えばX線検査など)による品質検査を実施して溶接欠陥の有無を確認している。初層溶接後の裏面側に溶け込み不良や凹み形状の裏ビードがあると溶接欠陥と判定され、この溶接欠陥及びその周辺部を研削,機械加工によって削除し、補修溶接しなければならない。また、最終溶接後の溶接内部に融合不良などの欠陥が発見された場合も、この溶接欠陥及びその周辺部を削除して補修溶接しなければならず、多大な時間及び費用が必要になる。
【0006】
裏波溶接に関する溶接方法や溶接装置が幾つか提案されている。例えば、特開平8−
90229号公報(特許文献1)に記載の管の突合せ溶接方法及びその装置では、管の突合せ部にインサートリングを挿入してU形状開先を設け、ルートフラット長を1パスの溶接ビード幅以上の長さになるように調整した後に、全自動で溶接することが提案されている。さらに、裏ビードの高さが管内面と同一以上の高さに形成できるように、溶接部(表面側)のビード幅,ビード温度,溶融池幅,溶融池面積及び溶融池温度の少なくとも1つの情報に基づいて入熱量を制御することが提案されている。
【0007】
また、特許文献2(特開平7−214316号公報)に記載の片面自動溶接方法及び装置では、レーザスリット光を溶接部の裏面側から溶接線直角方向に照射して得られる裏波ビードの形状状態の光切断画像を干渉フィルタを介してITVカメラにて撮像し、この撮像した画像を画像処理して裏波ビード高さを求め、この裏波ビードの高さと溶接姿勢とに応じて溶接条件を制御することが提案されている。
【0008】
また、特許文献3(特開2000−61637号公報)に記載の裏波溶接装置及び裏波溶接方法では、溶接部の裏面を撮像して得られた画像データから赤熱部の大きさを検出し、低周波TIGパルスアーク溶接の周期よりも長く設定された検出時間内で、前記赤熱部の大きさが増減している時は適正な裏波ビードが形成されていると判定し、その判定結果を出力,表示すること、あるいは前記判定後に前記赤熱部の輝度データの総和を求め、この輝度データの総和に基づいて裏波ビードの大小を評価し、その評価結果を出力することが提案されている。
【0009】
また、特許文献4(特開2000−153356号公報)に記載の内面監視装置と自動溶接装置では、溶接部位の裏面側に配置して初層溶接時の裏面側の溶接状態を監視する監視手段と、この監視手段の監視結果を出力する出力手段とを備えた内面監視装置であること、さらに、この内面監視装置と、操作に従って溶接対象の配管に溶接を施す溶接手段と、この溶接手段の溶接条件を調整する溶接条件調整手段とを備えた自動溶接装置が提案されている。
【0010】
また、特許文献5(特開平8−197254号公報)に記載の自動溶接方法及び自動溶接装置では、溶接線上に開先ブロックのような障害物がある開先継手に対して、各開先ブロックを飛び越し回避しながら仮付け溶接条件で溶接動作を行うこと、開先ブロック除去後に、多層多パスの溶接条件の順列に従って全パス終了するまでの多層多パス溶接を順次に実行することが提案されている。
【0011】
また、特許文献6(特開2003−181643号公報)に記載の裏波溶接方法,裏波溶接装置では、溶接線に沿って形成される溶融池に直流電流を流すと同時に、前記溶融池に溶接線と直交する方向の磁界を付与し、前記溶融池に作用する重力よりも大きい上向きのローレンツ力を前記溶融池に作用させること、また、配管の円周溶接時には溶融池の内周面方向にローレンツ力を作用させることが提案されている。
【0012】
【特許文献1】特開平8−90229号公報
【特許文献2】特開平7−214316号公報(特許2977435号公報)
【特許文献3】特開2000−61637号公報
【特許文献4】特開2000−153356号公報
【特許文献5】特開平8−197254号公報(特許3261516号公報)
【特許文献6】特開2003−181643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した熟練溶接士による手動TIG溶接は、担当する溶接士の技能レベルによって溶接結果に違いやバラツキが生じるばかりでなく、集中力や体調の変化により、常に健全で良好な溶接品質を確保することが難しい。特に、初層溶接時に均一で良好な裏ビードを常に得ることが難しい。適正に形成すべき裏ビード幅の基準値がないため、担当する溶接士によって裏ビードの形成状態に大きなバラツキがある。例えば、溶け不足(裏ビードなし欠陥)を避けるように、溶け落ちに近い幅広の裏ビードであったり、その裏ビード幅が断続的に大小変化していたりして、溶接品質が不十分なこともある。また、初層裏波溶接から最終層までの多層盛溶接が必要となれば、悪環境下での長時間にわたる過酷な溶接作業にならざるを得ず、欠陥のない溶接を持続することは困難である。
【0014】
一方、上記特許文献1の場合には、管内面と同一高さあるいは凸形状の裏ビードを得るための工夫がされている。しかしながら、インサートリングの幅bを含む開先底部のルートフラット長dが長く、ルートフェイス長(厚み)bが小さいため、初層裏波溶接時に開先底部の両壁面が溶かされず、裏ビードの厚みが薄く形成されることになる。このため、初層溶接後の2層目溶接時に、開先底部の壁面の溶融と同時に裏面側まで溶融し、初層溶接時に形成した裏ビードが再溶融されて凹形状に変化する可能性が高い。また、表面側の溶接部から得られる情報を基に入熱量を制御するようにしているが、裏面側の溶融状態を監視する又は検出する情報ではないため、所望の裏ビードを得ることが難しい。さらに、開先角度θが広い(30°≦θ≦60°)ため、初層溶接以降に溶接すべき開先断面積が増大し、多くの多層多パス溶接が必要になる。
【0015】
また、特許文献2の場合には、溶接直後の裏ビード高さの検出によって溶接ビードの結果の良し悪しを判定するようにしている。しかしながら、既に欠陥を有した裏ビードになったものに対して、溶接条件を制御しても回復することができない。また、レーザスリット光による光切断画像から裏ビード幅,ビード形成前方の溶融プール幅を検出することは困難であり、記載もされていない。
【0016】
また、特許文献3の場合には、パルス周期より長くした検出期間内で、赤熱部の大きさ(幅)や輝度の積分値(輝度データの総和)が変動する状態より裏ビード形成の良否判定,裏ビードの大小判定をし、その判定結果を出力,表示するようにしている。しかしながら、裏ビードの悪化時や形成不足時に溶接条件を調整したり、制御したりするまでに至っていない。また、パルス周波数が高い10Hz以上のパルスアーク溶接の場合は、パルス周期が短くなり、しかも、裏ビードの幅変動が小さいため、裏ビード形成の良否の適正に判定することができない可能性が高い。さらに、パルスアーク溶接と異なる直流アーク溶接には適用することが困難である。
【0017】
また、特許文献4の場合には、初層溶接時の裏面側の溶接状態を監視手段で監視した監視結果を出力手段に出力して、溶接士に報知(目視)できるようにしているが、その監視結果の良し悪しは、担当する溶接士の判断に任せたままである。どのような溶接状態が最適な裏ビード形成なのか不明であるばかりでなく、溶接条件の何をどのように調整すればよいのか全く記載されていない。また、溶接中又は溶接後に、溶け落ちや溶け残りなどの欠陥部を見つけることができるが、その欠陥部を溶接中に回復することができず、溶接後に補修溶接を行う必要がある。
【0018】
一方、特許文献5は、本発明者らが提案した自動溶接方法及び自動溶接装置であり、開先ブロック付きの開先継手の多層多パス溶接を自動化するのに有効である。しかしながら、初層溶接で重要な裏ビードの適正幅が考慮されておらず、また、裏ビードの形成状態を監視,検出する手段も設けられていなかった。また、開先継手の開先角度が広いため、初層溶接以降に溶接すべき開先断面積が増大し、多くの多層多パス溶接が必要になっていた。
【0019】
特許文献6の場合には、裏波溶接時に形成される溶融池に流す溶接線方向の直流電流と前記溶融池に付与する直交方向の磁界とによって発生するローレンツ力を溶融池(溶接部)の裏面側方向に働くようにしている。しかしながら、ローレンツ力の発生及び調整に不可欠な磁界を付与,制御するための特別な磁界発生用電源,コイル及び制御器が必要である。さらに、ワイヤ(溶加材)に正極性の直流電流を流す必要があり、このワイヤへの給電加熱によってワイヤ溶融量が増すため、裏面側の裏ビード形成に悪影響を及ぼす可能性がある。また、裏ビードの形成状態を監視又は検出するような装置は、特別に配備されていないし、適正な裏ビード幅についても全く記載されていない。
【0020】
この他にも、裏波溶接時の溶接条件を制御する方法や溶接装置があるが、具体的に裏波溶接法をどのようにすべきかの検討がなされていない。
【0021】
本発明の目的は、信頼性の高い裏波溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、上記目的を達成するために、裏面側の溶融プール幅又は裏ビード幅を特定値である4〜6mmの範囲としたことを特徴とする。
【0023】
特に、溶接対象の容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材を突き合せた狭い開先底部の裏面側に完全溶け込みの裏ビード形成が必要な開先継手に対して、溶接トーチの先端部に装着した非消耗性の電極を前記開先継手の開先内に挿入し、又は前記非消耗性の電極とアーク中に送給するワイヤとを開先内に挿入し、パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行う裏波溶接方法において、前記パルスアーク溶接のピーク電流,ベース電流,ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅を特定値である4〜6mmの範囲に形成するようにしたことを特徴とする裏波溶接方法を提案する。
【0024】
また、本発明は、上記目的を達成するために、溶接対象の容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材を突き合せた狭い開先底部の裏面側に完全溶け込みの裏ビード形成が必要な開先継手に対して、溶接トーチの先端部に装着した非消耗性の電極を前記開先継手の開先内に挿入し、又は前記非消耗性の電極とアーク中に送給するワイヤとを開先内に挿入し、パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行う裏波溶接方法において、前記開先継手の開先底部中央にインサート材を表面側及び裏面側に各々突き出すように予め設け、前記裏波溶接の実施時に、前記パルスアーク溶接のピーク電流,ベース電流,ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が4〜6mmの範囲となるよう形成することを特徴とする裏波溶接方法を提案する。
【0025】
また、本発明は、上記目的を達成するために、溶接対象の容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材を突き合せた狭い開先底部の裏面側に完全溶け込みの裏ビード形成が必要な開先継手に対して、溶接トーチの先端部に装着した非消耗性の電極を前記開先継手の開先内に挿入し、又は前記非消耗性の電極とアーク中に送給するワイヤとを開先内に挿入し、パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行う裏波溶接方法において、前記開先継手の開先底部中央にインサート材を表面側及び裏面側に各々突き出すように予め設け、表面側の開先内にある前記電極の位置と反対側になる裏面側の位置かその近傍に配備するカメラ又はこのカメラと撮像周辺部を照らす照明手段又は前記カメラに該当する撮像手段と前記照明手段とによって撮像する裏面側の前記インサート材を含む溶融プール及びこの周辺部の映像と、この映像の大きさ又は溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅を示す寸法,初層溶接で形成すべき裏ビード幅の適正範囲を示す特定値とを映像モニタ装置又はこの映像モニタ装置に該当する映像表示手段に画面表示し、前記裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように初層溶接条件を出力させて前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うことを特徴とする裏波溶接方法を提案する。
【0026】
特に、前記裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の適正範囲を4〜6mmに特定して前記画面表示し、初層溶接条件を出力させて裏面側の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するようにするとよい。
【0027】
また、前記裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記パルスアーク溶接のピーク電流,ベース電流,ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、あるいは前記1つ以上の条件値を調整又は制御すると共に、表面側の前記電極の位置又はこの電極位置及びワイヤ位置を調整又は制御するようにするとよい。
【0028】
また、前記開先継手の管部材又は平板部材は、主にオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなる狭開先継手であり、前記インサート材の幅を含む開先底部の開先幅を4〜8mmの範囲のうち一の寸法に予め形成し、前記狭開先継上部までの片面角度を5°以下に形成し、前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うとすることもできる。
【0029】
さらに、本溶接の前記裏波溶接を行う以前に、裏面側の継ぎ部及び前記インサート材の突き出し部が溶融しない程度の小入熱の仮付け条件で、表面側の開先底部の継ぎ部とインサート材の突き出し部とを溶融接合するように、前記開先継手の表面側からワイヤ送りなしの仮付け溶接を行うとよい。
【0030】
特に、前記開先継手の開先底部中央に設ける前記インサート材は、前記開先継手材と同質材のオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなるインサート材、あるいは前記開先継手材と同質材であって、化学組成の一つであるS(重量%)が前記開先継手材より高めの
0.008〜0.015%含有しているインサート材を用い、前記仮付け溶接の終了後に、本溶接の初層溶接条件を出力させて、前記表面側から裏面側の継ぎ部及び前記インサート材の突き出し部を溶融させ、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように前記裏波溶接を行うとよい。
【0031】
また、前記カメラ又は前記撮像手段によって撮像する裏面側の前記インサート材を含む溶融プール及びこの周辺部の画像を処理して溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅をリアルタイムで検出可能な画像処理装置又はこの画像処理装置に該当する検出処理手段をさらに設け、前記画像処理装置又は前記検出処理手段による検出結果に基づいて、前記裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記パルスアーク溶接のピーク電流,ベース電流,ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を増減制御し、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を増減制御することもできる。
【0032】
また、前記初層の裏波溶接の終了後又は前記仮付け溶接を含む初層裏波溶接の終了後に行う2層目の溶接では、少なくとも初層溶接時に形成した前記裏ビードを再溶融させない程度の溶接入熱に抑制した溶接条件に変更して溶接し、さらに、3層目から開先上部の最終層までの溶接では、少なくとも前記初層裏波溶接の初層条件及び前記2層目の溶接条件と異なる積層溶接に適した複数の溶接条件に適宜変更し、前記狭開先の上部まで1層1パスずつ積層する多層盛溶接を順番に行うようにすることもできる。
【0033】
すなわち、本発明の裏波溶接方法では、初層裏波溶接の実施時に、前記パルスアーク溶接のピーク電流,ベース電流,ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が特定値である4〜6mmの範囲に形成するようにすることにより、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。裏波溶接が比較的易しい下向き姿勢や立向き上進姿勢の溶接はもちろんのこと、裏波溶接が比較的難しい傾向にある上向き姿勢や横向き姿勢の溶接,全姿勢溶接にも有効である。
【0034】
また、本発明の裏波溶接方法では、前記開先継手の開先底部中央にインサート材を表面側及び裏面側に各々突き出すように予め設けることにより、裏面側に適正範囲(4〜6mm)の裏ビード幅Bを確実に凸形状に形成できるばかりでなく、開先底部の突合せ部に生じ易い段違いやギャップの影響を緩和することができる。そして、初層裏波溶接の実施時に、上述したように、1つ以上の条件値を調整又は制御し、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が特定値である4〜6mmの範囲に形成するようにすることにより、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができ、特に、裏波溶接が比較的難しい傾向にある上向き姿勢や横向き姿勢の溶接,全姿勢溶接に適用することができる。
【0035】
また、本発明の裏波溶接方法では、表面側の開先内にある前記電極の位置と反対側になる裏面側の位置かその近傍に配備するカメラ又はこのカメラと撮像周辺部を照らす照明手段又は前記カメラに該当する撮像手段と前記照明手段とによって撮像する裏面側の前記インサート材を含む溶融プール及びこの周辺部の映像と、この映像の大きさ又は溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅を示す寸法,初層溶接で形成すべき裏ビード幅の適正範囲を示す特定値とを映像モニタ装置又はこの映像モニタ装置に該当する映像表示手段に画面表示することにより、初層裏波溶接で重要な裏面側の溶融プール及び裏ビードの形成状態や大きさ,裏面側に突き出ているインサート材の溶融状態,特定値の裏ビード幅を映像として監視及び観察でき、溶接中の裏ビード幅が適正範囲に形成されているか否かを容易に判定することができる。例えば、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の適正範囲を4〜6mmに特定し、この特定値を画面表示して監視可能な状態にした後に、裏面側の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、初層溶接条件を出力させて前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うことにより、溶接装置を操作する溶接士が代わっても個人差の影響がなくなり、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に形成することが確実にでき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。
【0036】
また、溶接中及び監視中の溶融プール幅又は裏ビード幅が前記特定値の適正範囲より小さくなる又は大きくなる状態であれば、前記パルスアーク溶接のピーク電流,ベース電流,ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御することにより、裏面側の溶融プール幅,裏ビード幅を前記適正範囲(4〜6mm)内に回復することが確実にできる。さらに、前記1つ以上の条件値を調整又は制御すると共に、表面側の前記電極の位置又はこの電極位置及びワイヤ位置を調整又は制御することにより、電極の位置ずれ(例えば左右方向の電極位置ずれ)やワイヤの位置ずれをなくし、蛇行や融合不良のない良好な裏ビード幅を適正範囲に形成することができる。
【0037】
特に、ピーク電流(パルスアーク溶接の時)や平均電流(直流アーク溶接の時)を増減調整すると、アーク力及び入熱量の増減によって溶融プール幅及びその溶融プール近傍の裏ビード幅を短時間で適正範囲内に回復することができ、応答性の緩やかな溶接速度又は走行速度の調整より優位である。次にベース電流の増減調整かアーク長又はアーク電圧の調整が有効である。また、ワイヤ送り速度の調整は、溶着金属の増減及び溶融プールの温度変化によって裏ビード幅と表面側のビード高さとの両方を微調整することができる。
【0038】
また、前記開先継手の管部材又は平板部材は、主にオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなる狭開先継手であり、前記インサート材の幅を含む開先底部の開先幅を4〜8mmの範囲に含まれる一の寸法に予め形成し、前記狭開先継上部までの片面角度を5°以下に形成することにより、原子力発電プラント,火力発電プラント,化学プラント,精密機械部品などで使用される高級材料の継手であっても、溶接すべき開先断面積を従来より大幅に小さくでき、1層1パスずつ積層する多層盛溶接によって使用する溶接ワイヤ量の削減や溶接工数の低減を図ることができる。また、上述したように、初層裏波溶接時には、裏面側の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、初層溶接条件を出力させて前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うことにより、溶接装置を操作する溶接士が代わっても個人差の影響がなくなり、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に確実に形成でき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。
【0039】
また、前記開先継手の開先底部中央にインサート材を表面側及び裏面側に各々突き出すように予め設けることにより、裏面側に適正範囲(4〜6mm)の裏ビード幅Bを確実に凸形状に形成できる。また、開先底部の突合せ部に生じ易い段違いやギャップの影響を緩和することができる。このインサート材は、前記開先継手材と同質材のオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなるインサート材、あるいは前記開先継手材と同質材であって、化学組成の一つであるS(重量%)が前記開先継手材より高めの0.008〜0.015%含有しているインサート材を用いるとよい。特に、前記Sの含有量が高めのインサート材を用いることにより、Sの含有量が少ない通常のインサート材使用の溶接時よりも、アーク形状が細く絞られ、深さ方向への溶融金属の対流及び溶け込みが促進し、10〜20%程度少ない溶接電流(又は入熱量)の溶接条件で裏面側に裏ビードが容易に形成でき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。
【0040】
また、本溶接の初層裏波溶接を行う以前に、裏面側の継ぎ部及び前記インサート材の突き出し部が溶融しない程度の小入熱の仮付け条件で、表面側の開先底部の継ぎ部とインサート材の突き出し部とを溶融接合するように、前記開先継手の表面側からワイヤ送りなしの仮付け溶接を行うことにより、溶接対象の開先継手を確実に接合固定することができるばかりでなく、本溶接の初層裏波溶接時にワイヤ送りが容易になると共に、裏ビード形成への悪影響をなくすことができる。そして、この仮付け溶接の終了後に、本溶接の初層溶接条件を出力させて、前記表面側から裏面側の継ぎ部及び前記インサート材の突き出し部を溶融させ、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように前記裏波溶接を行うことにより、ワイヤ送りの溶接が容易にできるばかりでなく、上述したように、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。特に、高度な溶接技術を要する配管の全姿勢溶接,管材の横向き姿勢の溶接,平板材の上向き姿勢の初層裏波溶接に適している。
【0041】
一方、裏面側に配備する前記カメラ又は前記撮像手段によって撮像する裏面側の前記インサート材を含む溶融プール及びこの周辺部の画像を処理して溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅をリアルタイムで検出可能な画像処理装置又はこの画像処理装置に該当する検出処理手段をさらに設けることにより、裏面側の溶融プール又は裏ビード幅を極短い時間間隔で高精度に検出することができる。また、前記画像処理装置又は前記検出処理手段による検出結果に基づいて、前記裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記パルスアーク溶接のピーク電流,ベース電流,ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を増減制御し、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を増減制御することにより、上述したように、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に確実に形成できるばかりでなく、自動溶接が可能になり、溶接士の負担を大幅に軽減でき、溶接品質の向上や生産性の向上を図ることができる。
【0042】
また、前記初層の裏波溶接の終了後又は前記仮付け溶接を含む初層裏波溶接の終了後に行う2層目の溶接では、少なくとも初層溶接時に形成した前記裏ビードを再溶融させない程度の溶接入熱に抑制した溶接条件に変更して溶接することにより、裏ビードの再溶融が確実に防止できると共に、表面側に積層するビード高さを増すことができる。さらに、3層目から開先上部の最終層までの溶接では、少なくとも前記初層裏波溶接の初層条件及び前記2層目の溶接条件と異なる積層溶接に適した複数の溶接条件に適宜変更し、前記狭開先の上部まで1層1パスずつ積層する多層盛溶接を順番に行うようにすることにより、仮付け溶接を含む初層裏波溶接、2層目溶接以降の積層溶接に必要な多層盛溶接を確実に仕上ることができるばかりでなく、上述したように、溶接すべき開先断面積を従来より大幅に小さくでき、1層1パスずつ積層する多層盛溶接によって使用する溶接ワイヤ量の削減や溶接工数の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の裏波溶接方法によれば、溶接対象の容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材を突き合せた狭い開先底部の裏面側に完全溶け込みの裏ビード形成が必要な開先継手に対して、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が特定値の適正範囲(4〜6mm)になるようにパルスアーク溶接又は直流アーク溶接の条件値を調整又は制御することによって、裏面側に凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に形成することができる。また、本発明の裏波溶接方法によれば、溶接すべき開先断面積を従来より大幅に小さくでき、1層1パスずつ積層する多層盛溶接が可能になり、使用する溶接ワイヤ量の削減や溶接工数の低減が図れ、仮付け溶接を含む初層裏波溶接、2層目溶接以降の積層溶接(多層盛溶接)に必要な充填層及び最終層までの各溶接を確実に仕上ることができる。さらに、1層1パスずつ積層するパス毎の入熱量や多層盛溶接の累計入熱量を従来溶接より大幅に低減できるばかりでなく、溶接による熱変形や溶接部の残留応力を低減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の内容について、図1〜図7の実施例に用いて具体的に説明する。図1は、本発明の裏波溶接方法に係わる溶接装置の一実施を示す概略構成図である。溶接対象の継手部材1,2は、開先底部の裏面側に裏ビード15形成(完全溶け込み)を有する初層裏波溶接,開先上部までの多層盛溶接が必要な厚板の狭開先継手ある。この狭い継手部材1,2の開先内3に非消耗性の電極6を挿入する。この電極6は、溶接台車5に搭載されている溶接トーチ4(TIGトーチ)の先端に装着され、この溶接トーチ4を駆動する溶接台車5内の駆動機構(省略)によって開先内3の上下方向及び左右方向に移動できるようになっている。また、この電極6は、例えばLa23入りW,Y23入りWなどの高融点材のタングステンを主成分とする市販品の丸電極棒を用いればよい。本溶接試験によれば、太径電極の横幅を狭く偏平形状に加工しなくても、開先内3に挿入可能な細径の丸電極6(例えば外径φ2.4 の電極棒の先端のみを円錐形状に加工)であっても、シールドガス33が流入するガス雰囲気内で、この丸電極6先端と開先底部との間に発生させるアーク10が開先内3の壁面側にはい上がることなく、そのアーク10を開先底部位置に安定に持続することができる。また、前記非消耗性の電極6と省略してあるワイヤ9aとを前記継手部材1,2の開先内3に挿入し、アーク10中にワイヤ9aを送りながらパルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うこともできる。表面側の溶接部に流入するシールドガス33は、不活性の純Arガス、あるいはAr+数パーセントH2 入りの混合ガス又はAr+数十パーセントHe入りの混合ガスを使用すればよい。また、Ar+H2 +Heの三元混合ガスの使用も可能である。開先底部中央に設けるインサート材19については図3にて説明する。
【0045】
TIG溶接電源8は、前記溶接トーチ4先端の電極6と継手部材1,2との間に接続されており、溶接モードを選択するスイッチによってパルスアーク溶接又は直流アーク溶接の切り換えが可能な溶接電源である。パルスアーク溶接を選択した場合は、このパルスアーク溶接の給電に必要なピーク電流とベース電流,アーク電圧などの各条件値を任意に出力でき、また、パルス周波数の任意変更(例えば1Hz〜最大500Hz)もできるようになっている。パルスアーク溶接と異なる直流アーク溶接を選択した場合には、溶接電流(平均電流)に該当する所望の直流電流,アーク電圧(平均アーク電圧)を出力することができる。溶接制御装置7aは、図示していないレール上を走行可能な溶接台車5の走行を指令制御し、TIG溶接電源8の出力を指令制御し、溶接トーチ4(電極6)の左右位置,上下位置を必要に応じて指令制御し、電極6先端部へのワイヤ9aの供給、このワイヤ9aの左右位置及び上下位置を必要に応じて調整し、さらに、継手部材1,2の裏面側に配備してある裏面側監視装置17を駆動するものである。操作ペンダント7bは、溶接制御装置7aに接続されており、パルスアーク溶接時のピーク電流とそのピーク電流時間,ベース電流とそのベース電流時間、又はパルス周波数とピーク電流の時間比率,電極高さの制御(AVC制御)に使用するピーク電圧又はベース電圧又は平均アーク電圧,ワイヤ送り速度,溶接速度に該当する走行速度の各条件値を設定したり、これらの条件値を溶接中に割り込んで調整したり、溶接トーチ4の位置ずれや、省略しているワイヤ9aの位置ずれを調整したりすることができるようになっている。一方、直流アーク溶接を選択した場合には、単純に直流電流(溶接の平均電流)を設定及び調整すればよく、他の条件調整や位置ずれ調整はパルスアーク溶接の場合と同じである。
【0046】
裏面側監視装置17には、裏面側の溶融プール16及びこの周辺部を撮像するカメラ
11、この撮像周辺部を照らす照明手段32(例えば小径の照明ランプ),前記裏面側の溶融プール16及びこの周辺部の裏ビード15を保護するためのバックシールドガス34(例えばArガス)を流すガス流出ボックスを装備している。また、映像モニタ装置13は、カメラ制御器12と一対の前記カメラ11又はこのカメラ11に該当する撮像手段によって撮像する裏面側の溶融プール16及びこの周辺部の映像を画面表示するものであり、同時に、この映像の大きさ又は溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅Bを示す寸法,初層溶接で形成すべき裏面側の溶融プール幅又は裏ビード幅の適正範囲を示す特定値14を映像モニタ装置13の画面内に画面表示するようにしている。この適正範囲の特定値は4〜6mmであり、この特定した数値及びこの数値に該当する線引きライン(点線)又は寸法矢印を監視可能な状態に画面表示している。特に、この画面表示に当っては、前記特定値の数値及びこの数値に該当する線引きラインと、前記溶融プール幅又は裏ビード幅との相違を明瞭に区別可能なように色分け表示するとよい。
【0047】
このように、前記映像モニタ装置13又はこの映像モニタ装置13に該当する映像表示手段に画面表示することにより、初層裏波溶接で重要な裏面側の溶融プール及び裏ビードの形成状態や大きさ、裏面側に突き出ているインサート材19の溶融状態、特定値の裏ビード幅を映像として監視及び観察でき、溶接中の裏ビード幅が適正範囲に形成されているか否かを容易に判定することができる。特に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅Bの適正範囲を4〜6mmに特定し、この特定値を映像モニタ装置13の画面内に直接色分け表示して明瞭に監視可能な状態にした後に、裏面側の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、初層溶接条件を出力させて前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うことにより、溶接装置を操作する溶接士が代わっても個人差の影響がなくなり、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に形成することが確実にでき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。本実験によれば、例えば、裏面側の溶融プール幅が2.5mm 以下になると、裏ビードが形成したり、形成しなかったりする極めて不安定な状態になり、さらに小さくなると、全くでない溶融不足(裏ビードなし)の欠陥溶接の結果に至った。一方、裏面側の溶融プール幅が7.5mm を超える大きさになると、下向き姿勢での裏ビード形状が1mm以上凸形状に盛り上り(下側に沈み込む形状)、反対に、上向き姿勢での裏ビード形状は1mm程度凹んでしまう結果になり、溶接姿勢の違いによって裏面側の裏ビードが凹凸形状に変化した。さらに、裏面側の溶融プール幅が9mmを超えると、溶け落ちる欠陥溶接に至った。したがって、上述したように、裏面側の溶融プール幅及び裏ビード幅を4〜6mmの範囲に特定して確実に形成させ、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビードを得るようにしている。また、本実験によれば、例えば、パルスアーク溶接時のピーク電流の時間比率50%一定の基で、パルス周波数を1Hzから5Hz,20Hz,50Hz,100Hz,150Hz,300Hz,最大500Hzまでの8段階に変化させてそれぞれ初層裏波溶接を行った。その結果、いずれのパルス周波数領域(1Hz〜500Hzの領域)においても、裏面側に裏ビード15が確実に形成でき、さらに、例えばピーク電流やベース電流、あるいは溶接速度,ピーク電圧又はアーク長を調整することにより、溶接開始部から溶接終了部までの裏ビード幅Bを前記特定値の適正範囲に良好に得ることができた。また、直流アーク溶接を行った時も、平均電流、あるいは溶接速度,平均アーク電圧又はアーク長を調整することにより、パルスアーク溶接時とほぼ同様に、適正範囲の裏ビード幅を得ることができた。なお、パルスアーク溶接時のパルス周波数が最も低い1Hz(パルス周期時間:1s)の場合は、例えば、溶接速度が90mm/min 以上の速度領域で裏ビードのリップル形状(貝殻模様のような波目)が荒くなり易い。一方、パルス周波数が300Hz,
500Hzの場合には、パルス周期時間が極端に短くなるため、給電ケーブルの延長(例えば10倍の150mmに延長)が必要な時に、このケーブル延長に伴うリアクタの増加によって、矩形状のピーク電流波形が台形状や三角形状に変化するので、事前にピーク電流値を少し高めに補正することが望ましい。
【0048】
図2は、本発明の裏波溶接方法に係わる他の溶接装置を示す概略構成図の一実施である。溶接対象の継手部材1,2は、円筒形状の厚板の管部材である。この実施例では、管部材の外周に設置する図示していないレール上を走行する溶接台車5に搭載されている溶接トーチ4先端の電極6と、ワイヤ9aを案内するワイヤホルダ9bの両方とを開先内3に挿入し、シールドガス33の流入雰囲気で発生させるアーク10中にワイヤ9aを送給し、開先底部の裏面側に裏ビードを形成させる初層裏波溶接を行っている状況を示している。溶接台車5には、表面側の溶接状態を監視するための第2のカメラ41を、溶接トーチ4とワイヤホルダ9bとの上部中間に配備している。この第2のカメラ41と一対のカメラ制御器42によって撮像する表面側の溶接状態の映像を第2の映像モニタ装置43に画面表示して監視できるようにしている。この第2の映像モニタ装置43の画面には、図2の左下段に示すように、開先表面1a,2a側から開先内3に挿入した電極6とワイヤ
9a,表側のアーク10及び溶融プール18、この溶融プール18及び電極6の後方に形成する表側の溶接ビードの状態を表示している。前記第2の映像モニタ装置43に画面表示する表面側の溶接状態の監視結果に基づいて、電極6の位置又はこの電極位置及びワイヤ9a位置を調整又は制御することにより、電極6の位置ずれ(例えば左右方向の電極位置ずれ)やワイヤ9aの位置ずれ(例えば左右方向,上下方向のワイヤ位置ずれ)をなくすことが確実にできる。
【0049】
一方、継手部材1,2の裏面側には、図1で説明した裏面側監視装置17を配備しており、照明手段32,カメラ11と一対のカメラ制御器12で撮像する裏面側の溶融プール
16及びこの周辺部の映像を映像モニタ装置13の画面に表示して監視できるようにしている。さらに、ここでは、カメラ11と一対のカメラ制御器12で撮像する映像又は画像を取り込んで処理する画像処理装置44を設けている。この画像処理装置44は、裏面側のインサート材19を含む溶融プール16及びこの周辺部の画像を処理して、裏面側の溶融プール16の幅B又はこの溶融プール16近傍の裏ビード15幅Bをリアルタイムで検出し、また、インサート材の幅Cをも検出するものである。この画像処理装置44に該当する他の検出処理手段であってもよい。溶接制御装置7a側にリアルタイムで送信される検出データは、溶接制御装置7a内で複数の値を平均化する処理を順次行い、その平均化処理した検出値と目標の前記特定値とを比較及び判定処理する。そして、この判定処理の結果に基づいて、裏面側の溶融プールB幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅Bが特定値の適正範囲(4〜6mmの範囲)に形成するように、パルスアーク溶接のピーク電流,ベース電流,ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を増減制御するようにしている。また、直流アーク溶接の場合には、平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を増減制御するようにしている。例えば、前記画像処理装置44で検出する裏面側の溶融プール幅の検出値Bsが前記特定値の適正範囲より小さくなる状態(Bs<B1=4mm)であれば、ピーク電流(パルスアーク溶接の時)や平均電流(直流アーク溶接の時)を増加(I+ΔI)させる。反対に、溶融プール幅の検出値Bsが前記特定値の適正範囲より大きくなる状態(Bs>B2=6mm)であれば、ピーク電流(パルスアーク溶接の時)や平均電流(直流アーク溶接の時)を減少(I−ΔI)させるとよい。溶融プール幅の検出値Bsが適正範囲内の状態(例えばB1=4≦Bs≦B2=6mm)であれば、出力中の溶接条件をそのまま保持するとよい。
【0050】
このように、検出値の判定結果に基づいて条件因子を適正に増減制御することにより、アーク力及び入熱量の増減によって溶融プール幅及びその溶融プール近傍の裏ビード幅を適正範囲内に短時間で回復することができる。また、ピーク電流又はベース電流(パルスアーク溶接の時),平均電流(直流アーク溶接の時)の増減と同時に、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はワイヤ送り速度を増減する制御を行うことにより、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に確実に形成することができる。さらに、前記1つ以上の条件値を増減調整又は増減制御すると共に、表面側の溶接状態の監視結果に基づいて、前記電極6の位置又はこの電極位置及びワイヤ9a位置を調整又は制御することにより、電極6の位置ずれ(例えば左右方向の電極位置ずれ)やワイヤ9aの位置ずれをなくし、蛇行や融合不良のない良好な裏ビード幅を特定値の適正範囲に形成することができる。また、溶接士の負担を大幅に軽減でき、溶接品質の向上や生産性の向上を図ることができる。
【0051】
図3は、溶接対象の継手部材1,2の溶接概要を示すものであり、(1)は溶接前の断面、(2)は本溶接前に仮付け溶接した時の断面、(3)は本溶接1パス目で初層裏波溶接した時の断面、(4)は初層溶接後に2パス目溶接した時の断面、(5)は最終溶接前まで1層1パスずつ積層溶接(多層盛溶接)した時の断面、(6)は全パス終了の最終層を仕上溶接した時の断面である。この継手部材1,2は、多層盛溶接が必要な容器や配管や案内管など厚板の管部材又は厚板の平板部材突き合せた狭い開先継手である。例えば、原子力発電プラント,火力発電プラント,化学プラントなどで使用される高級材料であって、主にオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなる狭開先継手である。また、この狭開先継手の一例では、図3(1)に示すように、開先底部の中央にインサート材19を表面側1a,2a及び裏面側1b,2bに各々突き出すように設けている。このインサート材19は、前記継手部材1,2と同質材のオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなるインサート材を設けることにより、裏面側に適正範囲(4〜6mm)の裏ビード幅Bを確実に凸形状に形成できる。また、開先底部の突合せ部に生じ易い段違いやギャップの影響を緩和することができる。このインサート材19は、前記開先継手材と同質材であって、化学組成の一つであるS(重量%)が前記開先継手材より高めの0.008〜0.015%含有しているインサート材19を用いるとよい。特に、前記Sの含有量が高めの前記インサート材19を用いることにより、Sの含有量が少ない通常のインサート材19使用の溶接時よりも、アーク形状が細く絞られ、深さ方向への溶融金属の対流及び溶け込みが促進し、
10〜20%程度少ない溶接電流(又は入熱量)の溶接条件で裏面側1b,2bに裏ビード15が確実に形成でき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を得ることができる。
【0052】
一方、インサート材19の幅を含む開先底部の開先幅wは、ここでは6mmに設定した例を示しているが、例えば、最小値の4mm又は5mm、あるいは少し広めの7mm又は最大値の8mmの概略寸法、又はこれらの概略寸法に近い少数点含みの寸法(例えば5.3mm,6.4mm,7.5mm など)に予め形成するとよい。同時に、この狭開先継手の上部までの片面角度θを5°以内に形成すること、好ましくは3°前後(2〜4°)に形成することにより、開先表面1a,2aの上部まで狭い開先内3を1層1パスずつ積層する多層盛溶接を確実に施工することができる。開先底部のルートフェイスfについては、1〜2.5mm の範囲に形成すること、好ましくは1.4〜1.6mmに形成することにより、裏面側まで容易に溶融させることができる。
【0053】
本実験によれば、開先底部の開先幅wが4mm未満に形成すると、狭すぎるため、その開先内に挿入する電極6の外面と開先内3の壁面との隙間が極端に狭く、しかも、初層溶接及びその後の溶接による熱収縮によって開先幅全体が収縮し、開先壁面への電極6の接触やアーク発生が起こり易く、開先上部までの積層溶接が困難に至る。一方、開先底部の開先幅wが8mmを超えると、広すぎるため、開先深さの中間当りかその近傍の溶接時に開先内3の両壁面が溶けなくなる。このため、1層1パスずつ積層する多層盛溶接が困難になり、溶接パスを開先左右に振分ける1層2パス溶接の施工が必要になるばかりでなく、開先面積の増加によって溶接パス数及びワイヤ使用量が増加し、溶接工数も増す結果となる。したがって、開先底部の開先幅wは、上述したように最小でも4mm以上、最大でも8mm以下の寸法に形成することが好ましい。
【0054】
本溶接の初層裏波溶接の以前に行う仮付け溶接では、図3(2)に示すように継手部材1,2の裏面側1b,2bの継ぎ部及びインサート材19の突き出し部が溶融しない程度の小入熱の仮付け条件で、表面側1a,2aの開先底部の継ぎ部とインサート材19の突き出し部とを溶融接合するように、表面側1a,2aからワイヤ9a送りなしの仮付け溶接を行うとよい。このように仮付け溶接することにより、溶接対象の開先継手部材1,2を確実に接合固定することができるばかりでなく、本溶接の初層裏波溶接時にワイヤ送りが容易になると共に、裏ビード形成への悪影響をなくすことができる。
【0055】
本溶接の初層裏波溶接21では、図3(3)に示すように、裏面側1b,2bまで完全に溶け込むように溶融させると共に、溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード
15の幅Bが4〜6mmの範囲に形成するようにしている。例えば、パルスアーク溶接の場合は、図1に示した映像モニタ装置13に画面表示する裏面側の溶融プール16及びその溶融プール近傍の裏ビード15の状態や大きさを示す映像と、目標の裏ビード幅Bの適正範囲を示す特定値とを監視し、溶接中の裏ビード幅が前記特定値の範囲に形成するように、必要に応じてピーク電流,ベース電流,ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御するとよい。初層溶接時のワイヤ送りは少量
(例えば積層溶接時の半分以下)で充分である。また、直流アーク溶接の場合には、同様の裏ビード幅が前記特定値の範囲に形成するように、必要に応じて平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御するとよい。
【0056】
例えば、溶融プール幅又は裏ビード幅が前記特定値の適正範囲より小さくなる又は大きくなる状態であれば、ピーク電流(パルスアーク溶接の時)や平均電流(直流アーク溶接の時)を増減調整すると、アーク力及び入熱量の増減によって溶融プール幅及びその溶融プール近傍の裏ビード幅を短時間で適正範囲内に回復することができ、応答性の緩やかな溶接速度又は走行速度の調整より優位である。前記ピーク電流や前記平均電流の次に、ベース電流の増減調整かアーク長又はアーク電圧の調整が有効であり、裏ビード幅を適正範囲内に回復することができる。また、ワイヤ送り速度の調整は、溶着金属の増減及び溶融プールの温度変化によって裏ビード幅と表面側のビード高さとの両方を微調整することができる。さらに、表面側の前記電極6の位置又はこの電極位置及びワイヤ9a位置を調整又は制御するとよい。
【0057】
このように、裏面側の溶融プール幅及び裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を施工することにより、溶接装置を操作する溶接士が代わっても個人差の影響がなくなり、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を特定値の適正範囲(4〜6mm)に形成することが確実にでき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。特に、高度な溶接技術を要する配管の全姿勢溶接,管材の横向き姿勢の溶接,平板材の上向き姿勢の初層裏波溶接21に適している。さらに、前記1つ以上の条件値を調整又は制御すると共に、表面側の前記電極6の位置又はこの電極位置及びワイヤ9a位置を調整又は制御することにより、電極6の位置ずれ(例えば左右方向の電極位置ずれ)やワイヤ9aの位置ずれをなくし、蛇行や融合不良のない良好な裏ビード幅を特定値の適正範囲に形成することができる。ここでは少量のワイヤ送りを示したが、このワイヤ送りを停止(ワイヤなし)にして初層裏波溶接を実施することも可能である。また、ここでは継手部材1,2の開先底部中央にインサート材19を設ける溶接例を示したが、インサート材19なしの開先継手であっても、例えば、下向き姿勢や立向き上進姿勢で初層裏波溶接21を実施すれば、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に形成でき、凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることが可能である。
【0058】
次に、初層裏波溶接の終了後に行う2層目の溶接22では、図3(4)に示すように、少なくとも初層溶接時に形成した前記裏ビード15を再溶融させない程度の溶接入熱に抑制した溶接条件(例えば、初層溶接条件の1/2〜2/3の入熱条件)に変更して溶接するようにしている。このように、2層目溶接の入熱を抑制して溶接することにより、裏ビードの再溶融が確実に防止できると共に、表面側に積層するビード高さを増すことができる。
【0059】
また、3層目の溶接23から最終層前までの積層溶接(P=N−1)では、図3(5)に示すように、少なくとも初層裏波溶接時の初層溶接条件、その後の2層目溶接時の溶接条件と異なる積層溶接に適した複数の溶接条件(例えば、4kJ/cm〜10kJ/cmの低い入熱条件)に適宜変更し、開先表面1a,2a近傍まで狭い開先内3を1層1パスずつ積層する多層盛溶接を順番に行うようにしている。あるいは積層溶接に適したほぼ一定の溶接条件のままで、開先表面1a,2a近傍まで狭い開先内3を1層1パスずつ積層する多層盛溶接を継続することも可能である。最終層の仕上溶接30(P=N)では、図3
(6)に示すように開先継手の表面1a,2aより少し盛り上る(例えば1mm程度の余盛り高さ)ように仕上げている。この仕上溶接30では、溶接トーチ4を左右に揺動させるウィービング溶接を行うこともできる。ウィービング溶接によって溶接ビードの両止端部の溶け込みを良くし、貝殻模様のような波目を有する溶接ビード外観を得ることができる。
【0060】
このように、開先幅wの狭い厚板の開先継手1,2に対して、上述したように、仮付け溶接20を含む初層裏波溶接21から最終層の仕上溶接30まで1層1パスずつ積層する多層盛溶接を順番に施工することにより、開先底部から開先上部まで完全に溶接することができる。また、溶接すべき開先断面積を従来より大幅に小さくでき、1層1パスずつ積層する多層盛溶接によって使用する溶接ワイヤ量の削減や溶接工数の低減を図ることができる。さらに、1層1パスずつ積層するパス毎の入熱量や多層盛溶接の累計入熱量を従来溶接より大幅に低減できるばかりでなく、溶接による熱変形や溶接部の残留応力を低減することもできる。
【0061】
図4は、本発明の裏波溶接方法に係わる下向き姿勢及び立向き上進姿勢での初層裏波溶接における溶接速度と溶接電流(平均電流)との関係及び裏ビードの形成領域を示す一実施例である。また、図5は、上向き上進姿勢での初層裏波溶接における溶接速度と溶接電流との関係及び裏ビードの形成領域を示す一実施例である。なお、下向き及び立向き上進姿勢の溶接実験では、裏ビードの形成領域に大差がなかったため、その溶接結果を図4にまとめて記載している。また、いずれの姿勢溶接も、インサート材19を使用していない時の溶接結果を示している。すなわち、開先底部の裏面側に形成すべき裏ビード15は、図4及び図5に示したように、いずれの姿勢溶接においても、入熱不足(電流小,速度大)による未溶融(×印)の領域と、入熱過多(電流大,速度小)による溶け落ち(三角印)の領域とを除外した中間領域に裏ビード形成(○印)の領域が存在することが分かる。この裏ビード形成(○印)の領域では、裏ビードの幅と高さとが変化している。
【0062】
図6は、インサート材なし溶接時の裏ビード幅Bと裏ビード高さhとの関係を示す一実施のグラフであり、上段に下向き及び立向き上進姿勢溶接の結果、下段に上向き姿勢溶接の結果を示している。下向き及び立向き上進姿勢溶接の場合は、溶融プール幅に該当する裏ビード幅Bが広くなるに従って裏ビード高さhが凸形状に大きくなり、上向き姿勢溶接の場合には、反対に、裏ビード幅Bが広くなるに従って裏ビード形状が凹み易くなっている。裏ビード幅Bが0≦B<2.5mm の未溶融領域では、熱量不足により裏ビードが形成したり、全く形成しなかったりする。2.5≦B<4mm の領域では、裏ビードの幅及び高さhが小さく不十分である。一方、7.5<B≦9 の過大領域では、下向き姿勢及び立向き姿勢溶接での裏ビード形状が1mm以上大きく凸形状に盛り上り(下側に沈み込む形状)、反対に、上向き姿勢での裏ビード形状は1mm程度凹んでしまう結果になっている。下向き姿勢及び立向き姿勢溶接の場合は、4〜7.5mm の領域で、裏ビード高さがほぼ適正な0.3〜0.8mm程度の凸形状になっているが、上向き姿勢溶接の場合には凹んでおり、好ましくない結果になっている。
【0063】
図7は、インサート材ありで上向き姿勢溶接を行った時の裏ビード幅Bと裏ビード高さhとの関係を示す一実施のグラフである。インサート材は、図3(1)に示したように、開先底部中央の表裏両側に突き出すように設けている。裏面側へのインサート材の突き出しによって、溶融プール幅に該当する裏ビード幅が4〜7.5mm の領域で、凸形状に裏ビードを形成することができる。さらに、入熱増加によって裏ビード幅が大きくなり過ぎると、溶融プールの表面張力と重力作用とのバランスが崩れて、凹み形状になってしまう。反対に、入熱不足によって溶融不足や裏ビード幅が小さ過ぎると、インサート材の溶け残りが生じるようになる。このように、インサート材を用いると共に、裏ビード幅を特定の範囲に形成するように初層裏波溶接を施工することにより、上向き姿勢であっても、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の裏波溶接方法に係わる溶接装置の一実施を示す概略構成図である。
【図2】本発明の裏波溶接方法に係わる他の溶接装置を示す概略構成図である。
【図3】溶接対象の継手部材1,2の溶接概要を示すものであり、(1)は溶接前の断面、(2)は本溶接前に仮付け溶接した時の断面、(3)は本溶接1パス目で初層裏波溶接した時の断面、(4)は初層溶接後に2パス目溶接した時の断面、(5)は最終溶接前まで1層1パスずつ積層溶接(多層盛溶接)した時の断面、(6)は全パス終了の最終層を仕上溶接した時の断面である。
【図4】本発明の裏波溶接方法に係わる下向き姿勢及び立向き上進姿勢での初層裏波溶接における溶接速度と溶接電流(平均電流)との関係及び裏ビードの形成領域を示す一実施例である。
【図5】本発明の裏波溶接方法に係わる上向き上進姿勢での初層裏波溶接における溶接速度と溶接電流との関係及び裏ビードの形成領域を示す一実施例である。
【図6】インサート材なし溶接時の裏ビード幅Bと裏ビード高さhとの関係を示すグラフの一実施であり、上段に下向き及び立向き上進姿勢溶接の結果、下段に上向き姿勢溶接の結果を示している。
【図7】インサート材ありで上向き姿勢溶接を行った時の裏ビード幅Bと裏ビード高さhとの関係を示す一実施のグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1,2…開先継手部材、1b,2b…開先裏面、3…開先内、4…溶接トーチ、5…溶接台車、6…電極、7a…溶接制御装置、8…TIG溶接電源、9…ワイヤ、10…アーク、11…カメラ、12…カメラ制御器、13…映像モニタ装置、14…裏ビード幅Bの特定値、15…裏ビード、16…裏面側の溶融プール、17…裏面側監視装置、18…表面側の溶融プール、19…インサート材、20…仮付け溶接のビード断面、21…初層裏波溶接のビード断面、22…2パス目溶接のビード断面、23…3パス目溶接のビード断面、32…照明手段、33…シールドガス、34…バックガス、41…第2のカメラ、
42…第2のカメラ制御器、43…第2の映像モニタ装置、44…画像処理装置、P…Pパス目溶接のビード断面、f…ルートフェイス、w…開先底部幅、θ…片面角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚板の管部材又は平板部材を突き合せた開先継手のパルスアーク溶接又は直流アーク溶接による裏波溶接方法であって、
前記開先継手の裏面側の溶融プール幅又は裏ビード幅を4〜6mmの特定値範囲で形成することを特徴とする裏波溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載された裏波溶接方法であって、
前記開先継手の開先底部に、前記開先継手の表面側及び裏面側の両方に突き出したインサート材を設けることを特徴とする裏波溶接方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された裏波溶接方法であって、
前記開先継手の裏面側に設置され溶接部分を撮像する撮像手段と、前記溶接部分を裏面側より明るくする照明手段とを設け、前記撮像手段により撮像された溶融プール幅又は裏ビード幅と、前記特定値範囲とを映像表示手段に表示し、
前記表示手段に表示された情報により初層溶接条件を変化させることを特徴とする裏波溶接方法。
【請求項4】
請求項3に記載された裏波溶接方法であって、
前記初層溶接条件は、前記パルスアーク溶接の場合にあっては、ピーク電流またはベース電流,前記パルスアーク溶接のピーク電圧または平均アーク電圧,前記パルスアーク溶接のアーク長,溶接速度又は走行速度、の少なくともいずれかの条件値、
前記直流アーク溶接の場合にあっては、前記直流アーク溶接の平均電流,平均アーク電圧又はアーク長,溶接速度又は走行速度,ワイヤ送り速度、の少なくともいずれかの条件値であることを特徴とする裏波溶接方法。
【請求項5】
請求項4に記載された裏波溶接方法であって、
前記表示手段に表示された情報により電極の位置又はワイヤ位置の少なくともいずれかを変化させることを特徴とする裏波溶接方法。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれかに記載された裏波溶接方法において、
前記開先継手を形成する管部材又は平板部材は、オーステナイト系のステンレス鋼材,マルテンサイト系のステンレス鋼材,フェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなり、前記開先底部の開先幅を4〜8mmとし、前記狭開先継上部までの片面角度を5°以下とすることを特徴とする裏波溶接方法。
【請求項7】
請求項2または3に記載された裏波溶接方法において、
前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接の前工程として、前記開先底部の継ぎ部とインサート材の突き出し部とを溶融接合する仮付け溶接工程を有し、前記仮付け溶接工程は前記開先底部の裏面側の継ぎ部が溶融しない入熱で、ワイヤ送りをせずに溶接されることを特徴とする裏波溶接方法。
【請求項8】
請求項2,3,7のいずれかに記載された裏波溶接方法において、
前記インサート材は、前記開先継手を形成する部材と同質材であることを特徴とする裏波溶接方法。
【請求項9】
請求項2,3,7のいずれかに記載された裏波溶接方法において、
前記インサート材は、前記開先継手を形成する部材より硫黄を0.008〜0.015%多く含有するものを適用することを特徴とする裏波溶接方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載された裏波溶接方法において、
前記初層の裏波溶接の終了後に行う2層目の溶接条件を、前記裏ビードを再溶融させない溶接入熱量に変更することを特徴とする裏波溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−159226(P2006−159226A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352149(P2004−352149)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】