説明

裏込め注入システム及び方法

【課題】裏込め注入工を行う現場の状況に応じて臨機の対応が可能であると共に、材料の搬送に要する負担を十分に低減できる裏込め注入システム及び方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を、パイプP1を通じて裏込地上プラント1から掘削坑200内にパイプ輸送する。掘削坑200内において、掘削土、リサイクル泥水、加泥材、加泥材含有液、及び、水のうち少なくとも一種と、硬化材含有液とを掘削坑200内で混合してA液を得る。このA液とB液とを掘削坑200の壁面とセグメントとの間に注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド工法における裏込め注入システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
掘進中のシールド掘進機の後方には、掘削された掘削坑の壁面と覆工体との間に、テールボイドと呼ばれる隙間が生じる。このテールボイドは、地山の緩みや沈下の原因となるため、シールド掘進機の通過後、なるべく速やかに埋める必要がある。テールボイドを埋める作業は、一般に裏込め注入工と呼ばれる。この裏込め注入工は、硬化材、助材及び安定剤等を含有するA液と、急結材を含有するB液とをテールボイドに注入することで行われる。A液は、通常、地上に設置されたプラントで調製され、配合比率を調整済みのA液がパイプ輸送によって掘削坑の坑内まで輸送される。
【0003】
A液とB液とから成る裏込め材に必要な性状として、ブリージングなどの材料分離を起こさないこと、流動性、充填性及び水密性に優れていること、地下水などに希釈されないこと、所定の強度が早期に得られることなどが挙げられる。掘進に伴って現場の土質や地下水などの状況が変化した場合、裏込め材が上記性状を満足するようにA液の配合を変更する必要がある。しかし、地上に設置されたプラントでA液の配合を変更しても、地上と掘削坑とを結ぶパイプの中には変更前のA液が残留している。このため、坑内でA液の配合の変更が反映されるまでには時間がかかり、臨機の対応が十分にとれないという問題がある。
【0004】
特許文献1には、上記のような問題を解決するための処理設備が記載されている。この処理設備は、掘削土砂を解泥して裏込め用泥水等を作製する解泥設備や、裏込め用泥水とセメント等の硬化材とを混合して裏込め材を作製する裏込め設備などを備え、これらがトンネル内に設けられている。なお、特許文献2〜4には、裏込め材の一部として掘削土砂を利用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−1989号公報
【特許文献2】特開平6−42294号公報
【特許文献3】特開2009−185466号公報
【特許文献4】特開2008−150810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の処理設備はトンネル内に設けられているため、粉状や粒状の硬化材等を坑外からトンネル内の処理設備まで搬送する必要があり、硬化材等の搬送作業が大きな負担となる。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、裏込め注入工を行う現場の状況に応じて臨機の対応が可能であると共に、材料の搬送に要する負担を十分に低減できる裏込め注入システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入工に関し、少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を掘削坑の坑外から掘削坑の坑内にパイプ輸送し、坑内において硬化材含有液とその他の材料(掘削土、リサイクル泥水、加泥材、加泥材含有液、及び/又は、水)とを混合してA液を得ることが特徴点の一つである。すなわち、本発明は以下の裏込め注入システム及び方法を提供する。
【0009】
(1)掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入方法であって、少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送する硬化材含有液輸送工程と、硬化材含有液と、掘削により発生する掘削土とを坑内に設置した混合槽で混合してA液を得る混合工程と、A液と急結剤を含有するB液とを掘削坑と覆工体との間に注入する裏込め注入工程とを有する裏込め注入方法。
【0010】
(2)掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入方法であって、少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送する硬化材含有液輸送工程と、掘削により発生する掘削土を含有するリサイクル泥水を坑内で調製するリサイクル泥水調製工程と、硬化材含有液とリサイクル泥水とを坑内に設置した混合槽で混合してA液を得る混合工程と、A液と急結剤を含有するB液とを掘削坑と覆工体との間に注入する裏込め注入工程とを有する裏込め注入方法。
【0011】
(3)掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入方法であって、少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送する硬化材含有液輸送工程と、硬化材含有液と、助材を含有する加泥材とを坑内に設置した混合槽で混合してA液を得る混合工程と、A液と急結剤を含有するB液とを掘削坑と覆工体との間に注入する裏込め注入工程とを有する裏込め注入方法。
【0012】
(4)掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入方法であって、少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送する硬化材含有液輸送工程と、助材を含有する加泥材含有液を坑外で調製し、これを坑内にパイプ輸送する加泥材含有液輸送工程と、硬化材含有液と加泥材含有液とを坑内に設置した混合槽で混合してA液を得る混合工程と、A液と急結剤を含有するB液とを掘削坑と覆工体との間に注入する裏込め注入工程とを有する裏込め注入方法。
【0013】
(5)掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入方法であって、少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送する硬化材含有液輸送工程と、硬化材含有液と水とを坑内に設置した混合槽で混合してA液を得る混合工程と、A液と急結剤を含有するB液とを掘削坑と覆工体との間に注入する裏込め注入工程とを有する裏込め注入方法。
【0014】
(6)掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入システムであって、掘削坑の坑外に設置されており、少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を調製するプラントと、プラントで生成された硬化材含有液を坑内にパイプ輸送するパイプと、坑内に設置されており、掘削により発生する掘削土及びこれを含有するリサイクル泥水、助材を含有する加泥材及び加泥材含有液、並びに、水のうち少なくとも一種と、硬化材含有液とを混合してA液を得る混合手段と、坑内に設置されており、A液を収容するタンクと、A液と急結剤を含有するB液とを掘削坑と覆工体との間に注入する裏込め注入手段とを備える裏込め注入システム。
【0015】
本発明においては、少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液が掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送によって輸送される。従って、多量の硬化材を粉状や粒状のまま坑内に搬送する必要がなく、材料の搬送に要する負担を十分に低減できる。また、パイプ輸送された硬化材含有液と他の材料とを坑内に設置した混合槽で混合してA液を得るため、A液の調製場所と裏込め注入箇所との距離を十分に短くできる。従って、現場の状況に応じて臨機の対応が可能である。特に、硬化材を高濃度で含有する硬化材含有液を坑内にパイプ輸送すれば、調製場所における濃度調整によってA液の硬化材含有率を十分に広い範囲で設定できる。さらに、他の材料として、掘削土又はこれを含む泥水を利用すれば、産業廃棄物として処分すべき掘削土の量を低減できる。
【0016】
本発明に係る裏込め注入方法は、隣接する二つの覆工体の間に硬化材含有液を止水材として注入する止水材注入工程を更に有してもよい。さらに、混合工程におけるA液の比重調整によってA液の品質管理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、裏込め注入工を行う現場の状況に応じて臨機の対応が可能であると共に、材料の搬送に要する負担を十分に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】シールド掘進機を示す概略構成図である。
【図2】裏込め注入工の様子を示す概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る裏込め注入システムを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、ここでは泥土圧式シールド掘進機を用いて掘削坑を構築する場合を例示する。
【0020】
(シールド掘進機)
図1に示すシールド掘進機50は、泥土圧式シールド掘進機であり、前端部に切羽51が設けられている。切羽51の前面には多数のカッタビット51Aが形成されている。切羽51の後方には、外筒52が設けられている。また、外筒52の内部であって切羽51の後方には、切羽51と離間した位置に仕切り板53が設けられている。そして、切羽51と仕切り板53との間にチャンバ54が形成されている。仕切り板53の中心部には、切羽51と連結されたモータ55が取り付けられている。このモータ55が回転すると切羽51が回転し、切羽51の前面に形成されたカッタビット51Aによって掘削が行われる。
【0021】
仕切り板53にはアジテータ56が取り付けられており、さらに仕切り板53の前面及び切羽51の後面にはそれぞれ攪拌棒57が取り付けられている。掘削中、チャンバ54には掘削土Mが溜まり、この掘削土Mがアジテータ56や攪拌棒57によって攪拌される。仕切り板53には、チャンバ54と連通したスクリューコンベア58が取り付けられている。このスクリューコンベア58を通じて、掘削土Mがリサイクル泥水調製設備5に送られる。
【0022】
仕切り板53の後方であって、外筒52の内周面にはシールドジャッキ59が取り付けられている。シールドジャッキ59のジャッキロッドは後方を向いており、外筒52の後部で組み立てられたセグメント(覆工体)S1を押圧できるようになっている。シールドジャッキ59によってセグメントS1を押圧することで、その反力によってシールド掘進機50を掘進させている。外筒52の後部内周面には、テールシールTが取り付けられている。
【0023】
図2に示すとおり、外筒52の後方のセグメントS2と掘削坑200の壁面との間には、テールボイドVが形成されている。セグメントS1〜S3には、テールボイドに裏込め材を注入するための注入口Hが形成されている。そして、同時注入管9がセグメントS2の注入口Hに接続され、A液とB液とから成る裏込め材UがテールボイドVに注入されて裏込め注入工が行われる。テールシールTは、外筒52とセグメントS1との間にテールボイドVから裏込め材が流入することを防止する。
【0024】
(裏込め注入システム)
図3に示す裏込め注入システム100は、シールド掘進機50の掘進によって生じるテールボイドVを埋める裏込め注入工を行うシステムである。裏込め注入システム100は、裏込地上プラント(プラント)1、加泥地上プラント2、混合槽(混合手段)3、A液槽(タンク)4、リサイクル泥水調製設備5、給水槽6、調整済B液槽7、加泥材液槽8、同時注入管(裏込め注入手段)9及びパイプP1〜P3を備える。
【0025】
裏込地上プラント1は、硬化材及び助材を含有する硬化材含有液、並びに、急結剤を含有するB液を調製するためのものであり、地上(坑外)に設置されている。裏込地上プラント1で調製した硬化材含有液は、パイプP1によって掘削坑200内にパイプ輸送され、坑内の混合槽3に供給される。硬化材としては、例えばセメント系硬化材、スラグ・セメント系硬化材、スラグ・石灰系硬化材などが用いられる。また、助材としては、ベントナイト、クレイサンドなどが用いられる。また、裏込地上プラント1で調製したB液は、パイプP2によって掘削坑200内にパイプ輸送され、坑内の調整済B液槽7に供給される。急結剤としては、例えば水ガラス系急結剤、アルミニウム塩系急結剤などが用いられる。
【0026】
加泥地上プラント2は、助材を含有する加泥材を用いて加泥材含有液を調製するためのものであり、地上(坑外)に設置されている。加泥材は、A液の粘土土粒子の含有量を調整するために用いられるものであり、ベントナイト若しくはクレイサンド又はこれらを含む粉体若しくは液体である。加泥地上プラント2で調製した加泥材含有液は、パイプP3によって坑内にパイプ輸送され、坑内の加泥材液槽8に供給される。加泥材液槽8内の加泥材含有液は、配管を通じてシールド掘進機50や混合槽3に供給される。
【0027】
リサイクル泥水調製設備5は、掘削土を含有する泥水の組成を調整してリサイクル泥水を調製するためのものであり、坑内に設置されている。掘削土は坑外に搬送され残土処分されるが、リサイクル泥水調製設備5を坑内に設置し、掘削土の一部を坑内で取り出して再利用することで、掘削土の搬送量を低減できる。取り出された掘削土はリサイクル泥水調製設備5で泥水にされ、さらに濃度調整することでリサイクル泥水に調製される。なお、本実施形態では泥土圧式のシールド工法を対象としているが、泥水式のシールド工法を対象とする場合も、掘削土を含有する掘削により生じた泥水をリサイクル泥水調製設備5で濃度調整してリサイクル泥水に調製することができる。
【0028】
リサイクル泥水調製設備5で調製したリサイクル泥水は、配管を通じて混合槽3に供給される。給水槽6は材料の希釈などに使用する水を貯留するためのものであり、坑内に設置されている。給水槽6内の水は、配管を通じて混合槽3やリサイクル泥水調製設備5に供給されて各液の濃度調整に使用される。
【0029】
混合槽3には、上述した硬化材含有液、加泥材含有液、リサイクル泥水及び水に加え、固体の掘削土や加泥材を供給できるようにしてもよい。この混合槽3では、これら掘削土、リサイクル泥水、加泥材、加泥材含有液、及び、水のうち少なくとも一種と、硬化材含有液とを混合してA液を調製する。混合槽3で得られたA液は、配管を通じて坑内に設置されているA液槽4に供給される。なお、混合槽3の混合能力及びA液の消費効率を考慮して、混合槽3及びA液槽4を、これらの槽が有する機能を備えた一つの槽に代えることも可能である。
【0030】
A液槽4内のA液及び調整済B液槽7内のB液は、それぞれ配管を通じて同時注入管9に送られ、この同時注入管9によってA液とB液とから成る裏込め材がテールボイドに注入される。A液が混合される混合槽3と、裏込め材が注入されるテールボイドとの距離は、掘削坑200の大きさにもよるが、200m以内であることが好ましく、100m以内であることがより好ましい。
【0031】
(裏込注入方法)
図3を参照しながら、裏込め注入システム100による裏込め注入方法について説明する。
【0032】
まず、裏込地上プラント1にて硬化材を高濃度で含有する硬化材含有液を調製する。硬化材含有液に含まれる硬化材と水の質量比(C/W)は、好ましくは50〜100%であり、より好ましくは60〜90%である。硬化材含有液のC/Wが50%未満であると、現場でより高濃度の硬化材含有液が必要になった場合の対応が不十分となりやすく、他方、100%を越えると硬化材含有液の流動性が不十分となりやすい。また、硬化材含有液1mに含まれる硬化材の質量は、好ましくは350〜600kgであり、より好ましくは400〜550kgである。この値が350kg未満であると、現場でより高濃度の硬化材含有液が必要になった場合の対応が不十分となりやすく、他方、600kgを越えると硬化材含有液の流動性が不十分となりやすい。
【0033】
硬化材含有液の流動性は、フロー値を測定することによって確認することができる。硬化材含有液のフロー値は、パイプ輸送のしやすさの点から、好ましくは250mm以上であり、より好ましくは300mm以上である。ここでいうフロー値は以下のようにして測定した値を意味する。すなわち、まず、アクリル板の表面に円筒部材(内径80mm、高さ80mm)を垂直に立て、この円筒部材内に硬化材含有液を充填する。その後、円筒部材を引き上げることで、円筒部材内の硬化材含有液をアクリル板上に流下させる。硬化材含有液の拡がりが静止した後、アクリル板上に広がった硬化材含有液の直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とする。
【0034】
硬化材を高濃度で含有する硬化材含有液をパイプP1によって坑内へパイプ輸送して混合槽3に供給する(硬化材含有液輸送工程)。硬化材を液状にしてパイプ輸送することにより、粉状や粒状の硬化材をベルトコンベアなどで輸送する場合と比較して材料の搬送に要する負担を低減できる。
【0035】
硬化材含有液は、硬化材及び助材の他に、更に起泡剤、空気、安定剤及び/又は粘土土粒子などを含有してもよい。例えば、硬化材含有液に起泡剤及び空気を配合することで材料の流動性が高くなると共に比重が小さくなり、ポンプ圧送性が向上する。硬化材としてセメントを使用した場合、下記式(1)で表されるセメント水比を品質の指標として用いることがある。式(1)中、Fは単位体積あたりの硬化材含有液に含まれる粘土土粒子(粒径74μm以下)の質量を示し、C及びWは単位体積あたりの硬化材含有液に含まれるセメント及び水の質量を示す。
セメント水比(%)=(C+F)/W×100 …(1)
【0036】
硬化材含有液の(C+F)/Wの値は、好ましくは55〜105%であり、より好ましくは65〜95%である。なお、硬化材含有液に含まれる粘土土粒子が助材(加泥材)に由来する場合もあるし、別途、硬化材含有液に粘土土粒子を配合する場合もある。
【0037】
加泥地上プラント2にて加泥材含有液を調製し、この加泥材含有液をパイプP2によって掘削坑200内へパイプ輸送して加泥材液槽8に供給する(加泥材含有液輸送工程)。
【0038】
さらに、リサイクル泥水調製設備5によって、シールド掘進機50の掘削により発生した掘削土を含有するリサイクル泥水に調製する(リサイクル泥水調製工程)。
【0039】
次に、混合槽3に掘削土、リサイクル泥水、加泥材、加泥材含有液、及び、水のうち少なくとも一種を供給し、パイプP1を通じて供給される硬化材含有液と混合してA液を得る(混合工程)。
【0040】
混合槽3にどの材料をどれだけ供給するかは、掘削坑200の現場の状況に応じて決めれば良い。例えば、通常は、現場で発生する余剰泥水分を有効活用するために、リサイクル泥水を硬化材含有液と混合することが好ましい。リサイクル泥水をA液の一部として利用することで、坑外に搬送して産業廃棄物として残土処分すべき掘削土の量を低減できる。また、裏込め材の早期強度を高めたり止水性を向上させたりする場合は、通常よりも硬化材含有液の配合比を高めると良い。さらに、掘削坑200の掘削断面に砂礫が多く含まれ、所定の泥水が得られない場合には、掘削土やリサイクル泥水に代えて加泥材や加泥材含有液を硬化材含有液と混合すると良い。なお、A液のC/Wは、通常、30〜45%程度である。
【0041】
次に、同時注入管9によってA液とB液とをテールボイドに注入する(裏込め注入工程)。パイプP1から分岐した配管(図示せず)を通じて隣接する二つのセグメントの間に必要に応じて硬化材含有液を止水材として注入してもよい(止水材注入工程)。硬化材を高濃度(例えば、C/W=50〜100%)で含有する硬化材含有液を止水材としてそのまま使用することで、隣接するセグメントの隙間からの漏水を効果的に防止できる。
【0042】
以上のように、本発明の実施形態に係る裏込め注入システム100によって行われる裏込め注入方法では、少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液が、裏込地上プラント1からパイプP1を通じて坑内に輸送される。従って、多量の硬化材を粉状や粒状のまま坑内に搬送する必要がなく、材料の搬送に要する負担を十分に低減できる。
【0043】
また、掘削土、リサイクル泥水、加泥材、加泥材含有液、及び、水のうち少なくとも一種と、硬化材含有液とを掘削坑200内に設置された混合槽3で混合してA液を得るため、混合槽3と裏込め注入箇所との距離を十分に短くできる。従って、現場の状況に応じて臨機の対応が可能である。更に、混合槽3と裏込め注入箇所との距離が短いことで、調整済A液が配管内で沈降分離することを十分に抑制でき、混合工程後のA液の比重のみをモニタリングすることによってA液の品質管理を行うことができる。これにより、比重及び粘性の両方をモニタリングする従来と比較して品質管理に要する負担を低減できる。
【0044】
以上、本発明の実施形態に係る裏込め注入システム及び方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、泥土圧式のシールド工法に裏込め注入システム100を適用しているが、泥水式のシールド工法にも適用することができる。
【0045】
<硬化材含有液の調製及び評価>
表1,2に示す組成の硬化材含有液をそれぞれ調製し、硬化材を高濃度で含有する硬化材含有液の流動性を確認した。硬化材としてスラグ・セメント系硬化材であるタックメント(株式会社タック製)、助材としてTAC−α(株式会社タック製)、起泡剤としてTAC−2(株式会社タック製)、安定剤としてTAC−Re(株式会社タック製)をそれぞれ使用した。なお、表1,2中、Cは単位体積あたりの硬化材含有液に含まれる硬化材の質量を示し;Wは単位体積あたりの硬化材含有液に含まれる水の質量を示し;Aは単位体積あたりの硬化材含有液に含まれる空気の体積(基準状態)を示し:Fは単位体積あたりの硬化材含有液に含まれる粘土土粒子(粒径74μm以下)の質量を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
<A液の調製及び評価>
表3に示すリサイクル泥水、加泥材含有液及び水を準備した。なお、加泥材含有液に用いる加泥材として、助材と同じTAC−α(株式会社タック製)を用いた。
【表3】

【0049】
(ケース1)
配合例4の硬化材含有液と、上記リサイクル泥水とを体積比1:1で混合し、ケース1に係るA液を得た。このA液に含まれる粘土土粒子はリサイクル泥水に由来するものであって、助材と粘土土粒子との合計量の約90%を占め、本来投入すべき助材の約90%をリサイクル泥水から得られる粘土土粒子で置き換えることできる。このA液に含まれる掘削土(含水比30%、比重2.60)は、A液1mあたり0.111mであると算出され、かかる程度の量について産業廃棄物として処理すべき掘削土を低減できる。
(ケース2)
配合例4の硬化材含有液と、上記加泥材含有液とを体積比1:1で混合し、ケース2に係るA液を得た。
(ケース3)
配合例4の硬化材含有液と、上記加泥材含有液と、水とを体積比2:1:1で混合し、ケース3に係るA液を得た。
【0050】
表4に上記ケース1〜3に係るA液の物性及び評価結果を示す。なお、B液として水ガラス系急結剤を使用し、A液とB液の混合比率は1000:58(体積比)とした。
【表4】

【0051】
ケース1に係るA液を裏込め材に使用した場合の、1日当たりの各材料の使用量を表5に示す。1日当り、13.0(m)の掘削土をリサイクルできる。また、この掘削土から得られた粘土土粒子を1日当り19.1(t)使用できるため、本来、掘削坑の坑外から搬送すべき助材を1日当り19.1(t)低減できる。さらに、A液に含有される硬化材は硬化材含有液としてパイプ輸送するため、1日当り26.4(t)の硬化材を粉状や粒状のまま掘削坑の坑外から搬送する負担が低減される。
【表5】

【0052】
(ケース4)
配合例1の硬化材含有液と、加泥材(固体)とを体積比0.95:0.05で混合し、ケース4に係るA液を得た。
(ケース5)
配合例7の硬化材含有液と、水とを体積比1:1で混合し、ケース5に係るA液を得た。
【0053】
表6に上記ケース4,5に係るA液の物性を示す。
【表6】

【符号の説明】
【0054】
1…裏込地上プラント(プラント)、3…混合槽(混合手段)、4…A液槽(タンク)、9…同時注入管(裏込め注入手段)、100…裏込め注入システム、200…掘削坑、P1…パイプ、S1〜S3…セグメント(覆工体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入方法であって、
少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を前記掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送する硬化材含有液輸送工程と、
前記硬化材含有液と、掘削により発生する掘削土とを前記坑内に設置した混合槽で混合してA液を得る混合工程と、
前記A液と、急結剤を含有するB液とを前記掘削坑と前記覆工体との間に注入する裏込め注入工程と、
を有する裏込め注入方法。
【請求項2】
掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入方法であって、
少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を前記掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送する硬化材含有液輸送工程と、
掘削により発生する掘削土を含有するリサイクル泥水を前記坑内で調製するリサイクル泥水調製工程と、
前記硬化材含有液と、前記リサイクル泥水とを前記坑内に設置した混合槽で混合してA液を得る混合工程と、
前記A液と、急結剤を含有するB液とを前記掘削坑と前記覆工体との間に注入する裏込め注入工程と、
を有する裏込め注入方法。
【請求項3】
掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入方法であって、
少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を前記掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送する硬化材含有液輸送工程と、
前記硬化材含有液と、助材を含有する加泥材とを前記坑内に設置した混合槽で混合してA液を得る混合工程と、
前記A液と、急結剤を含有するB液とを前記掘削坑と前記覆工体との間に注入する裏込め注入工程と、
を有する裏込め注入方法。
【請求項4】
掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入方法であって、
少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を前記掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送する硬化材含有液輸送工程と、
助材を含有する加泥材含有液を坑外で調製し、これを前記坑内にパイプ輸送する加泥材含有液輸送工程と、
前記硬化材含有液と、前記加泥材含有液とを前記坑内に設置した混合槽で混合してA液を得る混合工程と、
前記A液と、急結剤を含有するB液とを前記掘削坑と前記覆工体との間に注入する裏込め注入工程と、
を有する裏込め注入方法。
【請求項5】
掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入方法であって、
少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を前記掘削坑の坑外から坑内にパイプ輸送する硬化材含有液輸送工程と、
前記硬化材含有液と、水とを前記坑内に設置した混合槽で混合してA液を得る混合工程と、
前記A液と、急結剤を含有するB液とを前記掘削坑と前記覆工体との間に注入する裏込め注入工程と、
を有する裏込め注入方法。
【請求項6】
隣接する二つの覆工体の間に前記硬化材含有液を止水材として注入する止水材注入工程を更に有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の裏込め注入方法。
【請求項7】
前記混合工程における前記A液の比重調整によって前記A液の品質管理を行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の裏込め注入方法。
【請求項8】
掘削坑と覆工体との間に裏込め材を注入するシールド工法における裏込め注入システムであって、
前記掘削坑の坑外に設置されており、少なくとも硬化材及び助材を含有する硬化材含有液を調製するプラントと、
前記プラントで生成された前記硬化材含有液を前記掘削坑の坑内にパイプ輸送するパイプと、
前記坑内に設置されており、掘削により発生する掘削土及びこれを含有するリサイクル泥水、助材を含有する加泥材及び加泥材含有液、並びに、水のうち少なくとも一種と、前記硬化材含有液とを混合してA液を得る混合手段と、
前記坑内に設置されており、前記A液を収容するタンクと、
前記A液と、急結剤を含有するB液とを前記掘削坑と前記覆工体との間に注入する裏込め注入手段と、
を備える裏込め注入システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−62730(P2012−62730A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209658(P2010−209658)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(594203999)株式会社タック (3)
【Fターム(参考)】