説明

補修方法

【課題】ALCパネルに形成された模様が複雑な形状を有している場合であっても、この模様に剥離や切欠或いは穴等の欠損部が生じたとき、これらの欠損部を簡単な作業で補修する。
【解決手段】本発明に係る補修方法は、予めALCパネルAに形成された模様(縦目地1、横目地2からなる模様)と同一意匠の模様が型取りされた型材Bを用意しておき、ALCパネルAに於ける模様の欠損部20に補修材25を充填する充填路21を形成し、型材Bを模様の欠損部20に対向させて当接保持し、充填路21を介して補修材25を欠損部20に充填し、補修材25が硬化した後、型材Bを離脱させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軽量気泡コンクリートパネルに生じた欠損部を補修する方法に関し、特に、パネル表面に形成された模様に欠損部が生じた場合に欠損部を合理的に補修する補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリートパネルは、耐火性や断熱性などの点で窯業系サイディング等の他のパネルよりも優れていることから、建物の外壁パネルとして利用されることが多い。従来はパネル表面に特に加工を施さない平坦なものや、水平あるいは垂直の単純な溝加工を施したものが主流であったが、最近では、パネル表面に曲線など複雑な溝加工を施して模様を形成したり、例えば特許文献1に記載の如く予め形成された溝部の側壁に剥離刃物をあててエッジ部をこじり上げることでパネル表面を剥離加工して割石調(自然石を破砕したようなテクスチャー)の模様を形成することなどが行われるようになり、軽量気泡コンクリートからなる外壁パネルの意匠性は大きく向上してきた。
【0003】
軽量気泡コンクリートパネルに模様を形成する作業は工場段階で行われ、その後、トラック等の運搬手段で目的の建築現場に搬入される。このとき、搬送時の荷扱いの際、或いは予期しない原因で模様の一部が欠けることがあり、その都度欠損部を補修することが行われている。また、時には軽量気泡コンクリートパネルを躯体に取り付けて配管用の穴を形成した後、配管の位置が変更されるようなこともあり、この場合も不要になった穴が欠損部となるため、この欠損部を現場で補修することが行われている。
【0004】
上記の如き軽量気泡コンクリートパネルの表面に形成されている模様の一部が欠損したときの補修方法は、例えば、特許文献2に記載された、ポルトランドセメント、軽量気泡コンクリート粉末、黒曜石パーライトの混合粉体原料と、ノニオン系分散剤によりエマルジョン化したアクリルラテックスと、からなる補修材を欠損部に充填し、その後、金鏝等を利用して欠損部の模様を復元することで行われている。
【0005】
一方、コンクリートブロックを自然石に擬して成形したり、コンクリートパネルの表面に自然石に擬した模様を形成するような場合、硬質の枠体にシリコンゴム等によって模様を形成し得るように構成しておき、この枠体にコンクリートを打設することで、模様を形成することが行われている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平11−333828号公報
【特許文献2】特開2003−300768号公報
【特許文献3】特許第2852888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の如く複雑な模様が形成された軽量気泡コンクリートパネルにおいて模様の欠損部を補修する場合、特許文献2に記載されたような補修方法によって補修を行うと、金鏝を利用して模様に対応した形状に仕上げることが必須となることから、作業に手間が掛かる、もしくは作業に熟練を要するという問題があり、複雑さの程度によっては金鏝によって同一意匠の模様を復元することが困難であり新規なものと交換せざるを得なくなるという問題も生じる。
【0008】
なお、特許文献3に記載された発明は、シリコンゴム等を利用することによって模様を転写することが示唆されるものの、この発明自体が模様の欠損部を補修するような目的を有するものではなく、且つこのことを示唆するものではない。従って、特許文献3に記載された発明は、模様の補修技術として適用し得るものではない。
【0009】
また、特許文献1に記載された剥離装置は軽量気泡コンクリートパネルの製造工場に配置すべき大規模なものである。従って建築現場において、例えば補修材等を用いて欠損部を埋めて一旦平坦にした後に本装置を用いてパネル表面を剥離して同一意匠の模様を復元する、という作業を実現し得る技術ではない。
【0010】
本発明の目的は、軽量気泡コンクリートパネルに形成された模様が複雑な形状を有している場合であっても、この模様に生じた欠損部を新築建物の建設現場あるいは既築建物の改修現場において簡単な作業で補修することができる補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る補修方法は、表面を切削加工することによって形成した同一意匠の模様を有する軽量気泡コンクリートパネルに於ける前記模様の欠損部を補修するための補修方法であって、予め軽量気泡コンクリートパネルに形成された模様と同一意匠の模様が型取りされた型材を用意しておき、軽量気泡コンクリートパネルに於ける模様の欠損部に補修材を充填する充填路を形成すると共に、前記型材を模様の欠損部に対向させて当接保持し、前記充填路を介して補修材を欠損部に充填し、更に、模様の欠損部に対向させて当接保持した型材を離脱させることで欠損部を補修することを特徴とするものである。
【0012】
なお、ここで「同一意匠」とは、模様の形状が完全に一致する場合(同一形状)は勿論のこと、同一の加工方法やほぼ等しい加工範囲により、同一の質感を有し目視して同じ印象を与える場合も含み、ある程度の形状の相違は許容されるものである。例えば、特許文献1に記載の剥離装置によって同一の条件で剥離加工されて剥離帯が形成された場合は、同一形状ではないが同一意匠の模様が形成された、と言うことができる。
【0013】
上記補修方法に於いて、充填路を、軽量気泡コンクリートパネルの表面に於ける模様が形成されていない部分から模様の欠損部まで、又は軽量気泡コンクリートパネルの裏面から模様の欠損部まで形成されていることが好ましい。
【0014】
上記何れかの補修方法に於いて、補修すべき軽量気泡コンクリートパネルが起立した状態にある場合、充填路を模様の欠損部の上端部に接続し、且つ充填路に対する補修材の充填口を模様の欠損部の上端よりも高い位置に形成されていることが好ましい。
【0015】
上記何れかの補修方法に於いて、型材が、透視性を有するものであることが好ましい。
【0016】
上記何れかの補修方法に於いて、軽量気泡コンクリートパネルの表面に同一意匠の模様が連続して形成されている場合、予め模様の欠損部に於ける欠損深さを確認し、欠損深さが浅い場合、模様の欠損部を削って該欠損部の深さを所定の深さに確保することが好ましく、また軽量気泡コンクリートパネルの表面が略一定の寸法で区画されており夫々の区画に同一意匠で且つ形状の異なる模様が形成されている場合、予め用意される型材には前記模様と同一意匠の模様を型取りしておき、模様の欠損が生じた区画の全領域を削って該区画の深さを所定の深さに確保すると共に前記型材を対向させて当接保持することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る主たる補修方法では、軽量気泡コンクリートパネル(以下「ALCパネル」という)に形成された模様の欠損部(剥離や切欠或いは不要となった穴等を含む、以下単に「欠損部」という)を補修する際に、予めALCパネルに形成された模様と同一意匠の模様が型取りされた型材を用意しておき、且つ欠損部に補修材を充填する充填路を形成し前記型材を欠損部に対向させて当接保持することによって、欠損部に於けるALCパネル面と型材の面との間に充填路と連続し、且つ欠損したALCパネルの形状及び容積と同一の形状と容積を持った空間が形成される。そして、充填路を介して補修材を前記空間に充填し、充填された補修材が硬化した後、当接保持した型材をALCパネルから離脱させることで、型材の模様が転写されて硬化した補修材によって欠損部を補修することができる。
【0018】
この方法では、充填路にも補修材が充填されることとなるが、充填路に対する補修材の充填口付近には、充填口の形成された面の角度によっては充填口から溢流して硬化した補修材が残ることや、逆に充填口付近において補修材の溢流を避けるため完全に充填しないないことがある。しかし、充填口はALCパネルの表面や裏面の模様が形成されていない平坦面に形成されている為、充填口付近で硬化した余剰の補修材を削って平坦にしたり、あるいは完全に充填されていない充填口に粘性の高い補修材を充填し金鏝を用いて平坦に仕上げることで充填口を容易に補修することができる。更には、充填口がALCパネルの裏面に形成された場合は充填不足がない限り多少の不陸は許容されるので平坦に仕上げることに時間を費やす必要がない。
【0019】
上記何れかの補修方法に於いて、補修すべきALCパネルが起立した状態、即ち、建物の躯体に取り付けられた状態にある場合、充填路を欠損部の上端部に接続すると共に充填路に対する補修材の充填口を欠損部の上端よりも高い位置に形成することによって、充填口から補修材を充填したとき、自重で欠損部に流下して充填することができる。従って、躯体に外壁パネルとして取り付けられたALCパネルを取り外すことなく欠損部を補修することができる。
【0020】
上記何れかの補修方法に於いて、型材を透視性を有するものとすることによって、欠損部に対する補修材の充填状況を視認することが可能となり、補修材の充填量の不足による補修不良をなくして確実な補修を実現することが出来る。
【0021】
特に、ALCパネルの表面に同一意匠の模様が連続して形成されている場合、予め欠損部に於ける欠損深さを確認し、欠損深さが浅い場合、欠損部を削って該欠損部の深さを所定の深さに確保することで、欠損部に充分な厚さの補修材を付着させて硬化させることが可能となり、安定した付着強度を実現して良好な補修状態を確保することができる。
【0022】
またALCパネルの表面が略一定の寸法で区画されており、夫々の区画に同一意匠で且つ形状の異なる模様が形成されている場合、予め用意される型材には前記模様と同一意匠の模様を型取りしておき、欠損が生じた区画の全領域を削って該区画の深さを所定の深さに確保すると共に前記型材を対向させて当接保持することで、欠損が生じた区画の模様が如何なる形状であったとしても、該区画を元の意匠と同一意匠で補修することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る補修方向の最も好ましい実施形態について説明する。本発明に係る補修方法は、ALCパネルの表面を切削加工することによって形成された同一意匠の模様に欠損が生じたとき、この欠損部に対し予め前記模様と同一意匠の模様を型取りした型材を対向させて保持することで、ALCパネルから離脱した(欠損した)部分の形状及び容積と同一の形状と容積を持った空間を構成し、この空間に補修材を充填、硬化させることで補修する方法に関するものである。
【0024】
本発明に於いて、欠損部を補修する補修材としては、高い流動性を有し且つALCパネルに対して高い付着性を有するものであれば利用することが可能である。このような補修材としては、特許文献1に記載された補修材をはじめとしたALC用補修材を強度上問題ない程度に水分の比を高めたものや、一般にグラウト材と呼ばれる流動性のある充填材を利用することが好ましい。
【0025】
ALCパネルの表面を切削加工することによって形成された模様の意匠や形状は限定するものではない。即ち、ALCパネルは建物の外壁を構成するものであり、建物の用途や建築主の嗜好等に応じた意匠をもつ任意のALCパネルに対応し得るものである。また同一の意匠であるということは、この意匠を実現した模様の形状(切削部の幅、深さ、曲率、間隔等)が完全に同一である必要はなく、目視して同一の印象を与える模様を形成していればある程度の形状の相違を許容するものである。
【0026】
ALCパネルの表面に形成された同一意匠の模様の例を図1により説明する。同一意匠の模様として、例えば、図1(a)に示すように、断面が台形1段の縦溝(パネル両端のパネル目地部の溝も含む。以下同様)と、断面が台形2段の横溝とからなる模様が夫々等間隔に形成されることで、同一意匠(同一形状)の模様が連続して形成されたものがある。また同図(b)に示すように、断面が深さ方向に曲面状の縦溝と、V字断面で幅が波状に変化し隣接する溝どうしの波形が半周期ずれた横溝とからなる模様とが縦横夫々等間隔に形成されることで、同一意匠(同一形状)の模様が連続して形成されたものがある。
【0027】
また同図(c)に示すように、縦横の等間隔の溝によって区画された領域が縦断面が略山型になるように表面の大部分を破砕して割石調の模様が形成され、夫々の区画の模様の形状は異なるが同一意匠をなす模様がある。また同図(d)に示すように、縦溝は略同じ間隔で形成されると共に横溝が異なる間隔で形成され、縦横の溝によってブロック状の領域に区画されると共に、間隔が最も広い領域の区画上下の縁部を割石調状に形成することで、板状石と割石を重ねた感覚の意匠を持ち、且つ各区画毎に模様の形状が異なるが同一意匠をなす模様がある。
【0028】
上記の如き模様はALCパネルの表面を切削加工することで形成される。本発明に於いて、切削加工とは、必ずしもエンドミルやフライスカッターのように回転する刃物を用いて切削する加工に限定するものではなく、例えば特許文献1に記載されているような剥離装置で表面を剥離する加工、タガネによって表面を打撃することで切削する加工、砥石を回転させて表面を削りとる加工も含み、更に、線状の工具や棒状の工具で表面を引っかくように切削する加工も含むものである。
【0029】
ALCパネルの表面を切削加工して模様を形成する場合、予め工場段階で行われるのが一般的である。しかし、本発明では必ずしも工場段階で切削加工を行うことに限定するものではなく、現場で切削加工してALCパネルの表面に模様を形成する場合も含むことが好ましい。このような切削加工は、建物のリフォームに際し、既に設置されている平坦面を有するALCパネルの表面に切削加工を施してリフォーム前の意匠を変更するような場合に行われる。
【0030】
本発明に於いて、型材は予めALCパネルに形成された模様と同一意匠の模様が型取りされている。即ち、型材の一方側の面には、目的のALCパネルの意匠と同一意匠の模様が型取りされており、この型取りされた模様の面をALCパネルに生じた欠損部に対向させて補修材を充填することで、模様を補修材に転写してALCパネルの欠損部を補修するようにしたものである。
【0031】
上記の如く、型材にはALCパネルに形成された模様と同一意匠の模様が型取りされている。即ち、本発明に係る補修方法は、ALCパネルに形成された模様に欠損が生じたとき、この模様の欠損部を補修するものであり、模様が形成されていないALCパネル、例えば、表面が平坦面のみによって形成されているALCパネルや、表面に模様が形成されているとしても欠損部が平坦面のみに生じているような場合を対象とするものではない。例えば、このような平坦面に欠損が生じたとしても、欠損部に補修材を充填し表面を金鏝等で均す、という従来の補修方法によって容易に補修することができるからである。
【0032】
型材に模様を型取りする方法は特に限定するものではない。例えばALCパネルに於ける模様の大きさに対応させた寸法を持った木材や硬質ゴム等からなる板材を用意し、この板材の表面を機械加工して型取りすることが可能である。また、ALCパネルの表面に流動性を持った材料を流し込んで凝固させることで模様を型取りすることも可能である。このように何れの方法であっても、型材としての型取りをすることが可能であるが、後者の方法では、手順が簡単で、且つ実際のALCパネルに形成されている模様を転写して型取りするので、型取りした模様の形状の欠損部の模様の形状に対する近似性を有するため好ましい。特に、模様がALCパネルの表面を剥離したり破砕するなどしてランダムに形成された割石調の模様の場合においては後者の方法が有効である。
【0033】
ALCパネルに形成された模様には、前述した図1(a)に示す縦横に直線状に等間隔に形成された溝や、同図(b)に示す一定の周期と振幅を有する波のように幅が変化する溝のように、比較的単調で、同一の形状を繰り返すものがある。この場合、模様の形状である溝を所定の長さで型取りすることによって型材を構成することが可能である。
【0034】
また同図(c)及び(d)に示す割石模様のように、模様及び形状が複雑で且つ一部の形状が繰り返し表現されるものではないものがある。このような割石模様では、所定寸法の矩形の割石が外壁に貼着してあるかのように表現する為に、縦横に所定の間隔で溝(擬似的な目地)が形成されて区画されるのが一般的である。この場合、型材が割石模様の一部を型取りして構成されているのでは補修の際に、現実の模様と型材に型取りされた模様との境界部において模様を円滑に連続させることは困難である。このため、型材には溝で区画された全領域について同一意匠の模様を型取りしておき、何れかの区画に欠損が生じた場合、欠損部を含む区画を全領域にわたって削り落として型材に型取りされた模様で補修することで、一つの区画を補修することが好ましい。
【0035】
流動性を持った材料によってALCパネルに形成された模様を型取りするような場合、ALCパネルの表面を、該ALCパネルに形成され且つ欠損が生じていない模様の一単位(例えば模様が化粧目地によって区画された領域に形成されているような場合、一つの区画全域を含む)を中心として隣接する複数の区画の略半分程度の面積を含む領域を仕切によって区切り、区切られた領域に、ALCに対して良好な剥離性を有し、且つ繰り返し利用した場合にも充分な耐久性を有する材料を流し込んで凝固させた後、剥離することで良い。この場合、作業性が良好で、しかも、実際にALCパネルに形成されている模様を転写して型取りするので、例え、型取りしたモデルとなるALCパネル以外のALCパネルの欠損部を補修する際の型材としても、同一意匠であることを保証することが可能となり、好ましい。
【0036】
上記方法を採用して型材を構成する際に使用する流動性、剥離性、耐久性を兼ね備えた材料として特に限定するものではない。しかし、本件発明者の知見では、例えばシリコンゴムやウレタンゴム等を含むゴム類であれば好ましい。
【0037】
型材はALCパネルに形成された模様の欠損部に対向して当接保持される。型材の剛性、即ち、型材が折れ曲がり易いか否かについては特に限定するものではない。しかし、実際に作業を進める上では、補修材を充填しない模様の非欠損部分や模様の形成されていない平坦面においてALCパネル表面と型材とを密着させ流動性のある補修材の漏れを防止する必要があるため、型材が適度な可撓性を有することが好ましい。
【0038】
型材をALCパネルの欠損部に対向させて当接保持する場合、コンクリートねじ等の固定具を利用してALCパネルに固定することが好ましい。型材が高い剛性を有するものである場合、該型材に貫通させた固定具をALCパネルに締結することで保持することが可能である。また型材が適度な可撓性を有するものである場合、この型材を欠損部に対向させて当接した後、型材に補強材を当接させて該補強材を固定具によってALCパネルに固定することが可能である。
【0039】
型材が透視性を有するか否かは特に限定するものではない。しかし、型材をALCパネルに保持したとき、該型材とALCパネルとによって構成された空間に補修材を充填する際に、充填状態を視認し得ることが好ましく、このため、型材が透視性を有することが好ましい。
【0040】
前述したシリコンゴムやウレタンゴムは、適度な可撓性と透視性を有するため、型材を構成する材料として利用して好ましい。
【0041】
また、補強材の形状は特に限定されるものではなく、型材を線状に保持する棒状の補強材や面状に保持する板材などが適用できるが、補強材の充填により型材がはらむことがないように、欠損部の大きさや容積、型材の剛性等に応じて適宜選定するのが好ましい。さらに、型材が透視性を有しかつ補強材が板状の場合は、透視性を確保する為に補強材もアクリル板等の透視性を有するものが好ましい。
【0042】
型材を欠損部に対向させて当接保持させることで欠損部に於けるALCパネルの面と型材との間に構成された空間に、補修材が充填される。このため、前記空間に補修材を充填するための充填路が構成される。充填路を構成し得る部位としてはALCパネルと型材とがあり、これらの何れに構成しても良い。
【0043】
充填路をALCパネルに構成する場合、ALCパネルの表面を溝状に削って充填路とすることが可能であり、またALCパネルを厚さ方向に貫通させた穴を形成して充填路とすることが可能である。また型材に充填路を構成する場合、型材を欠損部に対向させて当接保持した後、型材を厚さ方向に貫通して欠損部に構成された空間に連通する穴を形成して充填路とすることが可能であり、さらに、縦横の溝によって区画された領域全体に補修材を充填する場合は、充填路となる穴を予め形成しておいてもよく、型材のALCパネルとの当接面側に型材の上方の小口面まで連通する溝状の充填路を形成してもよい。
【0044】
ALCパネルの表面を溝状に削って充填路とする場合、型材の大きさを考慮して、溝の一方側の端部を欠損部に接続し他方側の端部を型材の端縁に対応する位置であって模様が形成されていない平坦面をなす位置に設定することが好ましい。このような充填路を構成し、かつ充填口が形成される面が水平面ではない場合には、漏斗状の充填ガイド等を適宜用いて欠損部に補修材が充填されたのち引き続き充填路にも補修材が充填される。そして、充填路の端部で型材の端縁と対応した部位に構成された充填口付近で余剰の補修材が硬化した場合は、型材をALCパネルから離脱した後にタガネ等の工具を利用してはつり落とし、サンダー等で平滑に仕上げることで、充填口から充填路を経て欠損部に至る補修材の充填経路を補修することが可能となる。また、充填路を補修材で完全に満たさず充填口付近を未充填状態としておき、未充填部分には粘性の高い補修材を充填し金鏝等で平滑に仕上げてもよい。いずれの方法によっても充填口がALCパネルに於ける模様が形成されていない平坦面に位置するため、充填口付近の補修を簡単に行うことが可能である。
【0045】
またALCパネルに厚さ方向に貫通した穴を形成して充填路とする場合、この穴を欠損部に連通させて構成することが好ましい。このような充填路を構成した場合には、ALCパネルの裏面側から補修材を充填することが可能となり、充填口付近の補修も表面側に充填路を形成した場合と同様の方法で補修ができる。さらに、充填口は内装材で被覆されるALCパネルの裏面側に形成されるため平滑に仕上げることに時間を費やす必要がない。
【0046】
また型材に厚さ方向に貫通した穴を形成して充填路とする場合、ALCパネルの表面側を上向きにして該穴の上部から欠損部に向けて補修材を充填することで補修することが可能である。そして補修材が硬化した後、型材をALCパネルから離脱させる際に、型材に形成した穴に残った硬化した補修材を折るようにすることで、欠損部の補修を行うことが可能である。
【0047】
また型材のALCパネルとの当接面側に型材の上方の小口面まで連通する溝状の充填路を形成する場合は、型材をALCパネルから離脱した後に充填路部分で硬化した余剰の補修材をタガネ等の工具を利用してはつり落とし、サンダー等で平滑に仕上げることで簡単に補修することができる。
【0048】
特に、ALCパネルが建物の外壁を構成している場合、即ち、ALCパネルが起立した状態にあるとき、充填路を欠損部の上端部分に接続して構成すると共に充填口は欠損部から充分に高い位置に構成することが好ましい。このような充填路と充填口を構成することによって、充填口から補修材を充填したとき、該補修材は自重によって欠損部まで流下することが可能である。
【0049】
欠損部に型材を対向させて当接保持することで、ALCパネルの欠損部の面と型材の面とによって補修材を充填する空間が形成される。このとき、ALCパネルの欠損部の面と型材の面との距離が小さいと、補修材の充填が不充分となり、良好な補修が実現し得なくなる虞がある。本件発明者の実験では、両面の距離が少なくとも5mm程度は確保されていないと、補修材の充填を好ましい状態で実現することが困難であるとの結果を得ている。
【0050】
従って、欠損が生じたALCパネルの補修を行う場合、先ず、欠損部に於ける欠損深さを確認し、この欠損深さが約5mmよりも大きい場合には、そのまま補修を実行する手順に入ることが可能であるが、欠損深さが約5mmよりも浅い場合、タガネ等の工具を利用して欠損部及び欠損部の周囲を削りとって、少なくとも5mm程度の欠損部深さを確保することが必要となる。
【0051】
欠損部及び周囲を削りとって欠損部深さを確保する場合、削り取る領域は、ALCに形成された模様の性質に対応させて適宜設定することが好ましい。例えば、同一意匠の同じ形状の模様が連続して形成されているような場合は、該欠損部を含む周辺のみを約5mm程度の深さに削りとれば良い。
【0052】
しかし、割石模様のように同一意匠であっても形状が異なる模様が連続して形成されているような場合、欠損部の周辺に欠損が生じていない状態であっても、欠損部を含む区画の全領域を約5mm程度の深さに削りとることが必要である。このように、欠損部を含む区画を単位として補修することで、良好な補修を実現することが可能となる。
【実施例1】
【0053】
次に、上記補修方法の実施例について図を用いて説明する。図2は型材を製作する際の手順の例を説明する図である。図3は図2の手順で製作された型材の例を説明する図である。図4はALCパネルの欠損部を補修する際に型材を取り付ける手順を説明する図である。図5は欠損部に補修材を充填して補修する際の手順を説明する図である。
【0054】
先ず、型材を製作する方法の例について図2により説明する。本例の方法は、予め欠損が生じていないALCパネルを利用して型材を製作するものである。先ず、ALCパネルAの欠損が生じていない模様(本例の模様は、1段の台形状に形成された縦溝1と、深さの異なる2段の台形状に形成された横溝2とによって構成されており、これらの溝1、2によって区画された領域には模様が形成されることのない平坦面3が形成されている)を選択する。尚、本例では、ALCパネルAの全面にわたって前記溝1、2が連続して且つ隣接する溝1、2が一定の間隔を保持して形成されている。
【0055】
選択された区画と該区画に連続した他の区画の一部を含めた範囲に仕切材5を配置する。この仕切材5は、ALCパネルに形成された模様の表面に配置されて固定される。仕切材5として何を用いるかは全く限定するものではなく、合成樹脂を角棒状に発泡させたものや、角棒状のゴム材或いは木材等を利用することが可能である。またこの仕切材5を固定する方向も全く限定するものではなく、シール材を用いて接着して固定する方法や、ALCねじによる固定或いは万力による固定等の方法を採用することが可能である。
【0056】
上記の如くして仕切材5によって仕切られた部位に流動性を持ったシリコンゴムを充分な量だけ流し込み、所定時間保持してシリコンゴムを凝固させることで、該シリコンゴムにALCパネルAに形成された各溝1、2からなる模様を転写して型取りする。その後、仕切材5を撤去し、凝固したシリコンゴムを剥離させることで型材Bを製作することが可能である。
【0057】
上記の如く製作された型材Bでは、図3に示すように、ALCパネルAの縦溝1が転写された縦突起11、横溝2が転写された横突起12、平坦面3が転写された平坦面13が型取りされている。
【0058】
尚、型材Bの材料としては必ずしもシリコンゴムに限定するものではなく、ウレタンゴムを含む型取り用のゴム(RVゴム)を利用することが可能である。本例のシリコンゴムの場合、適度な可撓性と透視性を有するため好ましく、且つ耐久性も充分で繰り返し利用することができる。さらに、ALCパネル製造時に形成されるカット面の鮫肌状の凹凸も忠実に転写することができ、硬化した補修材との剥離性もよい。
【0059】
次に、ALCパネルに形成された模様に欠損が生じた場合の補修手順について図4、5により説明する。尚、本例では、表面に縦溝1、横溝2からなる模様を有し、これらの溝1、2によって区画された領域には模様を構成することのない平坦面3が形成されたALCパネルAを対象とし、該ALCパネルAは既に起立した状態にあるものとして説明する。
【0060】
図4(a)に示すように、ALCパネルAに形成された模様を構成する横溝2の一部にALCが剥離した欠損部20が生じている。先ず、欠損部20の深さを確認した結果、欠損深さが約5mm以下である場合、欠損部20の周囲を深さが5mm以上になるように削って充填路21を形成する。このとき、充填路の一端を型材Bの端縁から外れる位置で且つ模様を構成することのない平坦面3に形成する。更に、充填路21が横溝2と交叉する部位では、該充填路21が補修材を流通させるのに充分な深さ(約5mm)を確保する。
【0061】
また欠損部20の深さが約5mm以上で充分な深さを有する場合には、この欠損部20の深さを深くするように削る必要はなく、欠損部20に接続する充填路21を形成すれば良い。
【0062】
上記の如くして充填路21を形成した後、該充填路21、及び欠損部20が残っている場合には欠損部20と充填路21、の表面にプライマーを塗布する。尚、補修材として特許文献1に記載したものを使用する場合には、プライマーの塗装は不要である。
【0063】
次いで、同図(b)に示すように、充填路21が形成された区画に型材Bを対向させてALCパネルAに当接させる。このとき、ALCパネルAに形成された欠損部20を含む充填路21の表面と、型材Bの充填路21と対向する面との間に空間が形成され、該空間を補修材で充填することで、目的の欠損部20に対する補修を行うことが可能となる。
【0064】
型材BをALCパネルAに於ける補修すべき部位となる充填路21に対向させて当接させた状態で、型材Bの背面に複数の補強材22を配置し、ALCねじ23を利用してALCパネルAに締結することで、型材Bの充填路21に対する当接状態を保持させる。このとき、充填路21の一端が型材Bの端縁からはみ出しており、このはみ出し部が補修材を注ぎ込む充填口21aとなる。
【0065】
型材Bを補強材22によってALCパネルAの表面に保持したとき、充填路21に対する補修材の充填状況を型材Bの外部から視認し得ることが好ましい。このため、補強材22による型材Bの保持位置を選択するか、補強材22を透視性を有する材料で構成しておくことが好ましい。
【0066】
次に、図5(a)に示すように、型材Bの端縁であってALCパネルAに形成した充填路21の充填口21aに充填ガイド24を差し込み、予め流動性を持たせて調製しておいた補修材25を注ぎ込む。注ぎ込まれた補修材25は、充填口21aから充填路21を通って欠損部20が存在した部位に充填される。このとき、型材Bに軽い衝撃を加えることで、充填路21に空気溜まりができることを防止して良好な充填を実現することが可能となる。
【0067】
充填路21に対する補修材25の充填状況を型材Bの外部から視認し、補修材25が充填口21aまで充分に充填されたことを確認したとき、補修材25の充填を停止する。充填路21に対する補修材25の充填が終了した後、そのままの状態で所定時間放置し、補修材25の硬化を待ち、充分に硬化した後、型材Bを取り外す。
【0068】
補修材25が硬化してALCパネルAの表面から型材Bを取り外したとき、充填ガイド24に残った補修材25がALCパネルAの表面から起立した起立材25aとなっているため、タガネ等の切断工具によって起立材25aを大まかに除去した後、サンダー等で平滑に仕上げることで、欠損部20の補修が完了する。
【0069】
尚、起立材25aを除去したとき、窪みが生じたような場合には、固練りした補修材25を金鏝によって塗り込むこと補修することが可能である。特に、補修材25の充填口21aが模様を形成することのない平坦面3に構成されるため、前記補修を簡単に行うことが可能となる。また、ALCねじの固定痕はミリ単位の穴であるので従来の補修方法に準じて補修を行えば十分である。
【0070】
前述の実施例では、充填路を完全に満たすまで補修材を充填したが、補修材が充填口21a下端に付近達した時点で充填を一旦終了し、別途用意した固練りの補修材を充填口21a付近の未充填部分に充填し、金鏝等で平滑に仕上げても良い。
【0071】
前述の実施例では、ALCパネルAが起立している場合について説明したが、ALCパネルが躯体に取り付けられた状態ではなく、横置きされているような場合には、充填路をALCパネルの厚さ方向に形成して裏面から補修材の充填を行うようにすることが可能である。この場合、硬化した補修材が裏面に残った場合でも硬化した起立材を単に折り取ることで良く簡単な作業とすることが可能である。この場合、型材に充填路を形成することも可能となり、補修作業の選択肢を広げることが可能となる。
【0072】
また前述の実施例では、ALCパネルAに形成された模様が各溝1、2によって構成されている場合について説明したが、各溝によって区画された領域にも模様が形成されているような場合で、この模様が割石のように不連続な面で構成されている場合には、型材Bの平坦面3に代えて前記模様を転写しておき、補修する際には、各溝1、2によって区画された領域の全面を削り取った状態で、型材を対向させて当接保持した後、補修材を充填することで補修することが可能である。
【0073】
図(c)の模様のようにALCパネルの表面側のほとんどが切削加工され充填口を形成しうる平坦面が存在せず、かつ起立した状態にある場合は、充填路をALCパネルの厚さ方向に形成して裏面から補修材の充填を行うことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の補修方法では、ALCパネルに形成された模様が如何なるものであっても、容易に且つ良好な状態で補修することが可能である。このため、ALCパネルを新築建物の外壁パネルとして利用する際に生じた欠損部の補修に、或いは既存建物のリフォームの際に生じた欠損部の補修に利用して有利である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】ALCパネルに形成された模様の例を説明する図である。
【図2】型材を製作する際の手順の例を説明する図である。
【図3】図2の手順で製作された型材の例を説明する図である。
【図4】ALCパネルの欠損部を補修する際に型材を取り付ける手順を説明する図である。
【図5】欠損部に補修材を充填して補修する際の手順を説明する図である。
【符号の説明】
【0076】
A ALCパネル
B 型材
1 縦溝
2 横溝
3 平坦面
5 仕切材
11 縦突起
12 横突起
13 平坦面
20 欠損部
21 充填路
21a 充填口
22 補強材
23 ALCねじ
24 充填ガイド
25 補修材
25a 起立材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を切削加工することによって形成した同一意匠の模様を有する軽量気泡コンクリートパネルに於ける前記模様の欠損部を補修するための補修方法であって、予め軽量気泡コンクリートパネルに形成された模様と同一意匠の模様が型取りされた型材を用意しておき、軽量気泡コンクリートパネルに於ける模様の欠損部に補修材を充填する充填路を形成すると共に、前記型材を模様の欠損部に対向させて当接保持し、前記充填路を介して補修材を欠損部に充填し、更に、模様の欠損部に対向させて当接保持した型材を離脱させることで欠損部を補修することを特徴とする補修方法。
【請求項2】
前記充填路を、軽量気泡コンクリートパネルの表面に於ける模様が形成されていない部分から模様の欠損部まで、又は軽量気泡コンクリートパネルの裏面から模様の欠損部まで形成することを特徴とする請求項1に記載した補修方法。
【請求項3】
補修すべき軽量気泡コンクリートパネルが起立した状態にある場合、充填路を模様の欠損部の上端部に接続し、且つ充填路に対する補修材の充填口を模様の欠損部の上端よりも高い位置に形成することを特徴とする請求項1又は2に記載した補修方法。
【請求項4】
前記型材が、透視性を有するものであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載した補修方法。
【請求項5】
軽量気泡コンクリートパネルの表面に同一意匠の模様が連続して形成されている場合、予め模様の欠損部に於ける欠損深さを確認し、欠損深さが浅い場合、模様の欠損部を削って該欠損部の深さを所定の深さに確保することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載した補修方法。
【請求項6】
軽量気泡コンクリートパネルの表面が略一定の寸法で区画されており夫々の区画に同一意匠で且つ形状の異なる模様が形成されている場合、予め用意される型材には前記模様と同一意匠の模様を型取りしておき、模様の欠損が生じた区画の全領域を削って該区画の深さを所定の深さに確保すると共に前記型材を対向させて当接保持することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載した補修方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−119314(P2007−119314A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315581(P2005−315581)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】