説明

補修用モルタル組成物

【課題】初期ひび割れの抵抗性を向上させ、フローダウンを抑制し(作業時間の延長)、長期間貯蔵しても膨張性能の低下が少なく、さらに特殊な梱包材を用いないでも、貯蔵安定性に優れたモルタル組成物を提供する。
【解決手段】ポルトランドセメント、膨張材、ポリマーおよび細骨材を含有してなり、膨張材が、遊離石灰、水硬性化合物、および無水石膏を含有するクリンカまたはクリンカ粉砕物を炭酸ガス雰囲気で加熱処理し炭酸カルシウムを生成させて得られる膨張材であり、ポルトランドセメントと膨張材からなる結合材100部中、膨張材が2〜10部、ポリマーが結合材100部に対して1〜20部、細骨材が50〜250部である補修用モルタル組成物であり、さらに、収縮低減剤、繊維類、減水剤を含有する前記補修用モルタル組成物、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築分野において使用されるモルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、塩害、中性化、凍結融解、および化学的腐食などの作用により劣化が進行し、表面にひび割れや浮きなどが発生する恐れがある。その対策として、劣化した部分を打音検査などで確認し、電動ピック、エアピック、ウォータージェットなどにより取り除き、新たに補修部材で充填し補修する工事が行われている。修復断面が小さい小規模な補修工事では、ポリマーセメントモルタルを練混ぜてコテ塗りで断面修復を行う場合が多い(特許文献1、2参照)。
【0003】
コテ塗りなどで補修する場合には、使用するモルタルの塗り易さや付着性といった施工性に優れた材料が好まれる。そのため、モルタルに適度な粘りや抗ダレ性を付与することを目的に特許文献1、2に記載されているようにフライアッシュやシリカフュームなどの無機微粉末を配合した材料が使用されている。
また、ポリマーセメントモルタルは、ポリマーの混和により硬化組織が密実化することで炭酸ガス、塩化物イオン、水の透過性を抑制して耐久性を付与するものであるが、完全な遮断はできない。特に、水分の蒸発によって生じる乾燥収縮の影響によって、数ヶ月のレベルでひび割れが発生する場合がある。これを解決するために、収縮低減剤を配合することも行われている(特許文献3参照)が、低温環境下では著しく凝結が遅延する場合がある。
【0004】
一方で、セメントの収縮を補償し、ひび割れ発生抑制や、構造体との付着性能を保持する目的で、膨張材が用いられている。膨張材としては、例えば、3CaO・3Al・CaSO(アウイン)、CaSOおよびCaOを主成分とするカルシウムサルホアルミネート系(以下、アウイン系膨張材という)と、遊離石灰を主成分とする石灰系(以下、石灰系膨張材という)の他、遊離石灰−水硬性物質−セッコウ類を含有してなる膨張材などがある。
【0005】
セメント、骨材、膨張材、乾燥収縮低減剤、ポリマーを用い、その膨張材と収縮低減剤の相乗効果によりモルタル・コンクリートの収縮低減を図ることや(特許文献4参照)、セメント、膨張材、再乳化型粉末樹脂、骨材、繊維物質、収縮低減剤、減水剤、および消泡剤を含有するポリマーセメント組成物が提案されている。(特許文献5参照)
【0006】
しかしながら、膨張材を含有するセメント組成物は、品質保証期間を超えて貯蔵すると外部より浸入してくる水分によって、膨張性能が低下する場合があり、それによって硬化体のひび割れ発生や構造体との付着性能が低下する危険性があった。さらに、長期の収縮を補償する目的で使用する膨張材は、初期に十分な養生を行わないとプラスティック収縮により初期ひび割れが発生する恐れがあった。
【0007】
そこで、貯蔵によるセメントプレミックス製品の劣化(モルタル性状の劣悪化、膨張性能の低下)を遅延させる方法としてセメント、石灰系膨張材、および減水剤を主成分とする結合材からなるセメントプレミックス組成物をポリエチレン袋に梱包したセメントプレミックス製品が提案されている。(特許文献6参照)
【0008】
この方法によると、セメントプレミックス組成物の品質保証期間は延長させるものの、特殊な梱包材を使用することが必要であり、さらに梱包時の製造効率を向上させるため、包装袋にピンホールやスリットを入れるなど、梱包材に特殊な加工を施す必要があった。
【0009】
また、従来の膨張材は高温多湿な環境で長期間貯蔵した場合、膨張性能が低下し、特にセメントとあらかじめ混合した場合には、膨張性能の低下が顕著になるという課題を解消する目的で、膨張材を炭酸ガス雰囲気で加熱処理し炭酸カルシウムを生成させて貯蔵安定性を向上させる方法が提案されている。(特許文献7参照)
【0010】
この膨張材には、骨材の他、減水剤や流動化剤、消泡剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、繊維類、その他添加剤が併用できることは示されているものの、具体的な使用量は示されておらず、その効果は膨張性能の他についても何ら示唆されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−322858号公報
【特許文献2】特開2003−89565号公報
【特許文献3】特開2003−55018号公報
【特許文献4】特開2008−31006号公報
【特許文献5】特開2005−82416号公報
【特許文献6】特許3939135号公報
【特許文献7】国際公開第2010/143506号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記課題を解決しようとするものであり、初期ひび割れの抵抗性を向上させ、フローダウンを抑制し(作業時間の延長)、長期間貯蔵しても膨張性能の低下が少なく、さらに特殊な梱包材を用いないでも、貯蔵安定性に優れたモルタル組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明は、(1)ポルトランドセメント、膨張材、ポリマーおよび細骨材を含有してなり、膨張材が、遊離石灰、水硬性化合物、および無水石膏を含有するクリンカまたはクリンカ粉砕物を炭酸ガス雰囲気で加熱処理し炭酸カルシウムを生成させて得られる膨張材であり、ポルトランドセメントと膨張材からなる結合材100部中、膨張材が2〜10部、ポリマーが結合材100部に対して1〜20部、細骨材が50〜250部である補修用モルタル組成物、(2)さらに、収縮低減剤を結合材100部に対して1〜8部含有する(1)の補修用モルタル組成物、(3)さらに、繊維類を結合材100部に対して0.05〜0.7部含有する(1)または(2)の補修用モルタル組成物、(4)さらに、減水剤を含有する(1)〜(3)のいずれかの補修用モルタル組成物、である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の補修用モルタル組成物は、初期ひび割れの抵抗性を向上させ、長期間貯蔵しても膨張性能の低下が少なく、フローダウンを抑制し(作業時間の延長)、さらに特殊な梱包材を用いないでも、貯蔵安定性に優れるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する部や%は特に規定のない限り質量基準である。
【0016】
本発明で使用するセメントとは、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱のポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、またはシリカを混合した各種混合セメント、エコセメント、白色セメント、超速硬セメント、石灰石微粉末などを混合したフィラーセメントなどが挙げられる。
【0017】
本発明で使用するポリマーとは、例えば、JIS A 6203で規定されているセメント混和用のポリマーであり、水の中にポリマーの微粒子が分散しているポリマーディルパージョンや、ゴムラテックスおよび樹脂エマルジョンに安定剤などを加えたものを乾燥して得られる再乳化形粉末樹脂などを称するものであり、中性化、塩害、凍害等の耐久性を向上させ、モルタルの付着強度、曲げ強度、引張強度などの強度特性を改善する目的で使用する。
例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、および天然ゴムなどのゴムラテックス、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体、およびスチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトリル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂に代表される液状ポリマーなどが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用できる。
【0018】
本発明のポリマーの使用量は、セメントと膨張材からなる結合材100部に対して、固形分換算で1〜20部が好ましく、3〜10部がより好ましい。1部未満では耐久性の向上効果が小さく、20部を超えると強度発現性に影響する場合がある。
【0019】
本発明で使用する膨張材は、遊離石灰、水硬性化合物、および無水石膏を含有するクリンカ、またはクリンカ粉砕物を炭酸ガス雰囲気で加熱処理し炭酸カルシウムを生成させて得られるものである。
遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏、および炭酸カルシウムが同一粒子中に存在している粒子を含有していることが好ましい。
【0020】
本発明の膨張材は、CaO原料、Al原料、Fe原料、SiO原料、およびCaSO原料を適宜混合して熱処理して得られるクリンカまたはクリンカ粉砕物を炭酸ガスで処理して得られるものである。
本発明で云う遊離石灰とは、通常f−CaOと呼ばれるものである。
本発明で云う水硬性化合物とは、3CaO・3Al・CaSOで表されるアウイン、3CaO・SiO(CSと略記)や2CaO・SiO(CSと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al・Fe(CAFと略記)や6CaO・2Al・Fe(CFと略記)、6CaO・Al・Fe(CAFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe(CFと略記)などのカルシウムフェライトであり、これらのうちの1種または2種以上を含むことが好ましい。本発明の膨張材に含まれる炭酸カルシウムの形態は特に限定されるものではない。
【0021】
CaO原料としては石灰石や消石灰などが挙げられ、Al原料としてはボーキサイトやアルミ残灰などが挙げられ、Fe原料としては銅カラミや市販の酸化鉄などが、SiO原料としては珪石などが、CaSO原料としては二水石膏、半水石膏および無水石膏などが挙げられる。
これら原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物としては、MgO、TiO、ZrO、MnO、P、NaO、KO、LiO、硫黄、フッ素、塩素などが挙げられる。
【0022】
本発明の膨張材に使用するクリンカの熱処理方法は特に限定されるものではないが、電気炉やキルン等を用いて1100〜1600℃の温度で焼成することが好ましく、1200〜1500℃がより好ましい。1100℃未満では膨張性能が充分でなく、1600℃を超えると無水石膏が分解する場合がある。
【0023】
本発明の膨張材に使用するクリンカに含まれる各鉱物の割合は、以下の範囲であることが好ましい。遊離石灰の含有量は、クリンカ100部中、10〜70部が好ましく、40〜60部がより好ましい。水硬性化合物の含有量は、クリンカ100部中、10〜50部が好ましく、20〜30部がより好ましい。無水石膏の含有量は、クリンカ100部中、1〜50部が好ましく20〜30部がより好ましい。前記範囲外では、膨張量が極端に大きくなって圧縮強度が低下したり、膨張量が小さくなる場合がある。
【0024】
鉱物の含有量は、従来一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉砕した試料を粉末X線回折装置にかけ、生成鉱物を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、鉱物を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物量を計算によって求めることもできる。
【0025】
本発明の膨張材を調製するための炭酸ガスの処理条件は以下の範囲であることが好ましい。
炭酸化処理容器への炭酸ガスの流量は、炭酸化処理容器の容積1Lあたり0.01〜0.1L/minであることが好ましい。0.01L/min未満ではクリンカの炭酸化に時間がかかる場合があり、0.1L/min以上に高めてもさらなる炭酸化処理速度の向上が得られず不経済である。なお、本条件は、炭酸化処理容器としてるつぼを使用し、るつぼを電気炉内に静置し、炭酸ガスを流して反応させた場合の条件であり、他の方法でクリンカと炭酸ガスを反応させる場合はこの限りではない。
炭酸化処理容器の温度は200〜800℃とすることが好ましい。200℃未満ではクリンカの炭酸化反応が進行しない場合があり、800℃以上では一度炭酸カルシウムに変化したとしても再び脱炭酸化反応が生じ、炭酸カルシウムを生成させることができない場合がある。
なお、クリンカの炭酸化は未粉砕のクリンカをそのまま炭酸化しても良いし、クリンカを粉砕してから炭酸化しても良い。本発明でいう炭酸化処理容器は特に限定されるものではなく、クリンカと炭酸ガスを接触させ反応させることが出来ればよく、電気炉でも良いし、流動層式加熱炉でも良いし、クリンカを粉砕するミルでも良い。
【0026】
炭酸カルシウムの割合は、クリンカ100部中、0.5〜10部であることが好ましく、1〜5部がより好ましい。各鉱物の組成割合が前記範囲内にないと優れた膨張性能や初期の圧縮強度、貯蔵安定性が得られない場合がある。
炭酸カルシウムの含有量は、示差熱天秤(TG−DTA)や示差熱熱量測定(DSC)などによって、炭酸カルシウムの脱炭酸に伴う重量変化から定量することができる。
【0027】
本発明の膨張材は、同一粒子中に遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏、および炭酸カルシウムが存在する粒子を含有していることが好ましい。
遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏、および炭酸カルシウムが同一粒子中に存在しているかどうかは電子顕微鏡などによって確認することができる。具体的には、膨張材を樹脂で包埋し、アルゴンイオンビームで表面処理を行い、粒子断面の組織を観察するとともに、元素分析を行うことで炭酸カルシウムが同一粒子内に存在しているか確認することができる。
【0028】
本発明の膨張材の粉末度は、ブレーン比表面積で2000〜9000cm/gが好ましく、3000〜6000cm/gがより好ましい。2000cm/g未満では長期に亘って膨張し硬化体組織が壊れたり、9000cm/gを超えると膨張性能が低下したり、流動性が低下したり、フローダウンが大きくなる場合がある。
【0029】
本発明の膨張材の使用量は、補修材料の配合によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、セメントと膨張材からなる結合材100部中、2〜10部が好ましく、4〜8部がより好ましい。2部未満では充分な膨張性能が得られない場合があり、10部を超えて使用すると過膨張となり硬化体に膨張クラックを生じる場合がある。
【0030】
本発明で使用する収縮低減剤は、使用することにより未反応の水分の逸散を防止しセメント水和物の乾燥収縮を抑制するもので、具体的には、アルコール系、低級アルコールアルキレンオキシド誘導体系、グリコール系、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体系、およびポリエーテル系等の界面活性作用を有する有機系化合物を使用することができる。
収縮低減剤の使用量は、セメントと膨張材からなる結合材100部に対して、1〜8部が好ましい。1部未満では収縮低減効果が充分でない場合があり、8部を超えるとコストアップになるばかりかフレッシュ時の流動性が低下したり、凝結遅延や強度低下を生じる場合がある。
【0031】
本発明で使用する繊維類は、ひび割れ抵抗性や曲げ耐力を向上させるものである。繊維の種類としては、ビニロン繊維やプロピレン繊維、ナイロン繊維などの高分子繊維類、鋼繊維、ガラス繊維、及び炭素繊維に代表される無機繊維類が挙げられ、特に限定されるものではない。
繊維類の使用量は、セメントモルタル100部に対して0.05〜0.7部が好ましく、0.08〜0.5部がより好ましい。0.05部未満では曲げ耐力を向上させる効果が発揮されない場合があり、0.7部を超えるとモルタルの流動性に悪影響を与える場合がある。繊維の長さはコテ仕上げ面の美観の点で15mm以下が好ましい。
【0032】
本発明で使用する減水剤は、特に限定させるものでなく、セメントに対する分散作用や空気連行作用を有し、流動性改善や強度増進するものの総称であり、具体的には、ナフタレンスルホン酸系減水剤、メラミンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、およびポリカルボン酸系減水剤が使用でき、減水剤の使用形態は、液体、粉体のいずれも使用可能であるが、プレミックス製品として使用する際には粉体が好ましい。
減水剤の使用量は特に限定されるものではない。減水剤の種類により減水率に差があり適正量はそれぞれ異なるが、通常、セメントと膨張材からなる結合材100部に対して、固形分換算で0.05〜1.0部が好ましい。0.05部未満では流動性が充分でなくなる場合があり、1.0部を超えると材料分離を起す場合がある。
【0033】
本発明ではさらに消泡剤を使用することができる。消泡剤とは、適度な空気連行性を調整する目的で使用することができる。消泡剤の種類としては、高級脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物、グリコールのエチレンオキサイド付加物等のポリエーテル系消泡剤、ジメチルシリコーンなどのシリコーン系消泡剤、トリブチルホスフェートなどのトリアルキルホスフェート系消泡剤等がある。
【0034】
本発明の消泡剤の使用量は、セメントと膨張材からなる結合材100部に対して、0.001〜0.5部が好ましく、0.003〜0.1部がより好ましい。0.001部未満では消泡効果は少なく、0.5部を超えても消泡効果が頭打ちとなり不経済となる場合がある。
【0035】
本発明で使用する細骨材は通常使われている川砂、海砂、砕砂、珪砂、軽量骨材などが挙げられ、それらのうち1種または2種以上を混合して使用することが可能であり、プレミックス製品として使用する際にはそれらの乾燥砂が好ましい。
細骨材の最大粒度は、2mm以下が好ましい。それ以上では、コテ仕上げ時の作業性が損なわれたり、仕上げ面が荒々しい感じとなる場合がある。
細骨材の使用量は、結合材100部に対して、50〜250部が好ましくい。250部を超えると強度不足が発生したり、作業性が損なわれたりする場合がある。
【0036】
本発明で使用する練混ぜ水量は特に限定されるものではないが、通常、水/結合材比で25〜50%が好ましく、30〜45%がより好ましい。この範囲外では、練混ぜが困難であったり、材料分離や強度低下を起こしたりする場合がある。
【0037】
また更には添加材(剤)として、増粘剤、防錆剤、防凍剤、および凝結調整剤ならびにセメント急硬材、ベントナイトなどの粘土鉱物、ゼオライトなどのイオン交換体、シリカ質微粉末、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、石膏、ケイ酸カルシウムのうち1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
「実験例1」
CaO原料、Al原料、Fe原料、SiO原料、CaSO原料を表1に示す鉱物割合となるように配合し、混合粉砕した後1350℃で熱処理してクリンカを合成し、ボールミルを用いてブレーン比表面積で3000cm/gに粉砕した。この粉砕物25gをアルミナ製るつぼに入れて電気炉内にセットし、炭酸ガスの流量を電気炉内容積1Lあたり0.05L/min、焼成温度600℃、1hr反応させ、生成した炭酸カルシウムの生成量を定量して膨張材とした。さらに、炭酸ガス処理をクリンカー粉砕前に上記を同様な条件で行い、その後ブレーン比表面積3000cm/gに粉砕した膨張材も用いた(実験No.1-8)。
【0040】
この膨張材を使用して、セメントと膨張材からなる結合材100部中、膨張材を6部、結合材100部に対して骨材200部、ポリマー7部をV型ブレンダーにて均一に混合した。
20℃の室内で、その補修用モルタル組成物に水を42部加えモルタルミキサーで練混ぜてセメントモルタルとし、所定材齢での長さ変化と圧縮強度試験を行った。結果を表1に示す。
さらに、促進貯蔵試験した補修用セメント組成物についても同様な実験を行った。
なお、比較として炭酸ガス処理をせずクリンカを粉砕しただけの膨張材(実験No.1-9〜11)、炭酸ガス処理をせずクリンカを粉砕しただけの膨張材に炭酸カルシウム粉末を混合した膨張材(実験No.1-12)についても同様の実験を行った。
【0041】
(使用材料)
CaO原料:石灰石
Al原料:ボーキサイト
Fe原料:酸化鉄
SiO原料:珪石
CaSO原料:二水石膏
炭酸ガス:市販品
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
細骨材:石灰石砕砂 最大粒径1.2mm
ポリマー:アクリル−酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル系共重合体 市販品
炭酸カルシウム粉末:市販品、200メッシュ通過品
【0042】
(試験方法)
鉱物組成:化学組成と粉末X線回折の同定結果に基づいて計算により求めた。
炭酸カルシウムの生成量:示差熱天秤(TG−DTA)の500〜750℃の脱炭酸に伴う重量変化より定量した。
膨張材粒子内の鉱物分布:シリコン製の容器に膨張材を入れ、エポキシ樹脂を流しこみ硬化させ、硬化物をイオンビーム加工機(SM−09010、日本電子製)にて断面加工し、SEM−EDS分析装置にて確認した。
長さ変化率:JIS A 1171 ポリマーセメントモルタルの試験方法に準じ材齢28日までの長さ変化率を測定した。
圧縮強度:JIS A 1171 ポリマーセメントモルタルの試験方法に準じ材齢28日の圧縮強度を測定した。
促進貯蔵試験:補修用モルタル組成物25kgを3重クラフト紙の内装に20μm厚の高密度ポリエチレンシートを貼り付けた梱包材内に梱包し、シールして35℃、90%RH室内で1ヶ月間存置した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1によれば、実験No.1-4と実験No.1-12を比較すると、鉱物含有量は同様であるが、炭酸カルシウムを混合したものは促進貯蔵後の収縮率が大きくなっている。これは炭酸カルシウムの粒子が存在するのみでは、貯蔵安定性の向上には効果がないことを意味し、クリンカを炭酸ガス処理することによって、クリンカ表面に炭酸カルシウムの皮膜層が生成され、膨張に寄与する鉱物の貯蔵劣化を抑制しているものと推察できる。
【0045】
「実験例2」
実験No.1-4で使用した膨張材二を用い添加率を表2のように変化させたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2によれば、膨張材の添加率を増加するに従い、長さ変化率は小さくなり、促進貯蔵後でも、収縮補償効果を示していることが分かる。
【0048】
「実験例3」
実験No.1-4で使用した膨張材二を用い、ポリマーの添加率を表2のように変化させて、付着強度と圧縮強度、中性化深さを測定したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0049】
(試験方法)
付着強度:横30×縦30×厚さ6cmのサンドブラストしたコンクリート板にプライマー(エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン)を150g/m2となるように刷毛で塗り、補修モルタルを2cm厚みとなるように塗り付け、表面のコテ仕上げを行い試験体とした。材齢28日後にコアリングにより高速カッターで下地のコンクリート部まで切断し削孔し、専用の引抜き治具を取り付け建研式付着力試験機で測定した。試験体の養生は温度20℃、湿度60%、一検体当たりの付着面積は1600mmとした。
中性化深さ:JIS A 1171に準拠した。
【0050】
【表3】

【0051】
表3によれば、ポリマー4〜15部を加えることにより、付着強度が向上し、中性化深さも浅くなり、中性化抵抗性が向上しているのがわかる。特に、ポリマーを4〜10部にすると、付着強度、中性化抵抗性の向上が顕著になるものである。
【0052】
「実験例4」
市販の膨張材を処理し、流動性と中性化深さを測定したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0053】
(使用材料)
市販膨張材A:遊離石灰50部、アウイン12部、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al・Fe)5部、カルシウムシリケート(2CaO・SiO)3部、無水石膏30部。
市販膨張材B:遊離石灰52部、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al・Fe)4部、カルシウムシリケート(2CaO・SiO)10部、カルシウムシリケート(3CaO・SiO)12部、無水石膏20部。
【0054】
(試験方法)
流動性:JIS-R5201によるテーブルフロー値
【0055】
【表4】

【0056】
表4より、膨張材をCO処理することにより、フローダウンは小さくなり、更に市販品をCO処理しても、貯蔵による収縮量の増大は小さく、中性化深さも促進貯蔵前と同程度の値を示しており、貯蔵安定性が向上していることがわかる。中性化抵抗性(貯蔵安定性)が向上した原因としては、CO処理によりクリンカ中のf-CaOの周りにも炭酸カルシウムの皮膜層が生成されたことにより、水和による消化が遅延し、更に促進中性化で炭酸化養生からによるCOアタックが緩慢化されたことによるものと考えられる。
【0057】
「実験例5」
市販の膨張材AとそれをCO処理した実験No.4-2の膨張材を用い、ポリマーの量を表5のように変化させ、初期ひび割れ抵抗性の測定を行ったこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に示す。
【0058】
初期ひび割れ抵抗性:横30×縦30×厚さ6cmのサンドブラストしたコンクリート板にプライマー(エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン)を150g/mとなるように刷毛で塗り、30℃-40%RH恒温室内で補修モルタルを2cm厚みとなるように塗り付け、表面のコテ仕上げを行い試験体とした。打設2時間後から送風機により風をあてながら材齢24時間まで存置し、ひび割れの有無について確認した。
【0059】
【表5】

【0060】
表5によれば、CO処理した膨張材とポリマーを併用することにより初期ひび割れ抵抗性が向上することが分る。
【0061】
「実験例6」
実験No.1-4で使用した粉末度3000cm/gの膨張材二と実験No.4-1で使用した市販膨張材Aの炭酸ガス処理品を結合材100部中5部と表5に示す収縮低減剤を使用したこと以外は実験例1と同様に行い、長さ変化率とひび割れ確認試験を行った。結果を表6に示す。
【0062】
(使用材料)
収縮低減剤:ポリオキシアルキレン誘導体、市販品
【0063】
(試験方法)
ひび割れ確認試験:JHS432 5.1ひび割れ抵抗試験方法に準じ20℃-80%RH恒温室内で試験体を作製。材齢48時間で30℃-40%RH恒温室内に移動し、送風機により風をあてながら材齢28日まで存置し、ひび割れの有無について確認した。
【0064】
【表6】

【0065】
表6より、収縮低減剤を1〜8部を膨張材と併用することにより、長さ変化率が小さくなり、収縮低減効果を奏するのがわかる。特に、収縮低減剤を3〜8部にすると、長さ変化率が極めて小さくなり、更には高い圧縮強度が維持されるものである。
【0066】
「実験例7」
実験No.1-4で使用した粉末度3000cm/gの膨張材二を結合材100部中5部と表7に示す繊維類、減水剤を使用したこと以外は実験例1と同様に行い、モルタルの流動性(実験例4)と曲げタフネスを測定した。結果を表7に示す。
【0067】
(使用材料)
繊維類:ビニロン繊維、繊維長さ6mm、繊維径0.027mm、収束タイプ、市販品
減水剤:ナフタレンスルホン酸系、市販品、粉末状
【0068】
(試験方法)
曲げタフネス:JCSE−G 552−2010 鋼繊維補強コンクリートの曲げ強度および曲げタフネス試験方法(案)に準じ材齢28日の曲げタフネスを測定した。
【0069】
【表7】

【0070】
表7より、繊維類を0.05〜0.7部を加えることにより、曲げタフネスが向上し、一方で減水剤を0.01〜0.50部加えることで流動性が改善されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の補修用モルタル組成物を採用することにより、フローダウンを抑制し(作業時間の延長)、初期ひび割れの抵抗性が向上し、長期間保管しても、製造直後とほぼ同等なモルタル物性を示し、製品価値を損なうことが無いなどの優れた効果を奏し、土木・建築分野で幅広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、膨張材、ポリマーおよび細骨材を含有してなり、膨張材が、遊離石灰、水硬性化合物、および無水石膏を含有するクリンカまたはクリンカ粉砕物を炭酸ガス雰囲気で加熱処理し炭酸カルシウムを生成させて得られる膨張材であり、ポルトランドセメントと膨張材からなる結合材100部中、膨張材が2〜10部、ポリマーが結合材100部に対して1〜20部、細骨材が50〜250部であることを特徴とする補修用モルタル組成物。
【請求項2】
さらに、収縮低減剤を結合材100部に対して1〜8部含有する請求項1に記載の補修用モルタル組成物。
【請求項3】
さらに、繊維類を結合材100部に対して0.05〜0.7部含有する請求項1または2に記載の補修用モルタル組成物。
【請求項4】
さらに、減水剤を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の補修用モルタル組成物。

【公開番号】特開2013−100202(P2013−100202A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245410(P2011−245410)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】