補剛板及び補剛板の製造方法
【課題】鋼板への補剛材の溶接品質の向上を図り且つ疲労強度の向上を図る。
【解決手段】鋼板10と共に閉断面構造をなす補剛材20を前記鋼板10の表面に複数溶接してなる補剛板であって、前記補剛材20は、前記鋼板10に当接する縁部が前記閉断面構造の外側から所定出力のレーザLを所定方向から照射されて所定溶接速度でレーザ溶接されることにより、前記鋼板10に接合されている。
【解決手段】鋼板10と共に閉断面構造をなす補剛材20を前記鋼板10の表面に複数溶接してなる補剛板であって、前記補剛材20は、前記鋼板10に当接する縁部が前記閉断面構造の外側から所定出力のレーザLを所定方向から照射されて所定溶接速度でレーザ溶接されることにより、前記鋼板10に接合されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補剛板及び補剛板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の床材としてコンクリート材等の種々の材料があるが、その一つとして鋼床版が知られている。鋼床版は、主として鋼板(デッキプレート)で構成されるが、デッキプレートだけでは必要強度を十分に確保できないことから、通常は下面に補剛材(リブ)を配設した補剛板として構成されている。
補剛材には、帯状の板鋼の他、閉断面リブ等と呼ばれる断面V字状或いはU字状の鋼材がある。これらの補剛材が、一定の間隔で並列されてデッキプレートの下面に接合されることにより、補剛板が構成される。
ここで、閉断面リブは、デッキプレートと閉断面構造をなすように、両端の縁部がデッキプレートにアーク溶接により接合される。
【0003】
上記のような補剛板の変形例としては、非特許文献1に示すサンドイッチパネルがある。このサンドイッチパネルは、U型リブ材がデッキプレート上に閉断面構造をなすように多数並列して配置されて、U型リブ材の縁部がデッキプレート上にアーク溶接され、更に、U型リブ材の頂部にボトムプレートが配材されて、U型リブ材の頂部とボトムプレートとが重ねレーザ溶接にて接合されることにより、製作されるものである。
なお、補剛板の溶接技術に関する先行技術文献としては、本出願人による下記特許文献1がある。
【非特許文献1】『中厚板レーザ重ね溶接継手の強度特性とパネル製造』日立造船株式会社 北側 彰一 『レーザシンポジウム:中厚板構造体へのレーザ技術の応用』資料より 社団法人 日本溶接協会 LMP委員会 開催期間:平成14年8月22日(木)〜23日(水)
【特許文献1】特開2006−224137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アーク溶接では、溶接後に溶接金属が熱収縮するため、デッキプレート及び閉断面リブ内に引っ張り残留応力(溶接残留応力)を生じ、当該溶接残留応力によって部材の組み付け精度が低下したり、部材の引張強度、圧縮強度或いは疲労強度が低下したりする問題がある。
また、閉断面リブの閉断面構造部の溶接においては、閉断面構造部の外側からしか溶接作業を行うことができないが、このような閉断面構造部をアーク溶接する場合、メルトスルー(溶け過ぎ)を防止しようとすると、レ型又はJ型開先の先端、即ち閉断面構造の内側のルート部に一部溶接されない部分(溶け残り部)が生じるという問題がある。即ち、アーク溶接では、溶融範囲を精密に管理できないため、メルトスルーを防止しようとすると溶け残り部が発生してしまう。
【0005】
このように、デッキプレート及び閉断面リブ内に溶接残留応力が発生し、且つ、閉断面構造の内側のルート部に溶け残り部が存在すると、デッキプレートの溶け残り部直上付近に応力が集中する等のため、デッキプレートの溶け残り部直上付近に亀裂が発生し易くなる。デッキプレートに亀裂が発生すると、疲労強度が急激に低下して疲労破壊に至り易いという問題がある。また、メルトスルーは溶接品質を低下させるので好ましくない。
【0006】
一方、補剛板の製作におけるレーザ溶接としては、上記非特許文献1のサンドイッチパネルにおいて2部材を打ち抜くようにして溶接する重ねレーザ溶接があるが、デッキプレートへの閉断面リブの縁部の接合にはレーザ溶接は従来用いられていない。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、鋼板への補剛材の溶接品質の向上を図り且つ疲労強度の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、第1の手段として、鋼板と共に閉断面構造をなす補剛材を前記鋼板の表面に複数溶接してなる補剛板であって、前記補剛材は、前記鋼板に当接する縁部が前記閉断面構造の外側から所定出力のレーザを所定方向から照射されて所定溶接速度でレーザ溶接されることにより、前記鋼板に接合されていることを特徴とする補剛板を採用した。
【0009】
また、第2の手段として、上記第1の手段に係る補剛板において、前記補剛材の前記縁部は、前記鋼板の表面と略平行に対向するよう形成されて、前記鋼板にレーザ溶接されているものを採用した。
【0010】
第3の手段として、上記第1又は2の手段に係る補剛板において、前記補剛材は、長手方向に直交する断面の形状が略U字状をなす閉断面リブであるものを採用した。
【0011】
また更に、本発明では、第4の手段として、上記第1〜3の何れか1つの手段に係る補剛板において、前記レーザ溶接に代えて、レーザ溶接とアーク溶接を併用したレーザ・アークハイブリッド溶接によって溶接されているものを採用した。
【0012】
また、第5の手段として、鋼板と共に閉断面構造をなす補剛材を前記鋼板の表面に複数溶接してなる補剛板の製造方法であって、前記補剛材の前記鋼板に当接する縁部を前記閉断面構造の外側から所定出力のレーザを所定方向から照射して所定溶接速度でレーザ溶接することにより、前記鋼板と前記補剛材とを接合することを特徴とする補剛板の製造方法を採用した。
【0013】
また、第6の手段として、上記第5の手段に係る補剛板の製造方法において、前記レーザ溶接に先立って、前記補剛材の前記縁部を、前記鋼板の表面と略平行に対向するよう形成する方法を採用した。
【0014】
また、第7の手段として、上記第5又は第6の手段に係る補剛板の製造方法において、前記レーザ溶接では、凸レンズで集光したレーザ光を平面ミラーで屈曲させる屈曲型レーザ溶接装置を用い、該屈曲型レーザ溶接装置により前記鋼板の表面に沿ってレーザ光を照射することで前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【0015】
また、第8の手段として、上記第5〜7の何れか1つの手段に係る補剛板の製造方法において、前記レーザ溶接では、レーザ光を放物線ミラー又は球面ミラーで集光及び屈曲させる屈曲型レーザ溶接装置を用い、該屈曲型レーザ溶接装置により前記鋼板の表面に沿ってレーザ光を照射することで前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【0016】
また、第9の手段として、上記第5〜7の何れか1つの手段に係る補剛板の製造方法において、前記レーザ溶接と同時又は直近する工程でアーク溶接を併用するレーザ・アークハイブリッド溶接によって前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【0017】
また、第10の手段として、上記第5〜9の何れか1つの手段に係る補剛板の製造方法において、フィラーワイヤを用いた前記レーザ溶接または前記レーザ・アークハイブリッド溶接によって前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【0018】
また、第11の手段として、上記第5〜10の何れか1つの手段に係る補剛板の製造方法において、スキンプレートと隙間を空けない開先形状にして前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【0019】
また、第12の手段として、上記第5〜11の何れか1つの手段に係る補剛板の製造方法において、スキンプレートが曲面の構造へ適用して前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、レーザ溶接、またはレーザ・アークハイブリッド溶接により補剛材の縁部を鋼板に接合するので、例えばレーザの出力、照射方向、溶接速度を適正に設定することにより、メルトスルーや溶け残り部の発生を解消できる。したがって、鋼板への補剛材の溶接品質の向上を図ると共に、疲労強度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1は、本実施形態における補剛板の構成を示す斜視図である。図2は、図1に示す補剛板の一部を拡大して上下を反転させた斜視図である。図3は、図2におけるA−A線に沿った断面図である。
なお、補剛板は、船の甲板や構造物等の種々の用途に使用されるものであるが、ここでは、補剛板を例えば橋梁の鋼床版に適用する場合を例に説明する。
【0022】
鋼床版(補剛板)は、デッキプレート10(鋼板)の一方の面に一定の間隔で複数の閉断面リブ20(補剛材)を配して構成されている。デッキプレート10は、所定板厚t1(例えば12mm)の鋼製の平板である。閉断面リブ20は、所定板厚t2(例えば6〜8mm)の鋼製の平板を曲げ加工した断面U字状の形鋼である。
【0023】
図4は、レーザ溶接装置30(屈曲型レーザ溶接装置)の構成及びその使用状態を示す模式図である。この図に示すように、レーザ溶接装置30は、光源31と、凸レンズ32と、平面ミラー33と、これら各部31〜33を収納すると共にレーザ射出口34が形成された筐体35とを有する。光源31は、レーザLを発するものである。凸レンズ32は、レーザLを集光させるものである。平面ミラー33は、レーザLを反射するものである。
【0024】
図5は、閉断面リブ20の一対の縁部21,22の形状を示す模式図である。図6は、鋼床版の製造工程を示す説明図である。これらの図面をも参照して、以下に、鋼床版の製造工程について詳細に説明する。
【0025】
まず、図5に示すように、閉断面リブ20の一対の縁部21,22は、デッキプレート10の当接させられる面に略平行に対向する形状に、形成される。続いて、閉断面リブ20の一対の縁部21,22がデッキプレート10の面に当接させられる(図6の矢印a)。
次に、レーザ溶接装置30が、デッキプレート10と閉断面リブ20とが形成する閉断面構造の外側から、閉断面リブ20の全長(図6の矢印b)に亘って、レーザ(図6のc)を照射することにより、閉断面リブ20の各縁部21,22がデッキプレートの面にレーザ溶接される。そして、閉断面リブ20の両縁部21,22にレーザ溶接が施されることによって、デッキプレート10に閉断面リブ20が接合されて、鋼床版が製造される。
【0026】
レーザ溶接装置30は、図4に示すように、光源31が発するレーザLを凸レンズ32で集光し、凸レンズ32が集光したレーザLを平面ミラー33で反射することによりレーザLの進行方向を屈曲させて、レーザ射出口34からレーザLを射出する。そして、このレーザ溶接装置30が射出するレーザLが、デッキプレート10上の閉断面リブ20の縁部21,22近傍に照射されることにより、デッキプレート10に閉断面リブ20が接合される。なお、閉断面リブ20の縁部21,22近傍には、必要に応じてレーザLと共にワイヤWを供給する。
【0027】
上記レーザ溶接装置30によるレーザ溶接にあたっては、レーザLの出力、照射位置、照射方向、溶接速度、ワイヤWの供給速度を適正に設定する。これにより、メルトスルーが発生しないようにすることができると共に、溶け残り部を0.5mm程度にまで少なくすることができる。
また、屈曲型レーザ溶接装置であるレーザ溶接装置30を用いることにより、レーザLを自由な角度(例えば90°程度)に屈曲させて、デッキプレート10の面に沿って照射することができる。これにより、デッキプレート10上の閉断面リブ20の縁部21,22近傍に容易にレーザLを照射することができる。
【0028】
更に、本実施形態の溶接は、アーク溶接によらない溶接であるので、アーク溶接による溶接後の溶接金属の熱収縮による溶接残留応力の発生がない。したがって、溶接残留応力による部材の組み付け精度の低下や、部材の引張強度、圧縮強度或いは疲労強度の低下が発生しない。
そして、本実施形態のように、デッキプレート10上に閉断面リブ20が、溶接残留応力の発生がなく且つ溶け残り部が少ない状態に溶接されていると、溶け残り部における応力集中が少なくなるので、デッキプレート10の溶け残り部直上付近の亀裂発生度合いを低下させることができる。したがって、本実施形態によれば、デッキプレート10上への閉断面リブ20の縁部21,22の溶接においてメルトスルーの発生を解消しつつ溶け残り部を極限まで狭めることにより溶接品質の向上を図ることが可能となると共に、デッキプレート10の亀裂の発生を抑えて疲労強度を向上させることができる。
【0029】
なお、上記実施形態では、図6に示すレーザ溶接装置30を用いたが、実施にあたっては、図7に示すレーザ溶接装置40(屈曲型レーザ溶接装置)を用いてもよい。レーザ溶接装置40は、光源41と、放物面状又は球面状の反射面を有する曲面ミラー43と、これら各部41,43を収納すると共にレーザ射出口44が形成された筐体45とを有する。
このようなレーザ溶接装置40は、光源41が発するレーザLを、曲面ミラー43によって集光させると共に反射させることによりレーザLの進行方向を屈曲させて、レーザ射出口44からレーザを射出する。
【0030】
また、上記実施形態では、閉断面リブ20として断面U字状の形鋼を用いるようにしたが、実施にあたっては、閉断面リブは、図8に示すような断面V字状や断面半円形状、断面台形状、断面四角形状等、他の断面形状のものであってもよい。更に、上記実施形態では、補剛材を閉断面リブ20としたが、実施にあたっては、必ずしもデッキプレート10と共に閉断面構造を形成するものでなくてもよく、例えばI型鋼等をデッキプレート10に立設する場合であっても、本発明を良好に適用可能である。
そして、上記実施形態では、鋼板をデッキプレート10とし、補剛板の一例として鋼床版について説明したが、実施にあたっては、鋼板はデッキプレート10に限るものではなく、補剛板もまた鋼床版に限るものではなく、鋼板に補剛材を配した補剛板であれば本発明を良好に適用可能である。
【0031】
つぎに、レーザ溶接と同時又は直近する工程でアーク溶接を併用するレーザ・アークハイブリッド溶接によって溶接する場合について、図9〜図11に沿って説明する。以下に説明するように、レーザ・アークハイブリッド溶接の装置において、レーザLとアーク溶接のトーチMは略同じスポットを狙う。なお、各図に亘り同一機能部には同一符号を付して説明の重複を避ける。
【0032】
図9は本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、(a)断面図、(b)平面図である。図9(a),同(b)に示すように、デッキプレート(以下、「スキンプレート」または「鋼材」ともいう)10に閉断面リブ(以下、「リブ」または「補剛板」ともいう)20をレーザ・アークハイブリット溶接する場合、レーザ装置30のヘッドから溶接スポットまで距離Xだけ離してレーザLを照射し、その照射部に近い位置にアーク溶接のトーチを浴びせながら、溶接方向Yへと所定溶接速度でレーザ・アークハイブリット溶接をする。なお、レーザ溶接とアーク溶接の何れを先行させるかは問わない。
【0033】
図10は本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、図9(a)の要部Hを拡大した図である。図10に示すように、レーザLの照射角度θを10度以上とすることが好ましい。また、Z狙い位置を低め(例えば5mm以下)に設定することが好ましい。
【0034】
所定出力が4kWより小さい場合、メルトスルーは発生しにくいが溶け残りが生じやすく、本方式により要求される溶接品質を達成できない。また、所定出力が10kWより大きい場合、鋼床版のリブ厚さに対して出力が大きいのでメルトスルーが発生することが懸念される。
一方、所定溶接速度が50cm/分より小さい場合、溶接速度が速いというレーザ溶接のメリットが生かせない。また、所定溶接速度が200cm/分より大きい場合、溶け残りが生じることが懸念される。
【0035】
図11は、上記照射角度θに応じた溶融部の状態を示すものであり、(a)はレーザLの照射角度θを10度以上にした場合の溶融部Y1を、また(b)はレーザLの照射角度θを10度未満にした場合の溶融部Y2を示している。レーザLの照射角度θを10度以上にした場合の溶融部Y1はメルトスルーが発生しないが、レーザLの照射角度θを10度未満にした場合の溶融部Y2はメルトスルーが発生している。レーザLの照射角度θを10度以上にした場合は、溶け込み先端が図示するようにスキンプレート10内になるためにメルトスルーが発生し難いが、レーザLの照射角度θを10度未満にした場合には、溶け込み先端がデッキプレート10とリブ20との間に位置するのでメルトスルーが発生し易くなる。
【0036】
図12は、上記Z狙い位置に応じた溶融部の状態を示すものであり、(a)はZ狙い位置を5mm以下(低め)にした場合の溶融部Y3を、また(b)はZ狙い位置を5mmより大きく(高めに)した場合の溶融部Y4を示している。Z狙い位置を低めに設定した場合の溶融部Y3はメルトスルーが発生しないが、Z狙い位置を高めに設定した場合の溶融部Y4はメルトスルーが発生している。Z狙い位置を低めに設定した場合は、溶け込み先端が図示するようにスキンプレート10内になるためにメルトスルーが発生し難いが、Z狙い位置を高めに設定した場合には、溶け込み先端がデッキプレート10とリブ20との間に位置するのでメルトスルーが発生し易くなる。
【0037】
図13は本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、図9(b)の要部Kを拡大した図である。図11に示すように、レーザ・アークハイブリッド溶接の装置において、レーザLとアーク溶接のトーチMは、原則として略同じスポットを狙うものであるが、好ましくは、レーザLとアーク溶接のトーチMの間隔を0〜5mm空けて溶接する。このレーザ・アークハイブリッド溶接を採用することによるメリットは以下の2点である。
【0038】
1点目のメリットは、リブ20とスキンプレート10のギャップを埋めるように対応できることであり、その際のギャップ余裕度は以下のとおりである。
イ)レーザ溶接において、フィラーワイヤW無しならば、0.5mm程度が限度である。
ロ)レーザ溶接において、フィラーワイヤW有りならば1mm程度が限度である。
ハ)レーザ・アークハイブリッド溶接ならば、3mm程度まで広くても良い。
【0039】
2点目のメリットは、レーザ溶接のみの場合と比べると、アーク溶接による入熱があるため、急熱・急冷を避けることができることである。そのため、溶接金属の硬さは、レーザ溶接(フィラーワイヤW有り)の場合よりも小さくなる。
【0040】
また、電子ビーム溶接やレーザ溶接では、基本的に溶接材料を添加せず母材のみを溶融させて接合を行うが,下記のような場合に、溶接材料(以下、「フィラーワイヤ」または「ワイヤ」という)Wを添加することが好ましい。
イ)ワークの溶接部にギャップがあり、安定したビード形成のために材料を補填する必要がある場合。
ロ)溶接金属の清浄度や機械的性能を改善する必要がある場合。
ハ)完全溶込み溶接を行うと、材質的に表面ビードが凹みやすい材料(アルミ合金など)に余盛を形成させる場合。
【0041】
また、レーザ溶接において、フィラーワイヤWを入れる最大のメリットは、補剛板(リブ)20と鋼板(スキンプレートまたはデッキプレート)10のギャップを埋めることが可能な点である。なお、曲面構造のスキンプレート10(図示せず)への適用も可能となる。一方、スキンプレート10と隙間を空けない開先形状であっても構わない(図5、図7参照)。
【0042】
それから、レーザ溶接における溶接材料の添加方法としては、図7に一部を示したように、フィラーワイヤWを送給する方法が最も一般的である。溶接部に収束された電子ビームやレーザビームはいずれも極めて小径であるためワイヤWは直径1mm以下の細径ワイヤが用いられることが多い。このようなフィラーワイヤWはワイヤガイド(図示せず)を介して精度良くビーム照射点に送給し溶融させる。
なお、本発明の適用範囲として、リブ20の断面形状はU字型または丸型等など如何なるものにも対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態における補剛板の構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示す補剛板の一部を拡大して上下を反転させた斜視図である。
【図3】図2におけるA−A線に沿った断面図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるレーザ溶接に用いる屈曲型レーザ溶接装置の構成及びその使用状態を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態における閉断面リブの縁部の形状を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施形態における鋼床版の製造工程を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態における屈曲型レーザ溶接装置の構成及びその使用状態を示す模式図である。
【図8】本発明の他の実施形態における閉断面リブの外観を示す斜視図である。
【図9】本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、(a)断面図、(b)平面図である。
【図10】本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、図9(a)の要部拡大図である。
【図11】上記図10において、レーザLの照射角度θに応じた溶融部の状態を示すものであり、(a)はレーザLの照射角度θを10度以上にした場合、また(b)はレーザLの照射角度θを10度未満にした場合を示している。
【図12】上記図10において、Z狙い位置に応じた溶融部の状態を示すものであり、(a)はZ狙い位置を5mm以下(低め)にした場合、また(b)はZ狙い位置を5mmより大きく(高めに)した場合を示している。
【図13】本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、図9(b)の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0044】
10…デッキプレート、スキンプレート(鋼板)、 20…閉断面リブ(補剛材)、 21,22…縁部、 30…レーザ溶接装置、 31…光源、 32…凸レンズ、 33…平面ミラー、 34…レーザ射出口、 35…筐体、 40…レーザ溶接装置、 41…光源、 41,43…各部、 43…曲面ミラー、 44…レーザ射出口、 45…筐体、 L…レーザ、 W…フィラーワイヤ(ワイヤ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、補剛板及び補剛板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の床材としてコンクリート材等の種々の材料があるが、その一つとして鋼床版が知られている。鋼床版は、主として鋼板(デッキプレート)で構成されるが、デッキプレートだけでは必要強度を十分に確保できないことから、通常は下面に補剛材(リブ)を配設した補剛板として構成されている。
補剛材には、帯状の板鋼の他、閉断面リブ等と呼ばれる断面V字状或いはU字状の鋼材がある。これらの補剛材が、一定の間隔で並列されてデッキプレートの下面に接合されることにより、補剛板が構成される。
ここで、閉断面リブは、デッキプレートと閉断面構造をなすように、両端の縁部がデッキプレートにアーク溶接により接合される。
【0003】
上記のような補剛板の変形例としては、非特許文献1に示すサンドイッチパネルがある。このサンドイッチパネルは、U型リブ材がデッキプレート上に閉断面構造をなすように多数並列して配置されて、U型リブ材の縁部がデッキプレート上にアーク溶接され、更に、U型リブ材の頂部にボトムプレートが配材されて、U型リブ材の頂部とボトムプレートとが重ねレーザ溶接にて接合されることにより、製作されるものである。
なお、補剛板の溶接技術に関する先行技術文献としては、本出願人による下記特許文献1がある。
【非特許文献1】『中厚板レーザ重ね溶接継手の強度特性とパネル製造』日立造船株式会社 北側 彰一 『レーザシンポジウム:中厚板構造体へのレーザ技術の応用』資料より 社団法人 日本溶接協会 LMP委員会 開催期間:平成14年8月22日(木)〜23日(水)
【特許文献1】特開2006−224137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アーク溶接では、溶接後に溶接金属が熱収縮するため、デッキプレート及び閉断面リブ内に引っ張り残留応力(溶接残留応力)を生じ、当該溶接残留応力によって部材の組み付け精度が低下したり、部材の引張強度、圧縮強度或いは疲労強度が低下したりする問題がある。
また、閉断面リブの閉断面構造部の溶接においては、閉断面構造部の外側からしか溶接作業を行うことができないが、このような閉断面構造部をアーク溶接する場合、メルトスルー(溶け過ぎ)を防止しようとすると、レ型又はJ型開先の先端、即ち閉断面構造の内側のルート部に一部溶接されない部分(溶け残り部)が生じるという問題がある。即ち、アーク溶接では、溶融範囲を精密に管理できないため、メルトスルーを防止しようとすると溶け残り部が発生してしまう。
【0005】
このように、デッキプレート及び閉断面リブ内に溶接残留応力が発生し、且つ、閉断面構造の内側のルート部に溶け残り部が存在すると、デッキプレートの溶け残り部直上付近に応力が集中する等のため、デッキプレートの溶け残り部直上付近に亀裂が発生し易くなる。デッキプレートに亀裂が発生すると、疲労強度が急激に低下して疲労破壊に至り易いという問題がある。また、メルトスルーは溶接品質を低下させるので好ましくない。
【0006】
一方、補剛板の製作におけるレーザ溶接としては、上記非特許文献1のサンドイッチパネルにおいて2部材を打ち抜くようにして溶接する重ねレーザ溶接があるが、デッキプレートへの閉断面リブの縁部の接合にはレーザ溶接は従来用いられていない。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、鋼板への補剛材の溶接品質の向上を図り且つ疲労強度の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、第1の手段として、鋼板と共に閉断面構造をなす補剛材を前記鋼板の表面に複数溶接してなる補剛板であって、前記補剛材は、前記鋼板に当接する縁部が前記閉断面構造の外側から所定出力のレーザを所定方向から照射されて所定溶接速度でレーザ溶接されることにより、前記鋼板に接合されていることを特徴とする補剛板を採用した。
【0009】
また、第2の手段として、上記第1の手段に係る補剛板において、前記補剛材の前記縁部は、前記鋼板の表面と略平行に対向するよう形成されて、前記鋼板にレーザ溶接されているものを採用した。
【0010】
第3の手段として、上記第1又は2の手段に係る補剛板において、前記補剛材は、長手方向に直交する断面の形状が略U字状をなす閉断面リブであるものを採用した。
【0011】
また更に、本発明では、第4の手段として、上記第1〜3の何れか1つの手段に係る補剛板において、前記レーザ溶接に代えて、レーザ溶接とアーク溶接を併用したレーザ・アークハイブリッド溶接によって溶接されているものを採用した。
【0012】
また、第5の手段として、鋼板と共に閉断面構造をなす補剛材を前記鋼板の表面に複数溶接してなる補剛板の製造方法であって、前記補剛材の前記鋼板に当接する縁部を前記閉断面構造の外側から所定出力のレーザを所定方向から照射して所定溶接速度でレーザ溶接することにより、前記鋼板と前記補剛材とを接合することを特徴とする補剛板の製造方法を採用した。
【0013】
また、第6の手段として、上記第5の手段に係る補剛板の製造方法において、前記レーザ溶接に先立って、前記補剛材の前記縁部を、前記鋼板の表面と略平行に対向するよう形成する方法を採用した。
【0014】
また、第7の手段として、上記第5又は第6の手段に係る補剛板の製造方法において、前記レーザ溶接では、凸レンズで集光したレーザ光を平面ミラーで屈曲させる屈曲型レーザ溶接装置を用い、該屈曲型レーザ溶接装置により前記鋼板の表面に沿ってレーザ光を照射することで前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【0015】
また、第8の手段として、上記第5〜7の何れか1つの手段に係る補剛板の製造方法において、前記レーザ溶接では、レーザ光を放物線ミラー又は球面ミラーで集光及び屈曲させる屈曲型レーザ溶接装置を用い、該屈曲型レーザ溶接装置により前記鋼板の表面に沿ってレーザ光を照射することで前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【0016】
また、第9の手段として、上記第5〜7の何れか1つの手段に係る補剛板の製造方法において、前記レーザ溶接と同時又は直近する工程でアーク溶接を併用するレーザ・アークハイブリッド溶接によって前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【0017】
また、第10の手段として、上記第5〜9の何れか1つの手段に係る補剛板の製造方法において、フィラーワイヤを用いた前記レーザ溶接または前記レーザ・アークハイブリッド溶接によって前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【0018】
また、第11の手段として、上記第5〜10の何れか1つの手段に係る補剛板の製造方法において、スキンプレートと隙間を空けない開先形状にして前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【0019】
また、第12の手段として、上記第5〜11の何れか1つの手段に係る補剛板の製造方法において、スキンプレートが曲面の構造へ適用して前記補剛材を前記鋼板に接合する方法を採用した。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、レーザ溶接、またはレーザ・アークハイブリッド溶接により補剛材の縁部を鋼板に接合するので、例えばレーザの出力、照射方向、溶接速度を適正に設定することにより、メルトスルーや溶け残り部の発生を解消できる。したがって、鋼板への補剛材の溶接品質の向上を図ると共に、疲労強度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1は、本実施形態における補剛板の構成を示す斜視図である。図2は、図1に示す補剛板の一部を拡大して上下を反転させた斜視図である。図3は、図2におけるA−A線に沿った断面図である。
なお、補剛板は、船の甲板や構造物等の種々の用途に使用されるものであるが、ここでは、補剛板を例えば橋梁の鋼床版に適用する場合を例に説明する。
【0022】
鋼床版(補剛板)は、デッキプレート10(鋼板)の一方の面に一定の間隔で複数の閉断面リブ20(補剛材)を配して構成されている。デッキプレート10は、所定板厚t1(例えば12mm)の鋼製の平板である。閉断面リブ20は、所定板厚t2(例えば6〜8mm)の鋼製の平板を曲げ加工した断面U字状の形鋼である。
【0023】
図4は、レーザ溶接装置30(屈曲型レーザ溶接装置)の構成及びその使用状態を示す模式図である。この図に示すように、レーザ溶接装置30は、光源31と、凸レンズ32と、平面ミラー33と、これら各部31〜33を収納すると共にレーザ射出口34が形成された筐体35とを有する。光源31は、レーザLを発するものである。凸レンズ32は、レーザLを集光させるものである。平面ミラー33は、レーザLを反射するものである。
【0024】
図5は、閉断面リブ20の一対の縁部21,22の形状を示す模式図である。図6は、鋼床版の製造工程を示す説明図である。これらの図面をも参照して、以下に、鋼床版の製造工程について詳細に説明する。
【0025】
まず、図5に示すように、閉断面リブ20の一対の縁部21,22は、デッキプレート10の当接させられる面に略平行に対向する形状に、形成される。続いて、閉断面リブ20の一対の縁部21,22がデッキプレート10の面に当接させられる(図6の矢印a)。
次に、レーザ溶接装置30が、デッキプレート10と閉断面リブ20とが形成する閉断面構造の外側から、閉断面リブ20の全長(図6の矢印b)に亘って、レーザ(図6のc)を照射することにより、閉断面リブ20の各縁部21,22がデッキプレートの面にレーザ溶接される。そして、閉断面リブ20の両縁部21,22にレーザ溶接が施されることによって、デッキプレート10に閉断面リブ20が接合されて、鋼床版が製造される。
【0026】
レーザ溶接装置30は、図4に示すように、光源31が発するレーザLを凸レンズ32で集光し、凸レンズ32が集光したレーザLを平面ミラー33で反射することによりレーザLの進行方向を屈曲させて、レーザ射出口34からレーザLを射出する。そして、このレーザ溶接装置30が射出するレーザLが、デッキプレート10上の閉断面リブ20の縁部21,22近傍に照射されることにより、デッキプレート10に閉断面リブ20が接合される。なお、閉断面リブ20の縁部21,22近傍には、必要に応じてレーザLと共にワイヤWを供給する。
【0027】
上記レーザ溶接装置30によるレーザ溶接にあたっては、レーザLの出力、照射位置、照射方向、溶接速度、ワイヤWの供給速度を適正に設定する。これにより、メルトスルーが発生しないようにすることができると共に、溶け残り部を0.5mm程度にまで少なくすることができる。
また、屈曲型レーザ溶接装置であるレーザ溶接装置30を用いることにより、レーザLを自由な角度(例えば90°程度)に屈曲させて、デッキプレート10の面に沿って照射することができる。これにより、デッキプレート10上の閉断面リブ20の縁部21,22近傍に容易にレーザLを照射することができる。
【0028】
更に、本実施形態の溶接は、アーク溶接によらない溶接であるので、アーク溶接による溶接後の溶接金属の熱収縮による溶接残留応力の発生がない。したがって、溶接残留応力による部材の組み付け精度の低下や、部材の引張強度、圧縮強度或いは疲労強度の低下が発生しない。
そして、本実施形態のように、デッキプレート10上に閉断面リブ20が、溶接残留応力の発生がなく且つ溶け残り部が少ない状態に溶接されていると、溶け残り部における応力集中が少なくなるので、デッキプレート10の溶け残り部直上付近の亀裂発生度合いを低下させることができる。したがって、本実施形態によれば、デッキプレート10上への閉断面リブ20の縁部21,22の溶接においてメルトスルーの発生を解消しつつ溶け残り部を極限まで狭めることにより溶接品質の向上を図ることが可能となると共に、デッキプレート10の亀裂の発生を抑えて疲労強度を向上させることができる。
【0029】
なお、上記実施形態では、図6に示すレーザ溶接装置30を用いたが、実施にあたっては、図7に示すレーザ溶接装置40(屈曲型レーザ溶接装置)を用いてもよい。レーザ溶接装置40は、光源41と、放物面状又は球面状の反射面を有する曲面ミラー43と、これら各部41,43を収納すると共にレーザ射出口44が形成された筐体45とを有する。
このようなレーザ溶接装置40は、光源41が発するレーザLを、曲面ミラー43によって集光させると共に反射させることによりレーザLの進行方向を屈曲させて、レーザ射出口44からレーザを射出する。
【0030】
また、上記実施形態では、閉断面リブ20として断面U字状の形鋼を用いるようにしたが、実施にあたっては、閉断面リブは、図8に示すような断面V字状や断面半円形状、断面台形状、断面四角形状等、他の断面形状のものであってもよい。更に、上記実施形態では、補剛材を閉断面リブ20としたが、実施にあたっては、必ずしもデッキプレート10と共に閉断面構造を形成するものでなくてもよく、例えばI型鋼等をデッキプレート10に立設する場合であっても、本発明を良好に適用可能である。
そして、上記実施形態では、鋼板をデッキプレート10とし、補剛板の一例として鋼床版について説明したが、実施にあたっては、鋼板はデッキプレート10に限るものではなく、補剛板もまた鋼床版に限るものではなく、鋼板に補剛材を配した補剛板であれば本発明を良好に適用可能である。
【0031】
つぎに、レーザ溶接と同時又は直近する工程でアーク溶接を併用するレーザ・アークハイブリッド溶接によって溶接する場合について、図9〜図11に沿って説明する。以下に説明するように、レーザ・アークハイブリッド溶接の装置において、レーザLとアーク溶接のトーチMは略同じスポットを狙う。なお、各図に亘り同一機能部には同一符号を付して説明の重複を避ける。
【0032】
図9は本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、(a)断面図、(b)平面図である。図9(a),同(b)に示すように、デッキプレート(以下、「スキンプレート」または「鋼材」ともいう)10に閉断面リブ(以下、「リブ」または「補剛板」ともいう)20をレーザ・アークハイブリット溶接する場合、レーザ装置30のヘッドから溶接スポットまで距離Xだけ離してレーザLを照射し、その照射部に近い位置にアーク溶接のトーチを浴びせながら、溶接方向Yへと所定溶接速度でレーザ・アークハイブリット溶接をする。なお、レーザ溶接とアーク溶接の何れを先行させるかは問わない。
【0033】
図10は本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、図9(a)の要部Hを拡大した図である。図10に示すように、レーザLの照射角度θを10度以上とすることが好ましい。また、Z狙い位置を低め(例えば5mm以下)に設定することが好ましい。
【0034】
所定出力が4kWより小さい場合、メルトスルーは発生しにくいが溶け残りが生じやすく、本方式により要求される溶接品質を達成できない。また、所定出力が10kWより大きい場合、鋼床版のリブ厚さに対して出力が大きいのでメルトスルーが発生することが懸念される。
一方、所定溶接速度が50cm/分より小さい場合、溶接速度が速いというレーザ溶接のメリットが生かせない。また、所定溶接速度が200cm/分より大きい場合、溶け残りが生じることが懸念される。
【0035】
図11は、上記照射角度θに応じた溶融部の状態を示すものであり、(a)はレーザLの照射角度θを10度以上にした場合の溶融部Y1を、また(b)はレーザLの照射角度θを10度未満にした場合の溶融部Y2を示している。レーザLの照射角度θを10度以上にした場合の溶融部Y1はメルトスルーが発生しないが、レーザLの照射角度θを10度未満にした場合の溶融部Y2はメルトスルーが発生している。レーザLの照射角度θを10度以上にした場合は、溶け込み先端が図示するようにスキンプレート10内になるためにメルトスルーが発生し難いが、レーザLの照射角度θを10度未満にした場合には、溶け込み先端がデッキプレート10とリブ20との間に位置するのでメルトスルーが発生し易くなる。
【0036】
図12は、上記Z狙い位置に応じた溶融部の状態を示すものであり、(a)はZ狙い位置を5mm以下(低め)にした場合の溶融部Y3を、また(b)はZ狙い位置を5mmより大きく(高めに)した場合の溶融部Y4を示している。Z狙い位置を低めに設定した場合の溶融部Y3はメルトスルーが発生しないが、Z狙い位置を高めに設定した場合の溶融部Y4はメルトスルーが発生している。Z狙い位置を低めに設定した場合は、溶け込み先端が図示するようにスキンプレート10内になるためにメルトスルーが発生し難いが、Z狙い位置を高めに設定した場合には、溶け込み先端がデッキプレート10とリブ20との間に位置するのでメルトスルーが発生し易くなる。
【0037】
図13は本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、図9(b)の要部Kを拡大した図である。図11に示すように、レーザ・アークハイブリッド溶接の装置において、レーザLとアーク溶接のトーチMは、原則として略同じスポットを狙うものであるが、好ましくは、レーザLとアーク溶接のトーチMの間隔を0〜5mm空けて溶接する。このレーザ・アークハイブリッド溶接を採用することによるメリットは以下の2点である。
【0038】
1点目のメリットは、リブ20とスキンプレート10のギャップを埋めるように対応できることであり、その際のギャップ余裕度は以下のとおりである。
イ)レーザ溶接において、フィラーワイヤW無しならば、0.5mm程度が限度である。
ロ)レーザ溶接において、フィラーワイヤW有りならば1mm程度が限度である。
ハ)レーザ・アークハイブリッド溶接ならば、3mm程度まで広くても良い。
【0039】
2点目のメリットは、レーザ溶接のみの場合と比べると、アーク溶接による入熱があるため、急熱・急冷を避けることができることである。そのため、溶接金属の硬さは、レーザ溶接(フィラーワイヤW有り)の場合よりも小さくなる。
【0040】
また、電子ビーム溶接やレーザ溶接では、基本的に溶接材料を添加せず母材のみを溶融させて接合を行うが,下記のような場合に、溶接材料(以下、「フィラーワイヤ」または「ワイヤ」という)Wを添加することが好ましい。
イ)ワークの溶接部にギャップがあり、安定したビード形成のために材料を補填する必要がある場合。
ロ)溶接金属の清浄度や機械的性能を改善する必要がある場合。
ハ)完全溶込み溶接を行うと、材質的に表面ビードが凹みやすい材料(アルミ合金など)に余盛を形成させる場合。
【0041】
また、レーザ溶接において、フィラーワイヤWを入れる最大のメリットは、補剛板(リブ)20と鋼板(スキンプレートまたはデッキプレート)10のギャップを埋めることが可能な点である。なお、曲面構造のスキンプレート10(図示せず)への適用も可能となる。一方、スキンプレート10と隙間を空けない開先形状であっても構わない(図5、図7参照)。
【0042】
それから、レーザ溶接における溶接材料の添加方法としては、図7に一部を示したように、フィラーワイヤWを送給する方法が最も一般的である。溶接部に収束された電子ビームやレーザビームはいずれも極めて小径であるためワイヤWは直径1mm以下の細径ワイヤが用いられることが多い。このようなフィラーワイヤWはワイヤガイド(図示せず)を介して精度良くビーム照射点に送給し溶融させる。
なお、本発明の適用範囲として、リブ20の断面形状はU字型または丸型等など如何なるものにも対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態における補剛板の構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示す補剛板の一部を拡大して上下を反転させた斜視図である。
【図3】図2におけるA−A線に沿った断面図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるレーザ溶接に用いる屈曲型レーザ溶接装置の構成及びその使用状態を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態における閉断面リブの縁部の形状を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施形態における鋼床版の製造工程を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態における屈曲型レーザ溶接装置の構成及びその使用状態を示す模式図である。
【図8】本発明の他の実施形態における閉断面リブの外観を示す斜視図である。
【図9】本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、(a)断面図、(b)平面図である。
【図10】本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、図9(a)の要部拡大図である。
【図11】上記図10において、レーザLの照射角度θに応じた溶融部の状態を示すものであり、(a)はレーザLの照射角度θを10度以上にした場合、また(b)はレーザLの照射角度θを10度未満にした場合を示している。
【図12】上記図10において、Z狙い位置に応じた溶融部の状態を示すものであり、(a)はZ狙い位置を5mm以下(低め)にした場合、また(b)はZ狙い位置を5mmより大きく(高めに)した場合を示している。
【図13】本発明の他の実施形態におけるレーザ・アークハイブリット溶接の説明図であり、図9(b)の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0044】
10…デッキプレート、スキンプレート(鋼板)、 20…閉断面リブ(補剛材)、 21,22…縁部、 30…レーザ溶接装置、 31…光源、 32…凸レンズ、 33…平面ミラー、 34…レーザ射出口、 35…筐体、 40…レーザ溶接装置、 41…光源、 41,43…各部、 43…曲面ミラー、 44…レーザ射出口、 45…筐体、 L…レーザ、 W…フィラーワイヤ(ワイヤ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と共に閉断面構造をなす補剛材を前記鋼板の表面に複数溶接してなる補剛板であって、
前記補剛材は、前記鋼板に当接する縁部が前記閉断面構造の外側から所定出力のレーザを所定方向から照射されて所定溶接速度でレーザ溶接されることにより、前記鋼板に接合されていることを特徴とする補剛板。
【請求項2】
前記補剛材の前記縁部は、前記鋼板の表面と略平行に対向するよう形成されて、前記鋼板にレーザ溶接されていることを特徴とする請求項1に記載の補剛板。
【請求項3】
前記補剛材は、長手方向に直交する断面の形状が略U字状をなす閉断面リブであることを特徴とする請求項1又は2に記載の補剛板。
【請求項4】
前記レーザ溶接に代えて、
レーザ溶接とアーク溶接を併用したレーザ・アークハイブリッド溶接によって溶接されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の補剛板。
【請求項5】
鋼板と共に閉断面構造をなす補剛材を前記鋼板の表面に複数溶接してなる補剛板の製造方法であって、
前記補剛材の前記鋼板に当接する縁部を前記閉断面構造の外側から所定出力のレーザを所定方向から照射して所定溶接速度でレーザ溶接することにより、前記鋼板と前記補剛材とを接合することを特徴とする補剛板の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ溶接に先立って、前記補剛材の前記縁部を、前記鋼板の表面と略平行に対向するよう形成することを特徴とする請求項5に記載の補剛板の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ溶接では、凸レンズで集光したレーザ光を平面ミラーで屈曲させる屈曲型レーザ溶接装置を用い、該屈曲型レーザ溶接装置により前記鋼板の表面に沿ってレーザ光を照射することで前記補剛材を前記鋼板に接合することを特徴とする請求項5又は6に記載の補剛板の製造方法。
【請求項8】
前記レーザ溶接では、レーザ光を放物線ミラー又は球面ミラーで集光及び屈曲させる屈曲型レーザ溶接装置を用い、該屈曲型レーザ溶接装置により前記鋼板の表面に沿ってレーザ光を照射することで前記補剛材を前記鋼板に接合することを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の補剛板の製造方法。
【請求項9】
前記レーザ溶接と同時又は直近する工程でアーク溶接を併用するレーザ・アークハイブリッド溶接によって溶接することを特徴とする請求項5〜8の何れか1項に記載の補剛板の製造方法。
【請求項10】
前記レーザ溶接または前記レーザ・アークハイブリッド溶接において、
フィラーワイヤを用いることを特徴とする請求項5〜9の何れか1項に記載の補剛板の製造方法。
【請求項11】
前記レーザ溶接または前記レーザ・アークハイブリッド溶接において、
スキンプレートと隙間を空けない開先形状とすることを特徴とする請求項5〜10の何れか1項に記載の補剛板の製造方法。
【請求項12】
前記レーザ溶接または前記レーザ・アークハイブリッド溶接において、
スキンプレートが曲面の構造へ適用することを特徴とする請求項5〜11の何れか1項に記載の補剛板の製造方法。
【請求項1】
鋼板と共に閉断面構造をなす補剛材を前記鋼板の表面に複数溶接してなる補剛板であって、
前記補剛材は、前記鋼板に当接する縁部が前記閉断面構造の外側から所定出力のレーザを所定方向から照射されて所定溶接速度でレーザ溶接されることにより、前記鋼板に接合されていることを特徴とする補剛板。
【請求項2】
前記補剛材の前記縁部は、前記鋼板の表面と略平行に対向するよう形成されて、前記鋼板にレーザ溶接されていることを特徴とする請求項1に記載の補剛板。
【請求項3】
前記補剛材は、長手方向に直交する断面の形状が略U字状をなす閉断面リブであることを特徴とする請求項1又は2に記載の補剛板。
【請求項4】
前記レーザ溶接に代えて、
レーザ溶接とアーク溶接を併用したレーザ・アークハイブリッド溶接によって溶接されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の補剛板。
【請求項5】
鋼板と共に閉断面構造をなす補剛材を前記鋼板の表面に複数溶接してなる補剛板の製造方法であって、
前記補剛材の前記鋼板に当接する縁部を前記閉断面構造の外側から所定出力のレーザを所定方向から照射して所定溶接速度でレーザ溶接することにより、前記鋼板と前記補剛材とを接合することを特徴とする補剛板の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ溶接に先立って、前記補剛材の前記縁部を、前記鋼板の表面と略平行に対向するよう形成することを特徴とする請求項5に記載の補剛板の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ溶接では、凸レンズで集光したレーザ光を平面ミラーで屈曲させる屈曲型レーザ溶接装置を用い、該屈曲型レーザ溶接装置により前記鋼板の表面に沿ってレーザ光を照射することで前記補剛材を前記鋼板に接合することを特徴とする請求項5又は6に記載の補剛板の製造方法。
【請求項8】
前記レーザ溶接では、レーザ光を放物線ミラー又は球面ミラーで集光及び屈曲させる屈曲型レーザ溶接装置を用い、該屈曲型レーザ溶接装置により前記鋼板の表面に沿ってレーザ光を照射することで前記補剛材を前記鋼板に接合することを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の補剛板の製造方法。
【請求項9】
前記レーザ溶接と同時又は直近する工程でアーク溶接を併用するレーザ・アークハイブリッド溶接によって溶接することを特徴とする請求項5〜8の何れか1項に記載の補剛板の製造方法。
【請求項10】
前記レーザ溶接または前記レーザ・アークハイブリッド溶接において、
フィラーワイヤを用いることを特徴とする請求項5〜9の何れか1項に記載の補剛板の製造方法。
【請求項11】
前記レーザ溶接または前記レーザ・アークハイブリッド溶接において、
スキンプレートと隙間を空けない開先形状とすることを特徴とする請求項5〜10の何れか1項に記載の補剛板の製造方法。
【請求項12】
前記レーザ溶接または前記レーザ・アークハイブリッド溶接において、
スキンプレートが曲面の構造へ適用することを特徴とする請求項5〜11の何れか1項に記載の補剛板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−272826(P2008−272826A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18968(P2008−18968)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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