説明

補剛装置

【課題】車両の操縦安定性をより向上する補剛装置を提供する。
【解決手段】車体1に形成された左右のショックアブソーバ支持部31の間にわたして設けられる補剛装置200を、左右のショックアブソーバ支持部にそれぞれ固定された左側シャフト210及び右側シャフト220と、左側シャフト及び右側シャフトを車体の車幅方向中央部において連結するとともにこれらの回動を許容する回動許容部250とを備え、左側シャフト及び右側シャフトとショックアブソーバ支持部との固定箇所231,241を、ショックアブソーバ支持部近傍におけるショックアブソーバのロッド軸線の位置よりも車両前方側に配置し、回動許容部を、左側シャフト及び右側シャフトとショックアブソーバ支持部との固定箇所に対して車両後方側又は車両前方側にオフセットして配置した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車体の補剛(剛性向上)のため、左右のサスペンション取付部間にわたして設けられる補剛装置(フレキシブルタワーバー)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の車体において、左右サスペンションの車体側取付部の間にわたして、梁状の補剛装置を設けることが知られている。このような補剛装置のうち、ストラット式サスペンションの左右のストラット支持部にわたして設けられるものは、ストラットタワーバーと通称され、既存の車体に容易に後付けができ、かつ操縦安定性の向上効果があるため広く用いられている。
また、従来このようなストラットタワーバーにおいて、中間部分にピロボールジョイント等の回動許容部を設けることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2006−182133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
車両の旋回時に、旋回内輪側のサスペンションアームは、タイヤが発生するコーナリングフォースにより、サブフレーム等を含めた車体がたわむことによって、旋回中心側へ引き出される傾向がある。前輪を操舵するステアリングタイロッドが、前輪の操向軸線であるキングピン軸よりも前方に配置された車両(ナックルアーム前出しの車両)の場合、旋回内輪側のサスペンションアームが引き出されると、実質的な舵角の減少(切り戻し)が発生して、タイヤのスリップアングルが減り、コーナリングフォースが減少する。このため旋回外輪が発生するコーナリングフォースが旋回内輪に対して相対的に大きくなり、旋回内輪側サスペンションのジャッキダウン現象が抑制されるとともに、旋回外輪側サスペンションのジャッキアップ現象が促進される結果、車両は前上がりのピッチング挙動を伴うロールを示す。一般に、車両の旋回時には前下がりのピッチング挙動を伴うほうが運転者に与えるフィーリング、操縦安定性が良好となるため、旋回内輪側サスペンションアームの変位は極力低減することが求められる。
【0004】
これに対し、上述したストラットタワーバーを装着すると、車体のたわみを抑制することによって、操舵初期の旋回内輪側サスペンションアームの変位抑制について効果があることがわかっている。しかし、旋回時に運転者に与えるフィーリングをさらに向上し、また操舵初期の操縦安定性を向上するため、旋回内輪側サスペンションアームの変位をよりいっそう低減し、旋回内輪の実舵角の切り戻しを防止することが求められている。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は車両の操縦安定性をより向上する補剛装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、車体の一部に形成され、左右のサスペンション装置のショックアブソーバ上端部がそれぞれ支持される左右のショックアブソーバ支持部の間にわたして設けられる補剛装置であって、左右の前記ショックアブソーバ支持部にそれぞれ固定された左側シャフト及び右側シャフトと、前記左側シャフト及び前記右側シャフトを前記車体の車幅方向における中央部において連結するとともに、前記左側シャフトと前記右側シャフトとの回動を許容する回動許容部とを備え、前記左側シャフト及び前記右側シャフトと前記ショックアブソーバ支持部との固定箇所を、該ショックアブソーバ支持部近傍における前記ショックアブソーバのロッド軸線の位置よりも車両前方側に配置し、前記回動許容部を、前記左側シャフト及び前記右側シャフトと前記ショックアブソーバ支持部との固定箇所に対して車両後方側又は車両前方側にオフセットして配置したことを特徴とする補剛装置である。
【発明の効果】
【0006】
一般に、車両の旋回時に、旋回内輪側のサスペンションアームがタイヤのコーナリングフォースによって引き出されると、車両のフレーム類等の車体前部構造は、車両の前後方向にほぼ沿った軸回りに捻りを受け、サスペンション装置の上部に設けられるショックアブソーバ支持部が車幅方向内側に変位する。このとき、フレーム等は、キャビン前部の隔壁に固定されているため、その変位量は車両前方側のほうが大きくなる。
そして、旋回内輪側のショックアブソーバ支持部が車幅方向内側へ変位すると、補剛装置のシャフトには曲げ変形が生じ、これによって曲げモーメントが発生する。この曲げモーメントは、反力としてショックアブソーバ支持部へ伝達され、旋回内輪側の車体の変形を抑制するように作用する。
【0007】
本発明によれば、補剛部材の左側シャフトと右側シャフトとの間に回動許容部を設けたことによって、この回動許容部では左右シャフトの曲げモーメントをゼロにするとともに、左右シャフトのショックアブソーバ支持部との固定箇所においては、このような回動許容部を持たない補剛装置と比較して、大きな曲げモーメントを発生させることができる。この曲げモーメントは、旋回内輪側と旋回外輪側とで逆向きかつ同じ大きさとなる。これによって、旋回内輪側の車体変形で生じた曲げモーメントを、旋回内輪側だけでなく旋回外輪側にも効果的に伝達することができる。車体側へ伝達された曲げモーメントは、旋回内輪側では上述したように車体の変形を抑制する。一方、旋回外輪側において、この曲げモーメントは、車体を内輪側とは逆方向に捻ってロワアームを車幅方向内側へ変位させる方向に作用する。
そして、各シャフトから車体側へこの曲げモーメントが入力される固定箇所をショックアブソーバのロッド軸線に対して車両前方側に配置したことによって、車体の変形量が比較的小さい車両後方側に配置した場合よりも、より効果的に旋回内輪側の車体の変形を抑制し、また、旋回外輪側の車体の変形を促進することができる。
また、この固定箇所に対して回動許容部の位置を車両後方側又は前方側へオフセットして配置したことによって、左右固定箇所及び回動許容部を車幅方向一直線に配置した場合に対して、固定箇所と回動許容部との距離(各シャフトのスパン)を大きくして各シャフトに生じる曲げモーメントをよりいっそう大きくすることができる。
さらに、エンジンルーム内に配置される吸気系部品等の他部品との干渉も防止することができる。
【0008】
これらの作用によって、本発明は車体の変形を抑制して旋回内輪側サスペンションアームの横変位を低減し、旋回内輪の実舵角の切り戻しを防止し、コーナリングフォースの低下を抑制することができる。一方、旋回外輪側の車体を旋回内輪側とは逆方向に変形させて、ロワアームを車幅方向内側に変位させ、旋回外輪の実舵角を減少し、旋回外輪が発生するコーナリングフォースを減少させることができる。これによって、旋回内輪側サスペンションのジャッキダウン現象を促進するとともに、旋回外輪側サスペンションのジャッキアップ現象を抑制し、車両が前下がりとなるピッチング挙動を伴ったロール挙動を得ることができ、運転者に良好なフィーリングを与えることができる。
さらに、旋回内輪のコーナリングフォースが増加することによって、旋回初期のヨーの立ち上がりが早くなり、操縦安定性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、車両の操縦安定性をより向上する補剛装置を提供する課題を、ストラットタワーバーの車体側固定箇所を、ショックアブソーバのロッド軸線に対して車両前方に配置するとともに、ストラットタワーバーの中間部にピロボールジョイントを設けて左右のシャフトが相互に回動可能とし、このピロボールジョイントをショックアブソーバのロッド軸線よりも車両後方側に配置することによって解決した。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を適用した補剛装置であるストラットタワーバーの実施例について説明する。
実施例のストラットタワーバーは、乗用車等の自動車のマクファーソンストラット式フロントサスペンションの左右のストラットアッパマウント間にわたして設けられる。
図1は、実施例のストラットタワーバーが装着される車両のサスペンション装置を車体床下側の前方側から見た状態を示す外観斜視図である。
図2は、図1のサスペンション装置を車体床下側の車幅方向中央部側から見た状態を示す外観斜視図である。
図3は、実施例のストラットタワーバー及びサスペンション装置の構成を示す模式図であって、車両前方側から見た状態を示している。
【0011】
車両の車体1は、図3等に示すように、ロワサイドフレーム10、アッパサイドフレーム20、ストラット収容部30、フロントクロスメンバ40を備えて構成されている。
車体1は、例えば鋼製のモノコックボディであって、図示しないキャビン(車室)の前方に独立したエンジンルームを備えており、フロントサスペンションはこのエンジンルームの両側部に配置されている。
【0012】
ロワサイドフレーム10は、キャビンの前部隔壁である図示しないトーボードから、車両前方側に突き出し、車両の前後方向にほぼ沿って配置された梁状の構造部材である。ロワサイドフレーム10は、車幅方向に離間して1対が設けられ、これらの間にはエンジン等のパワートレインが収容される。
アッパサイドフレーム20は、トーボードの上方側に設けられたバルクヘッドから車両前方側に突き出し、車両の前後方向にほぼ沿って配置された梁状の構造部材である。アッパサイドフレーム20は、車幅方向に離間して1対が設けられ、ロワサイドフレーム10よりも上方側かつ車幅方向外側に配置されている。このアッパサイドフレーム20は、車両の図示しないフロントフェンダの上端部に沿って延びている。
【0013】
ストラット収容部30は、後述するストラット120が収容される部分である。ストラット収容部30は、例えば下側が開口したカップ状に形成され、その上端部(カップ形状の底部)には、ストラット120のストラットアッパマウント121が固定されるストラット支持部31が形成されている。このストラット支持部31は、本発明にいうショックアブソーバ支持部である。
図3に示すように、ストラット収容部30の下端部は、ロワサイドフレーム10の上面部の車幅方向外側の端部に接続され固定されている。また、ストラット収容部30の上端部(ストラット支持部31近傍の部分)は、アッパサイドフレーム20の上面部の車幅方向内側の端部に接続され固定されている。
なお、以上のロワサイドフレーム10、アッパサイドフレーム20、ストラット収容部30は、車体1のホワイトボディの一部を構成しており、例えばスポット溶接等によって相互に接合されている。
【0014】
フロントクロスメンバ40は、車体1の下部に装着され、車幅方向に延在する梁状の部材であって、サスペンション装置を構成する各部材が装着される基部となるものである。
図3に示すように、フロントクロスメンバ40は、車幅方向における両端部の上面部が車体のロワサイドフレーム10の下面部に、例えばボルト・ナットによる締結等によって固定されている。
また、フロントクロスメンバ40には、その下部から突き出したブラケット41が形成されている。ブラケット41は、ロワアーム130の車体側の支点となる部分であって、左右のロワアーム130に対応して車幅方向に離間して1対が設けられている。
さらに、フロントクロスメンバ40の上部には、図示しないエンジン等のパワートレーンが、弾性体を有するエンジンマウント等を介して搭載されている。
【0015】
サスペンション装置は、ハウジング110、ストラット120、ロワアーム130、スタビライザ140等を有して構成されている。また、サスペンション装置には、ステアリングシステム150、フロントブレーキ160、ドライブシャフト170、サポートプレート180が設けられている。
そして、左右のストラット120の上端部間には、ストラットタワーバー200が装着されている。
【0016】
ハウジング(ナックル)110は、車輪Wが装着される図示しない前輪ハブが回転可能に支持されるハブベアリングを収容する、例えば鋳造鋼製の部材である。
ハウジング110は、その前方側に突き出して形成され、後述するステアリングシステム50のタイロッド52が接続されるナックルアームを備えている。
【0017】
ストラット120は、コイルスプリング及びショックアブソーバをアセンブリ化したものであって、その上端部にストラットアッパマウント121を備えている。ストラットアッパマウント121は、車体1のストラット収容部30のストラット支持部31に固定されている。一方、ストラット120の下端部は、ハウジング110の上端部に固定されている。
ストラット120は、前輪の転舵時にハウジング110とともに操向軸線(キングピン)回りに回転し、また、サスペンション装置のストロークに応じて伸縮する。ここで、キングピンは、ストラット120の上端部におけるショックアブソーバのピストンロッド軸線の位置と、ロワアーム130に対してハウジング110が支持されるボールジョイント131の回転中心とを結んだ直線となる。
【0018】
ストラットアッパマウント121は、ストラット120から車体1側へ伝達される振動等を低減するための防振ゴム、及び、ストラット120の本体を車体1に対してキングピン回りに回動可能に支持する軸受等を備えて構成されている。この軸受は、ストラット120のショックアブソーバのロッド軸線とほぼ同心に配置されている。
ストラットアッパマウント121は、上方側へ突き出したボルトを備え、ストラット120は、このボルトを車体1側のストラット支持部31に形成されたボルト孔に挿通し、ナットで締結することによって車体1に固定される。
【0019】
ロワアーム130は、フロントクロスメンバ40のブラケット41及び車体1とハウジング110との間にわたして配置されたサスペンションアームであって、例えばアルミニウム合金による鍛造や、スチールプレスによって形成されている。
ロワアーム130は、車体側においては、車両の前後方向に離間して配置された2箇所の接続部においてブラケット41等に接続され、サスペンション装置のストロークに応じて、この2箇所の接続部を結んだ直線である揺動中心軸回りに揺動(回転)する。ロワアーム130の前側の接続部はフロントクロスメンバ40のブラケット41に接続され、後側の接続部は、フロントクロスメンバ40を介さず車体1に接続されている。
【0020】
また、ロワアーム130は、ハウジング110の下端部とボールジョイント131を介して接続され、ハウジング110はロワアーム130に対してボールジョイント131の図示しないボールの中心点回りに揺動、回転が可能となっている。
ロワアーム130はほぼL字状に屈曲して形成されており、前後の車体等との接続部にはそれぞれゴムブッシュが設けられている。
ロワアーム130には、前後のゴムブッシュの外筒がそれぞれ圧入される円筒部132,133がそれぞれ設けられている。前側の円筒部132は、その軸方向を車両の前後方向とほぼ一致させて配置されている。前側のゴムブッシュは、その内筒内に挿入されるボルトによって、フロントクロスメンバ40のブラケット41に固定されている。後側の円筒部133は、その軸方向がほぼ上下方向に配置されている。後側のゴムブッシュは、その内筒内に挿入されるボルトによって、車体1及びサポートプレート180に固定される。
【0021】
スタビライザ(アンチロールバー)140は、例えばバネ鋼線材を曲げ加工して形成され、車幅方向に延在する中間部分を有する部材であって、リンク141を介して左右のロワアーム130の前縁部にそれぞれ接続されている。スタビライザ140は、例えば車両のロール時等のように、左右のフロントサスペンションが逆相方向に相対変位した際に、中間部分が捻られてバネ反力を発生することによって、ロールを復元させる力を発生する。
【0022】
ステアリングシステム150は、図示しないステアリングホイールの操作に応じて前輪を操舵するものであって、ステアリングギアボックス151、タイロッド152を備えている。
ステアリングギアボックス151は、ステアリングホイールに接続された図示しないステアリングシャフトの回転運動を、車幅方向の直進運動に変換するラックアンドピニオン機構を備えている。
タイロッド152は、ステアリングギアボックス151とハウジング110の前端部に設けられたナックルアームとを接続し、図示しないステアリングラックの動きをハウジング110に伝達し、ハウジング110の操向を行うロッド状の部材である。タイロッド152は、その車幅方向外側の端部であるタイロッドエンドに設けられたボールジョイントを介して、ハウジング110のナックルアームに接続されている。
【0023】
フロントブレーキ160は、例えば車輪とともに回転するロータ、及び、このロータをブレーキパッドで挟持するキャリパを有するベンチレーテッドディスクブレーキである。
ドライブシャフト170は、図示しないディファレンシャルギアからハウジング110に装着された図示しないホイールハブに駆動力を伝達する駆動力伝達軸であり、その両端部には等速ジョイントが設けられ屈曲可能となっている。
サポートプレート180は、後側のゴムブッシュの下部を支持する部材であって、例えば板金によって形成され、ボルト等で車体1のフロア部に固定されている。
【0024】
ストラットタワーバー200は、図3に示すように、車体1の左右のストラット支持部31にわたして設けられた補剛装置であり、中間部に回動許容部を有するフレキシブルストラットタワーバーである。
図4は、ストラットタワーバーの外観を示す2面図であって、図4(a)は車両装着時における上方から見た図、図4(b)は車両前方から見た図である。
ストラットタワーバー200は、左側シャフト210、右側シャフト220、左側プレート230、右側プレート240、ピロボールジョイント250を備えて構成されている。
【0025】
左側シャフト210及び右側シャフト220は、ストラットタワーバー200の車幅方向における中央部から、それぞれ左右のストラット支持部31側へ延びて形成されている。左側シャフト210及び右側シャフト220は、例えばアルミ合金等の金属性の中空パイプを曲げ加工して形成されている。
左側シャフト210及び右側シャフト220は、それぞれのほぼ中間部において屈曲して形成されている。ストラットタワーバー200を車体1に装着した状態において、左側シャフト210及び右側シャフト220の屈曲部よりもピロボールジョイント250側(車体中央側)の部分は、ほぼ車幅方向に沿ってほぼ水平に配置されている。また、屈曲部よりもストラット支持部31側の部分は、ストラット支持部31側のほうが屈曲部よりも車両前方側でありかつ低い位置となるように傾斜して配置されている。
【0026】
左側プレート230及び右側プレート240は、ストラットタワーバー200が車体1の左右のストラット支持部31に固定される部分である。左側プレート230及び右側プレート240は、例えば金属板を用いて環状のプレートとして形成され、ストラット120のショックアブソーバロッド軸線とほぼ同心に配置されている。そして、左側プレート230及び右側プレート240には、その周方向にほぼ等間隔に分散して、それぞれ3つのボルト孔が形成されている。左側プレート230及び右側プレート240は、このボルト孔に上述したストラットアッパマウント121のボルトが挿入され、ストラット120を固定するためのナットによって、ストラット支持部31に対して締結(共締め)される。
【0027】
左側プレート230及び右側プレート240には、それぞれ左側シャフト210及び右側シャフト220が挿入され固定されるブラケット231,241が設けられている。ブラケット231,241は、例えば板金加工により形成されている。ブラケット231,241は、環状の左側プレート230及び右側プレート240の車両前方側の部分における上面に、溶接等によって固定されている。ここで、ブラケット231,241と、左側シャフト210及び右側シャフト220との固定箇所は、ストラット120のショックアブソーバのピストンロッド軸心に対して、車両前方側に配置されている。
【0028】
ピロボールジョイント250は、左側シャフト210及び右側シャフト220を連結するとともに、これらを相互に回動(揺動)可能に支持する回動許容部である。ピロボールジョイント250は、左側シャフト210及び右側シャフト220の一方に固定されたボールと、他方に固定されたレースとを有するグリス封入タイプのスフェリカルベアリングを有し、その外周面には例えばゴム系材料等で筒状に形成されたダストブーツが被せられている。
上述したように左側シャフト210及び右側シャフト220を屈曲して形成することによって、ピロボールジョイント250は、ストラットタワーバー200を車体1に装着した状態においては、ブラケット231,241と左側シャフト210及び右側シャフト220との固定箇所よりも車両後方側であり、さらに、ストラット120のショックアブソーバロッド軸線よりも車両後方側に配置されている。
【0029】
図5は、車両のエンジンルーム内を示す斜視図であって、ストラットタワーバーの装着状態を示す図である。
ストラットタワーバー200のピロボールジョイント250は、図示しないエンジンの上部に装着されたエンジンカバー51の後方に配置されるインタークーラ52のさらに後方側に配置され、このインタークーラ52とバルクヘッドとの間に収容されている。インタークーラ52は、図示しないターボチャージャによって過給された空気を、走行風との熱交換器によって冷却し、エンジンの充填効率を向上させる吸気系部品である。
【0030】
以下、上述した実施例の効果を、以下説明する本発明の比較例1から比較例3と比較して説明する。なお、以下説明する各比較例において、上述した実施例の車両と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略する。
<比較例1>
図6は、本発明の比較例1である車両のフロントサスペンション部の模式図である。図6(a)は、車両の前方側から見た状態を示し、図6(b)は、アッパサイドフレーム及びストラット収容部を上方側から見た状態を示している(図8(a)、図8(b)、図10(a)、図10(b)、図12(a)、図12(b)において同じ)。
比較例1は、上述した実施例の車両に対して、ストラットタワーバーを設けていない点で相違する。
【0031】
一般に、ロワアーム130には、車両の直進時等であっても、タイヤの接地荷重に起因して引張荷重が作用している。これによって、フロントクロスメンバ40には、左右のブラケット41が車幅方向外側へ開かれる方向の荷重が負荷されている。この荷重は、フロントクロスメンバ40に対するプリロードとして作用する。
また、この接地荷重に起因するロワアーム130の引張力のため、ロワサイドフレーム10にも捻りモーメントが作用している。
【0032】
車両の旋回時においては、タイヤが発生する旋回内径側へのコーナリングフォース(横力)によって、旋回内輪側のロワアーム130は、車幅方向外側への引張荷重が増大する。これに対し、旋回外輪側のロワアーム130は、接地荷重に起因する引張荷重が減少し、さらにコーナリングフォースが大きくなると車幅方向内側へ押し込まれる圧縮荷重を受ける。
図7は、比較例1の旋回時におけるフロントクロスメンバ支持部の曲げモーメントとブラケットの横変位との相関を示すグラフである。図7において、縦軸はフロントクロスメンバ40とロワサイドフレーム10との結合箇所A点における曲げモーメントを示し、横軸はフロントクロスメンバ40のブラケット41とロワアーム130の結合箇所B点の横変位を示している。(図9、図11、図13において同じ)
【0033】
フロントクロスメンバ40は、図7に示すようにヒステリシス特性を持ち、また、上述したように直進時であってもロワアーム130からの引張荷重を受けている。このため、旋回内輪側では旋回によってロワアーム130の引張荷重が増加し、A点における曲げモーメントが増加し始めると、B点は直ちに車幅方向外側への変位を開始する。また、B点の変位に伴い、旋回内輪側のロワサイドフレーム10、アッパサイドフレーム20、ストラット収容部30等にも変形が生じる。すなわち、図6に破線で示すように、ロワサイドフレーム10は捻れモーメントが作用して捻れ、その上方側に固定されたアッパサイドフレーム20及びストラット収容部30は車幅方向内側へ変位する。このとき、ロワサイドフレーム10及びアッパサイドフレーム20は、車体の後方側(トーボード、バルクヘッド側)の拘束強度が前方側での拘束強度よりも強いことから、図6(b)に破線で示すような、車両前方側のほうが変位が大きく、車両後方側を支点とした片持ち梁的な曲げモードとなる。
これに対し、旋回外輪側では、A点に旋回内輪側とは反対向きの曲げモーメント変化が発生しても、フロントクロスメンバ40のヒステリシスロスとして吸収されてしまうため、B点の横変位や、旋回内輪側のような車体1の変形はほとんど生じない。
【0034】
比較例1においては、旋回内輪側のロワアーム130が車幅方向外側へ変位し、かつ、タイロッド152がキングピンよりも前方側へ配置されている(ナックルアームが前出しとなっている)ことから、旋回内輪の実舵角の減少(切り戻し)が生じ、旋回内輪側のタイヤが発生するコーナリングフォースが減少し、旋回外輪側のコーナリングフォースが相対的に増加する。
このため、旋回内輪側サスペンションのジャッキダウン現象が抑制されるとともに、旋回外輪側サスペンションのジャッキアップ現象が促進され、車両は前上がりとなるピッチング挙動を伴うロール挙動を示すようになる。
【0035】
<比較例2>
図8は、比較例2のストラットタワーバー及びサスペンション装置の構成及び旋回時の車体変形を示す模式図、及び、ストラットタワーバーの曲げモーメント線図である。図8(c)に示す曲げモーメント線図において、横軸は車幅方向における位置を示し、縦軸は曲げモーメントの大きさ、向きを示している(図10(c)、図12(c)において同じ)。
図9は、比較例2の旋回時におけるフロントクロスメンバ支持部の曲げモーメントとブラケットの横変位との相関を示すグラフである。
比較例2は、実施例のストラットタワーバー200に代えて、以下説明するストラットタワーバー200Aを備えている。
ストラットタワーバー200Aは、ストラットタワーバー200の左側シャフト210、右側シャフト220、ピロボールジョイント250に代えて、左右一体に形成されたシャフト260を備えた剛体ストラットタワーバーである。シャフト260の両端部は、左右の各ブラケット231,241に固定される。
【0036】
図8(b)に示すように、回動許容部をもたないストラットタワーバーの場合、旋回時の旋回内輪側ストラット収容部30の変位に伴い圧縮荷重が負荷されると、車両の左右中心よりも旋回外輪側にずれた位置に節を有する曲げモードを示す。その結果ストラットタワーバー200Aには、図8(c)に示すような曲げモーメントが発生する。
このような曲げモーメントがストラット収容部30を介して車体1に入力されると、ロワサイドフレーム10に作用する捻りモーメントは、旋回内輪側で減少するとともに、旋回外輪側ではわずかに増加する。
【0037】
図9に示すように、比較例2においては、上述したストラットタワーバー200Aの曲げモーメントの作用によって、比較例1に対して、A点での曲げモーメントが旋回内輪側では減少し、旋回外輪側では増大する。このため、旋回内輪側ではB点の横変位が低減されることによって、上述した旋回内輪の実舵角の切り戻しは低減される。一方、旋回外輪側では曲げモーメントの変化はフロントクロスメンバ40のヒステリシスロスとして吸収されることから、比較例1と同様にB点の横変位はほとんど生じていない。
これらのことから、比較例2では、比較例1に対して旋回内輪のコーナリングフォース低下がある程度緩和され、その結果、ロール時の前上がりピッチング挙動も緩和される。
【0038】
<比較例3>
図10は、比較例3のストラットタワーバー及びサスペンション装置の構成及び旋回時の車体変形を示す模式図、及び、ストラットタワーバーの曲げモーメント線図である。
図11は、比較例3の旋回時におけるフロントクロスメンバ支持部の曲げモーメントとブラケットの横変位との相関を示すグラフである。
比較例3は、実施例のストラットタワーバー200に代えて、以下説明するストラットタワーバー200Bを備えたものである。
ストラットタワーバー200Bは、ストラットタワーバー200の左側シャフト210及び右側シャフト220に代えて、以下説明する左側シャフト270及び右側シャフト280を備えたフレキシブルストラットタワーバーである。
【0039】
左側シャフト270及び右側シャフト280は、その全長にわたって車幅方向にほぼ沿った直線状に配置されている。また、左側シャフト270の左側プレート230との固定箇所、及び、右側シャフト280の右側プレート240との固定箇所の車両前後方向における位置は、それぞれストラット120のショックアブソーバロッド軸線とほぼ同じ位置に配置されている。左側シャフト270と右側シャフト280は、車体1の車幅方向中央部でピロボールジョイント250によって回動可能に接続されている。
【0040】
このように中間部にピロボールジョイント250を有するフレキシブルストラットタワーバーとした場合、図10(c)の曲げモーメント線図に示すように、ピロボールジョイント250においては曲げモーメントがゼロとなり、左右端部においては、大きさが同じであり逆向きの曲げモーメントが発生する。このため、比較例2のような剛体ストラットタワーバーを装着した場合と比較して、ロワサイドフレーム10に作用する捻りモーメントは、旋回内輪側で減少し、旋回外輪側で増大する。
その結果、旋回内輪の実舵角の切り戻しがより低減され、ロール時の前上がりピッチング挙動を抑制し、フィーリングを改善することができる。
しかし、比較例3においては、左右各シャフトの曲げ変形が少ないため、上述した曲げモーメントも小さく、操安性向上効果が不足する懸念がある。また、比較例3においては、ストラットタワーバー200Bが車幅方向にほぼ沿ってストレートに配置されていることから、インタークーラ52等のエンジンルーム内部品との干渉を避けることが難しい。
【0041】
図12は、実施例における旋回時の車体変形を示す模式図、及び、ストラットタワーバーの曲げモーメント線図である。
図13は、実施例の旋回時におけるフロントクロスメンバ支持部の曲げモーメントとブラケットの横変位との相関を示すグラフである。
実施例においては、比較例3と対比した場合に、左側シャフト210及び右側シャフト220の一部に車幅方向に対して傾斜して配置された部分を設けて、ピロボールジョイント250をブラケット231,241に対して車両後方側にオフセットしているため、これらのブラケット231,241との固定部からピロボールジョイント250までの距離(各シャフトのスパン)を大きくすることができる。これによって、左右シャフトの曲げ変形量(曲げ撓み角)を大きくし、図12(c)に示すように、ブラケット231,241との接続部における左側シャフト210及び右側シャフト220の曲げモーメントを増大することができる。図12(b)に示すように、このとき、ストラットタワーバー200は、ピロボールジョイント250が後方側へ大きく変位するように変形する。
このため、旋回内輪側における車体変形をよりいっそう抑制し、さらに、旋回外輪側においても、旋回内輪側とは逆向きの車体変形を生じさせることができる。すなわち、旋回外輪側でも横力の大きい領域では、フロントクロスメンバ40のブラケット41、及び、これに接続されたロワアーム130が、わずかに車幅方向内側へ変位する。
【0042】
また、ストラット120のショックアブソーバロッド軸線の位置よりも、左側シャフト210及び右側シャフト220の車体側固定箇所を前方側に配置したことによって、上述したストラットタワーバー200の効果を増大することができる。すなわち、アッパサイドフレーム20は、図12(b)に示すようにトーボード側(後端部側)が固定された片持ち梁的な曲げモードを示すため、前方側のほうが変位が大きくなる。このため、ストラットタワーバーをより前方側に装着したほうがストラットタワーバーへの入力を大きくしてより大きな曲げモーメントを発生させることができ、また、この曲げモーメントが車体側へ伝達される際もより大きな効果を得ることができる。
【0043】
さらに、左側シャフト210及び右側シャフト220を屈曲して形成し、各シャフトの車幅中央側の部分及びピロボールジョイント250をインタークーラ52の後方側へ配置したことによって、インタークーラ52等のエンジンルーム内部品との干渉を防止することができる。
【0044】
以上説明した実施例によれば、旋回内輪側ではロワアーム130の車幅方向外側への変位を抑制し、実舵角の切り戻しが防止される。一方、旋回外輪側ではロワアーム130を車幅方向内側へ変位させて実舵角の切り戻しを生じさせる。これによって、タイヤが発生すコーナリングフォースは、旋回外輪側に対して旋回内輪側で相対的に増加する。その結果、旋回内輪側サスペンションのジャッキダウン現象が増大するとともに、旋回外輪側サスペンションのジャッキアップ現象が抑制され、旋回時に車体1が前下がりとなるピッチング挙動を伴ったロール挙動を得ることができ、運転者が得るフィーリング、操縦安定性が向上する。また、旋回内輪のコーナリングフォースが向上することによって、操舵初期のヨーの立ち上がり特性も向上する。
【0045】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施例では、回動許容部にピロボールを用いていたが、本発明はこれに限らず、左右シャフト相互を回動可能に連結できるものであれば他の方式の自在継手を用いてもよい。
(2)実施例では、回動許容部を車体側との固定箇所よりも車体後方側へオフセットして配置しているが、車体前方側へオフセットしてもよい。例えば、エンジンに対してフロントサスペンションが相対的に前寄りに配置される後輪駆動車の場合には、回動許容部をエンジンの前側に配置してもよい。
(3)実施例では、補剛装置は例えばストラット式サスペンションの左右ストラットアッパマウント間にわたして設けられるストラットタワーバーであったが、これに限らず、例えばダブルウィッシュボーン式やマルチリンク式サスペンションにおける左右ショックアブソーバの車体側取付部の間にわたして設けるようにしてもよい。
(4)ストラットタワーバーの材質や構造は、実施例の構造に限定されない。例えば、シャフトの材質として、スチールパイプ、カーボン繊維強化樹脂パイプを単独又は組み合わせて用いてもよい。また、車体側固定部の形状や材質も特に限定されない。
(5)実施例では、回動許容部をインタークーラの後方側に配置しているが、インタークーラをもたない自然吸気エンジン搭載車の場合であっても、例えばサージタンク、吸気チャンバ、レゾネータ等の吸気部品の後方側等に回動許容部を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を適用した補剛装置の実施例であるストラットタワーバーが装着される車両のサスペンション装置を車体床下側の前方側から見た外観斜視図である。
【図2】図1のサスペンション装置を車体床下側の車幅方向中央部側から見た外観斜視図である。
【図3】実施例のストラットタワーバー及びサスペンション装置の構成を示す模式図である。
【図4】実施例のストラットタワーバーの外観を示す二面図である。
【図5】実施例の車両のエンジンルーム内を示す斜視図であって、ストラットタワーバーの装着状態を示す図である。
【図6】比較例1のサスペンション装置の構成及び旋回時の車体変形を示す模式図である。
【図7】比較例1の旋回時におけるフロントクロスメンバ支持部の曲げモーメントとブラケットの横変位との相関を示すグラフである。
【図8】比較例2のストラットタワーバー及びサスペンション装置の構成及び旋回時の車体変形を示す模式図、及び、ストラットタワーバーの曲げモーメント線図である。
【図9】比較例2の旋回時におけるフロントクロスメンバ支持部の曲げモーメントとブラケットの横変位との相関を示すグラフである。
【図10】比較例3のストラットタワーバー及びサスペンション装置の構成及び旋回時の車体変形を示す模式図、及び、ストラットタワーバーの曲げモーメント線図である。
【図11】比較例3の旋回時におけるフロントクロスメンバ支持部の曲げモーメントとブラケットの横変位との相関を示すグラフである。
【図12】実施例における旋回時の車体変形を示す模式図、及び、ストラットタワーバーの曲げモーメント線図である。
【図13】実施例の旋回時におけるフロントクロスメンバ支持部の曲げモーメントとブラケットの横変位との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1 車体
10 ロワサイドフレーム 20 アッパサイドフレーム
30 ストラット収容部 31 ストラット支持部
40 フロントクロスメンバ 41 ブラケット
110 ハウジング
120 ストラット 121 ストラットアッパマウント
130 ロワアーム 140 スタビライザ
150 ステアリングシステム 151 ステアリングギアボックス
152 タイロッド 160 フロントブレーキ
170 ドライブシャフト 180 サポートプレート
200 ストラットタワーバー
210 左側シャフト 220 右側シャフト
230 左側プレート 231 ブラケット
240 右側プレート 241 ブラケット
250 ピロボールジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の一部に形成され、左右のサスペンション装置のショックアブソーバ上端部がそれぞれ支持される左右のショックアブソーバ支持部の間にわたして設けられる補剛装置であって、
左右の前記ショックアブソーバ支持部にそれぞれ固定された左側シャフト及び右側シャフトと、
前記左側シャフト及び前記右側シャフトを前記車体の車幅方向における中央部において連結するとともに、前記左側シャフトと前記右側シャフトとの回動を許容する回動許容部とを備え、
前記左側シャフト及び前記右側シャフトと前記ショックアブソーバ支持部との固定箇所を、該ショックアブソーバ支持部近傍における前記ショックアブソーバのロッド軸線の位置よりも車両前方側に配置し、
前記回動許容部を、前記左側シャフト及び前記右側シャフトと前記ショックアブソーバ支持部との固定箇所に対して車両後方側又は車両前方側にオフセットして配置したこと
を特徴とする補剛装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−23529(P2009−23529A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189312(P2007−189312)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】