説明

補強土壁の補修箇所に用いる土留治具、並びに該土留治具を用いた土留方法及び補強土壁の補修方法

【課題】従来工法よりも、工期・工費の節減が可能な補強土壁の補修方法、前記補修方法で用いる土留方法、並びに前記土留方法で用いる土留治具を提供すること。
【解決手段】本発明の土留治具は、盛土の露出面に接置する受圧部と、前記盛土から露出した補強材を固定する連結部と、を少なくとも具備する。本発明の土留方法は、補修対象の壁面材を撤去しながら、前記の土留治具を盛土表面に設置することで、簡易的に山留めを行う。本発明の補強土壁の補修方法は、前記土留方法の後、新たな壁面材を構築する。その際、土留治具は撤去しても良いし、埋め殺ししたままでも良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強土壁の変状による壁面材の脱落等が発生した箇所を補修するために用いる土留治具、並びに該土留治具を用いた土留方法及び補強土壁の補修方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
補強土壁は、壁面材と、該壁面材の背面に設けた盛土と、前記壁面材と連結し、且つ前記盛土の内部に配する補強材と、を少なくとも含んで構成する土留構造物である。
補強土壁は、壁面材に作用する土圧力に対し、前記補強材の引き抜き抵抗力でもって釣り合いを保つことにより土留効果を発揮することができる。
【0003】
地震等の様々な要因によって補強土壁が変状し、補強土壁を構成する壁面材が脱落するような大変形を受けた場合には、大規模な補修が必要となる。
補強土壁の大規模な補修が必要とされる場合の従来方法を、図5を参照しながら説明する。
【0004】
(1)山留め工(図5(a))
始めに壁面材aの脱落部分の背面に、山留め工を施す。
山留め工には、鋼矢板若しくは親杭横矢板等の山留材dを用いた公知の工法を採用することができる。
山留材dの打設作業は、補強土壁の天端に搬入した打設装置でもって行う。
(2)掘削工(図5(b)(c))
前記山留め工によって構築した山留壁dの前面側の盛土bを掘削しつつ、該当箇所の壁面材aを撤去して、掘削空間fを構築する。
前記の盛土bの掘削作業は、補強土壁の天端に搬入した重機e(ロングアームバックホウなど)でもって行うことが一般的である。
(3)壁面の再構築(図5(d))
掘削空間fに、新たな壁面材g及び補強材hを下から順に配置しつつ、新たな盛土iを行って、新たな補強土壁を構築する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記した従来の補修方法によれば、以下の様な問題のうち、少なくも一つの問題が生じうる。
(1)山留め工に関する問題
山留め工にあたり、補修対象の壁面材に到達するまでの山留材を必要とするため、資材の節減に限界がある。また、それらの資材の運搬や打設の為に、運搬車や打設装置等を、補強土壁の天端まで手配する必要が生じる。
(2)掘削工に関する問題
土留壁前方の盛土部分を掘削する為に、ロングアームバックホウなどの重機を、補強土壁の天端まで手配する必要が生じる。
【0006】
以上の通り、従来の工法によれば、作業現場が山間部などの険しい場所であった場合に、資材の運搬、重機等の手配、打設、掘削作業に多くの手間を要することとなり、工期・工費の節減に限界があった。
【0007】
したがって、本願発明は、従来工法よりも、工期・工費の節減が可能な補強土壁の補修方法、前記補修方法で用いる土留方法、並びに前記土留方法で用いる土留治具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1発明は、壁面材と、該壁面材の背面に設けた盛土と、前記壁面材と連結し且つ該盛土の内部に配する補強材とを少なくとも含む補強土壁において、前記壁面材の破損或いは脱落等によって露出した盛土を土留するための土留治具であって、前記盛土の露出面に接置する受圧部と、前記盛土から露出した補強材を固定する連結部と、を少なくとも具備することを特徴とする、土留治具を提供するものである。
【0009】
また、本願の第2発明は、前記第1発明に記載の土留治具を用いた、補強土壁の補修箇所の土留方法であって、(a)補修対象の壁面材を撤去しながら、該壁面材の背面側の盛土の一部を掘削して前記土留治具の設置空間を形成し、(b)前記土留治具を盛土の露出面に設置し、(c)前記土留治具の連結部でもって、前記盛土から露出した補強材を固定し、(d)前記(a)〜(c)の工程を、補修対象の壁面材単位で順次行って、土留面を構築する、ことを特徴とする、補強土壁の補修箇所の土留方法を提供するものである。
【0010】
また、本願の第3発明は、前記第2発明に記載の土留方法を用いた、補強土壁の補修方法であって、前記(d)の工程によって土留面を構築した後、(e1)前記土留面を構成する土留治具を下から順に除去しながら、新たな壁面材を構築していくことを特徴とする、補強土壁の補修方法を提供するものである。
【0011】
また、本願の第4発明は、前記第2発明に記載の土留方法を用いた、補強土壁の補修方法であって、前記(d)の工程によって土留面を構築した後、(e2)前記土留面を維持したまま、前記土留面の前方に新たな壁面材を構築することを特徴とする、補強土壁の補修方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち、少なくとも何れか一つの効果を得ることができる。
(1)本発明の土留治具によれば、山留め時に鋼矢板、親杭、横矢板等の長尺の山留材の手配が不要となるため、それらの資材をストックしておく大規模な仮設ヤードの確保をする必要が無い。また、資材の確保、運搬、設置作業等も不要であるから、工期・工費の大幅な短縮に寄与しうる。
(2)本発明の土留方法によれば、山留め時に重機の手配が不要となるため、山間部などの険しい現場でも作業が可能となる。また、盛土の掘削量も最低限に留めながら土留することもできる。従って、工期・工費の大幅な短縮に寄与しうる。
(3)本発明の補修方法によれば、土留治具の再利用が可能であるから、工費の短縮に寄与しうる。全体の作業が、壁面材の設置作業と最低限の盛土作業のみで良い為、工期の短縮にも寄与しうる。
(4)本発明の補修方法によれば、壁面材の背面側に、土留治具によって構築した簡易山留め壁が存する状態を維持することができるため、より山留め効果の高い補強土壁の提供が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る土留治具の平面図及び正面図。
【図2】本発明に係る土留方法を示す概略正面図。
【図3】本発明に係る補修方法の一例を示す概略正面図。
【図4】本発明に係る補修方法のその他の例を示す概略正面図。
【図5】従来の補強土壁の補修方法を示す概略正面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、各図を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
なお、本発明が前提とする補強土壁Aは、壁面材2と、該壁面材2の背面に設けた盛土3と、前記壁面材2と連結し、且つ前記盛土3の内部に配する補強材4と、を少なくとも含んで構成する土留構造物である。
補強土壁Aは、直壁に限られるものでは無く、勾配を設けたものでも良い。
【実施例1】
【0015】
始めに、補強土壁の補修方法に用いる土留治具について説明する。
<1>全体構成
図1(a)は本発明に係る土留治具の平面図であり、図1(b)は本発明に係る土留治具の正面図である。
本発明に係る土留治具1は、盛土3の露出面に接置する受圧部11と、盛土3から露出した補強材4を固定する連結部12と、を少なくとも具備して構成する。
【0016】
<2>受圧部
受圧部11は、盛土3からの土圧を受ける為の部材である。
受圧部11は、盛土への接地面111を前面に有する平板部材で構成することができる。
なお、受圧部11の形状は、盛土からの土圧を受けることができれば、如何なる形状でも構わない。
受圧部11には、露出した補強材4を挿通する為の貫通孔112を設けてある。
【0017】
<3>連結部
連結部12は、補強材4を連結して固定するための部材である。
連結部12は、露出した補強材4を挿通するための挿通空間121を有する筒状の部材で構成することができる。挿通空間121の断面形状は円形、楕円、多角形などあらゆる形状であってよい。
連結部12は、前記挿通空間121が前記受圧部11の貫通孔112と連通するように、受圧部11の背面側に取り付ける。
連結部12には、適宜連結孔122を設けておき、ボルト等の周知の固定手段(図示せず)によって、挿通空間121に挿通した補強材4を固定自在に構成する。
【0018】
<4>使用方法
土留治具1は、補強材4のうち盛土から露出した部分を、受圧部11の貫通孔112、連結部12内部、の順に挿通させて、受圧部11を盛土の露出面31に接地するように配置する。
そして、補強材4を適宜緊張した後、ボルト留めして、土留治具1を盛土表面に固定する。
以上の使用方法によって、土留治具1全体で土留機能を発揮することができる。
【0019】
本実施例によれば、山留め時に、鋼矢板、親杭、横矢板等の長尺の山留め材の手配が不要となるため、それらの資材をストックしておく大規模な仮設ヤードの確保を必要としない利点がある。
また、長尺資材の確保、運搬、設置作業等も不要であるから、工期・工費の大幅な短縮に寄与しうる。
【実施例2】
【0020】
次に、前記土留治具1を用いた補強土壁の補修方法のうち、土留段階までの手順について図2を参照しながら説明する。
<1>初期状態(図2(a))
図2(a)では、補強土壁Aを構成する壁面材2のうち、一部の補強材2が脱落している場合を示す図である。
【0021】
<2>掘削及び土留治具の設置(図2(b)(c))
図2(b)に示すように、補強土壁Aの天端側から、順次壁面材2を撤去しつつ、盛土3から露出した補強材4の一部を、土留治具1に連結していく。
このとき、壁面材2の撤去や、土留治具1の設置作業は、補強土壁Aの前面側に設けた足場(図示せず)から行うことができる。
土留治具1を設置した箇所は、簡易的に山留めされた状態となる。
このステップを順に下方へと進めて順次土留治具(1a,1b,・・・,1e)を設置していくことで、図2(c)のように壁面材の補修が必要な箇所まで山留めした状態を確保していく。これら複数の土留治具によって仮山留面5が形成されることとなる。
【0022】
本実施例によれば、山留め時に重機の手配が不要となるため、山間部などの険しい現場でも作業が可能となる。また、盛土の掘削量も最低限に留めておくことができる。従って、工期・工費の大幅な短縮に寄与しうる。
【実施例3】
【0023】
次に、前記土留治具1を用いた補強土壁の補修方法のうち、土留段階から補修段階までの手順の一例について図3を参照しながら説明する。
<1>土留治具の撤去・壁面材の設置
本例は、土留治具1a〜1eによって簡易的に山留めした状態から、下方の土留治具1eを撤去し、新たな壁面材2aの構築と再盛土を行っていき、それらを順に繰り返していく方法である。
新たな壁面材2は、プレキャストでも良いし、型枠を設けた現場打ちによる構築でもよい。
土留治具1から外れた補強材4の端部は、新たな壁面材2と再度一体化する。
補強材4と新たな壁面材2とを一体化する方法は、公知の方法を採用することができる。
なお、補強材4の長さが不足する場合には、適宜長さを補充して、壁面材2との一体化を担保すればよい。
【0024】
本実施例によれば、土留治具の再利用が可能であるから、工費の短縮に寄与しうる。また、全体の作業が、壁面材の設置作業と最低限の盛土作業のみで良い為、工期の短縮にも寄与しうる。
【実施例4】
【0025】
次に、前記土留治具を用いた補強土壁の補修方法のうち、土留段階から補修段階までの手順のその他の例について図4を参照しながら説明する。
本例は、土留治具1をそのまま埋め殺しした状態で、新たな壁面材2の構築と再盛土を行っていく方法である。
新たな壁面材2は、プレキャストでも良いし、現場打ちでもよい。
新たな壁面材2がプレキャストである場合には、土留治具1と、壁面材2とを公知の方法で連結して一体化する。
新たな壁面材2が現場打ちである場合には、壁面材2の内部鉄筋と土留治具1とを公知の方法で連結して一体化しても良いし、土留治具1の一部を、現場打ちしたモルタルで共に埋めることで、壁面材2と強制的に一体化してもよい。
【0026】
本実施例によれば、壁面材の背面側に、土留治具によって構築した簡易山留め壁が存する状態を維持することができるため、より山留め効果の高い補強土壁の提供が期待できる。
【実施例5】
【0027】
その他、前記した補修方法において、必要に応じて、新たな排水材の配置などの、公知の補強土壁の補修において用いる各種の機能付加作業を施してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 土留治具
11 受圧部
111 接地面
112 貫通孔
12 連結部
121 挿通空間
122 連結孔
2 壁面材
3 盛土
31 露出面
4 補強材
5 仮山留面
A 補強土壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面材と、該壁面材の背面に設けた盛土と、前記壁面材と連結し且つ該盛土の内部に配する補強材とを少なくとも含む補強土壁において、前記壁面材の破損或いは脱落等によって露出した盛土を土留するための土留治具であって、
前記盛土の露出面に接置する受圧部と、
前記盛土から露出した補強材を固定する連結部と、
を少なくとも具備することを特徴とする、土留治具。
【請求項2】
請求項1に記載の土留治具を用いた、補強土壁の補修箇所の土留方法であって、
(a)補修対象の壁面材を撤去しながら、該壁面材の背面側の盛土の一部を掘削して前記土留治具の設置空間を形成し、
(b)前記土留治具を盛土の露出面に設置し、
(c)前記土留治具の連結部でもって、前記盛土から露出した補強材を固定し、
(d)前記(a)〜(c)の工程を、補修対象の壁面材単位で順次行って、土留面を構築する、
ことを特徴とする、補強土壁の補修箇所の土留方法。
【請求項3】
請求項2に記載の土留方法を用いた、補強土壁の補修方法であって、
前記(d)の工程によって土留面を構築した後、
(e1)前記土留面を構成する土留治具を下から順に除去しながら、新たな壁面材を構築していくことを特徴とする、補強土壁の補修方法。
【請求項4】
請求項2に記載の土留方法を用いた、補強土壁の補修方法であって、
前記(d)の工程によって土留面を構築した後、
(e2)前記土留面を維持したまま、前記土留面の前方に新たな壁面材を構築することを特徴とする、補強土壁の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−92011(P2013−92011A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235883(P2011−235883)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000112093)ヒロセ株式会社 (49)
【Fターム(参考)】