説明

補強材、構造物の補強構造及び構造物の補強方法

【課題】軽量で、不陸等に対する柔軟性があって、施工性が良く、安価で、絶縁性を有し、耐熱性のある補強材を提供する。
【解決手段】 トンネル10の内表面に取り付けて補強を行う補強材12であって、バサルト繊維をプレート状に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強材、構造物の補強構造及び構造物の補強方法に関し、特に、バサルト繊維を素材に用いた補強材、構造物の補強構造及び構造物の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、構造物、例えばトンネル内面には、コンクリート等よりなる覆工(覆工コンクリート)が施され、その覆工は経年による土圧や湧水状況の変化あるいは長年の使用によってコンクリート自体が老朽化し、補修・補強が必要となってくる。
【0003】
また、施工方法等に起因する覆工背面の空洞等もトンネル覆工の経年劣化の要因となっている。
【0004】
このような経年変化等による覆工の機能低下を回復させる対策として、例えば特許文献1に示すようなトンネル覆工補修構造の提案がなされている。
【0005】
このトンネル覆工補修構造では、既設のトンネル覆工内面に沿って、トンネル周方向に延びる帯状補修材を、トンネル軸線方向に所定の間隔をおいて設置固定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3549504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このトンネル覆工補修構造にあっては、帯状補修材の材質として、鋼板や溶融亜鉛メッキ鋼板、あるいはこれに代えて炭素繊維やガラス繊維性のプレート等を採用することとしている。
【0008】
しかし、鋼板や溶融亜鉛メッキ鋼板を用いる場合には、重量が大きく、施工性が悪く、不陸に対して対応しにくい上に、溶融亜鉛メッキという防錆処理が必要となるという問題がある。
【0009】
炭素繊維やガラス繊維の場合は、鋼板や溶融亜鉛メッキ鋼板に比し、軽量で、施工性が良いが、熱膨張等の物性が異なるためひび割れ等が発生しやすく、炭素繊維にあっては高価であるという問題がある。
【0010】
また、鋼板や溶融亜鉛メッキ鋼板あるいは炭素繊維にあっては、導電性があるため鉄道構造物への適用がしにくく、ガラス繊維にあっては耐熱性が低いという問題もある。
【0011】
本発明の目的は、軽量で、不陸等に対する柔軟性があって、施工性が良く、安価で、絶縁性を有し、耐熱性のある補強材、構造物の補強構造及び構造物の補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)前記目的を達成するため、本発明の補強材は、構造物の表面に取り付けて補強を行う補強材であって、
バサルト繊維をプレート状に形成したことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、バサルト繊維をプレート状に形成した補強材を構造物の表面に取り付け可能とすることにより、軽量で、不陸等に対する柔軟性があって、施工性が良く、安価で、絶縁性を有し、耐熱性のある補強材とすることができる。
【0014】
(2)本発明においては、補強材は、厚さ0.5mm〜5.0mmの帯状に形成されているものとすることができる。
【0015】
このような構成とすることにより、十分な補強強度を有しながら、適度な大きさで、施工性を向上させることが可能となる。
【0016】
(3)本発明においては、補強材は、厚さ0.5mm〜5.0mmで直交する格子状に形成されているものとすることができる。
【0017】
このような構成とすることにより、十分な補強高度を有しながら、直交する2方向での補強を容易に行うことができる。
【0018】
(4)本発明の構造物の補強構造にあっては、(2)の補強材を用いた構造物の補強構造であって、
長尺の構造物の表面に前記補強材を短手方向にわたって取り付け、かつ、この補強材を長手方向に所定ピッチで配置したことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、構造物の短手方向にわたって取り付けた補強材を長手方向で補強状況に応じながら所定ピッチで配置していくことで、良好な補強構造を確実に得ることができる。
【0020】
(5)本発明においては、(4)において、
前記長尺の構造物の表面に前記補強材を長手方向にわたって取り付け、かつ、この補強材を短手方向に所定ピッチで配置したものとすることができる。
【0021】
このような構成とすることにより、(4)の状態に加えて、補強材を長手方向にわたって取り付けるため、より確実な補強構造を得ることができる。
【0022】
(6)本発明においては、(5)において、
短手方向と長手方向に貼付した補強材に囲まれた部分の構造体表面にバサルト繊維で形成したメッシュシートを取り付けたものとすることができる。
【0023】
このような構成とすることにより、短手方向及び長手方向に交差して取り付けられた補強材に囲まれた部分にバサルト繊維で形成したメッシュシートを取り付けることで、より一層補強効果を高めるとともに、構造物表面の剥離落下を確実に防止することができる。
【0024】
(7)本発明の構造物の補強方法にあっては、既設の構造物の表面に対し、後付けで補強材またはメッシュシートを取り付けて(4)〜(6)のいずれかに記載の構造物の補強構造を形成することを特徴とする。
【0025】
本発明にあっては、既設の構造物の補修・補強を確実に行うことが可能となる。
【0026】
(8)本発明の他の構造物の補強方法にあっては、新設の構造物を構築する際に、新築の構造物の表面に予め補強材またはメッシュシートを取り付けて請求項4〜6のいずれかに記載の構造物の補強構造を形成することを特徴とする。
【0027】
本発明にあっては、新設の構造物の補強を確実に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる構造物の補強構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の他の実施の形態にかかる構造物の補強構造を示す斜視図である。
【図3】本発明のさらに他の実施の形態にかかる構造物の補強構造を示す斜視図である。
【図4】図1〜図3に示す補強材の部分斜視図である。
【図5】補強材の変形例を示す斜視図である。
【図6】補強材の他の変形例を示す斜視図である。
【図7】補強材のさらに他の変形例を示す平面図である。
【図8】補強材のさらに他の変形例を示す平面図である。
【図9】鋼板と炭素プレートとバサルトプレートの材料物性比較を示す図である。
【図10】バサルトプレートと炭素プレートと補強なしの場合の曲げ靱性試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施の形態にかかる構造物の補強構造を示す図で、長尺の構造物の一例として、既設のトンネル(例えば、山岳トンネル)10の補修・補強を行う場合を示している。
【0031】
この構造物の補強構造では、トンネル10の内表面に帯状の補強材12を短手方向(トンネル10の周方向)にわたって取り付け、かつ、この補強材12を長手方向(トンネル10の軸線方向)に所定ピッチで配置するようにしている。
補強材12は、バサルト繊維を、図4に示すように、平坦なプレート状に形成してあり、これを所定の厚さtが0.5mm〜5.0mm、幅wが50mm〜150mmの帯状としてある。
【0032】
補強材12のトンネル12の長手方向におけるピッチp1は、0.3m〜2.0mとしている。
【0033】
また、補強材12は、トンネル10の内表面に対して接着剤により接着するようにしており、図4に示すように接着面14の表面が平坦であると、十分な接着力が得られない場合があるため、例えば、図5に示すように、補強材12の接着面14に長手方向にわたる複数の角溝16を形成したり、図6に示すように、補強材12の接着面14に長手方向にわたる複数のアリ溝18を形成したり、さらには、図7に示すように、角溝16やアリ溝18を蛇行状に形成したりすることで、接着力を高めるようにすることもできる。
【0034】
この補強材12の素材であるバサルト繊維は、天然に存在するバサルト玄武岩を射出して細い繊維にしたもので、グラスファイバーやカーボンファイバーに変わる環境保全型の繊維であり、主な特長は、玄武岩からつくられることにより、他の繊維素材に比べて、耐熱性に優れていることがあげられる。
【0035】
このバサルト繊維プレートと、鋼板SS400と、炭素繊維プレートとの材料物性比較を図9に示す。
【0036】
図9に示すように、バサルト繊維プレートは、以下のような特徴を有している。
【0037】
引張強度は、炭素繊維プレートの1/2〜1/3倍程度である反面、弾性係数が小さく、破断までの伸びが大きいため、靱性向上が期待できる。
【0038】
線膨張係数は、コンクリートと同等であり、供用後の接着剤の付着切れがない。
【0039】
軽量で、施工性が良い(100mm幅で、270g/m程度)。
【0040】
耐酸性、耐アルカリ性は、浸漬試験1ヶ月で強度低下がない。
【0041】
絶縁性であり、鉄道構造物への適用が可能である。
【0042】
次に、バサルト繊維プレートにより補強した場合と、炭素繊維プレートにより補強した場合と、補強なしの場合の曲げ靱性試験結果を図10に示す。
【0043】
試験体は、コンクリート150mm×150mm、プレート幅3mm×2本(底面に接着)。
【0044】
補強なしの場合は、最大荷重後脆性的に破壊する。
【0045】
炭素繊維プレートで補強した場合、最大荷重は大きくなるが、早い段階でプレートの接着が切れ、(0.7mm程度)、急激に荷重が低下する。
【0046】
バサルト繊維プレートは、最大荷重後も急激な荷重低下がなく、靱性が大きく、段階的に接着が切れて終局する。
【0047】
実構造物換算(プレート幅100mm×厚さ1mm@500mm)で、補強なしと比較して、耐荷力は約1.3倍、曲げ靱性係数は4.5倍となる。
【0048】
このように、バサルト繊維をプレート状に形成した補強材12をトンネル10の表面に取り付け可能とすることにより、軽量で、不陸等に対する柔軟性があって、施工性が良く、安価で、絶縁性を有し、耐熱性のあるものとすることができる。
【0049】
また、トンネル10の短手方向にわたって取り付けた補強材12を長手方向で補強状況に応じながら所定ピッチで配置していくことで、良好な補強構造を確実に得ることができる。
【0050】
図2は、本発明の他の実施尾形態にかかる構造物の補強構造を示す図である。
【0051】
この実施の形態では、図1の実施の形態における、トンネル10の内表面に帯状の補強材12を短手方向(トンネル10の周方向)にわたって取り付け、かつ、この補強材12を長手方向(トンネル10の軸線方向)に所定ピッチで配置した状態に加え、トンネル10の内表面に補強材12を長手方向(トンネル10の軸方向)にわたって取り付け、かつ、この補強材12を短手方向(トンネル10の周方向)に所定ピッチで配置している。
【0052】
このトンネルの周方向におけるピッチp2は、補強材12のトンネル12の長手方向におけるピッチp1と同様に、0.3m〜2.0mとなっている。
【0053】
このように、本実施の形態においては、周方向にわたる補強材12と軸方向にわたる補強材12とが直交する格子状になるため、図1の実施の形態の場合よりも、より確実な補強構造を得ることができる。
【0054】
この場合、帯状の補強材12をトンネル10の内表面に周方向と軸方向に別々に取り付けて格子状に形成するのに代えて、図8に示すような、予め厚さ0.5mm〜5.0mmで直交する格子状に形成された空間部22を有する補強材20を準備しておいて、この補強材20をトンネル10の内表面に接着するようにすることも可能である。
【0055】
この場合には、バサルト繊維の並び方向が強度の影響を与えるため、予め繊維の並び方向を90度違えたプレートを組み合わせて接着した状態としておけばよい。
【0056】
図3は、本発明のさらに他の実施の形態にかかる構造物の補強構造を示す図である。
【0057】
この実施の形態における構造物の補強構造は、図2に示した短手方向(トンネルの周方向)と長手方向(トンネル10の軸方向)に貼付した格子状に直交する補強材12、12に囲まれた部分のトンネル10の内表面にバサルト繊維で形成したメッシュシート24を取り付けたものとすることで、より一層補強効果を高めるとともに、トンネル10の内表面の剥離落下を確実に防止することができるようにしている。
【0058】
このメッシュシート24は、図8に示した補強材20を用いた場合にも、その空間部22で露出したトンネル10の内表面に接着するようにしても良い。
【0059】
このような角実施の形態における構造物の補強構造は、既設の構造物であるトンネル10の内表面に対し、後付けで補強材12、20またはメッシュシート24を取り付ける後付けの構造物の補強方法とし、既設の構造物の補修・補強を確実に行うものとなっているが、本発明の他の構造物の補強方法にあっては、新設の構造物であるトンネル10を構築する際に、新築のトンネル10の内表面に予め補強材12、20またはメッシュシート24を取り付けて前述のような構造物の補強構造を形成することで、新設の構造物の補強を確実に行うようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、前企画実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の形態に変形可能である。
【0061】
前記各実施の形態では、構造物として山岳トンネルの場合について説明したが、この例に限らず、シールドトンネル等のトンネルや橋梁等のトンネル以外の構造物にも適用可能である。
【0062】
また、ひび割れが閉合した部分では、バサルト繊維性の板状のボードをアンカーによって取り付けることで、コンクリート片の剥落を防止することも可能である。板状のボードの形状は、例えば、1.0m×1.0m×厚さ2.0m等ひび割れが閉合した寸法に応じて製造することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 トンネル
12、20 補強材
14 接着面
22 空間部
24 メッシュシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に取り付けて補強を行う補強材であって、
バサルト繊維をプレート状に形成したことを特徴とする補強材。
【請求項2】
請求項1において、
厚さ0.5mm〜5.0mmの帯状に形成されていることを特徴とする補強材。
【請求項3】
請求項1において、
厚さ0.5mm〜5.0mmで直交する格子状に形成されていることを特徴とする補強材。
【請求項4】
請求項2記載の補強材を用いた構造物の補強構造であって、
長尺の構造物の表面に前記補強材を短手方向にわたって取り付け、かつ、この補強材を長手方向に所定ピッチで配置したことを特徴とする構造物の補強構造。
【請求項5】
請求項4において、
前記長尺の構造物の表面に前記補強材を長手方向にわたって取り付け、かつ、この補強材を短手方向に所定ピッチで配置したことを特徴とする構造物の補強構造。
【請求項6】
請求項5において、
短手方向と長手方向に貼付した補強材に囲まれた部分の構造体表面にバサルト繊維で形成したメッシュシートを取り付けたことを特徴とする構造物の補強構造。
【請求項7】
既設の構造物の表面に対し、後付けで補強材またはメッシュシートを取り付けて請求項4〜6のいずれかに記載の構造物の補強構造を形成することを特徴とする構造物の補強方法。
【請求項8】
新設の構造物を構築する際に、新築の構造物の表面に予め補強材またはメッシュシートを取り付けて請求項4〜6のいずれかに記載の構造物の補強構造を形成することを特徴とする構造物の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−167512(P2012−167512A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30874(P2011−30874)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000155698)株式会社有沢製作所 (117)
【Fターム(参考)】