補正値取得方法、測色値補正方法、及び測色機制御装置
【課題】測色機における測色値の管理を利用者の手元において行うことが可能な補正値取得方法を提供する。
【解決手段】測色機に、異なる色を備える複数のパッチにより構成されたチャートを測色させて、各パッチに応じた分光強度分布を各波長の強度毎に取得する取得工程と、取得された前記各波長の強度に波長毎の補正値を付与したものの波長毎の和を、所定波長における補正後の強度として算出する算出工程と、前記算出された補正後の強度と、ターゲットとなる強度との差分が所定の閾値以下となるよう前記補正値を更新し、更新された補正値を取得する補正値取得工程と、を有する。
【解決手段】測色機に、異なる色を備える複数のパッチにより構成されたチャートを測色させて、各パッチに応じた分光強度分布を各波長の強度毎に取得する取得工程と、取得された前記各波長の強度に波長毎の補正値を付与したものの波長毎の和を、所定波長における補正後の強度として算出する算出工程と、前記算出された補正後の強度と、ターゲットとなる強度との差分が所定の閾値以下となるよう前記補正値を更新し、更新された補正値を取得する補正値取得工程と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測色機が測定した測色値を補正するための補正値を取得する補正値取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリンターの印刷結果を校正するためキャリブレーション等が行われている。このキャリブレーションでは、対象プリンターが印刷したチャートを測色機で測色させ、測色結果をもとにパラメータ等の補正を行う。そのため、測色機自体の測定精度を高く維持する必要があり、定期的に測色機の校正を行う必要があった。例えば、1年ごとに測色機の製造元に対象機体を返却し、製造元で測色値がターゲット値に近づくよう校正を行っていた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−278054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来の測色機では、測色値の管理は製造元に委託しており、利用者が関与するものではなかった。そのため、測色機の使用過程において光源ランプの消耗といった要因で測色精度が劣化した場合、利用者側で測色機の測色値を修正することはできなかった。同様に、利用者が複数の測色機を使用する場合に、利用者が、各測色機における測色値がターゲット値に合っていなくとも、測色機間で測色値が均一であればよいと考える場合でも、従来では、測色機を製造元等に返却して校正を行うしかなかった。
【0005】
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、測色機における測色値の管理を利用者の手元において行うことが可能な補正値取得方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、測色機が測定して得た分光強度分布をターゲットとなる分光強度分布に近づけるための補正値を取得する補正取得方法であって、測色機に、異なる色を備える複数のパッチにより構成されたチャートを測色させて、各パッチに応じた分光強度分布を各波長の強度毎に取得する取得工程と、取得された前記各波長の強度に補正値を付与したものの波長毎の和を、所定波長における補正後の強度として算出する算出工程と、前記算出された補正後の強度と、ターゲットとなる強度との差分が所定の閾値以下となるよう前記補正値を更新し、更新された補正値を取得する補正値取得工程と、を有する構成としてある。
【0007】
本発明の具体的な構成等は明細書中にて開示する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】測色機補正システム100の構成を説明するためのブロック構成図である。
【図2】測色機補正システム100における補正値取得方法を説明するフローチャートである。
【図3】一例としてのプリンター20が形成する測色用チャートを示す。
【図4】所定パッチ(i)を測色して取得された分光強度分布を示す。
【図5】ΔEλを説明するための図である。
【図6】コンピューター10に記録される補正値テーブルTbを示す図である。
【図7】測色機1及びコンピューター10にて実行される測色処理を説明するフローチャートである。
【図8】補正値算出方法の違いによる補正効果の確認を示す図である。
【図9】色差が悪化したパッチ(i=242)の測色値における補正前の分光強度分布と補正後の分光強度分布との関係を示す図である。
【図10】第2の実施形態に係る測色処理を説明するフローチャートである。
【図11】ステップS34において実行される処理を詳細に説明するフローチャートである。
【図12】測色機1にて取得された補正前の分光強度分布、及び補正後の分光強度分布を示すグラフである。
【図13】一例としての各帯域におけるn数の数を示すグラフ図である。
【図14】第3の実施形態に係る補正値算出方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
1.第1の実施形態:
1.1.測色機補正システムの構成:
1.2.補正値取得方法:
1.3.測色機の補正方法:
1.4.実施例:
1.5.変形例1:
1.6.変形例2:
2.第2の実施形態:
3.第3の実施形態:
4.その他の実施形態:
【0010】
1.第1の実施形態:
1.1.測色機補正システムの構成:
以下、図を参照して、この発明に係る測色機補正システムを具体化した第1の実施の形態について説明する。図1は、測色機補正システム100の構成を説明するためのブロック構成図である。
【0011】
第1の実施形態に係る測色機補正システム100は、測色機1と、コンピューター10と、プリンター20と、を備えて構成されている。測色機補正システム100では、コンピューター10の制御のもと、プリンター20に測色用チャートを印刷させ、印刷された測色用チャートを測色機1にて測色させる。そして、コンピューター10は、測色機1による測色結果をターゲット値に基づいて補正し、補正値を算出する。
【0012】
本実施形態に係る測色機1は、所定波長域において分光強度分布を測定することが可能な分光反射率測定機である。即ち、測色機1は、光源2と、測色用チャートからの分光強度分布(分光反射率とも記載する。)を波長毎に取得する測色ユニット3と、を備えて構成される。具体的には、測色ユニット3は、測色対象物から反射される光を受光する受光部と、受光部が受光した光を導く光学系、及び、導かれた光の強度を検出するセンサー部を備えて構成されている。また、センサー部は、可視光域(380nm〜730nm)を含む波長域の強度(反射率とも記載する。)を10nm毎に測定可能なよう構成されている。
【0013】
コンピューター10は、主たる制御を行う制御部11や、この制御部11が実行するプログラムやデータ等が記録された記録部12を備えて構成されている。制御部11は、CPUやRAMを備えて構成され、キーボード等の操作入力部13から入力される入力に応じてコンピューター10における所定の処理を実行する。また、制御部11は、入出力IF14を介して測色機1や、プリンター20と接続可能である。
【0014】
記録部12には、コンピューター10における各種処理を実行するための各種プログラムが記録されている。そのため、制御部11がこのプログラムを実行することで、測色機1にから供給された分光強度分布を測色値(例えば、L*a*b*値)に変換したり、測色機1の測色誤差を補正する際用いられる補正値の作成等を行う測色機制御装置として機能する。また、コンピューター10は、プリンター20に印刷動作を実行させる。更に、記録部12には、プリンター20が作成する測色用チャートの元となる測色用データや、制御部11による測色値の算出の際に用いられる補正値が記録された補正値テーブルTaが記録されている。
【0015】
プリンター20は、図示しない記録ヘッド、及びこの記録ヘッドを動作させる制御部を備えて構成される。本実施形態に係るプリンター20は、インクジェット方式のシリアルプリンターであり、コンピューター10からの命令に従い、記録ヘッドを主走査方向に移動させながら印刷動作を行う。記録ヘッドは、インクカートリッジに充填されたC(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の各インクを噴射することで、用紙(メディア)に対して記録を行う。
【0016】
1.2.補正値取得方法:
図2は、測色機補正システム100における補正値取得方法を説明するフローチャートである。
【0017】
利用者がコンピューター10の操作入力部13を操作して、図示しないUI画面において、測色機1に対して入力を行うと、コンピューター10は、ステップS11において、この入力を受付ける。また上記入力にて、補正値が作成される用紙の種別が選択される。例えば、このUI画面上において選択可能な用紙の一例として、「普通紙」、「厚紙(マット紙)」、「コート紙(光沢紙)」、「特殊紙」がある。これら用紙の種別は、測色機1で分光強度分布が取得された際に、分光強度分布に対して用紙が与える影響に応じて設定される。例えば、「コート紙」は「厚紙」に比べて画像が形成されない紙白部分の反射率が高くなるため、取得される分光強度分布に与える影響度合いが変化するからである。以下、この実施形態においては、利用者が用紙として「コート紙」を選択した場合を例に説明を行う。
【0018】
ステップS12では、コンピューター10はプリンター20に測色用チャートを形成させる。図3は、一例としてのプリンター20が形成する測色用チャートを示す。測色用チャートは、複数のパッチ(i)で構成され、測色機1が各パッチ(i)を測色することでこのパッチ(i)に応じた分光強度分布を得ることができる。本実施形態では、測色用チャートは、C(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)の各色を所定階調値毎に変化させたパッチ、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各パッチ、更にはK(ブラック)のパッチの計704個(即ちi=704)のパッチで構成されている。なお、iは、パッチの識別子を示す。
【0019】
利用者が測色用チャートが記録された用紙を測色機1にセットすると、ステップS13では、コンピューター10は、測色機1に測色用チャートを測色させて、この測色用チャートを測色して得られる分光強度分布を取得する。そのため、測色機1は測色ユニット3を移動させて、704個のパッチに対してそれぞれの分光強度分布を取得する。本実施形態では、704個のパッチに対して36波長分の反射率(即ち、25344個)が取得される。以上、ステップS12及びステップS13の処理により、本発明に係る取得工程及び取得手段を実現する。
【0020】
図4は、所定パッチ(i)を測色して取得された分光強度分布を示す。本実施形態では、測色機1は反射率を380nmから730nmまでの間で、10nm刻みに36波長分測色する(図で「○」で示す点。なお、図では、便宜上36個の内の一部を示す。)。本実施形態では、このように取得された分光強度分布が、すべてのパッチ(704パッチ)において取得される。
【0021】
ステップS14では、コンピューター10は、ステップS13で取得した波長毎の反射率、及び補正値テーブルTaに記録された補正値をもとに、下記式(1)を用いて補正後の反射率を算出する。
【数1】
【0022】
ここで、MRλ’は、測色機1で取得されたある波長λ’の反射率を示す。また、SRλは、波長λにおける補正後の反射率を示す。なお、波長λを「λ’」として記載するときは、測色機1が取得した補正前の分光反射率MRλに対応する波長と、補正後の分光反射率SRλに対応する波長とを区別するときに使用する。そして、aλ、bλλ’、cλλ’は、ある波長λにおける補正後の反射率SRλを取得するために上記式(1)を構成する反射率MRλ’に付与される補正値を示す。なお、式(1)では、便宜上、2次までしか項を記載していないが、加えられる項が多くなるほど補正値は増加していく。
【0023】
式(1)では、あるパッチ(i)における波長λでの補正後の反射率SRiλを算出するために、パッチ(i)を測色することで得られた反射率MRiλ’に補正値bλλ’が付与された値の総和と、この反射率MRiλ’のべき乗値に補正値cλλ’が付与された値の総和をもとに補正後の反射率が算出される。また、式(1)では、補正値としてaλが設定されている。なお、「MRiλ」、「SRiλ」と「i」を付して記載するときは、あるパッチ(i)を測色して得た波長λにおける反射率を示す。
【0024】
本実施形態では、例えば、あるパッチ(例えば、i=1)に係る補正後の反射率SR1,390(λ=390)を取得するために、パッチ(1)を測定して得られた36波長分の反射率MR1λ’に対して、各波長λ’に対応する36個の補正値b390λ’が付与され、反射率MR1,λ’を2乗した36波長分の反射率MR1,390^2に対して、各波長λ’に対応する36個の補正値c390λ’が付与される。そのため、式(1)をもとに補正後の反射率SRλをn次の項の総和により求める場合、本実施形態ではある波長λの補正後の反射率SRλは、下記式(2)により算出される。
【数2】
【0025】
また、上記式(1)においては、補正後のある波長λの反射率SRλを、各反射率MRλ’の影響度合い(即ち、補正値bλλ’又はcλλ’)に応じて総和して算出するが、影響度合いが低い反射率MRλ’においては、結果として補正値は0を含む限りなく小さな値となることが予測されるため、予め式(1)から除外するものであってもよい。上記構成とすることで、後述する補正値の更新処理において、コンピューター10の処理負荷を軽減することが可能となる。以上ステップS14の処理により本発明に係る算出工程及び算出手段を実現する。
【0026】
ステップS15では、コンピューター10は、ターゲット値TRλを取得する。ターゲット値TRλは、基準となる測色機(以下、測色機Tとして識別する。)で測色用チャートの各パッチ(i)を測色した際のある波長λでの反射率を示す。本実施形態では、用紙からの反射成分の影響を低減させるため、測色機1と測色機Tとは、同一の用紙に形成された測色用チャートを測色する必要がある。そのため、本実施形態では、用紙として「コート紙」を用いる必要がある。なお、基準となる測色機T及び使用する用紙が予め決められている場合は、コンピューター10にて予め測定された値を保持しておくものであってもよい。無論、基準となる測色機Tでその場で測色した値を用いるものであってもよい。
【0027】
ステップS16では、コンピューター10は、ステップS13で取得された補正後の反射率SRiλと、ステップS14で取得されたターゲット値TRiλとの差分の2乗和を全てのパッチ(本実施形態では704パッチ)で算出し、算出された値の総和(ΔEλ)を求める。そのため、ΔEλは下記に示す式(3)にて求めることができる。このΔEλは、測色機1が取得可能な反射率に対応する全ての波長λ(本実施形態では36波長)において算出される。
【数3】
【0028】
図5は、ΔEλを説明するための図である。図5では、横軸をパッチ(i)とし、縦軸を反射率としたときの、各パッチ(i=1〜n)での、ターゲット値TRiλと、補正後の反射率SRiλとを示す。なお、図5では、補正後の反射率SRλを「○」で示し、ターゲット値TRλを「□」で示す。式(2)から解るように、ΔEλは波長λにおけるターゲット値TRλと、補正後の反射率SRλとの差の各パッチ(本実施形態では704パッチ)の総和を示す。そのため、ΔEλが最も小さくなるということは、複数パッチ(i)に係るターゲット値MRiλと補正後の反射率SRiλとの差が小さくなることを意味し、両者は最も近いものと見なすことができる。ここで、式(1)に示すように、補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)を変化させることで、反射率SRλを変化させることができるため、ΔEλが最も小さくなるときの補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)が、最適な補正値であると考えることができる。
【0029】
そのため、ステップS17に進み、ΔEλが閾値S1と比べて大きい場合(ステップS17:NO)、コンピューター10は、ΔEλが閾値S1と比べて小さくなるまで補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)を更新する(ステップS18)。ここで、閾値S1は、実験的に求められる値である。また、ステップS18における補正値の更新手法としては、最小二乗法(Least Squares Method)や、準ニュートン法等の方法を採用することができる。
【0030】
以下、ステップS17、S18のループを繰り返し、ΔEλが閾値S1と比較して小さくなると(ステップS17:YES)、コンピューター10は、このときの補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)を補正値テーブルTbに記録する(ステップS19)。
【0031】
図6は、コンピューター10に記録される補正値テーブルTbを示す図である。図6に示す補正値テーブルTbでは、用紙の種別(普通紙、厚紙、コート紙、特別紙)に応じて、補正値が記録される。各補正値は、波長(380nm〜730nm間を10nmに刻む36波長)毎に、同補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)が記録される。そのため、測色機1にて測色が行われる場合は、この補正値テーブルTbを参照して反射率MRλの補正が行われ、コンピューター10は補正後の反射率SRλから測色値を取得する。以上、ステップS15〜S19の処理により本発明に係る補正値取得工程及び補正値取得手段を実現する。
【0032】
1.3.測色機の補正方法:
以下に、一例として、コンピューター10にて取得された測色値を用いた測色値の補正方法を説明する。図7は、測色機1及びコンピューター10にて実行される測色処理を説明するフローチャートである。なお、図7に示す処理は、図6に示す補正値テーブルTaが作成された後に実行される処理である。なお、図7に示す処理により、本発明に係る補正実行工程、及び補正実行手段を実現する。
【0033】
ステップS21では、利用者からの測色対象物の用紙の種別の入力、及び測色値の種別を受付ける。即ち、このステップにおいて、補正値を適応させるための用紙の種別が選択される。また、測色値の種別としては、L*a*b*値や、XYZ値である。以下、用紙として「コート紙」を選択し、測色値として「L*a*b*値」を選択した場合を例に説明を行う。
【0034】
ステップS22では、測色対象物の分光強度分布が取得される。即ち、コンピューター10は、測色機1に測色対象物を測色させて、波長λ毎の反射率MRλで構成される分光分布を取得する。
【0035】
ステップS23では、補正後の反射率SRλが算出される。このとき、コンピューター10は、ステップS21で選択された用紙の種別をもとに、補正値テーブルTbから補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)を選択する。本実施形態では、用紙として「コート紙」が選択されているため、補正値テーブルTbにおいて「コート紙」に対応した補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)が補正値として適用される。そのため、測色された反射率MRλ’及び補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)をもとに、各波長λに対応した補正後の反射率SRλが算出され、分光強度分布の修正が行われる。なお、補正値の適用手法としては、上記式(1)を用いることで実施される。
【0036】
ステップS24では、補正後の反射率SRλをもとに、測色値が算出される。ステップS21において測色値として「L*a*b*値」が選択された場合、下記式(4)をもとに、測色値が算出される。
【数4】
【0037】
そして、ステップS25において、コンピューター10は離散的に取得した測色値(L*a*b*値)を補間して、連続的な測色値を取得する。なお、こうして算出された測色値は、例えば、図示しないUI画面を通して表示される。
【0038】
1.4.実施例:
以下、本実施形態に係る補正値取得方法に係る効果を説明する。図8は、補正値算出方法の違いによる補正効果の確認を示す図である。なお、図8では、式(1)に示す、補正後の反射率の算出手法において、足し合わされるべき乗の値(MRλn)を変化させた場合の、平均色差(L*a*b*値)と、最大色差の関係を示す図である。即ち、べき乗の和を、「補正前」、「1次のみ」、「1次+2次」、「1次+3次」、「1次+4次」、「1次+5次」、「1次+6次」、「1次+8次」、「1次+10次」、「1次+2次+3次」、の計9つの場合に分けて平均色差、及び最大色差を計測した。
【0039】
また、本実施例では、測色機としてX−rite社製の「i1isis」を2機使用し、一方をターゲット値TRλを取得する測色機Tとし、他方を本補正値取得方法で取得された補正値を適用した測色機1として使用した。そして、補正値を取得するため704パッチの測色用チャートを使用し、補正の効果を検出するためにこの測色用チャートと異なる色のパッチを含む354パッチの測色用チャートを用いて測色を行った。さらに、色差の平均値は、補正前及び補正後とも、1回の測色結果をもとに取得した。なお、最大色差はこの1回の測色値における最大の差を示す。
【0040】
図8に示すように、補正前の平均色差及び最大色差が「4.48」、「4.58」であるのに対して、補正後の平均色差及び最大色差の最大値は、それぞれ「1.79」(1次+2次)、「0.30」(1次のみ)であった。そのため、本補正値取得方法で取得した補正値を用いて補正を行うことで、平均色差及び最大色差において色差の減少がみられる。ここで、1次のみで補正後の反射率を算出するのに比べて、2次以上のべき乗を加えて補正後の反射率を算出するほうが、若干ではあるが平均色差の減少が見られる。また、2次以降の項を加えて補正後の反射率を算出した場合、平均色差及び最大色差ともに大きな変化がみられなかった。
【0041】
以上の説明から、本補正値取得方法にて取得された補正値を用いることで、測色機1における測色誤差が大幅に低減する。また、上記式(1)において使用するべき乗の和は、1次よりも2次以上を用いることが相応しい。また、2次以上では、効果が劇的に変化しないため、補正値を更新する際の処理負荷を考慮すれば、べき乗和を、「1次+2次」とすることが望ましい。
【0042】
1.5.変形例1:
本補正値取得方法で取得される補正値は、ある用紙に対して固有の補正値を取得するだけに限定されず、複数の用紙に共通の補正値を取得するものであってもよい。この場合、ΔEλは、下記式(5)のように修正され、ΔEが最小となる補正値を取得すればよい。なお、各項に付された添え字j(j=1、2、3、…)は用紙の種別を示す識別子である。
【数5】
【0043】
例えば、利用者が使用する用紙として「普通紙」(j=1とする)、「厚紙」(j=2とする)を選択した場合、図2に示すフローチャートのステップS12において、それぞれの用紙をもとに測色用チャートが形成され、各測色用チャートを測色した値から、差分ΔEλ1及びΔEλ2が算出される。そして、図2のステップS16において、式(4)に示す用紙毎の差分ΔE1、ΔE2を総和したΣΔEjが閾値S1と比較して小さくなるまで、補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)が更新される。こうして取得された補正値は、「普通紙」と「厚紙」に対して共通の補正値として用いることが可能となる。
【0044】
1.6.変形例2:
補正対象となる波長が可視光領域(例えば、380nmから730nm)における低波長域又は高波長域である場合に、上記式(1)により使用される波長MRλとして、この可視光領域以外の波長λの反射率を含めるものであってもよい。上記式(1)に示す補正後の反射率SRλの算出方法は、各反射率MRλ’の寄与を補正値(bλλ’、cλλ’)により重み付けして足し合わせることにより、反射率SRλを算出する。そのため、可視光領域における高波長域又低波長域では、この波長の前後(即ち、可視光領域以外の波長)の影響を強く受けるとも考えられる。そのため、可視光領域における低波長域又は高波長域においては、可視光領域以外の波長MRλ’を使用して補正後の反射率SRλを算出するものであってもよい。
【0045】
例えば、補正後の反射率SR380を算出する場合、測色機1による測色により、λ=360nm、370nmに係る反射率MR360、MR370が取得される。そして、コンピューター10は、反射率MR360、MR370を使用して、上記式(1)から補正後の反射率SR380を算出する。無論、この場合、使用する測色機1は、可視光以外の波長域においても反射率を測色可能である必要がある。
【0046】
2.第2の実施形態:
上記説明したように、本実施形態に係る補正を用いることで測色機における測色値は補正前のものに比べて大幅に改善することがわかる。しかしながら、本補正値取得方法を用いて取得された補正値を用いた場合でも、任意の測色値において、補正後の色差が補正前の色差に比べて悪くなるものが存在する。例えば、本補正値取得方法により取得した補正値を用いて実施例1同様、704パッチの測色値を計測したところ、パッチ(i=242)において、補正後の測色値における測色機Tとの色差(L*a*b*値)が補正前の測色値における色差に比べて悪化した。
【0047】
図9は、色差が悪化したパッチ(i=242)の測色値における補正前の分光強度分布と補正後の分光強度分布との関係を示す図である。図9に示すように、色差が悪化したパッチ(i=242)を測色した分光強度分布において、低反射領域(図9では、縦軸においてSRλ=0.02以下となる領域)において、補正後の反射率SRλとターゲット値TRλとの差が補正前の反射率MRλとターゲット値TRλとの差に比べて大きくなっている(以下、このような状態を簡易的に「補正後の反射率が悪化している」とも記載する。)。
【0048】
補正後の反射率が低反射領域において悪化することで、測色値の誤差に大きな影響を与える要因として、第1に、低反射領域はそもそもその値が小さい領域であるため、同じ反射率の差であっても分光強度分布の違いとして与える影響が大きくなることが考えられる。例えば、反射率「0.9」と反射率「0.1」とでターゲッ値TRλとの差が「0.03」である場合、元の反射率に対してこの差の割合は「1.033」(0.93/0.9)と、「1.300」(0.13/0.1)といったように、反射率「0.1」の方が大きくなる。また、第2に、低反射領域は値が小さいため誤差が発生し易いこと等の理由があると考えられる。
【0049】
そのため、第2の実施形態では、補正後の反射率SRλとターゲット値TRλとの差が、補正前に比べて悪化している低反射領域においては、第1の実施形態に係る補正を適用しないこととし、測色値の改善を図っている。
【0050】
図10は、第2の実施形態に係る測色処理を説明するフローチャートである。なお、図10に示すフローチャートは、ターゲット値TRλを出力する測色機(測色機Tとして識別する。)と補正対象となる測色機(測色機1として識別する。)の2機体をもちいて実施される。即ち、第1の実施形態同様、ターゲット値TRλは基準となる測色機Tで取得された値となる。
【0051】
ステップS31では、コンピューター10は、測色機1に測色用チャートを測色させる。そのため、コンピューター10には測色機1で測色された各パッチ(i)の分光強度分布が波長λ(本実施形態では36波長)毎に取得される。
【0052】
ステップS32では、コンピューター10は、測色機1から取得した分光強度分布に対して補正を行う。そのため、コンピューター10は記録部12に記録された補正値テーブルTaに記録された補正値、及び各波長λの反射率MRλをもとに、各波長λの補正後の反射率SRλを算出する。なお、分光強度分布の補正手法は、第1の実施形態にて示したものである。
【0053】
ステップS33では、コンピューター10は、補正により悪化した反射率SRλを探索する。即ち、補正後の反射率SRλとターゲット値TRλとの差と、補正前の反射率MRλとターゲット値TRλの差分を算出し、補正後の反射率SRλとターゲット値TRλの差が補正前の反射率MRλとターゲット値TRλの差と比べて大きくなっている波長λを探索する。本実施形態では、ある波長λに対して704パッチ分の反射率が取得されるため、反射率SRλにつき704個のサンプル数から補正により悪化した反射率を探索する。
【0054】
ステップS34では、コンピューター10は、補正を行わない反射率の境界点を設定するための閾値S2を算出する。ここで、閾値S2の設定は、補正が適用される測色機毎に個別に設定されるものであり、又、各測色機において使用する用紙毎に設定するものであってもよい。
【0055】
図11は、ステップS34において実行される処理を詳細に説明するフローチャートである。また、図12は、測色機1にて取得された補正前の分光強度分布、及び補正後の分光強度分布を示すグラフである。
【0056】
ステップS341では、コンピューター10は、閾値S2を探索するための上限となる反射率を設定する。本実施形態では、低反射領域において補正を行わないようにするため、例えば、図12Aにおいて、反射率「0.1」を閾値を探索する上限となる反射率とする。無論、上限となる反射率を「0.1」とすることは一例である。
【0057】
ステップS342では、コンピューター10は、反射率の下限(本実施形態では、SRλ=0.0)から上限として設定した反射率までの間隔を複数帯域で区切り、各帯域において補正後の反射率SRλの悪化が見られるN数を取得する。即ち、コンピューター10は、ステップS33で探索した補正により悪化した反射率SRλを、同反射率SRλが属する帯域毎に区分けして、各帯域のN数を取得する。
【0058】
図13は、一例としての各帯域におけるn数の数を示すグラフ図である。図13に示すグラフでは、横軸に反射率「0.1」〜「0.0」までの間を「0.01」間隔で区切って設定された各帯域を示し、縦軸に、各帯域における補正後の反射率SRλが悪化したN数を示している。
【0059】
ステップS343では、コンピューター10は、N数が最も多い帯域をもとに閾値S2を設定する。図13では、反射率「0.02〜0.01」の帯域において最もN数が多くなる。即ち、帯域「0.02〜0.01」において、補正後の反射率SRλが悪化する数が著しく増加し始めているため、閾値S2を「0.02」に設定する。なお、閾値S2の取得方法としては、これ以外にも各帯域におけるN数の和をもとに判断を行うものであってもよい。
【0060】
図10のステップS35に戻り、コンピューター10は、ステップS34で設定した閾値S2以下の反射率を備える波長λに対しては補正を行うことなく、分光強度分布を補正する。そのため、図12Bに示すように、反射率SRλ=0.02以上となる波長510nm以下の波長域において、補正値テーブルTaに記録された補正値を用いて補正後の各波長λの反射率SRλが算出され、反射率SRλが「0.02」以下となる波長510nm以上の波長域において、補正前の各波長λの反射率MRλが適用される。
【0061】
そして、ステップS36において、再度の補正にて取得された分光強度分布をもとに、コンピューター10は測色値を算出する。なお、測色値の取得方法としては、上記した式(3)を用いればよい。
【0062】
以上説明したように、この第2の実施形態においては、測色値の悪化に影響を与える要因を、補正による低反射領域での反射率の悪化と見なし、この低反射領域において分光強度分布がターゲットとなる測色機Tの分光強度分布に近づくよう補正の適用の有無を変化させる。そのため、本実施形態に係る補正後の分光強度分布において、ターゲットとなる測色機Tとの測色誤差をより低減させることが可能となる。
【0063】
3.第3の実施形態:
上記のように、低反射領域では、補正による反射率の悪化が測色誤差に大きな影響を与えるため、補正値の算出過程において、低反射領域を備える波長の影響度合いを、他のものに比べてより重視して補正値を算出するものであってもよい。即ち、第3の実施形態において算出される補正値は、低反射領域でのターゲット値との差を低減させることを優先したものとなる。
【0064】
図14は、第3の実施形態に係る補正値算出方法を説明するフローチャートである。図14に示す処理では、第1の実施形態に係る処理に対して、差分ΔEλに反射率SRλの逆数に応じた値を付与する構成において異なる。ここで、反射率SRλが小さいほどその逆数(1/SRλ)は大きな値となるため、補正値の更新過程において、反射率MRλが小さなパッチ(i)の影響度合いを反射率MRλが大きなパッチ(i)の影響度合いに比べて強くすることができる。以下、図14に示す処理を説明する。
【0065】
利用者がコンピューター10の操作部13を操作して、図示しないUI画面において、測色機1に対する補正値取得処理に係る入力を行うと、コンピューター10は、ステップS110において、この入力を受付ける。無論、この実施形態においても、用紙毎に補正値を取得するものであってもよい。
【0066】
ステップステップS120では、コンピューター10はプリンター20に測色用チャートを形成させる。そして、利用者が測色用チャートが記録された用紙を測色機1にセットすると、ステップS130では、コンピューター10は、測色機1に測色用チャートを測色させる。
【0067】
ステップS140では、コンピューター10は、ステップS130で取得した波長毎の反射率、及び補正値をもとに、上記式(1)を用いて補正後の強度を算出する。
【0068】
ステップS150では、コンピューター10は、ターゲット値TRiλを取得する。第1の実施形態同様、ターゲット値TRiλは、基準となる測色機Tにて測色用チャートの各パッチ(i)を測色した際のある波長λでの反射率を示す。
【0069】
ステップS160では、コンピューター10は、ステップS130で取得された補正後の反射率SRiλと、ステップS140で取得されたターゲット値TRiλとの差分の2乗和を全てのパッチ(本実施形態では704パッチ)で算出し、算出された値の総和(ΔEλ)を求める。このとき、コンピューター10は補正後の反射率SRλとターゲット値TRλとの差分に反射率SRλの逆数を付与する。そのため、本実施形態では、ΔEλは下記に示す式(6)にて算出される。
【数6】
【0070】
式(6)では、ΔEλを算出するために、SRiλとTRiλとの差分に、反射率SRiλの逆数(1/SRiλ)が付与され、これをすべてのパッチ(i)で総和している。そのため、例えば、所定のパッチ(i)が図12に示す分光強度分布を有する場合、510nm以上の波長域において、反射率MRλが小さくなるため、λ=510nm以上の波長において重み(1/SRλ)が大きくなり、このパッチ(i)(波長)の影響度合いが強くなる。そのため、ステップS160の処理により、本発明の差分算出工程、差分算出手段が実現される。
【0071】
ステップS170に進み、コンピューター10は、ΔEλが閾値S1と比べて小さくなるまで補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)を更新する(ステップS180)。そして、コンピューター10は、ΔEλが閾値S1と比べて小さくなったときの補正値を補正値テーブルTbに記録する(ステップS190)。
【0072】
上記のように、ステップS190において取得される補正値では、ΔEλを算出するに際し、色差に影響を与える波長λに対して、反射率SRλの逆数数が付与されるため、低反射領域ほど分光強度分布を修正する際の影響度合いを高めることが可能となる。
【0073】
以上説明したように、この第3の実施形態では、第2の実施形態同様、測色値の悪化に影響を与える要因を、補正による低反射領域での反射率の悪化と見なし、この低反射領域において分光強度分布がターゲット値TRλに優先して近づくような補正値を算出する。そのため、本実施形態に係る補正後の分光強度分布において、ターゲットとなる測色機Tとの測色誤差をより低減させることが可能となる。
【0074】
4.その他の実施形態:
本発明は、様々な実施形態が存在する。
補正値テーブルTaをコンピューター10が記録する構成は一例であり、測色機1側で補正値テーブルTaを記録するものであってもよい。この場合、測色機1からコンピューター10へは、補正後の分光強度分布が出力されることとなる。
また、実施形態として記載した各値は一例であり、これに限定されるものではない。
【0075】
なお、本発明は上記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。即ち、上記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること、上記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって上記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること、上記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が上記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること、は本発明の一実施例として開示されるものである。
【符号の説明】
【0076】
1…測色機、2…光源、3…測色ユニット、10…コンピューター、11…制御部、12…記録部、13…操作入力部、20…プリンター、100…測色機補正システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、測色機が測定した測色値を補正するための補正値を取得する補正値取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリンターの印刷結果を校正するためキャリブレーション等が行われている。このキャリブレーションでは、対象プリンターが印刷したチャートを測色機で測色させ、測色結果をもとにパラメータ等の補正を行う。そのため、測色機自体の測定精度を高く維持する必要があり、定期的に測色機の校正を行う必要があった。例えば、1年ごとに測色機の製造元に対象機体を返却し、製造元で測色値がターゲット値に近づくよう校正を行っていた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−278054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来の測色機では、測色値の管理は製造元に委託しており、利用者が関与するものではなかった。そのため、測色機の使用過程において光源ランプの消耗といった要因で測色精度が劣化した場合、利用者側で測色機の測色値を修正することはできなかった。同様に、利用者が複数の測色機を使用する場合に、利用者が、各測色機における測色値がターゲット値に合っていなくとも、測色機間で測色値が均一であればよいと考える場合でも、従来では、測色機を製造元等に返却して校正を行うしかなかった。
【0005】
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、測色機における測色値の管理を利用者の手元において行うことが可能な補正値取得方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、測色機が測定して得た分光強度分布をターゲットとなる分光強度分布に近づけるための補正値を取得する補正取得方法であって、測色機に、異なる色を備える複数のパッチにより構成されたチャートを測色させて、各パッチに応じた分光強度分布を各波長の強度毎に取得する取得工程と、取得された前記各波長の強度に補正値を付与したものの波長毎の和を、所定波長における補正後の強度として算出する算出工程と、前記算出された補正後の強度と、ターゲットとなる強度との差分が所定の閾値以下となるよう前記補正値を更新し、更新された補正値を取得する補正値取得工程と、を有する構成としてある。
【0007】
本発明の具体的な構成等は明細書中にて開示する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】測色機補正システム100の構成を説明するためのブロック構成図である。
【図2】測色機補正システム100における補正値取得方法を説明するフローチャートである。
【図3】一例としてのプリンター20が形成する測色用チャートを示す。
【図4】所定パッチ(i)を測色して取得された分光強度分布を示す。
【図5】ΔEλを説明するための図である。
【図6】コンピューター10に記録される補正値テーブルTbを示す図である。
【図7】測色機1及びコンピューター10にて実行される測色処理を説明するフローチャートである。
【図8】補正値算出方法の違いによる補正効果の確認を示す図である。
【図9】色差が悪化したパッチ(i=242)の測色値における補正前の分光強度分布と補正後の分光強度分布との関係を示す図である。
【図10】第2の実施形態に係る測色処理を説明するフローチャートである。
【図11】ステップS34において実行される処理を詳細に説明するフローチャートである。
【図12】測色機1にて取得された補正前の分光強度分布、及び補正後の分光強度分布を示すグラフである。
【図13】一例としての各帯域におけるn数の数を示すグラフ図である。
【図14】第3の実施形態に係る補正値算出方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
1.第1の実施形態:
1.1.測色機補正システムの構成:
1.2.補正値取得方法:
1.3.測色機の補正方法:
1.4.実施例:
1.5.変形例1:
1.6.変形例2:
2.第2の実施形態:
3.第3の実施形態:
4.その他の実施形態:
【0010】
1.第1の実施形態:
1.1.測色機補正システムの構成:
以下、図を参照して、この発明に係る測色機補正システムを具体化した第1の実施の形態について説明する。図1は、測色機補正システム100の構成を説明するためのブロック構成図である。
【0011】
第1の実施形態に係る測色機補正システム100は、測色機1と、コンピューター10と、プリンター20と、を備えて構成されている。測色機補正システム100では、コンピューター10の制御のもと、プリンター20に測色用チャートを印刷させ、印刷された測色用チャートを測色機1にて測色させる。そして、コンピューター10は、測色機1による測色結果をターゲット値に基づいて補正し、補正値を算出する。
【0012】
本実施形態に係る測色機1は、所定波長域において分光強度分布を測定することが可能な分光反射率測定機である。即ち、測色機1は、光源2と、測色用チャートからの分光強度分布(分光反射率とも記載する。)を波長毎に取得する測色ユニット3と、を備えて構成される。具体的には、測色ユニット3は、測色対象物から反射される光を受光する受光部と、受光部が受光した光を導く光学系、及び、導かれた光の強度を検出するセンサー部を備えて構成されている。また、センサー部は、可視光域(380nm〜730nm)を含む波長域の強度(反射率とも記載する。)を10nm毎に測定可能なよう構成されている。
【0013】
コンピューター10は、主たる制御を行う制御部11や、この制御部11が実行するプログラムやデータ等が記録された記録部12を備えて構成されている。制御部11は、CPUやRAMを備えて構成され、キーボード等の操作入力部13から入力される入力に応じてコンピューター10における所定の処理を実行する。また、制御部11は、入出力IF14を介して測色機1や、プリンター20と接続可能である。
【0014】
記録部12には、コンピューター10における各種処理を実行するための各種プログラムが記録されている。そのため、制御部11がこのプログラムを実行することで、測色機1にから供給された分光強度分布を測色値(例えば、L*a*b*値)に変換したり、測色機1の測色誤差を補正する際用いられる補正値の作成等を行う測色機制御装置として機能する。また、コンピューター10は、プリンター20に印刷動作を実行させる。更に、記録部12には、プリンター20が作成する測色用チャートの元となる測色用データや、制御部11による測色値の算出の際に用いられる補正値が記録された補正値テーブルTaが記録されている。
【0015】
プリンター20は、図示しない記録ヘッド、及びこの記録ヘッドを動作させる制御部を備えて構成される。本実施形態に係るプリンター20は、インクジェット方式のシリアルプリンターであり、コンピューター10からの命令に従い、記録ヘッドを主走査方向に移動させながら印刷動作を行う。記録ヘッドは、インクカートリッジに充填されたC(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の各インクを噴射することで、用紙(メディア)に対して記録を行う。
【0016】
1.2.補正値取得方法:
図2は、測色機補正システム100における補正値取得方法を説明するフローチャートである。
【0017】
利用者がコンピューター10の操作入力部13を操作して、図示しないUI画面において、測色機1に対して入力を行うと、コンピューター10は、ステップS11において、この入力を受付ける。また上記入力にて、補正値が作成される用紙の種別が選択される。例えば、このUI画面上において選択可能な用紙の一例として、「普通紙」、「厚紙(マット紙)」、「コート紙(光沢紙)」、「特殊紙」がある。これら用紙の種別は、測色機1で分光強度分布が取得された際に、分光強度分布に対して用紙が与える影響に応じて設定される。例えば、「コート紙」は「厚紙」に比べて画像が形成されない紙白部分の反射率が高くなるため、取得される分光強度分布に与える影響度合いが変化するからである。以下、この実施形態においては、利用者が用紙として「コート紙」を選択した場合を例に説明を行う。
【0018】
ステップS12では、コンピューター10はプリンター20に測色用チャートを形成させる。図3は、一例としてのプリンター20が形成する測色用チャートを示す。測色用チャートは、複数のパッチ(i)で構成され、測色機1が各パッチ(i)を測色することでこのパッチ(i)に応じた分光強度分布を得ることができる。本実施形態では、測色用チャートは、C(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)の各色を所定階調値毎に変化させたパッチ、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各パッチ、更にはK(ブラック)のパッチの計704個(即ちi=704)のパッチで構成されている。なお、iは、パッチの識別子を示す。
【0019】
利用者が測色用チャートが記録された用紙を測色機1にセットすると、ステップS13では、コンピューター10は、測色機1に測色用チャートを測色させて、この測色用チャートを測色して得られる分光強度分布を取得する。そのため、測色機1は測色ユニット3を移動させて、704個のパッチに対してそれぞれの分光強度分布を取得する。本実施形態では、704個のパッチに対して36波長分の反射率(即ち、25344個)が取得される。以上、ステップS12及びステップS13の処理により、本発明に係る取得工程及び取得手段を実現する。
【0020】
図4は、所定パッチ(i)を測色して取得された分光強度分布を示す。本実施形態では、測色機1は反射率を380nmから730nmまでの間で、10nm刻みに36波長分測色する(図で「○」で示す点。なお、図では、便宜上36個の内の一部を示す。)。本実施形態では、このように取得された分光強度分布が、すべてのパッチ(704パッチ)において取得される。
【0021】
ステップS14では、コンピューター10は、ステップS13で取得した波長毎の反射率、及び補正値テーブルTaに記録された補正値をもとに、下記式(1)を用いて補正後の反射率を算出する。
【数1】
【0022】
ここで、MRλ’は、測色機1で取得されたある波長λ’の反射率を示す。また、SRλは、波長λにおける補正後の反射率を示す。なお、波長λを「λ’」として記載するときは、測色機1が取得した補正前の分光反射率MRλに対応する波長と、補正後の分光反射率SRλに対応する波長とを区別するときに使用する。そして、aλ、bλλ’、cλλ’は、ある波長λにおける補正後の反射率SRλを取得するために上記式(1)を構成する反射率MRλ’に付与される補正値を示す。なお、式(1)では、便宜上、2次までしか項を記載していないが、加えられる項が多くなるほど補正値は増加していく。
【0023】
式(1)では、あるパッチ(i)における波長λでの補正後の反射率SRiλを算出するために、パッチ(i)を測色することで得られた反射率MRiλ’に補正値bλλ’が付与された値の総和と、この反射率MRiλ’のべき乗値に補正値cλλ’が付与された値の総和をもとに補正後の反射率が算出される。また、式(1)では、補正値としてaλが設定されている。なお、「MRiλ」、「SRiλ」と「i」を付して記載するときは、あるパッチ(i)を測色して得た波長λにおける反射率を示す。
【0024】
本実施形態では、例えば、あるパッチ(例えば、i=1)に係る補正後の反射率SR1,390(λ=390)を取得するために、パッチ(1)を測定して得られた36波長分の反射率MR1λ’に対して、各波長λ’に対応する36個の補正値b390λ’が付与され、反射率MR1,λ’を2乗した36波長分の反射率MR1,390^2に対して、各波長λ’に対応する36個の補正値c390λ’が付与される。そのため、式(1)をもとに補正後の反射率SRλをn次の項の総和により求める場合、本実施形態ではある波長λの補正後の反射率SRλは、下記式(2)により算出される。
【数2】
【0025】
また、上記式(1)においては、補正後のある波長λの反射率SRλを、各反射率MRλ’の影響度合い(即ち、補正値bλλ’又はcλλ’)に応じて総和して算出するが、影響度合いが低い反射率MRλ’においては、結果として補正値は0を含む限りなく小さな値となることが予測されるため、予め式(1)から除外するものであってもよい。上記構成とすることで、後述する補正値の更新処理において、コンピューター10の処理負荷を軽減することが可能となる。以上ステップS14の処理により本発明に係る算出工程及び算出手段を実現する。
【0026】
ステップS15では、コンピューター10は、ターゲット値TRλを取得する。ターゲット値TRλは、基準となる測色機(以下、測色機Tとして識別する。)で測色用チャートの各パッチ(i)を測色した際のある波長λでの反射率を示す。本実施形態では、用紙からの反射成分の影響を低減させるため、測色機1と測色機Tとは、同一の用紙に形成された測色用チャートを測色する必要がある。そのため、本実施形態では、用紙として「コート紙」を用いる必要がある。なお、基準となる測色機T及び使用する用紙が予め決められている場合は、コンピューター10にて予め測定された値を保持しておくものであってもよい。無論、基準となる測色機Tでその場で測色した値を用いるものであってもよい。
【0027】
ステップS16では、コンピューター10は、ステップS13で取得された補正後の反射率SRiλと、ステップS14で取得されたターゲット値TRiλとの差分の2乗和を全てのパッチ(本実施形態では704パッチ)で算出し、算出された値の総和(ΔEλ)を求める。そのため、ΔEλは下記に示す式(3)にて求めることができる。このΔEλは、測色機1が取得可能な反射率に対応する全ての波長λ(本実施形態では36波長)において算出される。
【数3】
【0028】
図5は、ΔEλを説明するための図である。図5では、横軸をパッチ(i)とし、縦軸を反射率としたときの、各パッチ(i=1〜n)での、ターゲット値TRiλと、補正後の反射率SRiλとを示す。なお、図5では、補正後の反射率SRλを「○」で示し、ターゲット値TRλを「□」で示す。式(2)から解るように、ΔEλは波長λにおけるターゲット値TRλと、補正後の反射率SRλとの差の各パッチ(本実施形態では704パッチ)の総和を示す。そのため、ΔEλが最も小さくなるということは、複数パッチ(i)に係るターゲット値MRiλと補正後の反射率SRiλとの差が小さくなることを意味し、両者は最も近いものと見なすことができる。ここで、式(1)に示すように、補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)を変化させることで、反射率SRλを変化させることができるため、ΔEλが最も小さくなるときの補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)が、最適な補正値であると考えることができる。
【0029】
そのため、ステップS17に進み、ΔEλが閾値S1と比べて大きい場合(ステップS17:NO)、コンピューター10は、ΔEλが閾値S1と比べて小さくなるまで補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)を更新する(ステップS18)。ここで、閾値S1は、実験的に求められる値である。また、ステップS18における補正値の更新手法としては、最小二乗法(Least Squares Method)や、準ニュートン法等の方法を採用することができる。
【0030】
以下、ステップS17、S18のループを繰り返し、ΔEλが閾値S1と比較して小さくなると(ステップS17:YES)、コンピューター10は、このときの補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)を補正値テーブルTbに記録する(ステップS19)。
【0031】
図6は、コンピューター10に記録される補正値テーブルTbを示す図である。図6に示す補正値テーブルTbでは、用紙の種別(普通紙、厚紙、コート紙、特別紙)に応じて、補正値が記録される。各補正値は、波長(380nm〜730nm間を10nmに刻む36波長)毎に、同補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)が記録される。そのため、測色機1にて測色が行われる場合は、この補正値テーブルTbを参照して反射率MRλの補正が行われ、コンピューター10は補正後の反射率SRλから測色値を取得する。以上、ステップS15〜S19の処理により本発明に係る補正値取得工程及び補正値取得手段を実現する。
【0032】
1.3.測色機の補正方法:
以下に、一例として、コンピューター10にて取得された測色値を用いた測色値の補正方法を説明する。図7は、測色機1及びコンピューター10にて実行される測色処理を説明するフローチャートである。なお、図7に示す処理は、図6に示す補正値テーブルTaが作成された後に実行される処理である。なお、図7に示す処理により、本発明に係る補正実行工程、及び補正実行手段を実現する。
【0033】
ステップS21では、利用者からの測色対象物の用紙の種別の入力、及び測色値の種別を受付ける。即ち、このステップにおいて、補正値を適応させるための用紙の種別が選択される。また、測色値の種別としては、L*a*b*値や、XYZ値である。以下、用紙として「コート紙」を選択し、測色値として「L*a*b*値」を選択した場合を例に説明を行う。
【0034】
ステップS22では、測色対象物の分光強度分布が取得される。即ち、コンピューター10は、測色機1に測色対象物を測色させて、波長λ毎の反射率MRλで構成される分光分布を取得する。
【0035】
ステップS23では、補正後の反射率SRλが算出される。このとき、コンピューター10は、ステップS21で選択された用紙の種別をもとに、補正値テーブルTbから補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)を選択する。本実施形態では、用紙として「コート紙」が選択されているため、補正値テーブルTbにおいて「コート紙」に対応した補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)が補正値として適用される。そのため、測色された反射率MRλ’及び補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)をもとに、各波長λに対応した補正後の反射率SRλが算出され、分光強度分布の修正が行われる。なお、補正値の適用手法としては、上記式(1)を用いることで実施される。
【0036】
ステップS24では、補正後の反射率SRλをもとに、測色値が算出される。ステップS21において測色値として「L*a*b*値」が選択された場合、下記式(4)をもとに、測色値が算出される。
【数4】
【0037】
そして、ステップS25において、コンピューター10は離散的に取得した測色値(L*a*b*値)を補間して、連続的な測色値を取得する。なお、こうして算出された測色値は、例えば、図示しないUI画面を通して表示される。
【0038】
1.4.実施例:
以下、本実施形態に係る補正値取得方法に係る効果を説明する。図8は、補正値算出方法の違いによる補正効果の確認を示す図である。なお、図8では、式(1)に示す、補正後の反射率の算出手法において、足し合わされるべき乗の値(MRλn)を変化させた場合の、平均色差(L*a*b*値)と、最大色差の関係を示す図である。即ち、べき乗の和を、「補正前」、「1次のみ」、「1次+2次」、「1次+3次」、「1次+4次」、「1次+5次」、「1次+6次」、「1次+8次」、「1次+10次」、「1次+2次+3次」、の計9つの場合に分けて平均色差、及び最大色差を計測した。
【0039】
また、本実施例では、測色機としてX−rite社製の「i1isis」を2機使用し、一方をターゲット値TRλを取得する測色機Tとし、他方を本補正値取得方法で取得された補正値を適用した測色機1として使用した。そして、補正値を取得するため704パッチの測色用チャートを使用し、補正の効果を検出するためにこの測色用チャートと異なる色のパッチを含む354パッチの測色用チャートを用いて測色を行った。さらに、色差の平均値は、補正前及び補正後とも、1回の測色結果をもとに取得した。なお、最大色差はこの1回の測色値における最大の差を示す。
【0040】
図8に示すように、補正前の平均色差及び最大色差が「4.48」、「4.58」であるのに対して、補正後の平均色差及び最大色差の最大値は、それぞれ「1.79」(1次+2次)、「0.30」(1次のみ)であった。そのため、本補正値取得方法で取得した補正値を用いて補正を行うことで、平均色差及び最大色差において色差の減少がみられる。ここで、1次のみで補正後の反射率を算出するのに比べて、2次以上のべき乗を加えて補正後の反射率を算出するほうが、若干ではあるが平均色差の減少が見られる。また、2次以降の項を加えて補正後の反射率を算出した場合、平均色差及び最大色差ともに大きな変化がみられなかった。
【0041】
以上の説明から、本補正値取得方法にて取得された補正値を用いることで、測色機1における測色誤差が大幅に低減する。また、上記式(1)において使用するべき乗の和は、1次よりも2次以上を用いることが相応しい。また、2次以上では、効果が劇的に変化しないため、補正値を更新する際の処理負荷を考慮すれば、べき乗和を、「1次+2次」とすることが望ましい。
【0042】
1.5.変形例1:
本補正値取得方法で取得される補正値は、ある用紙に対して固有の補正値を取得するだけに限定されず、複数の用紙に共通の補正値を取得するものであってもよい。この場合、ΔEλは、下記式(5)のように修正され、ΔEが最小となる補正値を取得すればよい。なお、各項に付された添え字j(j=1、2、3、…)は用紙の種別を示す識別子である。
【数5】
【0043】
例えば、利用者が使用する用紙として「普通紙」(j=1とする)、「厚紙」(j=2とする)を選択した場合、図2に示すフローチャートのステップS12において、それぞれの用紙をもとに測色用チャートが形成され、各測色用チャートを測色した値から、差分ΔEλ1及びΔEλ2が算出される。そして、図2のステップS16において、式(4)に示す用紙毎の差分ΔE1、ΔE2を総和したΣΔEjが閾値S1と比較して小さくなるまで、補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)が更新される。こうして取得された補正値は、「普通紙」と「厚紙」に対して共通の補正値として用いることが可能となる。
【0044】
1.6.変形例2:
補正対象となる波長が可視光領域(例えば、380nmから730nm)における低波長域又は高波長域である場合に、上記式(1)により使用される波長MRλとして、この可視光領域以外の波長λの反射率を含めるものであってもよい。上記式(1)に示す補正後の反射率SRλの算出方法は、各反射率MRλ’の寄与を補正値(bλλ’、cλλ’)により重み付けして足し合わせることにより、反射率SRλを算出する。そのため、可視光領域における高波長域又低波長域では、この波長の前後(即ち、可視光領域以外の波長)の影響を強く受けるとも考えられる。そのため、可視光領域における低波長域又は高波長域においては、可視光領域以外の波長MRλ’を使用して補正後の反射率SRλを算出するものであってもよい。
【0045】
例えば、補正後の反射率SR380を算出する場合、測色機1による測色により、λ=360nm、370nmに係る反射率MR360、MR370が取得される。そして、コンピューター10は、反射率MR360、MR370を使用して、上記式(1)から補正後の反射率SR380を算出する。無論、この場合、使用する測色機1は、可視光以外の波長域においても反射率を測色可能である必要がある。
【0046】
2.第2の実施形態:
上記説明したように、本実施形態に係る補正を用いることで測色機における測色値は補正前のものに比べて大幅に改善することがわかる。しかしながら、本補正値取得方法を用いて取得された補正値を用いた場合でも、任意の測色値において、補正後の色差が補正前の色差に比べて悪くなるものが存在する。例えば、本補正値取得方法により取得した補正値を用いて実施例1同様、704パッチの測色値を計測したところ、パッチ(i=242)において、補正後の測色値における測色機Tとの色差(L*a*b*値)が補正前の測色値における色差に比べて悪化した。
【0047】
図9は、色差が悪化したパッチ(i=242)の測色値における補正前の分光強度分布と補正後の分光強度分布との関係を示す図である。図9に示すように、色差が悪化したパッチ(i=242)を測色した分光強度分布において、低反射領域(図9では、縦軸においてSRλ=0.02以下となる領域)において、補正後の反射率SRλとターゲット値TRλとの差が補正前の反射率MRλとターゲット値TRλとの差に比べて大きくなっている(以下、このような状態を簡易的に「補正後の反射率が悪化している」とも記載する。)。
【0048】
補正後の反射率が低反射領域において悪化することで、測色値の誤差に大きな影響を与える要因として、第1に、低反射領域はそもそもその値が小さい領域であるため、同じ反射率の差であっても分光強度分布の違いとして与える影響が大きくなることが考えられる。例えば、反射率「0.9」と反射率「0.1」とでターゲッ値TRλとの差が「0.03」である場合、元の反射率に対してこの差の割合は「1.033」(0.93/0.9)と、「1.300」(0.13/0.1)といったように、反射率「0.1」の方が大きくなる。また、第2に、低反射領域は値が小さいため誤差が発生し易いこと等の理由があると考えられる。
【0049】
そのため、第2の実施形態では、補正後の反射率SRλとターゲット値TRλとの差が、補正前に比べて悪化している低反射領域においては、第1の実施形態に係る補正を適用しないこととし、測色値の改善を図っている。
【0050】
図10は、第2の実施形態に係る測色処理を説明するフローチャートである。なお、図10に示すフローチャートは、ターゲット値TRλを出力する測色機(測色機Tとして識別する。)と補正対象となる測色機(測色機1として識別する。)の2機体をもちいて実施される。即ち、第1の実施形態同様、ターゲット値TRλは基準となる測色機Tで取得された値となる。
【0051】
ステップS31では、コンピューター10は、測色機1に測色用チャートを測色させる。そのため、コンピューター10には測色機1で測色された各パッチ(i)の分光強度分布が波長λ(本実施形態では36波長)毎に取得される。
【0052】
ステップS32では、コンピューター10は、測色機1から取得した分光強度分布に対して補正を行う。そのため、コンピューター10は記録部12に記録された補正値テーブルTaに記録された補正値、及び各波長λの反射率MRλをもとに、各波長λの補正後の反射率SRλを算出する。なお、分光強度分布の補正手法は、第1の実施形態にて示したものである。
【0053】
ステップS33では、コンピューター10は、補正により悪化した反射率SRλを探索する。即ち、補正後の反射率SRλとターゲット値TRλとの差と、補正前の反射率MRλとターゲット値TRλの差分を算出し、補正後の反射率SRλとターゲット値TRλの差が補正前の反射率MRλとターゲット値TRλの差と比べて大きくなっている波長λを探索する。本実施形態では、ある波長λに対して704パッチ分の反射率が取得されるため、反射率SRλにつき704個のサンプル数から補正により悪化した反射率を探索する。
【0054】
ステップS34では、コンピューター10は、補正を行わない反射率の境界点を設定するための閾値S2を算出する。ここで、閾値S2の設定は、補正が適用される測色機毎に個別に設定されるものであり、又、各測色機において使用する用紙毎に設定するものであってもよい。
【0055】
図11は、ステップS34において実行される処理を詳細に説明するフローチャートである。また、図12は、測色機1にて取得された補正前の分光強度分布、及び補正後の分光強度分布を示すグラフである。
【0056】
ステップS341では、コンピューター10は、閾値S2を探索するための上限となる反射率を設定する。本実施形態では、低反射領域において補正を行わないようにするため、例えば、図12Aにおいて、反射率「0.1」を閾値を探索する上限となる反射率とする。無論、上限となる反射率を「0.1」とすることは一例である。
【0057】
ステップS342では、コンピューター10は、反射率の下限(本実施形態では、SRλ=0.0)から上限として設定した反射率までの間隔を複数帯域で区切り、各帯域において補正後の反射率SRλの悪化が見られるN数を取得する。即ち、コンピューター10は、ステップS33で探索した補正により悪化した反射率SRλを、同反射率SRλが属する帯域毎に区分けして、各帯域のN数を取得する。
【0058】
図13は、一例としての各帯域におけるn数の数を示すグラフ図である。図13に示すグラフでは、横軸に反射率「0.1」〜「0.0」までの間を「0.01」間隔で区切って設定された各帯域を示し、縦軸に、各帯域における補正後の反射率SRλが悪化したN数を示している。
【0059】
ステップS343では、コンピューター10は、N数が最も多い帯域をもとに閾値S2を設定する。図13では、反射率「0.02〜0.01」の帯域において最もN数が多くなる。即ち、帯域「0.02〜0.01」において、補正後の反射率SRλが悪化する数が著しく増加し始めているため、閾値S2を「0.02」に設定する。なお、閾値S2の取得方法としては、これ以外にも各帯域におけるN数の和をもとに判断を行うものであってもよい。
【0060】
図10のステップS35に戻り、コンピューター10は、ステップS34で設定した閾値S2以下の反射率を備える波長λに対しては補正を行うことなく、分光強度分布を補正する。そのため、図12Bに示すように、反射率SRλ=0.02以上となる波長510nm以下の波長域において、補正値テーブルTaに記録された補正値を用いて補正後の各波長λの反射率SRλが算出され、反射率SRλが「0.02」以下となる波長510nm以上の波長域において、補正前の各波長λの反射率MRλが適用される。
【0061】
そして、ステップS36において、再度の補正にて取得された分光強度分布をもとに、コンピューター10は測色値を算出する。なお、測色値の取得方法としては、上記した式(3)を用いればよい。
【0062】
以上説明したように、この第2の実施形態においては、測色値の悪化に影響を与える要因を、補正による低反射領域での反射率の悪化と見なし、この低反射領域において分光強度分布がターゲットとなる測色機Tの分光強度分布に近づくよう補正の適用の有無を変化させる。そのため、本実施形態に係る補正後の分光強度分布において、ターゲットとなる測色機Tとの測色誤差をより低減させることが可能となる。
【0063】
3.第3の実施形態:
上記のように、低反射領域では、補正による反射率の悪化が測色誤差に大きな影響を与えるため、補正値の算出過程において、低反射領域を備える波長の影響度合いを、他のものに比べてより重視して補正値を算出するものであってもよい。即ち、第3の実施形態において算出される補正値は、低反射領域でのターゲット値との差を低減させることを優先したものとなる。
【0064】
図14は、第3の実施形態に係る補正値算出方法を説明するフローチャートである。図14に示す処理では、第1の実施形態に係る処理に対して、差分ΔEλに反射率SRλの逆数に応じた値を付与する構成において異なる。ここで、反射率SRλが小さいほどその逆数(1/SRλ)は大きな値となるため、補正値の更新過程において、反射率MRλが小さなパッチ(i)の影響度合いを反射率MRλが大きなパッチ(i)の影響度合いに比べて強くすることができる。以下、図14に示す処理を説明する。
【0065】
利用者がコンピューター10の操作部13を操作して、図示しないUI画面において、測色機1に対する補正値取得処理に係る入力を行うと、コンピューター10は、ステップS110において、この入力を受付ける。無論、この実施形態においても、用紙毎に補正値を取得するものであってもよい。
【0066】
ステップステップS120では、コンピューター10はプリンター20に測色用チャートを形成させる。そして、利用者が測色用チャートが記録された用紙を測色機1にセットすると、ステップS130では、コンピューター10は、測色機1に測色用チャートを測色させる。
【0067】
ステップS140では、コンピューター10は、ステップS130で取得した波長毎の反射率、及び補正値をもとに、上記式(1)を用いて補正後の強度を算出する。
【0068】
ステップS150では、コンピューター10は、ターゲット値TRiλを取得する。第1の実施形態同様、ターゲット値TRiλは、基準となる測色機Tにて測色用チャートの各パッチ(i)を測色した際のある波長λでの反射率を示す。
【0069】
ステップS160では、コンピューター10は、ステップS130で取得された補正後の反射率SRiλと、ステップS140で取得されたターゲット値TRiλとの差分の2乗和を全てのパッチ(本実施形態では704パッチ)で算出し、算出された値の総和(ΔEλ)を求める。このとき、コンピューター10は補正後の反射率SRλとターゲット値TRλとの差分に反射率SRλの逆数を付与する。そのため、本実施形態では、ΔEλは下記に示す式(6)にて算出される。
【数6】
【0070】
式(6)では、ΔEλを算出するために、SRiλとTRiλとの差分に、反射率SRiλの逆数(1/SRiλ)が付与され、これをすべてのパッチ(i)で総和している。そのため、例えば、所定のパッチ(i)が図12に示す分光強度分布を有する場合、510nm以上の波長域において、反射率MRλが小さくなるため、λ=510nm以上の波長において重み(1/SRλ)が大きくなり、このパッチ(i)(波長)の影響度合いが強くなる。そのため、ステップS160の処理により、本発明の差分算出工程、差分算出手段が実現される。
【0071】
ステップS170に進み、コンピューター10は、ΔEλが閾値S1と比べて小さくなるまで補正値(aλ、bλλ’、cλλ’)を更新する(ステップS180)。そして、コンピューター10は、ΔEλが閾値S1と比べて小さくなったときの補正値を補正値テーブルTbに記録する(ステップS190)。
【0072】
上記のように、ステップS190において取得される補正値では、ΔEλを算出するに際し、色差に影響を与える波長λに対して、反射率SRλの逆数数が付与されるため、低反射領域ほど分光強度分布を修正する際の影響度合いを高めることが可能となる。
【0073】
以上説明したように、この第3の実施形態では、第2の実施形態同様、測色値の悪化に影響を与える要因を、補正による低反射領域での反射率の悪化と見なし、この低反射領域において分光強度分布がターゲット値TRλに優先して近づくような補正値を算出する。そのため、本実施形態に係る補正後の分光強度分布において、ターゲットとなる測色機Tとの測色誤差をより低減させることが可能となる。
【0074】
4.その他の実施形態:
本発明は、様々な実施形態が存在する。
補正値テーブルTaをコンピューター10が記録する構成は一例であり、測色機1側で補正値テーブルTaを記録するものであってもよい。この場合、測色機1からコンピューター10へは、補正後の分光強度分布が出力されることとなる。
また、実施形態として記載した各値は一例であり、これに限定されるものではない。
【0075】
なお、本発明は上記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。即ち、上記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること、上記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって上記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること、上記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が上記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること、は本発明の一実施例として開示されるものである。
【符号の説明】
【0076】
1…測色機、2…光源、3…測色ユニット、10…コンピューター、11…制御部、12…記録部、13…操作入力部、20…プリンター、100…測色機補正システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測色機が測定して得た分光強度分布をターゲットとなる分光強度分布に近づけるための補正値を取得する補正取得方法であって、
測色機に、異なる色を備える複数のパッチにより構成されたチャートを測色させて、各パッチに応じた分光強度分布を各波長の強度毎に取得する取得工程と、
取得された前記各波長の強度に補正値を付与したものの波長毎の和を、所定波長における補正後の強度として算出する算出工程と、
前記算出された補正後の強度と、ターゲットとなる強度との差分が所定の閾値以下となるよう前記補正値を更新し、更新された補正値を取得する補正値取得工程と、を有することを特徴とする補正値取得方法。
【請求項2】
前記算出工程では、前記各波長の強度に補正値を付与した値と、各波長の強度のべき乗値に補正値を付与した値とを、波長毎に足し合わせて、所定波長における補正後の強度として算出することを特徴とする請求項1に記載の補正値取得方法。
【請求項3】
前記補正値取得工程では、メディアに応じて補正値が取得されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の補正値取得方法。
【請求項4】
前記補正値取得工程では、複数のメディアに対して同一の補正値が取得されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の補正値取得方法。
【請求項5】
前記算出工程では、算出対象となる補正後の強度が可視光領域における低波長域、又は高波長域である場合は、可視光以外の波長の強度を含めた和を用いて補正後の強度を算出することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の補正値取得方法。
【請求項6】
請求項1に記載の補正値取得方法で取得された補正値を用いて測色機が取得した分光強度分布を補正する補正実行工程を有することを特徴とする測色値補正方法。
【請求項7】
所定の分光強度分布をターゲットとなる分光強度分布に近づけるための補正値を取得する測色機制御装置であって、
分光強度分布を各波長の強度毎に取得する取得手段と、
取得された前記各波長の強度に補正値を付与したものの波長毎の和を、所定波長における補正後の強度として算出する算出手段と、
前記算出された補正後の強度と、ターゲットとなる強度との差分が所定の閾値以下となるよう前記補正値を更新し、更新された補正値を取得する補正値取得手段と、を有することを特徴とする測色機制御装置。
【請求項8】
前記取得された補正値を用いて所定の分光強度分布を補正する補正実行手段を有することを特徴とする請求項7に記載の測色機制御装置。
【請求項1】
測色機が測定して得た分光強度分布をターゲットとなる分光強度分布に近づけるための補正値を取得する補正取得方法であって、
測色機に、異なる色を備える複数のパッチにより構成されたチャートを測色させて、各パッチに応じた分光強度分布を各波長の強度毎に取得する取得工程と、
取得された前記各波長の強度に補正値を付与したものの波長毎の和を、所定波長における補正後の強度として算出する算出工程と、
前記算出された補正後の強度と、ターゲットとなる強度との差分が所定の閾値以下となるよう前記補正値を更新し、更新された補正値を取得する補正値取得工程と、を有することを特徴とする補正値取得方法。
【請求項2】
前記算出工程では、前記各波長の強度に補正値を付与した値と、各波長の強度のべき乗値に補正値を付与した値とを、波長毎に足し合わせて、所定波長における補正後の強度として算出することを特徴とする請求項1に記載の補正値取得方法。
【請求項3】
前記補正値取得工程では、メディアに応じて補正値が取得されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の補正値取得方法。
【請求項4】
前記補正値取得工程では、複数のメディアに対して同一の補正値が取得されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の補正値取得方法。
【請求項5】
前記算出工程では、算出対象となる補正後の強度が可視光領域における低波長域、又は高波長域である場合は、可視光以外の波長の強度を含めた和を用いて補正後の強度を算出することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の補正値取得方法。
【請求項6】
請求項1に記載の補正値取得方法で取得された補正値を用いて測色機が取得した分光強度分布を補正する補正実行工程を有することを特徴とする測色値補正方法。
【請求項7】
所定の分光強度分布をターゲットとなる分光強度分布に近づけるための補正値を取得する測色機制御装置であって、
分光強度分布を各波長の強度毎に取得する取得手段と、
取得された前記各波長の強度に補正値を付与したものの波長毎の和を、所定波長における補正後の強度として算出する算出手段と、
前記算出された補正後の強度と、ターゲットとなる強度との差分が所定の閾値以下となるよう前記補正値を更新し、更新された補正値を取得する補正値取得手段と、を有することを特徴とする測色機制御装置。
【請求項8】
前記取得された補正値を用いて所定の分光強度分布を補正する補正実行手段を有することを特徴とする請求項7に記載の測色機制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−217071(P2012−217071A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81670(P2011−81670)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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