説明

補綴用プラスチックの製造に適した、メチルメタクリレートを基礎とする重合可能な歯科材料

【課題】従来技術の欠点を完全にもしくは部分的に回避するか、又はその特性が改善されている、補綴用プラスチックの製造に適した、メチルメタクリレートを基礎とする重合可能な歯科材料を提供する。
【解決手段】アクリル化もしくはメタクリル化されたブタジエン−及び/又はアクリルニトリル−オリゴマー又はポリマーは、メチルメタクリレート(MMA)を基礎とする系においても、特にそれらを液状のポリマー(オリゴマー)として添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補綴用プラスチックの製造に適した、メチルメタクリレートを基礎とする重合可能な歯科材料に関する。
【背景技術】
【0002】
総補綴物、部分補綴物、口腔内で支持するための歯用ブラケットなどの製造のために、種々の材料が入手可能である:
1. 高温重合性プラスチック(1成分もしくは2成分)。これらのプラスチックは、熱により引き起こされる非常に高い容積収縮を示し、それは嵌合精度の低下をまねく。
【0003】
2. 自己重合性プラスチック(2成分)。
【0004】
3. 光重合性プラスチック(1成分もしくは2成分)。
【0005】
4. 熱可塑性プラスチック(1成分)。係る材料は、歯科技工的に比較的加工しづらい。
【0006】
5. マイクロ波硬化性プラスチック(1成分もしくは2成分)。ここでもまた、熱により引き起こされる非常に高い容積収縮により嵌合精度の低下が引き起こされる。
【0007】
1.〜5.に挙げた材料から完成された補綴物は、落下に際して又は不注意な取り扱いに際して簡単に破損しうる。従って、長い間、歯科技工用の補綴物のためのプラスチックを破損しづらく加工することに努力がなされている。その望ましくない破損傾向は、いわゆる耐衝撃性プラスチックの使用によって取り除かれる:
前記の概念"耐衝撃性"は、ISO1567(義歯床材料)においてより詳細に説明されている。それによると、補綴用プラスチックは、それがISO1567(シャルピー法に準拠)による衝撃強さにおいて2kJ/m2の値を超過する場合に、"耐衝撃性"の義歯床材料といえる。
【0008】
6. 高温重合性の耐衝撃性プラスチック(1成分もしくは2成分)。しかし、これらのプラスチックも、またしても熱により引き起こされる不所望に非常に高い容積収縮を示し、それは嵌合精度の低下をまねく。
【0009】
補綴用プラスチックは既に市場に出回っており、収縮の問題はブタジエン−スチレンゴムの添加によって解決されている(EP1702633号A2)。
【0010】
前記の技術の欠点は、こうして得られたプラスチックが常に混濁を伴うことである。ゴムの粒度を可視波長領域未満で選択してもやはり、乳白色性の印象が残る。
【0011】
Kerby他著の文献("Fracture toughness of modified dental resins"[J.of Oral Rehabilitation 30,780−4(2003)])において、メタクリレート末端を有する1,3−ブタジエン−アクリルニトリル−アクリル酸−ターポリマーを、とりわけTEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)を基礎とする歯科材料で使用することが記載されている。そのターポリマーは、商品名Hycar Reactive Liquid Polymer 1300×33として入手できる。前記文献は、光学的特性に理解を示していない。
【0012】
DE19617876号A1によれば、衝撃強さ調節剤として、ポリシロキサングラフト共重合体:(1)エラストマーのポリシロキサンからなるコアと非エラストマーのポリマーからなるシェルとを有するポリシロキサン−グラフト共重合体及び/又は(2)(メタ)アクリル基を有するポリシロキサンが使用される。
【0013】
US5,182,332号は、補綴物基礎材料への添加剤として(メタ)アクリレートでグラフトされたブタジエンゴムを使用することを記載している。それは、既に挙げられた市販の耐衝撃性の補綴用プラスチックである。しかし、そこに記載される材料では、透明な素材を実現できない。US5,182,332号では、更に有利には、固体の多層ゴムが使用されている(請求項1を参照)。
【0014】
2成分の粉末・液体−系は、一般に主としてメタクリレートからなる。メタクリレートは、粉末としても液体としても入手できる。該ポリマー粉末は、今日ではたいてい、パール重合体である。それと液状のモノマーとを質量比2.5〜3:1で混合する。膨潤時間の後に、加圧成形し、鋳込み成形し、もしくは成形することができるペーストが得られる。そのような典型的な組成物は、例えばDE737058号A及びDE3725502号A1に記載されている。
【特許文献1】EP1702633号A2
【特許文献2】DE19617876号A1
【特許文献3】US5,182,332号
【特許文献4】DE737058号A
【特許文献5】DE3725502号A1
【非特許文献1】Kerby他著,"Fracture toughness of modified dental resins"[J.of Oral Rehabilitation 30,780−4(2003)]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、前記の欠点を完全にもしくは部分的に回避するか、又はその特性が改善されている、補綴用プラスチックの製造に適した、メチルメタクリレートを基礎とする重合可能な歯科材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、アクリル化もしくはメタクリル化されたブタジエン−及び/又はアクリルニトリル−オリゴマー又はポリマーは、メチルメタクリレート(MMA)を基礎とする系においても、特にそれらを液状のポリマー(オリゴマー)として添加した場合に、好ましい特性をもたらすことが明らかになった。硬化後に、層厚3mmで70%より高い透明性を有する透明な生成物が得られる。更に、硬化後に、破壊靭性、破壊仕事量及び衝撃強さが、同時に曲げ強さ値と曲げ弾性値がそのままで、既に約1%の割合以上増加するという利点がある。
【0017】
こうして、重合された歯科材料の寿命/使用の間に破壊強さの向上がもたらされる。
【0018】
調節剤として、特に:
− メタクリル化されたブタジエンオリゴマー、
− アクリル化されたブタジエンオリゴマー、
− メタクリル化されたアクリルニトリル−ブタジエンオリゴマー、
− アクリル化されたアクリルニトリル−ブタジエンオリゴマー、
− ブタジエン及び/又はアクリルニトリルを含む他のアクリル化/メタクリル化されたオリゴマー/ポリマー
を使用することができる。
【0019】
特に好ましくは、メタクリル化されたアクリルニトリル−ブタジエンオリゴマーが使用される。
【0020】
従って、本発明は、
A)少なくとも1種の液状のメチルメタクリレート−モノマー成分と、
B)少なくとも
・ 1種のアクリル化もしくはメタクリル化されたブタジエン−オリゴマー又は−ポリマー、及び/又は
・ 1種のアクリル化もしくはメタクリル化されたアクリルニトリル−ブタジエン−オリゴマー又は−ポリマーと、場合によりポリマー粉末もしくはパール重合体を含む粉末成分とを含有する液状成分を有する重合可能な歯科材料に関する。
【0021】
該材料は、適切には、硬化後に、3mmの層厚の場合に、可視領域での透光性(透明性)>70%を有する。
【0022】
更に、更なるモノマー、充填剤、顔料、安定剤、調整剤、抗微生物性添加剤、UV吸収剤、チキソトロピー剤、触媒及び架橋剤の群からの1もしくは複数の物質が含有されていてよい。
【0023】
更なるモノマーとしては、歯科分野で慣用のモノマーが該当する:
それらの例は、ラジカル重合可能な一官能性のモノマー、例えばモノ(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレートもしくはフェニル(メタ)アクリレート、二官能性もしくは多官能性のモノマー、例えば二官能性もしくは多官能性のアクリレートもしくはメタクリレート、例えばビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、ビス−GMA(メタクリル酸とビスフェノール−A−ジグリシジル−エーテルとからなる付加生成物)、UDMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレートと2,2,4−ヘキサメチレンジイソシアネートとからなる付加生成物)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートもしくはテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、lドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキシルデカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットテトラ(メタ)アクリレート並びにブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化/プロポキシ化されたビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレートである。充填剤としては、例えば熱分解ケイ酸又は沈降ケイ酸、歯科用ガラス、例えばアルミノケイ酸塩ガラス又はフルオロアルミノケイ酸塩ガラス、ケイ酸ストロンチウム、ホウケイ酸ストロンチウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸リチウムアルミニウム、層状ケイ酸塩、ゼオライト、酸化物もしくは混合酸化物(SiO2、ZrO2及び/又はTiO2)を基礎とする非晶質の球状充填剤、一次粒度約40〜300nmを有する金属酸化物、10〜100μmの粒度を有するポリマー細片(R.Janda,Kunststoffverbundsysteme,VCH Verlagsgesellschaft,Weinheim,1990,第225頁以降を参照)又はそれらの混合物が該当する。更に、補強剤、例えばガラス繊維、ポリアミド繊維又は炭素繊維を混加することができる。
【0024】
充填剤は、一般に、補綴用プラスチック組成物全体に対してもしくは成分AとBの合計に対して、0〜80質量%まで、有利には0〜3質量%まで使用される。
【0025】
分子量の調整のための調整剤としては、例えば
TGEH:チオグリコール酸−2−エチルヘキシルエステル、
t−DDM:t−ドデシルメルカプタン、
GDMA:グリコールジメルカプトアセテート
が該当する。
【0026】
開始剤のための例は:
LPO:ジラウロイルペルオキシド、
BPO:ジベンゾイルペルオキシド、
t−BPEH:t−ブチルペル−2−エチルヘキサノエート、
ADMV:2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、
AIBN:2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、
DTBP:ジ−t−ブチルペルオキシド
である。
【0027】
好適な安定剤は、例えばヒドロキノンモノメチルエーテル又は2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)である。
【0028】
更に、本発明による補綴用基礎材料は、例えば抗微生物性添加剤、UV吸収剤、チキソトロピー剤、触媒及び架橋剤の群からの更なる慣用の添加物質を含有してよい。
【0029】
係る添加剤は、顔料、安定剤及び調整剤と同様に、むしろ少量で使用され、材料の全質量に対して全体で0.01〜3.0質量%、特に0.01〜1.0質量%の量で使用される。
【0030】
該組成物の硬化は、有利にはレドックス系により誘発されるラジカル重合によって、室温でもしくは多少高められた温度で、気泡形成を回避するために低い圧力下で行われる。室温で実施される重合用の開始剤としては、例えばレドックス開始剤組合せ、例えばベンゾイルペルオキシド又はラウリルペルオキシドとN,N−ジメチル−sym−キシリジン又はN,N−ジメチル−p−トルイジンとの組合せが使用される。特に好ましい開始剤系は、銅イオン及び塩化物イオンと化合したバルビツール酸と上述のペルオキシドとの組合せ物である。前記の系は、高い色安定性の点で優れている。
【0031】
本発明の材料は、有利には歯科分野で使用され、とりわけ補綴物の製造のために、又は歯列矯正のための顎整形外科的装置の製造のために使用される。しかしながら、更なる使用の見通しは、高い衝撃強さの成形体が個々に作製されるあらゆる分野において、例えば
− 改善された衝撃強さを有する骨セメント、
− 衝撃強さが高くなければならない獣医学用途、例えば蹄修復材料もしくは動物用の義歯、
においてもたされる。
【0032】
本発明による組成物中の成分A)の割合は、有利には20質量%より高く、好ましくは20質量%より高く、99質量%までであり、特に20質量%より高く、98質量%までであり、殊に20〜50質量%である。
【0033】
成分B)の割合は、有利には1質量%より高く、好ましくは99質量%までであり、特に2〜80質量%、殊に50〜80質量%である。
【0034】
本発明による材料は、特に歯科分野での使用のために、補綴物の製造に際して適している。更なる見通しは、破損しづらい成形体が作製されねばならないあらゆる分野において、例えば
− 改善された衝撃強さを有する骨セメント、
− 衝撃強さが高くなければならない獣医学用途、例えば蹄修復材料もしくは動物用の義歯、
− 歯列矯正のための顎整形外科的装置
にある。
【実施例】
【0035】
以下の試験表は、とりわけ弾性係数が、本発明によるコポリマーの添加に際して非常に好ましく変更されたことを示している。試験の基礎となるものは、ジベンゾイルペルオキシドで低温重合する商慣習の補綴物材料PalaXpress(それぞれメタクリレートを基礎とする粉末/液体)であり、その際、調節剤をその液体で均質化させた。
【0036】
その低温重合体(また"温熱重合体(Warmpolymerisate)")(商品名:Trigon 40、PalaXpress、Castodon it)は、特殊な触媒系を有し、該触媒はたしかに重合を引き起こすが、同時に十分に長い作業時間が保証されるほどそれを遅延させる。従ってこれらのプラスチックは、それが膨潤する前に、鋳込み成形することもでき、従って汎用的な加工幅(鋳込み成形技術、射出成形技術、総義歯学、部分義歯学)を有する。
【0037】
重合されたサンプルの調査結果は、以下のとおりである:
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合可能な歯科材料であって、該材料が、
I)以下の
A)少なくとも1種の液状のメチルメタクリレート−モノマー成分、
B)少なくとも
・ 1種のアクリル化もしくはメタクリル化されたブタジエン−オリゴマーもしくは−ポリマー、及び/又は
・ 1種のアクリル化もしくはメタクリル化されたアクリルニトリル−ブタジエン−オリゴマーもしくは−ポリマー
を含有する液状成分、
II)メタクリレートを基礎とするポリマー粉末もしくはパール重合体を含有する粉末成分
を有し、
III)硬化後に、3mmの層厚で透明性が70%より高いことを特徴とする歯科材料。
【請求項2】
請求項1記載の歯科材料であって、付加的に、更なるモノマー、充填剤、顔料、安定剤、調整剤、抗微生物性添加剤、UV吸収剤、チキソトロピー剤、触媒及び架橋剤の群からの1もしくは複数の物質を含有する歯科材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯科材料であって、成分B)の割合が1質量%より高い歯科材料。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の歯科材料であって、成分B)の割合が1質量%より高く、99質量%までである歯科材料。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の歯科材料であって、成分B)の割合が2〜80質量%である歯科材料。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の歯科材料であって、成分B)の割合が50〜80質量%である歯科材料。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の歯科材料であって、成分A)の割合が20質量%より高い歯科材料。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の歯科材料であって、成分A)の割合が20質量%より高く、99質量%までである歯科材料。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の歯科材料であって、成分A)の割合が20質量%より高く、50質量%までである歯科材料。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の歯科材料を、
a)改善された衝撃強さを有する骨セメント、
b)蹄修復材料又は動物用の義歯、
c)歯列矯正のための顎整形外科的装置
として用いる使用。

【公開番号】特開2008−127392(P2008−127392A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300773(P2007−300773)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(399011900)ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (56)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH 
【住所又は居所原語表記】Gruener Weg 11, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】