説明

製パン改良剤

本発明は、酸性である前発酵種および酸性度調整剤を含んでなる新しい製パン改良剤、およびこの改良剤を含有する、ベーキングのためのパン用生地を調製する方法におけるその使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーキング改良剤、およびこの改良剤を含有する、ベーキングのためのパン用生地を調製する方法におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーキングにおけるグルコノ−デルタ−ラクトン(GDL)の使用は、生地中におけるその酸性化効果について長期にわたり知られている。
【0003】
GB−A−2339134号明細書では、生地の調製において化学膨脹剤および保存料を組み合わせてGDLを使用することが提案されている。化学膨脹剤は、緩慢に反応してCOを形成する酸性およびアルカリ性反応性化合物の混合物である。化学膨脹剤を用いて調製される食物の保存では保存料が使用されるが、あらゆる保存料の有効性増大を可能にするpH低下物質の補給的添加は、pH低下物質と化学膨脹剤のアルカリ性反応性化合物との相互作用のために、化学膨脹剤の有効性を比例的に低下させる。GB−A−2339134号明細書は、pH低下を可能にし、結果的に化学膨脹剤の有効性に影響することなく、それによって保存料の有効性、ひいては食物の保存を増進する手段を教示する。この先行技術文献は、特に化学膨脹剤と、化学膨脹剤のアルカリ性反応性化合物に影響することなしに保存料の有効性を増大させるためpHを低下させることを意図する酸性試薬などの保存料と組み合わせたGDLの使用を教示する。GDLは、保存料中の非解離酸の百分率を増大させ、それによってその有効性、ひいては製品の保存寿命を増大させるために、保存料の成分として使用される。
【0004】
EP−A−0815731号明細書では、発酵サワードウ製造のために、酸発生剤としてGDLを使用することが提案されている。この先行技術文献は、グルコン酸を発生させるための水媒体中のGDLの加水分解について述べ、この加水分解は例えば未発酵サワードウ中に存在する水によって生じることが可能とされる。
【0005】
ベーキングにおいて、脱水発酵粉とも称される乾燥パン種粉を使用することもまた知られている。生地へのこれらの脱水発酵粉の添加は、官能特性の改善および焼いた製品(baked product)のより良い保存を提供する。パン種の脱水または乾燥によって得られるこれらの発酵粉はもはや活性微生物を含有しないが、パン種中の乳酸細菌による、好ましくはまたパン種中の酵母にもよるパン種の発酵中に形成された風味の大部分をなおも含有する。これらの風味は主に乳酸であるが、パン種発酵からのその他の風味もある。それらの使用は特に、焼いた製品のカテゴリーによっては高く評価される酸味を焼いた製品に提供する。しかし、生地への脱水発酵粉の組み込みには、不都合がないわけではない。それは特に生地のレオロジーに対して顕著な効果を有する。確かに混練が困難になり、酵母によって生成されるCO保持のために必要なグルテン網目状組織の形成が、より緩慢になりまたは不完全にさえなることが観察される。生地は高強度で多孔性でもあり、成形中に問題を引き起こし、次に魅力が少なくボリュームが小さいローフの問題も引き起こす。さらに、存在する酸性度は酵母の発酵作用に不利益をもたらし、その結果、それはより少ないガスを発生して、最終的に体積のより小さいパンが得られる。
【0006】
同様に、生地への酸および/または酸性塩の添加は、乾燥パン種の使用中に遭遇するのと同じ流動学的問題をもたらす。
【0007】
驚くべきことに、グルコノ−デルタ−ラクトン(GDL)の添加により、生地中における酸および/または酸性塩の使用に関連した不都合を低下させる、または回避することすら可能であることが観察された。特に、本発明は、発酵サワー粉とグルコノ−デルタ−ラクトン(GDL)との組み合わせの使用により、発酵サワー粉の使用に関連した利点の利益を得て、生地および前記生地を焼いて得られるパン製品の双方で観察される流動学的問題を軽減させ、または回避することすら可能であることを示す。本発明は、乾燥、液体またはペースト状パン種とGDLとの組み合わせの使用により、生地、そして前記生地を焼いて得られるパン製品でも流動学的特性に利点を提供することが観察されている。
【0008】
本発明は、グルコノ−デルタ−ラクトンと組み合わせた酸および/または酸性塩を含んでなるベーキング改良剤に関する。特定の一の実施態様では、改良剤は、酸および/または酸性塩とグルコノ−デルタ−ラクトンとからなる。好ましくは酸および/または酸性塩は酸性前発酵種(acid preferment)である。
【0009】
「酸性前発酵種」という表現は、食用有機酸を含んでなる群から選択される1つ以上の酸、前記酸の組み合わせ、前記酸の食用塩、前記塩の組み合わせ、および1つ以上の前記酸と1つ以上の前記塩との組み合わせを生じ、またはそれを含有して、生物由来資源(biomass)を用いる粉含有基質の発酵によって得られる生成物を意味するものと理解され、前記生物由来資源は、発酵によって少なくとも1つ以上の酸および/またはそれらの対応する塩を産生できる少なくとも1つの細菌を含有する。本発明による酸性前発酵種は、特に、乳酸、乳酸塩、酢酸、酢酸塩、プロピオン酸、プロピオン酸塩、安息香酸、安息香酸塩、ソルビン酸およびソルビン酸の食用塩、およびそれらの組み合わせ、特に1つおよび/またはいくつかのその他の酸のいずれか、あるいは1つおよび/またはいくつかのその他の塩のいずれか、あるいは1つおよび/またはいくつかのその他の酸および塩のいずれかの組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1つの構成要素を含んでなってもよい。
【0010】
本発明による前発酵種は、有利なことに、乳酸、乳酸塩、酢酸、酢酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される構成要素の1つを含んでなってもよい。
【0011】
本文脈では、「酸性前発酵種」という用語は、下で定義されるような乾燥、ペースト状または液体パン種を指す。
【0012】
本発明の好ましい実施態様に従って、本発明による改良剤の酸性前発酵種は乾燥パン種であってもよい。乾燥パン種は、パン種細菌に属する微生物および場合によりパン種酵母によって発酵された生地の乾燥によって得られる乾燥生成物に相当する。パン種細菌については、特に参考書籍「パン種ハンドブック−生物学−生化学−技術(Handbuch Sauerteig−Biologie−Biochemie−Technologie)」、スピハー(Spicher)およびステファン(Stephan)著、第4版(ISBN 3−86022−076−4)の第4.2章に記載される。乾燥パン種はまた、フランス語商品名「farine fermentee(発酵粉)、farine fermentee deshydratee(乾燥発酵粉)、farine prefermentee(前発酵粉)、levain deshydrate(乾燥パン種)」、英語商品名dry or dried sourdough(乾燥サワードウ)、dry or dried leaven or levain(乾燥パン種またはルヴァン)、dry or dried fermented flour(乾燥発酵粉)、dry or dried prefermented flour(乾燥前発酵粉)、sourdough concentrate(サワードウ濃縮物)、sourdough powder(サワードウ粉末)、およびsour flour(サワー粉)、およびドイツ語名称「Trockensauer(乾燥サワー)」および「Sauerteigpulver(サワードウ粉末)」の下に市販される。本発明による改良剤中に存在する乾燥パン種は、1つ以上の穀粉を含んでなる、ふすまに富んだ製粉製品に由来する1つ以上の粉を含んでなる、または1つ以上の穀粉とふすまに富んだ製粉製品に由来する1つ以上の粉との組み合わせを含んでなる発酵生地から得られてもよく、この生地は穀物胚芽もまた含有することができる。好ましくは乾燥パン種は、小麦粉および/またはライ麦粉、小麦から得られるふすまに富んだ製粉製品に由来する1つ以上の粉、および/またはライ麦から得られるふすまに富んだ製粉製品に由来する1つ以上の粉、または小麦粉および/またはライ麦粉と小麦および/またはライ麦から得られるふすまに富んだ製粉製品に由来する1つ以上の粉との組み合わせを含んでなる発酵生地に由来する。生地はまた、挽いた小麦胚芽を含有してもよい。
【0013】
脱水または乾燥によって得られるこれらの乾燥パン種は、活性のある微生物をもはや含有しないが、それらはなおもパン種細菌、および場合によりパン種酵母によるパン種の発酵中に形成された風味の大部分を含有し、これらの風味は主に乳酸であるが、パン種発酵からのその他の風味もある。
【0014】
乾燥パン種中の乳酸用量は、有利には乾燥パン種1kgあたり50g以上、およびより有利には乾燥パン種1kgあたり少なくとも70g、さらにより有利には乾燥パン種1kgあたり少なくとも100gである。
【0015】
別の好ましい本発明の実施態様に従って、発明による改良剤の酸性前発酵種は、例えば欧州特許第0953288号明細書および国際公開第2004/080187号パンフレットに記載されるようなパン種などの液体パン種であってもよい。
【0016】
一の実施態様に従って、本発明による液体パン種は、少なくとも1つの穀粉および水を含有する粉ベースの培養液からなり、前記培養液には、有利には乳酸細菌を含んでなってもよい選択された微生物を接種して発酵させる。前記微生物は、食用有機酸を含んでなる群から選択される1つ以上の酸、前記酸の食用塩、およびそれらの組み合わせ、特に前記酸の組み合わせ、前記有機塩の組み合わせ、または1つ以上の前記酸と1つ以上の前記有機塩との組み合わせを合成できる。本文脈では、「粉ベースの培養液」という表現は、その乾物内容が、主成分として1つ以上の穀粉を有する培養液を意味する。本発明に従った液体パン種は、少なくとも7g/Lの酢酸、および任意選択的に乳酸を含有する。本発明に従った液体パン種は3.8〜4.5のpHを示す。
【0017】
別の実施態様に従って、本発明による液体パン種は、微生物によって発酵させたミルクまたはその誘導体からなり、有機酸および/またはそれらの塩を含有する。
【0018】
本発明の別の好ましい実施態様に従って、本発明による改良剤の酸性前発酵種はペースト状パン種であってもよい。ペースト状パン種は、例えば書籍、レイモンド・カルベル(Raymond Calvel)著「パンの味(The taste of bread)」、Aspen Publishers,Inc.、Gaithersburg,Maryland、2001年、ISBN No.:0−8342−1646−9の第10章で定義されるようなパン種である。
【0019】
ベーキング改良剤の酸および/または酸性塩は、ベーキングを改善する能力を有する酸および/または酸性塩のいずれかである。この能力は、酸性化、保存、抗酸化、増粘またはゲル化能力であってもよい。例として、前記酸および/または酸性塩は、ソルビン酸、ソルビン酸塩、プロピオン酸、プロピオン酸塩、酢酸、酢酸塩、乳酸、乳酸塩、リンゴ酸、リンゴ酸塩、クエン酸、クエン酸塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アルギン酸、アルギン酸塩、安息香酸、安息香酸塩、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される少なくとも1つの構成要素であってもよく、またはそれを含んでなってもよいが、この一覧に限られない。塩は好ましくは食用塩である。例えば酸性塩は、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸カルシウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸アンモニウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カルシウムであってもよい。
【0020】
本発明は、酸および/または酸性塩、好ましくは酸性前発酵種を含有し、それにもかかわらずGDLの存在により良好な流動学的品質を示す生地から調製されるパンを得る利点を有する。団粒構造とも称されるパンの構造は、発酵中に酵母によって生成されるガスを保持できる三次元の分子網目状組織を作り出す粉中のグルテンの能力と関連している。この網目状組織は、システインに富んだグルテン(グリアジンおよびグルテニン)を構成する高分子間のジスルフィド架橋形成によってのみ生じる。これらのジスルフィド架橋の形成に必要なエネルギーは、ほぼ例外なく混練の機械的作用によって提供される。一方で、ひとたび形成すると、ジスルフィド架橋は強力な結合であり、この網目状組織は特に耐久性がある。この網目状組織の質、および酵母によって生ずるガスを保持する能力は、生地の膨張および団粒の特徴的な構造を可能にする。したがって、混練中に、グルテン網目状組織形成を妨げないことが必須である。しかし、酸および/またはそれらの塩は、ジスルフィド架橋の形成に不利益をもたらす。その結果、生地は柔らかく粘着性で、パンは膨らまない。GDLの使用により、これらの流動学的問題が軽減され、あるいは排除すらされうる。したがって、酸および/または酸性塩、特に酸性前発酵種は、それらの使用につきものである流動学的問題なしに用いられてもよい。
【0021】
ベーキングでは、生地中に存在する成分の量をいわゆる「ベイカーズ」パーセンテージ(「Baker’s」 percentage)として表すのが一般的である。ベイカーズパーセンテージは、パン用生地の配合中、すなわち最終生地中に存在する粉の総質量が常に100%に相当し、その他の成分の質量はこの粉ベースと比較して計算される計算法である。ベイカーズパーセンテージの計算では、一般的には製粉から得られた小麦粉である厳密な意味での粉のみが、100に調整した粉量として考慮される。発酵穀粉に含まれ、酸性前発酵種を構成する粉は、穀物または穀物群にかかわらず計算では考慮に入れず、もちろん重要なグルテンである小麦グルテンについても同様である。
【0022】
特に断りのない限り、下記の本発明の説明では、パン用生地の成分量は、ベイカーズパーセンテージとして表現される。
【0023】
本発明は、特にグルコノ−デルタ−ラクトンと組み合わさった、酸および/または酸性塩、好ましくは酸性前発酵種を含んでなり、少なくとも85質量%の乾物含量を有する固形ベーキング改良剤に関する。改良剤は特に90質量%以上、およびなおも好ましくは94質量%以上の乾物含量を有してもよい。
【0024】
本発明による改良剤の好ましい形態は、乾燥形態である。より好ましい形態に従って、乾燥形態は、粉末状または顆粒状形態であってもよい。顆粒状形態はほこりっぽさが少なく、空気中に飛散する傾向がより低い利点を有する。改良剤粒子の平均径は、好ましくは50μm〜300μm、より好ましくは80μm〜150μm、およびより好ましくは80μm〜120μmである。
【0025】
本発明の一の実施態様に従って、改良剤はまた、乾物含量により、液体、ペースト状または半湿性であってもよい。
【0026】
本発明の好ましい様式に従って、GDLは酸性前発酵種との混合物の形態で包装される。
【0027】
本発明の別の好ましい実施態様に従って、酸性前発酵種はその保存中にはGDLから分離される。分離手段の1つは、GDLの別個の包装である。この場合、組み込みは、混練機への添加前にGDLと酸性前発酵種とを混合すると同時に、または2つの各構成物を個々に添加して別々に行われる。したがって、本発明はまた、ベーキング改良剤として同時にまたは経時的に別々に使用される、前発酵種およびグルコノ−デルタ−ラクトンを含んでなる組み合わせにも関する。酸性前発酵種およびグルコノ−デルタ−ラクトンが経時的に別々に導入される場合、組み込みを分ける期間は、GDLが酸性前発酵種の流動学的な不利益な点に作用することができるように調節される。
【0028】
別の分離手段は、生地に作用するまでその機能特性を保持するために、GDLをカプセル化することである。次の2つのタイプのカプセル封入方法が使用できる。
例えばコアセルベーション、溶剤蒸発などの物理化学的方法、
例えば流動層、熱または冷噴霧化、押出し、および遠心分離などの機械的方法。
【0029】
例えば次のようなあらゆる食物適合性カプセル封入キャリアをGDLのカプセル封入のために想定してもよい。
炭水化物:マルトデキストリン、加工デンプン、シクロデキストリン、スクロース、セルロース・・・、
ガム:藻類抽出物、アラビアゴム、グアー・・・、
脂質:水素化または非水素化植物または動物油脂、ワックス、レシチン・・・、
タンパク質:ゼラチン。
【0030】
特に好ましい実施態様に従って、流動層コーティング技術が使用される。これは、気流中で流動化させた固形粒子上に、コーティング製品をスプレーする工程からなる。セルロース誘導体、デキストリン、乳化剤、脂質、タンパク質誘導体、加工デンプンなどの多種多様なコーティング製品を使用してもよい。
【0031】
改良剤が液体、ペースト状または半湿潤形態であり、コーティングが水溶性ではない場合、生地の混練中の機械的作用を通じてGDLが放出される。
【0032】
改良剤が乾燥形態である場合、全てのカプセル封入およびコーティングキャリアが想定されてもよい。
【0033】
好ましくは、本発明では、GDLは、ベイカーズパーセンテージとして0.05〜5%、なおも好ましくは0.1〜3%、そしてなおも好ましくは0.1〜1.5%で使用される。
【0034】
本発明による改良剤はまた、改良効果を有する1つ以上の成分、特にアスコルビン酸、乳化剤、安定剤−増粘剤、および酵素よりなる群から選択される1つ以上の成分を含んでなってもよい。したがって、本発明による改良剤は、改良効果を有する次のような1つ以上の成分を含んでなってもよい。
・アスコルビン酸、
・L−システインまたは不活性化酵母、
・次のような安定剤−増粘剤:
アルファ化デンプン、加工デンプン、
CMC(カルボキシメチルセルロース)、
例えば、キサンタンガムなどのガム、
アルギン酸およびカラゲナンなどの藻類抽出物、または
これらの様々な安定剤−増粘剤の組み合わせ、
・例えば次のような乳化剤:
レシチン、または
脂肪酸モノ−およびジグリセリド、または
脂肪酸モノ−およびジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、およびこれらの類似物など、または代替的に
上に列挙したものの1つ以上の乳化剤の組み合わせ、
・例えば次のような酵素:
アミラーゼ、および特に例えばマルトース生成α−アミラーゼまたはその他の防腐作用のα−アミラーゼをはじめとするα−アミラーゼ、
ヘミセルラーゼ、および特にキシラナーゼ、
グルコースオキシダーゼ、
アミログルコシダーゼ、
ホスホリパーゼ、およびこれらの類似物、または
前記酵素の組み合わせ、
・ならびに、穀粉、または特殊なパンの組成に特徴的なその他の成分。
【0035】
改良剤はまた、その他の食物成分、特にベーキングで使用されるような水溶性の食物成分、特にベーキング改良効果を有するものを含んでなってもよい。このような食物成分の例は、L−システイン一塩酸塩および塩化カルシウムである。好ましくは、本発明による改良剤は、生地の酸化剤全てと、任意選択的に、生地の還元剤全てと、方法にかかわらず、パン、「ヴィエノワズリー(viennoiseries)」、ブリオッシュ、および一般にあらゆる発酵生地の製造に関与する、想定されるベーキングタイプに必要な酵素製剤全てを包含する。
【0036】
改良剤はまた、上で特定されない1つ以上のその他の成分を含んでなってもよい。
【0037】
本文脈では、「製パン」、「ベーキング」、および「パン」という用語は、ベーキングおよび「ヴィエノワズリー」部門、および一般に穀粉をベースにした発酵生地からオーブン内で焼かれる製品の産業部門に言及するものとして広義に解釈されるべきである。より正確には、生地は酵母によって発酵される。これは化学膨脹剤によって得られる製品を除外する。
【0038】
本発明はまた、本発明による改良剤を含んでなる生地、およびそれから得られた焼いた製品にも関する。本発明による改良剤が組み込まれる生地は、発酵剤としてパン用酵母を含有する。この場合、生地がパン用酵母による発酵工程を受ける。
【0039】
したがって、本発明は、本発明による改良剤を生地に組み込む工程を含んでなる、少なくとも未発酵の粉、水、製パン酵母を含んでなる成分を用いてベーキングのためのパン用生地を調製する方法に関する。
【0040】
オーブン内ですぐに焼けるパン用生地の調製は、少なくとも1つの混練工程および少なくとも1つの発酵工程をはじめとする、いくつかの工程を含んでなる方法である。好ましくは本発明による改良剤の構成要素は、混練工程前またはその最中、好ましくは混練工程前または開始時に生地に組み込まれる。
【0041】
生地のための水は、それ自体として、あるいは、部分的もしくは完全に、その他の成分との混合物の形態で、または例えばミルクなどの高水分成分などの形態で生地に組み込まれてもよい。
【0042】
したがって、本発明は、GDLならびに酸および/または酸性塩、好ましくは酸性前発酵種を、生地のその他の成分に添加する工程を含んでなる、ベーカリー製品のための生地を調製する方法に関する。本発明により、パンは、これから
未発酵の穀粉、
製パン酵母、すなわち活性酵母、
酸および/または酸性塩、好ましくは酸性前発酵種、ならびに
GDL
を含んでなるベーカリー製品のための生地を有し、この生地における酸および/または酸性塩ならびにGDLは、本発明による改良剤に関して上で定義したとおりである。
【0043】
製パン酵母は、その名の通り生地を発酵できる活性のあるまたは生きた酵母である。
【0044】
本発明に従って、ベーカリー製品のための生地は、特にいわゆるストレート生地法、またはスポンジおよび生地法、ノータイム生地法またはあらゆるその他のベーキング法に従って調製されてもよい。
【0045】
本発明に従って、および慣習に従って、スポンジおよび生地法という表現は、第1の工程が、水、粉の一部、ならびに、通常全ての製パン酵母および酵母に有用な栄養成分を混合して、スポンジを作ることからなる、製パン法を意味するものと理解される。次いで、この混合物は、パンのその他の成分を組み込んで生地を調製するのに用いられる準備ができたと判断されるまで発酵される(書籍「製粉およびベーキング用語集(Glossary of Milling and Baking terms)」、サミュエル・A.マッツ(Samuel A.Matz)著、Pan−tech International、1993年から引用した定義)。
【0046】
より一般的には、改良剤およびこの改良剤を使用した本発明による方法は、生地、または焼いたベーカリー製品、特に、一般的なパン、すなわち油脂または添加糖のどちらも含有しないパンの製造、サンドイッチパン、「ヴィエノワズリー」、ブリオッシュ、特殊なパンの製造、ならびに、一般に、油脂および/または添加糖を含有する全ての珍しいタイプのパンの製造に有用である。したがって、本発明による改良剤および方法はまた、例えばアメリカ合衆国で製造されるような生地または焼いた製品、すなわち好ましくはベイカーズパーセンテージで乾物含量として0.5〜16%の変動する量の添加糖、および/またはベイカーズパーセンテージで0.5〜10%の変動する量の例えば油などの添加油脂を含有し、特にスポンジおよび生地法またはノータイム生地法によって得られるものの製造にも適する。
【0047】
特に、本発明は、
未発酵の粉、水、製パン酵母を含有する生地を調製し、本発明による改良剤を生地に組み込む工程と、
生地を発酵させる工程と、
膨らんだ生地を焼いて、焼いた製品を製造する工程と
を含んでなる、焼いた製品を調製する方法に関し、前記方法は、任意選択的に調製と発酵の工程間で生地を重ね合わせる工程を含んでなる。
【0048】
本方法の特定の実施態様では、焼いた製品はスライスされおよび/またはラップ掛けされてもよい。好ましくは焼いた製品は、フランス風パン、サンドイッチパン、「ヴィエノワズリー」、ブリオッシュ、および特殊なパンよりなる群から選択される。
【0049】
本発明はまた、このようなパン用生地がオーブン内で焼かれる焼いたベーカリー製品を製造する方法によって得られる、または得られうるパン用生地に関する。
【0050】
本発明はまた、パン屋が、未発酵の穀粉、製パン酵母、酸性前発酵種、およびGDLを含んでなる生地で良質の焼いた製品を作ることを可能にする。
【0051】
生地は発酵された生地であってもよく、好ましくはパン生地、ブリオッシュ生地または「ヴィエノワズリー」生地を含んでなる群から選択され、このような生地がそのままの生地、半焼(parbaked)生地または冷凍生地の技術の文脈において使用されることが可能とされる。
【0052】
好ましい実施態様に従って、本発明は、特にかかる冷凍の生の生地に関する。
【0053】
特に好ましい実施態様に従って、本発明はまた、半焼生地、または冷凍半焼生地に関し、それらは、本発明による生地の発酵、半焼、および凍結によって得られてもよい。
【0054】
したがって、本発明は、
GDL、ならびに酸および/または酸性塩、好ましくは酸性前発酵種、特に本発明による改良剤が組み込まれた、未発酵の粉、水、製パン酵母を含んでなる生地を調製する工程と、
生地を発酵させる工程と、
膨らんだ生地を部分的に焼いて、半焼製品を製造する工程と、
半焼製品を凍結する工程と
を含んでなる、冷凍半焼製品の調製のための方法に関し、前記方法は、任意選択的に、調製と発酵の工程間で生地を重ね合わせる工程を含んでなる。
【0055】
本発明はまた、本発明による生地の発酵およびベーキングによって得ることができる焼いたベーカリー製品に関し、これらの焼いた製品は、特にパン、好ましくはバゲット、サンドイッチパン、「ヴィエノワズリー」および/またはブリオッシュであることが可能である。
【0056】
本発明の利点は、比較した下記の実施例で示されるが、これは当然ながら制限を意図しない。
【実施例】
【0057】
実施例1
本発明の利点をブラベンダー(Brabender)エキステンソグラフを用いた研究により示す。この試験は、酵母を含有しない生地の円柱状小片をそれが切断するまで引き伸ばすことからなる。全ての実験において伸長に対する抵抗性の測定を行った。
【0058】
プロトコル
混練
1.粉の吸収力の予備判定(フランス規格協会(AFNOR)法第V30−171/1号)。
2.水浴を第1の混練の約30分前に開始する(一定温度30℃が得られるまで)。
3.円柱状生地の配合:
粉:14%水分で300g同等物
水:混練の終結時に500ファリノグラフ単位(FU)に達するのに必要な水の量を添加する。
塩:6g
4.混練機のタンク中に、粉、塩、および本発明によるいずれかの配合を入れる。
5.水を添加し始めるのと同時に、ストップウオッチをスタートさせる。
6.ブラベンダー(Brabender)ファリノグラフにおいて、速度2で1分間混練する。
7.休止:5分間。
8.混練:8分間。
9.最終粘稠度は500FUでなくてはならない:そうでない場合は、水の量をそれ相応に修正して工程2を繰り返す。
【0059】
サンプルの調製
9.150±0.1gの2つの生地サンプルを秤量する。
10.ラウンダーに入れて20回転数える。
11.生地をそっと成型機に入れる。
12.生地小片が成型機を離れたら、クロノメーターをスタートさせて休止時間を計る。
13.得られた生地シリンダーを軽く油を塗った支持材に載せて、それを上部につかませる。
14.30℃に調節された湿潤チャンバー内に保存する。
【0060】
伸長試験
15.20分の休止時間後、サンプルをエキステンソグラフのアームに載せる。
16.スクリューが記録計の上に載りゼロ線上に来るように、記録計の位置を調節する。
17.正確にt20minutesでフックの動きを開始し、生地シリンダーが切断したらそれを止める。
18.生地を再成形(丸く成形)し、それを再び45分間保存する。
19.第2の生地小片について工程17を繰り返す。
20.t65についてはt20と同じ(工程17を繰り返す)。
21.t110についてはt20と同じ(工程17を繰り返す)。
【0061】
ブラベンダー(Brabender)エキステンソグラフは、主に2つの値:
特殊な単位として表される生地の切断前の最大抵抗値(E.U.)、
mmで表される生地の切断前の最大伸長値
を提供する。
【0062】
サンプルの性質
本発明による2つの組成物を試験した。
【0063】
試験1
配合A:2%乾燥パン種+0.5%GDL
この組成物を、乾燥パン種のみ、または乾燥パン種および乳酸の組み合わせを含有する配合と比較した。代替の組成物BおよびCを、試験の終結(混練の終結+2時間)時に同一のpHに達するように調合した。
配合B:3.5%乾燥パン種
配合C:2%乾燥パン種+0.2%乳酸
ベーキング条件を近付けるため、代替の配合で調製した生地を、ファリノグラフで測定された一定の粘稠度(および一定の水和ではなく)で作製した。
【0064】
最終的に、比較の構成要素を示すために、いかなる添加のない対照の生地(=配合D)で実験を行った。
【0065】
試験2
配合A’:2%乾燥パン種+1%GDL
配合B’:5%乾燥パン種
配合C’:2%乾燥パン種+0.4%乳酸
配合D’:無添加生地
【0066】
結果
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
生地の抵抗性は、生地を伸ばするためにかけられる最大力の指標である一方、他方ではガス圧抵抗性の指標である。換言すると、抵抗性が高いほど圧力に対する抵抗性が高く、結果的にパンの体積はより小さくなる。この抵抗性は、パン種単独(B)およびパン種+乳酸(C)の組み合わせよりも乾燥パン種とGDLとを含有する本発明による配合Aでは低い。これは、GDLの乾燥パン種への添加が、一方で生地の抵抗性を低下させることにより、パン種の使用に関連する流動学的に不利な点を有意に軽減させることが可能であることを完全に示す。
【0070】
他方では、パン種と組み合わせたGDLの使用に関連した流動学的な利点はまた、伸展性により測定されうる。伸展性は、切断前における生地の最大伸長である。伸展性が高いほど付形がより容易になる。パン種およびGDL(A)の組み合わせで作られた生地は、パン種単独(B)または乳酸と組み合わさったパン種(C)で作られたものよりもはるかに高い伸展性を有する。
【0071】
試験2についても乾燥パン種と組み合わさったGDLの使用に関する同一の肯定的結論を出せる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性前発酵種およびグルコノ−デルタ−ラクトン(GDL)を含んでなる、ベーキング改良剤。
【請求項2】
ベイカーズパーセンテージ(Baker’s percentage)の百分率として、0.05〜5%、なおも好ましくは0.1〜3%、そしてなおも好ましくは0.1〜1.5%のGDLを含有することを特徴とする、請求項1に記載のベーキング改良剤。
【請求項3】
前記酸性前発酵種が乾燥、ペースト状または液体パン種であることを特徴とする、請求項1または2に記載のベーキング改良剤。
【請求項4】
前記酸性前発酵種が乾燥パン種であることを特徴とする、請求項3に記載のベーキング改良剤。
【請求項5】
前記改良剤が、少なくとも85%、好ましくは90質量%以上、なおも好ましくは94質量%以上の乾物含量を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の改良剤。
【請求項6】
前記改良剤が粉末状または顆粒状形態であることを特徴とする、請求項5に記載の固形改良剤。
【請求項7】
液体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の改良剤。
【請求項8】
ペースト状または半液体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の改良剤。
【請求項9】
前記グルコノ−デルタ−ラクトンが前記酸性前発酵種との混合物の形態で包装されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の改良剤。
【請求項10】
前記グルコノ−デルタ−ラクトンが前記酸性前発酵種とは別に包装されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の改良剤。
【請求項11】
前記グルコノ−デルタ−ラクトンがカプセル化されることを特徴とする、請求項10に記載の改良剤。
【請求項12】
前記酸性前発酵種が、乳酸、乳酸塩、酢酸、酢酸塩、プロピオン酸、プロピオン酸塩、安息香酸、安息香酸塩、ソルビン酸およびソルビン酸の食用塩、リンゴ酸、リンゴ酸塩、クエン酸、クエン酸塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アルギン酸、アルギン酸塩、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される、少なくとも1つの構成要素を含んでなることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の改良剤。
【請求項13】
前記酸性前発酵種が、乳酸、乳酸塩、酢酸、酢酸塩、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される少なくとも1つの構成要素を含んでなることを特徴とする、請求項12に記載の改良剤。
【請求項14】
アスコルビン酸、L−システインまたは不活性化酵母、乳化剤/増粘剤、安定剤、および酵素よりなる群から選択される1つ以上の成分もまた含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の改良剤。
【請求項15】
少なくとも未発酵粉、水、製パン酵母を含んでなる成分を用いてベーキングのためのパン用生地を調製する方法であって、請求項1〜14のいずれか一項に記載の改良剤を前記生地に組み込む工程を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の改良剤が組み込まれた、未発酵粉、水、製パン酵母を含んでなる生地を調製する工程と、
前記生地を発酵させる工程と、
膨らんだ生地を焼いて、焼いた製品を製造する工程と
を含んでなり、任意選択的に、前記調製と発酵の工程間で前記生地を重ね合わせる工程を含んでなる、焼いた製品を製造する方法。
【請求項17】
前記焼いた製品がスライスされる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記焼いた製品がラップ掛けされる、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記焼いた製品が、一般的なタイプのパン、サンドイッチパン、「ヴィエノワズリー」、ブリオッシュ、および珍しいタイプのパンよりなる群から選択される、請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
酸性前発酵種を含有するベーキング用生地のレオロジーを改善するためのグルコノ−デルタ−ラクトンの使用。
【請求項21】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の改良剤が組み込まれた、未発酵粉、水、製パン酵母を含有する生地を調製する工程と、
前記生地を発酵させる工程と、
膨らんだ生地を部分的に焼いて、半焼製品を製造する工程と、
前記半焼製品を凍結する工程と
を含んでなり、任意選択的に、前記調製と発酵の工程間で前記生地を重ね合わせる工程を含んでなる、冷凍半焼製品の調製のための方法。
【請求項22】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の改良剤を含んでなる生地。
【請求項23】
ベーキング改良剤として同時にまたは経時的に別々に使用される、酸性前発酵種およびグルコノ−デルタ−ラクトンを含んでなる組み合わせ。

【公表番号】特表2009−519031(P2009−519031A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545061(P2008−545061)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【国際出願番号】PCT/FR2006/051335
【国際公開番号】WO2007/068853
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(506261567)ルサッフル・エ・コンパニー (7)
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET COMPAGNIE
【Fターム(参考)】