説明

製パン用油中水型乳化油脂組成物

【課題】 ソフトさを保ちながら、歯切れと口ごなれが良いパン類が得られる、作業性の良い練り込み用の油中水型乳化油脂組成物及びパン類を提供すること。
【解決手段】 10℃の固体脂含量が85〜98%、20℃の固体脂含量が45〜85%、35℃の固体脂含量が10%以下のラウリン系油脂及び/又はパーム油中融点画分を油中水型乳化油脂組成物全体中25〜45重量%含有することを特徴とする製パン用油中水型乳化油脂組成物をパン生地に練り込んで製パンすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製パン用油中水型乳化油脂組成物とこれを用いてなるパン類に関する。
【背景技術】
【0002】
パンの食感を改良する目的で、パン生地に用いられる原料の検討が種々行われているが、その殆どはソフトさの維持や歯切れの向上や口ごなれを良好とするための検討である。ソフトさの維持は乳化剤、増粘剤、加工澱粉、酵素製剤等、食品添加物の種類や量によって数多くの改良が行われ、一般的に製パン配合に用いられている。歯切れと口ごなれを向上する手段としてはパン生地中の油脂量を多くする処方や、捏ね上げた生地をチョッパー等で麩切りする処方が一般的であるが、コストや労力が必要になる上、出来上がりのパンは小さくなる。そのためパン生地の作製時点で用いられる原料に着目して食感を改良する検討が行われているが、何れも十分満足のいくものには至っていない。その大きな理由はパンのソフトさだけを向上すると歯切れや口ごなれが悪くなり、逆に歯切れや口ごなれを向上しようとするとソフトさが悪くなるということである。この相反する食感をどのようにして両立させるかが課題となってきた。
【0003】
上記課題について検討した先行事例として、特許文献1ではHLB11のショ糖脂肪酸エステルと植物性蛋白質を含む油脂組成物をパン生地配合中に添加してパンのソフトさと歯切れ、口溶けを向上させている。しかし、油脂組成物の添加量が多いため、コストが高くなり、植物性蛋白を用いるためパンの風味が損なわれるという問題点があった。また特許文献2では、製パン用油脂組成物中に液油成分が多く、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを用いることでパンの老化が遅く、風味、食感を良好とする処方が記載されているが、この処方ではパンの老化とソフトさに効果が大きく、パンの歯切れと口ごなれは不十分なものであった。特許文献3に記載されるパン用油脂組成物は、合成乳化剤を含まずに醗酵乳と糖液とデンプン分解酵素の組み合わせにより、ソフトで歯切れの良い食感のパン類を製造できるとしている。この処方においてもパンの歯切れと口ごなれが不十分であり、デンプン分解酵素の効果によりソフトさが維持されているに過ぎない。特許文献4では、オクテニルコハク酸エステル化処理された澱粉と血液由来の蛋白質を含有する油脂組成物を用いることで、ソフトで口溶けの良い、さっくりした食感のパンが製造できると記載されているが、パンの口ごなれが不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−215342号公報
【特許文献2】特開平3−47028号公報
【特許文献3】特開平10−248480号公報
【特許文献4】特開平8−196198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ソフトさを保ちながら、歯切れと口ごなれが良いパン類が得られる、作業性の良い練り込み用の油中水型乳化油脂組成物及びパン類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の油脂組成で特定の乳化剤を有し、特定の比重にまで含気処理した油中水型乳化油脂組成物は、製パン作業性を良好に保ちながら、パンのソフトさと歯切れ、口ごなれを全て良好とすることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の第一は、10℃の固体脂含量が85〜98%、20℃の固体脂含量が45〜85%、35℃の固体脂含量が10%以下のラウリン系油脂及び/又はパーム油中融点画分を油中水型乳化油脂組成物全体中25〜45重量%含有し、比重が0.4〜0.7g/mlである製パン用油中水型乳化油脂組成物に関する。好ましい実施態様は、油相部に乳化剤として、モノエステル含量90重量%以上で、ヨウ素価が65〜75且つHLBが3〜5のグリセリン脂肪酸エステル(A)を油中水型乳化油脂組成物全体0.3〜1.2重量%含有し、モノエステル含量95重量%以上で、ヨウ素価が2以下且つHLBが3〜5のグリセリン脂肪酸エステル(B)を油中水型乳化油脂組成物全体1〜2重量%含有し、さらにHLBが5〜7のコハク酸モノグリセライド(C)を油中水型乳化油脂組成物全体0.5〜1.5重量%含有する上記記載の製パン用油中水型乳化油脂組成物に関する。より好ましくは、水相部に乳化剤として、HLB7〜16のショ糖ステアリン酸エステルを油中水型乳化油脂組成物全体中0.5〜2重量%含有する上記記載の製パン用油中水型乳化油脂組成物に関する。本発明の第二は、上記記載の製パン用油中水型乳化油脂組成物を用いてなるパン類に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、ソフトさを保ちながら、歯切れと口ごなれが良いパン類が得られる、作業性の良い練り込み用の油中水型乳化油脂組成物及びパン類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の製パン用油中水型乳化油脂組成物は、油脂中に特定のラウリン系油脂及び/又はパーム油中融点画分を特定量含むことで歯切れと口ごなれを改良され、ソフト感も改良されている。さらに特定の乳化剤を含有することで、ソフト感がより改良されている。
【0010】
本発明のラウリン系油脂は、単独で使用する場合は、10℃の固体脂含量が85〜98%、20℃の固体脂含量が45〜85%、35℃の固体脂含量が10%以下であることが好ましい。10℃の固体脂含量が85%以下で20℃の固体脂含量が45%以下だと歯切れの良さが損なわれる場合があり、35℃の固体脂含量が10%以上だと口ごなれが損なわれる場合がある。
【0011】
本発明のパーム油中融点画分は、単独で使用する場合は、10℃の固体脂含量が85〜98%、20℃の固体脂含量が45〜85%、35℃の固体脂含量が10%以下であることが好ましい。10℃の固体脂含量が85%以下で20℃の固体脂含量が45%以下だと歯切れの良さが損なわれる場合があり、35℃の固体脂含量が10%以上だと口ごなれが損なわれる場合がある。
【0012】
本発明において、ラウリン系油脂とパーム油中融点画分を併用する場合は、それらの混合油脂が10℃の固体脂含量が85〜98%、20℃の固体脂含量が45〜85%、35℃の固体脂含量が10%以下であることが好ましい。10℃の固体脂含量が85%以下で20℃の固体脂含量が45%以下だと歯切れの良さが損なわれる場合があり、35℃の固体脂含量が10%以上だと口ごなれが損なわれる場合がある。
【0013】
本発明において、ラウリン系油脂及び/又はパーム油中融点画分の含有量は、製パン用油中水型乳化油脂組成物全体中25〜45重量%が好ましく、30〜40重量%がより好ましい。25重量%未満だと結果的にパンの歯切れと口ごなれが損なわれる場合があり、45重量%を越えるとパンのソフトさが損なわれる場合がある。
【0014】
本発明の製パン用油中水型乳化油脂組成物に使用されるラウリン系油脂とパーム油中融点画分は、前記固体脂含量を満たすものであれば特に限定しないが、ラウリン系油脂としてはパーム核ステアリン、硬化パーム核油、硬化ヤシ油が好ましい。パーム油中融点画分としては、対称型トリグリセリドを50重量%以上含有するものが好ましく、70重量%以上含有するものがより好ましい。
【0015】
本発明の製パン用油中水型乳化油脂組成物の油相には、よりソフト感を出す目的で乳化剤を添加することが好ましく、該乳化剤の種類としては、モノエステル含量90重量%以上で、ヨウ素価が65〜75且つHLBが3〜5のグリセリン脂肪酸エステル(A)と、モノエステル含量95重量%以上で、ヨウ素価が2以下且つHLBが3〜5のグリセリン脂肪酸エステル(B)と、及びHLBが5〜7のコハク酸モノグリセライド(C)の3種の乳化剤を併用することが好ましい。
【0016】
製パン用油中水型乳化油脂組成物全体中、グリセリン脂肪酸エステル(A)の含有量は0.3〜1.2重量%、グリセリン脂肪酸エステル(B)の含有量は1〜2重量%、コハク酸モノグリセライド(C)の含有量は0.5〜1.5重量%であることが好ましい。グリセリン脂肪酸エステル(A)の含有量が1.2重量%を超えるとパンの口ごなれが損なわれる場合があり、0.3重量%未満だとソフトさが損なわれる場合がある。グリセリン脂肪酸エステル(B)の含有量が2重量%以上だとパンの口ごなれが損なわれる場合があり、1重量%未満だとソフトさが損なわれる場合がある。コハク酸モノグリセライド(C)の含有量が1.5重量%を超えるとパンの口ごなれと風味が損なわれる場合があり、0.5重量%未満だとソフトさが損なわれる場合がある。
【0017】
本発明において、製パン用油中水型乳化油脂組成物を用いて得られたパン類の歯切れとソフトさをより良くするためには、水相に乳化剤を添加することが好ましく、乳化剤の種類としてはHLB7〜16のショ糖ステアリン酸エステルが好ましい。該ショ糖ステアリン酸エステルの含有量は、油中水型乳化油脂組成物全体中0.5重量%〜2重量%が好ましい。0.5重量%未満だとパンのソフトさと歯切れが損なわれる場合があり、2重量%より多いとエマルションが油中水型乳化から水中油型乳化へ転相する場合がある。
【0018】
さらには、該製パン用油中水型乳化油脂組成物のパン生地の混捏工程での練り込み性を向上するため、該製パン用油中水型乳化油脂組成物の比重を0.7g/ml以下にすることが好ましく、0.4〜0.7g/mlに含気処理することがより好ましい。比重が極端に低くなるまで含気処理を行うと油中水型乳化油脂組成物の乳化が壊れ、品質を損なう場合があり、比重が0.7g/mlを越えると生地への練り込み性が損なわれる場合がある。また含気処理に用いるガスは空気の他、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスを用いることが好ましい。
【0019】
本発明の製パン用油中水型乳化油脂組成物において、ラウリン系油脂及びパーム油中融点画分以外に使用される油脂としては、マーガリンやショートニングに用いられる油脂であれば、いかなる油脂でも使用可能である。例えば、亜麻仁油、桐油、サフラワー油、かや油、胡桃油、芥子油、向日葵油、綿実油、菜種油、大豆油、辛子油、カポック油、米糠油、胡麻油、落花生油、オリーブ油、椿油、茶油、ひまし油、椰子油、パーム油、葡萄油、カカオ脂、シア脂、コクム脂、ボルネオ脂等の植物油脂や、魚油、鯨油、牛脂、豚脂、鶏油、卵黄油、羊油等の動物油脂が挙げられ、また、これらの油脂をエステル交換したものや、硬化、分別したもの等、通常食用に供される全ての油脂を用いることができ、それらの群より選ばれる少なくとも1種が用いられるが、パンの口ごなれを良好に保つため上昇融点が30〜37℃の動物油脂や液体油を用いることが好ましい。
【0020】
本発明の製パン用油中水型乳化油脂組成物は、以下のような製造方法により作製することができる。まず所定量の水に所定量のショ糖ステアリン酸エステルと必要に応じて所定量の液糖、食塩、酒精を加えて均一に分散した後、加熱殺菌して水相とする。ラウリン系油脂及び/又はパーム油中融点画分と動物油脂、液体油、グリセリン脂肪酸エステル(A)、グリセリン脂肪酸エステル(B)、コハク酸モノグリセライド(C)の乳化剤を所定量調合して油相とする。該油相に、前記水相を添加してから70℃に加温して温調し、プロペラミキサーで攪拌混合して、融解した乳化液を得る。この乳化液を所定の条件で急冷捏和装置にて捏和し、15〜25℃に冷却した油中水型乳化油脂組成物を連続含気装置またはワイヤーホイップ付きのミキサーを用いて含気処理し、比重を0.7g/ml以下に調整して本発明の製パン用油中水型乳化油脂組成物を得る。
【0021】
本発明の製パン用油中水型乳化油脂組成物は、パン類の作製等の用途、特にはパン生地への練り込み用として用いられる。製パン用油中水型乳化油脂組成物の含有量は、パン生地中の小麦粉100重量部に対して5〜20重量部が好ましい。5重量部より少ないとソフトで歯切れと口ごなれが良いパン類が得られない場合があり、20重量部より多いとソフトさが損なわれる場合がある。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0023】
<ロールパン生地混捏時の油中水型乳化油脂組成物の練り込み性評価法>
実施例、比較例で得られた製パン用油中水型乳化油脂組成物を15℃に温調し、ミキサー内へ投入後、目視で生地中に油中水型乳化油脂組成物の塊が見られなくなる時点まで混捏し、その時間を基に練り込み性について評価した。その際の評価基準は以下の通りである。◎:低速で3分間,高速で1分間混捏、○:低速で3分間,高速で3分間、△:低速で3分間,高速で5分間、×:低速で3分間,高速で6分間。
【0024】
<ロールパンのソフトさ評価法>
実施例、比較例で得られた油中水型乳化油脂組成物を用いて作製したロールパンを、10人からなる熟練のパネラーに試食してもらって官能評価を行い、以下のようにまとめた。◎:8人以上が柔らかいと評価、○:6〜7人が柔らかいと評価、△:4〜5人が柔らかいと評価、×:0〜3人が柔らかいと評価。
【0025】
<ロールパンの歯切れ評価法>
実施例、比較例で得られた油中水型乳化油脂組成物を用いて作製したロールパンを10人からなる熟練のパネラーに試食してもらって官能評価を行い、以下のようにまとめた。◎:8人以上が歯切れが良いと評価、○:6〜7人が歯切れが良いと評価、△:4〜5人が歯切れが良いと評価、×:0〜3人が歯切れが良いと評価。
【0026】
<ロールパンの口ごなれ評価法>
実施例、比較例で得られた油中水型乳化油脂組成物を用いて作製したロールパンを10人からなる熟練のパネラーに試食してもらって官能評価を行い、以下のようにまとめた。◎:8人以上が口ごなれが良いと評価、○:6〜7人が口ごなれが良いと評価、△:4〜5人が口ごなれが良いと評価、×:0〜3人が口ごなれが良いと評価。
【0027】
(実施例1) 製パン用油中水型乳化油脂組成物の作製
表1に示す配合に従って、製パン用油中水型乳化油脂組成物を作製した。即ち、まずは所定量の水に各水相成分を加えて均一に分散した後、加熱殺菌して水相とした。各油相成分を所定量調合して油相とした。前記油相部と水相部を乳化し、得られた乳化液をピストンポンプにて75kg/hrの流量で送液した後、フロン冷媒量を調整しながら急冷捏和装置にて捏和して、出口温度を24℃として油中水型乳化油脂組成物を得た。この油中水型乳化油脂組成物をワイヤーホイップ付きのミキサーにて中速で6分間撹拌し、比重0.5g/mlの製パン用油中水型乳化油脂組成物を得た。
【0028】
【表1】

【0029】
(実施例2及び実施例3) 製パン用油中水型乳化油脂組成物の作製
表1に示す配合に従って、製パン用油中水型乳化油脂組成物を作製した。即ち、配合を変えた以外は実施例1と同様にして得た乳化液をピストンポンプにて75kg/hrの流量で送液した後、フロン冷媒量を調整しながら急冷捏和装置にて捏和して、出口温度を20℃として油中水型乳化油脂組成物を得た。この油中水型乳化油脂組成物をワイヤーホイップ付きのミキサーにて中速で4分間撹拌し、比重0.7g/mlの製パン用油中水型乳化油脂組成物を得た。
【0030】
(実施例4及び実施例5) 製パン用油中水型乳化油脂組成物の作製
表1に示す配合に従って、製パン用油中水型乳化油脂組成物を作製した。即ち、配合を変えた以外は実施例1と同様にして得た乳化液をピストンポンプにて75kg/hrの流量で送液した後、フロン冷媒量を調整しながら急冷捏和装置にて捏和して、出口温度を17℃として油中水型乳化油脂組成物を得た。この油中水型乳化油脂組成物をワイヤーホイップ付きのミキサーにて中速で5分間撹拌し、比重0.7g/mlの製パン用油中水型乳化油脂組成物を得た。
【0031】
(比較例1及び比較例2) 製パン用油中水型乳化油脂組成物の作製
表1に示す配合に従って、製パン用油中水型乳化油脂組成物を作製した。即ち、配合を変えた以外は実施例1と同様にして得た乳化液をピストンポンプにて75kg/hrの流量で送液した後、フロン冷媒量を調整しながら急冷捏和装置にて捏和して、出口温度を18℃として油中水型乳化油脂組成物を得た。該油中水型乳化油脂組成物は含気処理を行わずに比重はそのままで製パン用油中水型乳化油脂組成物とした。
【0032】
(比較例3) 製パン用油中水型乳化油脂組成物の作製
表1に示す配合に従って、製パン用油中水型乳化油脂組成物を作製した。即ち、配合を変えた以外は実施例1と同様にして得た乳化液をピストンポンプにて75kg/hrの流量で送液した後、フロン冷媒量を調整しながら急冷捏和装置にて捏和して、出口温度を24℃として油中水型乳化油脂組成物を得た。該油中水型乳化油脂組成物は含気処理を行わずに比重はそのままで製パン用油中水型乳化油脂組成物とした。
【0033】
(比較例4) 製パン用油中水型乳化油脂組成物の作製(先行技術との比較(特開平8−196198号公報実施例8準拠))
表1に示す配合に従って、製パン用油中水型乳化油脂組成物を作製した。即ち、配合を変えた以外は実施例1と同様にして得た乳化液をピストンポンプにて75kg/hrの流量で送液した後、フロン冷媒量を調整しながら急冷捏和装置にて捏和して、出口温度を17℃として油中水型乳化油脂組成物を得た。該油中水型乳化油脂組成物は含気処理を行わずに比重はそのままで製パン用油中水型乳化油脂組成物とした。
【0034】
(比較例5)製パン用油中水型乳化油脂組成物の作製
表1に示す配合に従って、製パン用油中水型乳化油脂組成物を作製した。即ち、実施例1と同様にして得られた乳化液をピストンポンプにて75kg/hrの流量で送液した後、フロン冷媒量を調整しながら急冷捏和装置にて捏和して、出口温度を24℃として油中水型乳化油脂組成物を得た後、この油中水型乳化油脂組成物をワイヤーホイップ付きのミキサーにて中速で3分間撹拌し、比重0.8g/mlの製パン用油中水型乳化油脂組成物を得た。
【0035】
(実施例6〜10、比較例6〜10) 製パン試験
実施例1〜5及び比較例1〜5で得られた製パン用油中水型乳化油脂組成物を用いて、表2に示す配合に従ってロールパンの製パン試験を行った。
【0036】
【表2】

【0037】
ロールパン生地は、横型ミキサー(オシキリ社製HMミキサー)を用いて以下のように作製した。中種生地は、小麦粉、砂糖、イースト、イーストフード、水を横型ミキサーに投入し、低速で3分間、高速で3分間混捏し、捏ね上げ温度25℃の中麺生地とした。この中麺生地を28℃で2時間30分恒温槽に静置して中種生地を得た。油中水型乳化油脂組成物を除く本捏配合材料と中種生地を横型ミキサーに入れ、低速で3分間、高速で3分間混捏した後、15℃に温調された油中水型乳化油脂組成物を横型ミキサーに入れ、低速で3分間混捏後、油中水型乳化油脂組成物の塊が生地中に無いかを確認しながら高速で6分間混捏し、捏ね上げ温度27℃の本捏生地を得た。得られた本捏生地を28℃の恒温槽にて、30分間フロアータイムをとった後、70gずつの生地に分割した。分割後、28℃で20分間のベンチタイムをとり、モルダーにて生地を伸ばした後、カールして展圧し、棒状の成型物を得た。この成型物を天板の上に8個置き、温度:38℃、湿度:80%で60分間最終発酵を行った。最終発酵後、200℃のオーブンで10分間焼成し、各種評価に用いるロールパンを得た。ロールパンの各種評価結果及びロールパン生地混捏時の練り込み性評価結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
実施例1〜5で得られた油中水型乳化油脂組成物の生地混捏時の練り込み性はいずれも低速3分高速3分の混捏で生地中に油中水型乳化油脂組成物の塊が見られず、練り込み性は良好であった。比較例5の油中水型乳化油脂組成物は生地に十分に分散しなかったため、結果的に比較例10のロールパンは歯切れ、口ごなれにおいて実施例1より目減りした。比較例3の生地混捏時の練り込み性は非常に悪く、低速3分高速6分の混捏で小さな油中水型乳化油脂組成物の塊が生地中に見られ、比較例8のロールパンの内相に穴あきが見られた。ロールパンの口ごなれは実施例6〜10のいずれのロールパンも良好となり、比較例7のロールパンで最も悪い結果となった。歯切れは実施例6、実施例7のロールパンで大変良い結果となり、比較例6〜8で悪い結果となった。ソフトさは実施例7、実施例8のロールパンで大変良好となり、比較例6、比較例8で悪い結果となった。ソフトさ、歯切れ、口ごなれの全てにおいて最も良好であったのは実施例7のロールパンであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10℃の固体脂含量が85〜98%、20℃の固体脂含量が45〜85%、35℃の固体脂含量が10%以下のラウリン系油脂及び/又はパーム油中融点画分を油中水型乳化油脂組成物全体中25〜45重量%含有し、比重が0.4〜0.7g/mlである製パン用油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
油相部に乳化剤として、モノエステル含量90重量%以上で、ヨウ素価が65〜75且つHLBが3〜5のグリセリン脂肪酸エステル(A)を油中水型乳化油脂組成物全体0.3〜1.2重量%含有し、モノエステル含量95重量%以上で、ヨウ素価が2以下且つHLBが3〜5のグリセリン脂肪酸エステル(B)を油中水型乳化油脂組成物全体1〜2重量%含有し、さらにHLBが5〜7のコハク酸モノグリセライド(C)を油中水型乳化油脂組成物全体0.5〜1.5重量%含有する請求項1に記載の製パン用油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
水相部に乳化剤として、HLB7〜16のショ糖ステアリン酸エステルを油中水型乳化油脂組成物全体中0.5〜2重量%含有する請求項1又は2に記載の製パン用油中水型乳化油脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3何れかに記載の製パン用油中水型乳化油脂組成物を用いてなるパン類。

【公開番号】特開2011−200191(P2011−200191A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72384(P2010−72384)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】