説明

製パン用醗酵風味改善剤

【課題】イースト臭や醗酵臭を低減した風味良好なパンを提供する。
【解決手段】アルギン酸類を有効成分とする製パン用醗酵風味改善剤であって、さらに乳清ミネラルを含有し、可塑性油中水型乳化物とする製パン用醗酵風味改善剤。前記製パン用醗酵風味改善剤を添加した白色パン生地、これを焼成したパン。前記製パン用醗酵風味改善剤により、甘味や乳味などの味をパンに付与することなく、イースト臭や醗酵臭を低減した風味良好なパンが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸類を有効成分とする製パン用醗酵風味改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パンの製造工程で生じる香気成分は良好なパンの風味の一つである。しかし、イーストの添加量が過剰であったり、醗酵が不十分であったり、醗酵が過剰であった場合や、焼成が不十分な場合には、イースト臭や醗酵臭が感じられ、パンの風味を損なう要因となる。
特に白色パンは、焼き色をつけずにパンを白く焼き上げるため、メイラード反応やカラメル化に関わる糖及び蛋白質を含む原料を極力配合せず、また、焼成温度は焼き色のついたパンに比べ低い。このため、焼き色のついたパン特有の香ばしさがなく、イースト臭が強く感じられたり、醗酵で生じるアルコールやエステル等の醗酵物がパン中に残留しやすく、そのため、醗酵臭も強く感じられやすいという問題点があった。
【0003】
このようなパンの風味を改善する方法として、特許文献1や特許文献2が挙げられる。 特許文献1は糖アルコール及び乳蛋白を添加することを特徴とする乳風味の良好な白色パンの提供方法が開示されている。しかし、特許文献1では、甘みを有する糖アルコールを使用するため、甘みを付与したくない白色パンに甘みを付与してしまいやすいという欠点があった。
【0004】
特許文献2では、パン原料成分として添加される全糖量の20〜90重量%の糖を含有する水相と、乳化剤を含有する油相からなる油中水型乳化組成物を用いたパンの製造法が開示されている。特許文献2の油中水型乳化組成物は多量の乳化剤を用いているため、これを用いたパンの風味が悪くなるという欠点があった。
また特許文献1や特許文献2にはアルギン酸類を有効成分とする製パン用醗酵風味改善剤によりイースト臭や醗酵臭を低減することについての記載は全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−102366号公報
【特許文献2】特開平5−227873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、アルギン酸類を有効成分とする製パン用醗酵風味改善剤を用いることにより、イースト臭や醗酵臭を低減した風味良好なパンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成すべく種々検討した結果、アルギン酸類を有効成分とする製パン用醗酵風味改善剤により、甘味や乳味などの味をパンに付与することなく、イースト臭や醗酵臭を低減した風味良好なパンが得られることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製パン用醗酵風味改善剤により、イースト臭や醗酵臭を低減した風味良好なパンを得ることが可能である。
また本発明の製パン用醗酵風味改善剤により、経日的にソフトでしっとりとしたパンを得ることも可能である。
そして本件発明の製パン用醗酵風味改善剤は、パンの中でも特に白色パンにおいて、より効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の製パン用醗酵風味改善剤について詳述する。
本発明の製パン用醗酵風味改善剤はアルギン酸類を有効成分とする。
上記アルギン酸類としては、アルギン酸、アルギン酸エステル、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウムなどが挙げられ、これらの中から選択される1種または2種以上を用いることができる。本発明ではアルギン酸類として、アルギン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0010】
本発明の製パン用醗酵風味改善剤において乳清ミネラルを用いることにより、さらにイースト臭及び醗酵臭低減の効果が得られる。
上記乳清ミネラルとは、乳又はホエー(乳清)から、可能な限り蛋白質や乳糖を除去したものであり、高濃度に乳の灰分を含有するという特徴を有する。そのため、そのミネラル組成は、原料となる乳やホエー中のミネラル組成に近い比率となる。
上記乳清ミネラルとして、固形分中のカルシウム含量が好ましくは2質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満、最も好ましくは0.5質量%未満である乳清ミネラルを使用することが好ましい。尚、該カルシウム含量は低いほどイースト臭及び醗酵臭低減の効果が得られる。
【0011】
牛乳から通常の製法で製造された乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含量が5質量%以上である。上記カルシウム含量が2質量%未満の乳清ミネラルは、乳又はホエーから、膜分離及び/又はイオン交換、さらには冷却により、乳糖及び蛋白質を除去して乳清ミネラルを得る際に、あらかじめカルシウムを低減した乳を使用した酸性ホエーを用いる方法、あるいは、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にカルシウムを除去する工程を挿入することで得ることができるが、工業的に実施する上での効率やコストの点で、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にある程度ミネラルを濃縮した後に、カルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法を採ることが好ましい。ここで使用するカルシウムを除去の工程としては、特に限定されず、調温保持による沈殿法等の公知の方法を採ることができる。
【0012】
本発明では、上記のアルギン酸類を有効成分とする製パン用醗酵風味改善剤は可塑性油中水型乳化物であることが好ましい。これはパン生地への分散性が向上するためである。
【0013】
上記のアルギン酸類の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物である製パン用醗酵風味改善剤(以下可塑性油中水型乳化物とする)の水相中、好ましくは0.1〜9質量%、さらに好ましくは0.5〜7質量%、一層好ましくは1〜5質量%、最も好ましくは1.5〜3質量%である。上記の可塑性油中水型乳化物の水相中、アルギン酸類の含有量が0.1質量%よりも少ないとイースト臭及び醗酵臭低減の効果が得られないので好ましくなく、9質量%よりも多いとパン生地への分散性が劣るので好ましくない。
【0014】
上記の乳清ミネラルの含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、固形分として好ましくは0.006〜2.1質量%、さらに好ましくは0.03〜0.6質量%である。上記乳清ミネラルの含有量が固形分として0.006質量%未満であるとイースト臭及び醗酵臭低減効果が充分に得られにくく、また固形分として2.1質量%を超えると、塩味が強くなりやすい。
【0015】
上記の可塑性油中水型乳化物で用いる油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、サル脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別およびエステル交換から選択された一又は二以上の処理を施した加工油脂や、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等があげられる。本発明では、これらの油脂の中から選択される1種または2種以上を用いることができる。
【0016】
上記の可塑性油中水型乳化物中の油脂の含有量は、好ましくは30〜80質量%、さらに好ましくは35〜60質量%、最も好ましくは40〜50質量%である。上記の可塑性油中水型乳化物において油脂の含有量が30質量%よりも少ないと乳化が不安定で油相と水相の分離や転相が起こりやすく、80質量%よりも多いとイースト臭及び醗酵臭低減の効果が十分に得られにくい。
【0017】
上記の可塑性油中水型乳化物の油相:水相は質量基準で、好ましくは30〜80:20〜70、さらに好ましくは35〜60:40〜65、最も好ましくは40〜50:50〜60である。
上記の可塑性油中水型乳化物において、油相の割合が30質量%よりも少なく、水相の割合が70質量%よりも多いと乳化が不安定となりやすく、油相の割合が80質量%よりも多く、水相の割合が20質量%よりも少ないと、イースト臭及び醗酵臭低減の効果が十分に得られにくい。
【0018】
上記の可塑性油中水型乳化物は、必要によりその他の成分として、卵黄由来成分、水、乳蛋白質、乳化剤、上記のアルギン酸類以外のゲル化剤、アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等の酵素、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料類、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、調味料、食品保存料、日持ち向上剤、澱粉類、穀類、無機塩、セルロースやセルロース誘導体、ジグリセライド、食塩、岩塩、海塩、果実、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・分枝デキストン・環状デキストン等のデキストリン類、ナッツペースト、苦味料、カカオマス、ココアパウダー、コーヒー、紅茶、緑茶、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、pH調整剤、強化剤等を添加してもよい。
【0019】
上記の卵黄由来成分としては、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質等の卵黄蛋白質、全卵、生卵黄、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、酵素処理卵黄、粉末全卵、粉末卵黄等の卵黄由来の食品素材等が挙げられ、これらの中から選択される1種または2種以上を用いることができる。
上記の卵黄由来成分の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、固形分として好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.3〜3質量%、最も好ましくは0.5〜1.5質量%である。上記の可塑性油中水型乳化物中、卵黄由来成分の固形分の含有量が0.1質量%よりも少ないと乳化が不安定となりやすく、5質量%よりも多いと卵黄由来成分の風味を白色パンに付与しやすい。
【0020】
上記の水としては水道水、天然水を用いることができる。
上記の水の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは30〜60質量%、最も好ましくは35〜55質量%である。
【0021】
上記の乳蛋白質としては、ホエー蛋白質のみ、カゼイン蛋白質のみ、カゼイン蛋白質とホエー蛋白質との併用のいずれでもよいが、ホエー蛋白質のみもしくは、ホエー蛋白質とカゼイン蛋白質とを併用するのが好ましく、ホエー蛋白質とカゼイン蛋白質を併用するのがより好ましい。
【0022】
上記カゼイン蛋白質としては、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、γ−カゼイン、κ−カゼインの各単体や、これらの混合物、若しくはこれらを含有する食品素材であるアルカリカゼイン(カゼイネート)、酸カゼイン等が挙げられ、これらの中から選択された1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
上記ホエー蛋白質としては、ラクトアルブミン、βラクトグロブリン、血清アルブミン、免疫グロブリン、プロテオースペプトンの各単体や、これらの混合物、若しくはこれらを含有する食品素材として、乳清蛋白質、ホエー、ホエーパウダー、脱乳糖ホエー、脱乳糖ホエーパウダー、ホエー蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)等が挙げられ、これらの中から選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
上記カゼイン蛋白質及び上記ホエー蛋白質の両方を含有する食品素材として、例えば、生乳、牛乳、バター、加糖練乳、加糖脱脂れん乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン(TMP)、脱脂粉乳、全粉乳、加糖粉乳、調製粉乳、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、クリーム、クリームパウダー、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、サワークリ―ム、醗酵乳、酵素処理バター、乳飲料等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
上記の乳蛋白質の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、固形分として好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜8質量%、最も好ましくは1〜5質量%である。
【0026】
上記の乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記の乳化剤の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下、一層好ましくは1質量%以下、最も好ましくは乳化剤を用いないことが好ましい。
【0027】
上記のアルギン酸類以外のゲル化剤としては、特に制限はないが、ペクチン、LMペクチン、HMペクチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天、グルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ジェランガム、タラガントガム、キサンタンガム、カラギーナン、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガムが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記のアルギン酸類以外のゲル化剤の含有量は、上記の可塑性油中水型乳化物中、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、最も好ましくは2質量%以下である。上記の可塑性油中水型乳化物においてアルギン酸類以外のゲル化剤が必要なければ用いなくても良い。
【0028】
上記の可塑性油中水型乳化物は水相中の甘味料濃度を好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下とするのが好ましい。
上記の甘味料としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、液糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、はちみつ、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、ソーマチン、サッカリン、ネオテーム、アセスルファムカリウム、甘草が挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0029】
上記の可塑性油中水型乳化物の好ましい製造方法について以下に説明する。
まず、油脂に必要によりその他の成分を添加し、油相とする。水に、アルギン酸類と必要によりその他の成分を添加し、水相とする。上記の油相を必要により加熱溶解し、水相を加え、油中水型乳化物とする。
次に、上記油中水型乳化物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また、殺菌温度は好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは80〜95℃、最も好ましくは80〜90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は好ましくは40〜60℃、さらに好ましくは40〜55℃、最も好ましくは40〜50℃とする。
次に急冷可塑化を行なう。この急冷可塑化は、ゴンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機等の装置により行なうことができ、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターとの組み合わせにより行なうこともできる。この急冷可塑化を行なうことにより、上記の可塑性を有する油中水型乳化物となる。
これらの装置の後に、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
また、上記の可塑性油中水型乳化物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、含気させなくても構わない。
【0030】
次に本発明の製パン用醗酵風味改善剤を含有するパン生地について説明する。
上記のパン生地では小麦粉100質量部に対し、アルギン酸類を好ましくは0.01〜1質量部、さらに好ましくは0.03〜0.8質量部、一層好ましくは0.06〜0.6質量部、最も好ましくは0.09〜0.4質量部含むように製パン用醗酵風味改善剤を添加する。
上記のパン生地において、小麦粉100質量部に対し、アルギン酸類の添加量が0.01質量部よりも少ないとイースト臭及び醗酵臭を低減する効果が得られにくく、アルギン酸類の添加量が1質量部よりも多いと経日的にパンが固くなり食感が悪化しやすい。
【0031】
また上記のパン生地は小麦粉100質量部に対し、本発明の製パン用醗酵風味改善剤を好ましくは1〜40質量部、さらに好ましくは2〜30質量部、一層好ましくは4〜20質量部、最も好ましくは8〜15質量部添加する。
上記のパン生地において、小麦粉100質量部に対し、本発明の製パン用醗酵風味改善剤の含有量が1質量部よりも少ないとイースト臭及び醗酵臭低減の効果が得られ難くなり、40質量部よりも多いとパン生地が柔らかくなり過ぎて作業性が悪くなりやすい。
上記のパン生地は、小麦粉として、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、ライ麦粉、デュラム粉、全粒粉、胚芽などを用いることができ、これらの中から選択される1種または2種以上を用いることができる。
【0032】
上記のパン生地は、小麦粉、本発明の製パン用醗酵風味改善剤以外に、パン生地の製造に通常使用される、イースト及び/又は化学膨張剤(ベーキングパウダー)、水、食塩、その他の原料を、本発明の効果を阻害しない範囲で任意に添加することができる。
上記イーストとしては、ドライイースト、生イースト、冷蔵パン用イースト、冷凍パン用イースト等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0033】
上記イーストは、上記パン生地で用いる小麦粉100質量部に対して、生イーストであれば、好ましくは2〜6質量部、さらに好ましくは2〜4質量部、ドライイーストであれば好ましくは0.2〜2質量部、さらに好ましくは0.5〜1.5質量部添加する。
【0034】
上記化学膨張剤としては、ベーカリー製品用のベーキングパウダーとして使用可能なものであればどのようなものでも良く、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、明礬等、又は、これらにフマル酸、グルコノデルタラクトン、酒石酸、酒石酸水素カリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム等の酸性剤が添加されてなるものを挙げることができ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。上記化学膨張剤は、上記パン生地で用いる小麦粉100質量部に対して、好ましくは0〜10質量部、さらに好ましくは0〜5質量部添加する。
【0035】
上記水は、上位パン生地で用いる小麦粉100質量部に対して、好ましくは50〜80質量部、さらに好ましくは58〜75質量部添加する。この水は天然水や水道水の他、牛乳、乳製品、卵類等、水分を含む食品に由来するものであってもよい。
【0036】
上記食塩としては、精製塩、天然塩、自然塩等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記食塩は、上記パン生地で用いる小麦粉100質量部に対して、好ましくは0.5〜2.2質量部、さらに好ましくは0.8〜2質量部添加する。
【0037】
上記のパン生地は必要により、その他の原料として例えば、甘味料、デンプン、卵類、β−カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、デキストリン、アルコール類、グリセリン脂肪酸エステル・グリセリン酢酸脂肪酸エステル・グリセリン乳酸脂肪酸エステル・グリセリンコハク酸脂肪酸エステル・グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム・ステアロイル乳酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチン等の乳化剤、無機塩類、イーストフード、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、コンソメ、ブイヨン、植物及び動物エキス、食品添加物等を挙げることができ、本発明の目的を損なわない限り、任意に添加することができる。
【0038】
上記甘味料としては、例えば、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、液糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、はちみつ、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、ソーマチン、サッカリン、ネオテーム、アセスルファムカリウム、甘草等が挙げられる。本発明では、これらの中から選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0039】
上記デンプンとしては、コーン、ワキシーコーン、タピオカ、馬鈴薯、甘藷、小麦、米等のデンプンや、これらのデンプンをアミラーゼ等の酵素で処理したものや、酸やアルカリ、エステル化、リン酸架橋化、加熱、湿熱等の物理的、化学的処理を行ったもの、更にこれらのデンプンを、水に溶解しやすい様にあらかじめ加熱処理により糊化させたものが挙げられる。本発明では、これらの中から選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
上記卵類としては、全卵、卵黄、加糖全卵、加糖卵黄、乾燥全卵、乾燥卵黄、凍結全卵、凍結加糖全卵、凍結卵黄、凍結加糖卵黄、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
本発明のパン生地の製造方法は、特に限定はなく、速成法、ストレート法、中種法、液種法、サワー種法、酒種法、ホップ種法、中麺法、チョリーウッド法、連続製パン法、冷蔵生地法、冷凍生地法等の製パン法を適宜選択して製造することができる。上記冷凍生地法は、混涅直後に冷凍する板生地冷凍法、分割丸め後に生地を冷凍する玉生地冷凍法、成型後に生地を冷凍する成型冷凍法、最終発酵(ホイロ)後に生地を冷凍するホイロ済み冷凍法等の種々の方法が採用できる。
【0041】
なお、本発明の製パン用醗酵風味改善剤を生地に添加する時期は、最初からパン生地で用いる材料と混合しても良いし、ある程度、生地がまとまってきてから添加してもよい。特にパン生地を製造する際のバターやマーガリンを添加する時期に添加することが好ましい。
【0042】
また上記のパン生地として、食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、デニッシュ生地、ペストリー生地、フランスパン生地をあげることができる。そしてこれらのパン生地を焼成することによりパンを得ることができる。
【0043】
本発明の製パン用醗酵風味改善剤は、イースト臭や醗酵臭が生じやすい白色パンの生地である白色パン生地に添加することにより一層効果を発揮する。
上記の白色パンの製造上の特徴としては、焼成温度が低いことがあげられ、好ましくは160〜180℃、さらに好ましくは165〜175℃である。焼成温度が160℃より低いとパンの骨格形成に時間がかかりボリュームのないパンとなりやすく、180℃よりも高いと目的とする白色のパンが得られにくい。焼成時間は10〜70分程度の範囲で、白色パン生地の大きさ、形態等に合わせて選択すればよい。
また上記の白色パンは甘味料が少ないことも特徴であり、白色パンで用いる小麦粉100質量部に対し、甘味料を好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下とすることが望ましい。
【0044】
本発明のパン生地を焼成したパンを冷凍保存することはもちろん可能である。そして、焼成したパンを冷凍保存したものは、電子レンジで解凍調理することが可能である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例および比較例をあげて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0046】
〔実施例1〕
パーム油23質量%、液状油20質量%を加熱溶解し油相とした。この油相に水相として水47.97質量%及びアルギン酸ナトリウム2.5質量%、卵黄2.7質量%、固形分中のカルシウムの含有量が0.4質量%である乳清ミネラル0.13質量%、脱脂濃縮乳3.7質量%を加え、混合して、油中水型乳化物とした。得られた油中水型乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。さらにエージングをして、本発明の製パン用醗酵風味改善剤である可塑性油中水型乳化物Aを得た。なお乳清ミネラルの水分は63質量%、脱脂濃縮乳の水分は70.88質量%、卵黄の水分は48.2質量%のものを用いた。
【0047】
〔実施例2〕
パーム油23質量%、液状油20質量%を加熱溶解し油相とした。この油相に水相として水48.97質量%及びアルギン酸ナトリウム1.5質量%、卵黄2.7質量%、固形分中のカルシウムの含有量が0.4質量%である乳清ミネラル0.13質量%、脱脂濃縮乳3.7質量%を加え、混合して、乳化物とした。得られた乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。さらにエージングをして、本発明の製パン用醗酵風味改善剤である可塑性油中水型乳化物Bを得た。
【0048】
〔実施例3〕
パーム油23質量%、液状油20質量%を加熱溶解し油相とした。この油相に水相として水50.27質量%及びアルギン酸ナトリウム0.2質量%、卵黄2.7質量%、固形分中のカルシウムの含有量が0.4質量%である乳清ミネラル0.13質量%、脱脂濃縮乳3.7質量%を加え、混合して、乳化物とした。得られた乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。さらにエージングをして、本発明の製パン用醗酵風味改善剤である可塑性油中水型乳化物Cを得た。
【0049】
〔比較例1〕
パーム油45質量%、液状油35質量%を加熱溶解し油相とした。この油相に水相として水13.47質量%、卵黄2.7質量%、固形分中のカルシウムの含有量が0.4質量%である乳清ミネラル0.13質量%、脱脂濃縮乳3.7質量%を加え、混合して、乳化物とした。得られた乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。さらにエージングをして、可塑性油中水型乳化物Dを得た。
【0050】
〔実施例4〕
小麦粉100質量部、生イースト2.5質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖3質量部、食塩1.8質量部及び水60質量部をミキサーボウルに投入して縦型ミキサーにセットし、フックを使用して低速で3分、中速で3分ミキシングした。ここで、上記実施例1で得られた可塑性油中水型乳化物A10質量部を投入し、低速で3分、中速で2分、高速で1分ミキシングして白色パン生地を得た(捏ね上げ温度28℃)。フロアタイム30分をとった後に400gに分割し、さらにベンチタイム20分をとった後、ロール状に成形し、ワンローフ型に詰めた。これを、温度38℃、相対湿度85%で55分ホイロをとった後、固定窯にて170℃で30分焼成し白色パンを得た。
得られた白色パンは袋に入れて、常温で保存した。焼成1日後でも焼成3日後でもイースト臭及び醗酵臭はほとんど感じられなかった。
【0051】
〔実施例5〕
実施例4の可塑性油中水型乳化物Aに代えて、上記実施例2で得られた可塑性油中水型乳化物Bを使用した以外は、実施例4と同様にして実施例5の白色パンを得た。
得られた白色パンは袋に入れて、常温で保存した。焼成1日後、焼成3日後ともにイースト臭及び醗酵臭はほとんど感じられなかった。
【0052】
〔実施例6〕
実施例4の可塑性油中水型乳化物Aに代えて、上記実施例3で得られた可塑性油中水型乳化物Cを使用した以外は、実施例4と同様にして実施例6の白色パンを得た。
得られた白色パンは袋に入れて、常温で保存した。焼成1日後、焼成3日後ともに、イースト臭及び醗酵臭がわずかだが感じられた。
【0053】
〔比較例2〕
実施例4の可塑性油中水型乳化物Aに代えて、上記比較例1で得られた可塑性油中水型乳化物Dを使用した以外は、実施例4と同様にして比較例2の白色パンを得た。
得られた白色パンは袋に入れて、常温で保存した。焼成1日後、焼成3日後ともに、醗酵臭が強く感じられるパンであった。
【0054】
〔比較例3〕
実施例4の可塑性油中水型乳化物Aに代えて、上記比較例1で得られた可塑性油中水型乳化物Dを使用し、白色パン生地の材料としてアルギン酸ナトリウムを0.15質量部加えた以外は、実施例4と同様にして比較例3の白色パンを得た。
得られた白色パンは袋に入れて、常温で保存した。焼成1日後、焼成3日後ともに、醗酵臭がやや強く感じられるパンであった。
【0055】
(硬さの測定方法)
白色パンを3cmの厚さにスライスし、レオメーター( 株式会社レオテック製) にて直径2cmの円盤のプランジャーを用い、テーブルスピード6cm/分にて、半分に圧縮した際の応力を測定した。5サンプルについて測定を行い、平均値を硬さとした。
上記の実施例4、5、6および比較例3で得られた白色パンについて、食感と焼成後1日後、3日後の硬さを評価した。
【0056】
(測定結果)
実施例4で得られた白色パンの焼成後1日後の食感はしっとりしており、硬さは206.8g/cmであった。焼成後3日後の食感はややしっとりしており、硬さは289.9g/cmであった。
実施例5で得られた白色パンの焼成後1日後の食感はしっとりしており、硬さは191.5g/cmであった。焼成後3日後の食感はしっとりしており、硬さは255.4g/cmであった。
実施例6で得られた白色パンの焼成後1日後の食感はややしっとりとしており、硬さは212.8g/cmであった。焼成後3日後の食感はややぱさついており、硬さは306.5g/cmであった。
比較例3で得られた白色パンの焼成後1日後の食感はややぱさついており、硬さは235.5g/cmであった。焼成後3日後の食感はぱさついており、硬さは318.5g/cmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸類を有効成分とする製パン用醗酵風味改善剤。
【請求項2】
乳清ミネラルを含有する請求項1に記載の製パン用醗酵風味改善剤。
【請求項3】
可塑性油中水型乳化物である請求項1または2に記載の製パン用醗酵風味改善剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製パン用醗酵風味改善剤を添加したパン生地。
【請求項5】
白色パン生地である請求項4に記載のパン生地。
【請求項6】
請求項4または5に記載のパン生地を焼成したパン。

【公開番号】特開2011−188807(P2011−188807A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57676(P2010−57676)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】