説明

製パン用食物繊維含有組成物、パン類及びその製造方法

【課題】十分量の食物繊維を含有せしめることができ、良好な品質を有するパン類を製造し得る水溶性食物繊維含有組成物、該組成物を使用した水溶性食物繊維強化パン類及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】水溶性食物繊維材料と油脂の均質混合物を含む製パン用水溶性食物繊維含有組成物であって、水溶性食物繊維材料が85質量%以上の食物繊維を含むこと、水溶性食物繊維材料100質量部に対して20〜100質量部の油脂を含むことを特徴とする、製パン用水溶性食物繊維含有組成物;この組成物を使用して製造される水溶性食物繊維強化パン類;及びこの組成物を、製パン工程の混錬工程に添加することを特徴とする、水溶性食物繊維強化パン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食物繊維を強化するための製パン用食物繊維含有組成物、それを用いて製造される食物繊維が強化されたパン類及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりによって、機能性を有する食品素材を利用した多種多様な食品が数多く上市されている。そのような食品素材のひとつに、食物繊維が挙げられる。食物繊維は、種々の有益な生理作用を有していて、しかも比較的安価な素材であることから、現在、機能性食品の素材として最も注目され、利用されているものである。
食物繊維材料には水に不溶性のものと水溶性のものがある。不溶性のものとしてはセルロース、小麦ふすま、アップルファイバー、さつまいもファイバー、キチンなどが例示される。水溶性のものは更に高粘性物と低粘性物に大別され、高粘性物としてはペクチン、蒟蒻粉(マンナン)、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、グアーガム、寒天など、低粘性物としては難消化性デキストリン、ポリデキストロース、分岐マルトデキストリン、イヌリン、グアーガム分解物などが例示される。これらはコレステロールの低下、血糖値の上昇抑制、整腸作用、大腸ガンの予防、有害物の排泄など種々の生理作用を有している。
【0003】
また、食物繊維材料の一種としてオリゴ糖類が挙げられる。オリゴ糖類は低粘性の水に溶ける糖質で、抗う蝕、低カロリー、整腸作用、ビフィズス菌増殖作用など種々の機能性を有している。例えば、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖などが代表的なオリゴ糖である。
上述したように、近年では食物繊維材料を利用して機能性を付加した食品が数多く上市されているが、食品はたとえ生理機能など特殊な機能を有していても、まずそれぞれの食品として美味しいと感ずるものでなければならず、外観、食感、風味など食品を構成する要素のいずれも満足できるものであることを要する。
【0004】
食物繊維材料の中でも水溶性で低粘性のもの(難消化性デキストリン、ポリデキストロース、分岐マルトデキストリン)やオリゴ糖類は、基本的には食品に使いやすい素材で、飲料、スープ、ヨーグルトなどの水溶性の食品にはさしたる支障はなく必要量を添加できる。
しかしながら、固形状の食品、例えばベーカリー食品では、添加量が増加すると作業性の低下あるいは食感などの品質の悪化を招くという問題が生じる。例えば、難消化性デキストリンをパン類に添加する際、対小麦粉4質量%以下であれば作業性、品質に何ら影響を与えることなく使用することができるが、血糖値上昇抑制効果、整腸作用を意図した特定保健用食品として、対小麦粉10質量%以上を添加すると、難消化性デキストリンの高い水溶性に起因して、グルテンの形成阻害を起こし、ドウの成型を妨げ、作業性の低下、クチャついた食感といった品質の悪化を招くことが確認されている。
また、食物繊維の中でも水溶性で高粘性のもの(アルギン酸、寒天などの増粘多糖類)の場合は、パン類に使用する際、添加量が増加すると硬い食感になり、品質の悪化を招くという問題が生じる。そのためにこれらは品質改良、作業性の改善の目的で、少量を添加しているに過ぎない。
【0005】
これらの問題を解決するために、特に水溶性の食物繊維に対して、ベーカリー食品あるいは麺類に多量に添加するための様々な改善策が、以前から提案されている。特許文献1には、ベーカリー製品を製造するに際し、混捏工程における中種法の本捏過程で水溶性の食物繊維である難消化性デキストリンを添加する方法が提案されているが、製パン適性(製造の作業性)、風味、食感、内相、外観が改善された満足な方法であるとは言えなかった。
特許文献2には、水溶性食物繊維材料と加工澱粉からなる組成物を添加してなる麺類、ベーカリー食品、スナック食品の製造方法が提案されているが、混錬適性(製造の作業性)、風味、食感において満足な方法であるとは言えなかった。
【0006】
特許文献3には、難消化性デキストリンと微細セルロースを含む食物繊維材料を主原料のひとつとして用いた食物繊維強化パン類の製造方法が提案されているが、食感上の問題点が改善された満足な方法ではないのと同時に、コストが高くなる問題点があった。
特許文献4には、水溶性食物繊維と増粘多糖類を混合して乾燥させた組成物が開示されているが、それを用いて製造されるベーカリー食品の食感は必ずしも満足できるものではなかった。
特許文献5には、油脂で被覆された食物繊維が小麦粉生地中に分散してなる焼成食品及びその製造方法が開示されている。この方法は、予め油脂と食物繊維を混錬した後、小麦粉及び副原料を混錬して生地を調製することによる、食物繊維含量が多く、しかもサクサク感を保持した焼成食品を得る方法である。しかしながら、この焼成食品は生地発酵を全く又はほとんど伴わないクッキー、ビスケット、クラッカー類を対象としており、この方法を、イーストによる生地発酵を主体とするパン類の製造に適用した場合の、生地の調製、発酵及び製品の品質に及ぼす影響については全く開示されていない。
すなわち、クッキーやビスケット等の焼成食品における生地の調製においては、グルテン構造の形成を抑制してサクサク感を出すために、油脂等の小麦粉以外の成分を予め混錬し、最後に小麦粉を加えて概ね均一に混合して生地を調製する。従って、油脂で被覆した食物繊維と小麦粉以外の成分を予め混錬した後に小麦粉を加えたとしても問題は生じない。
【0007】
ところが、イーストで生地発酵を行うパン類用生地の調製においては、グルテン構造の形成を促進させるために、小麦等の油脂以外の成分を予め混錬してグルテン構造を形成させた後に油脂を加えるのが常法であり、グルテン構造の形成を阻害する油脂と小麦粉を直接混錬することはしないのが一般的である。従って、油脂で被覆した食物繊維を小麦粉と混錬した場合、生地のグルテン構造形成を阻害する可能性は否定できない。
特許文献6には、油脂、デキストリン類及び乳化剤を含む澱粉質食品生地練り込み用水中油型乳化油脂組成物が開示されているが、この組成物は老化防止を目的としており、製品の品質に影響を及ぼさない範囲でパン類の製造に使用した場合、食物繊維含量は非常に少ないものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−51840
【特許文献2】特開平10−243777
【特許文献3】特開2001−45960
【特許文献4】特開2006−254901
【特許文献5】特開平8−289715
【特許文献6】特開2001−95489
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上述の水溶性食物繊維材料を過剰に添加した際に生じる問題点の解消、すなわち、特に水溶性食物繊維材料を含有せしめたときに問題が生じやすいパン類の製造において、血糖値上昇抑制、整腸作用、脂質代謝の改善などの生理効果が付与される十分量の食物繊維を容易に含有せしめることができ、しかも、良好な品質を有するパン類を容易に製造し得る水溶性食物繊維含有組成物、該組成物を使用した水溶性食物繊維強化パン類及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため、水溶性食物繊維材料と製パンに使用する油脂を一定の比率で混合して得られる水溶性食物繊維含有組成物を油脂の一部又は全部としてパン生地の製造工程に添加した場合、小麦粉と直接混錬しても油脂によるグルテン構造形成の阻害を起こすことがなく、しかも水溶性食物繊維としての添加量が過剰であっても生地調製に悪影響を及ぼすことがなく、製品の外観、内相及び食感を含む品質も優れていることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下に示す、水溶性食物繊維が強化されたパン類の製造に有用な水溶性食物繊維含有組成物、それを使用して製造される水溶性食物繊維強化パン類及びその製造方法を提供するものである。
【0011】
1.水溶性食物繊維材料と油脂の均質混合物を含む製パン用水溶性食物繊維含有組成物であって、水溶性食物繊維材料が85質量%以上の食物繊維を含むこと、水溶性食物繊維材料100質量部に対して20〜100質量部の油脂を含むことを特徴とする、製パン用水溶性食物繊維含有組成物。
2.水溶性食物繊維材料が難消化性デキストリンである上記1記載の製パン用水溶性食物繊維含有組成物。
3.さらに乳化剤を含む上記1又は2に記載の製パン用水溶性食物繊維含有組成物。
4.上記1〜3のいずれか1項に記載の製パン用水溶性食物繊維含有組成物を使用して製造される水溶性食物繊維強化パン類。
5.小麦粉100質量部当りの水溶性食物繊維材料の添加量が、4〜16質量部である、上記4に記載の水溶性食物繊維強化パン類。
6.上記1〜3のいずれか1項に記載の製パン用水溶性食物繊維含有組成物を、製パン工程の混錬工程に添加することを特徴とする、水溶性食物繊維強化パン類の製造方法。
7.混錬工程への添加が、小麦粉と同時添加である上記6に記載の水溶性食物繊維強化パン類の製造方法。
8.製パン用水溶性食物繊維含有組成物の添加量が、小麦粉100質量部に対して水溶性食物繊維材料換算で4〜16質量部である、上記6又は7に記載の水溶性食物繊維強化パン類の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水溶性食物繊維含有組成物は、パン生地の調製において小麦粉と同時に混錬することができるので、これを油脂の全部として用いれば、パン生地の調製工程の簡略化が可能となる。また、本発明の水溶性食物繊維含有組成物を使用することにより、血糖値上昇抑制、整腸作用、脂質代謝の改善などの生理効果を発揮するのに十分な量の水溶性食物繊維を含むパン類を、品質を低下させることなく、しかも容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製パン用水溶性食物繊維含有組成物は水溶性食物繊維材料と油脂を含む。
本発明において「水溶性食物繊維材料」とは、AOAC2001.03による測定値で85質量%以上の食物繊維を含有し、20℃の水100mlに20g以上溶解し、20℃において5質量%水溶液の粘度が20mPas未満の粘度を示す難消化性糖類のことをいう。具体的には、難消化性デキストリン(例えば、市販品としては松谷化学工業株式会社製商品名「ファイバーソル2」)、ポリデキストロース(ダニスコ・カルター社製商品名「ライテス」)、分岐マルトデキストリン(ロケット社製商品名「ニュートリオース」)、イヌリン又はその分解物、グアーガム分解物、あるいはフラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖などの各種のオリゴ糖類などが挙げられる。これらの他にも、上記低粘性、水溶性の条件を満たす難消化性糖類は何れも包含される。本発明で使用する水溶性食物繊維材料は、これら水溶性食物繊維材料の中でも、難消化性デキストリンが最も効果的で好ましい。
【0014】
難消化性デキストリンは、澱粉を加熱分解した後、更に酵素で加水分解し、脱色、脱塩して得られる平均分子量2000前後のデキストリンで、食物繊維含量が通常85質量%以上である。詳しくは、“食品新素材フォーラム”No.3(1995、食品新素材協議会編)に記載されている。
本発明の水溶性食物繊維含有組成物に使用する油脂は、食用油脂であれば特に限定されないが、バター、マーガリン、ショートニング、ラード等は通常のパン類に使用されている点で好ましい。
【0015】
本発明の製パン用水溶性食物繊維含有組成物は、水溶性食物繊維材料1質量部に対し、油脂0.2〜1.0質量部、好ましくは0.2〜0.5質量部を適当な装置、例えば卓上ミキサーを用いて混合し、均質化することにより調製することができる。油脂の比率が0.2質量部未満になると水溶性食物繊維の表面の油脂による被覆が不十分となり、生理機能を発揮するのに十分な量を生地に添加した場合、生地のまとまりが悪くなり、パンの品質も低下する。また、油脂の比率が1.0を超えると、生理効果を発揮するのに十分な量を生地に添加した場合、油脂含量が相対的に増加するために適正な油脂含量にならない。また、均質な組成物を調製することが困難となる。
【0016】
このようにして調製された本発明の製パン用水溶性食物繊維含有組成物は、水溶性食物繊維が油脂で被覆されており、これを水にけん濁した場合、水溶性食物繊維の水への溶出率が低下している点において、単なる混合物とは異なる。本発明の組成物は油脂の種類及び含有量によって、粉末状やペースト状を示すが、これをパン生地に配合する油脂の一部又は全部として使用することができる。
本発明の「水溶性食物繊維材料と油脂のみの均質混合物」の水への溶出率は、本発明の均質混合物(水溶性食物繊維材料として5g)を25℃の水(50ml)にけん濁し、SM−60N型マグネチックスターラー(増田製作所)を用いて目盛り2の回転数で5分間攪拌した後、ブリックス濃度(水溶性固形分濃度)(X)を測定し、同時にコントロールとして、水溶性食物繊維材料(5g)のみを水にけん濁して同じ条件で攪拌した後、ブリックス濃度(Y)を測定し、両者の比率(X/Y)×100(%)から算出される値を意味する。本発明の組成物及び均質混合物の水への溶出率は好ましくは50質量%未満、さらに好ましくは45質量%未満である。
【0017】
また、この組成物の調製時に、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、蔗糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、ステアロイル乳酸カルシウム等の食用乳化剤を添加することにより、組成物の均質化が促進され、より安定な組成物とすることができる。乳化剤の添加量は、組成物の均質化に有効な量であって、生地に配合したときにパンの品質や生地形成に悪影響を及ぼさない範囲に調整すればよい。乳化剤の添加量は、水溶性食物繊維材料に対して好ましくは0.3〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%である。
さらに、必要に応じて脂肪酸エステル等の乳化剤を用いて油脂と水溶性食物繊維材料の乳化液を調製し、これを噴霧乾燥等の方法で乾燥することにより粉末化水溶性食物繊維含有組成物とすることも可能である。
また、抗酸化性ビタミン類、安定剤、小麦グルテン等を副原料として加えることも出来る。
【0018】
本発明の製パン用水溶性食物繊維含有組成物は、パン類用生地に使用する油脂の一部又は全部として、パン類用生地に添加することができる。添加量は、生地中の水溶性食物繊維材料が、小麦粉100質量部当り、好ましくは4〜16質量部、さらに好ましくは8〜16質量部となるように添加すればよい。そうすることにより、一食分のパン(約70g)に含まれる水溶性食物繊維含量が好ましくは2.5g以上、好ましくは5〜7gとなり、生理機能を発揮する摂取量が確保される。
なお、本発明の製パン用水溶性食物繊維含有組成物は、小麦粉と同時に混錬(ミキシングともいう)することができるので、製品中の水溶性食物繊維の必要量と生地に添加する油脂の必要量を同時に満足するように、組成物の食物繊維と油脂の比率を調整すれば、油脂と小麦粉を別々に添加する必要がなくなり、生地の調製工程を簡略することが出来る。
【0019】
本発明におけるパン類とは、小麦粉、イースト、砂糖、食塩、油脂、水及びその他の副原料を混合して得られる生地を発酵させ、これを焼成して製造される食品であり、食パン、菓子パン、フランスパン、スイートロール、バンズ、テーブルロール等のパン類のほか、中華饅頭、イーストドーナツ、ピザ等を例示することが出来る。
【0020】
試験例及び実施例
次に、試験例及び実施例により本発明を具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
試験例1 水溶性食物繊維材料の添加量及び添加方法の製パンに及ぼす影響
以下の中種製パン法による角食パンの製造工程の本捏工程に、表2の配合に従って、小麦粉100質量部に対し、4〜16質量部の難消化性デキストリン(商品名:ファイバーソル2、食物繊維含量:85質量%)を、表1に示す三通りの方法で添加し、生地形成に及ぼす影響(ミキシング時間の遅延)及びパンの品質に及ぼす影響を調べた。
【0021】

【0022】
【表1】

【0023】
混合添加における混合には、品川工業所製の卓上ミキサー5DM型を使用した。ミキサーボールに所定量のショートニングを入れ、ビーターで約3分間低速で攪拌して塊をほぐした後、所定量のファイバーソル2を入れ、ビーターで約2分間低速で攪拌し、次いで高速で3〜5分間攪拌して均質化した。
【0024】
【表2】

(数値は、小麦粉100g当りのグラム数を示す。)
【0025】
以下の評価基準に従って、評価した結果を表3に示す。
ミキシング時間
◎:対照と同等。
○:対照と比べてほぼ同じかあるいは僅かに遅い。
△:対照と比べて遅い。
×:対照と比べて著しく遅い。
外観、内相
◎:対照と同等ないしは対照よりやや良好。
○:対照と比べてほぼ同じ。
△:対照と比べてやや劣る。
×:対照と比べて劣る。
食感
◎:対照と同等。
○:対照と比べてほぼ同じ。
△:クチャツキ、ザラツキのいずれかが見られ、対照と比べてわずかに劣る。
×:クチャツキ、ザラツキのいずれかが明らかに見られ、対照と比べて明らかに劣る。
【0026】
表3の結果から、難消化性デキストリンを本捏で、油脂(ショ−トニング)以外の成分と混合して添加(比較例1)、又は本捏の油脂の添加時に、油脂と混合せずに、油脂と同時に添加(比較例2)した場合は、小麦粉に対して4質量%の添加では対照とほぼ同等の評価となったが、10質量%以上では添加量に依存して製パン工程及びパンの品質に悪影響を及ぼすことが確認された。
一方、本捏の油脂添加時に、予め所定の方法で油脂と混合して添加(混合添加)した場合は、16質量%の添加でも製パン工程及びパンの品質にほとんど影響を与えないことがわかった。
【0027】
【表3】

【0028】
実施例1 パン類用水溶性食物繊維含有組成物の調製
水溶性食物繊維材料として難消化性デキストリン(商品名:ファイバーソル2、食物繊維含量:85質量%)、油脂としてショートニングを用い、両者を質量比1:0.2〜1:1の範囲で混合した。混合には品川工業所製の卓上ミキサー5DM型を使用した。ミキサーボールに所定量のショートニングを入れ、ビーターで約3分間低速で攪拌して塊をほぐした後、所定量のファイバーソル2を入れ、ビーターで約2分間低速で攪拌し、次いで高速で3〜5分間攪拌して均質化し、本発明の組成物1〜5とした。組成物をビニール袋に入れ、室温で一昼夜保存した後、組成物2〜5を製パンに適用した。
【0029】
【表4】

【0030】
また、本発明の組成物2(7.5g)を水温25℃でファイバーソル2として10質量%となるように水(50ml)にけん濁し、SM−60N型マグネチックスターラー(増田製作所)を用いて目盛り2の回転数で所定時間攪拌し、経時的にブリックス濃度(水溶性固形分濃度)を測定した。同時にコントロールとして、ファイバーソル2のみを10質量%となるように水にけん濁して同じ条件で攪拌し、経時的にブリックス濃度を測定した。両者の比率からファイバーソル2の溶出率を算出した。また、参考として、ファイバーソル2(5g)とショートニング(2.5g)を50mlの水にけん濁して同じ条件で攪拌し、経時的にブリックス濃度を測定した(ファイバーソル2+ショートニング)。表5に示した結果から、本発明の組成物中の水溶性食物繊維の水への溶出率は50%未満であり、単なる混合物とは異なることが分かる。
【0031】
【表5】

【0032】
実施例2 製パン試験
実施例1で得られた組成物の内、組成物2〜5を製パンに適用した。製パン方法は試験例1と同じであり、配合は表6に示した。組成物は本捏の油脂(ショートニング)添加時に、残りの油脂と共に添加し、小麦粉当りの難消化性デキストリン及び油脂の配合量がそれぞれ10g及び6gとなるように調整した。対照は、難消化性デキストリンを添加しない配合とし、比較例では、油脂の添加時に、難消化性デキストリンと油脂を混合せずに同時に添加した。
【0033】
【表6】

(数値は小麦粉100g当りのグラム数を示す。)
試験例1と同じ評価基準に従って評価した製パン試験結果を表7に示す。
【0034】
【表7】

【0035】
表7の結果から、難消化性デキストリンに対する油脂の混合比率が1:0.2〜1.0.5の範囲にある組成物2〜5を用いて、難消化性デキストリンの配合量が小麦粉100g当り10gとなるように配合しても、製パンへの悪影響をほとんど及ぼさないことが確認された。
【0036】
実施例3 組成物と小麦粉の同時混錬試験
難消化性デキストリンとショートニングの質量比が1:0.6の組成物を実施例1の方法で調製した。これを表6の実施例と同じ配合となるように本捏に配合し、小麦粉と同時に混錬した(実施例)。また、難消化性デキストリンとショートニングを組成物とせずに、同じ比率で個別に本捏に配合し、小麦粉と同時に混練して比較例とした。このようにして調製した生地のミキシング時間、及びそれを焼成して得られたパンの品質を、試験例1と同じ評価基準で評価した結果を表8に示す。
表8の結果から、難消化性デキストリンとショートニングを組成物とせずに小麦粉と同時に混錬すると、ミキシング及びパンの品質に悪影響を及ぼすが、組成物にして小麦粉と同時に混錬した場合は、ミキシングにほとんど悪影響を及ぼさず、又、パンの品質には全く悪影響を与えないことが分かった。このことから、本発明の組成物を用いることで、本捏における油脂の混錬を一度に行うことが可能となり、難消化性デキストリンの多量配合と生地調製工程の簡略化が同時に達成されることが分かった。
【0037】
【表8】

(評価は、難消化性デキストリンを含まない配合を対照とした。)
【0038】
実施例4 乳化剤を含む組成物の調製と評価
ファイバーソル2の60質量%水溶液に乳化剤として融点が68℃のエマルジーMS(理研ビタミン株式会社)をファイバーソル2に対して10質量%添加し、TK HOMOMIXER MARKII(特殊機化工業株式会社)を用いて、60℃、8000rpm、5分間攪拌した後、180℃に加熱したホットプレート上に滴下して粉末化した。これを実施例1の方法でショートニングと混合し、ファイバーソル2と油脂の質量比が1:0.5及び1:0.375の組成物を調製し、それぞれ組成物6及び7とした。小麦粉に対し、ファイバーソル2として、12質量%となるように組成物6を、又16質量%となるように組成物7を配合して生地を調製した。ファイバーソル2以外の基本配合は、表2と同じ配合とし、本捏において組成物を小麦粉と同時に混錬した。比較例1及び2は試験例1の比較例1及び2にそれぞれ対応させた。これらの方法でそれぞれ生地を調製し、試験例1と同じ方法で製パン試験を行い、試験例1の基準に従って評価した。その結果を表9に示した。
【表9】

表9の結果を表3における混合添加(12%及び16%)の結果と比較すると、乳化剤を含む組成物では、乳化剤を含まない組成物に比べて製パン試験の評価がさらに高くなっていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性食物繊維材料と油脂の均質混合物を含む製パン用水溶性食物繊維含有組成物であって、水溶性食物繊維材料が85質量%以上の食物繊維を含むこと、水溶性食物繊維材料100質量部に対して20〜100質量部の油脂を含むことを特徴とする、製パン用水溶性食物繊維含有組成物。
【請求項2】
水溶性食物繊維材料が難消化性デキストリンである請求項1記載の製パン用水溶性食物繊維含有組成物。
【請求項3】
さらに乳化剤を含む請求項1又は2に記載の製パン用水溶性食物繊維含有組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製パン用水溶性食物繊維含有組成物を使用して製造される水溶性食物繊維強化パン類。
【請求項5】
小麦粉100質量部当りの水溶性食物繊維材料の添加量が、4〜16質量部である、請求項4に記載の水溶性食物繊維強化パン類。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製パン用水溶性食物繊維含有組成物を、製パン工程の混錬工程に添加することを特徴とする、水溶性食物繊維強化パン類の製造方法。
【請求項7】
混錬工程への添加が、小麦粉と同時添加である請求項6に記載の水溶性食物繊維強化パン類の製造方法。
【請求項8】
製パン用水溶性食物繊維含有組成物の添加量が、小麦粉100質量部に対して水溶性食物繊維材料換算で4〜16質量部である、請求項6又は7に記載の水溶性食物繊維強化パン類の製造方法。

【公開番号】特開2010−213654(P2010−213654A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66343(P2009−66343)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】