説明

製剤化用微粒子とそれを含む製剤

【課題】製剤を口腔内で服用するとき、苦味や痺れ感などの口腔内の不快感を隠蔽することが可能であって、かつ、胃内で速やかに有効成分を放出することが可能な製剤化用微粒子とそれを含む製剤を提供する。
【解決手段】製剤化用微粒子は、1つの局面においては、塩基性薬物の酸付加塩および薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物を含んでいるコア粒と、該コア粒の外側に形成された、水不溶性高分子を含んでいる水透過性皮膜からなり、服用時、口腔内で塩基性薬物の拡散溶出は抑制されるが、胃内または小腸上部で皮膜が破れ、速やかに薬物が放出されることを特徴とする。製剤化用微粒子は、別の局面においては、塩基性薬物の酸付加塩を含んでいるコア粒と、該コア粒の外側に形成された、薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物を含んでいる水溶性高分子を含んでいる中間皮膜と、該中間皮膜の外側に形成された、水不溶性高分子を含んでいる水透過性の最外層皮膜からなり、服用時、口腔内で塩基性薬物の拡散溶出は抑制されるが、胃内または小腸上部で最外層皮膜が破れ、速やかに薬物が放出されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性薬物の酸付加塩を含む製剤化用微粒子と、その製剤化用微粒子を含む製剤とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者や小児等、嚥下機能に問題のある患者に適した剤形として、水なしでも容易に服薬できる口腔内崩壊錠が注目されている。口腔内崩壊錠は、文字通り口腔内で崩壊し溶解するため、口腔内での速崩壊性、滑らかな口あたり、味など、服用感がその命ともいえる製剤である。しかるに、医薬有効成分には、苦味、収斂味、痺れ感などの強い癖を有し、服用時に不快感を与えるものが多い。口腔内崩壊錠において、その強烈な苦味や不快感などを低減することは筆舌に尽くしがたいほどに困難である。これまでにも、苦味などの不快感が強い薬物を含有する経口用製剤については、その不快感を感じさせないために種々の検討がされている。医薬品には塩基性薬物の酸付加塩を有効成分とするものが多いが、塩基性薬物の酸付加塩には、苦味や収斂味など口腔内での不快感を有するものが多い。塩基性薬物の酸付加塩の苦味などの不快感を低減させる方法の開発は、口腔内崩壊錠は勿論、散剤、顆粒剤などにおいても重要な課題である。
【0003】
医薬組成物の苦味を低減することを目的とする技術としては、例えば、特開平2−76826号公報(特許文献1)に、苦味を有する酸性の薬物、メントール、及びアルカリ性物質を含有する経口用固形製剤が提案されている。この経口用固形製剤は、薬物が酸性であることから、該薬物及びアルカリ性物質を通常の顆粒の製造法に従い各々別の顆粒とし、次いで得られた二種類の顆粒をメントールの粉末、顆粒もしくは細粒と均一に混合すればよいとされている。このように、安定性を考え、酸性の薬物とアルカリ性物質とを別の顆粒にすることが特徴となっている。
【0004】
また、特開平4−327531号公報(特許文献2)には、pKa4〜11のエステル型プロドラックタイプの塩基性β−ラクタム系抗生物質に薬理学的に許容される弱アルカリ性薬物が配合されてなる苦味の改善された経口医薬用組成物が提案されている。
【0005】
特開平6−206824号公報(特許文献3)には、苦味のある薬剤;アルカリ土類酸化物およびアルカリ土類水酸化物からなる群から選択された塩基性化合物;および薬剤学的に許容されるキャリアからなる、苦味の減少した薬剤組成物が提案されている。
【0006】
特開平4−327529号公報(特許文献4)には、塩基性薬物の酸付加塩を含有する核が、薬理学的に許容される弱アルカリ性化合物にて覆われてなる苦味の改善された経口剤が提案されている。
【0007】
特開2007−238451号公報(特許文献5)には、酒石酸ゾルピデムと塩基性物質とを含有してなり、かつ、酒石酸ゾルピデムと塩基性物質とを水を含有する溶媒の存在下で練合して得られることを特徴とする医薬組成物が提案されている。この医薬組成物は、酒石酸ゾルピデムの苦味などの不快な味が低減されたものである。これは、酒石酸ゾルピデムと塩基性物質とが水の存在下で接触することによって、酒石酸ゾルピデムが解離し、酒石酸ゾルピデムよりも溶解度の低い、フリー体として存在するようになるためと推測されることが説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−76826号公報
【特許文献2】特開平4−327531号公報
【特許文献3】特開平6−206824号公報
【特許文献4】特開平4−327529号公報
【特許文献5】特開2007−238451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の経口固形製剤では、口腔内で製剤が溶けるとき、薬物と弱アルカリが同時に溶解する。そのため、口腔内での酸−アルカリ反応が完了する前に口腔内粘膜に接する酸性の薬物もあり、薬物の苦味を十分に隠蔽することはできない。
【0010】
また、特許文献2に記載の経口医薬用組成物でも、口腔内で組成物が溶けるとき、口腔内での酸−アルカリ反応が完了する前に口腔内粘膜に接する薬物がある。そのため、薬物の苦味を十分に隠蔽することはできない。
【0011】
特許文献3に記載の薬剤組成物は、苦味を有する薬物がアジトロマイシンである場合に有用なものである。特許文献1に記載の経口固形製剤、特許文献2に記載の経口医薬用組成物と同様、汎用性のある薬剤組成物ではない。
【0012】
特許文献4に記載の経口剤においては、口腔内で弱アルカリ性化合物が溶解した後で、核部分に配合された苦味を有する酸付加塩が溶解する。そのため、酸付加塩が完全に弱アルカリ性化合物と反応する前に口腔内と接触して苦味を感じる部分が残る。したがって、苦味の強い薬剤では苦味を十分に隠蔽することはできない。
【0013】
特許文献5に記載の医薬組成物の場合、医薬組成物中に含有される医薬有効成分は、酒石酸ゾルピデムではなくゾルピデムとなる。すなわち、苦みを低減された医薬組成物は、医薬組成物中に酒石酸ゾルピデムを含有する薬剤ではなくなるので、酒石酸ゾルピデムを含む医薬組成物として用いるには好ましくない。
【0014】
これら以外にも、苦みなどの不快感を低減させるものとしては(1)苦味を有する細粒や顆粒剤にフィルムコーティングを施した製剤、(2)苦味のある薬剤を熔融などした脂ロウ状物質中に分散固化し、破砕した細粒剤、(3)砂糖、サッカリン、アスパルテーム、グリチルリチン等の甘味料を配合した顆粒剤や散剤などをあげることができる。しかしながら、これらは、口の中に含んだとき砂のような違和感を感じる、薬物の消化管における溶解性がよくない、苦味の閾値を下げるのに充分でないなどの欠点があり、口腔内崩壊錠などにおける苦味などの低減には不向きな技術である。
【0015】
このように、口腔内崩壊錠などにおいては、多くの塩基性薬物の酸付加塩に観察される、苦味や痺れや服用時の不快感などを低減させる製剤化技術の開発が重要な課題である。しかしながら、汎用性のある苦味などの不快感の低減技術は未だ知られていない。
【0016】
そこで、この発明の目的は、製剤を口腔内で服用するとき、苦味や痺れ感などの口腔内の不快感を隠蔽することが可能であって、かつ、胃内で速やかに有効成分を放出することが可能な製剤化用微粒子とそれを含む製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような状況下、本発明者らは塩基性薬物の酸付加塩を含有する、口腔内でのザラツキ感がなく、かつ苦味の低減された平均粒子径が400μm以下の微粒子の製法検討に着手した。すなわち、まず、製剤化に利用する薬物を含有する微粒子であって、口腔内にふくむとき苦味を感じない微粒子の製法を確立する研究を行った。そして、該微粒子を散剤、顆粒剤、口腔内崩壊錠などの剤形にそのまま配合することによって、苦味が低減され、かつ生物学的利用性の優れた製剤を製造する方法の研究を行った。苦味を十分に低減した平均粒子径が400μm以下の微粒子を製造する技術は未だ知られていない。このような微粒子を製造する技術を開発すれば、汎用性の高い、苦味などの不快感を低減した微粒子とそれを含む製剤の新しい製造技術になると確信して検討を遂行した。
【0018】
その結果、不快な味がする有効成分をそのまま含む平均粒子径が約50〜400μmの微粒子であり、かつ、口腔内で服用するとき、口腔内で不快な味がする有効成分の溶出を防御し、一方、胃内で速やかに有効成分を放出せしめる微粒子を製造する方法を見いだすに至った。
【0019】
すなわち、本発明の一つの局面に従った製剤化用微粒子は、塩基性薬物の酸付加塩および薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物を含んでいるコア粒と、該コア粒の外側に形成された、水不溶性高分子を含んでいる水透過性皮膜からなり、服用時、口腔内で塩基性薬物の拡散溶出は抑制されるが、胃内または小腸上部で皮膜が破れ、速やかに薬物が放出されることを特徴とする。
【0020】
本発明による微粒子の苦味などの低減メカニズムを詳しく述べると次のようになる。塩基性薬物の酸付加塩と、無機または有機塩基性化合物とを含むコア粒を、水不溶性高分子を含んでいる水透過性皮膜(フィルム)で被覆して微粒子を製造する。水不溶性高分子を含んでいる水透過性皮膜は、水透過性皮膜を通してコア粒に水が浸入するように構成されている。この微粒子を口腔内にふくむと、口腔内の唾液が、水不溶性高分子を主体とする水透過性皮膜に存在する空隙を通って微粒子中へ浸入する。微粒子は水不溶性物質を主体とした水透過性皮膜で被膜されているので、このとき、微粒子は形状を保ったままである。微粒子中へ侵入した水によって、コア粒中の塩基性薬物の酸付加塩と塩基性化合物が反応して塩の交換やイオン結合が生じる。このようにして、塩基性薬物の酸付加塩を苦味が低減された化合物に変性させる。このようにすることにより、塩基性薬物の酸付加塩の苦味や収斂味(痺れ)などの不快感を低減させることができる。本発明の一つの局面に従った製剤化用微粒子は、このようにして、口腔内に残留する微粒子が一定時間後に口腔内で崩壊することがあっても、苦味を感じないように工夫したものである。
【0021】
本発明の一つの局面に従った製剤化用微粒子によれば、上述のように、微粒子が壊れる前に、微粒子内部で塩基性薬物の酸付加塩と塩基性化合物またはアミノ酸との酸−アルカリ反応、あるいは交換反応等が起こる。これは偏に、微粒子であるが故に、薄い水透過性皮膜の被覆であっても充分な強度を有した粒子に製造することができ、薄い水透過性皮膜であるが故に唾液(水)が水透過性皮膜の空隙を通してコア粒中へ速やかに浸透し、粒子の形状を保ったままでコア粒中での酸・アルカリ反応を生ぜしめるようにできたことによる効果である。本発明の製剤化用微粒子は、このようにして苦味などの低減を図るもので、これまでにない新しい手法による苦味などの抑制防止法である。さらに、微粒子のコア粒を被覆する水透過性皮膜が薄いため、コア粒中で発生する酸・アルカリ反応や、水透過性皮膜やコア粒の中に同時に配合する水溶性物質、塩基性物質、崩壊剤などの作用が相俟って、内服した後胃内(pH1.0〜5.0)で、水透過性皮膜の溶解や破壊を確実に発生させる。こうして、コア粒中の薬物がコア粒から放出されて、生体内での確実な生物学的利用能の維持に寄与できることも本発明の利点である。
【0022】
このようにすることにより、製剤を口腔内で服用するとき、口腔内での塩基性薬物の酸付加塩の溶出を防ぎ、苦味や痺れ感などの口腔内の不快感を隠蔽することが可能であって、かつ、胃内で速やかに有効成分を放出することが可能な製剤化用微粒子を提供することができる。
【0023】
この発明の一つの局面に従った製剤化用微粒子においては、コア粒は、賦形剤成分を核とし、水溶性高分子を結合剤として製したコーティング溶液を用いて、塩基性薬物の酸付加塩と無機または有機塩基性化合物を同時にあるいは別の層として噴霧し、乾燥することによって製せられることが好ましい。
【0024】
この発明の一つの局面に従った製剤化用微粒子においては、水透過性皮膜は、胃溶性コーティング剤、または、腸溶解性コーティング剤を含むことが好ましい。
【0025】
この発明の一つの局面に従った製剤化用微粒子においては、水透過性皮膜は、水溶性物質、塩基性物質、アミノ酸、ジペプチド、および、崩壊剤の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0026】
この発明の別の局面に従った製剤化用微粒子は、塩基性薬物の酸付加塩を含んでいるコア粒と、該コア粒の外側に形成された、薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物を含んでいる水溶性高分子を含んでいる中間皮膜と、該中間皮膜の外側に形成された、水不溶性高分子を含んでいる水透過性の最外層皮膜とからなり、服用時、口腔内で塩基性薬物の拡散溶出は抑制されるが、胃内または小腸上部で最外層皮膜が破れ、速やかに薬物が放出されることを特徴とする。
【0027】
この発明の別の局面に従った製剤化用微粒子においては、コア粒は、賦形剤成分を核とし、水溶性高分子溶液を結合剤として製したコーティング溶液を用いて、塩基性薬物の酸付加塩を添加したコーティング液を噴霧し、乾燥することによって製せられることが好ましい。
【0028】
この発明の別の局面に従った製剤化用微粒子においては、最外層皮膜は、胃溶性コーティング剤、または、腸溶性コーティング剤を含むことが好ましい。
【0029】
この発明の別の局面に従った製剤化用微粒子においては、最外層皮膜は、水溶性物質、塩基性物質、アミノ酸、ジペプチド、および、崩壊剤の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0030】
この発明に従った製剤化用微粒子においては、薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物は、多塩基性有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミノ酸およびそのアルカリ金属塩またはそのエステル、ジペプチドおよびそのエステル、メグルミン、制酸剤、制酸剤以外の弱塩基性無機化合物から選ばれることが好ましい。
【0031】
この発明に従った製剤化用微粒子においては、平均粒子径が50μm以上400μm以下であることが好ましい。
【0032】
このようにすることにより、口腔内で分散した際に、ザラツキ感のない薬物を含有する粒子として投与できる。
【0033】
この発明に従った製剤は、上記のいずれかの製剤化用微粒子を含むことが好ましい。
【0034】
このようにすることにより、製剤を口腔内で服用するとき、口腔内での塩基性薬物の酸付加塩の溶出を防ぎ、苦味や痺れ感などの口腔内の不快感を隠蔽することが可能であって、かつ、胃内で速やかに有効成分を放出することが可能な製剤化用微粒子を含む製剤を提供することができる。
【0035】
この発明に従った製剤においては、剤形が、散剤、顆粒剤、または、錠剤であることが好ましい。また、剤形が口腔内崩壊錠であることが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、この発明によれば、製剤を口腔内で服用するとき、苦味や痺れ感などの口腔内の不快感を隠蔽することが可能であって、かつ、胃内で速やかに有効成分を放出することが可能な製剤化用微粒子とそれを含む製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0038】
(第1実施形態)
第1実施形態の製剤化用微粒子は、コア粒と、コア粒を被覆する水透過性皮膜とを備える。コア粒は、塩基性薬物の酸付加塩と、薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物とを含む。コア粒の外側には、水溶性高分子を含んでいる水透過性皮膜が形成されている。
【0039】
苦味などの不快感を有する塩基性薬物の酸付加塩としては、塩基性薬物の鉱酸塩や有機酸塩である。具体例としては、塩酸ピオグリタゾン、塩酸エピナスチン、酒石酸ゾルピデム、塩酸キニーネ、塩酸フェキソフェナジン、塩酸オロパタジン、トシル酸スルタミシリン、塩酸アンブロキソール、クエン酸モサプリド、塩酸セトラキサート、塩酸パパベリン、塩酸チクロピジン、塩酸ヒドララジン、塩酸バカンピシリン、塩酸レナンピシリン、塩酸タランピシリン、塩酸クロカプラミン、塩酸クロルプロマジン、塩酸アトモキセチンなどが挙げられる。
【0040】
本発明に関する薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物は、上記の塩基性薬物の酸付加塩を遊離させ、塩の交換やイオン結合を生ぜしめるものである。薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物は、多塩基性有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミノ酸およびそのアルカリ金属塩またはエステル、ジペプチドおよびそのエステル、メグルミン、制酸剤、制酸剤以外の弱塩基性無機化合物から選ばれるものであることが好ましい。
【0041】
具体的には、有機酸のアルカリ金属塩、有機酸のアルカリ土類金属塩としてはクエン酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、マロン酸等のカルボキシル基を2個以上有する有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。アミノ酸およびそのアルカリ金属塩としては、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン等のアミノ酸およびこれらのナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。ジペプチドおよびそのエステルとしてはアスパルテーム等が挙げられる。制酸剤としては、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ヒドロタルシト、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。制酸剤以外の弱塩基性無機化合物としては、リン酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸ナトリウム、炭酸ソーダ等が挙げられる。
【0042】
塩基性化合物の含有量は、塩基性薬物の酸付加塩に対する塩基性化合物それぞれのモル比(塩基性物質又はアミノ酸/塩基性物質の酸付加塩)で0.3以上8以下が好ましく、0.5以上5以下がより好ましく、0.5以上2以下が特に好ましい。0.3未満では必要とする苦味などの低減効果が十分でなく、また8を超える場合、塩基性化合物そのものの味が悪影響を及ぼしたり、薬物やその他の添加剤の安定性に悪影響を及ぼすなどの事態が生じ好ましくない。
【0043】
本発明に供与する塩基性薬物の酸付加塩を含有するコア粒の製造方法はいろいろ考えられる。例えば、核となる粒子の外層に、塩基性薬物の酸付加塩と塩基性化合物を、ヒドロキシアルキルセルロース類、ポリビニルピロリドン、コポリビドンなどの結合剤とともに溶剤に溶解または懸濁し、流動層コーティング装置、転動流動コーティングなどの既知のコーティング装置により、層状に、あるいは混合状態にしてレイアリングしてコア粒を製することができる。
【0044】
また、コア粒に、崩壊剤などその他の医薬品添加物を、目的に応じて、塩基性薬物の酸付加塩と塩基性化合物と一緒に配合することも自由である。
【0045】
コア粒の製造に用いる核としては、できあがりの微粒子の平均粒子径が400μm以下の粒子であることが好ましいため、平均粒子径が200μm以下であることが好ましい。一般の結晶性賦形剤、具体的には結晶乳糖、グラニュー糖、コーンスターチ、結晶セルロース、D−マンニトールなどを用いることができる。製造の操作性の簡便さを考慮すれば、球状に処理された微結晶セルロース粒、D−マンニトール粒、乳糖粒、砂糖粒などを用いることが好ましい。苦味防止という観点を考慮すれば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、重炭酸ナトリウムなどの塩基性物質を核として利用することが有利な場合もある。
【0046】
また、撹拌造粒法、転動流動層造粒法などにより、塩基性薬物の酸付加塩と結合剤に必要に応じて塩基性化合物を混合した処方で、塩基性薬物の酸付加塩を含有する核を製し、その外層に塩基性化合物をレイアリングする方法も採用できる。勿論、塩基性物質で核を造り、その上に塩基性薬物の酸付加塩をレイアリングするなども自由である。レイアリングに用いる溶媒は、水であっても有機溶剤であっても、またその混合物であってもよく、用いる塩基性薬物の酸付加塩、塩基性化合物は自由に選択できる。
【0047】
塩基性薬物の酸付加塩に、必要に応じて塩基性化合物を含有させて製したコア粒の粒子径は、その外層に水不溶性高分子を含む水透過性皮膜を被覆して、その粒子径を約400μm以下とすることが好ましい。そのため、約300μm以下を目標に製剤設計を考えることが好ましい。
【0048】
このようにして製したコア粒の外層として、コア粒の外側に、水不溶性高分子の溶液をコーティングする。水透過性皮膜の基剤は、水不溶性高分子を主体とするものである。水透過性皮膜の基剤の溶液は、水や有機溶剤などの溶媒に、フィルム基剤を溶解または懸濁したものである。コーティングは、流動層コーティング機、転動流動層コーティング機などの装置で行う。このようにすることによって、本発明による製剤化用微粒子を製することができる。
【0049】
水透過性皮膜の基剤の被覆量は、水透過性皮膜の空隙を通して水を通過させ、かつ、一定時間後に確実に水透過性皮膜を崩壊または溶解させることなどを勘案して決定する。被覆量は、コア粒子の粒子径にもよるが、通常コア粒子重量に対し、10重量%以上150重量%以下、好ましくは10重量%以上100重量%以下、更に好ましくは20重量%以上60重量%以下である。
【0050】
コア粒を被覆するための水不溶性高分子としては、エチルセルロース、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタアクリル酸・メタアクリル酸メチル共重合体、メタアクリル酸・メタアクリル酸エチル共重合体、メタアクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体などがある。これらをメタノール、エタノール、イソプロパノール、ジクロルメタンなどの有機溶剤を用いて溶解して使用できることは勿論、これら水不溶性高分子をラテックスの形で含有する水分散液を用いることも自由である。
【0051】
水不溶性高分子を主体とする水透過性皮膜で被覆されたコア粒は、口腔内で一定時間溶解せず、かつ水透過性皮膜の空隙を通して水をコア粒中に浸入させ、一定時間経過後には水透過性皮膜を外部または内部から壊してコア粒中の薬剤を放出させる必要がある。そこで、水不溶性高分子中に水溶性高分子、水溶性物質、塩基性物質、アミノ酸、崩壊剤などを混合したものを用いてコア粒にコーティングし、水不溶性高分子を含む水透過性皮膜の空隙を調節することによって、水の浸入速度を調整することができる。
【0052】
水不溶性高分子を含む水透過性皮膜に配合する水溶性高分子は、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどである。水溶性物質は、糖類や糖アルコール類、甘味剤などである。塩基性物質は、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどである。アミノ酸は、グリシン、アルギニン、アラニンなどである。ジペプチドは、アスパルテームなどである。崩壊剤は、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、軽質無水ケイ酸などである。
【0053】
コア粒を被覆する水不溶性高分子を含む水透過性皮膜は、服用後胃または小腸上部でできるだけ速く溶解または崩壊することが望ましい。そこで、水不溶性高分子を含む水透過性皮膜は、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートなどの胃溶性コーティング剤、または、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタアクリル酸・メタアクリル酸メチル共重合体、メタアクリル酸・メタアクリル酸エチル共重合体、メタアクリル酸・アクリル酸エチル共重合体などの腸溶性コーティング剤であることが最善である。
【0054】
本発明の場合、コア粒中に苦味などの防止に関わる量のアミノ酸を配合できる。このようにすることにより、コア粒中に侵入した水分により、アミノ酸が溶け、原薬と反応し、付加酸との交換反応などが起こり、交換された付加酸やアミノ酸自体の効果によりコア粒の内部からも胃溶性コーティング剤を配合した外層皮膜が壊されることになり、胃または小腸上部での薬物の拡散が確実に生じて好ましい。
【0055】
また、本発明の場合、コア粒中に苦みなどの防止に関わる量を超える量のアミノ酸以外にも塩基性化合物を配合できる。このようにすることによって、コア粒中に侵入した水分により、余分の塩基性化合物などが溶ける。その塩基性化合物などの溶液により、コア粒の内部からも腸溶性コーティング剤を配合した外層皮膜が壊される。このようにして、確実な胃または小腸上部での薬物の拡散が生じて好ましい。
【0056】
以上のように、本発明の第1実施形態の製剤化用微粒子は、塩基性薬物の酸付加塩および薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物を含んでいるコア粒と、コア粒の外側に形成された、水不溶性高分子を含んでいる水透過性皮膜からなり、服用時、口腔内で塩基性薬物の拡散溶出は抑制されるが、胃内または小腸上部で皮膜が破れ、速やかに薬物が放出されることを特徴とする。
【0057】
また、本発明の第1実施形態の製剤化用微粒子においては、コア粒は、賦形剤成分を核とし、これに水溶性高分子に塩基性薬物の酸付加塩および塩基性化合物を添加したコーティング液を噴霧し、乾燥することによって製せられる。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明の製剤化用微粒子の第2実施形態について説明する。
【0059】
第2実施形態の製剤化用微粒子は、コア粒と、コア粒の外側に形成された中間皮膜と、中間皮膜の外側に形成された最外層皮膜とからなる。コア粒は、塩基性薬物の酸付加塩を含む。中間皮膜は、薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物を含んでいる水溶性高分子を含んでいる。最外層皮膜は、水不溶性高分子を含んでいる水透過性の皮膜である。
【0060】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様、コア粒の製造方法はいろいろ考えられる。例えば、核となる粒子の外層に、塩基性薬物の酸付加塩を、ヒドロキシアルキルセルロース類、ポリビニルピロリドン、コポリビドンなどの結合剤とともに溶剤に溶解または懸濁し、流動層コーティング機、転動流動層コーティング機などの既知のコーティング装置により、層状に、あるいは混合状態にしてレイアリングしてコア粒を製することができる。
【0061】
また、第2実施形態においては、このようにして製したコア粒の外側に、中間皮膜として、薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物を含む水溶性高分子の溶液をコーティングする。さらに、中間皮膜の外側に、最外層皮膜として、水不溶性高分子の溶液をコーティングする。コーティングは、流動層コーティング機、転動流動層コーティング機などの装置で行う。このようにすることによって、本発明による製剤化用微粒子を製することができる。
【0062】
以上のように、本発明の第2実施形態の製剤化用微粒子は、塩基性薬物の酸付加塩を含んでいるコア粒と、コア粒の外側に形成された、薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物を含んでいる水溶性高分子を含んでいる中間皮膜と、中間皮膜の外側に形成された、水不溶性高分子を含んでいる水透過性の最外層皮膜からなり、服用時、口腔内で塩基性薬物の拡散溶出は抑制されるが、胃内または小腸上部で最外層皮膜が破れ、速やかに薬物が放出されることを特徴とする。
【0063】
また、本発明の第2実施形態の製剤化用微粒子においては、コア粒は、賦形剤成分を核とし、これに水溶性高分子溶液に塩基性薬物の酸付加塩を添加したコーティング液を噴霧し、乾燥することによって製せられる。
【0064】
本発明の第2実施形態の製剤化用微粒子のその他の構成と効果は、第1実施形態の製剤化用微粒子と同様である。
【0065】
以上で述べた本発明の製剤化用微粒子は、そのまま必要量配合して製剤に製することができる。ここでいう製剤とは、散剤、顆粒剤、錠剤などである。散剤や顆粒は、該製剤化用微粒子をそのまま配合して混合するだけでも製剤化が可能な場合もある。最近注目されている口腔内崩壊錠にする場合、該製剤化用微粒子を配合して製剤化法を工夫することが必要である。
【0066】
本発明で言う口腔内崩壊錠とは、口腔内において、錠剤が一定時間内、具体的には2分以内、好ましくは1分以内に崩壊する錠剤に類する製剤を意味する。具体的には、例えば特開平10−182436号公報、国際公開WO98/02185号、国際公開WO95/20380号などに開示されるものが挙げられる。徐放性微粒子を、適切な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤などとともに口腔内崩壊錠にすることができる。
【0067】
製剤化用微粒子、すなわち、徐放性微粒子の錠剤中の配合量は、錠剤重量に対して10重量%以上70重量%以下が好ましく、更に好ましくは20重量%以上50重量%以下である。徐放性微粒子の配合量が70重量%より多い場合、錠剤、特に口腔内崩壊錠としての溶解特性が達成されないことが懸念される。
【0068】
本発明による製剤は、本発明の製剤化用微粒子を配合するほか、通常において錠剤の製造に用いられる一般的な添加剤を配合することによって製造することができる。
【0069】
賦形剤としては、マンニトール、エリスリトール、乳糖などの糖又は糖アルコール、結晶セルロース、リン酸水素カルシウムなどを用いることができ、結合剤は2重量%水溶液の粘度が50mPa・s以下の結合剤であれば制限されない。崩壊剤としては、通常用いられる、例えばカルメロース、クロスポビドン、コーンスターチ、部分アルファー化デンプン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどを用いることができる。
【0070】
なお、口腔内崩壊錠の場合は、その硬度、崩壊性、含量均一性などへの特別な配慮が必要である。製剤化用微粒子をそのまま糖又は糖アルコール類や選抜した崩壊剤とともに混合して加圧圧縮することにより錠剤に製する方法、あるいは、該製剤化用微粒子を糖又は糖アルコール類や選抜した崩壊剤などと混合し結合剤溶液で造粒して製した粒子に、適切なその他の錠剤用添加剤を混合して加圧圧縮することにより錠剤に製する方法など、いろいろな工夫が考えられることはいうまでもない。また、製剤中に、甘味剤、矯味剤などを配合して、服用感を向上させるなどは自由である。
【0071】
本発明による製剤は、本発明に関わる塩基性薬物の酸付加塩という薬物が有する、口腔内での苦味、収斂味などの不快感を隠蔽する効果や服用感に優れ、かつ、胃内(pH1.0〜5.0)で速やかに崩壊するため、該薬物の生物学的利用性についても問題がないものであって、経口用固形剤として優れたものといえる。
【実施例】
【0072】
以下に限定を意図しない実施例によって、本発明を例証する。
【0073】
(実施例1)
塩酸ピオグリタゾン330.6g、ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)165.3g、アスパルテーム(味の素株式会社)165.3g、ポリソルベート80(日光ケミカルズ株式会社)30gを秤量し、水4239.9g、エタノール223.2gに溶解、分散して分散液を得た。
【0074】
結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)400gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、コア粒Aを得た。
【0075】
アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギットE100:エボニックデグサジャパン株式会社)96.0g、含水二酸化ケイ素(カープレックス:DSL.ジャパン株式会社)24.0gを秤量し、エタノール777.5g、水86.5gに溶解、分散して分散液を得た。
【0076】
コア粒A400gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、製剤化用微粒子として被覆粒Aを得た。
【0077】
(実施例2)
塩酸ピオグリタゾン330.6g、ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)160g、グリシン(有機合成薬品工業株式会社)160gを秤量し、水3532.3g、エタノール883.1gに溶解、分散して分散液を得た。
【0078】
結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)400gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、コア粒Bを得た。
【0079】
アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギットE100:エボニックデグサジャパン株式会社)78.0g、エチルセルロース(ダウ・ケミカル日本株式会社)26g、L‐アルギニン(味の素株式会社)8g、含水二酸化ケイ素(カープレックス:DSL.ジャパン株式会社)32g、タルク(松村産業株式会社)16gを秤量し、エタノール842.4g、水93.6gに溶解、分散して分散液を得た。
【0080】
コア粒B 400gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、製剤化用微粒子として被覆粒Bを得た。
【0081】
(実施例3)
塩酸ピオグリタゾン330.6g、ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)200g、グリシン(有機合成薬品工業株式会社)160g、ポリソルベート80(日光ケミカルズ株式会社)10gを秤量し、水3820.3g、エタノール955.1gに溶解、分散して分散液を得た。
【0082】
防水下掛けコーティングを施した結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)399.4gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、コア粒Cを得た。
【0083】
アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギットE100:エボニックデグサジャパン株式会社)100.8g、エチルセルロース(ダウ・ケミカル日本株式会社)3.2g、L‐アルギニン(味の素株式会社)4.8g、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)3.2g、含水二酸化ケイ素(カープレックス:DSL.ジャパン株式会社)32g、タルク(松村産業株式会社)16gを秤量し、エタノール842.4g、水93.6gに溶解、分散して分散液を得た。
【0084】
コア粒C 400gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、製剤化用微粒子として被覆粒Cを得た。
【0085】
被覆粒C154g、直打用マンニトール(グラニュトールR:フロイント産業株式会社)140g、クロスポビドン(コリドンCL−SF:BASFジャパン株式会社)13.6g、結晶セルロース(アビセルPH−101、PH−802:旭化成ケミカルズ株式会社)23.8g、含水二酸化ケイ素(カープレックス:DSL.ジャパン株式会社)5.2g、フマル酸ステアリルナトリウム(JRSファーマ)3.4gを秤量し、混合した。
【0086】
得られた混合末を、打錠機(VIRGO:株式会社菊水製作所)を用い9.5mmΦ隅丸平面杵を用い、打錠圧10.8(KN/cm)にて打錠し、1錠あたり340mgの錠剤Cを製剤として得た。実施例で得られた錠剤の口腔内崩壊を測定した結果、n=3の平均値は20秒以内であった。
【0087】
(比較例1)
塩酸ピオグリタゾン330.6g、ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)165.3g、ポリソルベート80(日光ケミカルズ株式会社)30gを秤量し、水892.6g、エタノール3570.5gに溶解、分散して分散液を得た。
【0088】
結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)400gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、コア粒aを得た。
【0089】
アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギットE100:エボニックデグサジャパン株式会社)120.0g、エチルセルロース(ダウ・ケミカル日本株式会社)8.0g、含水二酸化ケイ素(カープレックス:DSL.ジャパン株式会社)32gを秤量し、エタノール1036.8g、水115.2gに溶解、分散して分散液を得た。
【0090】
コア粒D400gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、被覆粒aを得た。
【0091】
(比較例2)
塩酸ピオグリタゾン330.6g、ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)82.7g、ポリソルベート80(日光ケミカルズ株式会社)30gを秤量し、水3719.7gに溶解、分散して分散液を得た。
【0092】
結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)800gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、コア粒bを得た。
【0093】
(比較例3)
塩酸ピオグリタゾン330.6g、ポビドン(グレードK90:BASFジャパン株式会社)82.7gを秤量し、水743.9g、エタノール2975.8gに溶解、分散して分散液を得た。
【0094】
結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)400gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、コア粒cを得た。
【0095】
(比較例4)
塩酸ピオグリタゾン330.6g、ヒドロキシプロピルセルロース(グレードL:日本曹達株式会社)82.7gを秤量し、水743.9g、エタノール2975.8gに溶解、分散して分散液を得た。
【0096】
結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)400gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、コア粒dを得た。
【0097】
(比較例5)
ヒドロキシプロピルセルロース(グレードL:日本曹達株式会社)96g、エチルセルロース(ダウ・ケミカル日本株式会社)32g、含水二酸化ケイ素(カープレックス:DSL.ジャパン株式会社)32gを秤量し、エタノール3724.80g、水413.87gに溶解、分散して分散液を得た。
【0098】
比較例1で製造したコア粒a 400gを転動流動層造粒・コーティング機(SFC‐MINI:フロイント産業株式会社)に仕込み、上記分散液を噴霧し、被覆粒eを得た。
【0099】
(試験例1)
実施例1〜3及び比較例1〜4で得られたコア粒A,B,C,a,b,c,dの、ピオグリタゾンとして30mg相当量におけるpH3.0(McIlvaine緩衝液)、900mL、50rpm(パドル法)での溶出試験を行った。結果を表1に示す。表中実施例1および2、比較例2〜4はn=3の平均値、比較例1はn=2の平均値を示した。
【0100】
【表1】

【0101】
表1に示したように、本発明の製造方法により得られたコア粒は、優れた塩酸ピオグリタゾン溶出性を示した。
【0102】
(試験例2)
実施例1〜3及び比較例1で得られた被覆粒A,B,C,aの、ピオグリタゾンとして30mg相当量におけるpH3.0(McIlvaine緩衝液)、900mL、50rpm(パドル法)での溶出試験を行った。結果を表2に示す。
【0103】
【表2】

【0104】
表2に示したように、本発明の製造方法により得られた被覆粒は、優れた苦味・痺れなどの隠蔽効果と優れた塩酸ピオグリタゾンの溶出性を示した。それに対し、比較例1は苦味・痺れなどの隠蔽効果を有するものの、溶出性は劣るものであった。
【0105】
(試験例3)
実施例3及び比較例5で得られた被覆粒C、eの、ピオグリタゾンとして30mg相当量におけるpH1.2(日本薬局方第1液)、pH2.0(KCl/HCl緩衝液)、900mL、50rpm(パドル法)での溶出試験を行った。結果を表3に示す。
【0106】
【表3】

【0107】
表3に示したように、本発明の製造方法により得られた被覆粒は、優れた塩酸ピオグリタゾン溶出性、およびピオグリタゾンまたはその塩による不快な味(苦味)、痺れに対し優れた隠蔽効果を示した。
【0108】
(試験例4)
実施例3で得られたピオグリタゾンとして30mgの錠剤CのpH2.0(KCl/HCl緩衝液)、pH3.0(McIlvaine緩衝液)、900mL、50rpm(パドル法)での溶出試験を行った。結果を表4に示す。表中の溶出率はn=3の平均値を示した。
【0109】
【表4】

【0110】
表4に示したように、本発明の錠剤は、優れた塩酸ピオグリタゾン溶出性を示すとともに、ピオグリタゾンまたはその塩による不快な味(苦味)、痺れも顕著に隠蔽された。
【0111】
(実施例4)
塩酸キニーネを25g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L:日本曹達株式会社)を6.25gとり、エタノール225gと水56.25gの混合溶液に溶解してレイアリング溶液とする。結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)400gを転動流動型コーティング造粒機(MP−01:株式会社パウレック)に仕込み、上記レイアリング溶液を噴霧し、コア粒を得た。
【0112】
ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)14.73g、マクロゴール6000(日本油脂株式会社)4.09g、エチルセルロース(ダウ・ケミカル日本株式会社)1.66gをとり、エタノール188.39gと水47.16gの混合液に溶解して被覆液Dを得た。炭酸水素ナトリウム7.55g、ポビドン(商品名:コリドン30、BASF社製)1.24gをとり水60.52gに溶解して被覆液Eを得た。また、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(商品名:AEA)161.5gをとり、エタノール1163gと水291gの混合液に溶解して被覆液Fを得た。
【0113】
コア粒409.7gを転動流動型コーティング造粒機MP−01に仕込み、被覆液Dを噴霧コーティングし、次いで被覆液Eを、最後に被覆液Fを噴霧コーティングして塩酸キニーネ・炭酸水素ナトリウム包含微粒子を製剤化用微粒子として得た。
【0114】
得られた微粒子は、口腔内に含むとき、1分以上苦味を感じず、かつ日本薬局方崩壊試験第1液でパドル法50rpmにて溶出試験を行うとき、5分以内に塩酸キニーネの100%の溶出を示した。
【0115】
(実施例5)
塩酸エピナスチンを137.5g、ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)を47.3gをとり、水1415.7gに溶解・分散してレイアリング溶液を得た。結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)550gを転動流動型コーティング造粒機(MP−01:株式会社パウレック)に仕込み、上記レイアリング溶液を噴霧し、コア粒を得た。
【0116】
ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)30g、マクロゴール6000(日本油脂株式会社)3.4gをとり、水630gに溶解して被覆液Gを得た。L−アルギニン7.5g、アスパルテーム10g、ヒプロメロース(グレードE:信越化学工業株式会社)5gをとり、水225gに溶解して被覆液Hを得た。また、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(オイドラギットE100:エボニックデグサジャパン株式会社)200g、含水二酸化ケイ素(カープレックス:DSL.ジャパン株式会社)50gをとり、エタノール1,800gと水200gの混合液に溶解または懸濁して被覆液Iを得た。
【0117】
コア粒668gを転動流動型コーティング造粒機MP−01に仕込み、被覆液Gを噴霧コーティングし、次いで被覆液Hを、最後に被覆液Iを噴霧コーティングして塩酸エピナスチン・L−アルギニン包含微粒子を製剤化用微粒子として得た。
【0118】
得られた微粒子は、口腔内に含むとき、1分以上苦味を感じず、かつ日本薬局方崩壊試験第1液でパドル法50RPMにて溶出試験を行うとき、5分以内に塩酸エピナスチンの100%の溶出を示した。
【0119】
(実施例6)
塩酸エピナスチンを137.5g、ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)を47.3gをとり、水1415.7gに溶解・分散してレイアリング溶液を得た。結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)550gを転動流動型コーティング造粒機(MP−01:株式会社パウレック)に仕込み、上記レイアリング溶液を噴霧し、コア粒を得た。
【0120】
ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)20g、D−マンニトール(ロケットジャパン)20g、マクロゴール6000(日本油脂株式会社)3gをとり、水630gに溶解して被覆液Jを得た。メグルミン7.5g、スクラロース10g、ヒプロメロース(グレードE:信越化学工業株式会社)5gをとり、水225gに溶解して被覆液Kを得た。またエチルセルロース64g、ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)16gをとり、エタノール1,216gと水304gの混合液に溶解または懸濁して被覆液Lを得た。
【0121】
コア粒668gを転動流動型コーティング造粒機MP−01に仕込み、被覆液Jを噴霧コーティングし、次いで被覆液Kを、最後に被覆液Lを噴霧コーティングして塩酸エピナスチン・メグルミン包含微粒子を製剤化用微粒子として得た。
【0122】
得られた微粒子は、口腔内に含むとき、1分以上苦味を感じず、かつ日本薬局方崩壊試験第1液でパドル法50RPMにて溶出試験を行うとき、5分以内に塩酸エピナスチンの85%以上の溶出を示した。
【0123】
(実施例7)
塩酸エピナスチンを137.5g、ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)を47.3gとり、水1415.7gに溶解・分散してレイアリング溶液を得た。結晶セルロース球状顆粒(セルフィアCP102:旭化成ケミカルズ株式会社)550gを転動流動型コーティング造粒機(MP−01:株式会社パウレック)に仕込み、上記レイアリング溶液を噴霧し、コア粒を得た。
【0124】
ヒプロメロース(グレードR:信越化学工業株式会社)20g、D−マンニトール(ロケットジャパン)20g、マクロゴール6000(日本油脂株式会社)3gをとり、水630gに溶解して被覆液Mを得た。酸化マグネシウム(軽質:富田製薬)15g、スクラロース10g、ヒプロメロース(グレードE:信越化学工業株式会社)5gをとり、水225gに溶解して被覆液Nを得た。ヒプロメロース(グレードE)22.2gをとり、水532.8gに溶解して被覆液Oを得た。また、ヒプロメロースフタレート(HP−50:信越化学工業株式会社)を67.2g、マクロゴール6000を16.8gとり、エタノール1,276gと水319の混合液に溶解または懸濁して被覆液Pを得た。
【0125】
コア粒668gを転動流動型コーティング造粒機MP−01に仕込み、被覆液Mを噴霧コーティングし、次いで順に被覆液Nと被覆液Oを、最後に被覆液Pを噴霧コーティングして塩酸エピナスチン・酸化マグネシウム包含微粒子を製剤化用微粒子として得た。
【0126】
得られた微粒子は、口腔内に含むとき、1分以上苦みを感じず、かつpH4.0(McIlvaine緩衝液)、900mL、50rpm(パドル法)にて溶出試験を行うとき、10分以内に塩酸エピナスチンの90%以上の溶出を示した。
【0127】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性薬物の酸付加塩および薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物を含んでいるコア粒と、
該コア粒の外側に形成された、水不溶性高分子を含んでいる水透過性皮膜からなり、
服用時、口腔内で塩基性薬物の拡散溶出は抑制されるが、胃内または小腸上部で皮膜が破れ、速やかに薬物が放出されることを特徴とする製剤化用微粒子。
【請求項2】
前記コア粒は、賦形剤成分を核とし、これに水溶性高分子溶液に前記塩基性薬物の酸付加塩および前記塩基性化合物を添加したコーティング液を噴霧し、乾燥することによって製せられる請求項1に記載の製剤化用微粒子。
【請求項3】
前記水透過性皮膜は、胃溶性コーティング剤、または、腸溶性コーティング剤を含む、請求項1または請求項2に記載の製剤化用微粒子。
【請求項4】
前記水透過性皮膜は、水溶性物質、塩基性物質、アミノ酸、ジペプチド、および、崩壊剤の少なくとも1つを含む、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の製剤化用微粒子。
【請求項5】
塩基性薬物の酸付加塩を含んでいるコア粒と、
該コア粒の外側に形成された、薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物を含んでいる水溶性高分子を含んでいる中間皮膜と、
該中間皮膜の外側に形成された、水不溶性高分子を含んでいる水透過性の最外層皮膜からなり、
服用時、口腔内で塩基性薬物の拡散溶出は抑制されるが、胃内または小腸上部で最外層皮膜が破れ、速やかに薬物が放出されることを特徴とする製剤化用微粒子。
【請求項6】
前記コア粒は、賦形剤成分を核とし、これに水溶性高分子溶液に前記塩基性薬物の酸付加塩を添加したコーティング液を噴霧し、乾燥することによって製せられる請求項5に記載の製剤化用微粒子。
【請求項7】
前記最外層皮膜は、胃溶性コーティング剤、または、腸溶性コーティング剤を含む、請求項5または請求項6に記載の製剤化用微粒子。
【請求項8】
前記最外層皮膜は、水溶性物質、塩基性物質、アミノ酸、ジペプチド、および、崩壊剤の少なくとも1つを含む、請求項5から請求項7までのいずれか1項に記載の製剤化用微粒子。
【請求項9】
前記薬学的に許容される無機または有機塩基性化合物は、多塩基性有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミノ酸およびそのアルカリ金属塩またはエステル、ジペプチドおよびそのエステル、メグルミン、制酸剤、制酸剤以外の弱塩基性無機化合物から選ばれる請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の製剤化用微粒子。
【請求項10】
平均粒子径が50μm以上400μm以下である、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の製剤化用微粒子。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の製剤化用微粒子を含む、製剤。
【請求項12】
剤形が、散剤、顆粒剤、または、錠剤である、請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
剤形が口腔内崩壊錠である、請求項11に記載の製剤。

【公開番号】特開2012−240917(P2012−240917A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108938(P2011−108938)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(596166690)全星薬品工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】