説明

製剤用核剤

【課題】遠心流動造粒装置または流動層装置を用いた球状製剤であって、徐放剤や腸溶剤等を均質にコートした医薬用製剤または農薬等の農業用副資材を、生産性高く、かつ、収率良く生産できる核剤および該核剤を核とした製剤を提供する。
【解決手段】球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を核剤として用いることにより、遠心流動造粒装置または流動層装置内において、良好な流動状態を示し、製剤を収率良く製造することができる。更には、嵩密度を高くすることで、粒子サイズも数10ミクロンから200ミクロン程度の小さな粒子でも安定して製剤を製造することができ、主薬剤および徐放性製剤や腸溶性製剤等を均一にコートした後でも、500ミクロン以下の製剤とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を有効成分とする核剤に関する。更に詳しくは、徐放剤や腸溶剤等を製剤表面にコートした医薬用製剤または農薬等の農業用副資材等のための核剤および該核剤を核とした製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
核剤は農薬、医薬、食品、電気等あらゆる分野で使用されているが、医薬用に使用される球状粒子の核剤は、主に徐放性製剤や腸溶性製剤等の多層コート製剤に利用されている。従来の核剤には生成白糖、精製白糖、トウモロコシデンプンまたは結晶セルロースを主な原料とした有機物系の球状核剤が主流であった。しかしながら医薬剤である原料とメイラード反応等を起こし褐変反応を起こす等のトラブルがあり、近年、特許文献1に示されたように、医薬剤との反応性が低い乳糖、糖アルコールおよびビタミンCを用いた核剤が提供されるようになった。しかしながら、その粒子の嵩密度が0.7〜0.8g/mL程度と低いため、流動層内での固体流動層が希薄となり、送風量または薬剤コーティングのためのスプレーノズルからの噴霧圧力を高めることが出来ず、スプレー液のミストがバインダーとなって薬剤同士の凝集で団粒を発生する問題があった。そのため、特許文献2では流動層内の流動化エアーとスプレー注液との熱的な平衡状態を最適に保つ方法を開示した。流動層による造粒・コーティング方法には、特許文献3に示されたように、膜剤液等のミストを噴霧してコーティング処理を行うもので、噴霧方法は、流動層の上部から下方向に処理液をスプレーするトップスプレー方式、処理容器の底部から上方向にスプレーするボトムスプレー方式、処理容器の側部から接線方向に処理液をスプレーするタンジェンシャルスプレー方式がある。
【特許文献1】特開平11−92403号公報
【特許文献2】特開2000−296322号公報
【特許文献3】特開2003−1091号公報
【0003】
しかしながら、これらの方法をもってしても団粒の発生は回避できず、気液比を高くすると生産能力が低下する問題がある。更には、流動化エアーを多くすると、高価な薬剤の収率が非常に悪いものとなった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、遠心流動造粒装置または流動層装置を用いた球状製剤であって、徐放剤や腸溶剤等を均質にコートした医薬用製剤または農薬等の農業用副資材を、生産性高く、かつ、収率良く生産できる核剤および該核剤を核とした製剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み、微小粒子径で且つ徐放剤や腸溶剤等の均質皮膜製剤を収率よく得るため、製剤の造粒用核剤として、重質で球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を用いることで解決できることを見出した。
【0006】
例えば、遠心流動造粒装置または流動層装置を用い、徐放剤や腸溶剤のコーティング膜を形成させる場合の該コーティング膜を一定量で均質な膜形成を得るには、球状粒子が好ましい。球状製剤を得るには、主薬剤自身を、流動造流装置を用いて球状にし、その上からコーティング剤で表面被服した薬剤とすることも出来るが、粒子サイズが揃わず収率が悪いため、通常は粗粒、細粒をカットした一定サイズの核剤を使用している。
【0007】
従来の核剤は粒子の嵩密度が0.7〜0.8g/mL程度と低い問題がある。すなわち、均質な微粒子で球状製剤の製造および徐放性製剤や腸溶性製剤等を均一にコートするためには、粒子が十分な流動状態でなければならない。そのためには流動層内の送風量を多くし流動状態を良くした状態で、且つ、噴霧エアー量と主薬剤またはコート剤の噴霧量との比(気液比NL/Kg)を高め、極微細粒子のミストにする必要があった。しかしながら、この気液比が大きいとコーティング処理に時間が掛かり生産能力は低下する。また、従来の嵩密度が低い核剤の場合、十分な送風量や噴霧圧力では、造流装置内の流動粒子の濃度が低くなるため、薬剤を効率よく噴霧することが出来なかった。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、球状の多結晶酸化マグネシウム粒子が遠心流動造粒装置または流動層装置内において、良好な流動状態を示すことが分かり、本発明に至ったのである。更には、嵩密度を高くすることで、粒子サイズも数10ミクロンから200ミクロン程度の小さな粒子でも安定して製剤を製造することが出来るため、主薬剤および徐放性製剤や腸溶性製剤等を均一にコートした後でも、500ミクロン以下の製剤とすることができる。本来、医薬品は必要最小限で効率よく効くことが人体にとって有用である。微粒子であれば重量あたりの表面積が大きく、効率よく特定部位で溶けるため、人体への吸収がより効果的になる。従って、服用量も少なくてすみ、嵩密度の高い球状の多結晶酸化マグネシウ粒子を核剤として使用することが有用となる。今後、医療用製剤における微粒子化は重要な課題であろう。
【0009】
本発明の酸化マグネシウム粒子は、医薬製剤にも使用できる日本薬局方に適合した酸化マグネシウム粒子を用いることが好ましく、また、特定サイズの酸化マグネシウム粒子を安定に且つ安易に大量に生産する方法として、マグネシウム原料の水溶液を噴霧乾燥することで球状の粒子を得たのち、特定の温度で焼成することにより、好ましい球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を得ることが出来る。
【0010】
本発明に使用する球状多結晶酸化マグネシウム粒子は、例えば特開平1−31592に示された方法により得ることができるが、該発明に限定されるものではない。例えば水溶性マグネシウム塩と水溶性アルカリを化学量論的に当量または弱酸性側で反応層にて混合し、50〜150℃で0.5時間〜数10時間熟成し、得られた固形物を個液分離した後、該固形物を精製水で十分洗浄した後、再乳化したものを噴霧乾燥し球状の水酸化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムを得る。水酸化マグネシウムが、マグネシウム濃度が高いためより好ましい。
【0011】
再乳化の際には目的の範囲の球状粒子を得るためにバインダーを加えても良い。
【0012】
得られた球状マグネシウム化合物を1100℃〜1500℃、好ましくは1200℃〜1400℃で焼成することにより球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を得ることができる。また、例えばマグネシウム塩の水溶液を噴霧乾燥することによって得られた球状のマグネシウム塩を同様に焼成して得ることができる。
【0013】
噴霧乾燥後、焼成して酸化マグネシウム粒子を得ることから、焼成前のマグネシウム濃度は高いほうが焼結による収縮が小さく結晶粒界の空隙も少なくなるので嵩密度を上げるために有利である。
【0014】
焼成温度が1100℃未満であると焼結が弱く流動層において製剤を作る場合、球状粒子が壊れ団粒となりやすく、また、目的の一つである嵩密度も高くならず、薬剤の収率低下を招く。一方1600℃以上の温度で焼成すれば焼結が極端に進み、球状粒子として取り出すことが困難であり、流動層による薬剤の均一コートができない、または、球状粒子となり難い。また強い粉砕処理を必要とし、過粉砕により求める粒度範囲の収率が悪くコスト的に不利である。更には、局方の酸化マグネシウム粒子に要求される酸不溶分が増加することになる。
【0015】
得られた酸化マグネシウム粒子は、好ましい焼成条件であっても球状粒子同士が一部溶融結合することもあり、その場合は球状を破壊しない条件下で粉砕する必要がある。
【0016】
本発明に用いる水溶性マグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等の水溶性マグネシウム塩を例示できる。アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、アンモニア等を例示できる。
【0017】
バインダーとしては、例えば、ポリビニールアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンワックス、ポリアクリル酸、ポリ酢酸ビニル、スチレン−アクリル共重合体、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム等の有機接着剤が好ましい例として挙げられる。
【0018】
焼成に関しては、1100℃〜1500℃の範囲で焼成できる装置であれば良く、大気、酸素、窒素等の雰囲気中でロータリーキルン、トンネル炉、マッフル炉等によって焼成することができる。
【0019】
本発明の球状の多結晶酸化マグネシウム粒子の好ましい形態は、該酸化マグネシウム粒子の嵩密度が1.0g/mL以上好ましくは1.2g/mL〜1.6g/mLの範囲で、且つ、平均粒子サイズが10μm〜250μm、好ましくは20μm〜200μmである球状多結晶酸化マグネシウム粒子が流動安定性に特に優れており好適である。また、球状としては真球状が好ましいが、短直径/長直径の比が1/1.2程度の球状のものでも良い。
【0020】
本発明の、球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を核剤とする製剤の主薬剤は、医薬品であれば、内服用薬剤であれば何れを用いても良く、特に限定されるものではないが、次のようなものが例示できる。例えば、解熱鎮痛剤、鼻炎薬、循環器系薬、消化器系薬、抗生物質、化学療法剤、ビタミン剤、麻薬性鎮痛剤、ホルモン剤、抗うつ薬、抗炎症薬、抗精神薬とうが例示される。また、農薬等の農業用資材であっても、その薬剤は特に限定されるものではない。
【0021】
得られた球状多結晶酸化マグネシウム粒子を核に、有効薬剤を流動装置にて噴霧しながら積層させる事も可能であるが、該球状多結晶酸化マグネシウム粒子は、弱アルカリ性を示すため、予め乳糖など反応性の少ない薬剤を球状多結晶酸化マグネシウム粒子にコートしたものを核剤として利用することもできる。また、例えば、糖アルコール、ビタミンCおよび塩化ナトリウム等の球状粒子を作成するための核剤として利用することもできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を製剤の核剤とすることで医薬品または農薬等の農業用副資材を均一な球状微粒子を効率よく得ることができるようになった。特に、これまで困難であった100ミクロン以下の均一な球状粒子を得ることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に実施例として例示するが、本方法に限定されるものではない。また、酸化マグネシウムの分析値は下記の方法にて測定した。
【0024】
・粒度分布測定方法:レーザー光回折散乱法(HORIBA LA910装置)により、イオン交換水200mLを循環しながら、MgO粉末約0.2gを投入し30秒後に測定。
・見掛け比重:JIS K 6220法にて測定。
・MgO含量、不純物、強熱減量:局法酸化マグネシウムの試験法に順ずる。
・粒子形状:走査型電子顕微鏡観察
団粒率:使用核剤の最大粒子径に対し約1.4倍以上の粒子径のものとした。
【実施例1】
【0025】
和光純薬製の試薬1級の塩化マグネシウムをイオン交換水に溶かし1.5モル/L水溶液とし、その200Lを500Lのステンレス製反応容器に投入し、攪拌しながら25℃に調節した後、次いでイオン交換水に溶かした25℃の4モル/Lの試薬1級の水酸化ナトリウム水溶液120Lを攪拌しながら10分間で塩化マグネシウム水溶液中に投入し、更に5分間攪拌を継続した。その後、攪拌しながら反応物スラリーを90℃〜95℃の範囲で15時間加熱熟成した後、冷却後、プレス機により個液分離し、固形物を十分にイオン交換水で洗浄した。
【0026】
得られた水酸化マグネシウムを再びイオン交換水に乳化させ、約20重量%のスラリーとし、水酸化マグネシウムに対しカルボキシメチルセルロースを1重量%加え、均一に混合後ノズル式スプレードライヤーを用いて、ノズル径1.3mmにより乾燥した。得られた水酸化マグネシウムの粒子は、操作電子顕微鏡観察によれば、球状で平均粒子径は約150ミクロンであった。
【0027】
このスプレー乾燥された水酸化マグネシウムを、カンタル炉で1000℃、1200℃、1300℃、1400℃、1600℃にてそれぞれ2時間焼成した。得られた酸化マグネシウムをボールミルで0.5〜2時間粗砕し42メッシュ金網で篩過した。得られた球状の多結晶酸化マグネシウム粒子の分析値を表1に示す。
【0028】
【表1】

【実施例2】
【0029】
マグネシウム原料に、塩化カルシウムを塩化マグネシウムに対し50重量%含有するイオン苦汁を用い、また、スプレー乾燥はアトマイザー18000rpmで行った他は、実施例1と同様にして球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を得た。得られた酸化マグネシウム粒子をボールミルで0.5〜2時間粗砕し200メッシュ金網で篩過した。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【実施例3】
【0031】
実施例1および比較例3で得られたそれぞれの球状多結晶酸化マグネシウム粒子を、更には、比較例として市販の結晶セルロース系核剤(商品名セルフィアSCP-100)を同様に106〜212ミクロンの範囲で篩過した後、該核剤を2.5Kg用い、転動流動コーティング装置(マルチプレックス MP−25((株)パウレック製))のロータ上に仕込み、回転させながら該粒子を核として、日本薬局方適合のアスピリン500g、乳糖1.5Kg、コーンスターチ500gおよび精製水2.5Kgの混合物液を薬剤性分として散布して、製剤化を行った。続いて、表面コート剤として放性を付与させるヒドロキシエチルセルロースの10%精製水溶液10Kgを同一条件で噴霧して被覆処理を行った。
【0032】
表3に操作条件および結果を示す。ただし、表中の粒子サイズはJIS篩過網にて評価した。
【0033】
【表3】

【実施例4】
【0034】
サンプルを実施例2および比較例2に変更した他は全て実施例3と同じにテストし評価した。但し、球状酸化マグネシウムの粒子径は20〜45ミクロンで篩過した核剤を使用した。
【0035】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例2の酸化マグネシウムのSEM写真である。
【図2】比較例2の酸化マグネシウムのSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を有効成分とする核剤。
【請求項2】
球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を有効成分とする核剤の製剤への使用
【請求項3】
嵩密度が1.0g/mL以上である請求項1記載の球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を有効成分とする核剤。
【請求項4】
平均粒子サイズが10mμm〜250μmである請求項1記載の球状多結晶酸化マグネシウム粒子を有効成分とする核剤。
【請求項5】
酸化マグネシウム粒子が日本薬局方の重質酸化マグネシウムの純度試験に適合する請求項1記載の球状多結晶酸化マグネシウム粒子を有効成分とする核剤。
【請求項6】
請求項1記載の球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を核とした製剤。
【請求項7】
嵩密度が1.0g/mL以上である球状多結晶酸化マグネシウム粒子を核とした請求項6記載の製剤。
【請求項8】
平均粒子サイズが10μm〜250μmである球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を核とした請求項6記載の製剤。
【請求項9】
球状の多結晶酸化マグネシウム粒子を核とした請求項6記載の製剤の嵩密度が0.9/mL以上で、平均粒子サイズが500μm以下である球状製剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−169136(P2008−169136A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3106(P2007−3106)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000162489)協和化学工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】