説明

製品の品質検査における良否判定方法

【課題】従来の良否判定方法では検出できなかった微小な現象として現れる不良を捉えて、より精度良く製品の良否を判定することができる製品の良否判定方法を提供する。
【解決手段】品質検査対象のA/Tアッシー11について、測定項目(1)〜(6)を測定し、測定項目ごとに測定値の良否を判定する複数の工程と、選択した二以上の測定項目(1)(2)(特性量A・B)について、良品群における特性量A・Bの組合せに係るマハラノビス平方距離(良品MD値)を算出して、良品MD値の正規分布に基づいて、特性量A・Bの組合せに係る判定閾値(良品MD値の正規分布における3σを示す楕円)を算出する工程と、検査対象のA/Tアッシー11に係る特性量A・Bの組合せに係る特性量たるMD値(検査対象MD値)を算出する工程と、特性量A・Bの組合せに係る特性量の判定閾値に基づいて、検査対象MD値の良否を判定する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の品質検査における良否判定方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製品の良否を判定するための品質検査を、所謂テスター装置を用いて行うことが一般的に行われている。従来のテスター装置を用いた品質検査では、検査対象の製品について、不良の判定に有効な測定項目(特性量)を設定するとともに、設定した測定項目をテスター装置によって測定し、各測定項目の測定値が予め設定した基準値(上限閾値および下限閾値)を満たしているか否かによって、製品の良否を判定するのが一般的である。
【0003】
ここで、従来のテスター装置を用いた品質検査について、図5および図6を用いて説明をする。
図5に示す如く、例えば、ある製品の品質検査において設定された測定項目が特性量A・Bの2種類であった場合、特性量Aの測定値が予め設定しておいた上限閾値および下限閾値の範囲にあるか否かを判定するとともに、特性量Bの測定値が予め設定しておいた上限閾値および下限閾値の範囲にあるか否か判定し、設定した特性量ごとにそれぞれ個別に判定するようにしている。
そして、各特性量A・Bに対する個別の良否判定で「NG(不良)」の項目があれば、製品を不良品であると判定し、各特性量A・Bに対する個別の良否判定が全て「OK(良)」であれば、製品を良品であると判定するようにしている。
【0004】
また、従来のテスター装置による品質検査における上限閾値および下限閾値の設定方法は、図6に示すように、例えば、ある特性量Aによって検出できる2種類の特定の不良がある場合に、まず、この各不良を有する製品の集合たる不良品群(ア)(イ)から特性量Aの正規分布を算出する。そして、不良品群(ア)における特性量Aの正規分布の上限値から特性量Aの下限閾値を設定し、不良品群(イ)における特性量Aの下限値から特性量Aの上限閾値を設定するようにしている。
【0005】
しかしながら、このような従来の上限閾値および下限閾値の設定方法に基づいて製品の良否判定を行うと、図6中に示す未知の不良を有する製品が存在する可能性のある範囲に包含される製品は全て良品と判断されるため、良品であると判定された製品の中に、未知の不良を有する製品が含まれてしまうという問題があり、上・下限閾値を狭く設定せざるを得なかった。このため従来、良品と不良品の判定精度をより向上させたいというニーズが存在していた。
【0006】
そこで、このようなニーズに応えるべく、品質検査における良品・不良品の判定精度をより向上させるための技術が種々検討されており、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。
特許文献1に示された従来技術では、良品であるエンジンと不良品であるエンジンとから取得した特性量の度数分布から、良品であるエンジンを不良品であると判定する割合である過検出率と、不良品であるエンジンを良品であると判定する割合である見逃し率との実測値を算出する誤判別率実測値計算部と、過検出率と見逃し率との期待値を算出する誤判別率期待値計算部と、閾値の変化に応じた、算出された過検出率および見逃し率の実測値の変化を示すグラフと、算出された過検出率および見逃し率の予測値の変化を示すグラフとを表示する表示制御部とを備える検査装置によって、エンジンから特性量を取得し、この特性量に応じてこのエンジンが良品であるか否かを検査をするようにしている。
これにより、ユーザに対して検査対象物が正常であるか否かを確度よく判定できる閾値を設定するための情報を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−139621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示された従来技術では、検出しようとする不良が既知であり、かつ、当該不良を検出するのに適した特性量が明確である場合にのみ有効であり、不良を有する製品(不良品群)における特性量を予めデータベースとして登録しておく必要があり、良品および不良品の判定に用いる閾値の設定に多大な工数を要していた。また、未知(想定外)の不良が発生した場合には、良品および不良品の判定が精度良くできない可能性があった。
【0009】
本発明は、係る現状の問題点を鑑みてなされたものであり、従来の良否判定方法では検出できなかった微小な現象として現れる不良を捉えて、より精度良く製品の良否を判定することができる製品の良否判定方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、品質検査の対象たる製品について、複数の特性量を測定するとともに、前記複数の特性量の各測定結果に基づいて、特性量ごとに各測定結果の良否を判定する複数の特性量良否判定工程と、前記複数の特性量から選択した二以上の特性量について、良品であることが既知である複数の製品からなる良品群における、前記選択した二以上の特性量の組合せに係るマハラノビス平方距離を算出するとともに、算出した前記マハラノビス平方距離の正規分布に基づいて、前記良品群における前記選択した二以上の特性量の組合せに係る判定閾値を算出する組合せ判定閾値算出工程と、前記品質検査の対象たる製品における前記二以上の特性量の組合せに係るマハラノビス平方距離を算出する組合せ特性量算出工程と、前記組合せに係る判定閾値に基づいて、前記組合せ特性量算出工程における算出結果の良否を判定する組合せ特性量良否判定工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1においては、未知の不良や、従来検出できなかった微小な現象として現れる不良を検出することが可能になり、製品検査において、良品および不良品の判定をより精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る良否判定方法を適用するテスター装置の全体構成を示す模式図。
【図2】テスター装置による特性量の測定結果を示す模式図。
【図3】本発明の一実施例に係る良否判定方法の流れを示すフロー図。
【図4】本発明の一実施例に係る良否判定方法における判定閾値の設定状況を示す模式図。
【図5】従来の良否判定方法の流れを示すフロー図。
【図6】従来の良否判定方法における判定閾値の設定状況を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施例に係る良否判定方法を適用して品質検査を行うことができるテスター装置の全体構成について、図1を用いて説明をする。
【0016】
図1に示す如く、本発明の一実施例に係る良否判定方法を適用して品質検査を行うことができるテスター装置の一例であるアッシーテスター1は、測定部2、制御部3、動力伝達部9、信号伝達部10等を備える装置であって、自動車等に搭載される自動変速機(Automatic Transmission:A/T)の主要な構成部品であって複数の部品を組み合わせてなるA/Tアッシー11の品質検査を行うためのものである。
【0017】
測定部2は、A/Tアッシー11の品質検査において設定される測定項目(特性量)の測定に必要な各種センサが接続されている。
例えば、A/Tアッシー11に対する品質検査において設定される測定項目は、シフト位置を「N」(ニュートラル)から「D」(ドライブ)へ変更したときにおける(1)反応速度(以下、タイムラグと呼ぶ)、(2)追従性(以下、シフトタイムと呼ぶ)、(3)ピークトルク値、(4)ボトムトルク値、(5)クラッチ係合開始時の油圧、(6)クラッチ係合終了時の油圧や、その他ギヤノイズ音圧等が挙げられる。
このため、アッシーテスター1の測定部2には、測定項目(1)〜(6)等を測定するために必要なトルクセンサ4、油圧センサ5、音圧センサ6等が接続されている。
【0018】
制御部3は、各センサ4・5・6による測定結果(測定値)に基づいて、各種の演算を行うとともに、演算結果に基づいてA/Tアッシー11の品質(製品の完成度)の良否を判定するための演算部7と、演算や判定に必要な各種の条件(例えば、A/Tアッシー11の仕様、閾値、良品群のデータ等)や演算結果を記憶しておくための記憶部8等を備えている。
【0019】
動力伝達部9は、運転状態におけるA/Tアッシー11の挙動を再現するために、模擬的な動力をA/Tアッシー11に入力するための部位である。動力伝達部9は、制御部3に接続されており、制御部3からの指令に応じて、模擬的な動力をA/Tアッシー11に入力することができる。
【0020】
また信号伝達部10は、運転状態におけるA/Tアッシー11の挙動を再現するために、模擬的な信号をA/Tアッシー11に入力するための部位である。信号伝達部10は、制御部3に接続されており、制御部3からの模擬的な信号をA/Tアッシー11に入力することができる。
【0021】
尚、本実施例では、テスター装置として、A/Tアッシー11の品質検査に用いるアッシーテスター1を例示して説明を行うが、本発明に係る良否判定方法を適用するテスター装置の種類をアッシーテスターに限定するものではなく、また、テスター装置による検査対象製品をA/Tアッシーに限定するものでもない。つまり、本発明に係る良否判定方法は、種々の製品に対する品質検査に用いるテスター装置に広く適用することができる。
【0022】
次に、アッシーテスター1を用いた品質検査の一連の流れについて、図2〜図4を用いて説明をする。
アッシーテスター1を用いた品質検査では、まず、A/Tアッシー11をアッシーテスター1の所定位置に配置するとともに、各センサ4・5・6や各伝達部9・10等をA/Tアッシー11の所定位置に配置あるいは接続等する。
【0023】
そして、各伝達部9・10から模擬的な動力および信号をA/Tアッシー11に入力して、A/Tアッシー11の運転状態を再現しつつ、測定部2に接続される各センサ4・5・6によって、必要な測定項目を測定する。
そして、制御部3によって、図2に示すような測定結果を取得する。
【0024】
図2に示す如く、取得した測定結果からは、前述した測定項目(1)〜(6)に係る情報等を取得することができる。
そして、この取得した測定結果の情報(測定値)に基づいて、制御部3の演算部7によって演算を行い、演算結果に基づいて、A/Tアッシー11の品質の良否を判定するようにしている。
また、この演算結果や良否判定結果等は、制御部3の記憶部8に記憶され、記憶部8には良品群のデータ等が蓄積される。
【0025】
ここで、演算部7による一連の良否判定の流れについて、図3および図4を用いて説明する。
尚、本実施例では、複数の測定項目から2種類の特性量を選択し、この2種類の特性量を組合せて、良否判定を行う場合を例示して説明する。具体的には、A/Tアッシー11の良否判定に必要な測定項目(1)〜(6)のうち、(1)タイムラグ(以下、特性量Aと呼ぶ)と、(2)シフトタイム(以下、特性量Bと呼ぶ)を選択して、良否判定を行う場合を例示する。
尚、本発明に係る良否判定方法において選択する特性量の組合せを限定するものではなく、また、組合せる特性量の数を2種類に限定するものでもない。
【0026】
(特性量良否判定工程)
図3に示す如く、本発明の一実施例に係る良否判定方法では、演算部7によって、まず特性量A(即ち、(1)タイムラグ)の測定値に係る個別の良否判定が行われる(STEP−1)。良品か否かの判定は、特性量Aの測定値が、特性量Aに対する上限閾値および下限閾値の範囲に包含されるか否かによって判定される。
【0027】
尚、特性量Aに対する上限閾値および下限閾値は、A/Tアッシー11に係る不良のうち、特性量Aにその不良の特徴が現れることが既知である不良を排除するための閾値であり、当該不良を有することが既知である不良品群から算出した特性量Aの正規分布の上限値および下限値により設定することができる。このようにして設定した閾値の具体例が、図4に示す下限閾値Xおよび上限閾値Xである。
【0028】
そして、特性量Aの測定値が、図4に示す下限閾値Xと上限閾値Xによって規定される範囲内に包含されていれば、演算部7によって、特性量Aに係る測定値は「OK」であると判定され、次なる判定に移行する。
【0029】
一方、特性量Aの測定値が、図4に示す下限閾値Xと上限閾値Xによって規定される範囲内に包含されていなければ、演算部7によって、特性量Aに係る測定値は「NG」であると判定される。そしてこの段階で、演算部7によって、当該A/Tアッシー11を不良品とする最終的な判定がなされる。
【0030】
図3に示す如く、特性量Aの測定値に係る個別の良否判定(STEP−1)が「OK」であれば、次に演算部7によって、特性量B(即ち、(2)シフトタイム)の測定値に係る個別の良否判定が行われる(STEP−2)。良品か否かの判定は、特性量Bの測定値が、特性量Bに対する上限閾値および下限閾値の範囲に包含されるか否かによって判定される。
【0031】
尚、特性量Bに対する下限閾値および上限閾値は、A/Tアッシー11に係る不良のうち、特性量Bにその不良の特徴が現れることが既知である不良を排除するための閾値であり、当該不良を有することが既知である不良品群から算出した特性量Bの正規分布の上限値および下限値により設定することができる。
このようにして設定した下限閾値および上限閾値の具体例が、図4に示す下限閾値Yおよび上限閾値Yである。
【0032】
そして、特性量Bの測定値が、図4に示す下限閾値Yと上限閾値Yによって規定される範囲内に包含されていれば、演算部7によって、特性量Bに係る測定値は「OK」であると判定され、次なる判定に移行する。
【0033】
一方、特性量Bの測定値が、図4に示す下限閾値Yと上限閾値Yによって規定される範囲内に包含されていなければ、演算部7によって、特性量Aに係る測定値は「NG」であると判定される。そしてこの段階で、演算部7によって、当該A/Tアッシー11を不良品とする最終的な判定がなされる。
【0034】
あるいは、演算部7による不良品の判定精度をより高めるために、各特性量A・Bに対する上限閾値および下限閾値は、A/Tアッシー11の良品群のデータから算出した各特性量A・Bの正規分布における3σの値に基づいて設定することも可能である。
このようにして設定した下限閾値および上限閾値の具体例が、図4に示す下限閾値X・Yおよび上限閾値X・Yである。
【0035】
そして、各特性量A・Bの測定値が、図4に示す下限閾値X・Yと上限閾値X・Yによって規定される範囲内に包含されていれば、演算部7によって、各特性量A・Bに係る測定値は「OK」であると判定され、次なる判定に移行する。
【0036】
また、各特性量A・Bの測定値が、図4に示す下限閾値X・Yと上限閾値X・Yによって規定される範囲内に包含されていなければ、演算部7によって、各特性量A・Bに係る測定値は「NG」であると判定される。そしてこの段階で、演算部7によって、当該A/Tアッシー11を不良品とする最終的な判定がなされる。
【0037】
例えば、図4中に示す点ZとなるA/Tアッシー11は、従来判定閾値が下限閾値X・Yおよび上限閾値X・Yとして設定されていた場合には良品として判定されていたものであるが、A/Tアッシー11の良品群のデータから算出した各特性量A・Bの正規分布における3σの値に基づいて判定閾値を設定することにより、演算部7によって、不良品と判定することができ、より精度良く不良品を排除することが可能になる。
【0038】
即ち、本発明の一実施例に係るA/Tアッシー11の品質検査における良否判定方法は、特性量A・Bごとに各測定結果(測定値)の良否を判定する複数の特性量良否判定工程(即ち、(STEP−1)および(STEP−2))を備えている。
【0039】
図3に示す如く、特性量Aの測定値に係る個別の良否判定(STEP−1)と特性量Bの測定値に係る個別の良否判定(STEP−2)が両方とも「OK」であれば、次に演算部7によって、特性量A・Bの組合せに係る特性量による判定が行なわれる(STEP−3)。言い換えれば、演算部7によって、特性量Aと特性量Bの相関を考慮した特性量による判定が行われるということもできる。
【0040】
(組合せ判定閾値算出工程)
特性量A・Bの組合せに係る特性量による判定では、まず始めに、演算部7によって、良品群のA/Tアッシー11のデータを用いて、特性量A・Bの組合せに係るマハラノビス平方距離(以下、良品MD値と呼ぶ)を算出する。
【0041】
複数の特性量の組合せに係る良品MD値は、以下に示す数式1によって算出することができる。尚、数式1中に示すt・t・・・は、各特性量t・t・・・を表しており、各特性量t・t・・・の上にバー(横線)を付したものは、各特性量t・t・・・の平均値を表している。また、数式1中に示すσt0・σt1・・・は、各特性量t・t・・・の標準偏差を表している。さらに、右辺中央に配列した行列式は、各特性量t・t・・・の共分散行列の逆行列を表している。
【0042】
【数1】

【0043】
本実施例の場合、選択した特性量は特性量Aおよび特性量Bの2種類であるため、具体的には以下に示す数式2によって、2種類の特性量A・Bの組合せに係る良品MD値を求めることができる。
尚、数式2中に示すA・Bは、各特性量A・Bを表しており、各特性量A・Bの上にバーを付したものは各特性量A・Bの平均値を表している。また、数式2中に示すσ・σは各特性量A・Bの標準偏差を表している。さらに、右辺中央に配列した行列式は、各特性量A・Bの共分散行列の逆行列を表している。
【0044】
【数2】

【0045】
ここで、図4に示すように、2種類の特性量A・Bの組合せに係る良品MD値の正規分布は楕円状に表される。そして本実施例では、図4に特性量A・Bの組合せに係る良品MD値の正規分布における1σ・2σ・3σを示す各楕円を表しており、このうち、3σを示す楕円を良品および不良品の判定閾値として用いるようにしている。
【0046】
即ち、本発明の一実施例に係るA/Tアッシー11の品質検査における良否判定方法は、良品群における特性量A・Bの組合せに係る特性量たるマハラノビス平方距離(良品MD値)を算出するとともに、算出した良品MD値に基づいて、特性量A・Bの組合せに係る判定閾値(即ち、3σを示す楕円)を算出する組合せ判定閾値算出工程を備えている。
【0047】
(組合せ特性量算出工程)
そして、演算部7によって、検査対象製品たるA/Tアッシー11の特性量A・Bの測定結果から、特性量A・Bの組合せに係るMD値(以下、検査対象MD値と呼ぶ)を前記数式2に基づいて算出する、
【0048】
即ち、本発明の一実施例に係るA/Tアッシー11の品質検査における良否判定方法は、検査対象たるA/Tアッシー11における特性量A・Bの組合せに係る特性量たるマハラノビス平方距離(検査対象MD値)を算出する組合せ特性量算出工程を備えている。
【0049】
(組合せ特性量良否判定工程)
そして、算出した検査対象MD値が、図4に示す良品MD値の正規分布における3σの楕円中に包含されるか否かに基づいて、演算部7によって、検査対象MD値の良否を判定する。
【0050】
ここで、検査対象MD値が、図4に示す3σの楕円中に包含されていれば、演算部7によって、当該検査対象MD値に係る判定は「OK」であると判定される。そしてこの段階で、演算部7によって、A/Tアッシー11が良品であるとの最終的な判定がなされる。
【0051】
一方ここで、検査対象MD値が、図4に示す3σの楕円中に包含されていなければ、演算部7によって、当該検査対象MD値に係る判定は「NG」であると判定される。そしてこの段階で、演算部7によって、A/Tアッシー11が不良品であるとの最終的な判定がなされる。
以上で、演算部7による一連の良否判定が終了する。
【0052】
即ち、本発明の一実施例に係るA/Tアッシー11の品質検査における良否判定方法は、良品群から算出した判定閾値(即ち、3σを示す楕円)に基づいて、検査対象たるA/Tアッシー11の組合せに係る特性値(検査対象MD値)の良否を判定する組合せ特性量良否判定工程を備えている。
【0053】
さらに具体的に説明すると、本実施例における特性量Aである(1)タイムラグと、特性量Bである(2)シフトタイムとの相関からは、例えば油圧系の微小な異常(例えば、油圧油の微小な漏れに起因する変化)が捉えられることが予測される。
検査対象MD値が図4中に示す点ZとなるA/Tアッシー11は、従来の判定閾値X〜XおよびY〜Yでは良品と判定されるものであるが、図4に示す3σの楕円中に包含されておらず、本実施例に係る良否判定方法によれば、不良品と判定されるものである。そして、このような点ZとなるA/Tアッシー11について、不良の有無を詳細に調査したところ、Oリングに微小なシール切れが生じている(即ち、油圧油の微小な漏れが認められる)不良を発見することができた。
尚、従来テスター装置を用いた品質検査において、このようなOリングの微小なシール切れの不良を検出することは困難であった。
【0054】
またその他にも、例えば(2)シフトタイムと(3)ピークトルクを組合せた判定を行うことにより、クラッチを構成するディスクとプレートの誤組み付け等も検出することが可能になる。従来、テスター装置を用いた品質検査において、このような誤組み付けの不良を検出することもまた困難であった。即ち、本発明の一実施例に係る良否判定方法では、特性量の組合せを変更することによって、テスター装置を用いた品質検査において、微小な現象として現れる様々な不良を検出することが可能になる。
【0055】
このため、本発明の一実施例に係る良否判定方法によれば、従来は検出することができなかった微小な現象を捉えることが可能になり、従来不良品でありながら良品と判定されていたA/Tアッシー11を、精度良く不良品と判定することが可能になる。
【0056】
具体的には、本発明の一実施例に係る良否判定方法を適用することにより、従来不良品でありながら良品として判定されていた、図4中の点Zに示すA/Tアッシー11であっても、アッシーテスター1によって、的確に不良品として判定することが可能になる。
【0057】
またさらに、本発明の一実施例に係る良否判定方法を適用することにより、従来、各特性量A・Bの正規分布における3σの値を判定閾値として設定した場合でも尚不良品でありながら良品として判定されていた、図4中の点Zに示すA/Tアッシー11であっても、的確に不良品として判定することが可能になる。
【0058】
即ち、本発明の一実施例に係る良否判定方法によれば、想定していないような未知の不良であっても、複数の特性量の組合せに係る特性量(検査対象MD値)が、良品群から算出した当該組合せに係る特性量(良品MD値)の正規分布の3σの範囲に包含されない事象として現れる特性を有する不良であれば、検出することが可能になる。
【0059】
即ち、本発明の一実施例に係るA/Tアッシー11の品質検査における良否判定方法は、品質検査の対象たるA/Tアッシー11について、複数の特性量(即ち、測定項目(1)〜(6))を測定するとともに、測定項目(1)〜(6)の各測定結果に基づいて、特性量ごとに各測定結果の良否を判定する複数の特性量良否判定工程である(STEP−1)および(STEP−2)と、測定項目(1)〜(6)から選択した二以上の測定項目(1)(2)(即ち、特性量A・B)について、良品であることが既知である複数のA/Tアッシー11からなる良品群における、特性量A・Bの組合せに係るマハラノビス平方距離(良品MD値)を算出するとともに、算出した良品MD値に基づいて、特性量A・Bの組合せに係る判定閾値(即ち、3σを示す楕円)を算出する組合せ判定閾値算出工程と、A/Tアッシー11における特性量A・Bの組合せに係るMD値(検査対象MD値)を算出する組合せ特性量算出工程と、良品MD値の正規分布における3σを示す楕円に基づいて、検査対象MD値の良否を判定する組合せ特性量良否判定工程(STEP−3)と、を備えるものである。
これにより、想定していない不良や、従来検出できなかった微小な現象として現れる不良を検出することが可能になり、製品検査において、良品および不良品の判定をより精度良く行うことができる。
【0060】
尚、本実施例では、図3に示すように、特性量Aに係る判定、特性量Bに係る判定、特性量A・Bの組合せに係る特性量による判定、の順に判定を行うロジックとなっているが、例えば、各特性量A・Bの個別の判定(個別判定)に先立って、特性量A・Bの組合せに係る特性量による判定(組合せ判定)を行うロジックとしてもよく、個別判定と組合せ判定の順序は自由に変更することができる。
あるいは、個別判定を省略して、組合せ判定のみを行うロジックとすることも可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 アッシーテスター
2 測定部
3 制御部
7 演算部
8 記憶部
11 A/Tアッシー(検査対象製品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
品質検査の対象たる製品について、複数の特性量を測定するとともに、
前記複数の特性量の各測定結果に基づいて、
特性量ごとに各測定結果の良否を判定する複数の特性量良否判定工程と、
前記複数の特性量から選択した二以上の特性量について、
良品であることが既知である複数の製品からなる良品群における、前記選択した二以上の特性量の組合せに係るマハラノビス平方距離を算出するとともに、算出した前記マハラノビス平方距離の正規分布に基づいて、前記良品群における前記選択した二以上の特性量の組合せに係る判定閾値を算出する組合せ判定閾値算出工程と、
前記品質検査の対象たる製品における前記二以上の特性量の組合せに係るマハラノビス平方距離を算出する組合せ特性量算出工程と、
前記組合せに係る判定閾値に基づいて、
前記組合せ特性量算出工程における算出結果の良否を判定する組合せ特性量良否判定工程と、
を備える、
ことを特徴とする製品の品質検査における良否判定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate