説明

製氷装置および製氷方法

【課題】 水と熱媒液体との間の熱交換効率を高めるとともに、水又は氷と熱媒液体との分離をより効率よく行うことができる製氷技術を提供すること。
【解決手段】 水と、それと比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する際、一つの製氷装置内で、水及び熱媒液体を回転部材によりその周囲に飛散させ、その回転部材の周りで回転する回転体により遠心分離することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換(以下「直接接触熱交換」という場合がある)により、当該水から氷を製造する技術に関し、より詳しくは水と熱媒液体との直接接触熱交換による製氷の際、水と熱媒液体との間の熱交換効率を高めるとともに、水又は氷と熱媒液体との分離をより効率よく行うことができる製氷装置及び製氷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触熱交換を通じて氷を製造する技術においては、水と熱媒液体との接触面積をより増加させることにより、両物質間の熱交換効率を高めることができる(特許文献1〜4参照)。
【0003】
しかし、水と熱媒液体との接触面積をより増加させると、往々にして両物質の混合が進み、氷を製造した後の分離がより困難になる。
【0004】
また、水と熱媒液体との直接接触熱交換の後、両物質を分離させず、より長時間共存させると、熱媒液体により冷却された水から生成し、成長した氷の塊や層の中に当該熱媒液体が取り込まれて分離が困難になる。水及び/又は氷と、熱媒液体との比重差を利用して重力沈降により両物質を分離させる場合であっても、両物質の分離に時間がかかりすぎて、成長した氷の塊や層の中に当該熱媒液体が取り込まれて、それ以上の分離が困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−141720号公報
【特許文献2】特開平7−103517号公報
【特許文献3】特開平9−243116号公報
【特許文献4】特開平11−281214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、水と熱媒液体との間の熱交換効率を高めるとともに、水又は氷と、熱媒液体との分離をより効率的に行うことができる製氷技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を解決するための、本発明の第1の形態に係る製氷装置は、水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する製氷装置であって、水及び熱媒液体を導入する導入機構と、回転部材と、該回転部材の周りで回転する回転体とを備え、導入機構により導入された水及び熱媒液体を前記回転部材によりその周囲に飛散させ、前記回転部材の周囲に飛散した水及び熱媒液体を前記回転体により遠心分離することを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の形態に係る製氷装置は、水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する製氷装置であって、水及び熱媒液体を導入する導入機構と、回転部材を備え前記導入機構により導入された水及び熱媒液体の移動方向を変更する移動機構と、該回転部材の周りで回転する回転体とを備え移動機構により移動方向が変更した水及び熱媒液体を前記回転体の作用により遠心分離する遠心分離機構と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の形態に係る製氷装置は、水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する製氷装置であって、水及び熱媒液体を導入する導入機構と、該導入機構により導入された前記水及び前記熱媒液体のそれぞれの少なくとも一部を互いに直接接触させて、前記水から氷を生成するために必要な熱交換を開始する接触領域と、前記接触領域において直接接触した前記水及び前記熱媒液体の移動方向を変更する移動機構と、前記接触領域のまわりで回転する回転体を備え前記移動機構により移動方向が変更された前記水及び前記熱媒液体を、前記回転体の作用により回転させ、それにより生じる遠心力の作用により分離する遠心分離機構と、を具備することを特徴とする。
【0010】
本発明の第4の形態に係る製氷装置は、第3の形態に係る製氷装置において、前記移動機構は、回転部材を備え、前記接触領域において直接接触した前記水および前記熱媒液体を、前記回転部材の回転の作用により前記遠心分離機構に向けて移動する機構であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第5の形態に係る製氷装置は、第3の形態に係る製氷装置において、前記移動機構は、前記回転体と同軸に回転する回転部材を備え、前記接触領域において直接接触した前記水および前記熱媒液体を、前記回転部材の回転の作用により前記遠心分離機構に向けて移動する機構であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第6形態に係る製氷装置は、第4又は第5の形態に係る製氷装置において、前記回転部材は、水平に配置され、前記回転体と同方向に回転する回転主面を有しており、前記導入機構は、前記水および前記熱媒液体を前記回転部材の回転主面に向けて放出する機構であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第7形態に係る製氷装置は、第4又は第5の形態に係る製氷装置において、前記回転部材は、水平に配置され、前記回転体と同方向に回転する回転主面を有しており、前記導入機構は、前記水および前記熱媒液体を前記回転部材の回転軸に沿って前記回転部材の回転主面の回転中心又はその近傍に向けて放出する機構であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第8形態に係る製氷方法は、水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する製氷方法であって、水及び熱媒液体を導入する導入工程と、導入工程により導入された水及び熱媒液体を回転部材に衝突させ、その周囲に飛散させる移動工程と、移動工程により前記回転部材の周囲に飛散した前記水及び熱媒液体を、前記回転部材の周りで回転する回転体により水及び熱媒液体を遠心分離する遠心分離工程とを有することを特徴とする。
【0015】
本発明の第9形態に係る製氷方法は、水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する製氷方法であって、水及び熱媒液体を導入する導入工程と、該導入工程において導入された前記水および前記熱媒液体のそれぞれの少なくとも一部を接触領域において互いに直接接触させ、それにより前記水から氷を生成するために必要な熱交換を開始する接触工程と、該接触工程において直接接触した前記水および前記熱媒液体を、前記接触領域のまわりで回転する回転体に向けて移動する移動工程と、該移動工程において前記接触領域から移動した前記水および前記熱媒液体を、前記回転体により回転させ、それにより生じる遠心力の作用により分離する遠心分離工程と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水及び熱媒液体を回転部材によりその周囲に飛散させるので、その飛散の過程で水と熱媒液体との接触頻度を高めることができ、両物質間の直接接触熱交換を促進することができ、故に熱交換効率をより高めることができる。そして、回転部材によりその周囲に飛散させた水及び熱媒液体を、当該回転部材の周りで回転する回転体により遠心分離するので、水又は氷と熱媒液体とを短時間で分離することができ、故に水又は氷と熱媒液体との分離をより効率的に行うことができる。
【0017】
また、本発明によれば、互いに比重が異なる水および熱媒液体(両液体という)の移動方向を回転部材の回転の作用により変更し、遠心分離機構に向けて移動させる。この場合、両液体は、回転部材により回転し、その際生じる遠心力の作用を受けて、又は回転する回転部材の表面との接触の際に剪断力を受けて、当該回転部材の周囲に向けて放射方向に飛散する。そのような移動方向の変更は、両液体間の接触の機会を増やすか又は両液体の混合を促進する。それ故、回転部材という比較的簡素な手段により、直接接触熱交換の程度を増やすことができる。
【0018】
また、両液体は、回転部材の回転の作用により比較的均一に分散して当該回転部材の周囲に向けて放射方向に飛散するので、氷の回転部材への付着と成長が起こりにくくなる。さらに、遠心分離機構の特定箇所に過度に偏ることなく当該遠心分離機構に到達し、遠心分離機構全体にわたって比較的均一に行き渡る。そのため、両液体の分離をより効果的に行うことができる。また、このことは、遠心分離機構の動作に無理が生じにくく、従って不具合が生じにくくなることを意味している。それ故、本形態によれば、回転部材という比較的簡素な手段により、製造装置内における局所的な氷の付着と成長に起因する不具合を発生しにくくすることができ、装置の故障の頻度を減らすことができる。
【0019】
本発明においては、遠心分離機構が具備する回転体が、接触領域のまわりを回転しているので、接触領域において直接接触した水および熱媒液体が移動機構により遠心分離機構に向けて移動する距離は短く、従ってその移動時間も短い。それ故、熱媒液体との直接接触による熱交換を通じて水から生成する氷が周辺の部材の表面に付着する前に又はその付着が顕著になる前に、より強力な遠心力の作用により両液体を分離することができる。
【0020】
なお、本発明の製氷装置においては、更に、以下の付随的効果が得られる。
【0021】
(1)両液体は、回転部材の回転の作用により比較的均一に分散して当該回転部材の周囲に向けて放射方向に飛散するので、氷の回転部材への付着と成長が起こりにくくなり、氷の塊状化を防止することができる。両液体は、遠心分離機構の特定箇所に過度に偏ることなく当該遠心分離機構に到達し、遠心分離機構全体にわたって比較的均一に行き渡る。それ故、遠心分離機構の動作に無理が生じにくく、従って不具合が生じにくくなるので、製氷装置内における局所的な氷の付着と成長、塊状化に起因する不具合を発生しにくくすることができ、装置の故障の頻度を減らすことができる。
【0022】
(2)接触領域において直接接触した水および熱媒液体を回転させ、遠心力を生じさせる回転体が、当該接触領域のまわりを回転しているので、両液体が直接接触してから遠心力の作用により分離されるまでの時間が短い。それ故、熱媒液体との直接接触による熱交換を通じて水から生成する氷が周辺の部材の表面に付着する前に又はその付着が顕著になる前に、より強力な遠心力の作用により両液体を分離することができる。
【0023】
(3)直接接触した水および熱媒液体を回転体により回転させ、遠心力を生じさせることにより、両液体が遠心力の作用により短時間で分離するため、熱媒液体との直接接触による熱交換を通じて水から生成する氷が周辺の部材の表面に付着し、塊状化することを防止できる。また、塊状化した氷を遠心力の作用により粉砕することができる。
【0024】
(4)熱媒液体が、水より比重が大きい液体である場合には、回転体の回転軸から半径方向の外側に向かって水と熱媒液体に遠心力が作用するとき、水と接触する可能性がある回転体を構成する、水が接触し得る部材(水と接触し得るものである限り、回転体を構成する部材を含み得る)の内壁面にまず熱媒液体の層を形成することができ、それにより水が当該部材の内壁面に直接触れにくくなる。その結果、当該水から生成する氷が当該部材の内壁面に付着しにくくなり、成長もしにくくなる。それ故、本形態によれば、製造装置内における局所的な氷の付着と成長に起因する不具合の発生を抑えることができるので、製造工程を実行しても機械的なトラブルが発生する頻度を減らすことができる。
【0025】
(5)回転部材は、移動機構を構成するものとして、接触領域において直接接触した水および熱媒液体を移動機構により遠心分離機構に向けて移動させるに足るだけの速度で回転すれば十分であるので、その回転速度は、両液体を回転させて遠心力の作用を発生させる回転体のそれを超えるほどに設定する必要はない。回転部材の回転速度をより小さく設定すれば、その回転に要するエネルギー消費を抑えることができ、低速回転が可能になる分、製氷装置の故障の発生頻度も抑えることができる。それ故、製氷装置の態様は、回転部材の回転速度が回転体のそれよりも小さい場合に、より好ましいものとなる。
【0026】
(6)回転部材の回転速度を調整すれば、水および熱媒液体が回転部材から受ける剪断力を適度な大きさに設定することができるので、両液体の直接接触を促進することができる。このことにより、接触領域を通過せずに互いに未接触のままで回転部材に到達した両液体や、接触領域を通過したものの、熱交換が不十分なままで回転部材に到達した両液体を、回転部材において直接接触させることができる。それ故、回転部材を両液体の直接接触による熱交換を促進する手段として利用することは、それにより、全体として、両液体の直接接触による熱交換を促進し、氷を効率的に生成又は製造することができるので、非常に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る製氷装置を示す側断面図であり、(b)は、該製氷装置における水、氷及び熱媒液体の存在位置を示す側断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る製氷装置を示す側断面図である。
【図3】本発明に係る製氷装置において採用可能な導入機構の他の構造例を説明する図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る製氷装置を示す側断面図である。
【図5】本発明の第1〜第3の実施形態に係る製氷装置における回転体を示す斜視図である。
【図6】本発明の第1〜第3の実施形態に係る製氷装置におけるスクレーパを示す斜視図である。
【図7】(a)は、本発明の第4の実施形態に係る製氷装置を示す側断面図であり、(b)は、該製氷装置における水、氷及び熱媒液体の存在位置を示す側断面図である。
【図8】(a)は、本発明の第5の実施形態に係る製氷装置を示す側断面図であり、(b)は、該製氷装置における水、氷及び熱媒液体の存在位置を示す側断面図である。
【図9】本発明に係る製氷装置を用いて氷スラリーを製造することで蓄熱を行う蓄熱式空調設備を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0029】
なお、本明細書において使用される用語の意味又は解釈は、以下の通りである。
【0030】
(1)「熱媒液体」とは、水と化学反応を生じず、水に実質的に溶解せず、水と熱交換が可能な液体のうち当該熱交換の前後で液体であるものをいう。熱媒液体の典型例は、水に対する親和性が低い、即ち水に溶解し難いか又は水に混ざりにくい、いわゆる疎水性物質である(この場合の疎水性物質を油性液体という場合もある)。
【0031】
疎水性物質の一例は、石油精製品であり、パラフィン油、ガソリン、ナフサ、灯油、ジェット燃料油、軽油、潤滑油ベースオイル、重油などが含まれる。疎水性物質の他の例はシリコン系オイルであり、ジメチルポリシロキサンにより構成されるシリコーンオイルが含まれる。疎水物質の更に他の例はフッ素系液体であり、炭化水素のフッ素化物、例えば炭化水素の全ての水素をフッ素に置換した化合物があり、フッ素数5〜20(特に6〜12)の化合物が主成分であるものが含まれる。
【0032】
(2)「領域」は、特定の局所的な点ではなく、ある程度の空間的な広がりを有する範囲をいう。「接触領域」における「領域」も同様であり、ある程度の空間的な広がりを有する範囲である。
【0033】
(3)回転部材の「回転主面」とは、回転部材を構成する面のうち当該回転部材の回転軸に垂直な面をいう。
【0034】
(4)「回転部材の回転主面の回転中心」とは、回転部材の回転主面における当該回転部材の回転軸との交点をいい、当該回転部材の回転軸が旋回する場合には、回転部材の回転主面においてその旋回の軌跡が描く範囲およびその内側をいう。
【0035】
(5)「回転部材の回転主面の回転中心の近傍」とは、平面視したとき回転部材の回転主面をはみ出さず、且つ、当該回転主面の回転中心から、発明の効果の発現が阻害されない範囲で、ある程度離隔した位置にある場所をいう。それ故、当該回転主面の法線方向に離隔した位置にある場所であっても、平面視したとき回転部材の水平な回転主面をはみ出さず、且つ、当該回転主面の回転中心から、発明の効果の発現が阻害されない範囲で、ある程度離隔した位置にある限り、その場所は、その「近傍」に該当する。
【0036】
(6)「接触領域」は、水および熱媒液体のそれぞれの少なくとも一部が互いに直接接触し、それにより当該水から氷を生成させるために必要な熱交換が開始する領域である。「接触領域」は、水および熱媒液体のそれぞれの全部が互いに直接接触する領域ではなく、また水から氷を生成させるために必要な熱交換が完了する領域でもない。
【0037】
導入機構により又は導入工程において水および熱媒液体を製氷装置内に導入する場合、その導入前に両液体のそれぞれ一部が互いに接触していたとしても残部が未接触であるときは、それぞれの当該残部が互いに直接接触し、それにより当該水から氷を生成させるために必要な熱交換が開始する領域が存在し得るので、当該領域は、その存在が認められる限り「接触領域」に該当する。
【0038】
(7)「導入機構」は、水および熱媒液体を製氷装置内に導入する機構であれば足りる。それ故、「導入機構」は、本発明のいずれかの形態において構成上の特段の限定がある場合を除き、各液体の導入手法に制限はなく、両液体を別々に又は同時に導入する機構であってもよく、各液体を鉛直上方から下方に向けて導入する機構であってもよく、鉛直下方から上方に向けて導入する機構であってもよく、あるいは水平又は非垂直方向に導入する機構であってもよい。
【0039】
「導入工程」についても、「導入機構」と概ね同様のことがいえる。つまり、「導入工程」は、水および熱媒液体を製氷装置内に導入する工程であれば足りる。それ故、「導入工程」は、本発明のいずれかの形態において構成上の特段の限定がある場合を除き、各液体の導入手法に制限はなく、両液体を別々に又は同時に導入する工程であってもよく、各液体の導入方向は問わない。
【0040】
水および熱媒液体を製氷装置内に「別々に導入する」こととは、両液体が初めて接触するのが製氷装置内になるように導入することをいい、水および熱媒液体を「同時に導入する」こととは、両液体を製氷装置内に導入することのうち「別々に導入する」ことに該当しないものをいう。
【0041】
水および熱媒液体を製氷装置内に「同時に導入する」ことは、その導入前に両液体のすべての部分が互いに接触していることまで意味しておらず、また、その導入前に両液体が完全に混合していることまで意味しない。それ故、両液体を「別々に導入する」場合は言うまでもなく、「同時に導入する」場合であっても、「接触領域」は形成され得る。
【0042】
(8)「移動機構」は、水および熱媒液体の移動方向を変更して遠心分離機構に向けて移動させる機構であれば足りる。それ故、「移動機構」は、そのような機構である限り、両液体が互いに直接接触する前であるか互いに直接接触した後のものであるかは問わないし、接触領域は必須ではなく、遠心分離機構における回転体も必須ではない。また、そのような機構である限り、「回転主面」を有すると否とに拘らず「回転部材」を備える機構も、「回転部材」を備えない機構も、「移動機構」に該当する。
【0043】
回転体による回転により両液体に遠心力が作用するとき、その遠心力に起因して回転体に向かって両液体の移動が起こるのであれば、その遠心力の発生源(回転体)も「移動機構」の役割の少なくとも一部を担い、「移動機構」を構成しうる。更に、「移動機構」による両液体の移動は、回転部材の回転により発生する遠心力による移動であっても、重力その他の外力による移動であってもよい。
【0044】
「移動工程」についても、「移動機構」と概ね同様のことがいえる。つまり、「移動工程」は、水および熱媒液体の移動方向を変更して遠心分離機構に向けて移動させる工程である限り、両液体が互いに直接接触する前であるか互いに直接接触した後のものであるかは問わないし、接触工程は必須ではなく、遠心分離工程における回転体も必須ではない。また、そのような工程である限り、「回転主面」を有すると否とに拘らず「回転部材」を備える工程も、「回転部材」を備えない工程も、「移動工程」に該当する。回転体による回転により両液体に遠心力が作用するとき、その遠心力に起因して回転体に向かって両液体の移動が起こるのであれば、その遠心力の発生源(回転体)も「移動工程」における両液体の移動の役割の少なくとも一部を担うので、「移動工程」を実行しうる。更に、「移動工程」における両液体の移動は、回転部材の回転により発生する遠心力による移動であっても、重力その他の外力による移動であってもよい。
【0045】
次に、本発明に使用する熱媒液体について説明する。
【0046】
本発明に用いる熱媒液体は、水と比重が異なるとともに、水に溶解せず又は溶解度が低く、且つ、水と化学反応を生じないか又は生じにくい物質である。この熱媒液体は、水よりも比重が大きいものである必要はなく、水よりも比重が小さいものであってもよいが、水との比重差が大きいものほど好ましい。また、熱媒液体は水との熱交換の前後で液体であるものであり、熱媒液体を冷凍機で冷却する場合には、熱媒液体の凝固点(または融点)は0℃以下であるものが好ましい。
【0047】
水と比重が異なる熱媒液体の一例は、当該水よりも比重が大きいフッ素系不活性液体であるフロリナート(3M製、FLORINERT(登録商標))である。当該水(比重1.0)との比重差が大きい熱媒液体として入手可能な物質の一例が、フロリナート(比重約1.8)である。
【0048】
フロリナートとしては、主に「FC-3283」と「FC-43」の二種類がある。これら二つは、主として蒸気圧と粘度が異なるが、それらの属性の違いが技術的効果の相違に大きく反映するということは認められていない。それ故、本実施形態における熱媒液体の例示としては、「FC-3283を用いても、「FC-43」であってもよい。
【0049】
本発明のより具体的な実施形態では、フロリナート(3M製、FLORINERT(登録商標))FC-3283を熱媒液体とすることができる。
【0050】
水および熱媒液体であるフロリナートの各流量は、両液体の直接接触による熱交換の効率やその熱交換により生成する氷スラリーが有すべき熱密度の目標値によっても変わる。本実施形態では、両液体の流量比を、水1に対して、例えばフロリナートを5〜6に設定することができる。
【0051】
水より比重が小さい熱媒液体の一例は、ドデカン、ウンデカン、トリデカンなどの炭化水素化合物である。
【0052】
以下、本発明の実施形態に係る製氷装置及び製氷方法について、添付図面を参照して説明する。なお、各図において同じ部分又は相当若しくは共通する部分にはこれと同じ符号を付し、その説明を省略する。また、各図において、水をW、熱媒液体をM、氷をIと、符号を付す。なお、本発明は、図面に記載された実施形態には限定されない。
【0053】
[A] 熱媒液体の比重が、水及び氷の比重よりも大きい場合
図1(a)は本発明の第1の実施形態に係る製氷装置を示す側断面図である。(b)は該製氷装置における水、氷及び熱媒液体の存在位置を示す側断面図である。
【0054】
本実施形態に係る製氷装置は、水および熱媒液体の導入機構、水および熱媒液体の接触領域、当該接触触領域において直接接触した水および熱媒液体を分離する遠心分離機構、水および熱媒液体を遠心分離機構に向けて移動させる移動機構、排出液機構及び付着物除去機構を具備する。
【0055】
本実施形態に係る製氷装置において、導入機構から供給される水と水よりも比重の大きい熱媒液体は、接触領域に入り、移動機構としての回転部材に衝突し、その周囲に飛散し、遠心分離機構により水および生成した氷と、熱媒液体とに分離され、排液口から水および生成した氷との混合物と、熱媒液体が排出される。なお、水から生成した氷が当該水に分散又は懸濁すると、当該水はスラリー状を呈する。この状態の水が氷スラリーに該当する。
【0056】
以下、それぞれの機構および領域について説明する。
【0057】
<導入機構>
図1に示すように、導入機構は、水供給管1と熱媒液体供給管2とを備える二重管構造を有する。この導入機構は、回転部材18の回転軸に沿って設置されている。導入機構としては、ステンレス管、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))に代表されるフッ素系樹脂等の樹脂管などを用いることができる。内管および外管のうちいずれか一方をステンレス管とし、他方を樹脂管とした二重管構造にしてもよい。なお、水供給管1と熱媒液体供給管2とは熱交換させないように、熱伝導率の小さい樹脂製であるのが好ましい。
【0058】
<他の導入機構>
図2は、本発明の第2の実施形態に係る製氷装置を示す側断面図である。本実施形態に係る製氷装置では、水供給管1と熱媒液体供給管2とが並列構造である導入機構を用いている。この場合、ステンレス製の外郭管(鞘管)を設け、その内側に樹脂管を並列に二本配置してもよい。
【0059】
図3は、本発明に係る製氷装置において採用可能な導入機構の他の構造例を説明する図である。導入機構が水供給管1と熱媒液体供給管2とを備える二重管構造を有する場合、水供給管1の管先端と熱媒液体供給管2の管先端とは面一である必要はなく、図3(a)に示すように、熱媒液体供給管2の管先端面が、水供給管1の管先端面よりもある程度突出するように配置していてもよく、図3(b)乃至(d)に示すように、水供給管1の管先端面よりも相当程度に突出するように配置していてもよい。
【0060】
後者のような導入機構によれば、水供給管1から放出された水と熱媒液体供給管2内を通過する熱媒液体とを、熱媒液体供給管2から放出させる前に、ある程度混合させることができる。この場合、熱媒液体供給管2内に配置する水供給管1の管先端に、複数個の放出孔101を備える放出ノズル100を取り付け、熱媒液体の流れの方向に対して非平行の方向に水を放出させたり(図3(c)参照)、熱媒液体供給管2の管先端側に管径がより小さく絞り込まれた部分200を設ければ(図3(d)参照)、熱媒液体と水とを、熱媒液体供給管2から放出させる前に、より効果的に混合させることができる。
【0061】
なお、図3に示す導入機構の二重管構造においては、水供給管1および熱媒液体供給管2がそれぞれ内管および外管であるが、その逆であってもよい。
【0062】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る製氷装置を示す側断面図である。本実施形態に係る製氷装置では、予め混合されている水と熱媒液体とを同時に導入する導入機構を用いている。この場合、水供給管と熱媒液体供給管の区別のない単一の水および熱媒液体供給管23を備える単管構造である導入機構を用いている。
【0063】
本実施形態に係る製氷装置において、水および熱媒液体は、その少なくとも一部が互いに接触した後に導入機構に供給され、引き続き製氷装置内に同時に導入される。水および熱媒液体を予め接触させるには、例えば、導入機構の上流において、両液体を一つの配管や容器の中を通過させることにより又はミキサーのような混合専用機器を用いて、互いに混合させればよい。
【0064】
<接触領域>
接触領域は、導入機構により導入された水および熱媒液体のそれぞれ少なくとも一部が互いに直接接触して、当該水から氷が生成するために必要な熱交換が開始する領域であり、両液体間の熱交換が起こっている領域すべてを意味するものではない。例えば、水と熱媒液体とをそれぞれ別々の導入管の先端口から製氷装置内に放出させ、放出直後に両液体を初めて接触させる場合には、導入管の先端口近傍の場所が接触領域に該当する。製氷装置内で両液体が初めて接触した後、いずれかの一方の液体の少なくとも一部が、引き続き他方の液体と接触して熱交換を行う場合もあり得るが、そのような引き続く両液体の接触により熱交換が行われる領域は、「熱交換が開始する領域」ではないので、接触領域には該当しない。
【0065】
なお、図4に示す構造の導入機構を採用しても、両液体を製氷装置内に導入する前に両液体のすべての部分を互いに接触させることができるとは限らないので、接触領域は形成され得る。
【0066】
<移動機構>
移動機構とは、接触領域において直接接触した水および熱媒液体を遠心分離機構に向けて移動させる機構である。典型例が下記の回転部材であるが、接触領域から両液体を遠心分離機構に向けて移動させる機構であれば、本発明の奏功性/効果の程度には大小が生じるとはいえ、如何なる機構であってもよい。
【0067】
<移動機構としての回転部材>
図1、図2及び図4に示すように、回転部材18を移動機構として採用する場合について説明する。回転部材18を移動機構として採用する場合、水と熱媒液体(両液体という)が回転部材の表面と接触する際に受ける力(剪断力)により、両液体の混合が促進する。これにより、直接接触に伴う熱交換効率が向上する、ひいては氷の生成効率が向上するという特段の効果が生じる。また、両液体が回転部材の表面と接触する際に受ける力(剪断力)により、両液体は、回転部材18の回転中心の側から外側に向けて放射状に飛び散り、遠心分離機構に均一に移動する。
【0068】
両液体を、接触領域を取り囲む遠心分離機構の回転軸まわりに、より均一に飛び散るようにするには、両液体を導入機構から回転部材の回転中心に向けて放出するとよい。そのため、導入機構を図1に示すように二重管構造とする場合や、図4に示すように単管構造とする場合には、その管軸が回転部材の回転軸と同軸になるように配置する。両液体を遠心分離機構に向けて、遠心分離機構の回転軸まわりに、より均一に分布するように飛び散らせば、遠心分離機構に負荷の偏りが生じないので、装置の故障を減らすことができ、保守の頻度を減らすことができる。それ故、長時間運転に耐えうる装置となり、装置寿命も延びる。
【0069】
この場合、移動機構は、回転部材18とこれを回転させる回転駆動機構とを備えるものである。回転部材18は、主軸管5の内部に配置する中空の回転内管4に取り付けられる。回転内管4は、主軸管5に対して相対的に回転可能になるようにベアリングなどの回転支承部材により支持されている。回転部材18の回転軸が回転内管4のそれと同軸になるように、回転部材18が回転内管4の下方先端に取り付けられる。これにより、回転部材18は、回転内管4の回転に伴い回転する。
【0070】
図1、図2及び図4に示す回転部材18は、平らな円盤である。しかし、回転部材は平らな円盤に限定されない。例えば、コーン部材を、主軸管と同軸に回転するように構成した場合には、当該コーン部材はまさに回転部材である。そして当該コーン状の回転部材も、平らな円盤状の回転部材と同様の特段の効果を奏する。
【0071】
図1、図2及び図4に示す装置では、回転部材18を回転させる回転駆動機構は、回転モータ(図示せず)、当該回転モータの回転軸に取り付けられたモータ軸プーリ(図示せず)、回転内管4に固定された回転内管プーリ3、およびモータ軸プーリの回転を回転内管プーリ3に伝達して回転内管4を回転させる無限軌道のベルト(図示せず)を備えている。回転駆動機構により回転内管4を回転させると、その回転に伴い、回転部材18が回転する。
【0072】
<遠心分離機構>
図1(a)、図2及び図4に示す装置において、移動機構により回転体19に向かって移動する水と熱媒液体とは、接触領域を通過しているため、混合して混合液体となっている。遠心分離機構は、その混合液体を回転させ、当該混合液体に遠心力を作用させることにより、水と熱媒液体と間の比重差に応じて当該混合液体を水と熱媒液体とに分離させる機構である。
【0073】
水は熱媒液体との直接接触を通じてその熱媒液体と熱交換を行うので、当該水の中には氷が生成しており、遠心分離機構において当該混合液体を水と熱媒液体とに分離させると、氷を含む水と熱媒液体とに分離させることができる。
【0074】
図1(a)に示す装置において、遠心分離機構により比重差に応じて分離される水と氷と熱媒液体は図1(b)に示すような配置で遠心分離機構内に存在する。一番比重の大きい熱媒液体Mは遠心分離機構内の最も外側に移動し、上部排液口16から上部液体収容部20へと移動する。また、水Wおよび氷Iは熱媒液体Wよりも内側に位置し、下部排液口22から下部液体収容部15へと移動する。なお、水と氷の存在位置を模式的に別々に表したが、厳密には水中で水の一部が氷に相変化するため、水中で生成した氷が、遠心力の作用により最も内側の層に移動する場合もある。
【0075】
遠心分離機構は、回転体19とこれを回転させる回転駆動機構とを備える。
【0076】
回転体19は、遠心分離機におけるロータに相当するものである。回転体19は、中空筒状の主軸管5と、主軸管5に連結部材を介して取り付けられた上蓋部17と、上端および下端が開口した上部筒体9と、下部排液口22を備える下部筒体14とを備えている。上蓋部17は上部筒体9の上端開口部に取り付けられ、下部筒体14は上部筒体9の下端開口部に取り付けられて、全体として一体的に構成されている。
【0077】
回転体19は、少なくとも、主軸管5、上蓋部17、上部筒体9および下部筒体14のそれぞれに分解できるように構成されている。回転体19は、主軸管5の回転に伴い回転する。
【0078】
図5は、上部筒体9および下部筒体14を省略した回転体19の斜視図である。上蓋部17(図5では図示せず)は、調整板7を備えており、調整板7は上部排液口16を備えている。上部排液口16は、複数個の開孔部からなる。回転体19の内側の液体は、上部排液口16の各開孔部を通じて外側に向けて流通可能となる。開孔部は、回転体19の軸まわりに対称に配置している。このため、回転体19に重量の偏りが生じにくく、遠心力が働いても、回転体19の回転軸受部に偏った負荷がかからない。
【0079】
調整板7の種類は複数あり、各種の調整板は上部排液口16の形態(開孔部の数、形状、位置など)、材質、表面処理の仕方などが異なる。それ故、水、氷、熱媒液体の性質やその他の事情に応じて、適切な種類の調整板を選択し、使用することができる。
【0080】
下部筒体14が備える下部排液口22は、上部筒体9の内径よりも小さく、上部筒体9とは反対側に配置している。このため、下部筒体14は、上部筒体9側から下部排液口22に向かって先細り又は断面積が減少する構造を有している。回転体19の内部の液体は下部排液口22を通じて外部に向けて流通可能となる。
【0081】
主軸管5には、連結部材を介して上蓋部17が取り付けられているほか、上蓋部17から距離をおいた位置に当該連結部材を介して羽根固定板10が取り付けられている。羽根固定板10には更に複数の案内羽根11が、主軸管5の回転軸まわりに対称に配置するように取り付けられている。このため、主軸管5の回転に伴い、回転体19とともに、案内羽根11も回転する。すると、回転体19の回転に伴い、案内羽根11により回転体19内部の混合液体に回転力が付与されるので、その混合液体に遠心力が作用する。
【0082】
なお、案内羽根11は、羽根固定板10にではなく、回転体19の内壁面に取り付けてもよい。しかし、回転体19の内壁面に案内羽根11が取り付けられていると、保守・点検が面倒になるという難点がある。これに対して、案内羽根11が羽根固定板10に取り付けられていると、例えば保守の必要から、主軸管5や上蓋部17などを装置から取り外す際、主軸管5とともに羽根固定板10を取り外すことができ、それと同時に案内羽根11も一緒に取り外すことができるという長所がある。
【0083】
案内羽根11は、遠心分離機構には必ずしも不可欠なものではないが、これを備えることにより、混合液体を効率的に回転させ、従って効率的に遠心分離することができる。
【0084】
上部筒体9には、更に障害板8が設置されていている。障害板8は、羽根固定板10と調整板7との間の位置に配置され、回転体19の内側から上部排液口16に直接向かって流れ出ようとする液体の障害物となる障害部と、その液体の逃げ道を構成する通流口とを備えている。その結果、回転体19の内側から上部排液口16に流れ出ようとする液体は、障害板8の障害部を迂回して通流口に向かって流れるので、その液体の流路長が長くなる。それ故、障害板8は、両液体の分離の促進に役立つ。なお、障害板8の設置は不可欠ではなく、必要に応じてこれを設置すれば足りる。また、障害板8は上部筒体9ではなく、主軸管5に設置してもよい。
【0085】
回転体19を回転させる回転駆動機構は、回転モータ(図示せず)と、当該回転モータの回転軸に取り付けられたモータ軸プーリ(図示せず)と、主軸管5に固定された主軸管プーリ6と、モータ軸プーリの回転を主軸管プーリ6に伝達して主軸管5を回転させる無限軌道のベルト(図示せず)とを備えている。
【0086】
回転駆動機構により回転体19を回転させると、回転体19の回転に伴い、案内羽根11により、回転体19内部の水と熱媒液体との混合液体に回転力が付与される。すると、その混合液体に遠心力が作用し、水と熱媒液体との間の比重差により当該混合液体は水と熱媒液体とに分離する。そして、水の中には氷が含まれているので、当該混合液体から、氷を含む水と熱媒液体とが分離する。
【0087】
水と熱媒液体とは比重差があるため、遠心力の作用による分離効果は高い。それ故、回転体19の回転速度は比較的低速で足りる。なお、本実施形態では、回転体19の回転速度を1000〜3000rpmとした。
【0088】
遠心分離機構は、水と熱媒液体との混合液体から各液体を完全に分離する機構である必要はなく、氷の製造を長時間にわたり又は連続的に行うことの妨げにならない限りにおいて、不完全に分離するものであれば足りる。
【0089】
<排液機構>
図1、図2及び図4に示す装置では、排液機構は、回転体19の上部と下部のそれぞれの位置にある。回転体19の上部の位置にある上部排液機構は、遠心分離機構により分離された水と熱媒液体のうち比重が大きいものを当該回転体の内側から外側に向けて移動させ、回転体19の下部の位置にある下部排液機構は、そのうち比重の小さなものを回転体19の内側から外側に向けて移動させる。
【0090】
上部排液機構は、回転体19の上部において、その内側から上部排液口16(の開孔部)に至るまでの液体の流路を構成する機構をいい、当該流路を構成する部品および部材(例えば、回転体19の上部筒体9の上方の内壁面、羽根固定板10、上蓋部17、調整板7など)がこれに該当する。これらの部材および部品には、連結部材を備える場合は連結部材が含まれ、障害板8を備える場合は障害板8が含まれる。
【0091】
下部排液機構は、回転体19の下部において、その内側から下部排液口22に至るまでの液体の流路を構成する機構をいい、下部筒体14の下方の内壁面および下部開口部がこれに該当する。
【0092】
上部排液機構により回転体19の外側に移動する液体は、水および熱媒液体のうちより比重が大きな液体、又はその比重が大きな液体が大部分を占める両液体の混合液体(氷を含む)である。上部排液機構により回転体19の外側に移動する液体は、熱媒液体がフロリナートである場合、フロリナート又はフロリナートを大部分とし、一部に水を含み、氷を更に含む液体である。
【0093】
下部排液機構により回転体19の外部に移動する液体は、水および熱媒液体のうち、より比重が小さな液体、又はその比重が小さな液体が大部分を占める両液体の混合液体であり、生成した氷を含むスラリーである。下部排液機構により回転体19の外側に移動する液体は、熱媒液体がフロリナートである場合、氷スラリー又は氷スラリーを大部分とし、一部にフロリナートを含む液体である。
【0094】
上部排液機構により回転体19の外側に移動した液体は、回転体19の周囲を取り囲むケーシング21の周りを囲むように環状に設置された環状の上部液体収容部20に一時的に収容され、上部液体収容部20の下部から製氷装置外へと引き出される。引き出された液体は、必要に応じて更に他方の液体からの分離処理やその他の処理が施され、導入機構により当該製氷装置内へ導入され、以後循環的に氷スラリーの製造に供される。
【0095】
下部排液機構により回転体19の外側に移動した液体は、回転体19の下部開口部の下方に配置された下部液体収容部15に一時的に収容され、そこで比重差に従って重力により他方の液体から分離され、引き続き下部液体収容部15外へと引き出される。引き出された液体は、必要に応じて更に他方の液体からの分離処理やその他の処理が施され、導入機構により当該製氷装置内へ導入され、以後循環的に氷スラリーの製造に供される。
【0096】
本実施形態では、水よりも比重の大きな液体は、熱媒液体であるフロリナートであるので、上部排液機構により回転体19の外側に移動するのはフロリナート又はそれを大部分とする液体であり、上部液体収容部20に一時的に収容され、上部液体収容部20の下部から製氷装置外へと引き出される。下部排液機構により回転体19の外側に移動するのは、水およびフロリナートとの熱交換により当該水の中に生成した氷(要するに氷が水に分散又は懸濁した氷スラリー)又は氷スラリーを大部分とし一部にフロリナートを含む液体であり、下部液体収容部15に一時的に収容される。氷スラリーは、下部液体収容部15において比重の大きなフロリナートから重力により分離され、フロリナートの混入の程度が低い状態で引き続き下部液体収容部15外へ引き出される。
【0097】
<固液分離機構>
下部液体収容部15において、氷スラリー又は氷スラリーを大部分とし一部に熱媒液体を含む液体を一時的に収容する際に、下部液体収容部15に固液分離機構を備えることにより、固形物である氷と液体とを固液分離することとしてもよい。固液分離機構の典型例は、ざる、ふるい、スクリーン、フィルター、ろ過器などである。この固液分離機構により氷スラリーを固液分離して、熱媒液体を分離した、又は熱媒液体の混入の程度の小さい氷又は氷スラリーを得ることができる。さらに、水を適度に分離することにより固相率の高い氷スラリーを得ることができる。また、固液分離機構により、氷を分離した水を導入機構により当該製氷装置内へ導入し、循環的に氷スラリーの製造に供することができる。
【0098】
また、下部液体収容部15外へと引き出された液体を別に設ける固液分離機構に導くようにしてもよい。この固液分離機構により氷スラリーを固液分離して、熱媒液体を分離した、又は熱媒液体の混入の程度の小さい氷又は氷スラリーを得ることができる。さらに、水を適度に分離することにより固相率の高い氷スラリーを得ることができる。また、固液分離機構により、氷を分離した水を導入機構により当該製氷装置内へ導入し、循環的に氷スラリーの製造に供することができる。
【0099】
<付着物除去機構>
熱媒液体の方が水よりも比重が大きい場合、下部排液機構により製氷装置外へ取り出されるのは主として氷スラリーである。この場合、下部排液機構を構成する部材や部品のうち水と接触するものの表面に、スラリー中の氷や、水から遅れて生成した氷が局所的に付着し、成長して、スラリー全体の流れを阻害するおそれがある。スラリー全体の流れが阻害されると、製氷装置が安定に稼働しなくなるので、氷スラリーの長時間にわたるか又は連続的な製造が困難になる。
【0100】
そこで、付着物除去機構を設けて、下部排液機構を構成する部材や部品のうち水と接触するものの表面に付着した氷を除去する。この付着物除去機構によれば、製氷装置内における局所的な氷の付着と成長に起因する不具合が発生しにくくなるので、製氷装置の故障の頻度を減らすことができるか又はその故障の原因やその影響を減らすことができる。また、この機構によれば、氷を製氷装置内に堆積することなく連続的に外部に排出することができるので、両液体の直接接触による熱交換が滞りなく、繰り返し、円滑に進行する。この結果、氷スラリーの長時間にわたるか又は連続的な製造を実現することができる。
【0101】
付着物除去機構の典型例は、遠心分離機構により熱媒液体から分離された水と接触する部材の表面に付着した氷の少なくとも一部を除去するスクレーパである。
【0102】
図1、図2及び図4では、当該熱媒液体から分離された水と接触する部材の表面は、下部筒体14の内壁面の少なくとも一部(少なくとも下方側の一部)であり、スクレーパ12は、当該表面に倣って移動する過程で、可能な限り多くの付着物を掻き取って除去する。
【0103】
スクレーパ12を上部筒体9の内壁にも倣って移動するようにすると、回転体19内面に形成される熱媒液体と水の分離層を乱し、遠心分離性能を低下させるので、好ましくない。
【0104】
図6に示すように、スクレーパ12は、略台形枠形状をなし、回転部材18を固定する枠体121に一体的に取り付けられ、且つ、その掻取面が下部筒体14の内壁面に対面して倣うように配置されている。
【0105】
より具体的には、回転内管4がその先端に備える管端連結部(C1)と、回転部材18を固定する枠体121が回転部材18と対面する位置に備える環状連結部(C2)とを接続することにより、回転部材18の回転軸が回転内管4のそれと同軸になるように、回転部材18が回転内管4の先端に取り付けられる。これにより、回転部材18は、回転内管4の回転に伴い回転する。
【0106】
スクレーパ12は、回転部材18を固定する枠体121に一体的に取り付けられているので、回転内管4の回転に伴い、回転部材18と同方向、同速度で回転する。スクレーパ12により掻き取られた氷は、下部排液機構により下部排液口22(回転体19の下部開口部)から氷スラリーとともに製氷装置外に取り出され、下部液体収容部15に収容される。
【0107】
スクレーパ12の回転数は、遠心分離機構の回転体19の回転数に比べて、5〜20rpm程度小さいことが好ましい。スクレーパ12の回転数と回転体19の回転数との差が5rpmより小さいと、スクレーパにより付着物を掻き取る作用がなく、20rpmより大きいと、回転体内面に形成される熱媒液体と水の分離層を乱し、遠心分離性能を低下させるので、好ましくない。
【0108】
スクレーパ12により、回転体19の下部筒体14の内面に付着した付着物を除去することにより、生成したスラリーの流れを阻害することを防止でき、製氷装置を安定に稼働することができ、氷スラリーの長時間にわたるか又は連続的な製造が可能になる。
【0109】
スクレーパ12は、回転部材18を固定する枠体121に一体的に取り付けられているので、例えば保守の必要から、回転部材18を枠体121とともに取り外す際には、スクレーパ12も一緒に取り出すことができる。スクレーパ12の形状は、略台形枠形状に限らず、掻取面が回転体の内壁面に対面して倣うように配置される形状であればよいことはいうまでもない。
【0110】
<選択分離機構>
スクレーパに代表される付着物除去機構により部材の表面に付着した氷を除去する場合には、付着物の成長の程度に違いがあることから、除去される付着物の大きさは変わってくる。このため、付着物除去機構により除去された氷は比較的大きな粒子であったり、粒子が集合して塊状を呈していることが多い。氷スラリーは、氷の比較的大きな粒子や塊の存在により、流動性が阻害される。例えば、水の中に分散又は懸濁する氷粒子の大きさが均一でないと、配管の閉塞、圧力損失やポンプ動力の変動などの問題が生じ、氷スラリーを連続的又は長時間に製造することが難しくなる。選択分離機構を設けて、このような大型の粒子やその塊を、その水又は氷スラリーから選択的に分離する。
【0111】
選択分離機構の典型例は、ざる、ふるい、スクリーン、フィルター、濾過器などである。 図1、図2及び図4に示す装置において、下部液体収容部15の上部にスクリーンを設置してもよい。このスクリーンにより、スラリーを濾過して、粒子が比較的揃って均一な流動性の高い氷スラリーのみを利用することができる。
【0112】
ここで、図1に示す第1の実施形態に係る製氷装置およびこれを用いる製氷方法について、より詳細に説明する。
【0113】
第1の実施形態に係る製氷装置において、水供給管1から供給される水と、熱媒液体供給管2から供給される水よりも比重の大きい熱媒液体は、接触領域13に入り、回転部材18に衝突し、その周囲に飛散し、遠心分離機構により水と生成した氷と、熱媒液体に分離され、排液口から水と氷の混合物、および熱媒液体が排出される。
【0114】
水供給管1と熱媒液体供給管2は二重管構造となっている。水供給管1から供給される水と、熱媒液体供給管2から供給される水よりも比重の大きい熱媒液体は、接触領域13において、水と熱媒液体の直接接触による熱交換が開始され、水が冷却されて氷が生成する。水と熱媒液体は回転部材18に衝突し、水と熱媒液体(両液体という)が回転部材18の表面と接触する際に受ける力(剪断力)により、両液体の混合が促進する。これにより、直接接触に伴う熱交換効率が向上する、ひいては氷の生成効率が向上するという特段の効果が生じる。また、両液体が回転部材18の表面と接触する際に受ける力(剪断力)により、両液体は、回転部材18の回転中心の側から外側に向けて放射状に飛び散り、遠心分離機構に均一に移動する。
【0115】
図1に示す回転部材18は平らな円盤であるが、これに限定されない。形状がコーン型のような回転部材であっても、平らな円盤状の回転部材と同様の効果を奏する。回転部材には遠心分離機構を構成する回転体の下部表面に付着した氷の少なくとも一部を掻き取るための台形枠形状のスクレーパを固定しておいてもよい。この場合、回転体の下部表面に倣うように相対的に移動するスクレーパが付着物除去機構として機能する。
【0116】
移動機構としての回転部材により回転体に向かって移動する水と熱媒液体とは、接触領域を通過しているため、混合されて水と氷と熱媒液体の混合液体となっている。遠心分離機構は、その混合液体を回転させ、当該混合液体に遠心力を作用させることにより、水と氷と熱媒液体の間の比重差に応じて当該混合液体を水と氷と熱媒液体とに分離させる。比重差により分離される水と氷と熱媒液体は、図1(b)に示すような配置で遠心分離機内に存在する。一番比重の大きい熱媒液体は遠心分離機内の最も外側に移動し、上部排液口16から上部液体収容部20へと移動する。また、水および氷は熱媒液体よりも内側に位置し、下部排液口22から下部液体収容部15へと移動する。なお、水と氷の存在位置を模式的に別々に表したが、厳密には水中で水の一部が氷に相変化するため、水中で生成した氷が、遠心力の作用により最も内側の層に移動する場合もある。
【0117】
排液機構が回転体の上部と下部のそれぞれの位置にある。回転体の上部の位置にある上部排液機構は、遠心分離機構により分離された比重が大きい熱媒液体を当該回転体の内側から外側に向けて移動させ、回転体の下部の位置にある下部排液機構は、水と氷の混合物を回転体の内側から外側に向けて移動させる。
【0118】
下部排液機構により製氷装置外へ取り出されるのは主として、水と氷の混合物である。この場合、下部排液機構を構成する部材や部品のうち氷と接触するものの表面に、氷が局所的に付着し、成長して、全体の流れを阻害する恐れがある。全体の流れが阻害されると、製氷装置が安定に稼働しなくなるので、氷の長時間にわたる又は連続的な製造が困難になる。そこで、付着物除去機構を設けて、下部排液機構を構成する部材や部品の表面に付着した氷を除去する。
【0119】
この付着物除去機構によれば、製氷装置内における局所的な氷の付着と成長に起因する不具合が発生しにくくなるので、製氷装置の故障の頻度を減らすことができるか又はその故障の原因やその影響を減らすことができる。また、この機構によれば、氷を製氷装置内に堆積することなく連続的に外部に排出することができるので、混合液体の直接接触による熱交換が滞りなく、繰り返し、円滑に進行する。この結果、氷の長時間にわたる又は連続的な製造を実現することができる。
【0120】
付着物除去機構の典型例は、遠心分離機構により水と熱媒液体から分離された氷と接触する部材の表面に付着した氷の少なくとも一部を除去するスクレーパである。水と熱媒液体から分離された氷が接触する部材の表面は、下部筒板の少なくとも一部(少なくとも下方側の一部)であり、スクレーパ12は、当該表面に倣って移動する過程で、可能な限り多くの付着物を掻き取って除去する。
【0121】
スクレーパを上部筒板の内壁にも倣って移動するようにすると、回転体内面に形成される水と熱媒液体との分離層を乱し、遠心分離性能を低下させるので、好ましくない。スクレーパは、略台形枠形状をなし、回転部材18を固定する枠体に一体的に取り付けられ、且つ、その掻取面が下部筒板の内壁面に対面して倣うように配置されている。
【0122】
[B] 熱媒液体の比重が、水及び氷の比重よりも小さい場合
以上説明した本発明の第1〜第3の実施形態は、熱媒液体の比重が水及び氷の比重より大きい場合であるが、以下に示す本発明の第4の実施形態は、熱媒液体の比重が水及び氷の比重より小さい場合である。
【0123】
本発明の第4の実施形態においては、水とそれよりも比重の小さい熱媒液体を接触させて熱交換を開始し、氷を製造するとともに、遠心分離機構により、生成した氷を含む水と熱媒液体を分離する。水よりも比重の小さい熱媒液体として、例えばドデカン、ウンデカン、トリデカンなどの炭化水素化合物を用いることができる。
【0124】
水と氷は熱媒液体よりも比重が大きいので、遠心分離機構の回転体の内壁面近傍に位置する。そのため、回転体の内壁面の近傍で水と氷が存在するところに、回転体と異なる回転数で回転するスクレーパを設けることにより、氷の付着・堆積を防止し、氷スラリーを安定して連続して製造することができる。
【0125】
図7(a)は、本発明の第4の実施形態に係る製氷装置を示す側断面図である。(b)は、該製氷装置における水、氷及び熱媒液体の存在位置を示す側断面図である。
【0126】
図7(a)に示す製氷装置において、回転体19は、その上部において主軸管5に接続されている。回転体19の上蓋部17は、回転体19に固定されており、中央に開口を有する。上蓋部17には、その下面に案内羽根11が複数枚固定されていて、案内羽根11は、氷スラリーと熱媒液体に遠心力を伝達させるために設けるものである。
【0127】
複数本のスクレーパ12が、回転体19の内壁面の近傍に位置するように、スクレーパアーム25を介して回転内管4に固定されている。スクレーパアーム25には、熱媒液体が下部に流出しないように、円板状の棚板24が固定されている。また、円板状の回転部材18が、スクレーパアーム25に固定されている。図示しない補助スクレーパが、回転体19の下部排液口22周辺の外壁面の近傍に位置するように回転内管4に固定されている。
【0128】
水供給管1と熱媒液体供給管2は二重管構造であるが、並列構造でもよく、また水と熱媒液体を予め接触させた両液体を導入する単管構造でもよい。
【0129】
スクレーパ12と回転体19の内壁面、スクレーパ12と案内羽根11、スクレーパアーム25と回転体19の底面および補助スクレーパ(図示せず)と回転体19の下部排液口22周辺の外壁面とは、わずかな隙間を持つように構成されている。
【0130】
回転体19とスクレーパ12が異なる回転速度で回転するように、主軸管5の回転軸と回転内管4の回転軸が構成されている。
【0131】
以上のように構成される図7に示す製氷装置は、以下のように動作する。
【0132】
まず、回転体19とスクレーパ12とを、10〜50rpmの回転速度差で回転させる。遠心分離機構である回転体19の回転速度は、1000〜2000rpm程度であるのが好ましい。次いで、水供給管1から水を供給し、熱媒液体供給管2から熱媒液体を供給する。その結果、水供給管1と熱媒液体供給管2の出口で水と熱媒液体が接触し、熱交換が開始されるとともに、回転している回転部材18に衝突して混合され、両液体間の熱交換が促進されるので、水から氷が生成され、氷が水に分散した氷スラリーが生成される。
【0133】
氷スラリーと熱媒液体は、回転部材18の周囲に飛散し、案内羽根11による遠心力の作用により、回転体19の内周に移動し、図7(b)に示すように、比重の大きい氷スラリー(I+W)は外側に、比重の小さい熱媒液体Mは内側に分離される。
【0134】
氷スラリー(I+W)は、回転体19の内周面と棚板24との間隙を通って下方へ移動し、下部排液口22から排出される。熱媒液体Mは、棚板24の外周より内側に位置し、回転体19の上蓋部17に設けられた複数個の開口部から排出される。排出された氷スラリー(I+W)および熱媒液体Mは、一旦、容器(それぞれ下部液体収容部15および上部液体収容部20又は、製氷装置外に設置された容器(図示せず))に貯留された後、再度、それぞれの供給管に供給され、氷スラリーの製造が連続的に行われる。
【0135】
図7(b)において、水Wは回転体19の内周の最も外側に位置し、氷Iは水Wよりも内側に位置し、熱媒液体Mは最も内側に位置するように、水Wと氷Iの存在位置を模式的に別々に表している。これは、水中で生成した氷Iが、遠心力の作用により水Wよりも内側の位置に移動することによるが、氷Iの生成は水中で生じるものであり、一時的にでも回転体19内壁の近傍に氷Iが存在し、回転体19内壁に氷Iが付着することがある。そこで、スクレーパ12を回転体19と異なる回転数で回転させることにより、回転体19の内壁面に氷Iが付着・堆積することが防止される。また、スクレーパアーム25によっても、回転体19の底部に氷Iが付着・堆積することが防止され、図示しない補助スクレーパによっても、回転体19の下部排液口22周辺の外壁面に氷Iが付着・堆積することが防止される。
【0136】
[C] 熱媒液体の比重が、氷の比重より大きく水の比重より小さい場合
以上説明した本発明の第4の実施形態は、熱媒液体の比重が水及び氷の比重より小さい場合であるが、以下に示す本発明の第5の実施形態は、熱媒液体の比重が氷の比重より大きく水の比重より小さい場合である。
【0137】
本発明の第5の実施形態においては、水と、比重が氷より大きく水より小さい熱媒液体を接触させて熱交換を開始し、氷を製造するとともに、遠心分離機構により、生成した氷を含む水と熱媒液体を分離する。
【0138】
水は熱媒液体よりも比重が大きいので、遠心分離機構の回転体の内壁面近傍に位置する。そのため、回転体の内壁面の近傍で水と水から生成した氷が存在するところに、回転体と異なる回転数で回転するスクレーパを設けることにより、氷の付着・堆積を防止し、氷スラリーを安定して連続して製造することができる。
【0139】
図8(a)は、本発明の第5の実施形態に係る製氷装置を示す側断面図である。(b)は、該製氷装置における水、氷及び熱媒液体の存在位置を示す側断面図である。
【0140】
図8に示す製氷装置は、図7に示す製氷装置とほぼ同じ構成であり、棚板24の内周側に氷排出口26が設けられている点が相違する。同じ構成の部分については説明を省略する。また、図8に示す製氷装置の動作は、図7に示す製氷装置における氷スラリーが生成されるまでの動作と同じであり、説明を省略する。
【0141】
氷スラリーと熱媒液体は、回転部材18の周囲に飛散し、案内羽根11による遠心力の作用により、回転体19の内周に移動し、図8(b)に示すように、比重の最も大きい水Wが外側に、比重の最も小さい氷Iが内側に、熱媒液体Mが水Wと氷Iの間に分離される。
【0142】
水Wは、回転体19の内周面と棚板24との間隙を通って下方へ移動し、下部排液口22から排出され、下部液体収容部15に収容される。氷Iは、棚板24の内周側の氷排出口26を通って下方へ移動し、下部液体収容部15に収容される。
【0143】
熱媒液体Mは、棚板24の外周より内側に位置し、回転体19の上蓋部17に設けられた複数個の開口部から排出され、上部液体収容部20に収容される。
【0144】
収容された氷I、水Wおよび熱媒液体Mは、再度、それぞれの供給管に供給され、氷スラリー(I+W)の製造が連続的に行われる。
【0145】
図8(b)において、水Wは回転体19の内周の最も外側に位置し、氷Iは最も内側に位置し、熱媒液体Mは水Wと氷Iの間に位置するように、水Wと氷Iの存在位置を模式的に別々に表している。これは、水W中で生成した氷Iが、遠心力の作用により水Wよりも内側の位置に移動することによるが、氷Iの生成は水W中で生じるものであり、一時的にでも回転体19内壁の近傍に氷Iが存在し、回転体19内壁に氷Iが付着することがある。そこで、スクレーパ12を回転体19と異なる回転数で回転させることにより、回転体19の内壁面に氷Iが付着・堆積することが防止される。また、スクレーパアーム25によっても、回転体19の底部に氷Iが付着・堆積することが防止され、図示しない補助スクレーパによっても、回転体19の下部排液口22周辺の外壁面に氷Iが付着・堆積することが防止される。
【0146】
[D]製氷装置を用いる製氷方法
以上説明した種々の実施形態に係る製氷装置を用いて行う製氷方法の典型的な工程は、当該製氷装置が移動機構として回転部材を備える場合において、以下のとおりである。
【0147】
1)水と、当該水と比重が異なる熱媒液体とを、例えば二重管構造、並列構造又は単管構造の導入機構により、別々に又は同時に導入する。
【0148】
2)導入された水及び熱媒液体の移動方向を変更させる。より具体的には、(a)水と熱媒液体とを導入機構により製氷装置内に別々に導入する場合、熱媒液体と水とを製氷装置内で初めて接触させ、熱交換を開始させ、両液体の移動方向を変更させる。または、(b)水と熱媒液体とを導入機構により製氷装置内に同時に導入する場合(例えば、(b-1)導入機構に供給する前に予め両液体を接触又は混合させたうえで又は(b-2)導入機構に供給した後に導入機構を通過する過程で両液体を接触又は混合させたうえで、導入機構より製氷装置内に導入する場合)、水と熱媒液体のうちそれぞれ少なくとも一部は既に互いに接触又は混合しているが、それらの残部は未接触又は未混合のまま或いは熱交換が未完であるケースがあるので、それらの残部を製氷装置内で初めて接触させ、熱交換を開始させ、両液体の移動方向を変更させる。
【0149】
これにより、まず、熱媒液体と水との直接接触による熱交換により、当該水中に氷を生成させ、氷が水中に分散又は懸濁するので氷スラリーを製造することができる。このとき、両液体間の熱交換を促進させることができるので、より多く又はより効率的に、氷スラリーを製造することができる。
【0150】
なお、上記(a)及び(b)のいずれの場合においても、接触領域として定義される領域が生じる。ただし、上記(b)の場合、水と熱媒液体との混合の程度が高い場合には、製氷装置内で両液体が接触を開始する機会が減るので接触領域の存在の確認は難しくなる。しかし、両液体の移動方向を回転部材により変更させることにより両液体間の熱交換を促進させるという効果は、その他の場合と同様に生じる。
【0151】
3)水と熱媒液体とを回転部材により遠心分離機構の回転体に向かって放射状に放散させる。このため、両液体は下方に落下せず、しかも回転体に向かって均一に到達する。これにより、両液体を短時間内に遠心分離にかけることができ、遠心分離機構への負担を均一化することができる。
【0152】
なお、好ましい態様においては、接触領域が遠心分離機構の回転体の回転範囲内に配置し、より好ましい態様においては、接触領域と回転部材とが遠心分離機構の回転体の回転範囲内に配置する。これらの態様によれば、上記効果がより顕著になる。
【0153】
4)水と熱媒液体とを遠心分離機構により分離させる。より具体的には、熱媒液体が水より比重が大きい場合には、遠心分離により比重が大きい熱媒液体を外側に移動させ、水又は氷スラリーと分離させる。熱媒液体が水より比重が小さい場合には、遠心分離により比重が大きい氷スラリーを外側に移動させ、熱媒液体と分離させる。
【0154】
5)遠心分離された熱媒液体と水又は氷スラリーとを、別々に排出させる。
【0155】
6)スクレーパにより製氷装置の内壁面に付着又は堆積した氷を掻き取り、又は氷の付着又は堆積を抑制し、閉塞や流れの阻害の発生を防止する。これにより、安定的に氷スラリーを製造することができる。
【0156】
[E]蓄熱式空調設備
図9は、本発明に係る製氷装置を用いて、氷スラリーを製造することで蓄熱を行う蓄熱式空調設備を示す図である。熱媒液体は水より比重が大きく、且つ、熱媒液体及び水を導入機構により製氷装置内に別々に導入する場合について示す。
【0157】
図9に示す蓄熱式空調設備における液体の流れは、次の通りである。
【0158】
即ち、水は、水ポンプ57→水供給管1→製氷装置G内→接触領域13→回転部材18→回転体19→下部排液機構→下部液体収容部(スラリータンク)15→スラリポンプ50→固液分離槽51→スラリポンプ52→蓄熱槽54→スラリ送りポンプ55→負荷側熱交換器56→蓄熱槽54(→再び水ポンプ57)の経路に沿って循環する。
【0159】
熱媒液体は、熱媒液体ポンプ59→冷凍機61→熱媒液体供給管2→製氷装置G内→接触領域13→回転部材18→回転体19→上部排液機構→上部液体収容部20→熱媒液体タンク60(→再び熱媒液体ポンプ59)の経路に沿って循環する。
【0160】
製氷装置G外へ引き出された熱媒液体は、熱媒液体タンク60に貯蔵され、そこで、熱媒液体に少量混入している水が分離され、熱媒液体の純度が高められる。熱媒液体ポンプ59により熱媒液体タンク60から引き出された熱媒液体は冷凍機61において冷却され、製氷装置Gに再導入される。
【0161】
一方、製氷装置G外へ引き出された氷スラリーは、下部液体収容部に相当するスラリタンク15に収容され、そこで、混入している熱媒液体が分離され、熱媒液体の混入の程度が低められた状態で当該スラリタンク15からスラリポンプ50により引き出され、固液分離槽51に送られる。固液分離槽51において水が適当量分離され、固相率を高めた氷スラリーがスラリポンプ52により蓄熱槽54に送られ貯蔵される。固液分離槽51で分離された水は、水ポンプ53により、蓄熱槽54から水供給管1に水を供給する経路に送られる。蓄熱槽54において貯蔵されている氷スラリーは、スラリ送りポンプ55により負荷側熱交換器56に送られ、熱利用に供される。即ち、氷スラリーが負荷側熱交換器56において別の熱媒体と熱交換を行うことにより、当該氷が蓄積していた潜熱エネルギーが当該別の熱媒体に移動し、空調に用いられる。この熱エネルギーの移動を通じて氷は水に戻るので、氷スラリーは負荷側熱交換器56を通過した後、水の状態で蓄熱槽54に戻される。蓄熱槽54中の水は、水ポンプ57により引き出され、製氷装置G内に再導入される。
【0162】
なお、スラリタンク15において氷スラリーから分離された熱媒液体は、スラリタンク15から熱媒液体戻しポンプ58により引き出され、熱媒液体タンク60に送られる。また、熱媒液体タンク60において熱媒液体から分離された水は、水戻し配管(図示せず)を通じて、当該熱媒液体タンク60からスラリポンプ50により引き出され、スラリタンク15の下流に送られる(図示せず)。
【0163】
スラリタンク15にはスクリーンが設けられ、遠心分離機構により熱媒液体から分離された水に含まれる氷のうち比較的大きな粒子が除去され、図示しない大粒子排出手段により排出される。
【0164】
氷スラリーを製造して蓄熱を行う蓄熱式空調設備において、本発明の各製氷装置を用いることにより、下記の効果を奏することができる。
【0165】
1)熱媒液体と水とを直接接触させ、熱交換させるため、熱交換性能が良い。
【0166】
2)熱媒液体と水の移動方向を変更する移動機構を備えているので、両液体間の熱交換効率を高めることができる。
【0167】
3) 遠心分離により熱媒液体と水とを分離するため、分離機構をコンパクトにすることができ、分離のための動力を小さくできる。
【0168】
4)直接接触熱交換を行った後の水と熱媒液体との分離をより効果的に行うことができ、氷の製造を長時間にわたり又は連続的に安定して行うことができるため、製造した氷を用いる蓄熱式空調設備を安定して運転することができる。また、外部に熱交換器が不要であり、機器構成がシンプルである、等の効果がある。
【符号の説明】
【0169】
1・・・水供給管、2・・・熱媒液体供給管、3・・・回転内管プーリ、4・・・回転内管、5・・・主軸管、6・・・主軸管プーリ、7・・・調整版、8・・・障害板、9・・・上部筒体、10・・・羽根固定板、11・・・案内羽根、12・・・スクレーパ、13・・・接触領域、14・・・下部筒体、15・・・下部液体収容部、16・・・上部排液口、17・・・上蓋部、18・・・回転部材、19・・・回転体、20・・・上部液体収容部、21・・・ケーシング、22・・・下部排液口、23・・・水および熱媒液体供給管、24・・・棚板、25・・・スクレーパアーム、26・・・氷排出口、50…スラリポンプ、51…固液分離槽、52…スラリポンプ、53…水ポンプ、54…蓄熱槽、55…スラリ送りポンプ、56…負荷側熱交換器、57…水ポンプ、58…熱媒液体戻しポンプ、59…熱媒液体ポンプ、60…熱媒液体タンク、61…冷凍機、W…水、I…氷、M…熱媒液体、G…製氷装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する製氷装置であって、
水及び熱媒液体を導入する導入機構と、
回転部材と、
該回転部材の周りで回転する回転体と、
を具備し、導入機構により導入された水及び熱媒液体を前記回転部材によりその周囲に飛散させ、前記回転部材の周囲に飛散した水及び熱媒液体を前記回転体により遠心分離することを特徴とする製氷装置。
【請求項2】
水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する製氷装置であって、
水及び熱媒液体を導入する導入機構と、
回転部材を備え、前記導入機構により導入された水及び熱媒液体の移動方向を変更する移動機構と、
該回転部材の周りで回転する回転体を備え、移動機構により移動方向が変更された水及び熱媒液体を前記回転体の作用により遠心分離する遠心分離機構と、
を具備することを特徴とする製氷装置。
【請求項3】
水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する製氷装置であって、
水及び熱媒液体を導入する導入機構と、
該導入機構により導入された前記水及び前記熱媒液体のそれぞれの少なくとも一部を互いに直接接触させて、前記水から氷を生成するために必要な熱交換を開始する接触領域と、
前記接触領域において直接接触した前記水及び前記熱媒液体の移動方向を変更する移動機構と、
前記接触領域のまわりで回転する回転体を備え、前記移動機構により移動方向が変更された前記水及び前記熱媒液体を、前記回転体の作用により回転させ、それにより生じる遠心力の作用により分離する遠心分離機構と、
を具備することを特徴とする製氷装置。
【請求項4】
前記移動機構は、回転部材を備え、前記接触領域において直接接触した前記水および前記熱媒液体を、前記回転部材の回転の作用により前記遠心分離機構に向けて移動する機構であることを特徴とする請求項3に記載の製氷装置。
【請求項5】
水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する製氷方法であって、
水及び熱媒液体を導入する導入工程と、
該導入工程により導入された水及び熱媒液体を回転部材に衝突させ、その周囲に飛散させる移動工程と、
該移動工程により前記回転部材の周囲に飛散した前記水及び熱媒液体を、前記回転部材の周りで回転する回転体により水及び熱媒液体を遠心分離する遠心分離工程と、
を具備することを特徴とする製氷方法。
【請求項6】
水と、水と比重が異なる熱媒液体との直接接触により生ずる熱交換により、当該水から氷を製造する製氷方法であって、
水及び熱媒液体を導入する導入工程と、
該導入工程において導入された前記水および前記熱媒液体のそれぞれの少なくとも一部を接触領域において互いに直接接触させ、それにより前記水から氷を生成するために必要な熱交換を開始する接触工程と、
該接触工程において直接接触した前記水および前記熱媒液体を、前記接触領域のまわりで回転する回転体に向けて移動する移動工程と、
該移動工程において前記接触領域から移動した前記水および前記熱媒液体を、前記回転体により回転させ、それにより生じる遠心力の作用により分離する遠心分離工程と、
を具備することを特徴とする製氷方法。
【請求項7】
前記移動工程は、前記接触工程において直接接触した前記水および前記熱媒液体を、回転部材の回転の作用により前記遠心分離機構に向けて移動する工程であることを特徴とする請求項6に記載の製氷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−44478(P2013−44478A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183029(P2011−183029)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】