説明

製紙におけるピッチおよびスティッキーズの析出を制御するための水溶性の架橋されたカチオン性ポリマーの使用

本発明は、連鎖延長および架橋のために反応温度において攪拌しながら水溶性ラジカル開始剤を制御して添加することによって製造される、架橋されたカチオン性ポリマーを使用してパルプおよび製紙プロセスにおけるピッチおよびスティッキーズの析出物を制御する方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連鎖延長および架橋のために攪拌しながら反応温度において水溶性ラジカル開始剤を制御して添加することによって製造された、架橋されたカチオン性ポリマーを使用してパルプおよび製紙プロセスにおいてピッチ(pitch)およびスティッキーズ(stickies)の析出物(deposit)を制御する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
本発明は、製紙においてピッチおよびスティッキーズの析出を制御し、そして防止するための高い分子量(MW)の、架橋された、水溶性のカチオン性ポリマーの使用を指向するものである。
【0003】
カチオン性ポリマーは、保持および排液を改良するための凝集剤およびアニオン性の夾雑物(trash)ならびにピッチおよびスティッキーズの析出を制御する凝固剤または固定剤として製紙において広く使用されてきた。最も重要な、そして析出物制御のために広く使用されているカチオン性ポリマーの中に、ジアリルジアルキルアンモニウム化合物の4級アンモニウムポリマーがある。生成したカチオン性ポリマーの分子量(MW)が高い程、そのポリマーは、凝集剤としてより効果的であることが示された。通常、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)の線状ポリマーが製造される。アゾ開始剤および/または追加の無機塩を用いた重合(米国特許第5,248,744号、同第5,422,408号、同第4,439,580号)が、高いMWを達成するために使用されてきた。
【0004】
重合における架橋剤または分岐剤の使用は、高いMWのカチオン性ポリマーを製造する別の方法である。架橋剤を使用した重合は、構造化されているだけでなく、高いMWのポリマーを与えることができる。高度に分岐されたポリDACMACは、あるタイプの用途において同様のMWの線状のものよりも良好な有効性を有することができる。
【0005】
米国特許第3,544,318号は、分岐されたポリマーが、導電性紙基材に優れたバリア性を付与し、紙の中に溶剤が拡散するのを防止するので、分岐されたポリDADMACが、線状のポリDADMACも導電性紙についてより有効であることを教示している。
【0006】
同時係属中の米国出願第10/639,105号は、水溶性のラジカル開始剤を使用して重合後の架橋反応によって架橋されたポリDADMACを開示している。
【0007】
米国特許第3,968,037号は、架橋および分岐剤を用いた逆(油中水型)エマルション重合によって得られたカチオン性ポリマーが、凝集剤としておよび活性下水スラッジの処理のために驚く程に高い有効性を有することを示す。発明者等は、架橋剤としてトリおよびテトラ−アリルアンモニウム塩、メチレンビスアクリルアミドのようなポリオレフィン性不飽和化合物を使用した。発明者等は、架橋剤を含有する溶液重合からは、効果のない生成物しか得られないことを見出した。
【0008】
ヨーロッパ特許第0264710B1号は、溶液重合から製造された高度に分岐された水溶性ポリDADMACが、水中油型エマルションを破壊するための凝集剤または消泡剤としてより良好に作用することを特許請求している。その特許は、高度に分岐されたポリDADMACを製造する技術を教示している。これらの分岐されたポリDADMACは、モノマー変換率が少なくとも25%〜90%を達成した後に、DADMACの進行性重合の間に、メチルトリアリルアンモニウムクロリド(MTAAC)またはトリアリルアミンヒドロクロリド(TAAHCI)のような架橋用コモノマー0.1〜3.0モル%を加えることによって製造される。完全にゲル化された生成物が、MTAAが最初に全て一度に加えられる場合に、得られる。
【0009】
米国特許第4,100,079号は、油井生産を刺激するための油井の掘削および破砕における酸性増粘剤として、後架橋することができるDADAMCとN−メチロールアクリルアミドとのコポリマーの使用を開示している。
【0010】
米国特許第4,225,445号は、分岐されたDADMACポリマーが、油井の掘削および破砕作業における酸性増粘剤として有用であることを開示している。分岐されたDADMACポリマーは、トリアリルメチルアンモニウムクロリドのような架橋剤モノマーを用いてDADMACの逆エマルション重合によって製造される。
【0011】
米国特許第5,653,886号は、鉱物廃棄物スラリーのための無機質固体の分散体における凝固剤としての、架橋されたDADMACポリマーの使用を開示している。その用途のための好ましい高い分子量の架橋されたポリDADMACは、DADMACをアクリルアミドおよびトリアリルアミンと共重合させることによって製造される。
【0012】
カチオン性高分子電解質と反対のアニオンとの相互作用の研究において、Ghimiciら(Journal of Polymer Science:Part B,Vol35,page2571,1997)は、カチオン性高分子電解質サンプルが有する分岐または架橋が多い程、アニオン性対イオンとの結合が一層強くなることを見出した。ポリカチオンの分岐は、高い希釈においてさえより多数の荷電基を有する領域をつくり出し、その結果、それらに会合される対イオンの数が増大されることが述べられている。
【0013】
米国特許第5,989,382号は、多官能(トリアリルアミン)を使用して高い分子量の架橋されたポリ−DADMACを作製しており、これは、製紙におけるピッチ制御のために使用することができる。
【0014】
ピッチおよびスティッキーズは、製紙のウェットエンド(wet end)における妨害物質であり、機械の作業適性および紙の品質の両方に影響を与え得る。本明細書で用いる“ピッチ”なる用語は、パルプ化プロセス中に繊維から剥離される木材由来の疎水性粒子のコロイド状分散体を称し、木材ピッチとも呼ばれる。木材ピッチは、脂肪酸、樹脂酸、それらの不溶性塩、ならびに脂肪酸のグリセロールとのエステル、ステロ−ル、およびその他の脂肪およびワックスを含む。ピッチ析出物の問題は、ピッチ組成が季節および木材のタイプによって変化することから、季節的なものである。ピッチの疎水性成分、特にトリグリセリドは、そのようなピッチの存在が析出物の問題に至ることになるかどうかを決める主要な要因と考えられる。析出物形成性ピッチは、常に相当に高い量のトリグリセリドを含有する。本明細書中で使用する“スティッキーズ”なる用語は、接着剤およびコーティングのようなリサイクル繊維の成分から発生する粘着性物質および妨害物質を称する。スティッキーズは、コーテッド損紙、板紙製造用リサイクル古紙および脱インキパルプ(DIP)から至り得る。コーテッド損紙からのスティッキーズは、時にホワイトピッチと呼ばれる。ピッチおよびスティッキーズの析出は、しばしば完製品の欠陥および抄紙機の停止時間に至り、工場の利益損失を引き起こす。これらの問題は、製紙工場が、保護および環境的な理由のためにそれらのプロセスの水系を“閉鎖系にする(close up)”場合にもっと重要になる。ピッチおよびスティッキーズが制御された様式でその系から連続的に除去されなければ、これらの妨害物質は蓄積し、終局的に析出物および作業適性の問題に至ることになる。
【0015】
リサイクルされるコーテッド紙および脱インクされる古紙からの季節的なピッチおよびスティッキーズは、主たる作業適性問題を引き起こし、その結果、工場にとって生産損失、それゆえに利益損失を生じる。木材からのピッチは、季節性がある。コーテッド損紙、板紙製造用リサイクル古紙および脱インク繊維からのスティッキーズは、これらの完成紙料が使用される時に、生じることになる。今日、適当な技術は、スティッキーズが凝集する機会を持つ前に、繊維にピッチ又はスティッキーズを固定化することに基づくか、或いはピッチまたはスティッキーズをポリマーで被覆して、それらを不粘着性にし、それにより凝集できなくするものである。
【0016】
3つの化学的な方法が、ピッチおよびスティッキーズの析出物を制御するのに、製紙工場によって通常使用される:
1)粘着防止化
2)安定化
3)固定化
しかし、これらの方法は、互いに相反し得るので、一緒には使用されないのが普通である。
【0017】
粘着防止化では、析出性を減少させるためにピッチおよびスティッキーズの周りに水の境界層を付着させるのに化学物質を使用する。粘着防止化は、タルクおよびベントナイトのようなピッチ吸着剤を添加することによって達成することができる。しかし、タルクのようなピッチ吸着剤は、タルク/ピッチ粒子が、紙シートの界面活性剤、および水溶性ポリマー中に保留されなければ、結局ピッチの析出性に寄与することになり得る。
【0018】
安定化では、コロイド安定性を化学的に高め、ピッチおよびスティッキーズを凝集または析出させることなしにプロセスを通過させるために、界面活性剤および分散剤を使用する。カチオン性ポリマーを、ピッチおよびスティッキーズを固定化させることによって制御するために固定剤として使用されるのが普通である。ポリビニルアルコールのような非イオン性ポリマーおよびポリアクリルアミド−酢酸ビニルのようなコポリマー(PCT出願 WO0188264)が粘着防止化によってスティッキーズを制御するために開発され、使用されてきた。スチレンと無水マレイン酸とのコポリマーのような疎水性に変性されたアニオン性ポリマー(米国特許第6,051,160号)が、最も好まれるピッチ安定化メカニズムによるピッチの析出物の制御のために使用されてきた。
【0019】
固定化では、ピッチおよびスティッキーズを繊維に固定化し、白水系からそれらを除去するために、ポリマーを使用する。製紙系における妨害物質は、通常本来はアニオン性であり、時にはアニオン性夾雑物またはカチオン要求量(demand)として呼ばれる。アニオン性夾雑物は、コロイド状の(ピッチおよびスティッキーズ)、ならびに化学的添加剤と共に析出物形成または妨害することによって様々な形で製紙に影響を与える溶解物質からなる。カチオン性ポリマーでカチオン要求量を減少させることによってアニオン性夾雑物を除去することは、固定化による析出物の制御の方法である。ピッチおよびスティッキーズの制御のためにカチオン性ポリマー凝固剤を使用することの利点は、ピッチおよびスティッキーズが、完成紙生成物中の繊維中に分散された顕微鏡的に粒子の形で系から除去されることである。
【0020】
米国特許第5,256,252号は、DADMACポリマーと共に酵素(リパーゼ)を使用してピッチ析出物を制御する方法を開示している。ピッチ制御の性能を評価するのに、ろ液濁度試験が使用されている。
【0021】
ヨーロッパ出願第464993号は、天然ピッチの析出を制御するための、DADMACとアクリル酸塩との両性のコポリマーの使用を開示している。リサイクルパルプ中のスティッキーズおよびコーテッド損紙中のホワイトピッチの析出物制御のためのポリマーは、特許請求されていない。ろ液濁度試験は、ピッチ析出物の制御のための性能を評価するために使用される試験方法の内の1つである。
【0022】
PCT出願第WO00034581号は、DADMAC、アクリルアミドおよびアクリル酸の両性ターポリマーが、コーテッド損紙を処理してホワイトピッチを制御するために使用されることができることを教示している。ろ液濁度試験が、ピッチ析出物制御のためのポリマーの性能を決めるのに使用される。
【0023】
ヨーロッパ出願第058622号は、DADMAC、DADEAC、アクリルアミドおよびアクリル酸のエマルションコポリマーを用いて製紙プロセス中の木材ピッチの析出を減少させ、または防止する方法を教示している。使用されるDADMACポリマーは、架橋されていない。
米国特許第5,131,982号は、コーテッド損紙処理してホワイトピッチを制御するための、DADMACホモポリマーおよびコポリマーの、使用を教示している。使用されるDADMACポリマーは、架橋されていない。その特許は、一層の濁度減少をもたらすのに、線状ポリアミンよりも、架橋されたポリエピアミンがより良好な性能を有することを示している。
【0024】
米国特許第5,837,100号は、コーテッド損紙の処理のための、分散ポリマーと凝固剤とのブレンドの使用を教示している。濁度減少試験が、ポリマーの活性度効率を決めるのに使用される。
【0025】
米国特許第5,989,392号は、パルプ含有損紙中のアニオン性夾雑物およびピッチの析出を制御するための、架橋されたDADMACポリマーの使用を教示している。パルプろ液濁度試験は、ピッチ析出制御におけるポリマーの性能を評価するのに使用されている。溶液状の、架橋されたまたは分岐されたポリDADMACの、従来の線状のポリDADMACに勝る改良された効率が、立証されている。使用される架橋されたまたは分岐されたポリDADMACは、トリアリルアミンヒドロクロリドおよびメチレンビスアクリルアミドのようなポリオレフィン性架橋用モノマーを使用して製造される。
【0026】
ヨーロッパ出願第600592号は、ラジカル開始剤を用いる後処理によって低分子量の架橋されたポリアクリレートを製造する方法を開示している。出発アクリレートポリマー溶液が、90℃の反応温度に加熱される。その後、所望の量のラジカル開始剤が、比較的に短い時間(15〜30分間)にわたって加えられる。架橋のために加えられる開始剤を使い尽くすために、反応温度が、さらなる時間、通常2時間よりも短い時間維持される。架橋およびMWの増大の程度は、主に反応温度、pH、加えられる開始剤の量、および開始剤を添加した後の反応時間によって制御される。開始剤供給時間は、架橋の程度を制御するのに使用されていない。その特許は、洗浄剤およびクリーニング用途のための低MWの架橋されたポリアクリレートを作製することに関するものである。
【0027】
強い電解質のポリマーラジカル間の架橋は、静電気反発により限定され得る。MaおよびZhu(Colloid Polym.Sci,277:115〜122(1999))は、カチオン性電荷が互いを反発することから、ポリDADMACが照射によるラジカル架橋を受けることができないことを立証した。他方では、非イオン性ポリアクリルアミドは、照射によって容易に架橋されることができる。有機過酸化物によるポリDADMACの架橋の困難性は、Gu等によって報告された(Journal of Applied Polymer Science,Volume 74,page1412(1999))。溶融(140〜180℃)状態でジアルキルペルオキシドによってポリDADMACを処理すると、固有粘度の減少によって明白であるように、ポリマーの分解に至るだけであった。
【0028】
発明の要約
固定化とアニオン性夾雑物の減少の両方によって析出を制御することができる2元の機能性のポリマーが望ましい。本明細書中に記載する本発明の水溶性ポリマーは、それらが固定化および電荷中和のための架橋構造およびカチオン性官能価を含有するので、この2元の目的に適っている。
【0029】
すなわち、本発明は、強いカチオン性電解質ポリマーであるジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)の架橋用水溶性カチオン性ポリマーに関するものである。モノマーのDADMACは、2つの二重結合を含有するにもかかわらず、間環重合を受けて5員のピロリジニウム複素環式の環の繰り返し単位を有するほとんど線状の水溶性ポリマーを形成する。DADMACのポリマーは、ペルスルフェート化合物によって架橋されることができるが、残留モノマーが、後架橋用に使用するポリマー濃度に依存する十分に低いレベルに低減される場合だけである。
【0030】
ピッチおよびスティッキーズの析出物制御のために高い分子量の、架橋された、水溶性カチオン性ポリマーについての要求がある。本発明の1つの目的は、米国特許第5,989,392号に記載されている通りのポリオレフィン性架橋剤を添加することによって製造される架橋されたポリマーと異なる構造を有するDADMACの架橋されたポリマーを提供することにある。ポリオレフィン性架橋剤を使用して製造された架橋されたポリマーは、2つの結合されるポリマー鎖の間を橋かけする架橋剤を有するが、本発明の架橋されたポリマーは、架橋剤のブリッジを含有せず、それゆえに、それらのバックボーン上のいくつかの点で簡単に結合しているポリマー鎖とより短い架橋用ブリッジを有するものと信じられる。
【0031】
望ましいカチオン性ポリマーは、アニオン性夾雑物とピッチおよびスティッキーズの析出物との両方を有効に、そして効率的に制御することができるものである。ピッチおよびスティッキーズの制御のために製紙工場で商業的に使用されるカチオン性ポリマーは、DADMACのホモポリマーと、エピクロルヒドリンおよびジメチルアミンから製造されるポリエピアミンである。ペルスルフェートで後架橋することによって製造されるDADMACの水溶性の、分岐または架橋されたポリマーが、顕微鏡的粒子の形態で系からそれらを除去することによってピッチおよびスティッキーズの析出物を制御するために使用して良好な結果を得ることができることを、今見出した。
【0032】
本発明は、製紙においてピッチおよびスティッキーズの析出を制御し、そして防止するための高い分子量(MW)の、架橋された、水溶性のカチオン性ポリマーの用途を指向とするものである。その方法は、木材ピッチの析出物を制御するための機械パルプ、ピッチおよびスティッキーズの析出物を制御するためのコーテッド損紙、およびスティッキーズの析出物を制御するためのリサイクルパルプを処理するためにシート形成の前に完成紙料に、高MWの、架橋されたまたは分岐されたポリDADMACを加える工程を含む。
【0033】
高い分子量(MW)の、架橋された、水溶性のカチオン性ポリマーは、カチオン性ベースポリマーを適したラジカル開始剤で後架橋させることによって製造する。好適なカチオン性ベースポリマーは、次の式:
【0034】
【化2】

【0035】
(式中、RおよびRは、水素またはC〜Cアルキルであり;RおよびRは、独立して水素または1〜18個の炭素原子を有するアルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミドアルキル、アルコキシアルキルの基であり;そしてYは、アニオンを表す)
で表すことができるジアリルジアルキルアンモニウム化合物の重合によって製造するそれらのポリマーである。カチオン性ベースポリマー用の最も好適なカチオン性モノマーは、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)である。
【0036】
加えて、本発明は製紙におけるピッチ(pitch)およびスティッキーズ(stickies)の析出を制御する方法であって、その方法はシート形成の前の完成紙料に多架橋されたカチオン性ポリマーを添加する工程を含み、該ポリマーは、
(i)フリーラジカル開始によって実質的に全てのモノマー成分を重合して、ベースのカチオン性ポリマー溶液を形成し;
そして
(ii)そのベースのカチオン性ポリマーに更なるフリーラジカル開始剤と接触させて、ベースのカチオン性ポリマー間に相互接続する結合を形成して、多架橋されたカチオン性ポリマーを形成する、
ことを含み、ここで、モノマー成分の少なくとも1種は、カチオン性モノマー成分であり、多架橋されたカチオン性ポリマーは、ベースのカチオン性ポリマーよりも高い分子量を有する、方法によって製造する、製紙におけるピッチおよびスティッキーズの析出を制御する方法を指向するものである。
【0037】
本発明で製造しおよび使用するDADMACの新規な架橋されたポリマーは、ポリオレフィン性架橋剤を使用して従来の方法で製造された架橋されたポリマーと異なる構造を有する。ポリオレフィン性架橋剤を使用して製造された、架橋されたポリマーは、2つの結合されたポリマー鎖の間を橋かけする架橋剤を有するが、本発明の架橋されたポリマーは、架橋剤のブリッジを含有せず、それゆえに、それらのバックボーン上のいくつかの点で簡単に結合するポリマー鎖とより短い架橋のブリッジを有すると信じられる。
【0038】
発明の詳細な説明
カチオン性ポリマーは、通常、製紙において電荷の中和によってアニオン性夾雑物を除去するために使用される。アニオン性夾雑物は、化学的添加剤との析出物の形成または妨害によって様々な形で製紙に悪影響を与えるコロイド状(ピッチおよびスティッキーズ)ならびに溶解された物質からなる。コロイド状の粒子を繊維に固定させ、そしてカチオン性ポリマーによってカチオン要求量を減少させることによるアニオン性夾雑物を除くことが、ピッチおよびスティッキーズの析出物の制御の1つの方法である。ピッチおよびスティッキーズの制御のためにカチオン性ポリマーの凝固剤を使用することの利点は、ピッチおよびスティッキーズが、完成紙生成物中の繊維の中に分散された顕微鏡的粒子の形態で、系から除かれることである。本発明者等は、ピッチおよびスティッキーズの紙繊維への固定および電荷の中和が、架橋されたまたは分岐されたカチオン性ポリマーを使用することによって高められることができることを見出した。架橋されたまたは分岐されたカチオン性ポリマーは、適したラジカル開始剤でカチオン性ベースポリマーを後架橋することによって形成される。好適なカチオン性ベースポリマーは、次の式:
【0039】
【化3】

【0040】
(式中、RおよびRは、水素またはC〜Cアルキルであり;RおよびRは、独立して水素または1〜18個の炭素原子を有するアルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミドアルキル、アルコキシアルキルの基であり;Yは、アニオンを表す)
で表すことができるジアリルジアルキルアンモニウム化合物の重合から製造されるそれらのポリマーである。カチオン性ベースポリマー用の最も好適なカチオン性モノマーは、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)である。
【0041】
好ましくは、重合に利用可能な全部のモノマー成分の重量に基づいて、約50〜100重量%のモノマーが、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドである。
【0042】
本発明の高い分子量の架橋された水溶性カチオン性ポリマーを製造するために架橋用に有用なカチオン性ベースポリマーは、任意の市販されている水溶性のカチオン性ポリマー、特にジアリルジアルキルアンモニウムハライドのホモポリマーまたはコポリマーである。市販されているジアリルジアルキルアンモニウムハライドのホモポリマーまたはコポリマーの例は、Ciba Specialty ChemicalsによってAgefloc(登録商標)およびAgequat(登録商標)の商品名で販売されているものである。
【0043】
また、適したカチオン性ベースポリマーは、カチオン性モノマーとその他の共重合可能なモノマーとのコポリマーにすることもできる。カチオン性モノマーと共重合可能な適したモノマーの例は、下記を含み、それらに限定しない:アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルアクリレート、スチレン、メチルメタクリレート、酢酸ビニルおよびそれらの混合物。二酸化硫黄もまた、DADMACと共重合させるのに使用することもできる。
【0044】
カチオン性ベースポリマー用のカチオン性モノマーの重合は、適したフリーラジカル開始剤を使用して、水溶液重合、油中水型逆エマルション重合または分散重合によって実施することができる。適した開始剤の例は、過硫酸アンモニウム(APS)のようなペルスルフェート;過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、およびt−ブチルペルオキシピバレートのような過酸化物、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリアン酸および2,2’−アゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ開始剤;t−ブチルヒドロペルオキシド/Fe(II)およびアンモニウムペルスルフェート/ビスルフィットのようなレドックス開始剤系を含む。アンモニウムペルスルフェート(APS)を使用する水溶液重合が、好適なモノマーDADMACのベースのカチオン性ポリマーを製造する好適な方法である。重合プロセスに使用するフリーの有効なラジカル開始剤の量は、合計のモノマー濃度および使用するモノマーのタイプに依存し、99%以上の合計のモノマー変換率を達成するために、全部のモノマー仕込み量の約0.2〜5.0重量%の範囲にすることができる。
【0045】
酸素の不存在下で、重合を実施するのが好適である。酸素は、攪拌しながら真空をかけるか、または窒素およびアルゴンのような不活性ガスでパージすることによって反応媒体から除くことができる。次いで、重合を、不活性ガスシール下で行うことができる。
【0046】
DADMACのようなジアリルアミンモノマーは、2つの不飽和のC=C二重結合を含有するが、フリーラジカル開始剤で閉環重合によって線状ポリマーを形成することがよく知られている。このように形成された線状のポリマーは、5員のピロリジニウム環の繰り返し単位を含有する。高い分子量の軽度に架橋された完成生成物を望む場合には、フリーラジカル重合プロセスが供することができる程に高い分子量を有する線状ベースポリマーを製造することが望ましい。モノマー濃度、開始剤濃度、反応温度および反応時間のような反応条件は、全て組み合わさってラジカル重合の速度および得られるベースポリマーの分子量に影響を与える。本明細書に開示する通りの本発明の原理を知っている当業者ならば、高い分子量を達成するのに適した反応条件を選択することができるものと思う。次いで、本発明に開示する後架橋技術を用いて、分子量をさらに高い値に上昇させることができる。
【0047】
本発明の多架橋されたカチオン性ポリマーは、約600,000g/モルよりも大きい重量平均分子量を有する。その重量平均分子量は、約700,000g/モルより大きいのが好ましく、約850,000g/モルより大きいのが最も好ましい。
【0048】
ブルックフィールド粘度は、分子量、濃度および温度の関数である。それゆえに、一定の濃度および温度において、粘度は分子量に相関する。例えば、25℃におけるAlcofix(登録商標)についての20%ポリマーでの2500cpsの粘度は、ポリ(エチレンオキシド)の狭い分子量標準を使用してGPCによって測定した約600,000の重量平均分子量に相当する。粘度が高くなる程、分子量は、高くなる。本発明の目的から、本発明の多架橋されたカチオン性ポリマーは、25℃での水中の20%濃度において2000cpsを超える粘度を有する。好ましくは、粘度は、25℃での水中の20%濃度において約2500〜25,000cpsである。
【0049】
例えば、好適な多架橋されたカチオン性ポリマーは、ナンバー3スピンドルを12回転/分で使用して25℃及び水中の固形分濃度20%において測定した場合に、約2000〜10,000cpsのブルックフィールド粘度を有し、固形分濃度は、溶液の全重量に基づく。
【0050】
本発明の別の好適な多架橋されたカチオン性ポリマー溶液は、ナンバー4スピンドルを12回転/分で使用して25℃及び水中の固形分濃度20%において測定した場合に、約10,000〜20,000cpsのブルックフィールド粘度を有し、固形分濃度は、溶液の全重量に基づく。
【0051】
カチオン性ベースポリマーは、攪拌下に水溶液中で適したラジカル開始剤でそれを処理することによって、連鎖延長または架橋される。適したラジカル開始剤は、カチオンベースポリマー上にラジカル部位を創り出し、カチオン性ベースポリマーラジカルの結合について明白な静電気反発を克服するのを助成することができる化合物である。適したラジカル開始剤の例は、カリウムペルスルフェート、ナトリウムペルスルフェート、アンモニウムペルスルフェート等のようなペルスルフェート化合物である。その他の適したラジカル開始剤は、過炭酸の塩または誘導体(例えばイソプロピルペルカーボネート)および過リン酸の塩または誘導体を含むことができる。上述したラジカル開始剤は、単独で使用してもまたは種々の還元剤と組み合わせて使用してレドックス開始剤系を形成してもよい。上述していないが当業者に知られているその他の重合開始剤もまた、適した反応条件下で架橋反応のために使用してもよい。カチオン性ベースポリマーを架橋させるための、最も好適なラジカル開始剤は、架橋効率、水溶性および分解温度の点から見て、アンモニウムペルスルフェート、ナトリウムペルスルフェートおよびカリウムペルスルフェートである。
【0052】
ラジカル開始剤は、カチオン性ベースポリマーに基づいて重量により約0.02〜50%、好ましくは、約0.5〜10%、そしてさらに一層好ましくは、約1〜5%の範囲の量で使用する。連鎖延長または架橋反応は、水性媒体中で、またはベースポリマーを製造するために使用するのと同じ反応媒体(例えば油中水型エマルション)中で実施することができる。架橋反応は、約1〜12、好ましくは4〜7のpHにおいて、及び約20〜100℃、好ましくは70〜100℃の温度で、還元剤を使用しないで水性媒体中で実施することができる。
【0053】
反応前の反応媒体中のベースポリマーの固形分濃度は、重量により、溶液ポリマーについて、1〜約70%、好ましくは10〜40%、そしてエマルションまたは分散ベースポリマーについて、好ましくは20〜50%にすることができる。全ての重量パーセントは、全体の媒体、溶液、エマルションまたは分散体に基づくものである。最も好ましくは、ベースのカチオン性ポリマー溶液は、工程(ii)を開始する前に希釈して30重量%よりも少ない固形分含有量にする。
【0054】
必要とされる開始剤を、全て一緒に反応温度の反応器中に加えてベースポリマーを架橋させてよい。しかし、多量の開始剤を添加すると、水不溶性ゲルの望ましくない形成を引き起こし得る。更なるフリーラジカル開始剤を、規定の時間かけて増分量で添加する。分子量または粘度の進行を一層良好に制御するために、開始剤は、少ない増分量で又は適度の連続した速度で加えることができる。粘度の増大が横ばい状態になり始めるまで、開始剤を各々増分添加(注:その増分量は、十分に少なくしてほぼ連続添加にすることができる)した後に、反応を進行させる。所望の生成物粘度にまだ達していない場合は、開始剤の別の増分を、加えることになる。所望の生成物粘度が達成された時、室温に冷却して反応を停止させる。
【0055】
架橋反応を制御する好適な方法は、反応媒体の粘度進行を容易に監視できるような速度で開始剤を連続して供給することによる。架橋のための開始剤の効率は、開始剤の供給速度が減少するにつれて増大する。遅い開始剤供給速度は、架橋のための開始剤の高い効率を与え、そしてまた、粘度または分子量の進行の容易な制御ももたらす。架橋反応は、一旦、所望の粘度または分子量を達成したら、開始剤供給を停止しかつ反応を冷却することによって停止させることができる。遅い開始剤供給速度を使用する場合には、開始剤供給を停止した後の開始剤の影響は小さい。開始剤は、ベースポリマーの水溶液に、ポリマー固形分に基づく重量により、1分につき、10〜0.0005%、好ましくは0.2〜0.001%、そして最も好ましくは0.05%〜0.002%の速度で供給することができる。
【0056】
架橋反応の正確なメカニズムは、明確には知られていない。しかし、フリーラジカルが関与しているようである。ペルスルフェート開始剤を使用する場合に、架橋メカニズムは、次のスキームによって例示することができる。
【0057】
【化4】

【0058】
ペルスルフェートのジ−アニオンが、2つのカチオン性ベースポリマー(H−P)をイオン結合によって一緒に引き寄せる。ペルスルフェートの均一な分解は、2つのアニオン性スルフェートラジカルを生成し、これらは、ベースポリマー鎖から水素原子を引き抜いて2つのポリマーラジカルを創り出す。架橋は、2個のポリマーラジカルが結合した場合にのみ影響を受ける。形成されたポリマーラジカルは、架橋するための相手が見つからない場合には、連鎖移動または不均衡停止によって劣化を起こし得る。ペルスルフェートジアニオンは、2個のカチオン性ポリマーラジカルを一緒に引き寄せて架橋させるのを助成し、ペルスルフェートアニオンがなければ、カチオンの電気的反発のために互いに出会うことが困難である。これより、ペルスルフェート開始剤は、カチオン性ポリマーを架橋させるために高い効率を有する。過酸化水素のようなその他の開始剤は、カチオン性ポリマーラジカルを創り出すことができる、しかし、これらは、架橋のため電子反発力を克服することが難しいために、連鎖移動による劣化、または停止を被る傾向がある。その上に、過酸化水素のようなラジカル開始剤は、ペルスルフェートに比べて連鎖移動の劣化を誘発するずっと高い傾向を有し得る。カチオン性ベースポリマー上の残留する二重結合もまた、架橋においてある役割を演ずることができる。本発明者等は、提案するいかなる架橋メカニズムにも限定することを意図しない。
【0059】
上に提案した架橋のスキームにおいて、あらゆるペルスルフェート分子は、2個の水素原子を引き抜いて架橋のための2個のポリマーラジカルを創り出す。2個の引き抜かれた水素原子は、酸化されて2個のプロトンになる。これにより、反応pHは、それらを中和するために塩基を加えないならば、下がる。pHの減少は、架橋反応中にペルスルフェートの開始剤を添加するにつれて実際に観測される。また、上に提案したメカニズムは、NaOHとアンモニウムペルスルフェートの供給モル比約2.0が、高い架橋効率を達成しかつ反応pHを比較的一定に保つのに最適であるという実験事実によっても裏付けられる。
【0060】
開始剤供給の過程の間に架橋反応を所望のpHに保つために、塩基を加えてpHを低下させないようにすることができる。pH制御のために単独で、または組み合わせて使用することができる適した塩基の例は、NaOH、KOH、NHOH、NaCO等を含む。pH制御のための好適な塩基は、NaOHである。塩基は、開始剤供給と共に一定の比で連続供給することによって加えることができる。ペルスルフェートに対する塩基の供給比は、0〜8、好ましくは1〜3、そして最も好ましくは1.5〜2.5にすることができる。また、塩基はpHが所望の値よりも低く下がる時はいつでも添加することもできる。前に示した通りに、架橋反応は、水性媒体中で約1〜12のpHにおいて実施することができる。しかし、それは、好ましくは、水性媒体中で約4〜7のpHにおいて実施する。
【0061】
また、架橋反応のpHは、pH調節器を使用することによって制御することもできる。NaOHのような塩基を、反応pHが所望の値に下がる時はいつでも、pH調節器によって自動的に反応器に加えることができる。
【0062】
DADMACのポリマーは、残留するDADMACモノマーが十分に低いレベルに減少されるときにのみ、ペルスルフェート化合物によって架橋されることができる。架橋が起きることができる最大の残留モノマーのレベルは、架橋反応用に使用するポリマー濃度に依存する。それゆえに、カチオン性ベースポリマーが実質的に重合され、そして残留モノマーの含有量が、ベースポリマー固形分の重量により10%より少ない、好ましくは3%より少ない、そして最も好ましくは1%より少ないことが望ましい。しかし、残留モノマーを所望の量よりも多く含有するベースポリマーも依然本発明に開示する方法によって架橋させることができる。そのような場合では、架橋反応に加えるラジカル開始剤は、初め残留モノマーを減少させるために使用される。一旦残留モノマーが十分に低いレベルに減少されると、ベースポリマーは、開始剤添加を続けることにより架橋を始めることになる。
【0063】
連鎖延長または架橋反応は、好ましくは攪拌下で実施する。適当な攪拌は、ゲル粒子の形成を防ぐことができる。適した攪拌は、有意のポリマー鎖の切断を生じる程のせん断を引き起こすべきでない。
【0064】
本発明の具体的な態様を、下記の実施例によって例示する。これらの実施例は、本発明の例示であって、本発明を限定することを意図しない。
【0065】
下記の記号を、以下の実施例において使用する:
APS=アンモニウムペルスルフェート
BV=ブルックフィールド粘度、cps
DAA=ジアリルアミン
FAU=ホルマジン減衰単位
GPC=ゲルパーミエーションクロマトグラフィー
HC=ハギンズ定数
IV=固有粘度(1Mの食塩溶液中で測定した)、30℃でのdL/g
Mw=重量平均分子量(PEO標準を使用するGPCによる)、g/モル
Mn=数平均分子量(PEO標準を使用するGPCによる)、g/モル
NTU=比濁計の濁度単位
NaPS=ナトリウムペルスルフェート
PS=ポリマー固形分、重量%
RM=残留モノマー(DADMACの)、重量%
MBS=メタ重亜硫酸ナトリウム
CCD=カチオン電荷要求量、meq/L;
TR=濁度減少;
【0066】
実施例
高MWの架橋されたポリDADMACの調製
【0067】
【表1】

【0068】
実施例1
本実施例では、Ciba Specialty Chemicalsから市販されているAlcofix(登録商標)111水溶液ポリDADMACを、鎖延長または架橋用のカチオン性ベースポリマーとして使用する。ブルックフィールド粘度は、#3スピンドルを12RPMで使用し、25℃において測定する。
【0069】
機械的攪拌機、添加漏斗およびコンデンサーを取り付けた1リットルの反応器に、Alcofix(登録商標)111を、正味のDADMACホモポリマー198.5グラムを収容するように仕込む。ポリマー濃度を脱イオン水で30%に調整する。反応器内容物を、NaOH溶液でpH6.9に調整し、次いで攪拌しかつ窒素をパージしながら100℃に加熱する。100℃で、10%APS溶液25.0gを170分かけて反応器に供給してポリマー1を製造し、そして10%APSの追加の8.7gを90分かけて供給してポリマー2を製造する。APS供給中に、25%NaOH溶液を反応器に、NaOH/APS供給モル比2.0を与えるような比率で供給する。使用する合計のAPSは、ポリマー1についてのポリマー固形分に基づいて1.3%であり、そしてポリマー2についてのポリマー固形分に基づいて1.7%である。APS/NaOHを共供給した後に、反応器内容物を100℃に10分間保ち、次いで室温に冷却する。反応器内容物を、脱イオン水で20%ポリマー固形分となるように調節する。水不溶性のゲルが存在しない生成物が得られ、性質を表1に示す。連鎖延長反応後、20%固形分でのBVは、ポリマー1について約1.4倍増大し、そしてポリマー2について1.8倍に増大する。
【0070】
実施例2
コンデンサー、温度計、窒素ガス導入口およびオーバーヘッド攪拌機を取り付けた1リットルの反応器に、66%モノマーDADMAC500.38g、脱イオン水55.5gおよびVersene(NaEDTA)0.15gを仕込む。重合混合物を、窒素ガスでパージし、攪拌しながら70℃の温度に加熱する。アンモニウムペルスルフェート(APS)3.0gを含有する水溶液を、435分かけて反応器にゆっくりと供給する。反応温度を80℃よりも高く上昇させ、次いで、APS供給期間の間80〜90℃に維持した。APS供給後、反応混合物を脱イオン水で約40%固形分に希釈し、約30分間90℃に保つ。次いで、MBS4.0gを含有する水溶液を25分かけて加える。重合を完全にする(変換率99%を超える)ために反応器をさらに30分間90℃に保つ。ポリマー溶液を十分な水で希釈して固形分約25%にする。生成物は、固形分20%における25℃の粘度約2500cpsを有し、連鎖延長用カチオン性ベースポリマーとして使用して下記に示す手順によってポリマー3〜6を製造する。粘度2500は、分子量約600,000に相当する。
【0071】
前記の反応器内容物754gを100℃に加熱する。次いで10%APS溶液12.0gを60分かけて反応器に供給して、ポリマー3を製造し;10%APS溶液41.9gを300分かけて反応器に供給して、ポリマー4を製造し;10%APS溶液47.9gを345分かけて反応器に供給して、ポリマー5を製造し;10%APS溶液60.0gを365分かけて反応器に供給して、ポリマー6を製造し;APSを供給する間に、25%NaOH溶液を加えて反応pHを約5に維持する。反応器内容物を攪拌しながら100℃に約10分間保つ。次いで、脱イオン水を加えてポリマー固形分を20%に希釈し、そして反応器内容物を室温に冷却する。ゲルの存在しない透明なポリマー溶液生成物が得られ、性質を表1に示す。
【0072】
性能評価
また、表2に掲記する商品も、評価において比較のために使用した。
【0073】
【表2】

【0074】
1.Alcofix(登録商標)は、Ciba Chemical Specialty Chemical Corporationの商品名である。
2.ブルックフィールド粘度は、スピンドル#3、12RPMおよび25℃および固形分濃度20%で測定する。10,000cpsを超えると、ブルックフィールド粘度は、スピンドル#4を30または12RPMで使用する。
3.固形分%は、溶液の合計の重量に基づく。
【0075】
架橋されたポリDADMACのピッチおよびスティッキーズの析出物制御性能
ポリマーの性能および繊維上へのピッチ、スティッキーズおよびその他の汚染物質を固定し、製紙中にこれらの汚染物質の析出を防止するそれの能力を立証するために、真空排出ろ液濁度試験を使用した。詳細な試験手順を、下記に示す。
1.3〜5%コンシステンシーの完成紙料約250mlを計り取って邪魔版付きのBrittジャーに入れる。1000rpmで攪拌するようにセットしたIKAミキサーで適度の攪拌を供する。
2.ポリマーの必要量を、攪拌される濃厚な原質に加え、そして2分間混合させておく。
3.次いで、処理した濃厚な原質を、Whatman 541のろ紙(直径11cm、粗さ−粒子の保留>20〜25ミクロン)を通して真空下でろ過する。
4.”ウェットライン”が丁度見えなくなるか、またはろ液約200mlを収集するまで、真空ろ過を続ける。
5.ろ液の濁度を適した濁度計で測定する。
6.ろ液のカチオン電荷要求量(CCD)をコロイド滴定によって求める。
使用する用量は、パルプ固形分1トンにあたりの活性ポリマーのポンドでの重量である。
【0076】
ろ液の濁度が低い程、使用する処理のピッチおよびスティッキーズの制御がより大きくなり、それゆえに使用するポリマーの性能がより良好になる。
【0077】
実施例3
熱−機械パルプ(TMP)についての木材ピッチ制御
実施例3A
【0078】
【表3】

【0079】
実施例3B
TMP3.15%コンシステンシー(ブランク=785NTU)
【0080】
【表4】

【0081】
実施例4
リサイクルされ、脱インキされたパルプ(DIP)についてのスティッキーズの制御
ポリマーの性能を評価するために、ろ液の濁度(FT)およびろ液のカチオン性荷電要求量(CCD)を測定した。FTおよびCCDが低い程、スティッキーズの析出制御についてより良好な性能を示す。
【0082】
実施例4A
この研究は、2回目のプレス後に収集されたリサイクルされた新聞用紙の濃厚原質を使用して試みた。
CCD=カチオン電荷要求量、meq/L;FT=ろ液濁度
【0083】
【表5】

【0084】
実施例4B
リサイクルされた脱インキパルプ上での固定剤評価
【0085】
【表6】

【0086】
実施例4C
DIP3.5%完成紙料における架橋されたポリDADMACの性能評価
DADMACポリマーの異なる用量でのろ液濁度FAU
【0087】
【表7】

【0088】
実施例4D
DADMACポリマーの異なる用量でのろ液のカチオン性荷電要求量(CCD)
【0089】
【表8】

【0090】
実施例5
リサイクルコーテッド損紙についてのホワイトピッチ制御
ホワイトピッチ制御についてのDADMACポリマーの性能を、異なるタイプのコーテッド損紙で評価した。サンプルを次の3つのタイプの損紙で試験した。
・45# Pub Matte、軽量フリーシート;
・38# DPO、重量砕木パルプ含有
・70# DPO、重量砕木パルプ含有
各々の用量のポリマー処理について、ろ液の濁度を測定する。
【0091】
実施例5A
45# Pub Matte、軽量フリーシート
【0092】
【表9】

【0093】
実施例5B
70# DPO、重量砕木パルプ含有
【0094】
【表10】

【0095】
実施例5C
38# DPO、重量砕木パルプ含有
【0096】
【表11】

【0097】
前記の説明および実施例は、本発明の例証となるものであり、本発明を限定することを意図するものではないことは理解されるべきである。多くの変形および変更が、本発明の範囲から逸脱しないで可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙におけるピッチおよびスティッキーズの析出を制御する方法であって、その方法はシート形成の前の完成紙料に多架橋されたカチオン性ポリマーを添加する工程を含み、該ポリマーは、
(i)フリーラジカル開始によって実質的に全てのモノマー成分を重合して、ベースのカチオン性ポリマー溶液を形成し;
そして
(ii)ベースのカチオン性ポリマー溶液に追加のフリーラジカル開始剤を接触させて、ベースのカチオン性ポリマー間に相互接続する結合を形成して、多架橋されたカチオン性ポリマーを形成する
ことを含み、ここで、モノマー成分の内の少なくとも一種は、カチオン性モノマー成分であり、多架橋されたカチオン性ポリマーは、ベースのカチオン性ポリマーよりも高い分子量を有する方法によって製造される、製紙におけるピッチおよびスティッキーズの析出を制御する方法。
【請求項2】
カチオン性モノマーが、ジアリルジアルキルアンモニウムモノマーである請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(ii)で使用する追加のフリーラジカル開始剤が、カリウムペルスルフェート、ナトリウムペルスルフェート、アンモニウムペルスルフェート、過炭酸の塩、過ホスホン酸の塩およびそれらの混合物からなる群から選択するものである請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程(ii)で使用する追加のフリーラジカル開始剤が、有効量のアンモニウムペルスルフェートからなる請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
追加のフリーラジカル開始剤を、定められた期間にわたって増分量で添加する請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ベースのカチオン性ポリマー溶液を、全体の溶液に基づく工程(ii)の開始前に全体の溶液に基づいて30%よりも少ない固形分含有量に希釈する請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ベースのカチオン性ポリマー溶液を、工程(ii)の開始前に、全体の溶液に基づいて30%よりも少ない固形分含有量に希釈する請求項5記載の方法。
【請求項8】
工程(ii)で形成される多架橋されたカチオン性ポリマーが、700,000g/モルよりも大きい重量平均分子量を有する請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程(ii)で形成される多架橋されたカチオン性ポリマーが、850,000g/モルよりも大きい重量平均分子量を有する請求項8記載の方法。
【請求項10】
工程(ii)で形成される多架橋されたカチオン性ポリマーの、25℃および水中の20%固形分濃度で測定した時のブルックフィールド粘度が、2000cpsよりも高い粘度を有し、ここで、固形分濃度は溶液の全重量に基づく請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
工程(ii)で形成される多架橋されたカチオン性ポリマーの、25℃および水中の20%固形分濃度で測定した時のブルックフィールド粘度が、約2000〜10,000cpsであり、ここで、固形分濃度は溶液の全重量に基づく請求項10記載の方法。
【請求項12】
工程(ii)で形成される多架橋されたカチオン性ポリマーの、25℃および水中の20%固形分濃度で測定した時のブルックフィールド粘度が、約10,000〜20,000cpsであり、ここで、固形分濃度は溶液の全重量に基づく請求項10記載の方法。
【請求項13】
ジアリルジアルキルアンモニウムモノマーが、式:
【化1】


(式中、RおよびRは、互いに独立して水素またはC〜Cアルキルであり;
およびRは、互いに独立して水素または1〜18個の炭素原子を有するアルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミドアルキル、アルコキシアルキルの基であり;そして
は、アニオンを表す)
で表される請求項2〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
ジアリルジアルキルアンモニウムモノマーを、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムブロミド、ジアリルジメチルアンモニウムスルフェート、ジアリルジメチルアンモニウムホスフェート、ジメタアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジエチルアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジ(ベータ−ヒドロキシエチル)アンモニウムクロリド、ジアリルジ(ベータ−エトキシエチル)アンモニウムクロリド、ジアリルジエチルアンモニウムクロリドおよびそれらの混合物からなる群から選択する請求項13記載の方法。
【請求項15】
重合に利用できる全てのモノマー成分の重量に基づいて少なくとも50重量%のモノマーが、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドである請求項14記載の方法。
【請求項16】
モノマー成分が、さらに、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルアクリレート、スチレン、メチルメタアクリレート、酢酸ビニルおよびそれらの混合物からなる群から選択される、共重合可能なモノマーを含有する請求項2〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
完全紙料が、熱機械パルプを含有する請求項1〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
完全紙料が、リサイクルパルプを含有する請求項1〜17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
完全紙料が、コーテッド損紙を含有する請求項1〜18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
完全紙料が、脱インキパルプを含有する請求項1〜19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
完全紙料が、熱機械パルプ、リサイクルパルプ、脱インキパルプおよびコーテッド損紙からなる群から選択する少なくとも二種を含有する請求項1〜20のいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2007−500290(P2007−500290A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529721(P2006−529721)
【出願日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004544
【国際公開番号】WO2004/101882
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(592006855)チバ スペシャルティ ケミカルズ ウォーター トリートメント リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Specialty Chemicals Water Treatments Limited
【Fターム(参考)】