説明

製紙スラッジを含む紙及び板紙の製造方法

【課題】製紙工業において従来使用されなかった製紙スラッジ及び排水スラッジを製紙原料として再使用できるように製紙スラッジ及び排水スラッジの歩留まりを高めた紙又は板紙の製造方法を提供する。
【解決手段】紙又は板紙の製造方法であって、
(a)パルプスラリーに製紙スラッジを配合し混合し、(b)セルロース分解酵素、好ましくはセルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼを含む酵素組成物を添加し、(c)叩解処理を行ない、(d)紙又は板紙を抄造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙スラッジを含む紙及び板紙の製造方法に関するものである。更に詳しくは製紙スラッジを製紙用原料として再利用するために製紙スラッジの歩留まり改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源、省エネルギー、公害防止の立場から古紙の再利用は増加の一途をたどり、ますます再利用が促進される状況にある。例えば、段ボール紙を製造するためには、回収・再生繊維を原料として使用することがより頻繁になっており、回収・再生するごとに、原料の品質は低下している。そこで、十分な機械的特性レベルを得るために、パルプのリファイニング(叩解)が一般に行われている。一方、リサイクルと共に製紙工程及び排水処理工程から排出される製紙スラッジあるいは排水スラッジの処理が課題となっている。製紙スラッジは主として微細繊維や填料、ヘミセルロース、スターチ、ロジン、カリミョウバン、ホットメルト(通常は粘着物や粘着性物質と称される)のような化学物質、有機物が含まれる。製紙スラッジは、従来、焼却や埋め立てて処理されてきたが、近年、これらの、製紙原料の一部としての使用が進められている。
【0003】
製紙スラッジを製紙原料としてパルプに配合して紙あるいは板紙を製造する場合、微細であるためにその歩留まりが低いうえに、パルプスラリー中に均一に分散されないと紙質が低下し紙力の低下をもたらす。また、パルプスラリーの濾水性が低下し、抄速の低下や乾燥速度の低下による操業への障害がある。そこで、種々の改善策が提案されてきた。例えば、製紙スラッジを順次セルロース分解酵素、カチオン系ポリマー、アニオン系ポリマーで処理する方法(特許文献1)、酵素で製紙スラッジを処理し、次いでパルプと混合して紙又は板紙を抄造する方法(特許文献2)等がある。しかし、依然として十分に満足しうる製紙スラッジの歩留まりを得るような紙及び板紙の製造方法は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−92889号公報
【特許文献2】特表2005−536648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紙及び板紙の製造過程で生じる製紙スラッジは主として微細繊維や填料を含む他、製紙原料中の夾雑物やパルプ由来の樹脂分等があり、これを製紙原料としてパルプに配合して紙あるいは板紙を製造する場合、パルプスラリーの濾水性の低下及び抄速の低下、紙力の低下等の障害がある。本発明は、製紙スラッジを配合した紙及び板紙の製造において、上記の障害等をなくし、製紙スラッジの製紙用原料としての利用を促進するための効率的、効果的な紙及び板紙の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく、製紙スラッジを配合した紙及び板紙の製造方法について鋭意検討を重ねた結果、パルプスラリーに製紙スラッジを配合し、酵素処理、叩解処理、抄造を行うことによって、パルプスラリー中での製紙スラッジの均一な分散と定着が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、紙又は板紙の製造方法であって、(a)パルプスラリーに製紙スラッジを配合し混合し、(b)セルロース分解酵素を含む酵素組成物を添加し、(c)叩解処理を行ない、(d)紙又は板紙を抄造することを特徴とする紙又は板紙の製造方法である。セルロース分解酵素は、セルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼが好ましく、ヘミセルラーゼはキシラナーゼがより好ましい。また、酵素組成物がセルラーゼ、ヘミセルラーゼ及びエステラーゼを含むことでより本発明の効果が発揮される。
【0008】
本発明の紙又は板紙の製造方法におけるパルプスラリーは、紙又は板紙の製造に用いられる原料になるパルプであれば、特に限定されるものではなく、例えば広葉樹クラフトパルプ(LKP)及びその漂白物(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)及びその漂白物(NBKP)、グラインドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、新聞や雑誌及びチラシ等の回収古紙あるいはその脱墨古紙、段ボール古紙等が挙げられる。これらの1種以上を用いるものである。パルプスラリーの濃度は、特に限定されるものではないが、通常1〜20重量%、好ましくは2〜10重量%である。
【0009】
本発明で用いる製紙スラッジは、紙又は板紙の製造において古紙・損紙回収工程、離解工程から抄紙工程、最終の巻き取り工程に至るまでの全ての紙又は板紙の製造工程でのパルプや微細繊維等、紙又は板紙の製造で用いられる原料を含む分離除去物及びろ過分離物である。例えば、古紙・損紙回収工程、離解工程や精選工程のスクリーンやクリーナー、調成工程や抄紙工程のクリーナーやシックナー及び白水回収工程のポリディスクフィルターやシックナー等で分離除去及びろ過分離された未叩解パルプや微細繊維、填料(例えばクレイ、タルク、炭酸カルシウム、ベントナイト、シリカ等)、ピッチやホットメルト等の粘着性有機物、デンプン及びその加工あるいは変性物、ロジン等のサイズ剤、工程内の無機系スケール(例えばシリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等)及びこれらの混合物などがあげられる。
【0010】
本発明におけるパルプスラリーと製紙スラッジは、パルプの叩解処理を行う前に配合、混合される。その混合箇所は特に限定されるものではなく、例えば古紙を用いる場合、パルパーで古紙を離解し、クリーナーで夾雑物を除去した後、得られたパルプスラリーを貯留チェストに入れ、撹拌下、製紙スラッジを投入、混合して製紙スラッジを配合したパルプスラリーが得られる。製紙スラッジの配合量は、特に限定されるものではないが、通常0.5%〜20%(対パルプ)を目安として配合される。
【0011】
パルプスラリーに製紙スラッジを配合、混合した後、叩解処理を行う前に酵素組成物が添加される。製紙スラッジを配合したパルプスラリーへの酵素組成物の添加は、叩解処理を行う前であれば、その添加、混合箇所は特に限定されるものではない。例えば、パルプスラリーを貯留チェストに入れ、撹拌下、製紙スラッジを投入、混合して製紙スラッジを配合したパルプスラリーが得られた後に、撹拌下、酵素組成物を添加し混合すればよい。
【0012】
製紙スラッジ及び酵素組成物を配合したパルプスラリーは、叩解機により叩解処理が行われる。叩解機としては一般にリファイナーが用いられ、シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、コニカルリファイナー等がある。酵素組成物を配合したパルプスラリーは叩解処理を受けることにより、酵素の作用によってパルプはフィブリル化が促進されて紙力が向上すると共に、製紙スラッジはフィブリル化されたパルプ間に保持されて歩留まりが向上する。製紙スラッジの歩留まりの向上により、白水中での製紙スラッジが減少し、白水のCOD負荷も低減され、排水処理負担も低減される。
【0013】
製紙スラッジ及び酵素組成物を配合したパルプスラリーに叩解処理を行った後、当該パルプに各種添加剤(例えば填料、サイズ剤、濾水向上剤等)を添加して紙料として調成し、通常の抄紙機を用いて紙あるいは板紙が抄造される。
【0014】
本発明における酵素組成物は、少なくとも1種のセルロース分解酵素を含む酵素である。本発明におけるセルロース分解酵素としては、セルラーゼ、ヘミセルラーゼである。ヘミセルラーゼとしては、キシラナーゼ、ラクターゼ、ガラクタナーゼ、マンナナーゼ、アラビナーゼなどがあり、好ましくキシラナーゼである。
【0015】
酵素組成物は、セルロース分解酵素としてセルラーゼ及びヘミセルラーゼ、さらにエステラーゼを含むことが好ましい。セルラーゼ及びヘミセルラーゼとエステラーゼの併用により、予想外にも高い叩解促進効果が得られる。本発明で用いられるエステラーゼは、エステル結合を分解する酵素であり、比較的短鎖の低級脂肪酸エステルを分解する非特異的エステラーゼのリパーゼやフェルラ酸エステラーゼ等、比較的長鎖の高級脂肪酸エステルを分解する特異的エステラーゼのリパーゼ、コリンエステラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ等がある。中でも低級脂肪酸エステルを分解するリパーゼ、フェルラ酸エステラーゼ等が好ましい。具体的なエステラーゼとして、リパーゼにはリパーゼA「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)、リパーゼ(商品名、ナガセケムテック(株)製)等があり、フェルラ酸エステラーゼにはフェルラ酸エステラーゼ(試薬)、ペクチナーゼPL「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製:ペクチナーゼPL「アマノ」にフェルラ酸エステラーゼが含まれることは平成19年9月30日付け大阪府立大学、修士論文「桂皮酸類の水溶性エステル誘導体の酵素合成法に関する研究」に記載されている)等がある。これらのエステラーゼの1種又は1種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
エステラーゼとセルラーゼ及びヘミセルラーゼの比率は特に限定されるものではないが、重量比で「エステラーゼ」:「セルラーゼ及びヘミセルラーゼの合計量」=5:1〜1:5が目安となる。また、セルラーゼとヘミセルラーゼの比率も同様に「セルラーゼ」:「ヘミセルラーゼ」=5:1〜1:5が目安となる。具体的なセルラーゼとしては、明治セルラーゼTP(商品名、明治製菓(株)製)、セルライザー(商品名、ナガセケムテック(株)製)、セルクラスト(商品名、ノボザイムズ・ジャパン(株)製)、セルザイム(商品名、ノボザイムズ・ジャパン(株)製)、セルラーゼA「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)、セルラーゼT「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)、ヘミセルラーゼとしてはヘミセルラーゼ「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)、パルプザイムHC(商品名、ノボザイムズ・ジャパン(株)製)(ヘミセルラーゼの1種であるキシラナーゼ)等がある。さらにセルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素として、スミチームAC(商品名、新日本化学工業(株)製)、スミチームC(商品名、新日本化学工業(株)製)、ハクファイナーBR−100(商品名、伯東株式会社製)、ハクファイナーBR−300(商品名、伯東株式会社製)などが挙げられる。中でもクリソスポリウム・ラクノウェンス・ガーグ27K(寄託番号VKMF−3500D)の分離培養物から得られる酵素組成物は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ及びフェルラ酸エステラーゼを含み、本発明の効果がより発揮され、好ましい。これらのセルラーゼ、ヘミセルラーゼあるいはセルラーゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素のそれぞれの1種以上を組み合わせて用いてもよい。その他にペクチナーゼ、プロテアーゼなどのセルロースの繊維成分やエステル以外を分解しうる酵素を含んでいてもよい。本発明の方法に用いる酵素は、入手の経路及び酵素の安定性を考慮して、粉体の形態で入手されるもの、あるいは溶液の形態で入手されるもののいずれの形態で入手されるものでよく、特に限定されるわけではない。
【0017】
本発明における酵素処理では、粉体の形態の酵素組成物を水で希釈して酵素溶液として使用し、また、液体の形態の酵素組成物ではそのままで使用する、あるいは水で希釈して酵素溶液として使用することが好ましい。本発明における酵素処理は、製紙スラッジを含むパルプスラリーに酵素溶液を添加して行う。本発明は、酵素組成物を添加することにより発明の効果が発揮されるものであり、その添加量を一律に決することはできないが、通常、セルラーゼあるいはヘミセルラーゼとしてパルプ重量当り0.005〜2%、好ましくは0.02〜1%を目安にする。セルラーゼ及びヘミセルラーゼを併用する場合は、セルラーゼとヘミセルラーゼの合計量として、パルプ重量当り0.005〜2%、好ましくは0.02〜1%である。エステラーゼを併用する場合、セルラーゼとエステラーゼの組合せ、ヘミセルラーゼとエステラーゼの組合せ、セルラーゼとヘミセルラーゼとエステラーゼの組合せにおいて、セルラーゼ単独量あるいはヘミセルラーゼ単独量、セルラーゼとヘミセルラーゼの合計量がそれぞれパルプ重量当り0.005〜2%、好ましくは0.02〜1%であれば、エステラーゼが0.001%以上で相乗効果を発揮する。また、酵素組成物を2%以上添加しても酵素添加量に見合うだけの離解促進効果の向上が小さく、コスト的に不利になる。
【0018】
本発明における酵素溶液は、酵素処理工程後の濃縮工程でろ液として回収し、ろ液を前記酵素処理工程に返送することにより再使用される。また、酵素処理液の再利用については、再使用する際に回収でロスした分だけ新たに酵素処理液を添加すればよい。そのため、本発明の方法は酵素溶液を再使用できることから、水質汚染等の環境汚染の心配も少なく、更に省エネルギー化及び薬品、排水処理のコストダウンが得られる等のメリットがある。
【0019】
酵素処理時の温度とpHは、用いる酵素が失活しない範囲で、当該酵素の至適温度、至適pHに調整することが望ましい。一般に酵素処理液の温度は20〜70℃、好ましくは40〜60℃、pHは3.0〜8.0、好ましくは4.0〜6.5である。
【0020】
酵素処理時間は、用いる酵素、対象とするパルプあるいは紙料の種類、酵素処理液のpH等により、一律に決することはできないが、通常、0.5〜10時間である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法により、紙力を下げることなく、紙及び板紙の製造工程で生じた製紙スラッジを製紙原料として再利用して紙及び板紙を製造することができ、水質汚染等の環境汚染の心配も少なく、更に省エネルギー化及び薬品、排水処理のコストダウンが得られる等のメリットがある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、各実施例における%はいずれも重量%であり、パルプスラリーの濃度はいずれも古紙由来のパルプの濃度を指す。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
段ボール古紙及びその製造時の白水回収工程のポリディスクフィルターで生じた製紙スラッジ(固形分35%:微細繊維、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、ケイ酸カルシウム等を含む)を用いて、酵素処理による製紙スラッジの歩留まり向上及び製紙スラッジを配合した紙の紙力向上試験を行った。
(1)紙料調成
JISP8220−1998に準じて離解機に段ボール古紙を絶乾重量として150g、水5Lを入れ、10分間、離解して3%のパルプスラリーを調製した。次いで製紙スラッジを製紙スラッジ固形分として10%(対パルプ)添加し撹拌した後、試験紙料とした。
(2)酵素処理
試験紙料1,000gを2,000mlビーカーにとり撹拌下、40℃に保温維持し、0.01%セルラーゼA「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)水溶液:15mlを添加して1時間酵素処理を行った。酵素処理後、製紙スラッジ配合の3%パルプスラリーの濾水度をカナダ標準ろ水度(フリーネス;CSFml)としてJISP8121−1995に従って測定した。製紙スラッジ配合の3%パルプスラリーのフリーネスは452mlであった。
(3)叩解処理
酵素処理した製紙スラッジ配合の3%パルプスラリーをNo.1ろ紙及びブフナーロートにて吸引ろ過して、製紙スラッジ配合の10%パルプスラリーに濃縮し、当該パルプスラリー:300gをPFIミルに入れて、5000回転で叩解を行なった。叩解処理後の製紙スラッジ配合のパルプスラリーのフリーネス(CSF)をJISP8121−1995に従って測定した。パルプスラリーのフリーネス(CSF)は、叩解の目安となり、叩解の程度が高いほど、叩解前後でのフリーネスの低下が大きく、パルプのフィブリル化が進んだこととなる。同時にろ水の濁度を積分球式濁度計で測定した。
(4)手抄き紙シート作成及び評価
次に叩解処理後の製紙スラッジ配合のパルプスラリーを水で希釈して約0.5%パルプスラリーに調製し、JISP8222−1998に従って坪量60g/mの手抄きシートを作成した。作成した手抄きシートを用いてJISP8112−1994に従って破裂強度を測定し、比破裂強度を算出した。比破裂強度が高いほどパルプの叩解が進んだことを示している。結果を表1に示した。
【0024】
(実施例2)
実施例1において、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液15mlに代えて、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液60mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0025】
(実施例3)
実施例1において、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液15mlに代えて、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液90mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0026】
(実施例4)
実施例1において、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液:15mlに代えて、1%セルラーゼA「アマノ」水溶液30mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0027】
(実施例5)
実施例1において、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液15mlに代えて、1%セルラーゼA「アマノ」水溶液60mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0028】
(実施例6)
実施例1において、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液15mlに代えて、0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)水溶液60mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0029】
(実施例7)
実施例3において、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液90mlに代えて、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液15ml及び0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液75mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0030】
(実施例8)
実施例3において、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液90mlに代えて、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液45ml及び0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液45mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0031】
(実施例9)
実施例3において、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液90mlに代えて、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液75ml及び0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液15mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0032】
(実施例10)
実施例7において、0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液75mlに代えて、0.01%リパーゼA「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)水溶液3mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0033】
(実施例11)
実施例10において、0.01%リパーゼA「アマノ」(商品名、天野エンザイム(株)製)水溶液3mlに代えて、0.01%フェルラ酸エステラーゼ(試薬)水溶液3mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0034】
(実施例12)
実施例1において、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液15mlに代えて、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液15mlと0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液15mlと0.1%リパーゼA「アマノ」水溶液15mlを加えて離解を行った。を加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0035】
(実施例13)
実施例12において、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液15mlと0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液15mlと0.1%リパーゼA「アマノ」水溶液15mlに代えて、0.01%セルラーゼA「アマノ」水溶液を45mlと0.01%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液45mlと0.01%リパーゼA「アマノ」水溶液18mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0036】
(実施例14)
実施例13において、0.01%ヘミセルラーゼA「アマノ」水溶液45mlに代えて、キシラナーゼである0.01%パルプザイムHC(商品名、ノボザイムズ・ジャパン(株)製)水溶液45mlを加えて酵素処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0037】
(比較例1)
実施例1において、酵素処理、叩解処理を行わず、手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0038】
(比較例2)
比較例1において、酵素処理を行わないまま、叩解処理を行ない、その後、同様に手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0039】
(比較例3)
製紙スラッジ配合の3%パルプスラリーをNo1ろ紙及びブフナーロートにて吸引ろ過して、製紙スラッジ配合の10%パルプスラリーに濃縮し、当該パルプスラリー:300gをPFIミルに入れて、5000回転で叩解を行なった。叩解処理後の製紙スラッジ配合のパルプスラリーのカナダ標準ろ水度(フリーネス;CSFml)をJISP8121−1995に従って測定した。同時にろ水の濁度を積分球式濁度計で測定した。叩解処理後の製紙スラッジ配合のパルプを純水で希釈して、2%パルプスラリー400gとし、40℃に保持し、撹拌下、1%セルラーゼA「アマノ」水溶液16ml(セルラーゼ添加量2%(対パルプ))を加えて酵素処理を行った。酵素処理後、水で約0.5%パルプスラリーに調製し、JISP8222−1998に従って坪量60g/mの手抄きシートを作成した。作成した手抄きシートを用いてJISP8112−1994に従って破裂強度を測定し、比破裂強度を算出した。
【0040】
(比較例4)
比較例3において、1%セルラーゼA「アマノ」水溶液16mlに代えて、1%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液16mlを添加して同様に酵素処理を行い、手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0041】
(比較例5)
比較例3において、1%セルラーゼA「アマノ」水溶液16mlに代えて、1%セルラーゼA「アマノ」水溶液8mlと1%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液8mlを添加して同様に酵素処理を行い、手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0042】
(比較例6)
比較例3において、1%セルラーゼA「アマノ」水溶液16mlに代えて、1%セルラーゼA「アマノ」水溶液8mlと1%ヘミセルラーゼ「アマノ」水溶液8mlと1%リパーゼA「アマノ」水溶液8mlを添加して同様に酵素処理を行い、手抄きシート作成、紙力測定を行った。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の実施例1〜実施例14と比較例1及び比較例2のフリーネスを比較して叩解前に酵素組成物を添加することによりパルプのフィブリル化が進んでいることが分かる。実施例1〜実施例14のろ水濁度は、比較例1〜6のろ水濁度と比べて500ppm以下となり製紙スラッジの歩留まり・定着が改善されることが分かる。また、実施例1〜実施例14の手抄きシートの比破裂強度は比較例1〜6の手抄きシートの比破裂強度と比べて、8.1%〜20.9%の強度向上を示し、セルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼによる酵素処理、若しくはセルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼとエステラーゼを併用した酵素処理を行った後、叩解処理を行うことで製紙スラッジの歩留まり向上と製紙スラッジを配合しても破裂強度を維持するだけでなく、強度の向上が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、製紙工程で生じた製紙スラッジ及び排水処理工程で生じた排水スラッジを製紙用原料として再利用を促進するために有益である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙又は板紙の製造方法であって、
(a)パルプスラリーに製紙スラッジを配合し混合し、(b)セルロース分解酵素を含む酵素組成物を添加し、(c)叩解処理を行ない、(d)紙又は板紙を抄造することを特徴とする紙又は板紙の製造方法。
【請求項2】
セルロース分解酵素が、セルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼである請求項1記載の紙又は板紙の製造方法。
【請求項3】
ヘミセルラーゼがキシラナーゼである請求項1又は2のいずれかに記載の紙又は板紙の製造方法。
【請求項4】
酵素組成物が、セルラーゼとヘミセルラーゼとエステラーゼを含む請求項1記載の紙又は板紙の製造方法。
【請求項5】
酵素組成物が、クリソスポリウム・ラクノウェンス・ガーグ27K(寄託番号VKMF−3500D)の分離培養物を含むことを特徴とする請求項1記載の紙又は板紙の製造方法。



【公開番号】特開2010−236099(P2010−236099A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81734(P2009−81734)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】