説明

製紙用シームフェルト

【課題】製紙用シームフェルトにおいて、フェルトのMD方向長さが長尺でも袋織による製織が可能な製紙用シームフェルトを提供する。
【解決手段】基布B、Wとバット層とを有し、前記基布B、Wはシームループを有する製紙用シームフェルトにおいて、前記基布B、Wは、フェルト走行方向(MD方向)両端部にシームループLを備えた小織布が複数枚隣接して、芯線Sの貫通によって連結され、前記芯線Sがモノフィラメントの撚糸からなることを特徴とする、製紙用シームフェルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙機械のプレスパートに使用するフェルトに関するもので、特にシームループを有する製紙用プレスフェルト(以下、単にシームフェルトと言うことがある)の有端状ベース部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から製紙機械のプレスパートでは、プレスフェルトと一対のプレスロールまたはプレスロールとシュープレスにより湿紙の搾水作業を行っている。このプレスフェルトとしては、図1に示されるシームループを有する有端状のものが知られている。すなわち、フェルトFは有端状に構成されており、それぞれの端部に複数のシームループLが形成されている。フェルトFは、例えば図2に示すように織布による基布Bと、2層のバット層Wとによって構成される。バット層Wは、基布B上に積層された短繊維のウエッブ繊維を、ニードルパンチにより基布Bと共に絡合一体化されている。基布Bは、フェルト走行方向(MD方向)の糸材と、フェルト横断方向(CD方向)糸材を製織することで構成される。そして、MD方向の糸材によりシームループLが構成される。
【0003】
フェルトの使用に際しては、有端状のフェルトFを製紙機械に掛け入れ、フェルトのMD方向両端部を突き合わせ、一方の端部のシームループ間に他方の端部のシームループを嵌合するようにして、両端部のシームループ同士を噛み合わせる。この噛み合わせ作業の際に、直接シームループ同士を正面から突き合わせるのではなく、図2(A)のように両端部を山状に突き合わせた後、シームループ同士を噛み合わせる。従って、一方のシームループ間に他方のシームループを嵌合させる場合、他方のシームループは、その下側から上側への一方のシームループ間に嵌め込まれることとなる。なお、噛み合わせ作業には専用の治具が使われる。
【0004】
噛み合わせ作業が終了すると、図2(B)に示すように、連続するシームループLの孔部により、トンネルが形成され、トンネル状のシームループ孔部群に芯線Sを挿入させる。そして、山状に突き合わせられた端部を平面状とすることにより、製紙機械上で無端状のフェルトFが形成される。このようなフェルトFは、いわゆるシームループ付きフェルト(シームフェルト)と呼ばれ、製紙機械への掛け入れ作業が非常に優れるものであるため、近年増加する傾向にある。(例えば特許文献1)
【0005】
フェルトFは、CD方向に幅を有しMD方向に長さを有し、フェルトFが有端状から無端状にされた場合は、フェルトの外周面は湿紙と接触する面となり、フェルトの内周面はプレスロールと接触する面となる。なお、前記外周面と前記内周面はいずれもバット層Wがニードルパンチにより、基布と共に絡合一体化されて、フェルトの表裏を構成している。
【0006】
次に、基布Bの構造と製造方法を図3から図6に基づき説明する。図3は、基布Bの一方の端部を示す概略図である。図3において、基布Bは、CD方向の糸材1とMD方向の糸材2とによって構成されている。この場合、1/3経二重織の組織であり、図4は、1/2経二重織の組織である。なお、本発明の組織はこれらに限らず、任意の形態のものが選択できる。
【0007】
MD方向の糸材2は、端部にて折り返すことにより、上下一対の構成をなす。すなわち、この場合、並列するMD方向の糸材2同士は層を形成し、それぞれの層における糸材表面が連続することにより、基布Bが形成(製織)される。ここで、MD方向の糸材2の折り返し部分における、最端部のCD糸材1よりも突出した部分が、シームループLを形成する。
【0008】
次に、図5に基づき基布Bの製織方法を説明する。図5は、袋織織機にて製造する場合の概略図である。この場合、CD方向の糸材1が織機のヘッドルにより上下する整経糸として、MD方向の糸材2がシャトルの移動により配置される打ち込み糸としてそれぞれ選択される。そして、最端部の整経糸として、CD糸材よりも太い繊維である芯線Sが配置される。
【0009】
このようにして製織された無端状の基布Bは、次のニードルパンチの工程でフェルトの外周面と内周面を形成するバット層Wを基布Bと共に絡合一体化して無端状のフェルトが完成する。シームフェルトでは、ここで芯線Sをいったん取り除いて、有端状のフェルトとして製紙機械まで搬送して、製紙機械上で新たな芯線Sを挿入することで、無端状のフェルトとして製紙機械で使用することができる。
なお、シームループ孔部群に挿入する芯線Sは挿入のし易さから、従来からモノフィラメント(単糸)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2004−512441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、シームフェルトの基布Bを製織する方法としては、上述したように袋織により無端状に製織する方法、または平織りで有端状に製織してから、フェルトのMD方向両端部にシームループを形成する方法がある。
しかし、製紙機械では多種多様なフェルトのMD方向長さが要求されており、MD方向の長さが長尺のものは、織機の筬幅の最大寸法の問題で、長尺の製織ができない場合がある。すなわち袋織ではフェルト走行方向(MD方向)の寸法が制約されることがある。このような長尺のフェルトの基布を製織する場合は、織機上で平織りに有端状で製織してから、フェルトのMD方向両端部にシームループを形成する方法が採られるが、シームループを形成する手間が非常に掛かってしまう問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、袋織による長尺の製織であってフェルトのMD方向長さに制約されない製紙用シームフェルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、基布とバット層とを有し、前記基布はシームループを有する製紙用シームフェルトにおいて、
前記基布は、フェルト走行方向(MD方向)両端部にシームループを備えた小織布が複数枚隣接して、芯線の貫通によって連結され、前記芯線がモノフィラメントの撚糸からなることを特徴とする製紙用シームフェルトである。
【0014】
また、好ましくは前記芯線が紡績糸またはマルチフィラメントからなることを特徴とする、製紙用シームフェルトである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小織布の接合によってフェルトMD方向に長尺のシームフェルトを提供することができる。また、芯線にはモノフィラメントの撚糸、または紡績糸やマルチフィラメントを使用することができるので、多重織布の基布からなるシームフェルトにおいては、小織布の接合部位(シームループ)での湿紙へのマーキングが回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の製紙用シームフェルトの概略図。
【図2】従来の製紙用シームフェルトの噛み合わせ作業を示す図。
【図3】従来の製紙用シームフェルトの基布端部を示す概略図。
【図4】従来の製紙用シームフェルトの基布端部を示す概略図。
【図5】従来の製紙用シームフェルトの基布の製造方法を示す概略図。
【図6】本発明の製紙用シームフェルトの基布の概略図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、まず両端部にシームループを備えた複数枚の小織布を、図5の方法で予め製織しておき、図6のようにすべての小織布B1〜B3のシームループを開いた状態としてから、隣接する小織布(図6ではB1とB2、B2とB3)のシームループを芯線の挿入によって連結(閉鎖ループCL)してフェルト基布を形成する。
そして、基布(フェルト)の外周面と内周面を形成するバット層Wをニードルパンチで絡合一体化した後、連結部の一個所(開放シームループOL)の芯線を取り除いて、有端状のフェルトとして完成する。つまり閉鎖シームループCLは芯線Sを取り除かず連結されたままである。前記有端状のシームフェルトは製紙機械上で新たに芯線Sを挿入して、無端状のフェルトを完成する。
【0018】
本発明では、閉鎖シームループCLの芯線Sが、モノフィラメントの撚糸からなるものが好適であるが、前記芯線Sが紡績糸またはマルチフィラメントからなるもの、およびそれらの混撚糸であってもよい。モノフィラメントの撚糸としては、片撚り糸(例えば100dtex〜500dtexのモノフィラメントの、2本〜6本の撚糸)や、諸撚り糸(例えば上記片撚り糸の2本〜6本の撚糸)が使用できる。紡績糸としては、例えば10dtex〜50dtexの短繊維からなる紡績糸が使用でき、またマルチフィラメントとしては、例えば10dtex〜50dtexの長繊維を収束してなるマルチフィラメントが使用できる。
【0019】
本発明では、ニードルパンチの工程でバット層Wを基布Bと共に絡合一体化した後、損傷した閉鎖シームループCLの芯線Sを交換してもよい。
【0020】
更に、本発明ではフェルトの走行性を考慮して(走行偏りや吊れ、弛みの回避)、小織布2枚で基布を構成することが好ましい。また、複数枚の小織布のMD方向長さは同一長さで構成することが好ましい。
【0021】
本発明の芯線の材質は、ポリアミドやポリエステル(PETを含む)、芳香族ポリアミドや芳香族ポリエステル、ポリパラフェニレンスルフィド(PPS)、またはポリエチレンやポリプロピレンなどの脂肪族繊維が使用できる。特に、強度や耐摩耗性の優れるポリアミドが好ましい。
【符号の説明】
【0022】
1:CD糸材
2:MD糸材
F:製紙用シームフェルト
B:基布
B1、B2、B3:小織布
CL:閉鎖ループ
OL:開放ループ
L:シームループ
S:芯線
W:基布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布とバット層とを有し、前記基布はシームループを有する製紙用シームフェルトにおいて、
前記基布は、フェルト走行方向(MD方向)両端部にシームループを備えた小織布が複数枚隣接して、芯線の貫通によって連結され、前記芯線がモノフィラメントの撚糸からなることを特徴とする、製紙用シームフェルト。
【請求項2】
前記芯線が紡績糸またはマルチフィラメントからなることを特徴とする、請求項1に記載の製紙用シームフェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−38212(P2011−38212A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187149(P2009−187149)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】