説明

製紙用シームフェルト

【課題】 耳部に端末保護処理が施した製紙用シームフェルトにおいて、シーム部の丈方向における引張応力の集中を抑制することを課題とする。
【解決手段】 丈方向における端縁1a,1b同士がシーム部21によって連結された製紙用シームフェルト1であって、当該シームフェルトの幅方向における両端部をなす耳部24のシーム部から丈方向に所定距離の範囲は、耳部の破壊を防止するための端末保護処理が施されていない非端末保護処理部31とし、前記耳部の他の範囲は前記端末保護処理が施された端末保護処理部30とすることを特徴とする。また、非端末保護処理部が、シーム部から丈方向に1cm以上50cm以下の長さをもって設けられているようにするとよい。また、丈方向における端縁の幅方向端部をなす隅部が切除されているとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用シームフェルトに係り、詳細には幅方向における端縁をなす耳部に熱溶融または樹脂の塗布による端末保護処理が施された製紙用シームフェルトに関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用フェルトにおいて、その幅方向における端縁をなす耳部の経糸のほつれや摩耗、バット繊維層の脱毛等を抑制するために、耳部に端末保護処理を施すことがある(例えば、特許文献1参照)。端末保護処理としては、耳部を構成する基布の経糸および緯糸と、バット繊維層とに熱可塑性樹脂を使用し、これらを加熱溶融して互いに一体化させる手法や、耳部に可撓性の樹脂材料を塗布し、樹脂材料によって経糸、緯糸およびバット繊維層を一体に封止(結合)する手法等がある。従来技術では、製紙用フェルトがシームループにて丈方向を結合した製紙用シームフェルトである場合にも当然にそのシーム部もシーム部以外と同様に同じく端末保護処理が行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−45237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耳部に端末保護処理を施した場合、耳部を構成する経糸、緯糸およびバット繊維層が互いに相対変位し難くなるため、フェルトの耳部は他の部分よりも伸縮し難くなる、すなわち硬くなる。そのため、フェルトの使用時において、フェルトの丈方向に引張荷重が加わる際には、耳部の端末保護処理を施した部分が伸長し難いことから、シーム部の耳部に対応する部分(フェルトの幅方向における端部)に引張応力が集中し、最悪の場合にはシーム部が破断するという問題が多く発生している。
【0005】
本発明は、以上の問題を鑑みてなされたものであって、耳部に端末保護処理が施した製紙用シームフェルトにおいて、シーム部への丈方向における引張応力の集中を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、丈方向における端縁(1a,1b)同士がシーム部(21)によって連結された製紙用シームフェルト(1)であって、当該シームフェルトの幅方向における両端部をなす耳部(24)の前記シーム部から丈方向に所定距離の範囲は、前記耳部の破壊を防止するための端末保護処理が施されていない非端末保護処理部(31)とし、前記耳部の他の範囲は前記端末保護処理が施された端末保護処理部(30)とすることを特徴とする。ここで、端末保護処理とは、加熱による耳部の溶融・結合や、樹脂材料の付加による耳部の封止等を含む。
【0007】
この構成によれば、シームフェルトに丈方向の引張荷重が加わった際に、引張端末保護処理がなされていない非端末保護処理部が伸長することによって引張応力が分散され、シーム部に引張応力が集中することを抑制することができる。
【0008】
上記の構成において、前記非端末保護処理部が、前記シーム部から丈方向に1cm以上50cm以下の長さをもって設けられているようにするとよい。また、丈方向における前記端縁の幅方向端部をなす隅部が切除されているとよい。また、前記隅部が、丈方向における0.5cm〜3.0cmの一辺と、幅方向における0.25cm〜1.5cmの一辺とを有する三角形状に切除されているとよい。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成によれば、耳部に端末保護処理を施した製紙用シームフェルトにおいて、シーム部に丈方向における引張力が集中することを抑制することができるため、それに起因する耳ほつれやシーム目開きといった問題を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るフェルトを模式的に示す平面図
【図2】図1のII−II断面図
【図3】図1のIII−III断面図であって、端末保護処理部の一例を模式的に示す図
【図4】図1のIII−III断面図であって、端末保護処理部の一例を模式的に示す図
【図5】図1のIII−III断面図であって、端末保護処理部の一例を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の実施形態に係る製紙用シームフェルトは、製紙機において抄紙を運搬する搬送手段として使用されるものである。実施形態に係る製紙用シームフェルトは、抄紙の加圧脱水工程等に使用されてよい。
【0012】
図1に示すように、実施形態に係る製紙用シームフェルト(以下、単にシームフェルトという)1は、製紙機への掛け入れ作業性を向上させるため、丈方向において端縁1a,1bを有し、製紙機のロールに巻き掛けた上で両端縁1a,1bを互いに接合して無端とする、いわゆるシームフェルトである。シームフェルト1は、製紙機のロールに巻き掛けられた使用時において丈方向に走行するものであり、丈方向と直交する方向を幅方向とする。
【0013】
図2に示すように、シームフェルト1は、ニードリングによって基布2にバット繊維層3が積層一体化され、図2を基準としてシームフェルト1の上面は湿紙が載る製紙面4を構成し、下面は製紙機のロール等に当接する走行面5を構成する。
【0014】
基布2は、丈方向に沿って延在した複数の経糸7と、幅方向に沿って延在するとともに複数の経糸7に交絡した複数の緯糸8とを有している。経糸7は、基布2の丈方向における両端縁で折り返されてループ部13を形成するともに、基布2の製紙面側および走行面側に延在している。各ループ部13がなす中心孔14が幅方向から見て互いに整合するように、各ループ部13は幅方向に列設されており、バット繊維層3の外部へと露出している。緯糸8は、経糸7の製紙面側に延在する部分にのみ絡合する上緯糸15と、経糸7の走行面側に延在する部分にのみ絡合する下緯糸16とを含む。
【0015】
シームフェルト1は、使用時において、製紙機のロールに巻き掛けた上で、丈方向における両端縁1a,1bに露出する各ループ部13を、その中心孔14が幅方向から見て互いに整合するように交互に噛み合せ、各中心孔14に接合用芯線20を挿通することによって、無端状に接合される。このループ部13および接合用芯線20によって接合されたシームフェルト1の丈方向における両端縁1a,1bの接合部をシーム部21という。
【0016】
シームフェルト1の丈方向における一端縁側においては、バット繊維層3の製紙面側部分がループ部13の上方を覆うように迫り出したフラップ23を形成している。一方、シームフェルト1の丈方向における他端縁側においては、ループ部13がバット繊維層3の端面から突出する形態となっている。シームフェルト1の丈方向における両端縁1a,1bが互いに接合された状態では、フラップ23がループ部13の製紙面側を覆うとともに、他端側におけるバット繊維層3の製紙面側の端面に当接している。このフラップ23によって、シームフェルト1は、シーム部21において丈方向に連続した製紙面4を形成している。
【0017】
上述した経糸7、緯糸8、接合用芯線20は、例えばポリアミド等の熱可塑性樹脂から形成されたモノフィラメント糸、マルチフィラメント糸(撚り糸を含む)、数本のステープルを紡いだ紡績糸であってよい。バット繊維層3は、ポリアミド等の熱可塑性樹脂から形成されてよい。
【0018】
図1に示すように、シームフェルト1の幅方向における両端部を耳部24とする。シームフェルト1の丈方向における両端縁1a,1bの幅方向端部をなす隅部(すなわち、耳部24に対応する部分)のそれぞれは、三角形状に切除された切除部25となっている。シームフェルト1がシーム部21によって接合された状態では、幅方向において対応する切除部25は互いに連続し、1つの三角形状の切除部26を構成する。各切除部25の丈方向における長さをA、幅方向における長さをBとすると、Aは0.5cm〜3.0cmであり、Bは0.25cm〜1.5cmであることが好ましい。
【0019】
耳部24のシームフェルト1のシーム部21(より詳細には、接合用芯線20の中心)から長さC離間した部分には、丈方向に連続して端末保護処理が施された端末保護処理部30が形成されている。長さCは、1cm〜50cmであることが好ましい。また、端末保護処理部30は、幅方向において端縁から長さDの範囲に形成されている。長さDは、0.5cm〜3cmであることが好ましい。端末保護処理部30に対して、耳部24のシーム部21から長さCの範囲は端末保護処理が施されておらず、非端末保護処理部31という。
【0020】
端末保護処理部30は、シームフェルト1の幅方向における端縁に露出した経糸7、緯糸8およびバット繊維層3等の破壊、すなわち、ほつれや脱毛、摩耗を防止するためのものであり、例えば、耳部24を加熱溶融し、経糸7、緯糸8およびバット繊維層3を一体化させる手法や、耳部24に可撓性の樹脂材料(接着材)を塗布または浸漬等によって付加し、樹脂材料によって経糸7、緯糸8およびバット繊維層3を一体に封止する手法によって形成されている。図3〜5を参照して端末保護処理部30の例について説明する。
【0021】
図3に示す一例としての端末保護処理部30Aは、耳部24の幅方向における端面および端面から所定の範囲を加熱し、かつ厚み方向に圧力を加えて、バット繊維層3、基布2を構成する経糸7、緯糸8(図3中では図示省略)を互いに溶融一体化したものである。図中の網掛け部41は、溶着された溶着部を示している。耳部24の溶着部41は、端縁側に進むほど厚みが薄くなるように、テーパ状に成形されている。
【0022】
図4に示す一例としての端末保護処理部30Bは、耳部24の幅方向における端面および端面から所定の範囲を加熱し、かつ厚み方向に圧力を加えて、バット繊維層3、基布2を構成する経糸7、緯糸8(図4中では図示省略)を互いに溶融一体化したものである。図中の網掛け部42は、溶着された溶着部42を示している。耳部24の溶着された溶着部42は、端末保護処理部30Aと異なり、段差を介して全体的に厚みが薄くなっている。
【0023】
図5に示す一例としての端末保護処理部30Cは、例えば、ゴムやウレタン樹脂、シリコン樹脂等の可撓性の樹脂材料を溶融したもの、または熱可塑性の樹脂材料を耳部24に含浸させたものである。すなわち、基布2およびバット繊維層3の空隙に可撓性の樹脂材料、または熱可塑性の樹脂材料を充填し、バット繊維層3、経糸7、緯糸8(図5中では図示省略)の端末を封止したものである。図中の網掛け部43は、樹脂材料が含浸された封止部を示している。
【0024】
以上のように構成したシームフェルト1は、非端末保護処理部31を設けたことによって、耳部24の丈方向における全域に端末保護処理部30を設けた場合よりも丈方向における引張強さ(kN/m)が向上する。端末保護処理部30は、上述したように、加熱溶融した場合と樹脂材料による封止を行った場合のいずれにおいても経糸7、緯糸8およびバット繊維層3が互いに結合されることによって相対変位不能となっており、非端末保護処理部31よりも伸縮性が低下している。そのため、耳部24の丈方向における全域に端末保護処理部30を設け、丈方向における引張荷重をシームフェルト1に加えた場合には、端末保護処理部30よりも伸長し易いシーム部21に引張応力が集中する。そのため、過大な引張荷重が加わった場合には、シーム部21においてループ部13または接合用芯線20が断裂し、シーム部21が開裂する虞がある。これに対し、非端末保護処理部31を設けた場合には、非端末保護処理部31が伸長可能であるため、シーム部21とともに非端末保護処理部31に引張応力が分散され、シーム部21に加わる引張応力が低減される。
【0025】
非端末保護処理部31の丈方向における長さCが長いほど、非端末保護処理部31は丈方向により伸長することができるため、シーム部21に加わる丈方向の引張応力はより低減される。一方、非端末保護処理部31の長さCが長くなるほど、非端末保護処理部31において、経糸7のほつれや、バット繊維層3の脱毛が発生するとともに、摩耗に対する抵抗力が低下するため、これらを考慮して非端末保護処理部31の長さCは50cmを上限とすることが好ましい。
【0026】
シームフェルト1は、幅方向において、端末保護処理部30では伸縮性が低下しているが、端末保護処理部30よりも中央側の部分では端末保護処理部30よりも高い伸縮性を有している。そのため、シーム部21が受ける引張応力は、耳部24に対応する幅方向端部が最も大きくなり、中央部が最も小さくなる。よって、シームフェルト1の端縁1a、1bの端末保護処理部30に対応する部分を避けてシーム部21を形成することで、シーム部21に加わる引張応力を低減することができる。シームフェルト1の端末保護処理部30よりも幅方向において中央側の部分は、伸縮性が高く、伸長することができるため、シーム部21に加わる丈方向の引張応力が分散され、シーム部の伸長が抑制される。
【0027】
シームフェルト1の丈方向における端縁1a、1bの幅方向における両端部、すなわち幅方向において端末保護処理部30に対応する部分を切除部25とし、シーム部21を設けないようにすることで、シーム部21に加わる丈方向の引張応力を低減することができる。シーム部21と端末保護処理部30とが幅方向に重ならないように、切除部25の幅方向における長さBが、端末保護処理部30の幅方向における長さDよりも長くてもよい。
【0028】
<実施例>
上述した実施形態の構造を有するシームフェルトについて、非端末保護処理部31の丈方向における長さCを変更し、シームフェルトの引張強さ(kN/m)および伸度(%)を測定した実施例について以下に説明する。ここで、引張強さは、シームフェルトに丈方向の引張荷重を加えた際に、シームフェルトが破断するときの幅あたりの荷重を示している。シームフェルトは、丈方向においてシーム部が最も弱いため、破断する際にはシーム部において破断する。伸度(%)は、丈方向に引張荷重を加え、シームフェルトが破断する直前のシームフェルトの丈方向長さと、初期状態のシームフェルトの丈方向長さとを比較し、その延びをパーセンテージで示したものである。結果を以下の表1に示す。
【0029】
シームフェルト1は、シーム部21で結合された状態で有端の帯状となるように形成され、丈方向における長さが20cm、幅方向における長さが2.5cmであり、その丈方向における中間部に幅方向に延在するシーム部21を形成した。シームフェルト1の基布2を構成する経糸7、緯糸8は直径0.35mm、0.40mmのポリアミドのモノフィラメント糸であり、接合用芯線20はポリアミドからなる複数本のモノフィラメントとした。基布2には、ポリアミド系の樹脂からなる太さ17dtexの繊維を、製紙面側に600g/m、走行面側に100g/mでニードリングし、バット繊維層3を形成した。
【0030】
シームフェルト1のシーム部21の一端には、丈方向における長さAが0.5mm、幅方向における長さBが0.5mmの切除部25を形成した。端末保護処理部30は、シームフェルト1の幅方向における一端であって切除部25が設けられた側と同じ側に、熱および圧力を加えることによって図4に示す形態に成形した。端末保護処理部30の幅方向における長さDを10mmとした。非端末保護処理部31の丈方向における長さCは、0cm、1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、10cm(端末保護処理部がなし)のものを各種作成した。
【0031】
以上のように作成したシームフェルト1について、丈方向における両端部に丈方向に沿った引張荷重を加えた際の引張強さ(kN/m)および伸度(%)を測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1より、非端末保護処理部31を設けた場合(Cが1cm以上)には、非端末保護処理部31を設けない場合(C=0cm)に比べて、引張強さが増加することが確認された。また、引張強さは、非端末保護処理部31の丈方向における長さCが長くなるほど、増大することが確認される。同様に、伸度についても、非端末保護処理部31を設けることによって、値が増大することが確認され、その程度は非端末保護処理部31の丈方向における長さCが長くほど大きくなる。これらの結果より、非端末保護処理部31が伸長することによって、シーム部に加わる引張荷重が緩和され、シームフェルト1の引張強度が増大することが示唆されている。
【0034】
以上で実施形態および実施例についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、経糸、緯糸およびバット繊維層の材質および形態、織構造は適宜変更可能である。また、端末保護処理部の構成は、公知の形態を適用し得る。上記の実施形態では、切除部25を三角形状に形成したが、例えば、扇形に形成してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…製紙用シームフェルト、2…基布、3…バット繊維層、4…製紙面、5…走行面、7…経糸、8…緯糸、15…上緯糸、16…下緯糸、20…接合用芯線、21…シーム部、23…フラップ、24…耳部、25…切除部、30、30A、30B、30C…端末保護処理部、31…非端末保護処理部、41、42…溶着部、43…封止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丈方向における端縁同士がシーム部によって連結された製紙用シームフェルトであって、
当該シームフェルトの幅方向における両端部をなす耳部の前記シーム部から丈方向に所定距離の範囲は、前記耳部の破壊を防止するための端末保護処理が施されていない非端末保護処理部とし、前記耳部の他の範囲は前記端末保護処理が施された端末保護処理部とすることを特徴とする製紙用シームフェルト。
【請求項2】
前記非端末保護処理部が、前記シーム部から丈方向に1cm以上50cm以下の長さをもって設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の製紙用シームフェルト。
【請求項3】
丈方向における前記端縁の幅方向端部をなす隅部が、切除されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の製紙用シームフェルト。
【請求項4】
前記隅部が、丈方向における0.5cm〜3.0cmの一辺と、幅方向における0.25cm〜1.5cmの一辺とを有する三角形状に切除されていることを特徴とする、請求項3に記載の製紙用シームフェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−82532(P2012−82532A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226913(P2010−226913)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】