説明

製紙用フェルト

【課題】 プレスロールの端縁との当接部分の摩耗を抑え、耐久性に優れた製紙用フェルトを提供する。
【解決手段】 基体とバット層とを含む製紙用フェルトにおいて、プレス装置のプレスロールの端縁と当接する部分に所定幅にわたり、保護層を設けたことを特徴とする製紙用フェルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機において湿紙の搬送に使用される製紙用フェルトに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に抄紙機は、ワイヤーパートと、プレスパートと、ドライヤーパートとを備える。これらワイヤーパート、プレスパート、およびドライヤーパートは、この並び順で湿紙の搬送方向に沿って配置される。湿紙は、ワイヤーパート、プレスパート、およびドライヤーパートそれぞれに配設された抄紙搬送用具に次々と受け渡されながら搬送されるとともに水分を搾り出され(即ち、搾水され)、最終的にはドライヤーパートで乾燥させられる。
【0003】
図4にプレスパートを構成するシュープレス装置91の一例を示すが、プレスロールPの下面に、上面が凹弧状になっているシューSを面接触させ、その間に、一対のエンドレスの製紙用フェルト92、93で挟んだ状態で湿紙Wを供給する。シューSと、シューS側の製紙用フェルト93との間には、この製紙用フェルト93の走行に従動するプレスベルトBが配されており、シューSでプレスベルトBを押し上げて製紙用フェルト92,93をプレスロールPに押し付けることにより広いニップ領域を形成し、プレスロールPとシューSとの面圧により搾水効果を向上させるようになっている。また、プレスロールPは、図5に示すように、軸方向の両端部分が外方に向けて狭窄しているロールテーパー部P′が設けられ、シューSにはその両端部分に面取りの丸み部S’が形成されているのが一般的である。プレスロールPとシューSとの面圧によるニップ領域Nが形成されている。
図6には別のプレスパートを構成するシュープレス装置51の一例を示すが、プレスロールP、Pの間に一対のエンドレスの製紙用フェルト92、93で挟んだ状態で湿紙Wを供給する。この場合は、一方のプレスロールの押圧でニップ領域Nが形成され、プレスロールP、Pとの線圧により搾水効果を導き出している。ここで図6においても、プレスロールP、Pには、図6に示すように、軸方向の両端部分が外方に向けて狭窄しているロールテーパー部P′が設けられている。なお、図5及び図6において、トップ側の製紙用フェルト92が省略される場合があり、その場合には湿紙を挟んだ状態で、トップロールに当接するのはボトム側の製紙用フェルト93の湿紙載置側である。
【0004】
従来から、図5、図6に示されるように、プレスロールP、Pの端縁P”と製紙用フェルト92、93の当接部分は摩耗し易かった。一般的に、製紙用フェルト92,93は、ポリアミド等の合成繊維や天然繊維等からなる織布の基体と、基材の両側に繊維材料をニードル加工して保持させたバット層とから概略構成されている。特に、製紙用フェルトには耐磨耗性の良いポリアミド等の合成繊維が、バット層を構成する素材として良く使われている。また製紙用フェルト全体としての特性や機能を向上させるために、基体やバット層等を改良することが行われているものの(例えば、特許文献1〜3参照)、プレスロールPの端縁P”との当接部分における摩耗の問題に着目した例はない。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4500588号明細書
【特許文献2】特開2001−89990号公報
【特許文献3】特開2004−124274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近の製紙機械は、生産性をいっそう高めるために生産速度、すなわち製紙用フェルトや湿紙の搬送速度が著しく高くなっており、上記した製紙用フェルトのプレスロールとの当接部分の摩耗の問題は顕在化してきている。そこで、本発明では、プレスロール端縁との当接部分の摩耗を抑え、耐久性に優れた製紙用フェルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は下記の製紙用フェルトを提供する。
(1)基体とバット層とを含む製紙用フェルトにおいて、プレス装置のプレスロールの端縁と当接する部分に所定幅にわたり保護層を形成したことを特徴とする製紙用フェルト。
(2)前記保護層が、熱硬化性樹脂からなる塗布層であることを特徴とする上記(1)記載の製紙用フェルト。
(3)前記保護層が、バット層に接着または縫合された織布または不織布であることを特徴とする上記(1)記載の製紙用フェルト。
(4)前記保護層が、バット層の表層部に配した芯鞘型複合繊維で形成されていることを特徴とする上記(1)記載の製紙用フェルト。
(5)前記保護層が形成された部分を、他の部分よりも薄肉にしたことを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の製紙用フェルト。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製紙用フェルトは、プレスロールの端縁との当接部分に設けた保護層により、プレスロールの端縁と当接しても摩耗が抑えられ、従来に比べて耐久寿命が大幅に延びている。しかも、保護層を部分的に設けるだけであるから、汎用性が高く、低コストで実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0010】
本発明において、プレスロールの端縁との当接部分に保護層を形成すること以外制約はない。従って、保護層が形成される、ベースとなる製紙用フェルトには制限がないが、一例を示すと以下のとおりである。
【0011】
一般に、製紙用フェルトは、基体をバット層で挟み込んだ構成である。基体は、経糸と緯糸とを織機等により製織した織物が一般的である。経糸及び緯糸の材質としては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612等)、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、綿、ウール、金属等が挙げられる。また、織物の他、経糸と緯糸を織込むことなく接着剤等により接着形成した物や、不織布、フィルムや樹脂成型体等を用いてもよい。
【0012】
バット層は、ポリアミド繊維等の合成繊維や羊毛等の天然繊維をウェッブ状に形成し積層したもので、ニードル加工により基体と一体化される。
【0013】
また、必要に応じて、各種の処理が施されたり、新たな層が追加されていてもよく、例えば基体とバット層との間に親水性不織布や再湿防止用層が介挿されていてもよい。
【0014】
本発明では、図1に示すように、製紙用フェルト100のプレスロールの端縁との当接部分に、耐摩耗性を付与するための保護層10を形成する。保護層10としては、製紙用フェルト100のニップ領域Nの外端(即ち、プレスロールPの端縁P”)に沿って、該外端を中心として所定幅にわたり熱硬化性樹脂を塗布し、硬化させた塗布層とすることができる。保護層10の幅Lは、フェルトが製紙機械内を周回する間の、巾方向に生ずる多少のズレを考慮して、ニップ部外端の内側及び外側に掛けて1〜50cm、好ましくは5〜20cmの巾で設ける。また、保護層10の厚さDは、耐摩耗性を長期間維持するためには厚い方が好ましいが、逆に柔軟性が低下し剛性が増すため、プレスロールPの端縁P”近傍でロールの垂直方向の振動が懸念されることから、基体まで侵入しないように留めることが好ましい。即ち、耐摩耗性、柔軟性(剛性によるロール振動)を考慮すると、基体の湿紙側バット層厚み以下とする。
【0015】
熱硬化性樹脂には制限がないが、ポリウレタン樹脂やフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、合成ゴム等を用いることができる。そして、これら熱硬化性樹脂のエマルジョンをロールで塗布、またはスプレーで吹き付ける等して含浸させ、加熱して硬化させることで保護層10が形成される。このとき、上記した厚さDに合わせてエマルジョンの塗布量を調整する。
【0016】
また、保護層10は、塗布層に代えて、上記した幅Lの帯状の織布または不織布をバット層に接着または縫合して形成することもできる。織布や不織布は、耐摩耗性の繊維から形成されることが好ましく、ポリアミド製の織布や不織布が好適である。織布や不織布の目付量、繊維径等には制限がなく、繊維の種類や水性、耐摩耗性を考慮して適宜選択されるが、例えば、帝人(株)製「コーネックス織物CO5121」(メタ系芳香族アラミド繊維からなる織布、経糸:30番手・120本/5cm、緯糸:30番手・120本/5cm、目付:96g/m)、帝人(株)製「コーネックス織物CO1910」(メタ系芳香族アラミド繊維からなる織布、経糸:30番手2本撚り・120本/5cm、緯糸:30番手2本撚り・92本/5cm、目付:170g/m)等を好適に使用できる。
【0017】
接着剤は、上記の織布や不織布をバット層に接着できれば制限無く使用できる。但し、繊維材料であるバット層との接合性、更には透水性の低下が無いことから、織布や不織布をバット層に縫合する方が好ましい。
【0018】
また、保護層10は、バット層表層部の保護層10となる部分を芯鞘型複合繊維で形成することによっても得られる。芯鞘複合繊維は、高融点の樹脂からなる芯成分を低融点の樹脂(鞘成分)で被覆したもので、該バット層表層部の保護層10は全体を低融点の樹脂の融点より高いが、高融点の樹脂より低い温度に加熱し、鞘成分を溶融させて、繊維間に形成される鞘成分の網目構造により、保護層10の強度や耐磨耗性など、耐久性を高めることができる。特に、製紙用フェルトとしては、耐磨耗性に優れたポリアミド樹脂からなる芯鞘複合繊維が好ましく、例えば芯成分がポリアミド6で、鞘成分が共重合ポリアミドとした芯鞘型複合繊維、或いは芯成分がポリアミド66で、鞘成分がポリアミド6とした芯鞘型複合繊維が好適である。
【0019】
この芯鞘型複合繊維からなる保護層10を形成するには、通常のニードル加工によるバット層の形成方法に従うことができる。すなわち、基体をニードル加工してバット層を構成した後、保護層10を形成する部分に所定の幅及び厚さで芯鞘型複合繊維を敷き詰め、他の部分には通常のバット層を形成する繊維を敷き詰め、全体をニードル加工すればよい。尚、保護層10の幅や厚さは塗布層の場合と同様である。また、芯鞘型複合繊の充填量(坪量)は他の部分のバット層と同等でかまわないが、耐摩耗性を長期間維持するために若干高充填とすることが好ましい。
【0020】
更に、図2及び図3に示すように、製紙用フェルト100の保護層10を形成した部分を薄肉とすることが好ましい。図2は保護層10の全幅にわたり凹部20を形成した例であり、図3は保護層10を起点とし、フェルト厚が外端に向かって漸次薄くなるテーパ面30とした例である。保護層10を薄肉部とする方法は、保護層10を形成した後、熱プレスにより圧縮する方法が簡便で効率良く、かつ、確実である。また、薄肉の程度は、図2に示すような凹部20ではバット層表面から保護層20の表面までの段差で0.5〜3.0mmが適当であり、図3に示すテーパ面30ではテーパ角φで0.5〜3.0°が適当である。尚、図3に示すようなテーパ面30を形成する場合、図示は省略するが、保護層10のみをテーパ面とし、保護層10の外側を平らな面(即ち、肉厚一定)とすることもできる。
【0021】
保護層10が形成された部分を薄肉にすることにより、プレスローラPの端縁P”が保護層10に当接しなくなり、もしくは、当接しても押圧力が小さくなるため、保護層10の摩耗がより抑えられる。
【0022】
本発明の製紙用フェルトは、上記に挙げた実施形態に限らず種々の変更が可能である。例えば、保護層10はフェルトのプレスローラに当接する側にのみ形成したが、反対側、即ちフェルトのプレスローラに当接しない、反対側にも同様の保護層を対向配置することができる。例えば、図5や図6でトップ側の製紙用フェルト92が省略される場合、ボトム側の製紙用フェルト93の、湿紙載置側がプレスローラに当接する側になるので、保護層10はフェルトの湿紙載置側に設ける。これにより、湿紙搬送時におけるフェルト表裏面で走行状態のバランスが保たれる。
【0023】
上記のように本発明の製紙用フェルトは、プレスローラの端縁との当接部分の耐摩耗性に優れることから、より高速、高圧での抄紙装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の製紙用フェルトの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の製紙用フェルトの他の例を示す断面図である。
【図3】本発明の製紙用フェルトの更に他の例を示す断面図である。
【図4】抄紙機のプレス装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】プレス装置のニップ部周辺を示す図である。
【図6】他のプレス装置のニップ部周辺を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
P プレスロール
S シュー
B プレスベルト
N ニップ部
W 湿紙
10 保護層
20 凹部
30 テーパ面
91 シュープレス装置
92、93 製紙用フェルト
94 ガイドロール
100 製紙用フェルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体とバット層とを含む製紙用フェルトにおいて、プレス装置のプレスロールの端縁と当接する部分に所定幅にわたり保護層を形成したことを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項2】
前記保護層が、熱硬化性樹脂からなる塗布層であることを特徴とする請求項1記載の製紙用フェルト。
【請求項3】
前記保護層が、バット層に接着または縫合された織布または不織布であることを特徴とする請求項1記載の製紙用フェルト。
【請求項4】
前記保護層が、バット層の表層部に配した芯鞘型複合繊維で形成されていることを特徴とする請求項1記載の製紙用フェルト。
【請求項5】
前記保護層が形成された部分を、他の部分よりも薄肉にしたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の製紙用フェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−39823(P2007−39823A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223031(P2005−223031)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】