説明

製紙用水和珪酸およびその製造方法

【課題】製紙用填料として機械安定性、歩留まりなどの実用性に優れ、さらに抄紙に際し填料として使用した時に、高い不透明性を与える水和珪酸およびその製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒子径がレーザー法による測定値で15〜30μm、吸油量が360〜500ml/100gでありかつ粒子径(μm)を対数で表示したときの粒子径に対する粒子体積の分布の標準偏差が0.3〜0.4である水和珪酸を、ケイ酸ソーダ水溶液を鉱酸で中和析出させるとき、水和珪酸1kgあたり150〜300kJの攪拌負荷を与えることにより生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水和珪酸およびその製造方法に関する。特には、機械安定性、歩留まりなどの実用性に優れ、さらに抄紙に際し填料として使用した時に、高い不透明性を与える水和珪酸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、印刷或いは筆記用に使用される紙には、不透明度、白色度などの光学特性、平滑性、手触り、印刷適性、筆記適性等の改良のために、水和珪酸(含水ケイ酸)、タルク、炭酸カルシウム、クレー、カオリン、二酸化チタンなどの無機粒子や尿素−ホルムアルデヒドポリマー等の有機系の粒子が填料として添加使用されている。このような填料を内添した紙は、水に分散した製紙用パルプに填料を添加し、その他、通常紙の抄造に使用される内添助剤を添加した紙料から、長網抄紙機、ツインワイヤ抄紙機等によって湿紙を形成し、乾燥して製造されている。
【0003】
近年、紙は厚みを減少させて軽量化される傾向にあるが、特に印刷用紙を軽量化すると紙に印刷した場合の不透明度(以下、印刷後不透明度と称する)が低下し、印字が紙の反対面から透き通ってみえるという問題が生じる。印刷後不透明度も含め、紙の不透明度を向上させるために紙に様々な填料を添加することが一般に行われている。不透明度を向上させるという目的のために無機系及び有機系の各種填料の研究開発が行われているが、現在においても、なお安価で十分に不透明度の向上効果のあるものは開発されるに至っていない。また、最近ではより一層軽量化が促進される傾向が強いので、既存の填料より更に不透明度を向上させる能力を持った填料の出現が強く望まれている。
【0004】
現在使用されている不透明度向上用の填料の中で、酸化チタンは、白紙不透明度は向上させるが、インキの浸透を抑制する能力が劣っているために印刷後不透明度の向上が望めなく、更に光散乱能を最大に発揮できる状態(粒子径0.1〜0.5μm)においては、パルプに添加して抄紙する際の歩留りが非常に悪く、不経済である。炭酸カルシウムは安価であるが、歩留まりが悪く、吸油性能が乏しいため印刷後不透明度向上効果は低レベルである。有機系の尿素−ホルマリン樹脂は、印刷後不透明度及び白紙不透明度の向上能力を合わせ持ってはいるが、各々の絶対能力が不足している。水和珪酸は、他の種類の填料より価格も安く、また、パルプに添加して抄紙した場合、インクの浸透を抑制することによる印刷後不透明度を付与する効果がある。しかし、印刷後不透明度は今後の紙軽量化に更なる向上が望まれており、原料の有効利用の観点からも高い歩留まりを与えることが望まれている。
【0005】
水和珪酸では、印刷後不透明度の向上に大きく寄与しているインクの浸透を抑制する能力の指標となる吸油量は、水和珪酸の細孔体積に比例して大きくなり、水和珪酸の合成条件により制御できることが知られている。しかし、現在使用されている水和珪酸より細孔体積を大きくしていくと、空隙の増加による粒子の強度低下が生じ、さまざまな攪拌装置やポンプを経て抄紙する際も機械的摩擦力により粒子が破壊されることもある。また、合成された水和珪酸は、均一な粒度を持っているわけではなく、粒度分布の広がりが大きいときには、小さな粒子は歩留まり低下の原因となり、大きな粒子は紙の表面から突出することによる脱落、即ち紙粉の原因となりうる。
【0006】
特許文献1特許に開示されている水和珪酸では、吸油量が250〜350ml/100gと小さいために印刷後不透明度の向上が劣っており、また粒子径がレーザー法による測定値で3〜15μmであるため抄紙機における歩留まりが悪く、また歩留まり向上剤などを用いて凝集させると紙の中での均一性が失われることにより更なる印刷後不透明度の低下へとつながる。
特許文献2に開示されている「複合粒子の製造方法」で得られる水和珪酸誘導体では、優れた光散乱能による不透明度向上は達成できるが、吸油量が350ml/100g程度しかない。また、粒径分布も特に優れているとはいえない。
【0007】
特許文献3に開示されている製紙用水和珪酸では、吸油量が350ml/100g程度しかなく、また、粒径分布も特に優れているとはいえない。
さらに、特許文献4に開示されている「シリカ粒子、その製造方法及びシリカ粒子内添紙」に記載の水和珪酸は、吸油量が300〜500ml/100g、細孔容積4.0〜6.0cc/gと非常に優れており印刷後不透明度に対する効果は大きく、平均粒子径は5〜30μmで粒子径(μm)を対数で表示したときの粒子径に対する粒子体積の分布の標準偏差が0.1〜0.25で極めてシャープであり、歩留まり、紙粉などに優れていると思われる。しかし、意外なことに、該水和珪酸を用いて抄紙してみると、抄紙過程における歩留まりが高くない場合があることが判明した。特に、機械的摩擦力が強くかかる場合に、粒子が破壊され、結局は粒子径が15μmを下回るような小さな粒子になってしまうのではないかと推定している。
【特許文献1】特許第2908253号公報
【特許文献2】特開平11−107189号公報
【特許文献3】特許第2666638号公報
【特許文献4】特開2000−7320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、安価なケイ酸ナトリウム等を原料として使用し、製紙用填料として機械安定性、歩留まりなどの実用性に優れ、さらに抄紙に際し填料として使用した時に高い不透明性を与える水和珪酸、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の(1)〜(4)の構成を採用する。
(1) 平均粒子径がレーザー法による測定値で15〜30μmかつJIS K−5101の方法で測定した吸油量が360〜500ml/100gである水和珪酸において、粒子径(μm)を対数で表示したときの粒子径に対する粒子体積の分布の標準偏差が0.3〜0.4である水和珪酸。
(2) 水銀ポロシメーターで測定した細孔半径10Å以下の細孔の積算容量が4.0cc/g以上であり、比表面積が50〜140m/gであることを特徴とする(1)に記載の水和珪酸。
(3) 上記の(1)または(2)に記載の発明において、水和珪酸の10%スラリー2Lをタービン羽根により1000rpmで120分攪拌処理した時の平均粒子径が、処理前の平均粒子径の95%以上を維持すること特徴とする水和珪酸。
(4) 硫酸ナトリウムの存在下で、ケイ酸ソーダ水溶液に鉱酸を二段に分けて添加し、中和して製紙用水和珪酸を製造する際に、第一の鉱酸として、該ケイ酸ソーダを中和するのに必要な全量の20〜50%に相当する鉱酸を20〜60℃において添加して、次いで撹拌しながら70℃以上に昇温し、残部の鉱酸(第二の鉱酸)を添加する方法において、第二の鉱酸の添加を開始するまでに水和珪酸1kgあたりに、150〜300kJの攪拌負荷を付与することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水和珪酸の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、印刷用紙用の填料として用いた時に、高い不透明性を与えることができ、また、使用時の機械安定性に優れるため、結果として歩留まりが向上する。本発明で得られたような高い不透明性と機械安定性を両立する水和珪酸は本発明により始めて得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<水和珪酸の物性>
製紙用の填料として、高速で生産される新聞用紙のような紙製品においては、既に記載したように水和珪酸が好んで用いられるが、その形状についてはワイヤーパートにおける脱水時の吸引力が強いため、填料の粒子径はレーザー法による測定値で15〜30μmであることが歩留まりの観点から望ましい。留まりを高めるために無機或いは有機の歩留まり向上剤を添加する方法もあるが、添加率が高くなると紙の地合を損ねることになり、限度がある。また30μmを超す場合は、紙中への留まりは極めて良いが、紙中に存在する粒子個数が減少するため、水和珪酸の持つ光散乱効果が減少し、ひいては、紙の不透明度が減少することになる。
【0012】
また、特に高い印刷後不透明度を要求されるためJIS K−5101の方法で測定した吸油量が360〜500ml/100gである水和珪酸が望まれるている。また、本発明による水和珪酸は、嵩比重が0.15g/ml以下であり、より好ましくは0.06〜0.12g/mlである。嵩比重が0.15g/ml以下のような小さな値となることで、紙に添加したときに紙の中でより多くの体積を占め、よりインクの吸収に寄与すると思われる。嵩比重が0.15g/mlより大きい場合は、このような効果は低いレベルとなる。
【0013】
このような水和珪酸において、粒子径の分布は重要であり、50μmを超えるような大きな粒子は紙製品の表面性を乱すのみならず、印刷時の粉落ち現象にもつながるため好ましくなく、また10μmを下回るような小さな粒子は歩留まりが悪いために好ましくない。
これらの事実から、本発明者らは、粒度分布はシャープであることが望ましく、粒子径(μm)を対数で表示したときの粒子径に対する粒子体積の分布の標準偏差は小さい程好ましいと考えていた。
しかし、標準偏差が著しく小さい水和珪酸は機械的安定性が劣っていることが確認された。これは水和珪酸が一次粒子の凝集体であることに起因すると思われる。すなわち、二次粒子径の分布がシャープな水和珪酸の一次粒子径の分布は同様にシャープであることが予想され、その結果として凝集体の結合力が弱くなり機械安定性が劣ると推定した。そして、種々の条件で上記測定法による標準偏差の値を変化させて実験したところ、上記測定法による標準偏差0.3〜0.4の範囲が機械的安定性に優れていることを発見し、本発明に到達した。
このような物性を持つ水和珪酸は機械的安定性が優れており、攪拌によるシェアを受けた場合でも粒子の状態を維持できるため、紙製品中でも当初持ち合わせたインキ吸収力や歩留まり特性を発揮することができる。この指標として、水和珪酸の濃度10%で水に分散したスラリー2Lをタービン羽根により1000rpmで120分攪拌した時の平均粒子径は、処理前の平均粒子径の95%以上を維持することでも特徴付けることができる。
【0014】
さらに、この水和珪酸の一次粒子レベルにおける比表面積が小さすぎると粒子同士の結合力低下が起こり、比表面積が大きすぎると一次粒子径が小さいことからくると思われる二次粒子の圧力による破壊が起こると考えられ好ましくなく、これらを満足する指標として水銀ポロシメーターで測定した細孔半径10Å以下の細孔の比表面積が50〜140m/gである水和珪酸が望まれ、併せて印刷後不透明度向上のためのインキビヒクル吸収のための細孔積算容量が4.0cc/g以上であることが重要である。4.0cc/g未満の場合は、インクの吸収性が十分満足のいくものではないため、インクの吸収性の良好な紙用填料となり得ない。なお、本発明では、水銀ポロシメーター(形式:ポアサイザー9320、マイクロメリティックス社製)を用いて細孔直径とそれに対応する細孔容量を測定する。細孔直径が10Å以下の細孔容量は、細孔直径が12Å〜10Åの積算容量である。
【0015】
<水和珪酸の製造方法>
つぎに、水和珪酸の製造方法について説明する。本発明で用いられるケイ酸アルカリ水溶液は、特に限定されないが、ケイ酸ナトリウム水溶液又はケイ酸カリウム水溶液が好適である。ケイ酸アルカリ水溶液のモル濃度は、ケイ酸ナトリウムの場合、モル比(SiO/NaO)が2.0〜3.4の範囲から選ぶのが好適である。このケイ酸アルカリ水溶液にはアルカリ性難溶の粒子を含むことはなんら差し支えない。具体的には、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ニッケル、炭酸バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マンガン、マグネシウム、マンガン、マンガン酸カリウム、鉄、ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マンガン等が挙げられる。
【0016】
これらの水和珪酸は、ケイ酸アルカリ水溶液に鉱酸を添加して中和する操作において、ケイ酸アルカリの中和に必要な鉱酸の量の20〜50%を第一の鉱酸として20〜60℃で最初に添加し、次いで70℃以上に昇温した後必要に応じて熟成時間を設け、中和に必要な残りの鉱酸(第二の鉱酸)を添加することが必要となる。中和用の鉱酸の添加は、十分な時間をかけて行うことが望ましい。それは局部的に大きなpHの変化をきたさないことが目的である。しかし実際の場においては製造効率の概念が重要となるため、300分以内には中和反応を終了できるよう工夫することが望ましい。本発明で水和珪酸を析出させる時に用いられる鉱酸としては公知のものが何等制限なく使用でき、これらを単独、 又は二種以上を併用して使用しても良い。具体的には、鉱酸として塩酸、硫酸、 硝酸等があげられるが、硫酸が入手容易で、比較的安価であるために好適に用いられる。鉱酸の濃度は、特に制限されないが一般には10〜30重量%の範囲から選べばよい。また、鉱酸をすべて添加した後の生成物を含むスラリーのpHは2〜6.5、好ましくは4〜6の範囲に調整する。
【0017】
第一の鉱酸の添加開始時から、第二の鉱酸の添加開始時までに水和珪酸1kgあたり150〜300kJの攪拌負荷を付与することにより、上記物性で特徴付けられる水和珪酸を収率良く得ることができる。攪拌に用いる機器としては、通常用いるミキサーに攪拌翼としてプロペラ、タービン、パドル、アンカー、リボンなど各形式のものを単独で、あるいは適宜組み合わせて使用することが可能であり、これは合成の条件により上記攪拌負荷を達成するように選択すればよい。また、ホモミキサーや各種ミルなども組み合わせることが可能である。もちろん撹拌槽内には乱流を起こすために邪魔板を設けたり、また反応液を一部取り出しインラインミキサーのようなもので負荷を加え、槽に還流するといったこともなんら差し支えない。回転速度としても翼径や反応条件によるが、通常翼周速度として100〜600m/minの範囲であることが好ましい。
【0018】
この工程においては、ケイ酸アルカリ水溶液中のケイ酸分が二次粒子として析出する反応がもっとも活発に行われるため、反応系の均一性を高めることが一次粒子及び二次粒子の性状を均一化する結果となる。ケイ酸1kgあたり150kJの攪拌負荷を与えることはその均一性を達成するために必要な操作となる。さらには300kJを超える攪拌負荷を与えてしまうと、形成された二次粒子が破壊されてしまい、最終生成物の粒子径が例えば15μmを下回ってしまうような歩留まりの悪い水和珪酸となってしまう。さらには、粒子径(μm)を対数で表示したときの粒子径に対する粒子体積の分布の標準偏差を0.3〜0.4の範囲に限定するという本発明の効果からも外れてしまうことがあるため、好ましくない。
【0019】
<水和珪酸のパルプへの添加>
次に、本発明による水和珪酸は、パルプ原料に填料として添加した場合、抄紙して得られる紙に高い不透明度、特に印刷後不透明度を付与する。その理由は、粒子内部の空隙量が増加し吸油量が増加することで、紙に印刷されたインキの浸透を抑制する能力が増したためと考えられる。
本発明による水和珪酸系填料を抄紙の際にパルプ原料に添加して抄紙することによって、得られる紙に高い不透明度、特に印刷後不透明度が付与されるのは、粒子内部の10Å以下の細孔の細孔容量が増加することで吸油量が増加し、紙に印刷されたインキの浸透を抑制する能力が増したためと考えられる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は勿論これらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、%は、全て重量%である。なお、本発明の水和珪酸の各特性値は、得られた粒子スラリーを濾過水洗した後、乾燥機にて10℃で乾燥し、この乾燥物を下記の測定方法により測定して得た。
【0021】
細孔容量及び比表面積
水銀ポロシメーター(形式:ポアサイザ9320、マイクロメリティックス社製)を用いて測定した。なお、細孔直径10Å以下の細孔表面積、細孔容量については、細孔直径が12Å〜10Åの細孔について測定した。
【0022】
(2)粒度分布
レーザー回折式粒度分布測定装置 (形式:SALD−2000、島津製作所製)において、メディアン径を平均粒子径μとした。標準偏差σは、100分割した粒子径X、および頻度分布 qとしたとき、下記の式で求める。
平均値 μ =1/100Σ<j=1,n>(q(logX+logXj+1)/2)
標準偏差 σ = {((1/100Σ<j=1,n>[(logX+logXj+1)/2])^2)−μ^2}^(1/2)
なお、上記の2つの式で、「log」は常用対数を示す。また、^2は二乗を示し、^(1/2)は平方根を示す。
【0023】
(3)電力量測定
LED型マルチメータ (形式:RM−110、タケモトデンキ社製)を攪拌機に取り付け消費電力量を求め、仕事効率80%として電力負荷とした。
【0024】
(4)粒径維持率
水和珪酸の10%スラリー2Lを攪拌翼(タービン羽根、直径80mm、アズワン社製)を1枚使用した攪拌機により1000rpmで120分攪拌した時の平均粒子径を測定し、「処理後平均粒子径/処理前平均粒子径×100(%)」をもって粒径維持率とした。
(5)吸油量
JIS K5101の方法により、試料5gにJIS K5421規定の煮亜麻仁油をビュレットから滴下し、全体がパテ状の固まりになるまでに使用した煮亜麻仁油量を試料100gあたりの量に換算する。
【0025】
以上の(1)〜(5)の測定項目について、以下の実施例・比較例につき測定した結果は、全て表1、表2にまとめて記載した。
【0026】
<実施例1> 市販のJIS3号ケイ酸ソーダ水溶液(トクヤマ製、固形分濃度30%)240gを純水にて1000gに希釈し、水和珪酸(二酸化ケイ素)濃度を72g/kgとして2Lのステンレスビーカーに入れ、温度50℃において無水硫酸ナトリウム17.9gを添加した。スリーワンモーターで攪拌しながらケイ酸ソーダを中和するのに必要な全酸所要量の40%に相当する硫酸(濃度20%)72gを16分間かけて連続的に添加した。硫酸の添加が終わったあと、攪拌しながら25分間で温度を90℃まで昇温した。このままの温度でそのまま攪拌を続け、9分間熟成を行い、ここまでの電力量が最終生成物の単位重量あたり200kJ/kgであることを確認した。ついで、全酸所要量の60%に相当する硫酸108gを20分間かけて連続的に添加し、更に20分間熟成を行った。この時のスラリーのpHは5.2であった。
次いで、この反応生成物を含むスラリーをレーザー回折式粒度分布計(島津、SALD−1100)による測定したところ、平均粒子径22μm、粒子径(μm)を対数で表示したときの粒子径に対する粒子体積の分布の標準偏差0.35が得られた。このスラリーをブフナーロートにて濾過しケーキ状の水和珪酸を得、一部を105℃にて一晩乾燥し、JISK5101の方法による吸油量及び水銀ポロシメーターにより比表面積、細孔容量を測定した。
【0027】
<実施例2> ケイ酸ソーダ水溶液240gを純水で水和珪酸濃度を72g/kgとして2Lのステンレスビーカーに入れ、温度50℃において無水硫酸ナトリウム17.9gを添加した後に、第一の硫酸を45g(全酸所要量の25%に相当)を10分間で添加し、25分間で温度を90℃まで昇温した後、15分間熟成を行い、ここまでの電力量が200kJ/kgであることを確認した。ついで、第二の硫酸を135g(全酸所要量の75%に相当)として中和反応を行った以外は実施例1と同様に反応、処理を行い、得られた水和珪酸スラリーを実施例1と同様にして評価した。反応終了後の溶液のpHは5.0、得られた粒子の平均粒子径は16μmであった。
【0028】
<実施例3> ケイ酸ソーダ水溶液240gを純水で水和珪酸濃度を72g/kgとして2Lのステンレスビーカーに入れ、温度50℃において無水硫酸ナトリウム17.9gを添加した後に、第一の硫酸を45g(全酸所要量の25%に相当)を10分間で添加し、25分間で温度を90℃まで昇温した後、3分間熟成を行い、ここまでの電力量が150kJ/kgであることを確認した。ついで、第二の硫酸を135g(全酸所要量の75%に相当)として中和反応を行った以外は実施例1と同様に反応、処理を行い、得られた水和珪酸スラリーを実施例1と同様にして評価した。反応終了後の溶液のpHは5.0、得られた粒子の平均粒子径は16μmであった。
【0029】
<実施例4> 第一の硫酸を81g(全酸所要量の45%に相当)を18分間で添加し、7分間熟成を行い、ここまでの電力量が200kJ/kgであることを確認した。ついで、第二の硫酸を99g(全酸所要量の55%に相当)として中和反応を行った以外は実施例1と同様に反応、処理を行い、得られた水和珪酸スラリーを実施例1と同様にして評価した。反応終了後の溶液のpHは5.2、得られた粒子の平均粒子径は28μmであった。
【0030】
<実施例5> ケイ酸ソーダ水溶液240gを純水で水和珪酸濃度を72g/kgとして2Lのステンレスビーカーに入れ、温度25℃において無水硫酸ナトリウム17.9gを添加した後に、第一の硫酸を添加し、第二の硫酸を75℃において添加し中和反応を行った以外は実施例1と同様に反応、処理を行い、得られた水和珪酸スラリーを実施例1と同様にして評価した。反応終了後の溶液のpHは5.1、得られた粒子の平均粒子径は29μmであった。第二の硫酸添加開始前までの電力量は200kJ/kgであった。
【0031】
<実施例6> ケイ酸ソーダ水溶液240gを純水で水和珪酸濃度を72g/kgとして2Lのステンレスビーカーに入れ、温度25℃において無水硫酸ナトリウム17.9gを添加した後に、第一の硫酸を添加し、90℃に昇温後、35分熟成を行ない、ここまでの電力が300kJ/kgであることを確認した、ついで第二の硫酸を75℃において添加し中和反応を行った以外は実施例1と同様に反応、処理を行い、得られた水和珪酸スラリーを実施例1と同様にして評価した。反応終了後の溶液のpHは5.1、得られた粒子の平均粒子径は18μmであった。
【0032】
<実施例7> 温度55℃において第一の硫酸を添加し、第二の硫酸を95℃において添加し中和反応を行った以外は実施例1と同様に反応、処理を行い、得られた水和珪酸スラリーを実施例1と同様にして評価した。反応終了後の溶液のpHは5.1、得られた粒子の平均粒子径は20μmであった。第二の硫酸添加開始前までの電力量は200kJ/kgであった。
【0033】
<比較例1> 第一の硫酸を8分間かけて連続的に添加し、攪拌しながら12分間で温度を90℃まで昇温し、そのまま攪拌を続け、5分間熟成を行い、ここまでの電力量が100kJ/kgであることを確認したこと以外は実施例1と同様に反応、処理を行い評価した。この時のスラリーのpHは5.2、得られた粒子の平均粒子径は30μmであった。
【0034】
<比較例2>第一の硫酸を30分間かけて連続的に添加し、攪拌しながら50分間で温度を90℃まで昇温し、そのまま攪拌を続け、10分間熟成を行い、ここまでの電力量が350kJ/kgであることを確認したこと以外は実施例1と同様に反応、処理を行い評価した。この時のスラリーのpHは5.2、得られた粒子の平均粒子径は14μmであった。
【0035】
<比較例3>50℃において第一の硫酸を99g(全酸所要量の55%に相当)添加しようとしたが、95g添加した後増粘し、正常な攪拌ができなくなったため中断した。
【0036】
<比較例4>温度15℃において無水硫酸ナトリウム17.9gを添加した後に、第一の硫酸を添加し、第二の硫酸を65℃において添加し中和反応を行った以外は実施例1と同様に反応、処理を行い、得られた水和珪酸スラリーを実施例1と同様にして評価した。反応終了後の溶液のpHは5.1、得られた粒子の平均粒子径は35μmであった。
【0037】
<比較例5>温度65℃において無水硫酸ナトリウム17.9gを添加した後に、第一の硫酸を添加し、第二の硫酸を90℃において添加し中和反応を行った以外は実施例1と同様に反応、処理を行い、得られた水和珪酸スラリーを実施例1と同様にして評価した。反応終了後の溶液のpHは5.1、得られた粒子の平均粒子径は17μmであった。
【0038】
<比較例6>ケイ酸ソーダ水溶液240gを純水にて1000gに希釈し、水和珪酸(二酸化ケイ素)濃度を72g/kgとして2Lのステンレスビーカーに入れ、温度50℃において無水硫酸ナトリウム17.9gおよび平均粒径0.7μmの水酸化マグネシウム10gを添加し、第二の硫酸を90℃において120g添加し中和反応を行った以外は実施例1と同様に反応、処理を行い、得られた水和珪酸スラリーを実施例1と同様にして評価した。反応終了後の溶液のpHは5.1、得られた粒子の平均粒子径は20μmであった。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1、表2から明らかな如く、本発明の製造方法によって得られる水和珪酸は、吸油量が高く、粒径維持率も優れている。これに対し、比較例で示されたすべての水準においては、吸油量360ml/100g以上および粒径維持率95%以上を同時に満足するものは存在しない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径がレーザー法による測定値で15〜30μmかつJIS K−5101の方法で測定した吸油量が360〜500ml/100gである水和珪酸において、粒子径(μm)を対数で表示したときの粒子径に対する粒子体積の分布の標準偏差が0.3〜0.4である水和珪酸。
【請求項2】
水銀ポロシメーターで測定した細孔半径10Å以下の細孔の積算容量が4.0cc/g以上であり、比表面積が50〜140m/gであることを特徴とする請求項1記載の水和珪酸。
【請求項3】
水和珪酸の10%スラリー2Lをタービン羽根により1000rpmで120分攪拌処理した時の平均粒子径が、処理前の平均粒子径の95%以上を維持すること特徴とする請求項1または請求項2に記載の水和珪酸。
【請求項4】
硫酸ナトリウムの存在下で、ケイ酸ソーダ水溶液に鉱酸を二段に分けて添加し、中和して製紙用水和珪酸を製造する際に、第一の鉱酸として、該ケイ酸ソーダを中和するのに必要な全量の20〜50%に相当する鉱酸を20〜60℃において添加して、次いで撹拌しながら70℃以上に昇温し、残部の鉱酸(第二の鉱酸)を添加する方法において、第二の鉱酸の添加を開始するまでに水和珪酸1kgあたりに、150〜300kJの攪拌負荷を付与することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の水和珪酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−106652(P2007−106652A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301339(P2005−301339)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】