説明

製紙用薬剤組成物の製造方法

【課題】塗液の吸液を抑制でき嵩高い紙が得られる製紙用薬剤組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】非イオン性界面活性剤(A)、アルキルケテンダイマー(B)、下記一般式(C−1)で表される陽イオン性界面活性剤(C)及び水を含有する製紙用薬剤組成物を製造する際に、(A)成分と(B)成分を(C)成分の存在下で水中で乳化させる工程を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用薬剤組成物、製紙用薬剤組成物の製造方法及び該組成物を用いる紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色度、不透明度、印刷適性、そしてボリューム感等の面に優れた品質の高い紙が求められている一方で、環境への配慮からパルプ使用量の少ない軽量な紙が望まれている。これらを紙の嵩高さによって解決すべく、これまでに種々の嵩向上の方法が試みられており、その一つとして嵩高剤等の紙質向上剤の利用が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、加圧処理をしても密度の上昇が少なく、インクの吸収性が高く、インク画像の発色性と耐水性に優れる塗被紙を得ることを目的として、モノアミン、ポリアミン、ポリアルキレンイミン又はその誘導体から活性水素を除いた残基とアシル基等を有する化合物に、エピハロヒドリン若しくはグリシジルエーテル及び/又はそれらから誘導された化合物を反応して得られる化合物等をパルプ繊維に付着させ嵩高さを付与した低密度紙を原紙として用いることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、紙の強度とサイズ度を低下させることなく、不透明度の高い紙製品を製造できることを目的として、モノアミン、ポリアミン、ポリアルキレンイミン又はその誘導体から活性水素を除いた残基とアシル基等を有する化合物に、エピハロヒドリン若しくはグリシジルエーテル及び/又はそれらから誘導された化合物を反応して得られる化合物を特徴とする紙用不透明化剤が開示されている。そして、その製造例として、テトラエチレンペンタミンとステアリン酸(モル比1/2)とを反応して中間化合物を得、さらに該中間化合物を90℃に加熱し、エピクロロヒドリン(モル比1/2)を滴下して得られる紙用不透明化剤成分が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、カチオン性高分子及び/又は両性高分子の存在下で、所定のアミド系化合物とエピハロヒドリンとの反応を行って得られる高分子化合物を高濃度化された水性エマルション系の紙用内添添加剤として用いることが開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、従来のサイジング剤の効果を改良するために、特定の脂肪酸混合物と特定のアミン類とから調製され、エピクロロヒドリンで第四級化されている塩基性脂肪酸アミド類の水性調合物と、電解質とからなる紙用のサイジング剤を用いることが開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、サイズ度を低下させる特定の抄紙薬剤と、カチオン界面活性剤と、アルキルケテンダイマー又はアルケニル無水コハク酸とを、パルプスラリーに添加する工程を有するパルプシートの製造方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献6には、非イオン性界面活性剤かと、特定2種の陽イオン性界面活性剤とを配合してなる製紙用薬剤組成物が開示されている。特許文献6には、該製紙用薬剤組成物を用いて紙を製造するにあたり、サイズ剤等の成分は製紙用薬剤組成物とは別に添加することが望ましいことが記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−188001号公報
【特許文献2】特開2000−273792号公報
【特許文献3】特開2006−104609号公報
【特許文献4】特公昭63−30439号公報
【特許文献5】特開2005−314836号公報
【特許文献6】特開2007−277736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
嵩高剤による嵩高紙製造における課題の一つに、プレドライヤー通過等のドライヤー直後の紙の表面に塗液を塗布する工程で、塗液の吸液量が増大する傾向がある。これは嵩高剤を使用すると紙の空隙率が増大することが大きな要因と考えられる。この吸液量の増大によって、塗布後の乾燥負荷が増し、嵩高紙製造全体で抄速が十分に上げられなくなる(抄速低下)。特に、塗液を塗布する工程としてはサイズプレス工程での吸液が問題である。そして、吸液量の増大の現象は、塗液中に紙を通過させるという構造上、吸液制御が困難とされる2ロールサイズプレスで顕著にみられている。
【0011】
本発明は、塗液の吸液を抑制でき嵩高い紙が得られる製紙用薬剤組成物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、非イオン性界面活性剤(A)〔以下、(A)成分という〕、アルキルケテンダイマー(B)〔以下、(B)成分という〕、下記一般式(C−1)で表される陽イオン性界面活性剤(C)〔以下、(C)成分という〕及び水を含有する製紙用薬剤組成物の製造方法であって、
(A)成分と(B)成分を(C)成分の存在下で水中で乳化させる工程〔以下、乳化工程という〕を有する、
製紙用薬剤組成物の製造方法に関する。
【0013】
【化3】

【0014】
〔式中、R1c〜R4cは、それぞれ、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数1〜24のβ−ヒドロキシアルキル基、ベンジル基、又は式:−(A1O)n1−Z1(ここでA1Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、Z1は水素原子またはアシル基であり、n1はA1Oの平均付加モル数であり、1〜50の整数である)で表される基であり、X1-は対イオンである。〕
【0015】
また、本発明は、(A)成分及び(B)成分を、(C)成分の存在下で水中に乳化させて得られた乳化物からなる製紙用薬剤組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、サイズプレス工程を有する紙の製造方法であって、上記本発明の製紙用薬剤組成物をサイズプレス工程より前の工程で添加する紙の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、抄紙時の塗液の吸液を抑制でき嵩高い紙が得られる製紙用薬剤組成物の製造方法が提供される。本発明により製造された製紙用薬剤組成物を用いることで塗液の吸液が抑制されるので、抄紙速度を上げることができ、従来よりも嵩高紙の生産性を向上することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明により製造された製紙用薬剤組成物は、抄紙時にパルプスラリー中に添加し抄紙することによりドライヤー直後の塗液を塗布する工程で塗液の吸液が抑制され、得られる紙の嵩とサイズ性を向上させるものである。以下、本発明に用いられる(A)成分、(B)成分及び(C)成分について説明する。
【0019】
[(A)成分]
本発明の非イオン性界面活性剤(A)は、嵩高発現性の観点から、下記に定義される離水度が4%以上となるものから選択することが好ましい。
離水度(%)=(α0−α)/α0×100
α:非イオン性界面活性剤となる化合物をパルプ100重量部に対し5重量部添加して抄紙して得た湿潤シートの含水率
α0:非イオン性界面活性剤となる化合物をパルプに添加しないで抄紙して得た湿潤シートの含水率
【0020】
本発明における離水度の測定方法を詳述する。
〔離水度の測定方法〕
(A)使用パルプ
JIS P 8209のパルプ試験用手すき紙の調製法により調製した手すきパルプシートのハンター白色度(JIS P 8123)が80±5%であるブナ由来の広葉樹晒しパルプ(以後、LBKPという)を使用する。
【0021】
(B)離水度の測定
(i)LBKPを、25±3℃で一定量をビーターにて離解そしてカナダ標準濾水度(JIS P 8121)で460±10mlに叩解してパルプ濃度が1.0重量%のLBKPスラリーを得る。
【0022】
このパルプスラリーを抄紙後のシートのLBKP分の坪量が80±2g/m2になるように量り取ってから、硫酸アルミニウムでpHを4.5に調製した後、非イオン性界面活性剤の1.0重量%のエタノール溶液をパルプ100重量部に対して5重量部(純分)添加し、丸型タッピ抄紙機にて150メッシュワイヤー(面積200cm2)で抄紙し湿潤シートを得る。湿潤シートの上に坪量320±20g/m2のろ紙(直径185mm)2枚を重ね、更にその上にコーチプレートを重ねコーチングした後、湿潤シートを取り出す。次いで湿潤シートを前記のろ紙2枚で上下をはさみ、圧力340±10kPaで5分間プレスする。プレス後、速やかに湿潤シートの重量w(g)を秤量する。
【0023】
次に105±3℃、60分間乾燥し、得られた乾燥シートの重量Wd(g)を秤量する。
(ii)上記で求めたW、Wdから、(1)式により含水率α(%)を求める。
α(%)=(W−Wd)/W×100(1)
また、非イオン性界面活性剤となる化合物を添加しないで同様にシートを調製し、同様にして求めた含水率をα0とする。
(iii)上記で求めた含水率α、α0から、下式(2)より離水度を求める。
離水度(%)=(α0−α)/α0×100(2)
【0024】
また、非イオン性界面活性剤(A)は、嵩高発現性の観点から、下記(Ai)及び(Aii)から選ばれる1又はそれ以上の非イオン性界面活性剤が好ましく、特に、それらの中で離水度が4%以上となるものが好ましい。
【0025】
(Ai)炭素数6〜22の直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和の1価アルコール、エーテル基を含んでいてもよい総炭素数2〜24の2〜14価の多価アルコール、及びこれらの炭素数2〜4のアルキレンオキサイド付加物、から選ばれる1又はそれ以上の化合物〔以下、(Ai)成分という〕
【0026】
(Aii)脂肪酸エステル及びその炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(以下、AOと表記する)付加物、から選ばれる1又はそれ以上の化合物〔以下、(Aii)成分という〕
【0027】
本発明の(A)成分のうち、(Ai)成分は、炭素数6〜22の直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和の1価アルコール、エーテル基を含んでいてもよい総炭素数2〜24の2〜14価の多価アルコール、及びこれらの炭素数2〜4のAO付加物である。更に、前記アルコール又はそのAO付加物の末端の一部又は全部にアルキル基が結合したエーテル化合物も含まれる。
【0028】
1価アルコールは炭素数6〜22の直鎖飽和アルコールが好ましく、8〜22の直鎖飽和アルコールがより好ましく、10〜22の直鎖飽和アルコールがさらに好ましい。
【0029】
多価アルコールは、エーテル基を含んでいてもよい総炭素数2〜24の2〜12価アルコールが好ましく、2〜10価アルコールがより好ましく、3〜6価アルコールがさらに好ましい。
【0030】
2価アルコールとしては、エーテル基を含んでいてもよい総炭素数2〜10のもの、例えばプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0031】
3価以上のアルコールとしては、エーテル基を有していてもよい総炭素数3〜24のアルコールで、1分子中の総水酸基数/総炭素数=0.4〜1であるもの、例えばグリセリン、ポリグリセリン(平均縮合度2〜5)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、アラビトール、ソルビトール、スタキオース、エリトリット、アラビット、マンニット、グルコース、ショ糖などが挙げられる。
【0032】
より好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エーテル基を有していてもよい総炭素数3〜12のアルコールで、1分子中の水酸基数/総炭素数=0.5〜1である3価以上のアルコールである。特に好ましくはグリセリン、ポリグリセリン(平均縮合度2〜4)、ペンタエリスリトールである。
【0033】
AOとしては、エチレンオキサイド(以下、EOと表記する)及び/又はプロピレンオキサイド(以下、POと表記する)であり、EOとPOの両方を用いる場合はランダム付加でもブロック付加でも何れでも良い。また、各々の平均付加モル数は、EOは0〜200モルが好ましく、0〜100モルがより好ましい。POは0〜150モルが好ましく、0〜100モルがより好ましい。
【0034】
(Aii)成分は、脂肪酸エステル及びその炭素数2〜4のAO付加物から選ばれる1又はそれ以上の化合物である。これらの中でも、脂肪酸とアルコールのエステルが好ましく、脂肪酸と多価アルコールのエステルがさらに好ましい。
【0035】
脂肪酸とアルコールのエステルに用いられる脂肪酸は、炭素数6〜24、好ましくは炭素数10〜22の脂肪酸が挙げられ、飽和、不飽和、直鎖、分岐鎖の何れでもよく、中でも直鎖脂肪酸が好ましい。更に好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸であり、中でもステアリン酸が好ましい。該エステルに用いられるアルコールの具体例としては、(Ai)成分で述べた1価もしくは多価アルコール及びそれらのAO付加物が挙げられる。
【0036】
脂肪酸と1価アルコールのエステルとしては、下記一般式(A’)で表される化合物も好ましく使用できる。
R’COO(EO)p(PO)qR'' (A’)
〔式中、R’は、炭素数5〜23のアルキル基又はアルケニル基又はβ−ヒドロキシアルキル基、R''は、炭素数6〜22のアルキル基又はアルケニル基又はβ−ヒドロキシアルキル基を示す。EOはエチレンオキサイド、POはプロピレンオキサイドであり、p、qはそれぞれ平均付加モル数であり、pは0〜20の数、qは1〜20の数である。〕
【0037】
これらのエステルは、公知のエステル化反応及びAO付加反応により、得ることができる。例えば、脂肪酸と多価アルコールの混合物に、要すればエステル化触媒を添加し、150〜250℃で反応させることによりエステルが得られ、更にアルカリ触媒などの存在下に炭素数2〜4のAOを付加することにより、AO付加エステルが得られる。また、脂肪酸あるいは多価アルコールにAOを付加後、エステル化してもよい。更に、脂肪酸にAO付加のみを行って得られる場合もある。
【0038】
このエステルのエステル平均置換度は、好ましくは1モルの多価アルコール当たり、アルコール中のOHが10〜95当量%、更に10〜80当量%置換されたものであり、特に好ましくは1モルの多価アルコール当たり1〜2モルのエステル基を有するものである。
【0039】
AO付加エステルを用いる場合、AOの平均付加モル数は、アルコール性水酸基1個当たり0超〜10モルであり、0超〜5モルが好ましい。なお、エチレングリコールなどのようにAO基となり得る多価アルコールを使用した場合においては、それらもAO基の数に算入する。AOは、EO、POが好ましい。これらはEO、POの単独あるいはEOとPOの混合の何れでもよい。本発明では、AO基を含まない多価アルコールと脂肪酸のエステルを用いることが特に好ましい。
【0040】
(A)成分としては、特にグリセリン、ポリグリセリン(平均縮合度2〜4)、ペンタエリスリトールから選ばれるアルコールとパルミチン酸、ステアリン酸から選ばれる脂肪酸とのエステル化合物が好ましい。
【0041】
また、(A)成分は、1.0重量%濃度になるように水に添加・攪拌した後(途中で100℃以下に加温してもよい)、20℃に維持した場合に均一透明にならないものが好ましい。ここで、「均一透明にならないもの」とは、系全体が一様(沈殿物や浮遊物がない状態)でないものか、一様であっても20℃での(A)成分1.0重量%水溶液の可視光660nmにおける光路10mmでの透過率(T%)が、水を100%したときに5%以下であるものを指す。
【0042】
[(B)成分]
本発明により製造された製紙用薬剤組成物は、(B)成分としてアルキルケテンダイマーを含有する。アルキルケテンダイマーとしては、炭素数12〜22のものが挙げられるが、炭素数14〜20のものが好ましく、炭素数16又は18のものがより好ましい。
【0043】
[(C)成分]
本発明により製造された製紙用薬剤組成物は、上記一般式(C−1)で表される陽イオン性界面活性剤(C)を含有する。一般式(C−1)において、R1c〜R4cは、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基が好ましく、炭素数1〜20のアルキル基がより好ましい。また、対イオンX1-としてはメチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンが好ましい。
【0044】
(C)成分として好ましい化合物は、(A)成分及び(B)成分の分散性及び取扱性の観点から、R1c〜R4cが炭素数1〜20のアルキル基、対イオンX1-がエチル硫酸イオンである化合物である。更には、R1c〜R4cのうち少なくとも1つが、炭素数14〜20のアルキル基であり、残りが炭素数1若しくは2のアルキル基である化合物がより好ましい。
【0045】
[製紙用薬剤組成物の製造方法及び製紙用薬剤組成物]
本発明の製紙用薬剤組成物の製造方法は、(A)成分と(B)成分を(C)成分の存在下で水中で乳化させる工程〔乳化工程〕を有する。このような乳化工程を経て得られた本発明の製紙用薬剤組成物により、塗液の吸液が抑制される理由は明らかではないが、(A)成分と(B)成分が、(C)成分によって乳化されることにより、パルプへの吸着効率が向上するためと推定される。乳化工程では、(A)成分と(B)成分を(C)成分により水中で乳化させることができる。乳化工程により、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び水を含有する乳化物が調製される。本発明では、(A)成分及び(B)成分が(C)成分により水中で乳化した状態で存在する。
【0046】
本発明の製造方法において、乳化工程における温度は特に限定されないが、好ましくは乳化工程を、(A)成分及び(B)成分が溶融する温度で行う。その際、(A)成分と(B)成分と(C)成分と水とを、(A)成分及び(B)成分の融点以上の温度(すなわち、(A)成分の融点及び(B)成分の融点の両方よりも高い温度)、より好ましくは(A)成分及び(B)成分の融点のうち高い方の融点より10℃以上高い温度、さらに好ましくは50〜100℃で攪拌混合することが好ましい。(A)成分、(B)成分、(C)成分及び水の混合順序は問わないが、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の三成分が共存した状態で乳化物が構成される必要がある。必要に応じて、ホモミキサーやラインミキサー、高圧ホモジナイザー等の乳化機を使用できる。乳化物の性状、取り扱いやすさの観点から、乳化物中の固形分濃度としては、5〜50重量%が好ましく、より好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。
【0047】
乳化時間は、特に限定されないが、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を、水又は温水に添加し、溶液全体を(A)成分及び(B)成分の融点以上の温度に保ちながら10分〜3時間行うことが好ましく、30分〜2時間がより好ましい。
【0048】
本発明の製紙用薬剤組成物は、(A)成分及び(B)成分を、(C)成分により水中に乳化させた乳化物から得られるものであり、乳化物の状態のままでも使用することができるが、取り扱いやすさ及び性能の安定性の観点から、懸濁液とすることが好ましい。つまり、本発明の製紙用薬剤組成物は、製造過程で(A)成分、(B)成分及び(C)成分と水とを含む乳化物の状態が存在するが、使用時の形態は、乳化物、乳化以外のいずれでもよい。(A)成分、(B)成分(C)成分及び水を含む懸濁液は、乳化工程で得られた乳化物を(A)成分、(B)成分の融点以下の温度まで冷却することにより得ることができる。従って、本発明の製紙用薬剤組成物は、(A)成分及び(B)成分を、(C)成分の存在下で水中に乳化させて得られた乳化物からなる製紙用薬剤組成物、並びに、(A)成分及び(B)成分を、(C)成分の存在下で水中に乳化させた乳化物から得られた懸濁液からなる製紙用薬剤組成物を包含する。
【0049】
(A)成分及び(B)成分の融点の測定方法について説明する。試料をできるだけ低い温度で融解し、毛細管(メトラー(Mettler)社製「ME-18552」(硬質ガラス製、長さ76mm、内径1.3mm、壁厚0.2mm))に約10mm吸い上げる。10℃以下で24時間又は少なくとも2時間冷却し、毛細管中の試料を固化させる。この毛細管を図1の装置に取り付け、振動の無い場所で昇温を始める。予想融点の約10℃手前まで昇温し、その後1分間に1℃の速度で昇温を続ける。試料が毛細管を上昇し始めたときの温度を読みとり(小数点以下一桁)、融点とする。なお、浴液は水を使用する。図1中の数値の単位はmmである。なお、(A)成分は、融点が20〜90℃、更に30〜80℃のものが好ましく、(B)成分は、融点が40〜60℃、更に45〜55℃のものが好ましい。
【0050】
液状組成物の場合、本発明の製紙用薬剤組成物は、(A)成分を1〜32重量%、更に3〜12重量%含有することが好ましく、(B)成分を0.5〜20重量%、更に2〜12重量%含有することが好ましく、(C)成分を0.5〜12重量%、更に1〜4重量%含有することが好ましい。また、20℃におけるpH(水相部分のpH)は2〜12、更に4〜10が好ましい。
【0051】
本発明の製紙用薬剤組成物は、パルプスラリー中に直接添加することができ、必要に応じて更に水等で希釈、乳化、懸濁等して添加することができる。紙の生産効率の観点からは、乳化物又は懸濁液からなる本発明の組成物をパルプスラリー中に直接添加することが好ましい。
【0052】
乳化物又は懸濁液における乳化粒子又は分散粒子の平均粒子径(メジアン径)は0.1〜50μmが好ましく、0.1〜30μmが好ましい。平均粒子径が0.1μm以上では歩留りがよく効率的であり、また50μm以下では性能も良好である。
【0053】
<紙の製造方法>
本発明の製紙用薬剤組成物は、抄紙工程の何れかの工程において添加されるものであり、そのまま添加してもよいし、必要に応じて水等に分散させた懸濁液として添加してもよい。
【0054】
本発明の製紙用薬剤組成物は、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、LBKP等の化学パルプ等のヴァージンパルプ、古紙パルプ等のパルプ原料に広く適用できる。
【0055】
本発明の製紙用薬剤組成物は、サイズプレス工程より前の何れかの工程において添加される。その添加場所としては、パルプ原料の稀薄液が金網上を進む間に濾水されて紙層を形成する工程以前で、パルパーやリファイナー等の離解機や叩解機、ミキシングチェスト、マシンチェストやヘッドボックスや白水タンク等のタンク、あるいはこれらの設備と接続された配管中に添加してもよいが、リファイナー、ミキシングチェスト、マシンチェスト、ヘッドボックスで添加する等、均一にパルプ原料にブレンドできる場所が望ましい。本発明の製紙用薬剤組成物は、パルプ原料に添加後、そのまま抄紙され紙(パルプシート)中に大部分残存することが好ましい。本発明の製紙用薬剤組成物の効果を発揮する上で抄紙機の種類は特に限定されるものではないが、例えば、長網式、円網式、短網式、ツインワイヤー式、及び傾斜ワイヤー式抄紙機等があげられる。また、ワイヤーパートについては、例えばギャップフォーマー、ハイブリッドフォーマーなどが挙げられる。
【0056】
本発明の製紙用薬剤組成物を用いた紙の製造方法は、公知の方法に準じることができるが、作業性の観点から、本発明の製紙用薬剤組成物を、水又は水性溶剤に溶解又は分散させた形態でパルプスラリーに添加し抄紙することが好ましい。特に、本発明の製紙用薬剤組成物を、その融点以上の温度の水に分散させ、該懸濁液をパルプスラリー中に添加し抄紙を行うことが好ましい。本発明の製紙用薬剤組成物の添加量は、紙質向上効果の観点から、固形分換算で、パルプ100重量部に対し、0.05重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましく、0.2重量部以上がさらに好ましい。また、紙本来の特性を保持する観点から20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく2重量部以下がなお好ましい。したがって、紙質向上効果と紙本来の特性を保持する観点から、パルプ100重量部に対し、0.05〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましく、0.2〜2重量部がさらに好ましい。本発明の製紙用薬剤組成物は、抄紙時にこの比率となるように添加するのが好ましい。
【0057】
本発明における紙の製造時において、一般の抄紙時に用いられる、サイズ剤、填料、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、紙力向上剤等を添加してもよい。特に、本発明の製紙用薬剤組成物がその機能を発現するためには、パルプに定着することが重要であり、必要に応じて定着を促進する剤(以下、定着促進剤という)を用いることができる。かかる剤の例としては、硫酸アルミニウム、カチオン化澱粉、アクリルアミド基を有する化合物、ポリエチレンイミン等が挙げられる。定着促進剤の添加量は、パルプ100重量部に対し0.001〜5重量部が好ましく0.01〜2重量部がより好ましい。また、本発明の製紙用薬剤組成物100重量部(固形分)に対して5〜20重量部用いることが好ましい。
【0058】
本発明の製紙用薬剤組成物は、塗工設備の中でもサイズプレス設備を設置した抄紙機で用いると抄速向上に効果的である。すなわち、サイズプレス工程を有する紙の製造方法において、本発明の製紙用薬剤組成物をサイズプレス工程より前に添加することが好ましい。
【0059】
本発明の製紙用薬剤組成物を用いて得られる紙はパルプシートとして知られており、具体的には、紙パルプ技術便覧(紙パルプ技術協会発行、455〜460頁、1992年)に記載された品目分類の中の、新聞用紙、非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙、情報用紙、段ボール用紙、白板紙、包装用紙等の紙又は板紙に好適に用いられる。特に書籍・出版用途に使用される、非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙及び塗工印刷用紙に好適に用いられる。
【実施例】
【0060】
表1に示す製紙用薬剤組成物を用いて以下の評価を行った。
<製紙用薬剤組成物の調製方法>
(1)実施例1〜4、比較例4
(A)成分、(B)成分及び(C)成分を表中の比率で、全固形分濃度が10重量%になるように温水中へ入れ(全量500g)、80℃になるまで攪拌昇温する。80℃でさらに60分間攪拌を続け、その後、卓上ホモミキサーにて、8000rpmで1分の条件で乳化し、その後室温まで冷却して、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する懸濁液からなる製紙用薬剤組成物を得た。
【0061】
(2)比較例1、2
(A)成分及び(C)成分を表中の比率で、全固形分濃度が10重量%になるように温水中へ入れ(全量500g)、80℃になるまで攪拌昇温する。80℃になってからさらに60分間攪拌を続け、その後、卓上ホモミキサーにて、8000rpmで1分の条件で乳化し、その後室温まで冷却して、(A)成分及び(C)成分を含有する懸濁液を得た。後述の評価では、比較例1では、該懸濁液、(B)成分の順でパルプスラリーに別々に添加し、比較例2では、(B)成分、該懸濁液の順でパルプスラリーに別々に添加した。
【0062】
(3)比較例3
(A)成分及び(C)成分を表中の比率で、全固形分濃度が10重量%になるように温水中へ入れ(全量500g)、80℃になるまで攪拌昇温する。80℃になってからさらに60分間攪拌を続け、その後、卓上ホモミキサーにて、8000rpmで1分の条件で乳化し、その後室温まで冷却して、(A)成分及び(C)成分を含有する懸濁液を得た。該懸濁液に(B)成分を表中の比率になるようにで室温下で混合し、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する懸濁液からなる製紙用薬剤組成物を得た。
【0063】
(4)比較例5
製紙用薬剤組成物として、(B)成分のみを使用した。
【0064】
(5)比較例6
(A)成分及び(C)成分を表中の比率で、全固形分濃度が10重量%になるように温水中へ入れ(全量500g)、80℃になるまで攪拌昇温する。80℃になってからさらに60分間攪拌を続け、その後、卓上ホモミキサーにて、8000rpmで1分の条件で乳化し、その後室温まで冷却して、(A)成分及び(C)成分を含有する懸濁液からなる製紙用薬剤組成物を得た。
【0065】
(6)比較例7
製紙用薬剤組成物を添加せずに後述の評価でのパルプシートを製造した。
【0066】
<評価>
(1)緊度及びサイズ度
(1−1)抄紙方法
LBKPを室温下、叩解機にて離解、叩解してパルプ濃度2.2重量%のLBKPスラリーとしたものを用いた。カナディアンスタンダードフリーネスは430mlであった。このLBKPスラリーを抄紙後のシートの坪量が絶乾で100g/m2になるようにはかりとってから、カチオン化澱粉(CATO308、日本NSC製)1.0%(重量基準、対パルプ、以下同じ)、工業用硫酸バンド0.5%、軽質炭酸カルシウム20%、及び表1に示す量の製紙用薬剤組成物を攪拌しながら添加した。
【0067】
その後パルプ濃度が0.5重量%になるように水で希釈し、カチオン性ポリアクリルアミド系歩留向上剤(パーコール47、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.03%を攪拌しながら添加した後、丸型タッピ抄紙機にて150メッシュワイヤーで抄紙し、コーチングを行って湿紙を得た。抄紙後の湿紙は、3.5kg/cm2で2分間プレス機にてプレスし、ドラムドライヤーを用い、105℃で2分間乾燥し、パルプシートを得た。得られたパルプシートを23℃、湿度50%RHの条件で1日間調湿してから、下記方法で緊度とサイズ度を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
(1−2)緊度
得られた調湿されたパルプシートの坪量(g/m2)と厚み(mm)を測定し、下記計算式により緊度(g/cm3)を求めた。
計算式: (緊度)=(坪量)/(厚み)×0.001
緊度は絶対値が小さいほど嵩が高く、また緊度の0.02の差は有意差として十分に認識される。
【0069】
(1−3)サイズ度
上記抄紙方法で得られた調湿されたパルプシートのステキヒトサイズ度をJIS−8122にしたがって測定した。
【0070】
(2)動的吸水性
プレスまでは上記抄紙方法と同様の操作を行った。プレスした後、湿紙を5cm×5cmの大きさにカットし、メトラー・トレド(株)製のハロゲン水分計を用い105℃で乾燥させ、紙中水分が0超〜5%程度と推定される重量になった段階で乾燥操作を停止させ、水分計にセットした状態のまま、上方から注射器を用いて速やかに60℃の温水を3マイクロリットル滴下し、完全に紙中に浸透するまでの時間を測定した。そして乾燥操作を再開し、さらに重量減少がなくなるまで乾燥し紙中水分が0%の重量(絶乾重量)を求めた。浸透時間を測定した時点での重量と絶乾重量から浸透時間を測定した時点での紙中水分を計算した。紙中水分は絶乾重量に対する水の重量を%で表したものである。紙中水分の異なる5サンプルを測定し、これらについてX軸に紙中水分、Y軸に浸透時間をとり、紙中水分−浸透時間曲線を描き、紙中水分1%時の浸透時間を求め、動的吸水性を評価した。結果を表1に示す。本評価方法で浸透時間の長いものほど、ドライヤー直後の紙に対する塗工工程での紙の吸水性が抑制され(すなわち動的吸水性が抑制される)抄速が向上することになる。
【0071】
【表1】

【0072】
添加方法の「一括」は、(A)〜(C)成分を表1の重量比で含む懸濁液としてパルプスラリーに一括添加したことを、「AKD別添」は、(B)成分を、(A)成分と(C)成分とは別にパルプスラリーに添加したことを意味する。また、表中の成分は以下のものである。
・a−1:ペンタエリスリトールステアレート(エステル平均置換度45当量%、離水度5.2%、融点52℃、1重量%水溶液が分離するもの)
・a−2:ステアリン酸モノグリセライド(離水度5.7%、融点66℃、1重量%水溶液が分離するもの)
・a−3:エチレングリコールモノベヘネート(離水度5.5%、融点64℃、1重量%水溶液が分離するもの)
・AKD:アルキルケテンダイマー(融点50℃、花王(株)製「サイリーンS−94」)
・ASA:アルケニル無水コハク酸(融点20℃以下、星光PMC社製「AS−1532」)
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(A)成分の非イオン性界面活性剤及び(B)成分のアルキルケテンダイマーの融点を測定する装置を示す概略図
【符号の説明】
【0074】
A:測定管
B:コルク栓
C:通気孔
D:温度計
E:補助温度計
F:浴液
G:毛細管
H:側管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性界面活性剤(A)〔以下、(A)成分という〕、アルキルケテンダイマー(B)〔以下、(B)成分という〕、下記一般式(C−1)で表される陽イオン性界面活性剤(C)〔以下、(C)成分という〕及び水を含有する製紙用薬剤組成物の製造方法であって、
(A)成分と(B)成分を(C)成分の存在下で水中で乳化させる工程〔以下、乳化工程という〕を有する、
製紙用薬剤組成物の製造方法。
【化1】


〔式中、R1c〜R4cは、それぞれ、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数1〜24のβ−ヒドロキシアルキル基、ベンジル基、又は式:−(A1O)n1−Z1(ここでA1Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、Z1は水素原子またはアシル基であり、n1はA1Oの平均付加モル数であり、1〜50の整数である)で表される基であり、X1-は対イオンである。〕
【請求項2】
乳化工程を、(A)成分及び(B)成分が溶融する温度で行う、請求項1記載の製紙用薬剤組成物の製造方法。
【請求項3】
(A)成分が、脂肪酸エステル及びその炭素数2〜4のアルキレンオキサイド付加物から選ばれる1又はそれ以上の化合物である、請求項1又は2に記載の製紙用薬剤組成物の製造方法。
【請求項4】
非イオン性界面活性剤(A)〔以下、(A)成分という〕及びアルキルケテンダイマー(B)〔以下、(B)成分という〕を、下記一般式(C−1)で表される陽イオン性界面活性剤(C)〔以下、(C)成分という〕の存在下で水中に乳化させて得られた乳化物からなる製紙用薬剤組成物。
【化2】


〔式中、R1c〜R4cは、それぞれ、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数1〜24のβ−ヒドロキシアルキル基、ベンジル基、又は式:−(A1O)n1−Z1(ここでA1Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、Z1は水素原子またはアシル基であり、n1はA1Oの平均付加モル数であり、1〜50の整数である)で表される基であり、X1-は対イオンである。〕
【請求項5】
前記乳化物から得られた懸濁液からなる、請求項4記載の製紙用薬剤組成物。
【請求項6】
(A)成分が、脂肪酸エステル及びその炭素数2〜4のアルキレンオキサイド付加物から選ばれる1又はそれ以上の化合物である、請求項4又は5記載の製紙用薬剤組成物。
【請求項7】
サイズプレス工程を有する紙の製造方法であって、請求項4〜6いずれか記載の製紙用薬剤組成物をサイズプレス工程より前の工程で添加する紙の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−144304(P2010−144304A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325170(P2008−325170)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】